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「森友学園」籠池夫妻を逮捕 国の補助金詐取容疑 論説 記事

 

 

「森友」申請断念 尽きぬ疑惑の解明急げ(2017年3月14日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 国民の疑問は募るばかりだ。究明の幕引きにしてはならない。

 大阪府の学校法人「森友学園」の国有地取得をめぐる問題で籠池泰典(かごいけやすのり)理事長は、開校を予定していた小学校の設置認可の申請を取り下げ、理事長退任を表明した。事態の早期収拾を図ったのだろう。

 だが籠池氏は記者会見で、疑惑の核心について詳しく説明しなかった。これまでの籠池氏自身の発言との整合性にも疑問が残る。

 与党側は「違法性がない」として国会への参考人招致を拒否しているが、政治的、道義的な問題を解明するのは国会の責務だろう。

 自らの名前が寄付金集めに使われ、夫人が名誉校長を務めていたにもかかわらず、まるで人ごとのような安倍晋三首相の対応も理解しがたい。国会招致の実現へ、指導力の発揮を重ねて求める。

 籠池氏は会見で「学校が建設できなかった責めを負う」と謝罪した。だが虚偽の契約書の疑惑などについては明確に答えなかった。

 用地取得時の政治家による口利きを否定し「首相夫妻からも何もしてもらっていない」と述べた。

 これを受けて自民党内には「参考人招致の必要はなくなった」と決着ムードも出ているという。

 だが籠池氏は、会見の直前に公表された声明で「国会議員の先生が私を知らないと言ったが、よく存じ上げている方もいる。そういうことも言わないのはおかしい。しっぽ切りだ」と述べていた。

 事実なら国会で説明を聞きたい。会見で主張を変えたのも不可解だ。疑問はむしろ深まっている。

 鴻池祥肇(こうのいけよしただ)元防災担当相の事務所が籠池氏側の要請を受け、陳情を仲介したとの証言もある。鴻池氏自身も含め、国会招致が必要だ。

 きのうの参院予算委員会では民進党の小川敏夫氏が、学園の過去の民事裁判の準備書面に、稲田朋美防衛相の名が訴訟代理人弁護士として記されていると指摘した。

 稲田氏は、学園の法律相談に乗ったことや顧問弁護士だった事実はないと答えたが、共同事務所の一員として「委任状の中に私の名前があることは推測される」と認めた。より丁寧な説明が必要だ。

 国会への参考人招致について、与党内からは「籠池氏が何を言い出すか分からない」との声も聞かれる。それだけ不透明な部分が残されているということだろう。

 共同通信の世論調査では、86・5%が用地売却について「適切だと思わない」、74・6%が籠池氏の国会招致に「賛成」と答えた。与党は重く受け止めるべきだ。

 

森友学園疑惑 与党はなぜ動かない(2017年3月14日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

国有地を格安で買い取り、4月開校を目指して校舎を建設中の小学校について、大阪市の学校法人「森友学園」は大阪府への設置認可申請を取り下げた。夫人が小学校の名誉校長を引き受けていた安倍晋三首相と学園側との関係や、不動産鑑定士の評価額より8億円余り安い土地売買の不透明な経緯などを巡り、野党は追及を強めている。

設置認可に絡み、学園側が財務状況や教員確保などで数々の虚偽説明をしたことも明らかになり、不認可になるとみられていた。申請取り下げ後に記者会見した森友学園の籠池泰典理事長は「苦渋の決断」とし、土地取得を巡る政治家の口利きなどを否定。理事長を退任する意向を示した。

小学校開設を前提に土地を売却した国は買い戻しに向け、建設中の校舎を解体し更地にして引き渡すよう学園側に要求した。政府や自民党では「買い戻せば、この問題は終わり」と幕引きのムードも漂う。だが学園側が土地取得で破格の扱いを受けた経緯や、さまざまな疑惑はほとんど手付かずのまま残っている。

国民の間に疑念が広がる中、与党はなぜ動かない。野党から繰り返し籠池氏らの参考人招致を求められても「民間人の招致には慎重であるべきだ」と拒み続けている。財務省なども当時の経緯を調査しようとしない。うやむやにして終わりにしたいようだが、そんなことは到底許されない。

 国有地の評価額は9億5600万円。それが1億3400万円で売却されたのはなぜか。自民党参院議員、鴻池祥肇元防災担当相の事務所で作成された「陳情整理報告書」が明るみに出た。そこには、学園側が財務省近畿財務局との売買交渉を有利に運ぶため「政治力で早く結論を得られるようお願いしたい」などと要望を重ねていたことが詳細に記されている。

 さまざまな要望は交渉経過とも重なり合う。しかも、ほぼ実現している。政治家からの働き掛けの有無をただされ、財務省は「さまざま問い合わせはあり、そういう可能性があると思う」としたが、記録が残っていないことを盾に交渉経過などの調査を拒んでいる。

 陳情報告書には、当初の借地契約前に財務局側から賃料を示された学園側が「高すぎる」と訴え、賃料が下がったことをうかがわせる記述もあった。これについては「職員に確認していないが、前段階で具体的な提示をすることはない」と建前論に終始。確認を求められても応じなかった。政治家の関与も含め当時の経緯を解明するには籠池氏や財務省側の証言が欠かせない。しかし自民、公明両党は「籠池氏は民間人なので強制できない」「違法性が明らかでない」と理由を挙げ、野党が求める参考人招致に難色を示している。

 理解に苦しむ。何を恐れているのか。足並みをそろえるように籠池氏も会見で、参考人招致に応じないと述べた。それなら、財務省の当時の担当者らを招致して交渉経緯を検証し、その上で籠池氏から個別に事情を聴くことも考えられよう。

 学園側が小学校の工事請負代金を過大に申告し国土交通省から補助金を不正受給していた疑いも浮上。その一方で、大阪府には財務状況をよく見せるため請負代金を過少申告したとされ、小学校がなくなり、土地が返還されても一件落着とならないことは明らかだ。

 

森友学園問題 国民の怒り、受け止めよ(2017年3月14日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 政府の説明に国民は納得していないことが、あらためてはっきりした。

 森友学園問題についての共同通信社の全国電話世論調査で、国有地払い下げの経緯に対し政府が十分に説明していると思うとの回答は5・2%しかなかった。「思わない」は87・6%にのぼる。

 当然の数字だろう。政府の説明は胸に落ちないことが多すぎる。国民は怒っている。

 評価額9億5600万円の国有地が森友学園に小学校の用地として1億3400万円で売却された。なぜ値引きしたのか国会で質問された国交省は、地中のごみの撤去費用8億円余りを差し引いたと説明した。

 そこで問題になるのは値引き額が適切だったかどうかだ。担当の大阪航空局にはごみ撤去費用の算定をした経験がなかったことを国交省は認めている。

 ならば第三者の専門家に算定を委託すべきではなかったかと追及されると、開校時期が迫っていたので迅速に結果を出すため局内で見積もりした、という意味のことを答えた。特別扱いした理由について納得のいく説明はない。

 財務省の担当者は木で鼻をくくったような答弁に終始している。政治家の働き掛けの有無について「なかったので記録もない」。森友学園側に土地評価額など資料を提示したのではないかとの質問には「われわれがそういうことをすることはない」。

 安倍晋三首相も昭恵夫人の関与を問われて「妻は私人。犯罪者扱いは極めて不愉快」と感情的に反発するだけだ。国民の疑念に向き合う姿勢から遠い。

 森友学園の籠池泰典理事長は先週、開設準備を進めていた小学校の設置認可申請を取り下げた。理事長辞任も表明している。

 だからといって追及の手を緩めるわけにはいかない。政治家、国に働きかけ国有地を破格の価格で取得した疑惑は重大だ。状況によっては刑事事件に発展し得る。

 学園は校舎建設で金額が異なる3通りの工事請負契約書を大阪府などに提出していた。補助金詐欺の疑いも否定できない。

 共同通信の世調では74・6%が籠池理事長の国会招致に賛成している。理事長に加え、払い下げ当時の国交省、財務省の担当者も呼んで事情を聴く必要がある。

 世調の内閣支持率は55・7%だった。約1カ月前の前回調査より6・0ポイント下がった。国民が厳しい目を向けていることを、政府、与党は肝に銘じるべきだ。

 

森友学園 これで終わりではない(2017年3月14日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 大阪の学校法人「森友学園」は小学校設置のための認可申請を取り下げた。籠池泰典理事長も退任する−。これで幕引きと考えるなら甘い。不可解な取引の全容解明を果たすべく国会招致が必要だ。

 「学校が建設できなかった責めを負う。子どもと保護者に申し訳ない」−。籠池氏は十日の記者会見でこのように謝罪し、退任について語ったものの、一連の疑惑に対する明確な回答は避けた。国会の参考人招致にも応じないという。誰がこんな会見内容で納得するというのだろうか。

 これほど謎の多い土地取引もない。国有地が8億円も値引かれたからだ。大阪府豊中市にある土地の評価額は当初、9億5600万円。それが地中から廃棄物が出たとの森友学園側の申し出を受けて、9億円余りが撤去費用として差し引かれたのである。しかも分割払い。異例ずくめである。

 小学校の建築事業費には何と金額が異なる三種類の契約書が存在する。これも疑問だらけだ。高い金額は約二十三億円で国土交通省に、安い金額は約七億円で府に提出されていた。三倍以上の開きがある。府に対しては財務面で問題がないように見せ掛け、国からは多くの補助金を引き出そうとした−。そんな見方が出ている。

 実際に国からは五千六百万円の補助金が出たが、これは補助金の不正受給にあたりうる。国交省は既に支払った補助金を返還請求する方向だが、同時に刑事事件の立件可能性も探るべきである。

 財務省も旧国有地に建設した校舎を解体し、更地に戻して引き渡すよう学園に要求するという。違約金の支払いも求める。当然の対処である。だが、何よりも国が国有地を評価額の14%で売却した経緯が全く明らかになっていない。

 自民党の鴻池祥肇(よしただ)参院議員が財務省への仲介を頼まれたと証言している。どのような「力学」が働いたのか否か明白にしないと国民は納得しない。「安倍晋三記念小学校」の触れ込みで寄付金を募り、安倍首相の妻の昭恵氏が名誉校長に就いていた経緯もある。

 共同通信社の世論調査では、国有地が格安で売却された問題について、86・5%が「適切だと思わない」と回答。籠池氏を国会招致し、説明を求めることに「賛成」との回答が74・6%に上った。

 関係者を国会招致すべきである。全容解明がなされないと、いつまでも行政府や首相周辺は国民から疑いの目で見られる。

 

森友学園問題 真相解明は国会の責務だ(2017年3月14日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 真相は何も解明されていない。与党の自民、公明両党は参考人招致の実現など国会としての責務を果たす必要がある。

 大阪市の学校法人「森友学園」は、大阪府豊中市の旧国有地に4月開設を目指し建設していた小学校の認可申請を取り下げた。

 籠池泰典氏は「苦渋の決断だった」と理事長退任の意向を表明、開設断念の理由として国会の追及や報道を挙げた。

 ただ実際は、認可申請に絡む国や大阪府への虚偽報告や金額の異なる3通の工事契約書、政治家への働き掛けといった多くの疑惑が相次いで表面化し、外堀を埋められたと言っていい。

 不認可の流れが決定的となったため、申請を取り下げざるを得なかったとみるべきだろう。

 今後、国は旧国有地と、既に支払っている補助金の返還を請求する方針だ。

 問題は、小学校の認可申請を取り下げたからといって、学園を巡る疑惑が解消したわけではないということだ。

 一つ目の疑問は、近畿財務局が当初、国有地を小学校用地として使うには「購入のみ」としていたのに、府私立学校審議会の「認可適当」との答申を受けた直後の2015年5月、10年間の賃貸契約が結ばれたことだ。

 土地評価額は10億円だったにもかかわらず、建設工事中にごみが見つかったという理由で、売却額は1億3400万円にまで減額された。「ごみの撤去費用」などを差し引いたのである。

 さらに、国有地を払い下げる場合、購入希望者との間で「見積もり合わせ」を行うの通例だが、国は学園側に見積額を提示するよう求めなかった。

 隣接地を豊中市に売却した際は実施しており、対応の違いが際立っている。

 近畿財務局と学園側との交渉や面会の記録も、財務省の行政文書管理規則に基づき、売買契約締結後に「廃棄した」という。

 最大の疑問は、「認可適当」との答申をはじめ、学園側の要望が次々と実現した背景に、政治家の不当な口利きや介入がなかったのかどうかだろう。

 学園は「安倍晋三記念小学校」の触れ込みで寄付金を募り、昭恵夫人が名誉校長に就いていた。その経緯も明らかになっていない。

 残念なのは与党側が籠池氏らの国会招致に消極的なことだ。「民間人を呼ぶのは慎重であるべきだ」というのが理由である。

 だが、共同通信社の全国世論調査では、国有地が土地評価額より格安で売却されたことを86%が「適切だと思わない」と答え、籠池氏を国会に招致することに74%が「賛成」と回答した。

 これは、国民が学園を巡る問題に強い疑念を持ち、国会審議で真相を明らかにするよう求めていることに他ならない。

 自民、公明両党が国会招致を拒否するのは、参考人として呼ぶことで何か不利益が生じるからではないかとの疑念さえ湧いてくる。

 真相を曖昧にしたままの幕引きは許されないと認識すべきだ。

 

森友学園問題/疑惑は手付かずのままだ(2017年3月14日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 国有地を格安で買い取り、4月開校を目指して校舎を建設中の小学校について、大阪市の学校法人「森友学園」は大阪府への設置認可申請を取り下げた。夫人が小学校の名誉校長を引き受けていた安倍晋三首相と学園側との関係や、不動産鑑定士の評価額より8億円余り安い土地売買の不透明な経緯などを巡り、野党は追及を強めている。

設置認可に絡み、学園側が財務状況や教員確保などで数々の虚偽説明をしたことも明らかになり、不認可になるとみられていた。申請取り下げ後に記者会見した森友学園の籠池泰典理事長は「苦渋の決断」とし、土地取得を巡る政治家の口利きを否定。理事長を退任する意向を示した。

 小学校開設を前提に土地を売却した国は買い戻しに向け、建設中の校舎を解体し更地にして引き渡すよう学園側に要求した。政府や自民党では「買い戻せば、この問題は終わり」と幕引きのムードも漂う。だが学園側が土地取得で破格の扱いを受けた経緯や、さまざまな疑惑はほとんど手付かずのままだ。

 国民の間に疑念が広がる中、与党はなぜ動かない。野党から繰り返し籠池氏らの参考人招致を求められても「民間人の招致には慎重であるべきだ」と拒み続けている。財務省なども当時の経緯を調査しようとしない。うやむやにして終わるようなことは到底許されない。

 国有地の評価額は9億5600万円。それが1億3400万円で売却されたのはなぜか。自民党参院議員、鴻池祥肇元防災担当相の事務所で作成された「陳情整理報告書」が明るみに出た。そこには、学園側が財務省近畿財務局との売買交渉を有利に運ぶため「政治力で早く結論を得られるようお願いしたい」などと要望を重ねていたことが詳細に記されている。

 さまざまな要望は交渉経過とも重なり合い、しかも、ほぼ実現している。政治家からの働き掛けの有無をただされ、財務省は「さまざま問い合わせはあり、そういう可能性があると思う」としたが、記録が残っていないことを盾に交渉経過などの調査を拒んでいる。

 陳情報告書には、当初の借地契約前に財務局側から賃料を示された学園側が「高すぎる」と訴え、賃料が下がったことをうかがわせる記述もあった。しかし「職員に確認していないが、前段階で具体的な提示をすることはない」と建前論に終始。確認を求められても応じなかった。

 政治家の関与も含め当時の経緯を解明するには籠池氏や財務省側の証言が欠かせない。しかし自民、公明両党は「籠池氏は民間人なので強制できない」「違法性が明らかでない」と理由を挙げ、野党が求める参考人招致に難色を示している。

 理解に苦しむ。何を恐れているのか。足並みをそろえるように籠池氏も会見で、参考人招致に応じないと述べた。それなら、財務省の当時の担当者らを招致して交渉経緯を検証し、その上で籠池氏から個別に事情を聴くことも考えられよう。

 学園側が小学校の工事請負代金を過大に申告し国土交通省から補助金を不正受給していた疑いもある。小学校がなくなり、土地が返還されても一件落着とは言えない。

 

森友学園問題(2017年3月14日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆解明へ関係者招致すべきだ◆

 国有地を格安で買い取り、4月開校を目指して校舎を建設中の小学校について、大阪市の学校法人「森友学園」は大阪府への設置認可申請を取り下げた。

 夫人が小学校の名誉校長を引き受けていた安倍晋三首相と学園側との関係や、不動産鑑定士の評価額より8億円余り安い土地売買の不透明な経緯などを巡り、野党は追及を強めている。

 国民の間に疑念が広がる中、与党はなぜ動かない。財務省なども経緯を調査しようとしない。うやむやにして終わりにしたいようだが、それは到底許されない。

与党に幕引きムード

 設置認可に絡み、学園側が財務状況や教員確保などで数々の虚偽説明をしたことも明らかになり、不認可になるとみられていた。

 申請取り下げ後に記者会見した森友学園の籠池泰典理事長は「苦渋の決断」とし、土地取得を巡る政治家の口利きなどを否定。理事長を退任する意向を示した。

 小学校開設を前提に土地を売却した国は買い戻しに向け、校舎を解体し更地にして引き渡すよう学園側に要求した。政府や自民党では「買い戻せば、この問題は終わり」と幕引きのムードも漂う。

 だが学園側が土地取得で破格の扱いを受けた経緯や、さまざまな疑惑はほとんど手つかずのまま残っている。

 国有地の評価額は9億5600万円。それが1億3400万円で売却されたのはなぜか。自民党参院議員、鴻池祥肇元防災担当相の事務所で作成された「陳情整理報告書」が明るみに出た。そこには、学園側が財務省近畿財務局との売買交渉を有利に運ぶため「政治力で早く結論を得られるようお願いしたい」などと要望を重ねていたことが詳細に記されている。

 さまざまな要望は交渉経過とも重なり合う。しかも、ほぼ実現している。政治家からの働き掛けの有無をただされ、財務省は「さまざま問い合わせはあり、そういう可能性があると思う」としたが、記録が残っていないことを盾に交渉経過などの調査を拒んでいる。

不正受給疑いも浮上

 政治家の関与も含め当時の経緯を解明するには、籠池氏や財務省の証言が欠かせない。しかし与党は「籠池氏は民間人なので強制できない」「違法性が明らかでない」と理由を挙げ、野党が求める参考人招致に難色を示している。

 理解に苦しむ。何を恐れているのか。足並みをそろえるように籠池氏も参考人招致に応じないと述べた。それなら、財務省の当時の担当者らを招致して交渉経緯を検証し、その上で籠池氏から個別に事情を聴くことも考えられよう。

 学園側が小学校の工事請負代金を過大に申告し国土交通省から補助金を不正受給していた疑いも浮上。その一方で、大阪府には財務状況をよく見せるため請負代金を過少申告したとされ、小学校がなくなり、土地が返還されても一件落着とならないことは明らかだ。

 

「森友小」取り下げ 幕引きにしてはならない(2017年3月14日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 学校法人「森友学園」の籠池泰典理事長が大阪府豊中市の旧国有地で計画していた小学校開設を断念し、認可申請を取り下げた。

 異なる校舎建設費を記した契約書3通の存在や、認可申請に絡み児童確保策や教員リストなどを府側に虚偽報告した疑いなどが次々と明るみに出た。

 だが籠池氏は納得いく説明を一切していない。にもかかわらず、籠池氏は「再びチャレンジする。今まで以上に子どもの育成をする」と述べ、別の場所での学校建設を目指す意向を示している。

 籠池氏自身が全ての疑惑に答え、不正が一切なかったことを証明しない限り、教育に携わることはやめるべきではないか。

 学園は認可申請に際し、財政状態を説明する資料の一つとして代金7億5600万円と記載された工事請負契約書を府に提出した。その一方で、国土交通省の補助金申請には約23億8400万円、関西エアポートへの助成金申請では約15億5500万円と記された契約書を出した。

 施工業者は府私学課に提出した契約書は、学園側の虚偽説明に基づき作成したと説明している。学園側が財政負担を軽く見せ掛けて開設を有利にし、補助金・助成金を最大限得るためだったのではないか。その疑念を払拭(ふっしょく)できない。

 愛知県の私立学校と推薦入学枠の提供で合意したと府に報告した件も、実際にはなかった。

 認可申請を取り下げたからといって、これで責任なしとはならない。学園側は国交省から補助金約5600万円を受け取っている。返還すれば済むということにはならない。

 府私立学校審議会(私学審)は2015年1月に「認可妥当」を答申した。籠池氏は「認可適当の結論が出たから、国有地を定期借地して買収した。それがなかったら(校舎は)建てなかった」と述べている。

 私学審会長はことし2月、「よほどのことがない限り3月下旬には認可証が交付される」との見通し示していた。虚偽申請疑惑は「よほどのこと」だ。籠池氏は自らの責任を深く自覚すべきである。

 政治家の口利き関与などは、国会で解明しなければならない。自民党は参考人招致に応じるべきだ。小学校の認可申請取り下げで、幕引きにしてはならない。

 

嵐去るの待つ公明と維新(2017年3月14日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

   

★森友学園疑惑は、学園が小学校開校を取り下げたり理事長が退任して「一気に幕引きムード」(野党国対)にしようとしているが、疑惑の根本が晴れたわけではない。ことに嵐が過ぎ去ることを願い、ずっとほおかむりをしていた節のある政党が2つある。

★その1つが公明党だ。与党の首相・安倍晋三夫妻や国有地払い下げで本来ならば副総理兼財務相・麻生太郎らが当事者だったわけだが、野党が主に首相夫妻をターゲットにしたため、首相の疑獄のように扱われているが、この内閣の中枢2人の責任が問われた疑惑の中で、公明党はだんまりを決め込んだ。公明党が関与していたというわけではない。しかしこの疑惑を国会で質問した議員も皆無、3月1日から開会している大阪府議会でも、大阪維新の会や自民党ですら質問しているにもかかわらず、公明議員4人全員が全く触れないというありさまだ。いくら与党の一角を占めているとはいえ、一切無視する態度が政権をチェックすると豪語する公明党の態度なのかといえば「何か重大な疑惑隠しをしているのではないか」(野党追及プロジェクトチーム)と勘繰りたくなるが、ただの“下駄(げた)の雪”で何があっても付いていくというならとんでもない話だ。

★そして維新の会の対応だ。一連の森友疑惑について元大阪市長・橋下徹の発言は歯切れが悪いが9日、ツイッターに「(森友学園)大阪市長のときに株式会社立の高校を市内に誘致しようとした。当時の北区長からの要望。区長は事業者から要望を受けていた。大阪府私学課は私学設置基準を基に明記されていない財務状況を理由に猛反対。しかし同時期に森友へ条件付き認可。この対応の違いはなんだ? おかし過ぎる」と無関係を示唆。また府知事・松井一郎は「私学課を呼ぶならもう僕の時代なので僕を呼べばいいじゃないか」と府の私学課長の参考人招致をかたくなに拒み、それなら自分が出るという不自然さ。脛(すね)に傷でもあるのだろうか。

 

教育勅語称賛発言(2017年3月14日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

取り戻したいのは戦前なのか

 国有地の「格安」売却疑惑の渦中にある「森友学園」の幼稚園で園児に教育勅語を暗唱させていることが問題になっている中、稲田朋美防衛相が国会で「教育勅語の精神を取り戻すべきだ」などと称賛する答弁をしたことに批判が上がっています。教育勅語は戦前、子どもたちに「天皇のために命をささげる」ことを教え込んだ軍国主義教育の主柱です。その精神を「取り戻す」と公言してはばからない稲田氏の防衛相としての資質がきびしく問われます。

「天皇のため命投げ出せ」

 教育勅語は戦前の教育の基本原理を示すものとして1890年に明治天皇の言葉として出されました。その本質は結論部分にあたる「一旦緩急あれば義勇公に奉じ以(もっ)て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」、つまり「重大事態があれば天皇のために命を投げ出せ」ということにあります。前段に親孝行や兄弟仲よくなどの徳目が並んでいますがそれらはすべて天皇への命がけの忠義に結びつけられています。

 戦前の教育では勅語の精神が徹底して子どもたちにたたき込まれました。元日や「紀元節」(2月11日)などの儀式で校長が「奉読」し、その間はせき一つすることも許されませんでした。子どもたちは一字一句間違わないように暗唱させられ、「修身」などの授業も勅語に則して行われました。こうして天皇と国家への忠誠を植え付けられた若者たちは、自らの命を捨て、相手の命をも奪う侵略戦争に駆り立てられたのです。

 敗戦後、戦争への痛苦の反省から、「個人の尊厳」を保障する憲法と「真理と平和を希求する人間の育成」を目指す旧教育基本法(2006年に第1次安倍晋三政権が改悪)が制定されました。教育勅語は憲法の理念に反するとして1948年に衆議院で「排除決議」、参議院で「失効決議」が採択されました。参議院の「失効決議」は憲法・教育基本法制定で「(戦前の)教育の誤りを徹底的に払拭」し「民主主義的教育理念をおごそかに宣明した」結果、教育勅語は廃止され効力を失っていると強調しています。

 「教育勅語が戦争への道になって問題を起こしたという認識はあるか」と国会で問われた稲田防衛相は「そういう一面的な考えはしていない」と答えました。戦後に教育勅語が失効した意味を理解しない人物が自衛隊を指揮・監督する防衛相を務めていることは深刻です。稲田氏はかつて月刊誌上の討論で、最後の一行まで「教育勅語の精神は取り戻すべき」と明言しています。戦前と同じ発想で若者を戦争に駆り立てようとでもいうのか―。あまりに危険です。

首相の姿勢も問われる

 第2次安倍内閣以降では、3年前にも当時の下村博文文部科学相が教育勅語を「中身はまっとう」と美化しました。政府は従来、「教育勅語を教材として使うことは考えられない」としてきましたが、安倍内閣は「(勅語の暗唱などに関しては)個別具体的な状況に即して判断される」と後退させる答弁書を閣議決定しました(7日)。

 「森友学園」の教育を持ち上げてきた安倍首相夫妻の姿勢も問われています。偏狭な「愛国心」を押し付ける「道徳の教科化」などとも表裏一体で、「戦争する国」につながる教育勅語美化の動きを許さない世論と運動が重要です。

 

森友学園問題 幕引きはありえない(2017年3月13日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 これで幕引きにするわけにはいかない。全容解明には関係者の国会招致がやはり必要だ。

 学校法人「森友学園」(大阪市)の籠池(かごいけ)泰典理事長が、4月開校をめざしていた小学校の設置認可の申請を取り下げ、理事長を退任すると発表した。

 大阪府はすでに不認可の方針を示していた。申請を取り下げることで、事態の収拾を図ったようにも受け取れる。

 だが、10日の記者会見で籠池氏は、国有地売買の経緯や補助金の不正取得疑惑について詳細な説明をしなかった。逆に府に対し「私どもの資料を流出させた」と批判、国会での追及や報道のせいで工事が遅れ、寄付金集めに影響が出たなどと、まるで被害者のように語った。

 いま学園に向けられている疑惑は多岐にわたる。反省や、真摯(しんし)に説明する姿勢が見られなかったのは残念だ。

 申請を取り下げ、仮に国が土地を買い戻したとしても、土地売却の不可解な減額の経緯や、政治家の関与の有無などを解明する必要性に変わりはない。記者会見で持論を述べるだけでなく、籠池氏は国会で疑問にていねいに答えるべきだ。

 野党は籠池氏や当時の財務省幹部らの国会招致を求めている。だが自公両党は応じない。

 「民間人だから慎重であるべきだ」「違法性がない」「国会で審議中」。それが与党側の言い分だ。

 しかし、過去に民間人が国会に参考人として招致された例は98年の日興証券利益供与事件や02年の外務省NGO問題、15年の年金情報不正アクセスなど、少なからずある。

 何より森友学園は小学校の建築事業費をめぐり、金額の異なる3通りの契約書を国や府などに提出、補助金を不正に得ていた疑惑まで浮上している。

 何をもって違法性がないと言い切れるのか。

 参院での審議では、財務、国土交通両省とも「記録がない」「法的に適正に処理した」と繰り返し、現在の担当局長らが、棒読みのような「官僚答弁」に終始している。

 こうした政府の態度に、らちが明かないと多くの国民が感じているのが現状ではないか。

 安倍首相の妻昭恵氏の名誉校長就任の経緯やその影響についても、籠池氏や財務省幹部にただす必要がある。首相らが国有地払い下げなどに「不正はない」というなら、堂々と招致に応じて真相を解明すればいい。

 このままでは「疑惑にふたをして、逃げている」と言われても仕方あるまい。

 

籠池氏の招致 自民党は何が怖いのか(2017年3月13日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 自民党と公明党は、いつまで逃げの姿勢を続けるつもりなのか。

 大阪市の学校法人「森友学園」の国有地取得問題に関し、野党が求めている同学園の籠池泰典氏ら関係者の参考人招致を与党が拒んでいる。

 だが、拒否の理由は理屈が立たない。学園側が開設を目指していた小学校の設置認可申請を取り下げ、籠池氏が理事長辞任を表明したことで自民党には「参考人招致は必要なくなった」との声があるが、これで幕引きするわけにはいかない。

 自民党の竹下亘国会対策委員長は「民間人の招致は慎重であるべきだ」と言う。確かにそうだ。ただし、虚偽の陳述をすれば罰せられる証人喚問も含め、民間人を国会に呼んだ例は過去にも多数ある。

 ましてや今回は国民の財産である国有地が格安の価格で売却されたという問題だ。解明しないのは国会の責任放棄といっていい。

 これまでの国会質疑で財務省は「適正な手続きだった」と繰り返している。一方で同学園と近畿財務局との交渉記録は破棄したという。ではなぜ破棄したかと聞けば「適正で問題がないからだ」と答弁する。

 これで納得しろという方が無理だ。だから関係者から話を聞く必要がある。ところが野党が求めている財務局担当者ら公務員の招致も自民党は応じようとしない。

 菅義偉官房長官は「違法性のない事案に関わる参考人招致は慎重に」と語った。しかし、学園側から政治家に口利き依頼はなかったのかという疑問のみならず、不可解な点は次々と明らかになっている。

 建築費の額が異なる工事請負契約書を国土交通省、大阪府、関西エアポートに提出していた点をはじめ違法性が疑われている問題は数多い。

 自民党からは「違法なら捜査当局に任せればいい」との声も聞くが、既に捜査が始まっている場合には、国会に関係者を呼んでも「捜査中だから答えられない」と証言を拒まれる例が過去には多い。国政に関わる事案について、違法性があるかどうかを、まずただすのも立法府・国会の役割だ。

 竹下氏は「テレビや週刊誌が取り上げるから国会で議論しようというのは違う」とも語った。本当にそう考えているとすれば、問題の深刻さを分かっていないというほかない。

 籠池氏は突如、小学校の設置認可申請を取り下げたが、言い分は一方的だ。より国会招致が必要になったにもかかわらず、自民党には「籠池氏は何を言い出すか分からない」との不安が強まっているようだ。

 結局、招致を拒む理由はそれかもしれない。やましい所がないなら招致を認めればいいだけの話だ。

 

森友申請撤回 用地と補助金は確実に返還を(2017年3月13日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 数々の問題点が発覚した以上、開校はあり得なかった。自ら身を引いたのは、当然のことだ。

 学校法人「森友学園」が、大阪府豊中市の国有地を買い取って新設中だった小学校について、府への設置認可申請を取り下げた。籠池泰典理事長は退任する意向を示している。

 学園側は4月の開校を目指し、府に認可申請資料を提出していた。そのでたらめな内容には、あきれるばかりである。

 私立の中高一貫校に推薦枠を確保したとの報告に対し、相手校は「事実無根」と否定した。教員予定者名簿に本人に無断で掲載していた。籠池氏の経歴でも「自治省入省」などの詐称が判明した。

 府が強い不信感を持ったのも、無理はない。近く不認可を決定する見通しだった。

 府の私立学校審議会は、2015年1月に「認可適当」と答申する一方で、財務面などを懸念して「開校準備状況について報告を受ける」との条件を付けていた。

 こうした経緯があるだけに、府はなぜ、虚偽の内容をもっと早く見抜けなかったのか。

 認可審査は、学校法人の申請内容を基本的に信用する性善説に立っていると言える。今回の問題を教訓に、都道府県は厳格な審査に努めねばならない。

 疑惑として残るのは、森友学園側が金額だけが異なる3通の校舎建築工事契約書を作成し、使い分けていた点だ。府に示した契約書の額が最も安く、国土交通省には最高額のものを提出していた。

 「府には財務面での問題がないように装い、国には多くの補助金を引き出そうと、高い額で申請した」というのが、府の見方だ。

 国交省からの5600万円の補助金は、全額返還させねばならない。不正受給の疑いもある。徹底調査が求められる。

 学園側に払い下げられた国有地の処理も課題だ。今月中に工事が完了せず、開校できなければ、国が売却価格と同額で買い戻せる特約が付与されている。

 国が買い戻す際、学園側は更地に戻すのが原則だ。国有地は国民の貴重な財産である。財務省は着実に手続きを進めてほしい。

 籠池氏は再申請に意欲を示し、建設中の校舎を残すよう訴えている。厚かまし過ぎないか。

 入学予定だった子供たちの手当ても、忘れてはならない。20〜25人の入学希望者がいたという。府は、保護者の意向を聞き、市町村などとも連携して、迅速に受け入れ先を確保する必要がある。

 

贈賄申し込みに補助金適正化法違反…森友学園問題 事件の可能性はないか 司直も解明を(2017年3月13日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 国有地の売却などをめぐって数々の疑惑がもたれている大阪市の学校法人「森友学園」が、小学校設置の認可申請を取り下げた。この責任を取り、籠池泰典理事長は退任の意向を表明した。

 だがこれで、問題の幕引きというわけにはいかない。国や大阪府を相手どり、複数の不明朗な申請で国有地を安値で買い取り、補助金などを得ようとしていた。この問題を放置すれば、政府や役所は信を失う。司直の手で疑義を徹底的に解明すべきだ。

 土地売買や値引きをめぐっては自民党の鴻池祥肇(よしただ)参院議員が財務省への仲介を要請され、「封筒」を渡されそうになったと証言している。学園側は封筒の中身は商品券だったとしており、贈賄申し込み罪に当たる可能性がある。

 小学校の建設工事費では約7億円から約23億円まで、金額が大幅に異なる3通の工事請負契約書が、それぞれ国や府などに提出された。意図的に過剰な建設費の見積もりで補助金の交付を受けたとすれば補助金適正化法違反の可能性があり、松井一郎府知事は「補助金詐欺なら刑事事件」と指摘している。

 逆に過小の申告であれば、収支を安定したものに見せかけるための「粉飾」の疑いが生じる。

 他にも、推薦入学枠の虚偽申告や自らの経歴詐称については関係者のミスと説明しているが、疑問は解消されない。

 社会の公平性を著しく損なう事例があれば、いたずらに国会審議を長引かせるより、司法のメスを入れるべきである。認可申請の撤回や理事長の退任で済まされる問題ではない。

 不自然な申請を諾々と認可してきた財務省などの役所も猛省すべきである。国庫の損失というべき問題について、説明が尽くされたとはいえない。

 国会審議では、安倍晋三首相も「すとんと、ふに落ちるような説明がされなかったのは事実だ」と述べている。このままでは許認可行政に対する信頼を保てない。

 首相夫人の安倍昭恵氏は一時、新設する小学校の名誉校長に就任していた。

首相夫人が公人であれ、私人であれ、その名が学園の寄付金集めや入学生の獲得に利用されたことは否定のしようがない。自らの存在の影響力を今一度、自覚すべきだろう。

 

(2017年3月14日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

 「朕惟(おも)フニ」で始まる教育勅語。明治23年に発布され、戦後の昭和23年に失効が決議されるまで修身教育の基本規範として崇め、奉読されてきた。だが、何とその神聖なる勅語の文法に重大な誤りがあったという

「森友学園」問題で「朕惟フニ」と勅語を朗々と暗誦する園児が話題になった。とても内容を理解しているとは思えないが、世代は違っても戦後教育を受けた身として何も知らないでは彼らの手前恥ずかしい

▼そこで調べたら山縣有朋内閣の知恵袋、井上毅(こわし)法制局長官と天皇側近で儒学者の元田永孚(もとだ・ながざね)が最終案を作成。親孝行や学問の大切さを、遵法精神など12の徳目を教えている

▼戦時下の国家総動員法を正当化する条理≠ニして利用された。本文の「一旦緩急アレバ義勇公ニ奉ジ」は戦時には真心を捧げて国を守る気概を発揮―などの意。仮定条件を導くなら「アレバ」では誤りだと

▼正解は未然形のアラに接続助詞のバで「アラバ」。まず初の国語辞典『言海』を編纂した国語学者の大槻文彦が気づいて羽織袴で文部省に赴き、訂正を求めたが断られた。起草した井上は無学を深く恥じたという

▼評論家の大宅壮一も大正期の中学時代、誤用を指摘したら「とやかく言うな」と逆に教師に諫(いさ)められたとか。集団を一つ方向に率いるばかりが教育ではない。毅然と持論を掲げ、誤りを指摘する勇気を教えるのも教育ではなかったか―。

 

(2017年3月12日配信『デイリー東北』−「天鐘」)

 

 八戸市出身の作詞家、旦野いづみさん(東京都在住)が弊紙コラム『私見創見』(1月10日付)で指摘していたが、卒業式で歌う合唱歌は『仰げば尊し』が定番と思っていたら、それは“今は昔”のことだという

▼職場の各年代に聞いてみた。50代の多くは『仰げば尊し』と口を揃(そろ)えたが、40代になると『旅立ちの唄』『贈る言葉』、30代は『さくら』、20代は『ひまわりの約束』など、実にさまざまな答えが返ってきた

▼八戸市内の中学校は昨日、今日が卒業式のピーク。式歌は学校ごとに決めるが、『仰げば尊し』は健在で『旅立ちの日に』や『巣立ちの歌』も人気とか。『旅立ちの日に』は昨年の全国卒業ソング人気1位だった

▼『仰げば―』の誕生は明治17年。米国の楽曲に国語学者の大槻文彦らが詞を付け、唱歌として歌い継がれてきた。映画『二十四の瞳』で歌われ、国民の涙を誘ってからは卒業の押しも押されぬ定番曲になった

▼だが、今に至るまで「いと疾(と)し」の古語が難解。「身を立て 名をあげ やよ励めよ」は立身出世の押し売り。教師賛美は平等主義に反する―など異論噴出だったらしい

▼歌は世につれ世は歌につれ―とは言うが、教育勅語を諳(そら)んじる園児と時代錯誤の学園理事長には驚いた。異論もあろうが昭和の昔、寒い講堂で涙を流し声を張り上げたあの歌が懐かしい。仰げば優しい師がいて今でもその恩は忘れ難い。

 

(2017年3月12日配信『日経新聞』―「春秋」)

 

 「思い知ったか」。接待役がいきなり、大先輩に切りつけた。大事な催しの直前。江戸城内でのけんかである。大騒ぎになった。斬った赤穂の殿様は切腹となり藩はつぶれる。太平の世をあっと驚かせる「忠臣蔵」の始まりだった。300年以上前のいまごろのことだ。

▼原因はわかっていない。武士のこけんにかかわる。よほどの恨みがあったのだろう。こけんは、体面や品格を意味する。もとは売り買いに使う紙、沽券(こけん)のことだ。平安のころに、土地の売買などで登場した。話がまとまると、売り主が、買い手に渡す。いくらで、だれに売ったのか。みんなに証明できる大切な証文だった。

▼国有地売買をめぐる「森友学園」問題はびっくり箱だ。疑惑が次々に飛び出した。理事長は小学校の認可申請を取り下げたが、自説をならべるだけで、多くの疑問に答えていない。驚くほどの安値のわけも、いまだに、はっきりしない。国や大阪府に出した校舎建設費はすべて食い違っていた。なぞは深まるばかりである。

▼四十七士はプライドに命をかけた。土地の証文は時をへて、体面などをさすようになった。内容にごまかしやウソがあれば、品格が傷つくからだろう。国の土地の利用や学校の設立に、インチキはなかったのか。政治家はどこまでからんだのか。なぞ解きはやはり国会の仕事だ。知らぬふりでは、政治のこけんにかかわる。

 

起請文とは誓約書の古い言い方で、後世では(2017年3月12日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 起請文(きしょうもん)とは誓約書の古い言い方で、後世では特に男女の間で取り交わすものを指した。ある男が遊郭の遊女から年季が明けたら一緒になるという起請文をもらい、自慢して友人に見せびらかした。

 するとその友人も、もう一人の友人も同じ遊女と起請文を交わしていた。3人で遊女を懲らしめに行くが、「私は客をだますのが商売」と開き直られる。落語の「三枚起請」である。

 大阪市の学校法人「森友学園」の小学校建設を巡る問題で学園側が突如、認可申請を取り下げた。籠池(かごいけ)泰典理事長も、退任の意向を表明した。金額の異なる3通の工事請負契約書という、動かぬ文書が出てきた以上、悪あがきもこれまでということか。

 それにしても学園を巡る疑惑や問題は、分からないことだらけだ。なぜ国有地を格安の値段で取得できたのか。なぜ理事長側は自民党の有力議員のところへ足を運び、金品とおぼしき紙包みを差し出したのか。うさんくさい臭いがプンプンと漂ってくる。

 幼稚園児に教育勅語を教えるなど、戦前をほうふつとさせる学園の特異な教育も明らかになった。安倍首相の妻、昭恵さんが一時、問題の小学校の名誉校長を務めていたのは、単に利用されていただけなのか。こんな小学校が開校寸前までいったこと自体が不思議だ。

 3通の契約書について問われた籠池氏は「誰かの間違いだ」と言い放った。落語のような開き直りは論外だ。

 

[「森友」申請取り下げ]疑問は深まるばかりだ(2017年3月12日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 森友学園の籠池泰典理事長が、大阪府豊中市の旧国有地に建設していた小学校の認可申請を取り下げ、理事長を退任すると発表した。

 前日まで「府の認可妥当を前提として建築している」と開校に執念を燃やしていただけに、急転直下の白紙撤回は奇々怪々。教育に対する持論を展開し、自らに批判的なメディアに責任を押し付ける会見も異様な雰囲気だった。

 一連の問題発覚後、初めて開いた記者会見で籠池氏は「苦渋の決断だった」と述べ、国会での追及や報道によって敷地内のごみ搬出が遅れ、寄付金が集まりにくくなったと説明した。

 評価額の14%という格安で学校用地を取得したことなどについて、国会議員の口利きを否定。「安倍首相夫妻からも何もしてもらってない」と語った。

 一方、金額の異なる3通の工事請負契約書の問題に質問が及ぶと、説明はしどろもどろ。国から多額の補助金を受け取るために建築費を水増ししたのではないかという疑惑や、不透明な土地取引など肝心なことは何一つ明らかにされなかった。

 恨み節に終始し、都合の悪い質問には答えようとしない態度はいかにも身勝手である。

 認可申請や建築工事などに関し次々と噴出する疑惑に、府私立学校審議会は「不認可」の意向を固めていたといわれる。

 認可申請を取り下げたからといって、問題の幕引きにはならない。疑問は深まるばかりだ。

■    ■

 会見で籠池氏は「いつの頃からか私の信条が(問題の)中心となり、袋だたきに遭うようになった」と訴えた。

 森友学園が大阪市内で運営する幼稚園は「教育勅語」を暗唱させることで知られる。「教育の神髄を伝えている」との理由で導入したというが、戦前の軍国主義教育を否定した憲法、教育基本法の下で、子どもたちが教育勅語をそらんじる姿は異様である。

 教育勅語は普遍的な意義を持つ道徳を説く一方で、「一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ」とうたう。戦争になったら天皇のために命を投げ出せとの教えだ。戦後、衆参両院が排除・失効を決議したのは、国民主権の現代にそぐわないからである。

 籠池氏は「再びチャレンジする」と別の場所での学校建設を目指す意向を示している。いずれ出直したいと言っているのだから、なおさらこれで幕引きとすることは許されない。

■    ■

 安倍晋三首相の妻昭恵さんが森友学園が計画する小学校の名誉校長を務めていた問題は、自民党内からも不適切だったとの声が上がっている。

 学園の幼稚園教育を巡って、教育勅語を是認する答弁をした稲田朋美防衛相への批判も強まっている。

 政府与党としてきちんと解明すべき問題なのに、自民党が籠池氏の国会招致に消極的なのは理解に苦しむ。

 国民の疑惑を晴らさなければ政治不信は強まる。与野党協力して籠池氏の参考人招致を実現させるべきだ。

 

「森友」格安取引(2017年3月12日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

首相も与党も解明責任果たせ

 大阪の学校法人「森友学園」(籠池泰典理事長)が4月に開校予定の小学校用地として財務省・近畿財務局から破格の価格で国有地の払い下げを受けていたことが発覚して1カ月―。「森友」側は申請取り下げや理事長「退任」を表明しましたが、弁解は一方的で、格安払い下げの経過も語らず、「森友」の虚偽の届け出なども明らかになり、疑惑は広がるばかりです。安倍晋三首相らは開き直り、自民党や公明党は違法性が明確でないと籠池氏や当時の理財局長の国会招致に消極的ですが、国民の財産をめぐる疑惑の解明は、これからますます重要となっています。

疑念深まる異例払い下げ

 「森友学園」が大阪・豊中市内の国有地を、小学校建設を理由に、最初は国有地では通例あり得ない賃貸契約で手に入れ、賃貸料を値切りに値切ったあげく、今度は売買契約に切り替えて、地下に廃棄物が埋まっていたからと10億円近い評価額から約8億円値引きさせた破格の安値で購入、しかもそれさえ10年間の分割払いを認めさせたという事実は、驚きを通り越して、文字通り国民の怒りの対象です。当事者の近畿財務局は、「森友」との詳しいやりとりは文書を残していないからと明らかにせず、安倍首相も、担当の理財局が国会で問題はないと答弁しているからとそれ以上解明しようとしません。

 本来あり得ない取引には政治家などの関与が当然予想されるのに、日本共産党の小池晃書記局長が国会で、自民党の鴻池祥肇(よしただ)参院議員事務所の面談記録を突き付け、賃貸料値引き交渉への働きかけや他の政治家の関与をただしても、首相は自党の議員の行為についてさえ調査しようとしません。内閣を統括する首相としても自民党総裁としても全く無責任です。

 小学校は一時期「安倍晋三記念小学校」と名付けられ、首相の妻の昭恵氏が講演などで訪問し、つい最近まで「名誉校長」を引き受けていました。それさえ詳しい経過を明らかにしない首相の態度は、不当なかばいだてといわれても弁解の余地はありません。

 「森友」が木造校舎の建設費を補助する国と大阪府、騒音対策などを助成する空港運営会社にそれぞれ別の工事金額を報告し、大阪府より約3倍の金額を申請した国(国土交通省)からはすでに5645万円の補助金を受け取っていたことも判明しました。府より2倍近い工事費で申請した運営会社からも1億5000万円近い助成金の支給が内定していました。虚偽の申請なら「補助金詐欺」「助成金詐欺」の疑いさえ濃厚です。「森友」が府に提出した資料で籠池氏の経歴を偽装し、愛知県の中学校への「推薦枠」や予定教員の名簿にも虚偽があったなど新たな疑惑も明らかになっています。解明は文字通り喫緊の課題です。

疑惑ある以上招致は当然

 安倍首相が不正は明白でないからと調査しようとしないことや、与党が違法は明らかでないと関係者の国会招致に同意しないのは論外です。不正や違法が明らかなら警察・検察が捜査すべきです。それを待たず、疑惑がある以上ただすのは国政を調査する国会の責務です。税金の使い方は会計検査院も調査しますが、検査院任せは通用しません。籠池氏や財務省関係者に証言を求めないのでは、疑惑解明に背を向けたことになります。

 

退任させても幕引きにはならない(2017年3月11日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

  

★10日、森友学園側は大阪府への設置認可の申請を取り下げ、学園理事長・籠池泰典は理事長退任の意向を示した。法的違法性やその根拠が示されることがなくとも、森友学園疑惑は学園サイドが国や役所に働きかけをして便宜を図らせようと、ありったけの政治家にアプローチしたこと。また中央官庁や大阪府、大阪市もそれに応えた節があること。国会はそこにメスを入れるべきだ。この疑惑発覚当初、野党は「国有地払い下げに事務所や私や妻が関与していたら首相どころか議員も辞める」という首相・安倍晋三の答弁に色めき立ち、学園と首相らの関連を探すことを優先したが、それが疑惑の方向性を鈍らせた。

★国会や政界は、警察や検察ではない。議会で絞るべきは国有地払い下げの官界の関与とその所管官庁の監督者、つまりここでは副総理兼財務相・麻生太郎を攻め込むべきだ。しかし首相をターゲットに追い込むことばかりを念頭に置いた野党は雰囲気だけしかつかんでいない。調査能力の限界とともに、疑惑の司令塔がなかったことが敗因だ。

★だが、首相夫妻に瑕疵(かし)がないわけではない。教育勅語を暗記させている幼稚園を立派といい、現在の公立小学校の形を批判し、衆参でわざわざ決議までして否定している教育勅語の称賛。既に一政治家としても逸脱している。安倍内閣は歴代内閣が踏襲してきたもの、自分が気に入らないものを「新しい判断」と称して約束を守らなかったり変えてきた。つまり首相夫人にその肩書のまま名誉校長になることを許したのは知らなかったのではなく、自身の思想に合わせて「新しい判断」をしたからに他ならない。政府の公人と私人の使い分けや公務員を秘書として付けていたことも後からのつじつま合わせになっている。この部分を首相夫妻はいまだ丁寧に答弁していない。理事長を退任させても幕引きにはならない。

 

森友学園問題 関係者を招致すべきだ(2017年3月10日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地払い下げを巡り、新たな疑問点が次々に浮かんでいる。

 どんな経緯があったのか、国会で解明する必要がある。自民党は野党が要求する関係者の参考人招致に応じるべきだ。

 評価額9億5600万円の土地が小学校用地として大阪市の学校法人「森友学園」に1億3400万円で売却された。格安となったのは用地内のごみ撤去費用、8億円余りを差し引いたためという。

 政府は、ごみの状況を直接確認していなかったことを参院予算委員会で明らかにしている。「工事関係者からヒアリングし、写真で確認した」というのが国土交通省の説明だ。「値引きありき」ではないかと疑いたくなる。

 購入希望者と行う「見積もり合わせ」をせず、学園側に見積額の提示を求めなかったことも判明した。国が通常、売却額を高くするために行うものだ。財務省は「新たに出てきた地下埋設物の撤去費用を学園自身が短期間に見積もるのは困難と考えた」とする。

 なぜ、こうも異例ずくめの払い下げになったのか。疑問は一向に解消しない。安倍晋三首相は「必ずしも、すとんと、ふに落ちるような説明がされなかったのは事実だ」と述べ、事務方の答弁が不十分だったとの認識を示した。

 問題は答弁の仕方ではない。売却に関わった当事者の口から直接説明を聞けないことだ。

 

 野党は森友学園の理事長や、払い下げの交渉時に財務省の理財局長だった国税庁長官、近畿財務局長だった財務省国際局長らの招致を要求している。自民党は「民間人の招致は慎重でなければならない」などと拒否している。

 学園の小学校設置は大阪府私立学校審議会で「不認可」とされる可能性が強まっている。建設工事を巡り、学園が請負代金7億5600万円とする契約書を府に提出する一方、国交省の補助金申請に23億8464万円と記すなど問題点が発覚したためだ。

 うやむやにはできない。学園側は小学校設置に向け、自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相らに助力を求めていた。不自然な契約の背景に政治家の不当な働き掛けがなかったか、はっきりさせなくてはならない。

 自民党の二階俊博幹事長は「できるだけ疑問点は少なくし、晴らしていくことが大事だ」と記者会見で述べた。政治への信頼に関わる問題である。疑問を晴らそうと考えるなら、国会に関係者を招致して経緯をただすべきだ。

 

理事長らの国会招致が必要だ(2017年3月10日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に評価額より大幅に安く売却された問題で、野党が関係者の国会招致を求めている。連日の審議でも疑問がすべて解消したとはいえない。与党は取引の経緯や政治家の関与の解明に向けて招致に同意すべきだ。

 民進、共産、自由、社民の野党4党は、学園の籠池泰典理事長、当時の財務省理財局長ら6人の参考人招致を要求した。日本維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)も招致が必要だと発言している。

 一方、与党は「民間人であり慎重な対応が必要だ。違法性は確認されていない」と拒んでいる。

 森友学園は小学校の建設用地として9千平方メートル近い国有地を1億3400万円で購入した。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円で、地中のごみ撤去費用として8億円強を減額した。国有地の売却は高い透明性と公平性が求められる。学園と近畿財務局の交渉記録は残っておらず、政府のこれまでの説明では不十分だ。

 まず知りたいのは売却価格を大きく下げる根拠となったごみ撤去費用の算定方法の妥当性だ。国民の大切な財産を、外部の見積もり無しで売却した判断は正しかったのか。学園が国や大阪府に提出した書類で校舎の建築費用が食い違っている問題も明らかになった。

 学園から働きかけを受けた政治家は、自民党の鴻池祥肇参院議員や大阪維新の会の府議のほかに本当にいないのか。学園は「安倍晋三記念小学校」の名称で寄付を募り、首相の昭恵夫人を「名誉校長」として紹介していた。様々な疑惑の真相を究明するのは国会の重要な役割である。

 政府は8日、学園が運営する幼稚園で昭恵夫人が2015年に講演した際に同行した政府職員に関して「私的活動」との国会答弁を「公務だった」と訂正した。首相夫人の行動は公私を問わず注目を集める。権力を利用しようと近づいてくる個人や団体も多く、言動が責任を伴うことへの自覚がどれだけあったのか疑問が残る。

 

(2017年3月10日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

責任とは何か。劇作家の別役実さんは『当世 悪魔の辞典』で、こう書いている。<締切日に原稿が上がらなかったとしても、執筆者の責任ではない。そのことを見越してあらかじめ締切日を早めておかなかった編集者の責任である>

▼<あらかじめ締切日を早めておいたにもかかわらず原稿が上がらなかった場合でも、執筆者に責任はない。編集者は当然、そのことも見越しておくべきであったからだ>。つまり責任とは、<一見ありそうなところにはないもののことである>と

▼そんな不条理な…と言いたいところだが、最近の大物政治家たちの言動を見ているだけでも、この定義がいかに正確か分かろう

▼森友学園への国有地売却をめぐる疑惑で首相は当初「(与党議員の関与は)一切なかった」と断言していた。しかし、与党議員の事務所による口利きが分かっても、学園の理事長ら関係者の国会への参考人招致などには、及び腰。総理総裁として解明責任を果たしていく、という意欲はどうにも見られぬ

▼もう一人、石原慎太郎氏にいたっては、都知事として決断した豊洲市場への移転について、「都庁や議会、専門家が論議して決めたことを認めただけで…」

▼あの原発事故から6年。政府は原発再稼働を進めてきたが、事故が万が一起きた場合、為政者が自らの責任についてどう語るか。もうこれは「想定内」である。

 

符丁の世界(2017年3月10日配信『京都新聞』−「社説」)

 

スピーカーから無線の交信が聞こえる。「615(ろくいちご)、600(ろくまるまる)」。「パトロールのため出発」を意味する。警察が使う符丁だ。かつては警察の動きを探るため、本社夜勤席で一日中流れていた

▼強盗事件は「236」だった。刑法236条が強盗罪を規定するためだ。犯罪被害者の名前も流れることもある。個人情報保護の要請から無線のデジタル化が進み、今は傍受はできない

▼ある殺人事件を取材中、目撃者の1人が短銃のことを「道具」と表現した。暴力団関係者しか口にしない言葉である。隠語は仲間の会話でこそふさわしい。この人物からは正確な話は聞けないと判断し、取材を打ち切ったことがある

▼安倍晋三首相との関連が注目され、さまざまな疑惑が出ている大阪の学校法人「森友学園」の土地取得問題でも隠語が飛び出した。理事長夫妻が自民党の鴻池祥肇氏と面会したときだ

▼鴻池氏は渡された紙包みを「金かこんにゃくかは知らんが、投げ返した」と打ち明けた。中身は見舞いの意味を込めた商品券だったそうだ。こんにゃくは100万円を指すとも伝わる

▼厚さ1センチほどでは手に持ってもどこか頼りない。1000万円の札束はレンガと呼ぶ。1億円ならば座布団となる。国民の財産である国有土地が座布団で何枚分も値引きされた闇は深い。

 

森友学園問題 国会招致が欠かせない(2017年3月8日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 大阪の学校法人「森友学園」による小学校予定地の取得問題で、与党が関係者の国会招致に後ろ向きだ。だが連日の審議でも、財務省などから納得のいく説明があったとはとてもいえない。もはや当事者に直接、事情をただすべき段階だ。

 野党は、学園の籠池(かごいけ)泰典理事長や当時の近畿財務局長らの参考人招致を求めている。

 これに対し菅官房長官は、この問題には「違法性がない」として否定的だ。しかし、当時の記録が廃棄されるなど、違法かどうかを判断できる材料が示されていないのが現実だ。この壁を乗り越え、真相に迫るのが国会の役割ではないか。

 改めて疑問を整理したい。

 国有地の鑑定価格から値引きされた「ごみ撤去費8億円余」の根拠は何なのか。

 09年度の実地調査では、敷地の地下3メートルまでの容積当たりのごみ混入率は平均20・7%だった。だが土地を管理していた国土交通省大阪航空局は独自の算定で47・1%とした。算定は通常、入札で選んだ専門業者に委託する。そうしなかった理由を、国交、財務両省は「開校が迫り、時間がなかったため」というが、あまりに不自然だ。

 売却価格を公表しなかったことや、学園がごみ撤去をしたか国が確認しなかったことなどとあわせ、いつ、誰が、なぜそう決めたのか、証言が不可欠だ。

 政治家の関与の有無も解明が求められる。籠池理事長が自民党の鴻池祥肇(こうのいけよしただ)元防災相の事務所を訪れ、有利な取り計らいをあれこれ頼んでいた様子が、事務所の報告書に残されている。

 また、15年に埋設物を撤去した際、近畿財務局が一緒に出た産廃土をその場に戻すよう業者に指示した、との記録も見つかった。事実なら廃棄物処理法に違反する。「そんな指示はあり得ない」(財務省)という釈明だけで済む話ではない。

 見過ごせないのは、国会の質疑で自民党議員が一連の疑惑を「フェイクニュース」と言い放ったことだ。だが首相も「腑(ふ)に落ちる説明がなされなかった」と認めている。解明に乗りだすこともせず、偽ニュース呼ばわりとは、どういうことか。

 小学校設置をめぐっては、学園が大阪府に報告した内容に、事実と異なる点が次々と見つかっている。愛知県内の中等教育学校に推薦枠があるという話や、校舎の建築費の記載にも虚偽があった疑いが出ている。

 申請に偽りがあるなら、不認可の判断もあり得る。新年度はもう間近だ。府教育庁は速やかに結論を出すべきだ。

 

首相夫妻の脇の甘さも問題あり(2017年3月8日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★森友学園の国有地払い下げ疑惑は国会での追及、メディアの取材攻勢でさまざまなことが明らかになってきたが、森友学園サイドの政界との広い交友関係、小学校開校のための霞が関の官僚工作、地元大阪の府会議員などへの工作など、多岐にわたる政官界工作の実態が明らかになるとともに、首相・安倍晋三夫妻周辺へのアプローチの実態や、昭恵夫人の交友関係や公設秘書をあてがうなど公人としての扱いも明らかになった。

★一方、森友学園は国有地払い下げの値引きだけでなく、小学校建設のための補助金の不正取得などを大阪府や財務省の縦割り行政の弊害を利用して、総合的に判断すればその齟齬(そご)に気づくべきところもくぐりぬけてきた。学校設立前の複雑で煩雑な運営計画や、生徒集客計画もずさんで、全く関係ない他県の進学校とあたかも提携しているかの説明をしていたことも露見している。

★ただ、さまざまな報道も疑惑と事実の検証もきちんと行われているわけではなく、国民的関心事であるものの、何が問題かなどの整理がついているとは思えない。事実関係としては<1>国有地払い下げの経緯が極めて曖昧で、払い下げに関わる慣例や常識、ルールを逸脱した、いわば特別扱いがまかり通っていること。またその過程の議事録などが意図的に破棄されている節がある<2>学園側が学校設立のため政治家や認可する中央官庁へ激しいアプローチをし、また値引き交渉や税金の不正取得ともいえるずさんな運営姿勢がある<3>首相夫妻が積極的か消極的かはともかく学園の広告塔となり集客に努めたことが認められ脇が甘いことが分かったこと。それだけで十分問題だ

 

森友学園問題 参考人招致を速やかに(2017年3月7日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 国民の疑問は何ら解消していない。与党は関係者の参考人招致にいますぐ応じるべきだ。

 学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐり、安倍晋三首相はきのうの参院予算委員会で「必ずしも腑(ふ)に落ちるような説明がなされていなかった」と認めた。

 この問題では、売却額が86%も減額された経緯や、交渉への政治家の関与など疑問が山積するが、政府側はきのうも手続きは適正と繰り返すにとどまった。

 首相は「私は事務方にわかりやすく説明するように申し上げてきた」と釈明した。しかし指示が徹底されていない以上、首相自身の責任を問わざるを得ない。

 まずは招致実現へ、自民党総裁としての指導力を示してほしい。

 政府側と野党側のやりとりは、きのうもすれ違いに終わった。

 政府側は、減額の根拠となった埋設物の撤去費用は「一般的な方法で合理的に算出された」と説明。首相は「ごみ等を撤去する責任を森友側に渡すのだから、ディスカウントは当然」と追認した。

 だが野党側は、埋設物の確認が業者任せで算定が不透明と批判。学園側が用地取得後、埋設物を撤去しておらず、結果的に不当に安く土地を入手したと指摘する。

 仮に法的手続きに瑕疵(かし)がなくとも、8億円を超す減額が正当化されるのか。検証するための交渉文書は既に破棄されたという。ならば学園の籠池泰典(かごいけやすのり)理事長や財務省の担当者に直接ただすしかない。

 首相はきのうの質疑で、妻昭恵さんが小学校の名誉校長を務めていたことについて問われると声を荒らげたが、国民の疑問に丁寧に答える姿勢こそ求められる。

 森友学園は、運営する幼稚園で戦前の教育勅語を園児に暗唱させるなどの教育方針で知られる。

 「安倍首相頑張れ。安保法制国会通過良かったです」と唱和させ、政治的中立を定めた教育基本法に抵触する懸念も指摘される。

 先月の大阪府の私学審議会でも教育内容を疑問視する声が出た。これを受け籠池理事長も「不適切だった」と認めたという。

 さらに、学園側が小学校の児童確保策として府に示した、愛知県の私立中高一貫校が推薦入学枠を提供するとの合意が、架空だったとの疑惑も浮上している。

 大阪府の松井一郎知事がこれを受け今月中の開設認可は難しいとの認識を示したのは妥当だろう。

 新学期まで1カ月しかない。子供たちへの影響を最小限にとどめるため、善後策を急いでほしい。

 

安倍昭恵氏 公的立場の説明責任を(2017年3月7日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 首相夫人は公人か、それとも私人か――国会でそんな論争が交わされている。

 きっかけは、大阪市の学校法人「森友学園」にからむ安倍首相の妻・昭恵氏の言動だ。

 昭恵氏は2015年9月、学園の幼稚園で講演し「こちらの教育方針は大変、主人も素晴らしいと思っている」と語った。

 首相は、国会で野党から学園理事長と昭恵氏の関係を説明するよう求められると、「妻は私人なんです」と反論。菅官房長官も「首相夫人は私人だ。国家公務員としての発令を要するものではない」と述べた。

 確かに首相夫人は公務員ではない。選挙で選ばれたわけでもない。一方で、昭恵氏は学園が新設予定の小学校の名誉校長に就き、学園はホームページで昭恵氏を「内閣総理大臣夫人」と紹介。先の講演には政府職員が同行していた。

 職員の旅費は昭恵氏が負担したというが、だとしても、一連の森友学園とのかかわりを単なる一私人の行為ということには無理がある。少なくとも公的な立場での活動とみるべきだ。

 政府の説明によれば、昭恵氏の行動は外務、経済産業両省の職員計5人が「サポート」しており、うち2人は常駐だ。

 首相の出張に同行した際には、国家公務員旅費法に基づき交通費が昭恵氏に支払われる。昭恵氏は第2次安倍内閣以降の日当は辞退しているというが、第1次内閣以降、約145万円が支払われている。

 昭恵氏は首相夫人の立場を活用して発信を続けてきた。

 昭恵氏がパーソナリティーを務めるインターネット番組「安倍昭恵チャンネル」は、「憲政史上初!! 首相公邸よりお送りします!!」と銘打つ。自民党の会議に出席し、東日本大震災の被災地での防潮堤建設に異論を唱えたこともある。

 首相夫人がその肩書を離れ、独立した個人として活動する場合もあるだろう。

 その場合も、言動には慎重な判断と、重い責任が求められるのは当然のことだ。

 昭恵氏自身、ファーストレディーの立場について、10年の朝日新聞の取材に「表舞台に出るからには、きちんと戦略を練って行動しないと、国益を損ないかねないと感じた」と語ったことがある。

 昭恵氏と森友学園や理事長との関係はどのようなものだったのか、疑念を呼んでいる。

 公的立場にある者として、昭恵氏には「私人」を盾にすることなく、国民が納得できる説明をする責任がある。

 

森友学園問題 国会に解明の重い責任(2017年3月7日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 学校法人「森友学園」への格安での国有地売却は、解明すべき問題点があまりにも多い。会計検査院の検査は当然だが、国会こそ国政調査権を最大限行使すべきだ。与野党ともに、その責任は重い。

 大阪府の松井一郎知事がきのう森友学園が四月開校を目指していた小学校の設置認可判断の先送りに言及した。学園をめぐる問題は国有地売却にとどまらず、運営する幼稚園での政治的中立性を逸脱した教育内容や、小学校新設のための申請関連書類の信ぴょう性にまで及ぶ。このまま開校を認め、国有地の格安売却を既成事実化してはならない。

 自民党の石破茂前地方創生担当相が「非常に奇怪な話」と言うほど、この問題をめぐる闇は深い。

 学園が購入した大阪府豊中市の国有地の評価額は当初、九億五千六百万円だったが、地中から廃棄物が出たとの学園側の申し出を受け、撤去費用などとして八億円余りを差し引き、さらに分割払いとした。異例ずくめである。

 籠池泰典理事長が自民党の鴻池祥肇参院議員と面会して紙包みを渡そうとしたり、鴻池氏の神戸事務所と接触して財務省への働き掛けを求めていたことも分かった。

 国有地売却はいずれも学園側の意向に沿う形で進み、ルールが次々と変更された。管理する財務省独自の判断か、政治的圧力があったのか、謎は深まるばかりだ。

 不可解な経緯はこれだけではない。小学校新設をめぐり、大阪府の審議会は財務面の不安などから認可をいったん保留したが、一カ月後の臨時会で一転、条件付きながら認可適当と答申した。籠池氏がこの間、大阪府議に「小学校の件よろしくお願いします」と要請していたことも明らかになった。

 学園は愛知県蒲郡市の私立「海陽中等教育学校」と推薦入学枠の提供で合意したとの文書も府教育庁に提示したが、同校側は合意や交渉の事実すら否定している。虚偽申請なら、教育にたずさわる者として許されるはずがない。

 籠池氏の国会への参考人招致が必要だが、自民党はなぜ拒むのか。国有地売却で国会議員の関与はあったのか、籠池氏に学校法人運営の資格があるのか、国会の場で徹底的に究明すべきだ。

 夫人が一時、小学校の名誉校長を務め、学園の寄付集めに自分の名前が使われたこともある安倍晋三首相も無関係たり得ない。会計検査院の検査を盾に、国会での調査や籠池氏招致に消極的では、国民の疑念を払拭するには程遠い。

 

権腐十年(2017年3月7日配信『愛媛新聞』−「地軸」)

 

 決して首相の任期が延びたわけではない―と念を押しておかねばなるまい。自民党が、連続「2期6年まで」と制限していた総裁任期を「3期9年まで」に延長した

▲実際には、安倍晋三首相が来年秋の総裁選に3選出馬することが可能になっただけ。なのに2021年9月までの長期政権が有力視される。首相自身も党内の会合で歴代最長の桂太郎氏に言及したと聞く

▲確かに「1強」体制は盤石に映る。国政選挙の4連勝で生まれた「安倍チルドレン」は党所属国会議員の4割を占める。自らを「立法府の長」と言い間違えるほど国会を牛耳り、地位を脅かすライバルもいない

▲半面、過度の権力集中は弊害を生む。愛媛2区の村上誠一郎衆院議員は、党内の議員が政権に迎合するばかりか「総裁の目指す政策を事前に忖度して対外発信するような政治家ばかりになった」と自著で嘆く

▲官僚も、各省庁の幹部人事を官邸主導で決める仕組みに変わり、目線は自然に官邸を向く。世間を騒がす森友学園問題も、官僚たちが気を利かせて便宜を図った可能性は十分に考えられる。何しろ学園の小学校の「名誉校長」は首相夫人だった

▲過去多くの政治家が「権腐十年」を掲げ、多選による権力の腐敗を自戒してきた。「本人だけではなく、周辺によって腐敗が起きやすくなる」という指摘もある。第2次安倍政権発足からまだ4年余り。危険な兆候を見過ごすわけにはいかない。

 

苦し紛れ(2017年3月1日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 きょうは「メンチカツの日」なのだという。関西でミンチカツと呼ぶことから冷凍食品メーカーが制定した。と聞いてもよく分からなかったが、3(ミ)と7(シチ)の語呂合わせなのだとか

▼ちょっと苦しいが、話題づくりの効果も狙ってのことだろう。しかし、こちらの苦し紛れはとてもご愛嬌(あいきょう)とは言えない。大阪の国有地を格安で取得した学校法人の問題だ

▼自民党参院議員に口利き依頼を暴露された法人の理事長は、差し出したのは現金ではなく、商品券だとうそぶいているという。当の国会議員ではないが「アカンことはアカン」である

▼その法人と夫人との近さを指摘されている安倍晋三首相。野党の追及に「まるで犯罪者扱いだ」と不快感を示した。妻がいきなり疑惑をかけられ、夫が怒るのも無理はない。だが、それは一般の場合だ

▼支持政党の違いにかかわらず、今回の問題に疑問を持つ人は多いのではないか。追及の背後には国民の疑問があるとの認識は首相の姿勢からはうかがいにくい

▼「バカヤロー」発言で内閣不信任を可決されたのは吉田茂首相。64年前のちょうど今ごろのこと。自民党総裁任期の延長で、安倍氏は吉田や佐藤栄作の首相在職期間を超すこともうかがう。自民党は今後「改憲への道筋を国民に鮮明に示す」と言う。首相は渦中の問題についても、国民の疑問に鮮やかに答える責任がある。

 

(2017年3月6日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

松平元は39歳になる会計検査院の調査官だ。国家公務員1種試験にトップで合格、大蔵省や通産省のラブコールを蹴り、検査院に入った。抜きんでた調査能力と追及の厳しさから、「鬼の松平」とも呼ばれる

   ◆

 映画にもなった万城目学さんの小説「プリンセス・トヨトミ」の登場人物である。大阪を舞台に、東京から検査に赴いた調査官3人と大阪下町育ちの少年少女らが奇想天外な物語を繰り広げる。会計検査院の仕事がにわかに注目される中、手に取ってみた

   ◆

 こちらも舞台は大阪、小説より奇なりの疑惑である。評価額9億円超の国有地が8億円引きの安値で学校法人「森友学園」に売却された。購入前の貸し付け契約でも賃料が当初の提示額から大きく値引きされた。自民党国会議員の事務所に伝えた学園側の要望が次々と実現している

   ◆

一体どんないきさつがあったのか。財務省は交渉記録を「廃棄した」と素っ気ない。政府や自民党内の調査を迫る野党に対し安倍晋三首相は人ごとのような答弁を繰り返す。ただし「会計検査院の審査に全面的に対応する」という

   ◆

国会での追及に加え、ここは一つ、検査院に踏ん張ってもらわなくてはならない。「何の成果も上げずに帰ることになったら、我々こそが税金の無駄遣いをしていることになる」。小説の中で松平が語っている。現実の世界で「鬼」の仕事ぶりをぜひ見てみたい。

 

森友学園の土地=山田孝男(2017年3月6日配信『毎日新聞』−「風知草」)

 

 幸せな土地、薄幸な土地というものはある(鈴木博之「東京の地霊」=文芸春秋、1990年)。

 大阪府豊中市野田町1501番はどうか。小学校用地だが、ゴミが埋まっていた。国有地払い下げの不正が疑われている。

    ◇

 登記簿を見ると、今は宅地だが、67(昭和42)年当時は池沼(ちしょう)だった。

 ネットで「豊中市」「変わりゆくまち」を検索すると、「昭和30年代前半の野田地区」の航空写真が出てくる。白っぽく見える田畑の区画の、その一角だけが黒っぽく、いかにも池か沼のように見える。

それが、「昭和40年代前半」の写真では1501番周辺を除き、住宅が密集している。時あたかも高度成長のまっただ中。

 この一帯は大阪国際(伊丹)空港の、着陸機の進入路の真下にあたる。ジェット機就航が64年。74年、航空機騒音防止法改正で移転補償地域となり、無人の国有地が広がった。

 89年以降、騒音区域の規制は解かれた。飛行機の改良と防音技術の向上が背景にある。そこまでのどこかで、1501番の池沼は埋められた。国有地の区画整理が進み、売却が続く中で騒ぎは起きた。

 学校法人「森友学園」が9億円超の土地を8億円もの値引きで買えたのは、土中から大量のゴミが見つかったからである。

 ゴミの中身はコンクリート片、アスファルト、排水管、マンホール、靴、靴下と衣類、ビニール、マヨネーズやしょうゆの容器、タイル、廃材など。

 都市環境問題に詳しい専門家に聞くと、

 「廃棄物処理法制定(70年)以前は広く黙認されていた、地域ゴミの最終処分場だった可能性がある。あるいは、単に不法投棄の集積なのかも……」

 −−鉛やヒ素を含む汚染土も出た。問題は?

 「学校用地として望ましいとは思わないが、健康への影響については、出土物を調べないと簡単には断言できない。東京都の豊洲市場と同じですよ」

    ◇

 バブル時代、地価狂乱は六本木の林野庁宿舎跡(国有地)の払い下げから始まった。そこは幕末のヒロイン、皇女和宮(かずのみや)の、維新後の屋敷跡。「東京の地霊」の著者は、和宮の薄幸のイメージに日本の山林の衰退と地価無策を重ねた。

 豊中の国有地は、技術革新で騒音公害を克服したものの、ずさんな廃棄物処理でごまかした成長経済のひずみを映していよう。

    ◇

 新聞の初報は2月9日朝刊だった。日米首脳会談直前。前後を通じ、ニュースの焦点はトランプだった。下旬以降、報道合戦と国会予算論戦の正面に「森友」が躍り出た。

 関心の中心は8億円の値引きが適正かどうか。有力者が仲介した不正廉売ではないかという点。

 森友学園が経営する幼稚園の、一昨年秋の運動会の異様な映像も世間の関心をかきたてた。園児4人が選手宣誓で、「中国、韓国が心を改め、歴史教科書でウソを教えないよう、お願いいたします」「安倍首相がんばれ」「安保法制、国会通過よかったです」と声を張り上げていた。

 同じ頃、その幼稚園で首相夫人が講演し、指導を絶賛する映像も暴かれ、世人はまゆをひそめた。

 首相は森友優遇の意図はないという。当然だ。首相がめざす<保守政治>の理想は、学園が振り付けるような浅薄、非常識なものではないと、もっと力強く言ってもらいたい。

 

(2017年3月6日配信『日経新聞』―「春秋」)

 

ぎょっとした。明け方、がさごそと音がした。明るくなってみると、夫の顔が真っ黒である。妻は確信する。やっぱりね。また、女のところに行っていたに違いない。してやったり。べっとりと墨塗りの顔が動かぬ証拠だ。こんな話が鎌倉時代の「古本説話集」にある。

▼男はいつも水さしを持ち歩いていた。その女のところで、愛情があるんだよと、そら泣きしてみせていたのだ。これを知った妻は、水と墨を入れ替えておいた。しらずに顔や袖をぬらしたから、たまらない。鏡を見た男は、しかけに気づく。あまりに情けない。それからは、ニセモノの涙を流すのはやめてしまったそうだ。

▼いま、べっとりで、ぎょっとするのは役所の文書である。「森友学園」問題の始まりは、黒塗りの書類だった。文科省の天下りの件でも次々でてきた。情報公開といいながら、まるで機密書類だ。小池百合子都知事は「のり弁」とよぶ。「日の丸弁当」のように白く公開すると宣言したが、根が深い。どこまで、できるか。

▼墨塗りには、魔よけの意味もある。邪鬼は黒がにがてだからだ。むかしは正月の羽根つきで負けると、顔に塗ったものだ。各地に無病息災を祈る墨塗りの祭りが残るが、それほど多くはない。とっくにすたれたか。と思ったら、どっこい、役所の世界では、伝統が生きていた。鬼みたいに、よほど世間の目が怖いとみえる。

 

光の性質(2017年3月6日配信『中国新聞』−「天風録」)

 

 多くの動植物の生存に欠かせない光。その正体は一体何か。ニュートンは、真っすぐ進み、鏡で反射するから、光はごく小さな物体、つまり粒子だと唱えた。万有引力を見つけた天才の説ですら、すぐ異論が出た

▲物ではなく波のような性質を持つという考えだ。実際、透明なコップに入れたストローは水の表面で折れ曲がって見える。光が波だからこそ生じる現象である。その後も、光の正体という難問は科学者を悩ませ続ける

▲一体どちらか、今はっきりさせたいのは公人か私人かだろう。「森友学園」への不透明な国有地売却に絡んで関心を集める安倍晋三首相の昭恵夫人である。「首相夫人」として、この学園が開設を目指す小学校の名誉校長に一時就任していた

▲学園の幼稚園での講演会には政府職員も同行していた。ただ夫人の行動はあくまでも「私人」として。職員は勤務時間外で、交通費は夫人側が支払ったという。何とも分かりにくい話だ

▲光は結局、粒子と波動の両方の性質を持つことで決着した。公人か私人か、そんな線引きで納得する人はおるまい。まずは権力の持つ「引力」の強さを自覚して、不適切な人をはね返す反射力が必要ではないか。

 

(2017年3月6日配信『熊本日日新聞』−「新生面」)

 

「国会議員の妻」とはどういう存在だろう。候補者とともに選挙を戦い、当選すれば東京と選挙区の二重生活。忙しい議員に代わって地元の支持固めは妻が中心となるケースも多い

▼議員が閣僚や政党の幹部になれば、妻の負担はさらに増す。多くの番記者らが自宅に朝晩出入りする毎日は、さぞや落ち着くまい。「国会議員の妻もつらいよ」といったところか

▼議員の名代として支持者の相談に乗ることも。中には危険な臭いのする誘いもあろう。たとえ「私的な行為」として引き受けても、額面通りに受け取られるかは分からない

▼ファーストレディーは公人か私人か−。てっきり公人だと思い込んでいたが、安倍晋三首相の見解は違うようだ。森友学園問題で昭恵夫人の脇の甘さを野党から責められると、「妻は私人だ。犯罪者扱いは極めて不愉快」と反論した

▼ただ、政府は昭恵夫人の活動を5人の官僚にサポートさせている。2015年に夫人が学園運営の幼稚園で講演した際も職員が同行していた。勤務時間外の扱いで交通費も夫人が負担したというが、公私の線引きは市民感覚では理解しづらい

▼公務員ではなく、選挙も経ていない首相夫人だが、必要な働きは評価されていい。これを機に、公人としての位置付けを明確にするのも一案ではないか。自民党総裁任期が延長され、さらなる長期政権も視野に入った首相だが、国会では声を荒らげる姿ばかりが目につく。火の粉を払おうと躍起になっているようで、見ているこちらが不安になる。

 

自民総裁任期は延長になったけど(2017年3月6日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

  

★5日、自民党は定期党大会を開き、党則の改正が承認され総裁任期を現行の「連続2期6年」から「3期9年」に延長することが決まった。これにより現在2期目の首相・安倍晋三は18年9月の総裁選への出馬が可能になり、21年まで政権を維持することが可能となった。自民党は安倍総裁で盤石な基盤を作りつつある。党員は8年ぶりに100万人台を回復。総裁演説で安倍は「アベノミクスで雇用も賃金も上昇した」と胸を張った。また米トランプ大統領との会談で日米同盟が強固なものになったとし、安定的な政権運営に自信を見せた。

★しかし、党大会で森友学園の国有地払い下げ疑惑の話題が党員からも出ない方がむしろ不自然だ。国会では森友学園の国有地払い下げ疑惑が続き、今日の日米関係はともかくも、前任者・米オバマ大統領との関係はぎくしゃくしたままだったことや、プーチン大統領との信頼関係は北方領土の解決前進にはこぎつけなかったなど負の結果には触れられていない。いわば身内の党大会では機嫌よくスピーチもできたであろうが今日6日からの国会でも厳しい追及が待ち受けている。

★前地方創生担当相・石破茂は党総裁任期延長を受けて「(党総裁選は)前回も無投票だった。次回も無投票というのは党内のいろんな意見を生かすことにならない」とポスト安倍に向け総裁選挙出馬に意欲を見せ、党農林部会長・小泉進次郎も「任期が延長されたから若手(議員)が台頭できない、ものを言うことができないことはない。議員1人1人の覚悟だ」と述べた。その一方、「任期は延長になったが、森友問題は時間がかかる。検察が動くとの情報もある」と懸念を示す声もあった。

 

森友学園 検査院任せは筋違いだ(2017年3月5日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 国有地取得を巡る交渉が、大阪の学校法人「森友学園」の要求通りに進んだのはなぜか。

 政治家が関与した疑いがある以上、政府・与党は会計検査院任せにはせず、国政調査権に基づく真相の解明を進めるべきである。

 学園の籠池(かごいけ)泰典理事長が自民党の鴻池祥肇参院議員の事務所に、小学校開校を巡り役所への口利きを依頼していた記録が発覚した。依頼は、2013年8月から昨年3月にかけて15回に上る。

 「政治力で早く結論が得られるように」「賃借料をまけてもらえるようお願いしたい」などと露骨な要求が記されている。そこから浮かび上がるのは、政治家を通じて執拗(しつよう)に利益を得ようとする学園側の姿勢だ。

 実際に、財務省近畿財務局や国土交通省大阪航空局との交渉は理事長の意向に沿う形で進んだ。

 記録によると、財務局は当初、国有地購入による取得しか認めなかったが、理事長が「8年間は借地で、その後購入とできないか」と事務所に要望した結果、売却を前提とした10年間の定期借地契約になった。

 年間約4000万円の賃料提示にも理事長は「高すぎる。何とか働きかけしてほしい」と事務所に求め、年間2730万円に減額された。

 さらに売買契約に切り替えた際も一括払いでなく分割払いとなる。

 理事長の要望に応じて財務局や航空局がルールを次々と変更した経過が見て取れる。財務省は「政治家から不当な働きかけはない」と答弁しているが、判明した事実とは大きく食い違う。

 学園の小学校設立の認可を巡る審議にも不可解な経緯があった。大阪府の審議会は財務面に不安があることなどから認可を保留したが、1カ月後の臨時会では一転して、条件付きながら認可適当と答申した。理事長はこの間、大阪府議に「小学校の件、よろしくお願いします」と要請していた。

 もはや理事長らの参考人招致が不可欠だろう。ところが、政府や自民党は会計検査院を盾に野党の要求を拒んでいる。

 検査院の検査は、売却価格が適正だったかどうかという外形的なチェックにとどまる。交渉過程で不正がなかったかどうかを解明することまでは期待できない。

 安倍晋三首相の昭恵夫人は小学校の名誉校長に就任し、問題発覚後に辞退した。学園の寄付集めには首相の名が一時使われており、首相は全くの第三者ではない。

 首相がもし「利用された」と考えるのであれば、理事長らの国会招致で事実の解明を図ることが自らの利益にもなるのではないか。

 

森友学園問題 「口利き」の全容解明を(2017年3月4日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 政治家の「口利き」で、国民の財産が不当に安く売却されたという疑念が拭えない。徹底して解明するのが政治の責務だ。

 学校法人「森友学園」への国有地売却をめぐり、自民党の鴻池祥肇(こうのいけよしただ)元防災担当相の事務所が、学園から国に対する陳情を仲介していた実態が明らかになった。

 学園側も接触を認めた上で、鴻池氏に「入院見舞いとして商品券を渡そうとした」という。政治家の力を頼り、購入を有利に運ぼうとしたとみるのが自然だろう。

 財務省は国会で、売却の経緯について記録が残っていないと説明してきた。ならば学園の理事長ら当事者の話を聞くしかない。国会への参考人招致が不可欠だ。

 だが自民党は応じようとしていない。疑念の払拭(ふっしょく)へ、安倍晋三首相が指導力を発揮するべきだ。

 森友学園の籠池泰典(かごいけやすのり)理事長と鴻池氏側との交渉を記録した文書には、学園側が官僚や政治家への接近を図った経緯が記されていた。

 学園側は2013年から鴻池氏の事務所を訪問し、用地購入前の借地を主張。認可を得るため「政治力で早く結論が得られるようにしてほしい」と要望し、賃料や売却額の引き下げを求め続けた。

 結局、年間2730万円の賃料で賃貸契約が結ばれた。「土地評価額の2〜3%」という学園の希望に沿う額だ。売却額は評価額9億5600万円から86%減額され、1億3400万円となった。

 この間、14年春には籠池理事長らが鴻池氏の事務所を訪れ、紙包みを差し出したという。鴻池氏は「金かこんにゃくかは知らんが、投げ返した」と説明する。

 その経緯にはなお疑問も残る。鴻池氏に詳しい釈明を求めるとともに、ほかの政治家の関与はなかったか、国会で究明が必要だ。

 ところが菅義偉官房長官は、参考人招致について「違法性のない事案に関わる審査は慎重にやるべきだ」と消極姿勢を示した。

 一方、首相は政府としての調査に関し「会計検査院が審査する。それが最大限」と答えるにとどまった。究明への姿勢が見えない。

 しかしこの問題では、首相の妻昭恵さんが開設予定の小学校の名誉校長を務めていた経緯がある。

 首相は私人としての活動と説明するが、昭恵さんには政府の専属職員が付き、学園に招かれて講演した際も同行していたという。

 たとえ法的な問題は免れたとしても、道義的な責任を否定しきれるのだろうか。安倍政権として国民の疑問を解消してほしい。

 

(2017年3月4日配信『東奥日報』−「天地人」)

 

金属の輪をつないだり、外したりする手品がある。ニンジャリングとかチャイナリングと呼ぶ古典的な演目らしい。学生時代に寄席で見た。手品師から渡された輪を手に取って確認すると、切れ目はなかった

▼「種も仕掛けもございません」は手品師の常とう文句だが、言葉通りには受け取れない。目の錯覚を利用し、あるいは心理の裏を突いて、手品師は客に種を見破られないようにする。そのために相当な時間をかけて腕を磨いているのだ

▼悪意で人を欺くと犯罪。冷静に考えれば分かりそうなことなのに、詐欺犯は言葉巧みに金をだまし取る。悪知恵を働かせ、社会情勢を反映した手口も次々に出てくるから、始末が悪い

▼私立小学校を建設するとして大阪府の国有地を評価額より大幅に安く取得した学校法人も、さまざまな場面で人を信じ込ませてきたのではないか。断片的な事実が明らかになるにつれて、その思いを強くする

▼小学校の名称に首相の名前を入れて寄付を集めた。首相夫人の講演会を何度も開き、名誉校長に据えていた。それが信頼の根拠になり、政治家の口利きや、異例の用地取得と許認可を引き出したのではないか

▼国有地の取引や官庁と政治家の対応は公正で妥当だったのか、十分な検証が必要だ。手品師の磨き上げた技なら拍手を浴びるが、首相夫妻の名前を信頼の切り札に使う手法を看過すれば世間の批判を浴びる。

 

森友学園問題 政界との関係解明せよ(2017年3月4日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」が国有地を評価額より大幅に安く取得した問題で、学園の籠池泰典(かごいけやすのり)理事長が鴻池祥肇元防災担当相(参院兵庫県選挙区)の事務所に16回にわたって陳情を重ねていたことが分かった。鴻池氏も秘書も口利きを否定している。

 だが、鴻池事務所の面談記録からは、国が当初「購入のみ」としていた土地が賃借できるようになるなど、籠池氏の要望が次々と実現したように見える。記録には「上から政治力で早く結論が得られるようにお願いしたい」などの要請もある。

 土地の払い下げを担当した財務省近畿財務局が、鴻池事務所の介在を政治的圧力と感じたり、他の政治家が関与したりすることはなかったのか。政府が「適正」と繰り返す売買だが、疑惑はますます膨らんでいる。民進党は籠池氏らの参考人招致を求めており、国会は真相究明に努めるべきだ。

 面談による陳情は2013年8月から16年3月に及ぶ。小学校設立に当たり、財務局が当初は購入のみとしていた土地について、籠池氏は「7〜8年後の購入でもOKの方向」に変わったと説明。その上で「賃借料を『まけて』もらえるようお願いしたい」と陳情した。

 財務局の賃借決定には大阪府による小学校の設立認可が必要で、その設立認可には賃借決定が必要となったことを受け「ニワトリと卵の話。何とかしてや」と要望。鴻池氏側は財務局が「ニワトリと卵の話ですが、前向きにやっていきますから」と回答したとしている。

 その後も、賃借料や売却額を引き下げるよう具体額を示した要望があり、賃借料は学園の要望に近い年間2730万円に下がった。「15億円を7億〜8億円に」と希望した売却額(評価額)は9億5600万円になった。その後、地中からごみが出たため撤去費用を8億1900万円と見積もり、最終的に1億3400万円で売却された。

 籠池氏の要望に沿うように、国の側が次々と譲歩したように見え、あまりに不可解だ。籠池氏は小学校設置認可について、大阪府議に協力を求めていたことも判明している。国有地払い下げと学校設置を巡る一連の問題に関し、国会は関係者を招致するなどして全貌を明らかにする必要がある。

 小学校設置の陰で、政治力を頼りにするような交渉が行われていたとすれば、それは正義や平等を尊重すべき教育機関とは言えないだろう。

 学園が運営する幼稚園では、運動会の宣誓で園児に「安保法制、国会通過良かったです」「安倍首相頑張れ」などと言わせていた。教育基本法は政治的中立を定めており、これは明らかな逸脱だろう。大阪府の教育長は認可判断の先送りを検討する考えを示しており、教育内容が適切かどうかについても検証してもらいたい。

 

森友学園問題 売買交渉の全容示せ(2017年3月4日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

大阪市の学校法人「森友学園」への国有地の格安売却を巡り、自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相の事務所が学園側からの要望などを記録した「陳情整理報告書」が出てきた。2013年8月16年3月の両者の計16回にわたる面談内容が書き留めてあり、財務省近畿財務局などに要望を仲介して報告を受けていたこともうかがえる。学園側が豊中市の国有地取得を目指していた時期だ。「政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい」「何とかしてや」などと露骨な要望が並ぶ。鴻池氏はそのさなかの14年4月に森友学園の籠池泰典理事長と会ったことを認めたが、現金が入ったとみられる紙包みを渡されそうになり追い返したと説明した。

 財務省などへの働き掛けは否定。事務所も「要望を伝えただけ」としている。だが現に数々の要望はほぼかなえられ、不動産鑑定士の評価額9億5600万円から8億円余りも値引きするなど異例の売買が実現した。財務局の対応に影響しなかったか、籠池氏が頼りにした政治家は鴻池氏だけかと疑問は尽きない。

 安倍晋三首相は自民党内の調査に否定的で、会計検査院の検査に委ねるとしている。財務省も「政治家の関与は一切ない」と繰り返すが、説得力はない。まず国有地を保有していた国土交通省大阪航空局も含め、当時の担当者からの聞き取りにより売買交渉の全容を国民の前に示すべきだ。

 陳情整理報告書の記述が始まった13年8月は学園側が小学校用地として国有地取得に動きだしたころだ。「国有地借地を希望。近畿財務局より、学校の場合は購入のみと回答あり」とある。学園側は借地契約後の購入を目指し、10月に「上からの政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい。評価額を低くしてもらいたい」と求めた。14年1月になり「賃料と購入額で予算オーバー」と相談。15年1月、財務省から「土地評価額10億。10年間の定期借地で賃料年約4千万円」を提示されたとして「高すぎる。何とか働き掛けてほしい」と訴えている。

 その年5月には学園側の要望通り、近畿財務局との間で借地契約が結ばれ、賃料は年間2730万円だった。16年3月に校舎建設工事で地中からごみが見つかり、学園側は財務省側との面会設定を要望。報告書には、断ったとの記載がある。

 だが直後に籠池氏は財務省理財局幹部らと会い、3カ月後にごみの撤去費8億円余りを差し引いた1億3400万円で売買契約に至った。財務省は「この段階で売却価格の交渉などの話が生じることはない」と説明するが、とんとん拍子で話が進んだ感は否めない。

 しかも、ごみの撤去費を算定した大阪航空局は過去にそうした経験がなく、専門業者に委託しなかったのは小学校の開校予定が迫っていたからだという。学園側にとっては至れり尽くせりの対応と言っていいだろう。

 籠池氏は保守系政治家の間に幅広い人脈を持つといわれ、鴻池事務所の報告書からも分かるように、なりふり構わず自らの目的達成のために動き回っていた。小学校設置認可についても大阪府議に協力を求めていたとされる。安倍首相が繰り返し言及している会計検査院の検査では売却額が適正かは判断できても、政治家の関与を含めた全容解明は期待できない。

 

森友学園問題 「政治介入」の疑惑解明を(2017年3月4日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 疑惑は深まるばかりだ。政治家の不当な介入はなかったのか、政府自らが解明に努めるべきだ。

 大阪府豊中市の国有地を評価額より大幅に安く取得した「森友学園」の籠池泰典理事長が、政治家と活発に接触している実態が鮮明になってきた。

 自民党の鴻池祥肇元防災担当相にたびたび陳情していたほか、政治団体・大阪維新の会の大阪府議にも協力を求めていたことが分かったのである。両氏とも財務省などへの働き掛けを否定している。

 このうち、鴻池氏側とのやりとりは16回に上り、陳情を受けた国への仲介が9回あったという。

 注目したいのは、中には理事長側の陳情内容に沿うような国の対応がみられたことだ。

 売却された国有地は当初、学校建設としては異例の10年間の定期借地契約を締結していた。

 理事長側は鴻池氏の事務所に、国有地を借りて小学校を建設できるよう「政治力で早く結論を得られるようにしてほしい」などと陳情を繰り返した。

 さらに国の賃料の提示額が「高すぎる」と働き掛けを要請し、最終的には賃料が陳情内容に近い額となったのである。

 一方、大阪府議に対しての働き掛けは、学園が4月に開校予定の小学校の設置認可についてだ。

 大阪府の私立学校審議会(私学審)は、14年12月に小学校の認可を保留としていた。

 ところがその直後に理事長が府議を訪れて協力を依頼し、私学審は翌年1月の臨時会合で「認可適当」と答申したのである。

 府議は金銭の授受などを否定し、大阪維新代表の松井一郎大阪府知事も「政治家として普段の陳情」であり、問題はないとの認識を示した。

 しかし大阪維新は府議会最大勢力だ。小学校は2月まで安倍晋三首相の昭恵夫人が名誉校長を務めていた。政治力を利用しようとしたのは明らかではないか。

 籠池理事長は、憲法改正を主張する保守系団体「日本会議」のメンバーで、平沼赳夫元経済産業相ら保守系政治家と人脈を持つ。

 鴻池氏に面会した際には「お見舞いを兼ねて商品券を渡そうとした」が拒否されていたという。

 なりふり構わず政治家や官僚に接近する理事長の姿からは、ほかにも接触していた議員がいるのではと疑わざるを得ない。

 大阪の国有地は、地中のごみ撤去費用など8億円余りが差し引かれ、評価額のわずか14%の1億3400万円で売却された。

 ところが国が見積もったとする時期より約半年前に、財務省などが10億円以上の費用がかかると想定していたメモがあることも分かるなど、不可解な点が多い。

 野党は政治家の口利きや働き掛けがなかったか追及を進めるが、安倍首相は「会計検査院の審査に全面的に対応するのが、政府としてできる最大限だ」と、政府や自民党内の調査に消極的だ。

 国民の抱く疑問に答えるため、与党も理事長らの参考人招致に応じ、疑惑の解明を進める必要があるのではないか。

 

(2017年3月4日配信『新潟日報』−「日報抄」)

 

あの取材のころ、同僚カメラマンは関川村に通った。天気が落ち着かない年末だった。どうしても「あけぼの」を撮りたかった。夜を押しのける朝日を捉えた一枚は、戦後70年の元日紙面に載った

▼かつてそこに関谷学園があった。六・三制の礎であり、戦後教育の光だ。二度と戦雲を呼ぶまい。その志の一灯が県北の地に燃え、日本の各地へ広がった。国家再建の光と言っても言いすぎではない

▼百八十度の転換に子どもたちは目を丸くした。英字新聞に見とれ「これが世界、これが自由なんだ」と知った。写生のセンスを褒められた子は、80歳を過ぎても、うれしさを忘れない。「個性」が否定された戦中とはまるで違った

▼村出身の教育者佐藤仙一郎の苦悶(くもん)が学園を産み落とした。「愛国」の一色を刷り込んだ戦時を悔いた。そのため多彩な人材を全国から呼び、教師にした。一般科目を午前で終わらせ、漬物をつくり、夜空を観察する。何を学びたいか、子どもたちに選ばせる。そういう授業を地主が私財で支えた

▼「教育の成果は、子どもが自ら求める道を悟ったとき初めて実る」。その学園の気風が多様な個性を咲かせた。いまとなっては「せきたに」と呼んだのか「だに」と濁ったのか、判然としない。おぼろげになっているのが惜しい

▼大阪の学校法人が物議を醸している。戦前の教育勅語を暗唱させることで知られる。自由をはき違えたか。それとも関谷学園がともした自由と民主主義の火が弱まっているのか。気がかりだ。

 

森友学園問題 「政治家関与なし」本当か(2017年3月4日配信『福井新聞』−「社説」)

 

大阪市の学校法人「森友学園」の小学校用地に国有地が格安で売却された問題は、疑念が深まる一方だ。政治家への働き掛けが頻繁にあり、安倍晋三首相夫妻との関係も疑問視されている。本当に「政治家の関与は一切ない」(財務省)のか。関係者を国会招致し、不可解な取引の背景を含め全容を解明すべきだ。

 まずは売却額問題。8770平方メートルの敷地は不動産鑑定士の評価額で9億5600万円だが、売却額はわずか1億3400万円。財務省は減額分を地中にあるごみの撤去費と説明する。

 だが、どう算定したか、実際に撤去された量や経費も確認せず済ませている。学園が取得した用地の隣にある国有地9492平方メートルは10年に豊中市へ約14億円で売却された。今回の売買がいかに破格だったかだ。

 国有財産の随意契約について財務省は通達で原則、金額や用途を公表するとしている。しかし当初、学園側の意向で非公表にしていたのは看過できない。

 次に政治家への執拗(しつよう)な働き掛けである。自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相の事務所が学園側から繰り返し陳情を受けていた。その際作成した「陳情整理報告書」の内容が判明。面談でのやりとりは2013年8月16年3月まで16回、国との仲介を合わせ25回にも上っている。

 「上から政治力で早く結論が得られるようにお願いしたい」「土地評価額を低くしてもらいたい」「何とかしてや」などと露骨でなりふり構わぬ陳情攻勢だ。鴻池氏は14年4月に学園の籠池泰典理事長と会い、紙包みを渡されそうになったが、追い返したという。

 鴻池氏は財務省などへの働き掛けを否定するが、結果的に学園側の要望が次々実現した。14年には大阪府議会で最大勢力の大阪維新の会議員にも接触。府の私立学校審議会が小学校認可を保留した直後で、その後私学審は短期間のうちに臨時会合を開き「認可適当」と答申した。「問題ない」では済まされない。

 籠池氏は保守系政治家の間に幅広い人脈を持つとされる。中でも安倍首相との関係だ。昭恵夫人が開校予定の小学校の名誉校長に就任したり、講演依頼にも応じたりしているのは、あまりに無自覚ではないか。

 国会では、学園が運営する幼稚園の運動会で園児に「安倍首相がんばれ、安保法制国会通過よかったです」と宣誓させたり、首相の名前を使い寄付金を集めたりしたことも取り上げられた。どうみても、首相との関係を誇張し交渉を有利に進めようとしたとしか思われない。首相は自民党内の調査に否定的で、会計検査院の検査に委ねた。

 順調な政権運営の中で、突如降って湧いた「学園スキャンダル」だ。首相は野党の追及に声を荒らげては逃げを打つ姿勢が目立つ。自民党の石破茂元幹事長は自身の派閥総会で「野党に言われるまでもなく、政府・与党としてきちんと解明すべきものだ」と指摘した。与党内にさざ波が立ち始めたような気配である。

 

森友学園問題/売買交渉の全容を示せ(2017年3月4日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」への国有地の格安売却を巡り、自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相の事務所が学園側からの要望などを記録した「陳情整理報告書」が出てきた。2013年8月〜16年3月の計16回にわたる両者の面談内容が書き留めてあり、財務省近畿財務局などに要望を仲介して報告を受けていたこともうかがえる。

 学園側が豊中市の国有地取得を目指していた時期で、「政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい」「何とかしてや」などと露骨な要望が並ぶ。鴻池氏はそのさなかの14年4月に森友学園の籠池泰典理事長と会ったことを認めたが、現金が入ったとみられる紙包みを渡されそうになり追い返したと説明した。

 財務省などへの働き掛けは否定。事務所も「要望を伝えただけ」としている。だが現に数々の要望はほぼかなえられ、不動産鑑定士の評価額9億5600万円から8億円余りも値引きするなど異例の売買が実現した。財務局の対応に影響しなかったか、籠池氏が頼りにした政治家は鴻池氏だけかと疑問は尽きない。

 安倍晋三首相は自民党内の調査に否定的で、会計検査院の検査に委ねるとしている。財務省も「政治家の関与は一切ない」と繰り返すが、説得力はない。まず国有地を保有していた国土交通省大阪航空局も含め、当時の担当者から聞き取りをして売買交渉の全容を国民の前に示すべきだ。

 陳情整理報告書の記述が始まった13年8月は学園側が小学校用地として国有地取得に動きだしたころだ。「国有地借地を希望。近畿財務局より、学校の場合は購入のみと回答あり」とある。学園側は借地契約後の購入を目指し、10月に「上からの政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい。評価額を低くしてもらいたい」と求めた。

 14年1月になり「賃料と購入額で予算オーバー」と相談。15年1月、財務省から「土地評価額10億。10年間の定期借地で賃料年約4千万円」を提示されたとして「高すぎる。何とか働き掛けてほしい」と訴えている。

 その年5月には学園側の要望通り、近畿財務局との間で借地契約が結ばれ、賃料は年間2730万円だった。16年3月に校舎建設工事で地中からごみが見つかり、学園側は財務省側との面会設定を要望。報告書には、断ったとの記載がある。

 だが直後に籠池氏は財務省理財局幹部らと会い、3カ月後にごみの撤去費8億円余りを差し引いた1億3400万円で売買契約した。財務省は「この段階で売却価格の交渉などの話が生じることはない」とするが、とんとん拍子で話が進んだ感は否めない。

 しかも、ごみの撤去費を算定した大阪航空局は過去にそうした経験がなく、専門業者に委託しなかったのは小学校の開校予定が迫っていたからだという。学園側にとっては至れり尽くせりに思える。

 籠池氏は保守系政治家の間に幅広い人脈を持つといわれ、鴻池事務所の報告書からも分かるように、なりふり構わず自らの目的達成のために動き回っていた。小学校設置認可についても大阪府議に協力を求めていたとされる。会計検査院の検査だけでなく、政治家の関与の有無を含めた全容解明が待たれる。

 

森友学園  口利きの疑いが強まった(2017年3月4日配信『徳島新聞』−「社説」)

                                         

 「賃借料を『まけて』もらえるようお願いしたい」「上から政治力で早く結論が得られるようお願いしたい」

 鴻池祥肇元防災担当相の事務所が、学校法人「森友学園」の理事長や国とのやりとりを記した面談記録には、こんな生々しい発言が書かれていた。

 小学校開設を目指す森友学園が、大阪府豊中市の国有地を評価額より大幅に安く取得した背景に、政治家の口利きがあったのではないか。疑惑はますます深まった。

 鴻池氏側は国への不当な働き掛けを否定しているが、不透明な点は少なくない。他の政治家の介入がなかったのかも含め、自民党は徹底的に調査し、事実を解明すべきだ。

 面談記録によると、理事長とのやりとりは2013年8月から16年3月まで16回に上った。浮かび上がったのは、陳情した内容がほぼその通り実現していたことである。

 例えば、理事長は15年1月、財務省近畿財務局から提示された国有地の年約4千万円の賃借料が「高すぎる」とし、「何とか働き掛けてほしい」と求めている。当時、学園側は借地して小学校を建てようとしていた。

 その3カ月後、財務局が再鑑定した結果、賃借料は2730万円と、希望通りの額になった。財務省の局長は「学園側の地盤調査の報告書に基づき、軟弱地盤と判明したため」と説明しているが、適切な鑑定だったのかどうか。

 理事長は、小学校の設置認可についても陳情していた。大阪府の私立学校審議会は14年12月、学園の財務状況への懸念から結論を見送ったが、15年1月に条件付きで「認可適当」とした。そこに政治介入はなかったのか。

 鴻池氏は、14年4月に陳情に訪れた理事長夫妻が現金入りとみられる紙包みを手渡そうとしたので、投げ返したと述べた。公正であるべき行政を政治の力でねじ曲げようとしたのだとすれば、教育者としてあるまじき行為だ。

 府の教育長が設置認可の先送りに言及したのは当然だろう。入・転学を予定する児童が困らないよう、速やかに結論を出してもらいたい。

 面談記録は16年3月で終わっているが、土中のごみの撤去費用を国が8億円余と見積もり、差し引いた土地の売却額が1億3400万円となったのは、その後のことだ。

 巨額の撤去費用など、国の対応には不可解な点が多すぎる。鴻池氏以外に、関わった政治家がいるのではという疑問が湧くのは自然だ。

 財務省は学園側との交渉記録を廃棄したというが、それを理由に隠蔽することは許されない。

 調査の先頭に立つべきなのは、安倍晋三首相だろう。先月まで昭恵夫人が新小学校の名誉校長となり、「安倍晋三記念小学校」名で建設費用の募金も行われていた。

 政治と行政の信用が厳しく問われているのを、首相は忘れないでほしい。

 

(2017年3月4日配信『徳島新聞』−「潮流」)

 

論語読みの論語知らず。日々明らかになるのは、教育勅語読みの教育勅語知らず。勅語を信奉する人にはそう映っているのではないか。国有地を格安で手にした大阪市の学校法人「森友学園」を巡る問題である

 適当かどうか別にして、勅語を幼児に暗唱させる教育で知られる。戦中、国民学校に通った人はご存じと思うが、その一節。「智能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ…」。懸命に勉強して、知識や才能を伸ばし、徳を養いなさい…

 自民党の鴻池祥肇元防災担当相によると、学園理事長は陳情の際、「こんにゃくか、金かは知らん」紙包みを、手渡そうとしたことがあったという。「こんにゃく」は100万円の札束の隠語でもある。事務所の面談記録を見ると、学校用地の取得に絡み、学園側が「政治力」を頼みにしていたと考えるほかはない

 教育勅語は、世のために力を尽くせ、憲法を重んじ法を守ろう、危機あれば国に奉仕し天皇制を支えよ、と続く。学園側の態度は勅語が掲げる「臣民」の徳目にかなっているといえるだろうか

 「教育者としていかがなものか」。安倍晋三首相も突き放した。そもそも、ごみが埋まったままでは、子どもの健康が危うい

 8億円値引きの真相も、一緒に地中に眠らせたまま、小学校は予定通りに開校します、では。瑞穂の国で、そんな理屈は通らない。

 

「森友学園」疑惑 「政治力」は関与したのか(2017年3月4日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 学校法人「森友学園」(大阪市)が大阪府の国有地を評価額より大幅に安く取得した問題で学園側と政治家の接触が明らかになった。小学校用地の格安取得に政治は関与したのか。政治家の口利きや働き掛けはなかったのか。国会で徹底的に究明すべきだ。

 接触していたのは自民党参院議員の鴻池祥肇(こうのいけよしただ)元防災担当相だ。交渉経過を記録した文書によると、やりとりは2013年8月から16年3月まで16回に及ぶ。鴻池氏の事務所は国に9回も仲介した。

 14年4月には鴻池氏本人が学園の籠池(かごいけ)泰典理事長夫妻と直接面会した。その際、現金入りの可能性もある紙包みを渡されたが、中身を確認しないまま「無礼者」と言って投げ返したという。

 籠池氏の代理人を務める弁護士は「(鴻池氏が)入院したと聞き、お見舞いとして商品券を儀礼の範囲で準備したが、受け取ってもらえなかった」としている。鴻池氏の事務所は財務省近畿財務局に籠池氏を仲介したという。

 森友学園の動きを記録した文書には、学園側の要望が「政治力で早く結論を得られるようにしてほしい」「売却予定額を7億〜8億円に」とエスカレートしていく様子が生々しく記載されている。

 鴻池氏側は口利きを否定するが、少なくとも学園側が「政治力」に期待して国会議員に陳情を重ねていた事実は分かった。国会議員の事務所から仲介された官庁が忖度(そんたく)して陳情の趣旨を受け入れることはなかったのか。他にも政治家やその事務所が関与していなかったのか。疑惑は次々に浮かぶ。

 安倍晋三首相は「独立した会計検査院がしっかり審査すべきだ」と述べるにとどまり、政治家も含めた本格的な調査には及び腰だ。会計検査院は確かに内閣から独立した憲法上の機関だが、税金の無駄遣いをチェックするのが仕事である。政治家の口利きなど政官癒着の有無を調べるとすれば、ここは国会の出番だろう。

 野党は籠池氏ら6人の参考人招致を要求している。疑惑解明へ国会こそ動くべきだ。

 

森友学園問題 国会招致で全容の解明を(2017年3月4日配信『熊本日新聞』−「社説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」に国有地が格安で払い下げられた問題を巡り、小学校開設を目指す学園の籠池泰典理事長が、自民党の鴻池祥肇元防災担当相側に陳情を繰り返していたことが明らかになった。陳情内容に沿うような国の対応もみられ、疑惑はさらに深まったと言えよう。

 鴻池事務所が作成した「陳情整理報告書」によれば、籠池氏とのやりとりは2013年8月から16年3月まで16回に上る。「土地貸借には大阪府による小学校の認可が必要で、認可には(近畿財務局の)土地貸借決定が必要。何とかしてや」「政治力で早く結論を得られるようにしてほしい。評価額を低くして」などと、陳情攻勢の生々しい実態が記録されている。

 森友学園側が政治家や官僚になりふり構わず接近していたことは明白だ。鴻池氏自身は財務省などへ働き掛けたことはないと否定したが、事務所は籠池氏と国を9回仲介していた。籠池氏を鴻池事務所に引き合わせたのは、鴻池氏の元秘書の兵庫県議だったことも分かった。

 政治圧力と受け取った官僚が政治家の意を酌む形で交渉を進めたのではないのか。他の政治家による口利きや働き掛けはなかったのか。徹底的な解明が必要だ。

 森友学園への国有地払い下げを巡る疑惑は、不透明な土地の売却過程にある。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円だったのに、売却額は1億3400万円。財務省は減額した8億円余りは地中にあるごみの撤去費と説明するが、その算定の根拠ははっきりしない。実際に撤去された量も確認していないという。

 算定は国有地を保有していた国土交通省大阪航空局の見積もりを基に行われたが、直接ごみを確認しておらず、工事業者からの聞き取りで敷地全体のごみの量をはじきだしたという。さらに原則公表の売却額を非公表にしたり、売買を前に賃料が安い長期の借地契約を結んだりと異例の対応が目立つ。学園側との交渉記録などが廃棄されたというのも問題だ。

 国民の共有財産である国有地がどのように売買されたのか、納得できる説明がなされていない。学園や財務省などで売買に関わった関係者を国会に招致し、その経緯を明らかにするべきだ。

 払い下げられた土地に建設中の小学校の名誉校長は2月まで安倍晋三首相の昭恵夫人だった。国会では森友学園が首相の名前を使い寄付金を集めていたことも取り上げられた。首相は「名前を勝手に使われ、抗議した」と答弁したが、脇の甘さは否めない。

 首相の対応も誠実さに欠ける。野党が要望する政府や自民党内での調査には「会計検査院の審査に全面的に対応するのが、政府としてできる最大限だ」と述べ、まるで人ごとのようだ。会計検査院は売却額が適正かは判断できても、政治家の関与を含めた全容解明は期待できない。首相は事の重大性を自覚し、自らが先頭に立って疑惑解明に努めるべきではないか。

 

森友学園問題(2017年3月4日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆首相は売買交渉の全容示せ◆

 大阪市の学校法人「森友学園」への国有地の格安売却を巡り、自民党参院議員の鴻池祥肇(こうのいけ・よしただ)元防災担当相の事務所が学園側からの要望などを記録した「陳情整理報告書」が出てきた。2013年8月〜16年3月の計16回にわたる面談内容が書き留めてあり、財務省近畿財務局などに要望を仲介して報告を受けていたこともうかがえる。

 学園側が豊中市の国有地取得を目指していた時期だ。「政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい」「何とかしてや」などと露骨な要望が並ぶ。

要望をほぼかなえる

 鴻池氏はそのさなかの14年4月に森友学園の籠池(かごいけ)泰典理事長と会ったことを認めたが、財務省などへの働き掛けは否定。事務所も「要望を伝えただけ」としている。だが数々の要望はほぼかなえられ、異例の売買が実現した。財務局の対応に影響しなかったか、籠池氏が頼りにした政治家は鴻池氏だけかと疑問は尽きない。

 安倍晋三首相は自民党内の調査に否定的で、会計検査院の検査に委ねるとしている。財務省も「政治家の関与は一切ない」と繰り返すが、説得力はない。まず国有地を保有していた国土交通省大阪航空局も含め、当時の担当者からの聞き取りにより売買交渉の全容を国民の前に示すべきだ。

 報告書の記述が始まった13年8月は、学園側が小学校用地として国有地取得に動きだしたころだ。「国有地借地を希望。近畿財務局より、学校の場合は購入のみと回答あり」とある。学園側は借地契約後の購入を目指し、10月に「上からの政治力で早く結論を得られるようにお願いしたい。評価額を低くしてもらいたい」と求めた。

 14年1月になり「賃料と購入額で予算オーバー」と相談。15年1月、財務省から「土地評価額10億。10年間の定期借地で賃料年約4千万円」を提示されたとして「高すぎる。何とか働き掛けてほしい」と訴えている。

政治家に幅広い人脈

 その年5月には学園側の要望通り、近畿財務局との間で借地契約が結ばれた。賃料は年間2730万円。16年3月に校舎建設工事で地中からごみが見つかり、学園側は財務省側との面会設定を要望。報告書には、断ったとの記載がある。だが直後に籠池氏は財務省理財局幹部らと会い、ごみ撤去費8億円余りを差し引いた1億3400万円で売買契約に至った。

 とんとん拍子で話が進んだ感は否めない。しかも、ごみ撤去費を算定した大阪航空局は過去にそうした経験がなく、専門業者に委託しなかったのは開校予定が迫っていたからだという。学園側にとっては至れり尽くせりの対応だ。

 籠池氏は保守系政治家の間に幅広い人脈を持つといわれ、小学校設置認可についても大阪府議に協力を求めたとされる。首相が言及する会計検査院の検査では売却額の判断はできても、政治家の関与を含めた全容解明は期待できない。

 

[森友学園問題] 異例手続きの全容示せ(2017年3月4日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 疑念は晴れるどころか深まるばかりである。国民共有の財産である国有地が格安で売却された問題に政治家の関与はあったのか。国会は関係者を招致し、解明を急ぐべきだ。

 学校法人「森友学園」(大阪市)の籠池泰典理事長が国有地取得を巡り、自民党の鴻池祥肇元防災担当相側に陳情を繰り返していたことがわかった。

 鴻池事務所が作った「陳情整理報告書」によると、やりとりは国との仲介を含めて25回に上る。

 鴻池氏は理事長から現金が入ったとみられる紙包みを出され、拒否したと説明した。

 政治家の力を利用しようとする学園側の思惑は鮮明だ。

 売却交渉に当たる財務省近畿財務局などに政治家の不当な圧力が働いたとすれば、大問題である。

 報告書によると、大阪府の国有地が売りに出された約2カ月後の2013年8月、籠池氏側は鴻池氏の事務所に「国有地を借りて小学校を設立したい」と相談した。

 その後、「政治力で早く結論を得られるようにして」「土地価格の評価額を低くしてほしい」など露骨な依頼を重ねている。

 問題は、学園側の要望に添うように交渉が進んでいることだ。

 例えば、15年1月に籠池氏側は「賃料の提示額が高すぎる。何とか働きかけを」と要請した。同年5月に学園と近畿財務局が交わした「貸付合意書」では、陳情内容に近い賃料に下がっている。

 事務所は「要望を伝えただけ」とし、財務省も「政治家の関与は一切ない」と影響を否定する。

 近畿財務局と学園側との交渉や面会の記録は廃棄され、残っていないという。あらためて担当職員から聞き取りを行い、全容を明らかにする必要がある。

 不可解な状況はほかにもある。地中から見つかったごみの撤去費用を、一度も算定経験のない国土交通省大阪航空局が見積もったことだ。大阪府の私立学校審議会は、小学校が設置認可の審査基準を満たしていない状態で「認可適当」と判断していた。

 学園側は大阪府議にも設置認可への協力を求めている。異例づくめの手続きの背景に何があったのか。明らかにされなければならない。

 民進党は籠池理事長らの参考人招致を要求している。

 一方、安倍晋三首相は会計検査院の検査に委ねるとし、自民党内の調査にも否定的だ。だが、それでは国民は納得するまい。

 首相が自身や昭恵夫人の関わりを否定するなら、真相解明を主導してはどうか。

 

共産党への怒りなかった鴻池氏の不思議(2017年3月4日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★共産党書記局長・小池晃は1日の参院予算委で、国有地の売却交渉をめぐり、学園側が自民党国会議員の事務所に接触していた面談記録を入手して首相・安倍晋三に質問した。首相は「どんなメモなのかもわからない」と怪文書扱いしたが、同日夜、元防災相・自民党参院議員・鴻池祥肇が会見。事実上、鴻池事務所のものと認めた。また翌2日、小池も面談記録は、鴻池のものだと明らかにした。

★鴻池は自民党タカ派ともいわれ、元都知事・石原慎太郎や副総理兼財務相・麻生太郎が首相時代に官邸で官房副長官を務めるなど麻生側近ともいわれる。また、与野党に限らず筋の通らないことは厳しく糾弾するなど、昔かたぎの党人派議員といえる。07年6月、安倍内閣が国会での国家公務員法改正案成立のため、会期延長し、参院選の日程をずらしたが、鴻池は官邸スタッフに対し「苦労知らずの『仲良し官邸団』の諸君よ。参院は官邸の下請けと違うんやで」と批判。また08年の参院予算委員長の時、国交副大臣・松島みどりの答弁が長く、制止しても聞かないため、委員会出入り禁止処分にしたこともある。

★不思議なのは鴻池が即座に会見したものの、なぜ、自分の事務所の面談記録が共産党の小池の手に渡ったのかという疑問や怒りが一言もなかったことだ。その解説を民進党元財務副大臣・桜井充が2日、「誤解のないように」とのタイトルがつけられたメルマガで絵解きした。それによれば「鴻池氏自身が『学校法人の認可をおろさせたくないので、共産党に情報を提供した』とし『鴻池氏は実直で、礼節を重んじる方だ。思想は近いかもしれないが人間的に問題があって許せなかったために、このような行動に出たのだと思う。鴻池氏が体を張って情報を提供してくださった』」と解説した。参院独特の連帯感や信頼関係からくるものなのか。興味深い。

 

こんにゃく問答(2017年3月3日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

大分県に伝わる民話に「薪(たきぎ)買い」がある。通りかかった商人に薪を求めた庄屋の吉四六(きっちょむ)は、薪を出っ張った根元の方から家に入れるよう指示する

▼商人が100文の値をつけると、吉四六は「1文に負けろ」と引かない。怒った商人は薪を持ち帰るが、狭い門にぶつかり、そぎ落とされた根元のかけらが残る。吉四六は、ただで燃料ができたと言って喜ぶ―

▼まさか吉四六のように相手を出し抜こうと考えたのではなかろう。10億円近い国有地が8億円以上も“値引き”されるとしたら、何かあると考える方が自然だ。学校法人「森友学園」に大阪府豊中市の小学校用地が格安で売却された問題である

▼やはりというべきか。学園側が値下げを政治家側に陳情していた。かねてから秘書が接触していたとされる鴻池祥肇元防災担当相は、紙包みを渡されそうになり、「それがカネか、こんにゃくだったか…。知らんが、投げ返した」

▼政治献金をしているのだから、力になってくれるはず。学園側はそう期待していたのだろう。鴻池氏とは、とんちんかんな「こんにゃく問答」で終わったようだが、真相はどうだったか

▼「安倍首相がんばれ」と子どもに連呼させる学園の教育。学園の小学校が認可基準を満たしていないのに「認可適当」と判断していた私学審議会の適当さ。春がもう間近というのに、うすら寒さとつかみどころのなさばかりが募る。

 

大阪・森友学園問題/政治介入の疑念 徹底解明を(2017年3月3日配信『河北新報』−「社説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」が国有地を取得した経緯は不可解極まりない。

 大阪府豊中市の評価額9億5600万円の国有地(8770平方メートル)が1億3400万円で学園に売却されたが、値引き率86%という超格安の取引だった。

 ごみ撤去費用を差し引いたからだが、その算定根拠がはっきりしないばかりか、学園や財務省と政治家側との接触も浮かび上がってきた。

 問題への関わりは否定しているものの、自民党参院議員の鴻池祥肇(よしただ)・元防災担当相が3年前、議員会館で学園の籠池泰典理事長と会っていた。鴻池氏の事務所に対し、売却を担当した財務省近畿財務局が経過を報告していたという指摘もされている。

 財務省は政治家側から接触してきた可能性を否定しておらず、今後の調査によっては政治家らの仲介や働き掛けが明るみに出る事態もあり得るだろう。いずれの政治家にせよ、不当に関与していたら重大問題。国会の場で追及し真相解明を進めるべきだ。

 この国有地を巡っては2015年、国と学園の間で貸し付けと売買予約の契約が結ばれたが、翌16年に地中からごみが見つかり、値引きされて売却された。

 値引きの根拠となったごみ撤去費用は8億1900万円。算定したのは国有地を管理していた国土交通省大阪航空局だが、どこに調査を頼んで額を決めたのだろうか。それとも独自に計算したのだろうか。常識的には、専門業者がごみの量や撤去方法などを検討して見積もると思われるが、いまだにはっきりしない。

 さらに学園が必ず支出することも確認しなければならないはず。仮に実際の撤去費用が下回っていたら、不当な取引になりかねない。ごみ交じりの土砂を「敷地内に埋め戻した」という業者の指摘がある以上、工事内容を詳しくチェックしなければならない。

 財務省が売買交渉記録を廃棄したのも理解に苦しむ。会計検査院が検査することになったが、文書だけに頼らず、当事者から詳しく聞いて事実確認する必要がある。

 国有地問題とは別だが、開設予定の小学校に一時、「安倍晋三記念」という冠が付いていたことに加え、首相夫人が「名誉校長」だったこともあって、国会で追及される事態になっている。

 学園の独特の教育方針にはあぜんとするしかない。運営する幼稚園の園児に「教育勅語」を暗唱させ、運動会での選手の宣誓は「安倍首相頑張れ」だったという。明治から戦前までの価値観を信奉しているばかりか、あたかも政治的権力者を「個人崇拝」するかのような様相だ。

 民族差別的な表現の文書を保護者に配り、大阪府が問題視したこともある。教育の場には最もふさわしくない「排除」の論理に行き着くような危うさを感じてしまう。

 

森友学園問題 政府自ら解明すべきだ(2017年3月3日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地払い下げは、疑惑が深まっている。

 不当な働き掛けがなかったか、事実関係を徹底解明しなくてはならない。政府、自民党は売却に関わった職員や、所属議員を調査すべきだ。

 大阪市の学校法人、森友学園が昨年6月、評価額9億5600万円の土地を1億3400万円で購入した問題である。地中のごみ撤去費用などとして8億円余りを差し引いた額だ。購入前には貸し付け契約を結んでいた。

 新たな事実が判明している。学園の理事長夫妻が陳情のため2014年4月に自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相と面会し、現金入りの可能性がある紙包みを渡そうとしていた。鴻池氏は「無礼者と言って投げ返した」という。

 面会について鴻池氏は、国有地問題が狙いだったとの見方を示している。他の議員にも同様の働き掛けがあったのではないか。当然浮かぶ疑問である。

 共産党の小池晃書記局長は、鴻池氏の事務所の面談記録を入手したとして国会で追及している。記録によると、13年8月に理事長が国有地の借地とその後の購入の希望を伝えた。

 13年10月には「上からの政治力で早く結論を得られるようお願いしたい」、15年1月には「賃料年4%、約4千万円の提示あり。高すぎる。22・3%を想定。何とか働き掛けをしてほしい」などの記述があるという。契約では賃料が2730万円だった。

 近畿財務局が複数回、鴻池氏側に経過を報告していたとの記録も明らかにした。真偽をはっきりさせなくてはならない。

 財務省は、交渉や面会の記録を省の規則に基づき廃棄したとしている。鴻池氏側への経過報告の記録について事実関係を「個別の職員に確認していない」とする。

 納得できない。記録が残っていないなら職員から経緯を詳しく聞き取り、公表するべきだ。

 安倍晋三首相は「会計検査院の審査に全面的に対応するのが、政府としてできる最大限だ」と調査に否定的な考えを示している。自民党議員についても、関与が判明すれば「本人に説明責任を果たさせる」と述べるにとどまる。

 ごみ撤去費用の見積もりは過去に経験のない大阪航空局が行っていた。小学校の開校が迫っていたためだと説明している。便宜を図るかの対応ではないか。国民の財産を巡り、不自然な点が次々と明らかになっている。検査院とは別に政府自ら解明する責任がある。

 

(2017年3月3日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

落語の「こんにゃく問答」は上州安中の古寺が舞台。住職になりすましたこんにゃく屋の六兵衛と、旅の僧が禅問答を交わす。珍妙なやりとりが滑稽だ。転じて、とんちんかんな問答を表現するようになった

   ◆

もどかしさが募っていた。大阪の森友学園への国有地売却を巡る国会論議だ。野党の追及には事実の決定打が乏しい。財務省は学園との交渉記録を既に廃棄している。質疑がかみ合わず核心が遠ざかる…と懸念していたら「こんにゃく証言」が飛び出した

   ◆

「おばはんが泣いて出しよった。こんにゃくでしたというなら、そうかなと思わざるを得ない」。自民党参院議員の鴻池祥肇氏が明らかにした。3年前、学園の理事長夫妻が来訪。夫人が紙包みを差し出した。鴻池氏は現金の束を意味する「こんにゃく」と直感し突き返したという

   ◆

厚みを指で「これくらいやろな」と示したが、口利きは強く否定している。共産党の小池晃書記局長は予算委で鴻池事務所の面談記録を示して追及。政府や自民党内の調査を要求した。核心は政治家の関与の有無だ。だが安倍晋三首相に応じる姿勢がない

   ◆

ないものを証明する「悪魔の証明」を求められてもできない―。首相の理屈だろうが、なぜ「ない」という前提に立てるのか。ここは虚心坦懐、政府も事実の調査を尽くすべきだ。国会答弁がこんにゃく問答になれば、滑稽さを通り越す。

 

森友学園 政治家の関与、解明を(2017年3月3日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 政治家の関与が疑われる以上、すみやかに関係者を国会に招致し、不自然な取引の背景を徹底して調べる必要がある。

 学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却問題にからみ、新たな証言が出た。

 自民党の鴻池祥肇(こうのいけよしただ)・参院議員が14年春、議員会館事務所を訪れた学園の理事長夫婦から「紙に入ったもの」を差し出され、「これでお願いします」と言われたという。鴻池氏は受け取らず、中身も見なかったと話す。

 学園は当時、大阪府豊中市の国有地に小学校を設置する計画を進めており、国有地の賃借や取得を目指していた。紙の中身はわからない。だが、学園側が政治家に便宜を図ってもらおうとしたと考えるのが自然だ。

 理事長には詳細を明らかにする責任がある。事実なら教育者としての資質も問われる話だ。

 朝日新聞が入手した鴻池氏側作成の「陳情整理報告書」によると理事長や国との接触は2年半で25回あり、「賃借料をまけてもらえるようお願いしたい」などの要求も示されている。鴻池氏の地元秘書は理事長と国を仲介したことを認めている。

 注目すべきは、取引が大筋、報告書にある依頼に沿って進んだことだ。

 学園は当初、国有地を一定期間借りた上で購入する予定だった。しかし、財務省は府の認可方針が必要だと主張し、府は財務省の「確約」を求めた。

 報告書には理事長の言葉として「鶏と卵の話。なんとかしてや」と書かれている。

 実際、府私学審議会は15年1月、「認可適当」の答申を出し、翌月、国有財産近畿地方審議会が定期借地契約を「了承」した。府私学審議会の会長は「認可適当を出さないと国有財産の審議会が動かないこともあり、事務局同士が協議した」と取材に答えている。

 小学校開設という結論ありきで物事が進み、中立公正であるべき審議会の議論がゆがめられた可能性はないのか。財務省と府はさらなる調査をすべきだ。

 他の政治家の関与も焦点だ。財務省は交渉記録を廃棄したというが、記録がないなら、職員への聞き取りを進めるべきだ。

 理解できないのは安倍首相の対応である。きのうの国会では「会計検査院がしっかり審査すべきだ。政府としてできることはそれが最大限だ」とまるでひとごとのようだ。

 自ら疑惑の解明に指導力を発揮すべきだ。問われているのは、国民の共有財産である国有地が格安で売却されたのではないかという重大な疑惑だ。

 

森友学園 教育機関と言えるのか(2017年3月3日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 果たして教育機関を名乗る資格があるのか。学校法人「森友学園」の実態が明らかになるにつれて疑念が深まる。

 学園が運営する幼稚園の運動会で「安倍(晋三)首相がんばれ。安保法制、国会通過よかったです」などと園児に選手宣誓をさせていた。この映像を見て異様さを感じた人は少なくないはずだ。

 教育基本法は思想が偏らないよう教育の政治的中立を求めている。園児にこうした宣誓をさせることが法を逸脱しているのは明らかだ。

 政治について理解する力が身についていない幼児に、大人の思想を押しつけるのは教育ではなく、まさに洗脳である。

 子供の健全な成長に影響を及ぼしかねない深刻な事態だと受け止めなければならない。

 この幼稚園は教育勅語を園児に暗唱させており、新設予定の小学校でも素読させるとしている。

 明治憲法下の教育理念である教育勅語は忠君と国家への奉仕を求めていた。1948年、「基本的人権を損ない、国際信義に対して疑いを残す」などと衆参両院で排除と失効確認が決議された。公式決議の意味は重く、教育現場での暗唱はふさわしくないはずだ。

 強引に戦前回帰を進めようとする籠池(かごいけ)泰典理事長らの姿勢は時代錯誤と言わざるを得ない。

 学園を監督する大阪府は、教育基本法の趣旨を踏まえた教育内容に改めるよう指導を徹底すべきだ。

 教育以前の問題も相次いでいる。職員に「犬臭い」と非難されるなどの嫌がらせを受けたとして元園児の保護者が損害賠償訴訟を起こした。「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」という差別表現のある文書を保護者に配り、府が事情を聴いたことも明らかになっている。

 学園は4月の小学校開校を予定しており、大阪府の審議会が認可を検討してきた。しかし、申請時から学園の財政状況や教育内容を不安視する意見が多く、「思想教育のよう」と懸念を示した委員もいる。

 大阪府が認可を延期する方向で検討に入ったのは当然だ。学園を巡る疑念を拭い去ることができない限り、認可はすべきではないだろう。

 学園の国有地取得を巡っては政治家に口利きを依頼していた疑いも浮上した。自民党参院議員の鴻池祥肇元防災担当相が理事長夫妻と面談していたことを明らかにした。

 鴻池氏本人は財務省や国土交通省への働きかけを否定している。しかし売却の経緯に不可解な点が多く、国民の関心も極めて高い。安倍内閣として厳格に真相を究明するよう改めて求める。

 

森友学園問題  深い闇を徹底解明せよ(2017年3月3日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 政治家の口添えで国民の財産が破格で払い下げられたのでは−。そんな疑念が膨らむばかりだ。

 大阪の学校法人・森友学園が、小学校建設用地として豊中市内の国有地を安価に取得した問題で、籠池泰典理事長が自民党の鴻池祥肇元防災担当相に土地を安くするよう繰り返し働き掛けていたことが判明した。籠池氏は議員会館を訪ねて「紙包み」を渡そうとした。過去には政治献金もしている。

 国会で明らかになった鴻池事務所の面談記録には生々しいやりとりが残る。4年前には近畿財務局と大阪航空局の職員を伴って現地視察した籠池氏が「上から政治力で早く結論が得られるよう」「土地価格の評価額を低くしてほしい」と鴻池氏側に訴えたという。

 面談記録によると、財務局は売却価格を当初15億円と予定していた。それがなぜ森友側の希望(7億〜8億円)に近い9億5600万円という評価額になったのか。

 大阪航空局が、専門家に委託せず、ごみ撤去費を独自に約8億円と算定したのも不自然だ。売却額を下げるために過大に見積もったのなら違法な利益供与である。安倍晋三首相も財務省も鴻池氏の秘書も「政治家による不当な働き掛けは一切なかった」と口をそろえるが、どうして信じられよう。

 森友学園が運営する幼稚園では教育勅語を暗唱させ、運動会で園児に「安倍首相がんばれ」と呼び掛けさせている。時代錯誤であるばかりか、教育基本法が禁じる「政治的活動」に他なるまい。

 その学園が新設を目指す小学校の名誉校長に、安倍首相の妻昭恵氏が名を連ねていた。その経緯についての首相の釈明は、籠池氏の説明とは食い違う。

 大阪府の動きもおかしい。借入金で小学校を新設したいという森友側の求めに沿う形で府は設置基準を改正した。当時の知事は安倍首相と懇意の橋下徹氏である。

 府の私立学校審議会はその後、条件付きで「認可適当」と答申、今春開学を目指して工事が進む。しかし、土中のごみが本当に処理されたのか疑わしく、松井一郎知事は「子どもの健康に配慮」して認可延期を検討すると表明した。不認可こそ相当ではないか。

 安倍礼賛を錦の御旗にした支持団体と政、官の3者ぐるみで不正が行われていたのなら、闇はあまりに深い。会計検査院に売却価格の適否を調査させて幕引き−では不十分だ。籠池氏の国会招致は当然として、党派を超えて国会は真相の徹底究明に動くべきだ。

 

森友学園/疑惑究明へ参考人招致を(2017年3月3日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」の国有地取得問題で、学園の籠池泰典理事長が国との交渉を巡って政治家に陳情していたことが明らかになった。多くの国民がやっぱりと思ったに違いない。

 土地の払い下げの経緯に加え、政府が売却額を当初不開示としていたこと、契約の締結直後に早々と資料を処分していたことなど、不自然な点が多すぎるからだ。

 安倍晋三首相はこれまで「政治家の不当な働き掛けはなかったと報告を受けている」と繰り返してきた。昨日も政府や自民党の内部調査に否定的な見解を示した。これでは疑惑は深まるばかりだ。

 政府、与党は関係省庁の調査を進め、籠池理事長らを国会に参考人招致し、真相解明に努めるべきだ。

 理事長が陳情したのは自民党の鴻池祥肇(よしただ)元防災担当相(参院兵庫選挙区)で、野党が国会質問で指摘したのを受け、本人が会見で認めた。

 2014年4月には理事長が議員会館を訪れ、現金が入っていた可能性がある紙包みを直接、手渡そうとしたという。理事長側は「お見舞いを兼ねて商品券を渡そうとした」と説明しているが、鴻池氏は「確かめていないが、一瞬で金と分かった。無礼者と言って投げ返した」と話している。

 さらに鴻池氏は学園側から20万円の献金を受けていたとして、返却することを明らかにした。

 国会質問で示された事務所の面談記録には、理事長の要請として「上からの政治力で早く結論を得られるようお願いしたい」などの記述がある。理事長が国との交渉で、鴻池氏の政治力を利用しようとしたとみるのが自然ではないか。

 鴻池氏は国への働き掛けは否定しているが、秘書らが国とやりとりを重ねた記述もある。理事長が同様の陳情を他の議員にしていたことも考えられる。財務省幹部も参院予算委で、政治家の接触について「そういう可能性はある」と認めている。

 不自然な国有地売買の裏に政治家が介在したのであれば、国民の政治不信は高まるだろう。曖昧な幕引きは許されない。

 この問題では首相の妻と学園の付き合いが取りざたされるせいか、首相の感情的な答弁が目に付く。冷静に対処し、国民の疑問に答えるために指導力を発揮してもらいたい。

 

国有地問題で国会追及(2017年3月3日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

立証責任は首相側にある

 大阪府豊中市の国有地払い下げの問題で、国会が連日紛糾している。学校法人「森友学園」が小学校建設用地を安く購入できるように、政治家に働きかけをした疑惑が新たに浮上した。政府、与党は自ら解明に乗り出さないと国民の不信感は高まる一方だ。

 国は昨年6月、豊中市の国有地8770平方メートルを1億3400万円で森友学園に売却した。不動産鑑定の評価額は9億5600万円だったが、地中のごみ撤去を名目に8億円以上値引きしている。ごみの一部が敷地内に埋め戻されたとの証言があり、8億円を値引きした根拠が問われている。

 疑惑が大きく動き出したのが、自民党の鴻池祥肇(よしただ)参院議員が1日に行った記者会見だ。森友学園の籠池(かごいけ)泰典理事長が2014年4月、妻とともに議員会館を訪ね、現金が入っていたとみられる紙の包みを渡そうとしたことを明らかにした。鴻池議員は国有地評価額の引き下げの依頼であると受け止め、「無礼者」と現金を投げ返し、要請は断ったという。

 国有地が実際に8億円以上値引きされたことを考えれば、学園側がほかの政治家とも接触し、関係省庁に働きかけた可能性は十分にあると考えるべきではないか。

 これまでの国会審議を見ると、官僚たちの説明責任の放棄ぶりははなはだしい。問題の大きさをどれだけ自覚しているのか。売却交渉記録の開示請求にも「交渉が終わったので廃棄した」の一点張りだ。これが隠蔽(いんぺい)でないのなら、国の文書管理のルールは甘すぎるし、すぐに見直すべきだろう。

 国会で答弁しているのは後任の官僚たちだが、彼らが説明できないのは明らかだ。与党は拒否の姿勢を続けているが、財務省や国交省の当時の担当者や、森友学園の籠池理事長の参考人招致は必要だ。彼らから直接話を聞かなければ、真相には近づけない。

 安倍晋三首相は2日の参院予算委で、会計検査院の調査に協力するものの、総理総裁の立場から関係省庁や自民党所属議員の調査を指示することを否定している。

 しかし、鴻池参院議員の証言で政治家関与の可能性が出てきた。また、国民の財産である国有地売却で、国に損失を与えた可能性もあわせて考えれば、立証責任は野党ではなく首相側にある。

 この問題は、首相夫人の安倍昭恵氏が4月開校予定の「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長を務め、学校建設の寄付金集めに「安倍晋三記念小学校」の名前が使われたことから注目された。

 安倍首相は「私や妻、事務所が関与していれば、首相も議員も辞める」と国会で答弁している。ならば、自ら調査し、問題をいたずらに長引かせるべきではないだろう。放置すれば、政権にとって命取りになりかねない。

 混乱が続く中、松井一郎大阪府知事は4月の開校について「ごみが埋まった状況では子どもの健康が守れない」と、不認可となる可能性を示唆した。当然だろう。

 そもそも、森友学園が運営する幼稚園は、戦前の教育勅語を暗唱させたり、運動会で「安倍首相頑張れ」と特定の政治家を応援するなど教育内容に疑問の声が上がっていた。大人たちの政治論争に、幼い子どもたちを巻き込んでいることを問題視すべきではないのか。

 

潔白証明より権力で封じ込め…王道どころか恐怖政治(2017年3月3日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★2月25日。自民党元幹事長・石破茂は、金沢市での自民党衆院議員の会合で安倍政権に対して「地方創生、1億総活躍、働き方改革。大河ドラマじゃないのだから、1年ごとに出し物が変わることがいいとは思わない」と政権を批判した。今の自民党ではかなり踏み込んだ発言だ。一連の国有地払い下げ疑惑に首相・安倍晋三夫妻が関わり、広告塔まで務めていた件で自民党議員は野党の追及を妨害し続ける。

★先月27日の衆院予算委の理事会で、民進党が森友学園の幼稚園の運動会映像を文字にしたパネルの委員会への持ち込みを通告したが自民党が拒否。また同学園の籠池泰典理事長、売却交渉時の財務省理財局長・迫田英典、国税庁長官と近畿財務局長だった武内良樹財務省国際局長の参考人招致も「今の局長に聞けば足りる」と招致も審議のテレビ中継も拒んだ。

★つまり首相の潔白を証明するよりも権力で封じ込めようとしているのだ。パネルについては「私立学校の教育方針を問題にしたら、国家権力の教育への介入になる」というのが拒否の理屈だ。自民党はここまで姑息(こそく)で、小さくなって正面から野党の攻撃も国民の関心も受け止められなくなってしまったのか。随分と小粒の政党になったものだ。このこそこそした政治を王道と称するなら、また党内から批判も出ないのなら、自民党はおごりの体質から自信のない恐怖政治の中にいる。党内権力に反発もなく、役職が回ってくるようにおとなしくしていることが政治の中心にいられることと勘違いしている。

★時には逆風の中で、信念を貫く政治家はいないのか。冒頭の会合で石破は首相の党総裁任期延長について「なぜ、最優先事項なのか分からない。やるべきことは経済政策。金融緩和、財政出動、その次を作ること」。石破はこの発言を貫き通せるか。

 

「森友学園」疑惑(2017年3月3日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

安倍首相の責任は免れない

 大阪で幼稚園を経営する学校法人「森友学園」(籠池泰典理事長)が、豊中市に開設を予定している小学校用地のために、財務省・近畿財務局から大幅に値引きした安値で国有地を払い下げてもらっていた問題は、日本共産党の小池晃書記局長の参院予算委での質問などで一層疑惑が深まっています。10億円とも見積もられた国民の財産、国有地が、廃棄物が出たなどの口実で、まともな検討もせず8億円も値引きされるなどというのは担当者だけでできることではありません。上層部や政治家の働きかけなしにはあり得ないことであり、疑惑は徹底追及すべきです。

政治家関与の疑惑拡大

 安倍晋三首相は「不当な働きかけは一切なかった」「政治家の関与もない」「私も妻も無関係だ」などと言い逃れに終始しましたが、それで済む問題ではありません。

 「森友学園」が入手した国有地は、もともと国が1億円余りの埋設物撤去などの費用を払ったうえ「森友学園」に貸し出されることになっていたものです。「森友学園」が改めて払い下げを希望したため、国が評価した10億円近い土地代から、新たに廃棄物が見つかったとしてその処理費8億円余りを差し引き、わずか1億3400万円、10年間分割払いという破格の条件で払い下げられたのです。

 もともとこうした経過は異常極まりないもので、衆参の予算委員会でも全面的な解明が求められたのに、払い下げにあたって財務省は「不正はない」と言い張り、近畿財務局や土地を管理していた国土交通省大阪航空局、「森友学園」の交渉の内容は一切明らかにしていません。そのうえ、廃棄物が出たあと8億円の値引きを短時日で試算した大阪航空局はそうした経験がなかったことや、もともと幼稚園しか経営していない「森友学園」が借金で小学校を開校するには大阪府の条例で認められていなかったのに、橋下徹知事(当時)らが基準を緩和して道を開いたなど、新たな疑惑が次々明らかになっています。

 安倍首相は「不当な働きかけはなかった」といいますが、その根拠は理財局(財務省)が「なかったといってるから」というだけで、何の根拠も示さなければ、財務省に調査を指示するものでもありません。いうまでもなく国有地は国民の貴重な財産です。内閣の責任者である首相が、財務省の説明を繰り返すだけで、自ら払い下げ経過の調査にさえ動こうとしないのは首相としての資格にかけるものです。小池氏が要求したように自ら徹底調査すべきです。

 小池氏が独自の調査で示した自民党議員事務所の面談記録をもとに、「森友学園」の政界工作の一端を明らかにしたことにも、自民党総裁でもある安倍首相が、「何の資料かわからない」などと激高するばかりで自ら調査もしないのは論外です。すでに自民党の鴻池祥肇(こうのいけ よしただ)参院議員の証言もあり、首相の、議員任せ、知らぬ、存ぜぬは通用しません。

首相夫妻の責任重大

 かねて「森友学園」の教育を評価していた首相や、籠池理事長と面識があり、新設される小学校の名誉校長に一度は就任していた昭恵夫人など安倍夫妻の責任は重大です。土地払い下げへの関与の有無とは別に、小学校開校を手助けした責任は絶対に免れません。

 

(2017年3月3日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

「割れ鍋に綴(と)じ蓋(ぶた)」とは、どんな人にもそれに相応した配偶者がいるという例えです。また、何事にも似通った者同士がふさわしいとの意味もあります

▼綴じ蓋は修繕した蓋のこと。壊れた鍋にもうまく合う蓋がある。それを人に当てはめたものですが、「閉じ蓋」だと思っている人は多い。江戸いろはかるたの一つですが、同じかるたの中にある「臭いものに蓋」と混同している向きも

▼国有地の廃棄物とともに、臭いものを覆い隠してきた蓋がこじ開けられました。問題の「森友学園」が土地を得るために政治家を利用しようとしていた。日本共産党の小池晃議員によって、ついに政治家の関与が明らかになりました

▼1日の国会。自民党国会議員事務所の面談記録を手に、同学園の籠池泰典理事長が国有地の値引き払い下げを何度も求めていた実態を示した小池議員。安倍首相は出所不明で悪魔の証明だと開き直りましたが、自党の鴻池祥肇(よしただ)議員のものだったことがはっきり

▼「私と妻は関係ない」とくり返す首相。しかし、戦前回帰や隣国への憎しみを子どもにあおるような教育方針を持ち上げ、夫人が名誉校長にまでなっていた「割れ鍋に綴じ蓋」の首相夫妻。2人の道義的責任は重い

▼国民の財産である国有地を疑惑まみれで売り払いながらへらへら笑う閣僚たち。小池議員は迫りました。みんな汗水流して税金払っているんだ、社会保障は切り捨てられ、どれだけの人が苦しんでいると思っているのか。こんなでたらめ許されるか、と。

 

こいつぁ春から(2017年3月2日配信『山陰中央新報』−「明窓」)

 

 日米首脳会談の成果に「こいつぁ春から縁起がいいわえ」と思っていたら、思わぬところから火の手が上がった。大阪の国有地売却問題だ。「濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)」と懸命に関与を否定する国会答弁が続く

▼テレビに映る安倍首相の近況を見ていると、そんな印象を受ける。一般の感覚からすれば破格の安値だったことに加え、売却先の学校法人が建設中の小学校の名誉校長に、首相の身内が一時就任していたため憶測を呼んでいる

▼冒頭のお馴染(なじ)みの台詞(せりふ)は河竹黙阿弥作の歌舞伎・通称「三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)」が元。通りすがりの夜鷹(よたか)を川に突き落として金を奪ったところ百両もあり、運が良かったと思う場面で語られる

▼確かに日米首脳会談では、世界がその言動を注視するトランプ氏から厚遇され、ゴルフをしながら信頼関係を築いた。日米同盟の強化など日本側の要望はほぼ「満額回答」だった。運にも恵まれ、首相の狙いが当たったのだろう

▼歌舞伎の中では「幸運」を手に入れたのは、台詞の前段にある「ほんに今夜は節分か」から節分の日。今年で言えば日米首脳会談の少し前になる。偶然だろうが、米国の利益にこだわるトランプ氏の姿勢も、節分に登場する欲深い「赤鬼」を連想させる

▼トランプ氏がもたらすのは幸運なのか厄なのか−初の施政方針演説からは、まだ見通せない。ただ、黙阿弥は「三人吉三−」で因果応報の結末を用意した。幸運と思い込むのは危ないし、「濡れ衣」はきちんと晴らしておかないと、胡散臭(うさんくさ)さが残りかねない。

 

「レッテル貼り」(2017年3月1日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

「レッテル貼り」。安倍晋三首相がよく使う言葉だ。レッテルは商品に貼り付けて内容を示す紙片。「レッテルを貼る」といえば、先入観を持ってマイナスの評価を下すという意味になる

▼戦前を思わせる「愛国」教育や国有地売買問題で世間を騒がせている学校法人との関係を問われた先日の国会答弁でも。首相は「レッテル貼りはやめましょうよ」と、いら立った様子で国有地売買への関与を強く否定した

▼自身への批判には「レッテル貼り」というレッテルを貼って、批判を封じ込めるのがお得意のようだ。都合の悪い報道は「うそニュースだ」という「うそ」を指先発信するあの大統領と、どこか通じるようにも。なるほど、気が合うはずだ

▼このレッテルは早くもはがれてしまった。「共謀罪」の上にぺたりと貼った「テロ等準備罪」。政府は、犯罪を計画段階で処罰できる共謀罪の趣旨を盛り込んだ法改正案を、今国会に提出する予定だが、その条文にはテロのテの字もないというのだ

▼東京五輪を成功させるには、テロ対策を強化する法改正が不可欠−。政府はそう説明し、評判の悪い「共謀罪」をわざわざ「テロ等準備罪」に言い換えた

▼レッテルどころか、看板に偽りあり、である。ならば、政治活動や言論、思想信条の自由が侵されかねない、との懸念は一層強まる。こうした批判にも「レッテル貼りはやめましょうよ」と開き直りそうだが。

 

国有地売却問題(2017年3月2日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆国会招致で解明前に進めよ◆

 大阪市の学校法人「森友学園」に国有地が格安で売却された問題を巡り疑念が深まっている。

 野党が追及を強める中、財務省は適正な売買を強調するが、国民の共有財産がどのように売買されたか納得のいく説明はない。

 不透明な点が多すぎる。学園や財務省などで売買に関わった関係者の国会招致により、解明を前に進めるべきだ。

異例で不透明な取引

 問題の国有地は、不動産鑑定士の評価額が9億5600万円だったのに、売却額は1億3400万円だった。減額した8億円余りは地中にあるごみの撤去費と財務省は説明するが、算定根拠ははっきりしない。実際に撤去された量も費用も確認していないという。

 しかも原則公表の売却額を非公表にしたり、売買を前に賃料が安い長期の借地契約を結んだりと異例の対応も目立つ。

 この土地に建設中で4月に開校予定の小学校の名誉校長を安倍晋三首相の昭恵夫人が引き受けていたことから、野党は首相と学園側との関係や政治家の関与をただすなど攻勢を強めている。

 学園の理事長について首相は当初「教育に対する熱意はすばらしいと聞いている」と述べた。だが追及にさらされると、夫人の名誉校長辞任を明らかにした上、就任の経緯を振り返り「非常にしつこい」とするなど好意的な発言は影を潜めた。

 一方、財務省は異例の対応を認めながらも「適正な価格」と強調。学園側との交渉記録などは廃棄したとしている。

 国民の共有財産がどのように売買されたか、納得のいく説明はない。会計検査院が検査するが、時間がかかるだろう。解明のため関係者を国会招致すべきだ。

野党の追及で公表へ

 過剰な見積もりとの疑惑は拭えない。実際、近くにあった同じ程度の広さの国有地は2010年、大阪府豊中市に約14億円で売却されており、森友学園との売買が破格だったことが分かる。

 また国有財産の随意契約について財務省は通達で原則として金額や用途を公表するとしているが、今回は学園側の意向で非公表とした。その後、豊中市議の情報公開請求や野党の追及で公表に転じた。

 値引きした8億円余りに見合う撤去作業が行われたかも定かではない。財務省は「契約後に国がごみを撤去したか確認する必要はない」と言う。しかし撤去に関わった処理業者は「ごみ交じりの土砂を半分程度埋め戻した」と証言。豊中市が現地調査をしている。

 国会では、森友学園が運営する幼稚園の運動会で園児に「安倍首相頑張れ」と宣誓させたり、首相の名前を使い寄付金を集めたりしたことも取り上げられた。

 学園側が首相との関係を利用し、国側との交渉を有利に進めたことも考えられる。全ての疑念が徹底解明されることを求めたい。

 

総理夫人」に対する国民の疑問(2017年3月2日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

   

★学校法人「森友学園」の国有地払い下げ疑惑は、さらに新たな疑惑や証拠が出始めた。先月27日、民進党衆院議員・辻元清美が提出した質問主意書が興味深い。「『内閣総理大臣夫人』(以下総理夫人)の活動を補佐する公務員、公用車などについて現在、安倍総理夫人の活動を補佐する公務員は存在するか。何人で、どの省庁から、どのような規定にもとづき、派遣されているか。安倍総理夫人の活動を補佐する公務員は、いつからその任についているか。また公務員が『総理夫人』を補佐する任につくようになったのはいつからか」。

★そもそも首相夫人の公人としての定義、公設秘書をあてがう根拠が問われている。「安倍総理夫人の活動を補佐する公務員は、自らの業務報告をどのように行っているか。業務上知りえた内容をいつどのように、だれに対して報告しているか。安倍総理夫人が使用する公用車は存在するか。また『総理夫人』に専属の公用車が配置されたのはいつからか。14年12月6日と15年9月5日に、安倍総理夫人は大阪の塚本幼稚園で講演しているが、この際に公務員の秘書やスタッフは随行しているか。また講演に際して公用車は使用したか。『総理夫人』というのは公的な存在か。『総理夫人』の公務にはどのようなものがあるか。総理夫人の私的な活動に、公費が使われることはあるか」等、国民が疑問に思っている質問が並ぶ。この回答は閣議決定を経て議員に戻される。

★この疑惑は極めて複合的だ。国有地払い下げに関して財務省、国交省という中央官庁が出先機関とは別に関与している可能性。首相夫妻のさまざまな政治的、物理的関与の現実と可能性。学校法人としての違法性を含む異常な教育方針とそれを褒める首相。それを取り巻く維新の党や公明党の協力の疑い。国会での解明に否定的な自民党の対応。5日の自民党大会では党総裁・安倍晋三の任期延長が決まろうとしているが、自民党は本当にそれでいいのか。

 

「森友学園」問題 国会招致し解明進めよ(2017年3月1日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

大阪市の学校法人「森友学園」に国有地が格安で売却された問題を巡り疑念が深まっている。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円だったのに、売却額は1億3400万円。減額した8億円余りは地中にあるごみの撤去費と財務省は説明する。しかし算定の根拠ははっきりしない。実際に撤去された量も費用も確認していないという。

 しかも原則公表の売却額を非公表にしたり、売買を前に賃料が安い長期の借地契約を結んだりと異例の対応も目立つ。この土地に建設中で4月に開校予定の小学校の名誉校長を安倍晋三首相の昭恵夫人が引き受けていたことから、野党は一斉に首相と学園側との関係や政治家の関与をただすなど攻勢を強めている。

 学園の理事長について首相は当初「教育に対する熱意はすばらしいと聞いている」と述べた。だが野党の追及にさらされる中、夫人の名誉校長辞任を明らかにした上、就任の経緯を振り返り「非常にしつこい」とするなど好意的な発言は影を潜めた。一方、財務省は異例の対応を認めながらも「適正な価格」と強調。学園側との交渉記録などは廃棄したとしている。

 国民の共有財産がどのように売買されたか、納得のいく説明はいまだにない。会計検査院が検査するが、時間がかかるだろう。学園や財務省などで売買に関わった関係者の国会招致によって解明を前に進めるべきだ。

 問題の国有地は大阪府豊中市にあり、森友学園は2015年5月、10年以内に買い受ける前提で定期借地契約を結び、校舎建設工事を始めた。昨年3月に地中からごみが見つかり、財務省近畿財務局は撤去費などを8億円余りと算定。評価額から差し引き売却した。

 算定は国有地を保有していた国土交通省大阪航空局の見積もりを基に行われたが、直接ごみを確認しておらず、工事業者からの聞き取りで敷地全体のごみの量をはじき出したという。財務省は「ほかに何が出てくるか分からず、いいかげんな見積もりではない」とするが、過剰な見積もりとの疑惑を拭えていない。

 実際、近くにあった同じ程度の広さの国有地は10年、豊中市に約14億円で売却されており、森友学園との売買が破格だったことが分かる。また国有財産の随意契約について財務省は通達で原則金額や用途を公表するとしているが、今回は学園側の意向で非公表とした。その後、豊中市議の情報公開請求や野党の追及で公表に転じた。

 値引きした8億円余りに見合う撤去作業が実際に行われたかも定かではない。財務省は「契約後に国がごみを撤去したか確認する必要はない」と言う。しかし撤去に関わった処理業者は「掘り出されたごみ交じりの土砂を半分程度、埋め戻した」と証言。これに学園側は「地下に仮置きしただけ」と反論し、豊中市が現地調査をしている。

 国会では、森友学園が運営する幼稚園の運動会で園児に「安倍首相頑張れ」と宣誓させたり、首相の名前を使い寄付金を集めたりしたことも取り上げられ、首相は「名前を勝手に使われ、抗議した」と答弁。学園側との関係をうかがわせる材料はないが、昭恵夫人の名誉校長就任について脇の甘さは否めない。学園側が首相との関係を誇張し国側との交渉を有利に進めたことも考えられ、徹底解明が求められる。

 

(2017年3月1日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

大阪の塚本幼稚園が園児に教え込む愛国心とは、安倍晋三首相への「愛」なのか。安保関連法が成立した2015年の秋の大運動会。選手宣誓に立った園児4人は壇上で声をそろえた。「安倍首相がんばれ」

   ◆

エールに加え「安保法制、国会通過良かったです」と続けた。国有地問題の渦中にある森友学園が運営する幼稚園だ。理事長は首相を敬愛するという。政治信条を意味も分からぬ園児に言わせた。何度練習させたのか。拡声器代わりに使ったのではないか

   ◆

 昨年3月の修了証書授与式。職員が「教育勅語」と声を掛けると、園児が直立し「朕(ちん)思うに…」と唱え始めた。教育勅語は明治天皇の名で1890年に発布された。やがて神聖化され、昭和期の軍国主義教育と結び付く。その反省から戦後に衆参両院が排除や失効の決議をしている

   ◆

 早稲田大の西原博史教授(憲法学)は著書で教育勅語をこう位置付ける。臣民は、天皇の役に立つかどうかの価値基準で全て善しあしを判断せよとの発想。子どもを天皇のため道具に作りかえるのが教育であり、一人一人の価値は認められていなかった―

   ◆

首相の妻昭恵さんは園の教育に共感し、小学校の名誉校長を一度は引き受けた。削除されたホームページのあいさつには「熱き想いに感銘を受け」と記していた。教育勅語への郷愁だとすれば、道具に使われた民の遺恨を分かっていない。

 

森友学園 公教育を逸脱している(2017年3月1日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 子どもの教育法として望ましい姿とはとても思えない。

 学校法人森友学園(大阪市)が運営する幼稚園が、運動会の選手宣誓で園児にこんな発言をさせていた。

 「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心改め、歴史でうそを教えないようお願いいたします」「安倍首相がんばれ」「安保法制国会通過、よかったです」

 運動会とはおよそ関係のない話で、異様さに耳を疑う。

 教育基本法は、特定の政党を支持するなどの政治教育や政治的活動を禁じている。安倍首相自身、自らへの「応援」について国会で「適切でないと思う」と述べた。当然だ。

 深く理解できる年代でもない子に、他国名をあげて批判させたり、法の成立をただ「よかった」と言わせたりすることが、教育に値するだろうか。

 他者を排し、一つの考えを植えつけるような姿勢は、公的制度にのっとった公教育としてふさわしくない。「自他の敬愛と協力」の重視を求める教育基本法の趣旨にも反する。

 この幼稚園は、園児に教育勅語を素読させてもいる。学園が4月に開校予定の小学校でも同様に素読させるとしている。

 教育勅語は、天皇を頂点とする秩序を説き、戦前の教育の基本理念を示したものだ。「基本的人権を損ない、国際信義に対して疑問を残す」などとして、48年に衆参両院で排除・失効の確認が決議されている。この経緯からも、素読は時代錯誤だ。

 首相の妻の安倍昭恵氏は、幼稚園での講演で「この幼稚園でやっていることが本当にすばらしい」と語ったという。教育内容をどこまで知っていたのか。小学校の名誉校長を辞したが、経緯はなお不明なことが多い。

 首相は当初、学園や理事長について「妻から先生の教育に対する熱意は素晴らしいと聞いている」と肯定的に語っていたが、その後、「学校で行われている教育の詳細はまったく承知していない」などと距離を置き始めた。いかにも不自然だ。

 小学校用地の国有地の払い下げ問題も解明にはほど遠い。

 値引きの根拠となったごみの撤去費用は、なぜ専門業者を通さずに算出されたのか。ごみは一部しか撤去されていないのになぜ国は確認しなかったのか。昨日の参院予算委員会でも異例さの説明はついていない。売買契約に関する交渉記録が廃棄されたのも都合の良すぎる話だ。

 さらなる事実究明のために、国会は理事長や財務省幹部を参考人招致する必要がある。

 

贔屓の引き倒し(2017年3月1日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

 仲良しの映画監督と作家が、東京・新宿の酒場で飲んでいた。「おい、あれ井伏さんじゃないか」。片隅にいる和服姿の老人は、2人の敬愛する作家に似ている。

▼老人はやがて勘定をすませて出て行った。2人が後をつけると、振り返った老人と目が合った。やはり本人である。「井伏鱒二バンザイ」。2人は思わず唱和した。すると老人も両手を上げて応える。「バンザイ」。

▼学校法人「森友学園」(大阪市)が運営する幼稚園の運動会の映像には驚いた。園児に「安倍首相頑張れ」などと選手宣誓させている。井伏のように、安倍晋三首相は喜んでいられない。過ぎた贔屓(ひいき)に、戸惑うばかりの様子である。「言ってもらいたいと、さらさら考えていない。適切ではない」。国会でこう答弁していた。学園は小学校の開校に当たり、首相の名前を使って寄付金を集めていた。最近まで名誉校長を務めていた夫人ともども、広告塔に使われていたわけだ。

▼何より首をかしげるのは、評価額9億5600万円の国有地が、小学校の用地としてわずか1億3400万円で学園に売却された問題である。地中から大量のゴミが見つかり、その撤去費用分が差し引かれたからだ、と説明されてきた。ところが周辺住民の証言などによれば、敷地からゴミが運び出された形跡が見られない。

▼中国の民間伝承によれば、贔屓はもともと龍の子供の名前である。その形は亀に似て、怪力を持っていた。ゆえに石碑のような重いものを載せて支えるのが、仕事とされてきた(『漢字ワードボックス』高田時雄、阿辻哲次著)。

▼豪華な小学校の校舎は、完成間近である。疑惑だらけの土砂にまみれながら、校舎を支えている亀は、どこから力を得ているのか。

 

【森友学園問題】うやむやは許されない(2017年3月1日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 大阪市の学校法人「森友学園」が大阪府豊中市に建設している小学校用地を巡って、土地取得や工事などへの疑念が増している。

 用地はもともと評価額9億5600万円の国有地だったが、わずか14%の1億3400万円で学園側に売却されている。

 埋まっているごみの撤去費用として8億円余りを計上し、差し引いたという。常識的には考えられない値引きである。

 開設予定の小学校の名誉校長には先日まで、安倍首相の妻、昭恵氏の名があった。学園側が「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付金を集めていたことも分かっている。

 ごみの撤去工事では、掘り出した量が想定より大幅に少なく、一部を敷地内に埋め戻したことも処理業者の証言で明らかになった。

 国有地は国民の財産である。財政法が、国の財産を適正な対価なく譲渡したり、貸し付けてはならないと定めているのも当然である。

 衆院の委員会で野党が政府に経緯をただしたが、疑問の解消には程遠い内容だ。政府にはより積極的な説明を求める。

 用地は9千平方メートル近くあり、近畿財務局が昨年、随意契約で学園側に売却した。地元の豊中市議が財務局に売買契約書の開示を請求。金額が開示されなかったため先月、市議が大阪地裁に提訴したところ、財務局が一転、開示した。

 学園の求めで非開示としたようだが、国有財産の売却は官民の癒着を防ぐためにも公開するのが原則だ。随意契約は金額や用途などを契約後1カ月以内に公表するとした2012年の財務省通達とも矛盾する。

 政府は売却について「適正に処分した」と繰り返している。ところが財務省が国会で示したごみ撤去費の積算内容は、ごみの量の算定根拠からして曖昧だ。

 財務局と学園側との交渉の記録も「廃棄した」とする。麻生財務相は「契約後にごみを撤去したか(国が)確認する必要はない」との考えも示した。これでは隠蔽(いんぺい)を疑う声が出るのも当たり前だ。

 森友学園は、運営する幼稚園で教育勅語を暗唱させたり、軍歌を演奏させたりしている。

 運動会では園児に「安倍首相頑張れ」などと宣誓させていた。学校の政治的中立が問われよう。大阪府の松井知事は「行き過ぎで不適切だ」としている。

 安倍首相は一連の問題で自身や昭恵氏の関与を明確に否定している。学園側の安倍首相への一方的な思い入れの可能性もある。

 だが、国有財産が不透明な契約や経緯の中で売却されたのは事実だ。関与していないからといって、うやむやにすることは許されない。政府は説明を尽くす責任がある。

 独立した機関である会計検査院が調査を始める意向だが、国会にも引き続き解明への努力が求められる。野党が求める学園理事長の参考人招致なども手段の一つであろう。

 

1992年の日本新語・流行語大賞で金賞を射止めた(2017年3月1日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 1992年の日本新語・流行語大賞で金賞を射止めたのは「ほめ殺し」。87年の自民党総裁選を巡る、政界と暴力団の間の闇を浮かび上がらせた事件がこの年、発覚したからだ。

 竹下元首相が臨んだ総裁選を前に、右翼団体がイメージダウンを狙って「金もうけがうまい竹下先生を首相にしよう」などと街頭宣伝。当時の金丸副総裁の意を受けた運送会社社長が暴力団の会長に活動封じを依頼していた。首相誕生に暴力団が関与した前代未聞の出来事だ。

 疑惑が次々に浮上している国有地の格安払い下げ問題。真相はまだ闇の中だが、この学校法人が運営する幼稚園の運動会で園児が「安保法制の国会通過良かったです」「安倍首相頑張れ」などと選手宣誓していた。

 教職員が作った文章を必死で覚えたに違いない。心が冷え冷えとするような光景だ。むろん、首相は園児に応援してもらいたいなどとは考えていないだろう。国会で「適切ではないと思っている」と答弁したのは当然といってよい。

 幼稚園では園児に教育勅語を暗唱させているという。明治半ばに発布された、「朕惟(ちんおも)フニ…」で始まる勅語は天皇制教育推進の支柱。敗戦に至る歴史を考えると、戦前の教育へのこだわりに驚く。どこかで、首相への強い思い入れとつながっているのだろう。

 一方的な片思いにせよ、「ひいきの引き倒し」を招いているようにも映る。まずは疑惑の全面的な解明だ。

 

マーチの日(2017年3月1日配信『宮崎日日新聞』−「くろしお」)

 

 きょうは運動会などでおなじみの「マーチの日」だ。行進曲も3月も英語ではまったく同じつづりmarchと書く。それゆえ3月1日をちまたで、そう呼ぶようになった。

 旧友、星条旗よ永遠なれ、と並んで世界三大行進曲の一つに数えられる軍艦マーチは海軍軍楽隊長、瀬戸口藤吉の作曲。明治初めまで錦絵に描かれるほど物珍しい存在だった軍楽隊はこの曲とともに国民へ浸透していった(「音楽の366日話題事典」東京堂出版)。

 学校法人「森友学園」が、大阪府豊中市に建設中の小学校用地から出たごみ交じり土砂を埋め戻したとされる問題で、同市が廃棄物処理法に基づいて施工業者から聞き取りなど実施した結果、ごみは事実上放置されていたことが分かった。

 学園に売却された国有地の更地評価額は9億5600万円。地中からごみが見つかったため近畿財務局は撤去費用を差し引いた1億3400万円で売却した。まず、ごみ撤去に土地代の大半が棒引きされるほどの巨費がかかるという見積もりからして信じられない。

 国は想定した深さまでごみがあったかどうかも「確認していない」という。事が発覚後、やっとずさんな撤去処理が表面化したことも含め、いたいけな子に教育勅語を暗唱させる学校法人に甘すぎる。何か圧力が、と勘ぐられても仕方ない。

 森友学園が運営する幼稚園の園児たちはある神社で軍艦マーチを演奏した。marchの原義は、踏みつけて歩くだ。運動会の宣誓で「頑張れ」とエールを送られた首相は国会で立ちふさがる野党を「踏みつけて」突破するつもりだろうか。

 

[予算案衆院通過] 疑念残さず審議尽くせ(2017年3月1日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 2017年度予算案が衆院本会議で可決され、年度内の成立が確定した。2月中の衆院通過は14年以来だ。

 社会保障費の増額や過去最大の防衛費で一般会計総額は97兆4547億円に膨らんだ。財政再建や安全保障面など課題は多いのに、突っ込んだ議論が行われなかったのは残念である。

 早々の通過は、圧倒的多数の議席を持つ与党のペースで審議が進んだからだ。

 南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報が見つかった問題や文部科学省の組織的な天下り、大阪の学校法人を巡る国有地の格安払い下げ疑惑などが浮上し、そちらに野党の追及が集中した面も否めない。

 論戦の舞台は参院に移った。予算案も政権を巡る諸問題も、どちらもおろそかにはできない。疑念を残すことなく、審議を尽くしてもらいたい。

 与野党攻防の焦点の一つは「共謀罪」を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する法案だ。政府は今月中旬にも国会に提出する。

 これまでに「組織的犯罪集団」に適用対象を限定することや、対象の犯罪の内訳など、内容が明らかになってきた。

 だが、新たな法案がなければ本当に「国際組織犯罪防止条約」を結べないのか、捜査機関による乱用は防げるのか。政府の説明と綿密な論議が求められる。

 南スーダンPKOの日報では、稲田朋美防衛相が昨年7月の首都ジュバでの大規模紛争について「法的な意味での戦闘行為はない」との答弁を繰り返した。

 しかし、日報は「戦闘」と記述しており、言葉の言い換えが過ぎると言わざるを得ない。現地情勢を的確に分析し、PKO派遣の継続の是非についてもあらためて議論する必要がある。

 稲田氏は「廃棄済み」とされた日報が統合幕僚監部で保存されていたことを約1カ月間、知らされていなかった。省内を掌握できていないのであれば、シビリアンコントロール(文民統制)を揺るがしかねない。

 共謀罪を巡り、質問封じともとれる文書を配布した金田勝年法相とともに閣僚としての適格性も問われよう。

 学校法人「森友学園」に関する問題では、いかなる経緯で売却が行われたのか、安倍晋三首相と学園との関係は適切だったのか、などの疑念が解消されていない。

 国有地は国民共有の財産である。学園理事長や財務省の担当者などの関係者を国会に招致し、真実を明らかにするべきだ。

 

だまされるな!!言葉の言い換えだけだ(2017年3月1日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

  

★ネットの世界では既に国有地払い下げ問題や、首相・安倍晋三夫人・安倍昭恵が名誉校長を務めていたことを“アッキード事件”と称して盛り上がりを見せている。いずれにせよ、首相夫妻が異様な私学の教育方針に賛同し、広告塔を務めた事実から見てこの内閣の政治レベルの低下によって、もたらされたものと言える。公約違反を「新しい判断」と言い換え、オスプレイの墜落を「不時着」と言い張ったのもこの内閣。積極的平和主義や最近興奮すると多用する「レッテル張り」に至っては元の意味すらよく分からない言葉になった。

★思えば集団的自衛権の解釈変更という強引なごまかしがこの内閣の言い換えの歴史と言えよう。ばくちを認める法律をリゾート開発を主とする「IR法」と言い換え、共謀罪を「テロ等準備罪」にそれぞれ言い換え、南スーダンの状況では戦闘を「衝突」と言い換えて事態を和らげようとする。本質を隠し穏やかに見せようとしてきたごまかし政治の延長にある。

★地方議会では白紙領収書を使い政治活動費の水増しや横領で議員が数多く辞職に追い込まれても総務相・高市早苗は「問題ない」と答弁するなど、政治には特権があっても国民生活では決して認められず、役所は一切受け付けない事案を、政治の世界では政治家や高級官僚が関与すれば何でもまかり通る。今、この国の国会ではそんな異常性を見せつけている。

★ごまかし政治の最たるものは役所が作るメモに始まり、文書の管理義務があるものまで紛失、破棄と子供の言い訳のように「なくしたから」と言って切り抜けようとする公務員の姑息(こそく)だ。管理責任が問われたという話も聞かないし、後日、ひょっこり見つかるというのだから「隠蔽(いんぺい)」が正しい表現ではないのか。ここにも国民を欺くごまかしがある。政治家と公務員に、これほどまで欺かれても気にならない国民も我慢強い。

 

「森友学園」疑惑(2017年3月1日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

ごまかし続けるのは許されぬ

 大阪府豊中市にあった国有地が、学校法人「森友学園」に小学校用地として「格安」で売却された疑惑が国会で大問題になっています。当初の鑑定額を9億5600万円とされた土地が、「ゴミ撤去費」として8億1900万円も値引きされるなど異常なことが、なぜ起きたのか。野党に追及されても安倍晋三首相らは、まともに説明しようともせず、事実解明に後ろ向きです。安倍首相夫妻と森友学園の関係にも疑念が深まっています。不明瞭な一連の疑惑を徹底的に究明することは、参院に舞台を移した2017年度政府予算案の審議でも大きな焦点です。

不可解極まる格安売却

 鑑定価格から8割以上も値引きされた国有地が、首相の妻・昭恵氏が「名誉校長」(のち辞任)を引き受けた私立小学校(今年4月に開校予定)用地として払い下げられる―。このこと自体が国民の疑問を抱かせるものですが、国会審議では、土地売却の手続きをめぐり財務省や国土交通省との異例なやりとりが繰り返されていた実態が浮かんでいます。

 ゴミ撤去費用を8億円余りと算出したのは国交省大阪航空局でした。しかし、売り主である国の方がそんな見積もりをした国有地の売却は、過去例がありません。国は算出の根拠を説明しないため、「見積もり過剰」の疑いも濃厚です。森友学園側は「赤旗」の取材に、8億円もかかっていないことを認めています。ゴミをきちんと処理してない疑惑もあります。売買価格が最初は非公表だったことや売買代金を分割払いにしたなど不透明な問題は山積しています。

 森友学園が土地取得に名乗り出た13年9月以降、何があったのか。異例づくしの売却の背景には、政治家の関与があるのではないのか。衆院予算委員会で日本共産党の宮本岳志議員は、15年9月に近畿財務局会議室で、学園側と財務局や大阪航空局の担当者が土壌改良費用について交渉していた事実を指摘し、交渉記録の公表を迫りました(2月24日)。しかし財務省は「記録は破棄した」と拒否し続けています。麻生太郎財務相は「適正な価格で処分された」「国がゴミを撤去したか確認する必要はない」と開き直っています。安倍首相も、会計検査院が調査すると述べるばかりです。国民の共有財産である国有地を適正に扱うことへの責任や自覚を疑わせます。

 疑惑の土地に開設予定の小学校「瑞穂(みづほ)の國(くに)記念小学院」の名誉校長が首相夫人だったことをはじめ、首相側と森友学園との関係も問題です。同学園が運営する幼稚園の運動会で、園児に「安倍首相頑張れ」と唱和させていたことは国民を驚かせました。首相は、批判の広がりを前に、同学園と距離を置く姿勢を強めています。しかし、戦前の「教育勅語」を暗唱させるなど教育基本法さえ逸脱した教育方針の学園を、以前は高く評価していたのは首相夫妻でした。少なくとも道義的な責任が問われます。

解明求める声は8割以上

 テレビ朝日の世論調査(27日放送)では、森友学園疑惑を「はっきりさせる必要があると思う」の回答は83%にのぼっています。首相は、自らの関与を躍起になって否定しますが、国民が納得できる経過の説明はしておらず、疑念は払しょくされていません。ごまかし続けることは、許されません。

 

予算案衆院通過 疑問点の徹底追及を(2017年2月28日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

2017年度予算案が衆院本会議で可決され、憲法の規定によって年度内の成立が確定した。社会保障費や防衛費などの増額で一般会計総額が過去最大の97兆4547億円に膨らんだ予算案だ。国会では本来、財政再建や安全保障政策などで突っ込んだ議論が求められるところだろう。

だが野党が政権の問題点や疑惑について追及するのも当然である。稲田朋美防衛相や金田勝年法相らの答弁はおぼつかなく、大阪の学校法人を巡る国有地の格安払い下げ疑惑も浮上した。疑問点の解明は尽くされていない。与野党伯仲の国会ならば、閣僚の進退問題に発展しかねない状況ではなかったか。

年度内成立は与党が圧倒的多数の議席を持つ結果であり、安倍政権が説明責任を尽くしたとは言い難い。この国会対応は「1強」のおごりの表れとも言えよう。政府、与党はこうした姿勢で国民の信頼が得られると思ってはならない。

順調な国会日程は、逆に言えば野党の無力さを浮き彫りにする。民進党など野党にはさらに新しい事実の発掘に努め、疑問点の追及を強めるよう求めたい。野党の力量も問われている。

稲田、金田両氏は予算委員会で答弁に詰まり、安倍晋三首相が代わって答える場面が繰り返された。閣僚としての適格性に疑問符が付く。

南スーダンに派遣している自衛隊の国連平和維持活動(PKO)を巡る稲田氏の対応には二つの問題点がある。一つは稲田氏が省内を掌握できていないのではないかというシビリアンコントロール(文民統制)に関わる問題だ。PKOの活動状況を記録した「日報」を統合幕僚監部で保存していながら、情報開示請求に「廃棄済み」と回答。その後、保存していることが判明しても約1カ月間、稲田氏は知らされていなかった。こうした状態で国家の安全保障に関わる事態に対処できるのか。

 もう一つはPKO派遣継続の是非だ。昨年7月の大規模紛争に関して、稲田氏は「法的な意味での戦闘行為はない」との答弁を繰り返している。「戦闘」という言葉を使うかどうかにかかわらず、現地情勢を改めて分析し、派遣継続について国会で議論すべきだ。

 金田法相は組織犯罪処罰法改正案をきちんと理解できていないのではないか。過去3度廃案となった理由である「共謀罪」に代わって構成要件を厳しくした「テロ等準備罪」を新設するという。

 しかし法相は立法の必要性や捜査対象が一般市民へ拡大する懸念などについて納得できる説明ができていない。政府、与党は3月中旬にも法案を、国会に提出する方針だというが、これで審議に堪えられるのか疑問だ。

 官僚の天下り問題では、文部科学省の組織的な関与が判明した。全府省庁調査の結果を早急に国会に報告すべきだ。

 ここにきて焦点となっているのが大阪の学校法人「森友学園」を巡る国有地払い下げ問題だ。

 ポイントは二つある。同法人が購入した大阪府豊中市の国有地が格安で売却された不透明な経緯と、学校法人と安倍首相の関係である。学園が4月に開校予定の小学校の名誉校長に首相の昭恵夫人が就任していたが、疑惑発覚後に辞任した。疑惑解明のため、野党が求めている関係者の国会招致を実施すべきだ。

 

森友学園問題 適正な国有地売却だったのか(2017年2月28日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 あまりに不透明な国有地の売却である。

 大阪府豊中市の国有地が、評価額を大幅に下回る価格で学校法人に売却されていたことが判明した。国会の審議でも、連日取り上げられている。

 国土交通省大阪航空局が管理していた8770平方メートルの土地だ。近畿財務局が売却先を公募し、昨年6月に学校法人「森友学園」に小学校建設用地として1億3400万円で売却された。

 不動産鑑定士の評価額は、9億5600万円だった。地中からコンクリート片や廃材などが見つかったため、その撤去費用分を8億円余と見積もり、評価額から差し引いたのだという。

 問題なのは、見積もられた費用に見合う撤去処分が実際に行われたかどうか、不明なことだ。

 学園側は読売新聞の取材に対し、「くいを打ち込む部分のゴミは撤去したが、それ以外は撤去していない」と説明する。見積もりが過大だった疑念は拭えない。

 近畿財務局の依頼を受けた大阪航空局が、専門業者を通さずに、直接算定したことも疑問だ。財務省は「適正だった」と主張するが、算定根拠について納得のいく説明がなされていない。

 会計検査院は「経済性などの多角的観点から検査を実施する」との方針を示している。厳格な調査を求めたい。財務、国交両省も、経緯をきちんと説明すべきだ。

 野党は、安倍首相や昭恵夫人と学園の関係を追及している。

 昭恵氏は、この小学校の名誉校長に就任予定だった。学園のホームページには、写真とあいさつ文が掲載されていた。

 国会で問題視された後に、名誉校長を辞退したものの、脇の甘さは否めない。

 学園側は、「安倍晋三記念小学校」という名称を用いて、寄付金も集めていた。名前を使われたことに対し、首相は「強く抗議した」と答弁している。

 「私や妻は学校の認可や国有地払い下げに一切関与していない。関与していたら、首相も国会議員も辞める」とも言い切った。

 政治家や家族には、その肩書を利用しようと、様々な業者が接近する。便宜供与を期待するケースもあるだろう。疑惑を招かない細心の注意が必要だ。

 学園の教育方針や財務状況については、小学校の設置認可を検討した大阪府私立学校審議会で疑問視する声が出ていた。子供への影響を最小限にとどめるため、認可問題の早期決着が求められる。

 

首相は国有地売却の疑問解明に指導力を(2017年2月28日配信『日経新聞』―「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に評価額より大幅に安く売却された問題が波紋を広げている。野党は安倍晋三首相の昭恵夫人が「名誉校長」を務めていた経緯を含めて、政治家の関与の有無を追及している。政府は深まる疑問の早期解明に向けて事実を検証する責任がある。

 森友学園は広さ8770平方メートルの国有地を小学校の建設用地として1億3400万円で随意契約で購入した。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円で、建設工事中に見つかった地中のゴミ撤去費用などのため8億2200万円を減額したという。

 財務省近畿財務局は情報公開法に基づく売却価格の開示要求に当初は応じず、後に一転して公表した。財務省は減額分の金額を見積もったのが、伊丹空港の騒音対策の一環で土地を管理していた国土交通省大阪航空局であることも明らかにした。

 国民の財産である国有地が外部の目が届きにくい形で、しかも実勢とかけ離れた価格で取引された事実は重い。財務省はこれまでの審議で「近畿財務局と学園の交渉記録は残っていない」と説明した。政府は減額分のゴミ撤去作業がどう実施されたのかすら詳細に把握していないという。

 麻生太郎財務相は取引について「適正な手続きによって処分を行った」と繰り返し答弁している。だが経緯が不透明なままでは野党が「政治家が関与したとの疑念を持つ」と指摘するのは当然だ。

 さらに野党は学園が土地の取得に動き出した後の2014年末に昭恵夫人が学園の講演会に参加し、名誉校長に就任した点を問題視している。学園が小学校開設の寄付金を「安倍晋三記念小学校」という名称で集めていたことも明らかになっている。

 首相は衆院の審議で「私や妻が関係していたとなれば、首相も国会議員もやめる」と断言している。それならば政府内の調査や関係者の国会招致に自ら指導力を発揮すべきだ。どういう経緯で昭恵夫人は学園を訪れ、名誉校長に就任し、経営内容をどの程度知っていたのかなど疑問点は多い。

 今回の国有地の売却が政治家や官僚の思惑でゆがめられていたとすれば言語道断だ。国民に疑念を持たれること自体が政治不信を増大させかねない。与野党は疑惑の早期解明に向けて一致協力して取り組んでほしい。

 

国有地売却 疑義残す取引は許されぬ(2017年2月28日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 国有地が驚くほどの安値で売却されていたとして、学校法人「森友学園」(大阪市)の小学校用地をめぐる問題が国会の焦点になっている。

 国民の財産である国有地の取引が、不明朗であってよいはずがない。腑(ふ)に落ちる説明がなされていないのは、どうしてなのか。早急な解明が必要である。

 平成29年度予算案は審議の場を参院に移すが、注目を集めた国有地売却を国会として見過ごすわけにはいくまい。必要な関係者の招致を含め的確に対応すべきだ。

 小学校の開校にあたり、安倍晋三首相や首相夫人の名前も使われていた。首相としても、名誉を傷つけられたままになろう。率先して解明を指示する必要がある。

 学園は小学校建設のため、大阪府豊中市の国有地を取得した。当初、将来の売買を前提に賃貸契約を結んだが、くい打ち工事の過程でゴミなどの埋設物が見つかった。国が撤去作業をすると開校が遅れるため、購入した。

 その際の評価額は約9億5600万円で、ゴミの撤去費用の約8億2千万円を減額するなどした。売却に伴う国の収入は約200万円にすぎない。

 麻生太郎副総理兼財務相は適正な手続きを経たとの認識を示すとともに、「政治家が不当な介入をしたことはない」と述べたが、これで明確な根拠が示されたとはいいがたい。

 8億円余りの撤去費用の積算に第三者の関与はなく、客観性は担保されていなかった。政府側も異例な対応だったことは認めている。埋設物の箇所を特定していなかったともいう。

 財務省が学園側との交渉記録を廃棄していたことも発覚した。ずいぶん都合のよい話ではないか。これで適正な取引だと信じろというには無理がある。

 国有地を安く売り払っても、役人が自分の懐が痛むわけではないとでもいうのか。無責任などんぶり勘定で対処していたことに驚くばかりだ。

 会計検査院が検査するほか、地元の豊中市が調査を始めたのも当然である。

 学園理事長は撤去費用に8億円を使っていないとし、政府も金額相当の撤去作業が行われたか承知していないという。実際に費やされた撤去費や工事の実施状況を把握し、詳細に説明すべきだ。

 

予算案衆院通過 「疑惑」を素通りさせるな(2017年2月28日配信『福井新聞』−「論説」)

 

 2017年度予算案が異例のスピードで衆院本会議で可決。憲法の衆院優越規定により年度内の成立が確定した。過去最大規模に膨張した予算案の中身をしっかり審議し、精査していくのは当然の義務である。しかし、自衛隊の文民統制や「共謀罪」に代わる「テロ等準備罪」の新設、文部科学省の官僚天下り問題などが噴き出している。閣僚の資質や適格性も厳しく問われている。国民目線で厳しくただしていくべきだ。

 通常国会が召集された後、安倍晋三首相は就任したばかりのトランプ米大統領と日米首脳会談を実現させた。信頼関係の構築を重視した戦略が奏功し、懸念された通商摩擦や防衛を巡る問題も浮上せず、日米同盟の深化を印象づけた。

 世論調査で8割が首脳会談を評価、自信満々で国会審議に臨んだのは理解できる。今や「安倍1強」を不動のものにし、慢心やおごりも目立つ首相だが、国会ではその足元がぐらつく問題に直面している。

 まず南スーダンに派遣している自衛隊の国連平和維持活動(PKO)を巡る問題だ。稲田朋美防衛相が追及の矢面に立たされている。PKOの活動状況を記録した「日報」を統合幕僚監部で保存していながら「廃棄済み」とし、その後に保存していることが判明しても約1カ月間、知らされていなかったというのだ。

 深刻なのは、稲田氏が省内を掌握できておらず、シビリアンコントロール(文民統制)が機能していないのではないかという点だ。

 加えてPKO派遣と憲法との関係も問われている。昨年7月の大規模武力紛争を「法的な意味での戦闘行為はない」との答弁を繰り返している。国会乗り切りより、隊員の生命を第一に考え対処すべきであろう。

 「共謀罪」を巡る金田勝年法相に至っては満足な答弁ができず、閣僚を続ける資格はないと断じざるを得ない。政府、与党は3月中旬にも法案を国会提出する方針というが、審議に堪えられないのではないか。

 官僚の天下り問題では、文科省の組織的な関与が次々に判明している。全府省庁調査の結果を早急に国会に報告すべきだ。

 さらに安倍首相を直撃する新たな疑惑が浮上した。大阪の学校法人「森友学園」を巡る国有地払い下げ問題。同法人が購入した大阪府豊中市の国有地が格安で売却された不透明な経緯や学校法人と安倍首相の関係が疑問視されている。

 学園が4月に開校予定の小学校の名誉校長に首相の昭恵夫人が就任し、疑惑が発覚すると辞任。開設する小学校のホームページに掲載されていた夫人の「あいさつ」が突如削除されたことも不自然だ。

 首相は追及を強める野党に「一生懸命、印象操作しているが、何もない」と突っぱねた。これまでも「私が隠蔽(いんぺい)したというのか。私や妻を侮辱した」と激高したが、一学校法人の恣意的な「利用」を放置していたこと自体が問題ではないのか。強権で疑惑解明を素通りすることはできない。

 

(2017年2月28日配信『中日新聞』−中日春秋」)

 

<嘘見透かす霞草>。この一文を読んですぐ、「おっ、これは!」とお分かりになるのは、かなり頭の回る方だろう。うそみすかすかすみそう。逆から読んでも…

▼そう、これは回文。せとちとせ氏の『たのしい回文 くるくる回るアタマをつくろう』(創元社)が紹介する傑作の一つだ。頭脳明晰(めいせき)な財務省の皆さんならば言葉遊びなど朝飯前だろうが、清純さと初々しさを小さな結晶にしたような霞草の白い花の前でも、恥ずることなく能弁をふるえるかどうか

▼大阪市の学校法人・森友学園に国有地を売却するに際し、財務省は地下のゴミを撤去する費用を差し引いて格安で譲り渡した。ならば当然、ゴミがきちんと撤去されたか確認すべきだが、財務省はなぜか「その必要はない」と主張している

▼そもそもどんな経緯があり、どんな交渉の末に、この不自然な売買契約がまとまったのか。交渉の記録は真相究明に欠かせぬが、財務省は「廃棄した」。本来なら10億円近い価値のある土地の売却の記録をさっさと捨て去るなど、何をどう考えても理解できぬ

▼森友学園は近くこの土地の地中に「仮置き」しておいたゴミを掘り出す作業に入るらしいが、さて、疑惑の土地をひっくり返せば何が出てくるか

▼それは、<見事な穴とゴミ>か<完全安心安全か>。<もめるメモ>か<うまくかくまう>か。ひっくり返して読むと…。

 

森友学園問題 国民が納得する説明を(2017年2月28日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 何とも不可解だ。学校法人森友学園が、大阪府豊中市の国有地を、相場では考えられないほど安い価格で手に入れていた問題である。

 しかも、その土地に建設中の小学校の名誉校長には、安倍晋三首相の妻、昭恵氏が就任することになっていた。学園側は一時「安倍晋三記念小学校」なる名前を使って寄付金を集めていた。国会で首相は関与を否定し昭恵氏が名誉校長を辞任したと説明したが、それで一件落着する問題ではない。

 まず、国民の財産が不当に安く払い下げられたのではないかとの疑念がある。

 国土交通省大阪航空局が保有していた土地8770平方メートルの評価額は9億5600万円だったのに、学園側が支払ったのは1億3400万円。隣の同規模の国有地は、豊中市が7年前に14億円余りで購入している。それと比べても破格の安さだ。

 値引きした8億1900万円は、地中に埋まったごみを撤去する費用という。その積算根拠について、政府側の国会答弁はいかにも曖昧だった。敷地内のどこに、どんなごみがあるかもはっきり答えられない。掘削調査もせず、ごみの撤去費用を入札にもかけず、なぜ妥当な額が分かるのだろう。

 国の方からごみ撤去費用を見積もりして値引きした例は、過去になく、異例の契約である。政府側は小学校の4月開校に向けて急いだらしいが、そんな言い訳は通るまい。

 さらに理解できないのは、ごみが撤去されたのか、政府側の誰も確認していないことだ。ごみが混じった土砂の半分程度は敷地内に埋め戻した―。そんな工事業者の証言もある。「処分費がかかるから運び出す量を少なくして」と指示されたともいう。きのうやっと豊中市が調査した。ごみの保管を明示した掲示板がなく、廃棄物処理法の保管基準違反が確認された。

 異例ずくめの契約に、首相以外の政治家の関与を疑う声もある。政府側は「適正」と繰り返すが、それを証明する近畿財務局と学園側の交渉や面会の記録も残っていない。財務省は昨年6月に売買契約を結んだ後、記録を破棄したと説明する。規則違反ではないが、会計年度が終わらないうちである。隠蔽(いんぺい)したのかという疑念が拭えない。

 森友学園による教育も、首をかしげたくなる部分がある。「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」との憎悪表現に当たる文書を保護者に配ったという。運営する大阪市内の幼稚園の運動会では園児に「安倍首相、頑張れ」と声を上げさせたらしい。政治教育を禁じ、他国を尊重することを求める教育基本法に背いていないか。

 首相や昭恵氏は、その教育内容を知っていたのかどうか。昭恵氏は「内閣総理大臣夫人」の肩書で学園のホームページにメッセージを寄せていた。もう削除されているが、軽率と批判されても仕方ない。

 大阪府の松井一郎知事は、小学校の設立が認可されない可能性に言及している。入学を待つ子どもたちもおり、審議会は早く判断してほしい。

 国会は国政調査権を駆使し、森友学園の籠池泰典理事長の参考人招致などを急ぐべきだ。国民が納得するまで、問題の徹底的な解明を求めたい。

 

予算案衆院通過/疑問点は解明されたのか(2017年2月28日配信『山陰中央新報』−「論説」)

 

 2017年度予算案が衆院本会議で可決され、憲法の規定によって年度内の成立が確定した。社会保障費や防衛費などの増額で一般会計総額が過去最大の97兆4547億円に膨らんだ予算案だ。国会では本来、財政再建や安全保障政策などで突っ込んだ議論が求められる。

 だが野党が政権の問題点や疑惑について追及するのも当然だ。稲田朋美防衛相や金田勝年法相らの答弁はおぼつかなく、大阪の学校法人を巡る国有地の格安払い下げ疑惑も浮上した。疑問点の解明は尽くされたのか。

 年度内成立は与党が圧倒的多数の議席を持つ結果であり、安倍政権が説明責任を尽くしたとは言い難いだろう。こうした国会対応は「1強」のおごりの表れと映る。政府、与党は何より、国民の信頼を得られる姿勢で臨むべきだ。

 順調な国会日程は、逆に言えば野党の無力さを浮き彫りにする。民進党など野党にはさらに新しい事実の発掘に努め、疑問点の解明に努力するよう求めたい。野党の力量も問われている。

 稲田、金田両氏は予算委員会で答弁に詰まり、安倍晋三首相が代わって答える場面が繰り返された。閣僚としての適格性に疑問符が付く。

 南スーダンに派遣している自衛隊の国連平和維持活動(PKO)を巡る稲田氏の対応には二つの問題点がある。

 一つは稲田氏が省内を掌握できていないのではないかというシビリアンコントロール(文民統制)に関わる問題だ。PKOの活動状況を記録した「日報」を統合幕僚監部で保存していながら、情報開示請求に「廃棄済み」と回答。その後、保存していることが判明しても約1カ月間、稲田氏は知らされていなかった。こうした状態で国家の安全保障に関わる事態に対処できるのか。

 もう一つはPKO派遣継続の是非だ。昨年7月の大規模紛争に関して稲田氏は「法的な意味での戦闘行為はない」との答弁を繰り返した。「戦闘」という言葉を使うかどうかにかかわらず、現地情勢を改めて分析し、派遣継続について国会で議論すべきだ。

 金田法相は組織犯罪処罰法改正案をきちんと理解できていないのではないか。過去3度廃案となった理由である「共謀罪」に代わって構成要件を厳しくした「テロ等準備罪」を新設するという。

 しかし法相は立法の必要性や捜査対象が一般市民へ拡大する懸念などについて納得できる説明ができていない。政府、与党は3月中旬にも法案を、国会に提出する方針だというが、これで審議に堪えられるのか疑問だ。

 官僚の天下り問題では、文部科学省の組織的な関与が判明した。全府省庁調査の結果を早急に国会に報告すべきだ。さらに、ここにきて焦点となっているのが大阪の学校法人「森友学園」を巡る国有地払い下げ問題だ。

 ポイントは二つある。同法人が購入した大阪府豊中市の国有地が格安で売却された不透明な経緯と、学校法人と安倍首相の関係だ。学園が4月に開校予定の小学校の名誉校長に首相の昭恵夫人が就任していたが、疑惑発覚後に辞任した。疑惑解明のため、野党が求めている関係者の国会招致を実施すべきだ。

 

国有地売却問題 疑惑は徹底解明すべきだ(2017年2月28日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 国民の大切な財産が不当な安値で売却されたのではないか。その過程で何らかの政治力が働いたのか−疑念は深まるばかりだ。

 大阪府豊中市の国有地8770平方メートルが学校法人「森友学園」(大阪市)に評価額より大幅に安く売却された問題が連日、国会で取り上げられている。会計検査院や豊中市も調査に乗り出した。全容解明へ国会の責任も重い。

 不動産鑑定士の評価額は9億5600万円だったが、財務省近畿財務局は、小学校用地として名乗りを上げた森友学園に1億3400万円で売却した。8億2200万円もの値引きだ。

 財務局は「学園から『深い土中からごみが見つかった』との報告があり、撤去費を見積もり減額した」と説明する。しかし、隣接国有地9492平方メートルの売却額14億2300万円との違いは大きい。

 これとは別に浅い土中からも汚染物質やごみが見つかり、国は土壌入れ替え費用の1億3200万円を負担した。差し引きで国の収入は200万円にとどまる。

 財務省は「手続きにのっとった契約」と説明するが、ごみ撤去費の算定根拠は曖昧で、撤去の確認もしていない。学園との交渉記録も廃棄したという。

 4月開校予定の小学校は「初めてで唯一の神道の小学校」と銘打つ。系列の幼稚園は戦前の教育勅語の暗唱を園児に求め、運動会で「安保法制国会通過よかったです」と選手宣誓させた。在日外国人への憎悪表現の恐れがある文書を保護者に配布したとして大阪府の事情聴取を受けたばかりである。

 学園は一時「安倍晋三記念小学校」として寄付金を集め、首相の妻昭恵氏が名誉校長を務めていた。この問題で首相は当初「妻から学園の先生の教育への熱意は素晴らしいと聞いている」と親近感すらにじませていた。

 きのうの衆院予算委員会で、首相は「私や妻は全く関わっていない」と声を荒らげた。昭恵氏も名誉校長を辞任した。首相夫妻は勝手に名前を利用されたのか。疑惑の徹底的な究明を求めたい。

 

国会の焦点(2017年2月28日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆疑問や疑惑の徹底的追及を◆

 2017年度予算案が衆院本会議で可決され、憲法の規定によって年度内の成立が確定した。

 社会保障費や防衛費などの増額で、一般会計総額が過去最大の97兆4547億円に膨らんだ予算案だ。国会では本来、財政再建や安全保障政策などで突っ込んだ議論が求められるところだろう。

 だが野党が政権の問題点や疑惑について追及するのも当然だ。稲田朋美防衛相や金田勝年法相らの答弁はおぼつかなく、大阪の学校法人を巡る国有地の格安払い下げ疑惑も浮上した。疑問点の解明は尽くされていない。与野党伯仲の国会ならば、閣僚の進退問題に発展しかねない状況だっただろう。

PKOは再検討必要

 年度内成立は与党が圧倒的多数の議席を持つ結果であり、安倍政権が説明責任を尽くしたとは言い難い。この国会対応は「1強」のおごりの表れと言えよう。政府、与党はこうした姿勢で国民の信頼が得られると思ってはならない。

 民進党など野党にはさらに新しい事実の発掘に努め、疑問点の追及を強めるよう求めたい。野党の力量が問われている。

 稲田、金田両氏は答弁に詰まり、安倍晋三首相が代わって答える場面が繰り返された。閣僚としての適格性に疑問符が付く。

 南スーダンに派遣している自衛隊の国連平和維持活動(PKO)を巡る稲田氏の対応には二つの問題点がある。一つは省内を掌握できていないのではないかというシビリアンコントロール(文民統制)に関わる問題だ。活動状況を記録した「日報」を統合幕僚監部で保存していながら、情報開示請求に「廃棄済み」と回答。保存していることが判明しても約1カ月間、稲田氏は知らされていなかった。こうした状態で国家の安全保障に関わる事態に対処できるのか。

 もう一つは派遣継続の是非だ。昨年7月の大規模紛争に関し、稲田氏は「法的な意味での戦闘行為はない」と繰り返している。現地情勢を改めて分析し、派遣継続について国会で議論すべきだ。

不透明な国有地売却

 金田法相は、組織犯罪処罰法改正案をきちんと理解できていないのではないか。

 立法の必要性や捜査対象が一般市民へ拡大する懸念などについて納得できる説明ができていない。政府、与党は3月中旬にも法案を国会に提出する方針だというが、審議に堪えられるのか疑問だ。

 ここにきて焦点となっているのは、大阪の学校法人「森友学園」を巡る国有地払い下げ問題だ。

 ポイントは二つある。同法人が購入した大阪府豊中市の国有地が格安で売却された経緯と、学校法人と安倍首相の関係である。

 学園が4月に開校予定の小学校の名誉校長に首相の昭恵夫人が就任していたが、疑惑発覚後に辞任した。

 疑惑解明のため、野党が求めている関係者の国会招致を早期に実施すべきだ。

 

(2017年2月28日配信『南日本新聞』−「南風録」)

 

3月は別れの季節だ。あすは鹿児島県内のほとんどの高校で卒業式が行われる。恩師や友との別れを演出する卒業歌も最近は「旅立ちの日に」「道」と幅広い。

 昔から歌われる「蛍の光」は3番と4番がある。その歌詞は「一つに尽くせ国のため」などと愛国歌の色合いが濃い。愛国調の歌が悪いとは思わないが、戦後は卒業式にふさわしくないと考えられたのだろう。3番以降は歌われることがなくなった。

 同じく戦後、姿を消したのが軍国主義と結び付いた教育勅語だ。だが、いまだに大事にしている学校法人もあるらしい。大阪の「森友学園」である。経営する幼稚園の園児たちに暗唱させるというから驚く。

 今春開校予定の小学校の用地買収が問題になっている。購入した国有地の評価額は9億5000万円余だった。建設中に地中から廃棄物が見つかり、国は処理費として9割近くを差し引いた。不透明な取引と言わざるを得ない大盤振る舞いだ。

 小学校の名誉校長には、安倍晋三首相の昭恵夫人が一時就いていた。首相は国会答弁で相手が強引で断れなかった旨を説明したが、素直にうなずける国民はどれほどいるだろう。

 購入した土地の敷地内に廃棄物を埋め戻した疑いも持たれている。ここは学園が大事にする道徳心にのっとり、真実を正直に話してもらうほかない。国民を欺き、臭い物にふたをするようでは愛国心が泣く。

 

安倍首相「大阪日帰り」は森友絡みだった?(2017年2月27日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★大阪府豊中市の国有地が、近隣国有地の約1割の価格で学校法人「森友学園」に売却された問題について小沢一郎事務所はツイッターで「適正、廃棄、知らない、確認してない、何ら問題はない…。本当にふざけた答弁のオンパレード。タダ同然の売却に何ら問題ないという役所の答弁を聞くと背筋が寒くなる。内政、外政あらゆることがこんないいかげんな感覚で処理されているとしたら、もう最悪である。『政府』たる資格が問われている」と指摘した。

★24日の衆院予算委で共産党衆院議員・宮本岳志が近畿財務局9階会議室で15年9月4日、問題の小学校土壌改良工事の価格を巡り、工事業者と近畿財務局・大阪航空局の担当者が会合していたと指摘すると、佐川宣寿理財局長は会合は認めるも「記録は残っていない。財務省の行政文書管理規則に基づき廃棄した」と答弁した。同党参院議員・辰巳孝太郎はその日、「首相・安倍晋三は国会サボって大阪入りしてた。前日9月3日は理財局長と会って何かの報告を受けている模様」と指摘。首相動静によれば、首相は4日に大阪を日帰りで訪問、産経新聞は「国会開会中の平日に首相が大阪入りするのは異例」と記事にしている。

★また元民主党衆院議員・川内博史はツイッターで「16年6月売買契約。1年経過していないが契約締結に至るまでの経緯(航空局から財務局への委任書類・森友学園の買受要望書・財務局での審査記録・価格交渉記録・埋設物撤去費用打合せ記録)を保存していないと財務省。理財局長は『売買契約が締結されたら文書管理規則上、契約が締結されるまでの間の文書は廃棄することになっている』と答弁。文書管理規則のどこにそんなことが書いてあるのか」。財務省の「行政文書管理規則」には保管期間が10年間とあり、国有地の扱いだけに取引後もしばらくは情報を管理する規則だ。虚偽答弁もさることながら今週も事態は深刻化していくようだ。政府たる資格が問われている。

 

(2017年2月26日配信『河北新報』−「春秋」)

 

東京・豊洲新市場問題は、都が汚染土壌と知りながら、東京ガスから用地を買ったことが発端だ。建物の基礎など地下埋設物も多くあり、土壌対策の遅滞や経費拡大など影響が懸念された。それでも都は、既定路線を構わず走った

▼何か似ている。大阪府豊中市の国有地売却問題。買い手は民間の学校法人で、豊洲とは逆パターンだが、こちらも地中に多量のごみが埋まっている厄介な物件だった。結果を急ぎ、強引に取引を進めたのではないか。きしみは後になって現れる

▼国有地は、ごみの撤去費用分として国が大幅に値引きし、破格の安値で売った。その算定根拠が明瞭でない。一部でしか行っていないとされる撤去の実態すら国は未確認。どう見てもずさんだ。会計検査院が一連の経緯を調べる方針という

▼この土地に開校予定の小学校の名誉校長は一時、安倍首相の妻昭恵さんだった。寄付金集めに自らの名前を使われた首相は「抗議し、謝罪があった」とし、土地売買については「私や妻は一切関わっていない」と断言する

▼首相夫妻も巻き込んで目的の達成になりふり構わず突き進む人、それに手を貸す人もいたのかもしれない。子どもたちが通う学校だ。なぜ環境整備に細心の気遣いをしないのか。生鮮食料を扱う豊洲とやはりダブる。

 

国定教科書は明治後期から戦前に使用された(2017年2月26日配信『福井新聞』−「越山若水」)

 

 国定教科書は明治後期から戦前に使用された。その国語読本の中には、意外にも多数の笑い話が採録されていた。そこから一つ「無言の行」という説話を紹介する

▼ある山寺で4人の僧が一室に閉じこもり7日間の無言の行を始めた。小僧1人が出入りして用事をこなした。夜が更けてくると灯火が今にも消えそうになった

▼「小僧、早く灯心をかき立ててくれ」。末席の僧がうっかりしゃべってしまった。すると隣に座っていた僧が叱責(しっせき)した。「無言の行に口をきくということがあるか」

▼第二座の僧は2人が規則を破ったことに不愉快で仕方ない。「あなた方はとんでもない人たちだ」。これを聞いて上座の老僧はやおら得意げに口を開いた。「物を言わないのは結局、わしばかりだ」

▼修行を積んだ僧侶でさえ、無言を貫くのは難しい。まして普通の人間は、目の前に誰かがいたら黙っていられない。気まずい沈黙に耐えきれず、思わず言葉を発してしまう

▼永田町でも「無言の行」に似た事案があった。金田勝年法相が共謀罪に関して「国会提出後に議論すべき」と文書で発表。「質問封じ」と批判された

▼大阪市の学校法人に国有地が格安で売却された一件は、何と安倍晋三首相夫人が名誉校長だった。財務省は売買記録を破棄したと釈明するが釈然としない。でもいずれ誰かが口を利く。人間は黙っていられない。

 

(2017年2月26日配信『伊勢新聞』−「大観小観」)

 

▼国会の焦点に浮上した学校法人への国有地格安売却問題。小学校名に自身の名前を使われ、安倍晋三首相が「驚愕した」と言えば、昭恵夫人は名誉校長就任を辞退するなど疑惑、疑念は深まるばかりだが、新聞の方も、朝日新聞が「売却経緯、異例ずくめ」と見出しに書けば、毎日新聞は「土地取引、異例尽くし」

▼「ずくめ」と「尽くし」。朝日新聞の「異例」は原則公開の売却価格を非公開にした上、報道されると一転公表したことや、売買の約束をして定期借地契約を結び、売買に改めて分割払いにしたこと

▼また、土地内のごみ撤去費見積もりを入札にかけずに国土交通省大阪航空局に委託し、撤去費用を含む売却価格を設定しながら撤去するかどうかは学校任せのこと

▼毎日新聞の「異例」はそれらに加え、売却以前にごみ撤去費用として学校側に支払った分を売却価格から差し引くと二百万円で売ったことになる疑問も指摘。内容的に両紙に違いはないようである

▼辞書によると「ずくめ」は「その物ごとだけである意」で、「づくし」は「その類を全部ならべ挙げる意」。いろいろな山菜を具材にした「山菜づくしの料理」とは言うが、マツタケだけで焼き物、吸い物などを作れば「マツタケずくめの料理」

▼土地取引を一つのものと見るか、あの取引もこの取引もと見ているかでの両紙の違いとなるか。昭恵夫人は学校での講演で「主人も素晴らしいと思っている」と言ったそうだ。来県の際のあいさつで「主人に伝える」と言ったことは以前書いた。「主人ずくめ」「主人ずくし」。いや、「主人頼み」か。

 

国有地の売却 不可解さの解明徹底的に(2017年2月26日配信『山陽新聞』−「社説」)

  

 大切な国民の財産が、果たして適正に払い下げられたのだろうか。大阪市の学校法人「森友学園」に対する国有地売却に、そんな疑問を感じざるを得ない。一連の経緯について、会計検査院が検査に乗り出すという。徹底した解明を求めたい。

 物議を醸しているのは、大阪府豊中市にある8770平方メートルの国有地。売却先の公募に応じた森友学園が昨年6月、随意契約で小学校用地として取得した。

 評価額は9億5600万円だったが、学園側から「地中の深い地点からごみが見つかった」と指摘があった。このため、管理していた国土交通省大阪航空局は、その撤去費用を8億円余りと算定し、差し引き1億3400万円で売却したという。

 問題は、ごみの撤去費用の妥当性と、実際に相当する作業が行われたかどうかといった点だ。菅義偉官房長官は「法令に基づき適切に処分した」とするが、国の説明などには不可解な点も多く、疑問は増すばかりだ。

 まずは、撤去費用の積算根拠である。国は、くい打ちした場所は地下9・9メートル、その他は3・8メートルまでごみが埋まっているとの想定に基づいてはじいたとしている。だが、実際に想定した深さまでごみがあったかは確認していない。深さの根拠や、見積もった量のごみの撤去が実際に行われたのかもあいまいだ。ずさんとしか言いようがない。

 さらに国は当初、売却額を開示せず、野党の追及が強まった今月になって一転して明らかにした。学園側の意向を受けて伏せたという。これでは、何か知られたくない事情があると疑われても仕方あるまい。国有地は国民の大切な財産であり、その売却については公正性や透明性が不可欠だ。財務省の通達では、金額や用途などを公表するよう定めている。真摯(しんし)に説明しようとする姿勢が感じられない。

 森友学園をめぐっては、学園が運営している幼稚園の保護者向けに、外国人などへの憎悪表現ととられかねない文書を配布していたことなども問題化した経緯がある。大阪府の私立学校審議会でも学園の財務状況とともに、教育方針を疑問視する声が相次いだという。

 小学校の名誉校長を安倍晋三首相の昭恵夫人が務めていたことや、一時、「安倍晋三記念小学校」という触れ込みで寄付金を募っていたことも問題視された。安倍首相は夫人は辞任し、寄付金集めの名目に関しては学園に抗議して謝罪を受けたという。首相は自身や夫人、事務所が小学校の認可や国有地払い下げに関わっていれば「首相も国会議員も辞める」と明言したが、学園側とどんな接点があったのか説明が必要だ。

 国民の利害と、政府や政治家の信頼がかかる重要な問題である。会計検査院にはさまざまな角度から、問題点に鋭く迫ってもらいたい。

 

花咲かじいさん(2017年2月26日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 ここ掘れ、わんわん−。大判小判の金貨ではなく、ごみが出てくる。すると、役人が「この土地を8億円値引きして売ろう」と言う。さすがの花咲かじいさんも「昔話でも聞いたことがない」と驚くだろう。小学校建設が進む大阪府豊中市の国有地処分をめぐり、政府が大きく揺れている

◆土地そのものが国民の財産なのに、土中にどれだけのごみがあるか把握せず、ずさんな見積もりで学校法人に売却した。時価から86%の値引きだ。国の借金は1千兆円を超え、財政は危機的状況と言う割には、財務省もずいぶんと気前がいい

◆誰が関与したのかを検証するために交渉記録を求めると、官僚は「売買契約が終わったので文書を処分した」と。この言い分が通れば、どんな隠蔽(いんぺい)もできる。ざる法と呼ばれる政治資金規正法も含め、政官の疑惑にはなんと抜け道が多いことか。昨今騒がれた渦中の人を見ても、うやむやな幕引きだ

◆今国会に過去廃案になった共謀罪が形を変え、「テロ等準備罪」として提案される。テロ対策も大事だが、国民の財産をかすめ取る政官業の“共謀”がよほど差し迫った危機に感じる

◆国の大安売りにもかかわらず、撤去したごみの一部が敷地内に埋め戻されたという業者の証言もある。事実なら不法投棄だろう。そんな土壌では、子どもたちの未来に花は咲かない。

 

【斜光】「大人の都合学園」(2017年2月26日配信『熊本日日新聞』−「射程」)

 

 大阪府豊中市の国有地が学校法人・森友学園に格安で売却された問題が注目を集めている。不可解な点が多く、関係省庁は経緯について十分な説明を行わなければならない。

 ただし、問題なのはむしろ教育内容ではないだろうか。現在経営する「塚本幼稚園」では、園児が教育勅語を朗唱し、旧軍歌の演奏も行われる。神道系の学校とされ、保守色が強い。理事長などの幹部が在日韓国人や中国人を嫌悪する発言を行ったことも批判され、大阪府も調査している。大阪府の私学審議会でも、カリキュラムを疑問視する意見が出たという。

 「瑞穂の國記念小學院」となる小学校では、「安倍晋三記念小学校」の名称も考えられていたが、安倍氏が断った。ただし、名誉校長には安倍氏の夫人の昭恵氏が就任、このほど辞任した。安倍首相も昭恵氏も、その教育方針を評価した時期があった。稲田朋美防衛相も昨年、園児が自衛隊艦船の入港時に演奏を行ったことなどに感謝状を贈った。取り消しも検討中だ。

 中立性を要件とする公立学校と違い、私学では独自の教育も一定範囲で認められ、例えば、「聖書の時間」も道徳の一環になっている。しかし、学校が独自の価値観を教育に反映させることには慎重であるべきだ。行き過ぎると、子どもの人生に「侵入」することにもなる。子どもは大人の所有物ではない。安倍首相夫妻にも分かっていただきたいところだ。

 「カルト村で生まれました。」(高田かや著文藝春秋)という漫画の本が出た。著者は明示していないが、描かれているのは、20年ほど前に取材した、ある団体が運営する子ども生活施設の日常のようだ。親と離れる寂しさ、厳しい労働、空腹、管理する大人の体罰、限定される進路など…。

 取材では特に子どもの教育の問題点を報道した。この漫画は、その内容を事実として認めている。しかし、当時の親たちは「子どもの成長を願う真の教育」と強調。私立小中学校の設立を三重県に申請したが、同県の調査で児童虐待が明らかになり、申請は取り下げられた。現在では、全般的に運営が改善されたと聞くが…。

 当時取材した「村」出身の少年の言葉を思い出す。「あそこは『大人の都合学園』。理想を追うあまり、自分の子どもの人生を真剣に考えていない」。理念先行型の教育が生みがちな陥穽[かんせい]への警鐘と受け取った。

 

[森友学園] 国有地売却を洗い出せ(2017年2月26日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 国有地の売却に税金の無駄遣いはなかったのか。政治家は関与していないのか。経緯などを洗い出すべきだ。

 大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」(大阪市)に評価額より格安で売却された問題が、国会の焦点となっている。

 野党が「不可解」と追及するのに対し、政府は「適正な手続き」と強調するが、説得力に欠けると言わざるを得ない。

 真相解明には森友学園の籠池泰典理事長など関係者を参考人招致し、ただす必要がある。与党は野党の要求に応じるべきだ。

 一連の問題については会計検査院も検査に乗り出す。売買額の妥当性など、徹底した検証が求められる。

 問題の土地は上空が大阪空港への飛行ルートに当たることから、国土交通省大阪航空局が騒音対策のため保有していた。

 学園がそこを小学校用地として取得したいと希望し、財務省近畿財務局が交渉を担当した。

 国有地は広さ8770平方メートルあり、学園は1億3400万円の随意契約で購入したという。

 不動産鑑定士の評価額は9億5600万円だったが、小学校の建設工事中に見つかった地中のごみの撤去費用など8億2200万円を評価額から減額した。

 減額分は大阪航空局が見積もったというが、ごみの撤去に8億円余りもかかるのか。

 財務省の説明はこうだ。工事業者から深さ9.9メートルの工事中に発見したと聞き、ごみの混入率などを計算してはじき出した。

 その際、敷地内のごみの状況は確認したというが、どの場所でどんなごみが見つかったかなどは確認していない。これで適正な見積もりができるとは思えない。

 売却価格は原則に反して非公表にしていた。だが、豊中市議が非開示決定の取り消しを求めて提訴すると、一転公表した。

 財務省は交渉・面会記録も廃棄していた。規則に基づいた取り扱いだと説明しても、納得する国民はどれほどいよう。

 学園の開校予定の小学校名誉校長に、安倍晋三首相の昭恵夫人が就いていたことも分かった。

 首相は夫人が辞任したことを明らかにしたが、先日の予算委員会では「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も議員も辞める」と言い切った。

 学園を巡っては教育内容を不安視する声もある。運営する幼稚園は保護者に「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記載した文書を配布していた。教育内容など注視するべきだ。

 

[森友学園問題]理事長の参考人招致を(2017年2月26日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 全くもって不透明で不可解な取引である。

 大阪府豊中市の国有地が、近隣国有地の約1割の価格で学校法人「森友学園」に売却された問題で、さまざまな疑念が広がっている。

 発端は学園が小学校開校のため購入した敷地8770平方メートルの価格を、国が非公表としたことだ。公表が原則にもかかわらず、国有地処分の透明性に批判が集まった。

 情報公開請求をした地元の豊中市議が非開示決定の取り消しを求め提訴した直後、国は開示に転じた。驚くべきはその格安ぶりである。

 売却額1億3400万円は、不動産鑑定士の評価額9億5600万円から8億円以上も値引きした額だ。

 国は地中のごみ撤去にかかる費用を差し引いたというが、学園が取得した用地に隣接する同規模の国有地9492平方メートルは豊中市が14億2300万円で購入している。

 果たして8億円は妥当なのか。

 ごみ撤去費は、土中のごみの混入率を47%、ごみの量を1万9500トンとし、はじき出されている。

 しかし土砂の搬出に携わった業者の証言によると、実際に掘り出したごみは国の見積もりの5分の1程度。その半分は「処分費がかかるから」と埋め戻したという。

 国の方からごみ撤去費用を見積もって値引きした例はなく、異例の契約だったことも指摘されている。

 国の財産を適正な対価なく譲渡したとなれば財政法違反の疑いも出てくる。

■    ■

 森友学園が大阪市内で運営する幼稚園は、戦前の「教育勅語」を暗唱させるなどの教育で知られる。

 その幼稚園で「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」など不適切な表現の文書を保護者に配っていた問題も発覚している。

 幼稚園のホームページには学園理事長で幼稚園園長の籠池泰典氏が、翁長雄志知事を「中共の手先かもしれない」などと中傷するコラムも掲載されており、教育機関としての適格性に疑問符がつく。

 釈然としないのは開校予定の小学校の名誉校長が最近まで安倍晋三首相の妻昭恵さんだったことだ。「安倍晋三記念小学校」の名で寄付金集めをしたことも分かっている。

 安倍氏は24日の衆院予算委員会で昭恵夫人が名誉校長を辞任し、寄付金集めに抗議したことを明らかにしたが、「優れた道徳教育」と称賛し名誉校長に就任した経緯についての説明は不十分だ。

■    ■

 異例の契約にもかかわらず、財務省が売買を巡る近畿財務局と学園側との交渉や面会の記録を「破棄した」と語っていることにも驚く。

 防衛省が廃棄したとし問題になった南スーダン国連平和維持活動派遣部隊の日報同様、「不都合な文書」は残さないというのが国の姿勢なのか。

 問題は多岐にわたっている。野党が求める理事長の参考人招致に与党は応じるべきだ。

 国民の財産の問題であり、国会で徹底的に真相を究明してもらいたい。

 

国有地格安売却 何から何まで疑問だらけだ(2017年2月26日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 国民の財産である国有地が破格の安値で払い下げられた。何から何まで疑問だらけである。会計検査院は不透明な経過を調査する。安倍政権は真相を明らかにする責務がある。国会も徹底調査し、国民に広がる疑念に応えるべきだ。

 大阪府豊中市の国有地約8770平方メートルが昨年、学校法人「森友学園」にことし4月開校予定の小学校用地として1億3400万円で売却された。国の評価額のわずか14%である。

 評価額は9億5600万円だったが、学園が「地下に埋まったごみがある」と連絡し、国土交通省大阪航空局がごみ撤去費用を8億1900万円と算定し、評価額からこの額などを大幅値引きした。

 加えて、国は汚染土壌の除去費用として1億3200万円弱を支払った。国が得たのは200万円余で、学園は「ただ同然」で土地を手に入れた。国家財政に寄与しない資産売却は到底納得できない。

 ごみ撤去費用や契約の経緯についても疑念ばかりが募る。学園側はごみ撤去は校舎部分だけ行い、運動場は工事していないという。撤去する土砂搬出を担った業者から「土は敷地内に埋めた」とする証言も飛び出した。

 国は地中のごみをどう確認し、撤去費を算定したかについて明確に説明できていない。実際にどれだけの量のごみがあり、撤去費用にどれだけ要したかも学園側に確認していない。

 当初、財務局は売却額を非開示とし、野党に追及されて明らかにした。さらに売却交渉の記録を廃棄していた。隠蔽(いんぺい)さえ疑われるないないずくしである。取引は昨年のことであり、電子データなどが残っているはずだ。すぐに探し出し、事実を報告せねばならない。

 「教育勅語」を幼稚園児に暗唱させている森友学園は、在日韓国人や中国人への憎悪表現に近い文書を保護者向けに配布した。籠池泰典理事長がコラムで、翁長雄志知事について「娘婿も支那人。中共(中国共産党)に従いたいと心から思っている」などと事実に基づかない内容を記してもいた。教育機関としての適格性も検証する必要がある。

 学園は名誉校長に首相夫人の昭恵さんを据え、一時「安倍晋三記念小学校」名目で寄付金を集めていた。夫人は辞任し、首相は払い下げへの関与を否定している。理事長の参考人招致など、与野党で真相を徹底究明してほしい。

 

家庭教育支援法案(2017年2月1日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 認可保育園の入所通知が届く時期が来た。“保活”をしても保育園に入れなかった人もいるだろう。県外ではベビーシッター会社が、自治体の不承諾通知を1万円で買い取り、シッター代として割り引くサービスまで登場した

▼安倍晋三首相は、2017年度末までに待機児童をゼロにするとの目標を断念した。保育を希望する働く親の増加に、受け皿が足りない状況が続く

▼身近な待機児童問題を解決せずに、自民党は今国会で「家庭教育支援法案」の提出を目指している。一見、家庭のために何らかの支援をするかのように見えるが、家庭教育を「保護者の第一義的責任」とし「子に必要な生活習慣を身に付けさせる」など当たり前のことを明文化している

▼改めて法で定めるまでもないことを、なぜ規定するのか。住民に国や自治体の施策への協力を求めるが、その施策が何なのか分からない

▼国が家庭教育まで口出しする印象がどうも拭えない。識者の中には「従順で国に逆らわないような子どもを育てようとしている」と指摘する人もいる

▼国有地売却問題で揺れる「森友学園」が新設する小学校のホームページには「愛国心の醸成」「天皇国日本を再認識」などの言葉が並ぶ。学園との関係を否定した安倍首相だが、教育基本法を改正し愛国心教育を強化した首相である。思想的には近いのでは、と法案を見て思う。

 

豊中の学校用地 売却経緯の徹底究明を(2017年2月25日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地が学校法人「森友学園」に対し、評価額より大幅に安く払い下げられた問題が、国会の焦点に浮上した。

 鑑定士の評価額は9億5600万円にもかかわらず、土中の廃棄物の撤去費用などが差し引かれ、1億3400万円で売却された。

 およそ86%の減額である。

 売却に責任を負う麻生太郎財務相はきのうの答弁で、適正に処理されたと繰り返したが、8億円超の減額の根拠は判然としない。

 学園が運営する幼稚園で差別表現を含んだ文書が配られ、小学校建設の寄付金集めに安倍晋三首相の名前が使われた問題もある。

 売却経緯と教育機関としての適格性、ともに疑問が拭えない。国会は徹底的に究明すべきだ。

 問題の土地は国土交通省大阪航空局が大阪空港(兵庫県伊丹市)の騒音対策として保有していた。広さは8770平方メートルという。

 政府側は売却手続きの法的な正当性を主張するが、きのうの答弁を聞く限り、減額の根拠となった廃棄物の埋設状況を政府が確認できていたのか、不明確だ。

 森友学園の籠池泰典理事長は共同通信の取材に対し、廃棄物の撤去の費用は「数千万円ではきかない」と述べている。なぜ8億円まで膨らんだのか納得がいかない。

 財務省は調査を徹底し、説明を尽くすべきだ。首相も行政の長としての責任を自覚してほしい。

 さらに問題を不透明にしているのが、開設予定の小学校の名誉校長に首相の妻昭恵さんが一時就任し、学園が首相の名前を使って寄付金を集めていた事実である。

 首相はきのうの答弁で、昭恵さんが依頼を受諾した経緯を認めた上で、既に辞任したと説明。「安倍晋三記念小学校」の名による寄付金集めについて抗議し、学園側から謝罪があったと述べた。

 だが首相や「首相夫人」の名前が、学園側に不当に利用されたとすればそれでは済まされまい。国会で当事者の説明が聴きたい。

 にもかかわらず与党側は、野党が求める籠池理事長の参考人招致に消極的だ。首相は自民党総裁として、野党の要求に応じるよう党に指示してはどうか。

 森友学園が運営する「塚本幼稚園」は昨年、「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記した文書を保護者に配布。憎悪表現にあたる恐れがあるとして、大阪府が事情を聴いている。

 ヘイトスピーチ対策法の趣旨に反する可能性も高い。この機会に検証が求められよう。

 

大阪の国有地売却 「値引き」は適正なのか(2017年2月25日配信『秋田魁新報』−「社説」)

 

 大阪府豊中市の国有地が評価額から大幅に「値引き」されて学校法人に売却されたことを巡り、国会で激しいやりとりが続いている。会計検査院も検査に乗り出す方針だ。

 問題となっているのは、大阪市の学校法人「森友学園」が私立小学校用地とした8770平方メートルの国有地。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円だったが、近畿財務局は昨年6月に1億3400万円で売却する随意契約を学園側と結んだ。

 値引きをしたのは、学校建設工事で地中からごみが出てきたとの連絡が昨年3月に学園側からあったため、と財務局は説明している。ごみの撤去費を8億円余りと見積もり、その分を評価額から差し引いて売却することにしたという。

 ただ、財務局は地中にどんなごみがどれだけあるかは実測していないという。撤去費の根拠も明確でなく、妥当な額だったのかという疑問は拭えない。財務省は適正な売買だったと繰り返すが、説得力に欠ける。

 ごみ撤去の費用を差し引いたのであれば、学園側がその額できちんと撤去したのか、財務局として確かめるべきだ―。そう思うのが国民感情だろう。だが昨日の衆院予算委員会で財務省幹部は、撤去するかどうかは学園側の判断だとし、国が撤去の事実を確認する義務はないとの認識を示した。

 財務局は一昨年2月、国有財産の処分について有識者に意見を聞く近畿地方の審議会で、土地は学園側に貸し付けて10年後に買い取ってもらう契約と説明していた。だが、値引きして売却する契約に切り替えることはその後の審議会で報告されていない。審議会に諮らずに大きな変更をしたのは不誠実だ。

 財務局は、豊中市議が昨年9月にこの土地の契約内容について情報公開請求した際、売却額を非開示とした。財務省は国有財産の随意契約に関し、金額や用途を公表するよう通達している。だが財務局は、非公開を望む学園側の意向を優先した。今月10日になって公表したとはいえ、値引き額を隠そうとしたと受け取られても仕方ない。

 また、学園側との売買交渉記録が廃棄されていたことが昨日分かった。これでは手続きや金額が適正か検証できず、野党が批判を強めるのは当然だ。

 買い手の学園側は資金難が伝えられ、審議会でもこの点を不安視する声があった。学園側は新設校名を「安倍晋三記念小学校」とする旨を記した文書で寄付金を募ったこともある。国有地の売却先として適格だったのかどうかを含め、会計検査院には徹底した検査を望みたい。

 国は公共施設の存廃指針となる管理計画の策定を自治体に求めており、自治体が遊休財産の民間譲渡を検討するケースは増えそうだ。譲渡に当たっては県内自治体も豊中市の問題を教訓に、手続きの透明性を担保する必要がある。

 

国有地売却 適正か疑念が拭えない(2017年2月25日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 適正に行ったと政府は繰り返すものの、疑念が拭えない。

 大阪府豊中市の国有地が評価額の14%という大幅な安値で売却されていた問題だ。国民の財産である。経緯をはっきりさせなくてはならない。

 国土交通省大阪航空局が航空機の騒音対策のため保有していた8770平方メートルの土地である。大阪市の学校法人「森友学園」が小学校用地として1億3400万円で取得している。

 土地の評価額は9億5600万円だった。深い土中にあったごみを撤去する費用として8億円余りを差し引いたという。

 国は当初、学園側と10年間の定期借地契約を結んでいた。学校建設としては異例のことだ。その段階で、浅い土中に土壌汚染や廃材などのごみがあると分かり、土壌を入れ替えたりした対価として国から学園側に1億3100万円が支払われてもいる。

 政府は「法令に基づき適正に処分した」としている。売却価格について「通達や基準に基づく撤去費用の算定を踏まえた」とする。

 しかし、国は肝心のごみの存在をきちんと確認していない。どこにどんなものがあるのか分からないで、なぜ撤去費用をはじき出せるのか。ずさんな仕事だ。

 売却交渉した財務省近畿財務局が売却額を非開示としていたのも疑問だ。学園側から「ごみの存在が知られると、風評のリスクが懸念される」と要請があったためという。国民が知って当然の情報である。大幅な減額を伏せようとしたと勘繰られても仕方ない。

 4月に開設される予定の小学校は安倍晋三首相の夫人、昭恵さんが名誉校長に就き、ホームページには総理大臣夫人の肩書で「ごあいさつ」が掲載されていた。軽率と言うほかない。首相はきのう夫人が名誉校長を辞任したことを明らかにしている。

 不自然な点が多い国有地売却である。国と学園側のやりとり、価格決定の経緯など詳細を明らかにしなくてはならない。

 会計検査院が検査に乗り出すことになっている。検査院長は国会で「事実関係を確認し、多角的な観点から検査を実施したい」と述べた。売却が適切だったのか、政府から独立した機関として厳しくチェックするよう求める。

 国会の責任はむろん重い。野党は学園の理事長の参考人招致などを求めている。与党は応じるべきだ。交渉に当たった国の担当者を含め、関係者から詳しく話を聞く必要がある。

 

国有地売却 「格安」への疑問に答えよ(2017年2月25日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 あまりにも金額や経緯に不可解な点が多い。

 大阪市の学校法人「森友学園」が小学校用地として、大阪府豊中市の国有地を評価額より大幅に安く取得していた。

 国有地の評価額は9億5600万円だった。ところが学園は、評価額のわずか14%の1億3400万円で購入したのである。

 財務省は金額について、地中のごみ撤去費用など8億円余りを評価額から差し引いたと説明する。

 しかし、ごみ撤去費用の見積もりや土地取得の経緯について、次々と疑問が浮かび上がっている。

 それなのに財務省は、学園側との交渉や面会の記録を廃棄していたという。あきれるほかない。

 そもそもこの土地を巡っては、学園側と財務省近畿財務局が2015年5月、10年間の定期借地契約を締結している。

 学園側は取得を希望したもののまとまった資金がなかったためだというが、学校建設として10年間の定期借地というのは異例だ。

 16年3月には学園側が土地の深い地点でごみが見つかったと申告し、その後に土地購入の意思を示していたのである。

 ごみの撤去費用に関しても、謎が深まるばかりだ。

 学園側は1億円を超えるとの見解を示し、国は学園が実際に負担した額は把握していない。

 それどころか民進党が視察したところ、国の担当者からは学園側の申告通りに深い地点からごみが出たことを裏付ける説明はなかったというのである。

 これでは撤去費の積算根拠が疑われても仕方がないだろう。

 その上に売買は随意契約で、売却額を非開示にしていた。学園側の意向というのが財務省の説明だが、国民の財産である土地の売買が随意契約で、金額を非開示とした妥当性も問われる。

 学園は、大阪市内で運営する幼稚園で戦前の「教育勅語」を暗唱させるなどの教育で知られる。

 今月には、保護者に「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」と記載した文書を配布していたことが明らかになった。

 大阪府などには退園した保護者から「偏った教育方針で退園を余儀なくされた」などといった訴えや苦情も相次いでいる。

 4月開校予定の小学校の名誉校長は安倍晋三首相の昭恵夫人が務め、学園は「安倍晋三記念小学校」名目で寄付金を集めていた。

 安倍首相は24日の衆院予算委員会などで、昭恵夫人が名誉校長を辞任したと説明し、寄付金集めで名前を使われたことに抗議し、謝罪があったことも明らかにした。

 国有地払い下げについては「私や妻、事務所は関わっていない」と述べ、自身が学園側から政治資金の寄付を受けるなどしたこともないと明言した。

 それが事実だとしても、他の政治家の口利きや、財務省に忖度(そんたく)などはなかったのか。

 会計検査院は国の見積もりや売買に税金の無駄遣いがなかったか検査に乗り出す。

 国民の疑問に対して、政府自らが究明し答えるべきだ。

 

森友学園 理事長は国会で説明を(2017年2月25日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 大阪府豊中市内の国有地が格安の価格で学校法人「森友学園」に小学校用地として売却された問題は、さらに疑念が広がりつつある。

 安倍晋三首相はきのうの衆院予算委員会で、昭恵夫人がこの小学校の名誉校長を辞任したことを明らかにした。国民の関心も高まる中、首相としてもこのまま放置しておくわけにはいかないと判断したのだろう。

 首相はこの日「妻が名誉校長を引き受けたことで、子供たちやご両親にかえってご迷惑をかける」と辞任の理由を説明した。昭恵氏が関係したことで騒ぎがさらに広がってしまったという意味だろうか。迷惑の意味は必ずしも明確ではなかった。

 さらに首相は同学園が「安倍晋三記念小学校」の名で寄付金を集めた点について「非常に驚愕(きょうがく)した」「極めて遺憾だ」とも語った。勝手に名前を使われて、自分の方が被害者だと言わんばかりの答弁だった。

 ただし昭恵氏は同学園が運営する幼稚園で以前講演し、「こちらの教育方針は大変、主人も素晴らしいと思っている」と語っている。首相がこの日説明したように、当初、昭恵氏は名誉校長就任は固辞しようとしたものの断り切れなかったという事情だったのかどうか。そして、なぜ問題が表面化する前に対応できなかったのか。依然疑問が残る。

 もちろん、まず解明すべきは不透明な土地の売却にある。

 売却価格が大幅減額された大きな要因は、問題の土地の地下にあるごみの撤去費用を約8億円と見込んだ点にある。費用は近畿財務局の依頼で大阪航空局が見積もったという。

 しかし、こうした場合、専門業者が見積もるのが一般的で、財務省も国の機関が直接見積もるのは前例が見つからないと認めている。

 麻生太郎副総理兼財務相は一貫して「適正な手続きだった」と答弁しているが、具体的な根拠は乏しい。

 一方で財務省は用地の売買をめぐる同学園側と近畿財務局との交渉記録を「2016年6月の売買契約成立後に破棄した」と報告した。これで納得しろというのが無理だ。

 森友学園の籠池(かごいけ)泰典理事長は一部メディアのインタビューに応じている。やはりここは、同理事長や近畿財務局、大阪航空局の担当者を参考人として国会に招致し、説明を聞く必要がある。自民党は野党側の参考人招致要求に応じるべきだ。

 4月開校を目指す同小学校は入学希望者が現在、定員の半数程度にとどまり、設置認可を判断する大阪府の私立学校審議会でも「財務状況に不安がある」との指摘が出ている。今のままで認可するのは困難だと思われる。子供や親の迷惑を考えるなら早急に判断を下した方がいい。

 

首相夫人の哲学(2017年2月25日配信『朝日新聞』−「天声人語」)

 

 首相夫人としてどう行動すればいいのか。安倍昭恵さんは、かつてローラ・ブッシュ米大統領夫人にかけられた言葉を大切にしてきた。「自分が何をしたいか、何を得意としてきたかを考え、それを継続してやるのが一番ですよ」

▼自著『「私」を生きる』にそう書いた昭恵さんの行動が、国会を騒がせている。大阪府豊中市で今春開校する予定の私立小学校の名誉校長に就くはずだった。学校の建設用地が相場をはるかに下回る価格で国から学校側へ売却されていたことが発覚。昭恵さんは就任を辞退した

▼この学校は、教育の要として「天皇国日本を再認識」「教育勅語素読」などを掲げる。〈我が臣民克(よ)く忠に克く孝に億兆心を一(いつ)にして〉。系列の幼稚園では園児が大きな声で教育勅語の一節を唱和している。テレビ東京が報じたその映像を見て驚愕(きょうがく)した

▼「『安倍晋三記念小学校』は私自身も驚愕した。連続してお断りしたにもかかわらず、名前を使われたことは遺憾だと抗議した」。寄付集めに自身の名が使用されたことについて、当の首相はそう答弁した

▼国有地売買をめぐる経緯には不明朗な点が少なくない。折衝の記録は公開すべきだと思うが、財務省は捨ててしまったという。残念極まりない

▼これまで「家庭内野党」を自任した昭恵さんである。原発の再稼働に慎重で、被災地の防潮堤に疑問を呈した。学校で教育勅語を唱えさせる――。本当に「何をしたいか、何を得意としてきたか」を考えた結果なのだろうか。

 

豊中の国有地/聞けば聞くほど不可解だ(2017年2月25日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 聞けば聞くほど不可解な国有地の払い下げである。大阪市の学校法人「森友学園」が評価額のわずか14%の金額で、大阪府豊中市の国有地を小学校建設用地として取得した。国会で連日、真相究明に向けて野党の追及が続いている。

 国有地の広さは8770平方メートルで、国土交通省大阪航空局が保有していた。不動産鑑定士による評価額は9億5600万円とされ、交渉には財務省近畿財務局が当たった。

 いったん10年間の定期借地契約が結ばれ、建設工事が始まった。その後、学園側から「土中でヒ素や鉛、廃材などのごみが見つかった」と連絡があり、対策費として国から1億3100万円が支払われている。

 最終的に、大阪航空局がごみの撤去費用を8億2200万円と見積もり、評価額からその分を差し引いて1億3400万円で学園と売買契約を結んだ。国が支払った対策費とほぼ同額で、ただのような価格で払い下げられたことになる。

 驚かされるのは、国側が実際にごみの撤去作業が行われているのか、確認していなかったことだ。土地のどこからごみが出たのかも曖昧だ。

 大阪府の松井一郎知事が「財務局の職務怠慢だ。ごみがなければ森友学園の詐欺行為となる」と批判するのも当然だ。

 だが、麻生太郎財務相を始め、担当閣僚は答弁で「適正な手続きで処分した」と繰り返すばかりで、根拠を示そうとしない。無責任と言うしかない。

 しかも、財務省は売買交渉の記録を契約成立後にすべて廃棄したと説明している。国有地は国民の財産である。交渉の記録は公開を前提に保管するのが原則のはずだ。あまりに不自然ではないか。

 建設中の小学校は安倍晋三首相の妻が名誉校長になっていたが、問題発覚後に辞任した。さらに学園が首相の名前を使って寄付金を集めていたことも明らかになった。

 首相は自らや妻の関与は否定し、「与党議員の不当な働き掛けはなかったと報告を受けた」と答弁している。それなら政治家による接触の有無を含め、政府として事実関係を調べて明らかにすべきである。

 会計検査院が調査に乗り出すことが決まった。国会は学園理事長を参考人招致し、疑惑を徹底的に追及しなければならない。

 

(2017年2月25日配信『徳島新聞』−「鳴潮」)

 

 黒板に向かって必死に書いている2人の教師。チョークの粉が新調したばかりの服の袖にかかる。1人は「これ先週買ったばかりなのに」と言いつつ白い粉を振り払う。もう1人は、粉に気づかず、何かつぶやきながら一心不乱に板書を続ける

 <いずれが、子どもたちの心をぐいとつかむだろうか。震わせるだろうか>。哲学者鷲田清一さんの「人生はいつもちぐはぐ」(角川ソフィア文庫)にある。子どもは<その姿、その佇(たたず)まいを、後ろからしかと見ているのだ>

 さて、渦中の大人たちの姿、その佇まいを、多くはどう見ているのか。大阪府豊中市の国有地が、学校法人「森友学園」(大阪市)に評価額の14%の値段で売却された問題である

 更地の評価額は9億5600万円だったが、深い土中にごみや廃材などが見つかったとの申告があり、撤去費用を差し引き、売却額は1億3400万円になったという

 評価額は、ほぼ同じ規模の、隣接する国有地より4億円以上も違った。ごみなどの撤去費用に果たして8億円余も必要だったのか。しかも、法人の意向で売却額は当初、開示されなかった。不可解で不透明である

 ガラス張りにして事実を明らかにするのが筋だろう。企業の危機管理の要諦は「隠さない、うそをつかない」だ。後ろからしかと見ている人がいることを忘れずに。

 

〈朕惟フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇(ムルコト宏遠ニ〉(2017年2月25日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 〈朕(ちん)惟(おも)フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠ニ…〉。終戦から70年を過ぎた今でも、そらんじられる人は少なくなかろう。1890年に発布された「教育勅語」である

▼忠孝を重んじる道徳観に基づき、天皇や国家への忠誠など「臣民」の心構えを示した。教育の根幹として戦前の学校で奉読され、戦後、教育基本法の施行に伴い廃止された

▼その教育勅語を園児が暗唱する映像を見てぎょっとした。大阪市の学校法人が運営する幼稚園。親孝行し、兄弟、夫婦は仲良く、友と信じ合い…といった部分はともかく、〈一旦(いったん)緩急アレハ義勇公ニ奉シ以(もっ)テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ〉はどうか。危急の事態には忠義と勇気で国家に奉仕し永遠に続く皇室を助けよ、と

▼私学の教育理念は自由だ。だが、法人が今春開校する予定の小学校は、名誉校長が安倍晋三首相の妻(既に辞任)で、「安倍晋三記念小学校」として寄付を集めていたとすれば話は違う

▼さらに学校用地は、国有地が相場の1割程度の格安で売却されたのでは、との疑いが浮上した。財務省は地下の廃棄物の撤去費用を差し引いた「適正価格」とするが、実際に費用がいくらかかったのかはっきりしない

▼野党からは政治家の関与を疑う声が。安倍首相は「私や妻が関係していれば、首相や国会議員を辞める」と言い切った。そこまでの覚悟なら、徹底的に疑惑を解明し、すっきりするのがよかろう

 

豊中の学校用地 払い下げ適正だったか(2017年2月24日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 国民の貴重な財産が不当な安値で売却されていたら、到底許されるはずがない。学校法人「森友学園」への国有地払い下げは適正だったのか。国会の場で徹底調査し、国民の疑念を晴らすべきだ。

 問題の土地は大阪府豊中市にある8770平方メートルの国有地。森友学園が4月開校予定の小学校用地として1億3400万円で取得した。随意契約で、近隣国有地の10分の1程度だという。

 財務省近畿財務局が依頼した不動産鑑定士による評価額は9億5600万円だったが、「地下埋設物がある」との学園側からの連絡を受け、管理していた国土交通省大阪航空局がごみの撤去費用を約8億円と算定し、その分を差し引いた。

 評価額の約14%という安値だ。ごみの撤去に実際に8億円以上要したのなら妥当だろうが、同学園の籠池泰典理事長はTBSラジオの電話インタビューで、撤去工事は校舎部分でのみ行い、運動場部分では行っていないと述べた。

 ごみの撤去とは別に、汚染土壌の除去費用として国は学園側に1億3200万円弱を支払った。国有地を手放す代わりに国が得たのは約200万円と指摘される。

 菅義偉官房長官は「法令に基づき適正に処分した」と述べたが、実際にどのような工事が行われたのか、国は確認していない。国有地の扱いにしては厳格さを欠く。

 大阪府の松井一郎知事は記者会見で「ごみがなければ、土地を安くするための森友学園の詐欺行為となる」と指摘した。国会は国政調査権を駆使し、事実関係を明らかにする責務がある。

 学園が運営する既存の幼稚園は国に尽くすことなどを定めた「教育勅語」を園児に暗唱させることで知られる。昨年には「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」と記した文書を保護者向けに配布し、差別表現に当たる恐れがあるとして大阪府が学園から事情を聴いた経緯がある。教育機関としての適格性も合わせて検証されるべきだろう。

 学園は小学校の名誉校長を安倍晋三首相の夫人、昭恵さんとし、一時は「安倍晋三記念小学校」名目で寄付金を集めていた。

 首相は国有地払い下げや小学校認可への関与を否定し、「関係しているということであれば、首相も国会議員も辞める」と述べた。

 首相の地位にも関わる重要な問題だからこそ、真相究明の手綱を緩めては決してならない。与野党を問わず、国会の責任は重い。

 

大阪の国有地売却 「破格」の安値 疑問点が多すぎる(2017年2月24日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 国民の財産である国有地が不当に安く処分されたと疑わざるを得ない。財務省近畿財務局が大阪府豊中市の国有地8770平方メートルを学校法人「森友学園」(大阪市)に、小学校新設予定地として評価額の14%で売っていた。随意契約だった上に、当初は学園側の要望で売却額を開示しないなど、国の姿勢は透明性を欠いている。真相を徹底的に究明しなければならない。

 問題の土地は国土交通省大阪航空局が保有していた。不動産鑑定士による更地の評価額は9億5600万円。しかし、地中深くで見つかったとされるごみの撤去費用を航空局が8億2200万円と見積もり、その額を差し引いた1億3400万円で売却された。

 隣接する国有地9492平方メートルは7年前に豊中市が購入しているが、その額が14億円余りだったことを考えると、学園の取得額は「破格」。しかも学園側は実際のごみ撤去費用を「1億円は超える」とする程度で、詳細を明らかにしていない。

 民進党の国会議員による聞き取りに対し、財務局や航空局はごみが出た地点を答えられなかった。きちんと撤去したかどうか確認せず、学園側が実際にいくら負担したかも把握していない。ずさんと言うほかない。

 学園側はそれ以前にも、浅い土中にヒ素や鉛の土壌汚染があり、国に代わり土壌入れ替え作業をしたとして、国から1億3100万円を受け取っている。結局、国の収入は300万円程度にすぎない。

 国はまず、なぜ随意契約だったのかや、ごみ撤去費用の算定基準を説明するべきだ。学園側もそれぞれの作業で実際にいくらかかったのか、詳細を明らかにする必要がある。

 さらに懸念されるのは、安倍晋三首相の妻の昭恵氏が名誉校長になっていることだ。「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付金を集めていたことも分かっている。土地の売却に関して政治家の関与や、首相への「忖度」が決してあってはならない。

 首相は寄付集めについて、衆院予算委員会での民進議員の指摘で「初めて知った」としたほか、土地の売却などへの関与を否定し「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と言い切った。もし勝手に名前を使われたのなら、厳重に抗議をするのが筋。自ら積極的に解明に動くべきだ。

 森友学園が運営する幼稚園は「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記載した文書を保護者向けに配布するなど、差別的な姿勢が大阪府に問題視された。戦前の「教育勅語」を暗唱させるなどの教育でも知られる。府の私立学校審議会でも、学園の財務状況や教育方針を疑問視する声が相次いだ。府は小学校の設置認可を慎重に判断しなければならない。

 民進は国会への法人理事長の参考人招致を求めている。数々の疑惑を明らかにするために、一日も早い実現を望む。

 

豊中の国有地売却  あまりに不透明な取引だ(2017年2月24日配信『徳島新聞』−「社説」)

                                         

 疑問は膨らむばかりだ。政府は説明を尽くさなければならない。

 大阪府豊中市の国有地が、学校法人「森友学園」(大阪市)に評価額の14%の値段で売却された問題である。国有地は国民の貴重な財産だ。取引は適正だったのか。

 売却されたのは、国土交通省大阪航空局が保有していた8770平方メートルの土地だ。昨年、森友学園が今春開校予定の小学校用地として、随意契約で1億3400万円で購入した。

 財務省近畿財務局の依頼を受けた不動産鑑定士による更地の評価額は、9億5600万円だった。ところが、学園側が深い土中にごみや廃材などが見つかったと申告し、航空局が撤去費用などを8億2200万円と見積もった。安くなったのは、それを差し引いたためだという。

 森友学園は、購入前の2015年に財務局と定期借地契約を結び、校舎の建設を始めた。そこで浅い土中に土壌汚染やごみがあることが分かり、土壌入れ替えなどの対価として、国から1億3100万円を支払われている。

 ふに落ちないのは、土地の評価額だ。豊中市は隣接する同規模の国有地を10年に14億2300万円で購入した。なぜ4億円以上も違うのか。

 ごみの撤去費用8億円余の積算根拠も、極めて不透明である。財務省は、ごみの深さを工事関係者から聴き取りで確認したとし、本当にごみがあったかどうかは確認していないことを認めた。

 民進党議員らが現地視察した際も、財務、国交両省は、学園側の申告通りに深い土中からごみが出たことを裏付ける説明ができなかった。

 地中深くにごみはあったのか。撤去に8億円余が必要だったのか。実際にどれだけの費用がかかったのか。いずれも昨年のことであり、調べれば分かるはずだ。

 財務局は当初、豊中市議の情報公開請求に対し、売却額を開示しなかった。学園側から要請されたというが、非開示は許されない。随意契約なのも不可解だ。公にしたくない事情があったのだろうか。

 森友学園を巡っては、運営する幼稚園が「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」などと記した文書を保護者らに配り、憎悪表現の恐れがあるとして、大阪府が理事長らから事情を聴いていたことが分かっている。園は、戦前の「教育勅語」を暗唱させるなどの教育で知られる。

 理事長は憲法改正を主張する「日本会議」のメンバーであり、開校予定の小学校の名誉校長は安倍晋三首相の夫人昭恵さんだ。「安倍晋三記念小学校」の名で建設費用の寄付を募っていたこともある。

 安倍首相は一切の関与を否定し、関係していれば「首相も国会議員も辞める」と断言した。

 民進党は理事長の参考人招致を求めている。与党は難色を示したが、国会での真相解明を急ぐべきである。

 

国有地格安払い下げ(2017年2月24日配信『佐賀新聞』−「論説」)

誰の指示か、徹底解明を

小学校新設をめぐる不透明な国有地払い下げ問題が波紋を広げている。10億円近くの価値がある土地を、国はごみ撤去などを理由に値引きし、格安で学校法人に売却した。野党は学校法人理事長の国会招致を求めているが、名誉校長には首相夫人の名前があり、安倍晋三首相自身も追及の矢面に立っている。

 問題の土地は大阪府豊中市の国有地8770平方メートル。国が依頼した不動産鑑定では、土地の評価額は9億5600万円だった。

 学校法人「森友学園」は当初、土地購入資金を用意できず、国と異例とも言える10年間の定期借地契約を結んだ。学園側は浅い土中に廃材などのごみがあると指摘し、土を入れ替える対価として、国から1億3100万円を受け取っている。

 学園側が深い土中からごみが見つかったと再び訴えたため、国は土地評価額からごみ撤去費名目として8億円あまりを値引きし、国が支払った土壌対策費とほぼ同額の1億3400万円で売却した。

 学園側は評価額の14%にあたる格安価格で土地を入手した。一方、国はこの国有地売却で300万円余りしか手にしていない。国の資産処分は財政への寄与が大原則であると考えれば、とても納得がいくものではない。

 当然、公平性も欠く。学校建設地の隣には、ほぼ同規模(9492平方メートル)の市営公園があるが、市が2010年に14億2300万円で購入した国有地だった。学校建設地は国有地にもかかわらず、市議が開示請求を出すまで、売却額を非開示としてきた。

 そもそも、ごみ撤去費は正しく見積もられたものなのか。財務省近畿財務局と土地を保有する国土交通省大阪航空局が売却に関わっているが、8億円もの撤去費用がかかったごみが敷地内のどこに、どれほどの量があったのか具体的な説明ができないでいる。

 一方で、学園の理事長は開き直ったように堂々と、「(撤去費は)数千万円ではきかないが、8億円は下回る」と話す。理事長の言葉が正しければ、官僚たちの値引きの根拠が崩れる。そうであるなら、なぜ国への背信行為とも言えるような安売りをしたのかが次は問われる。

 4月に開校予定の小学校名は「瑞穂の国記念小學院」だが、当初は「安倍晋三記念小学校」という名で寄付金集めが行われた。昭恵夫人が名誉校長を務めていることを考えれば、夫妻で「広告塔」を担ってきたといえる。また、理事長は首相を支える保守系団体「日本会議」のメンバーだ。

 安倍首相は国会答弁で「私や妻、事務所が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と国有地問題への関与を強く否定する。しかし、関係者の顔ぶれをみれば、官僚たちが首相と学園との近い関係を意識した可能性は否定できないだろう。

 担当者たちにしても、リスクを冒して加担しても何の得にもならない話だ。誰の判断で決まったのか、徹底的に解明すべきだ。

 国有地は言うまでもなく国民の財産である。こんなずさんな売却は今回が特別なのか、あるいは、国民が知らないだけで頻繁に起きているのか。行政の公正さを示すためにも、国民が納得する調査を進めてほしい。

 

大阪・国有地売却 適正な処理とは言えぬ(2017年2月23日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 国民の財産が不当に安く処分されたのではないか。そういう疑いを抱かざるを得ない。

 大阪府豊中市の国有地が学校法人に評価額を大幅に下回る価格で売却された。財務省は「適正に処理した」と主張するが、判明してきた事実を見れば、売却をめぐる疑惑はむしろ膨らむ。

 国有地は8770平方メートルあり、国土交通省大阪航空局が管理していた。近畿財務局が売却先を公募し、小学校新設予定地として取得を希望した学校法人「森友学園」(大阪市)と昨年6月に随意契約を結び、1億3400万円で売った。不動産鑑定士の評価額は9億5600万円で、8億円以上も減額したことになる。

 国交省は、地中から見つかった廃材や生活ごみなどの撤去費用を約8億2000万円と見積もり、その額を差し引いたと説明する。

 しかし、地中のごみをどのように確認したのか、実際の撤去費用はどれくらいかといった疑問には答えていない。ごみ撤去と別に、法人が実施した汚染土壌の除去費用として国は約1億3200万円を支払っており、国の収入は約200万円に過ぎない。

 そもそも公募なのになぜ随意契約だったのかも含めて、売却までの流れに不可解な点は多い。

 国有財産を売却した場合、金額や用途を公表するよう財務省は通達で定めている。契約の透明性と公正性を確保するためだ。不正な売買で損害を受けるのは国民である。

 ところが今回、豊中市議の情報公開請求に対して、国は売却額の非開示を決定した。市議が決定取り消しを求めて大阪地裁に提訴するとその直後に公表した。

 非開示としたのは法人の要望があったからだという。買い手の意向で非公開とするのでは、情報公開制度は骨抜きになってしまう。

 森友学園がすでに運営している幼稚園では「よこしまな考え方を持った在日韓国人や支那人」といった差別表現のある文書を保護者に配布したことが分かり、大阪府は法人理事長らから事情を聴いた。教育機関としての適格性に疑問が持たれてもやむを得ない。

 小学校は4月開校の予定で、名誉校長に安倍晋三首相の妻昭恵氏が就くという。法人は一時期、「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付を集めていた。

 衆院予算委員会で安倍首相は土地売却や学校認可への関与を否定し、「関係していれば首相も国会議員も辞める」と答弁した。

 首相の名前が使われた経緯も不可解だ。勝手に利用されたとすれば、首相は抗議するのが筋ではないか。

 国会での徹底した究明が必要だ。

 

世の中は思い通りにならない(2017年2月23日配信『毎日新聞』−「余禄」)

 

 世の中は思い通りにならない。とくに子どもの教育はそうである。国も同じで、必死に日本の独立を守った明治の先人は教育勅語を子孫に残し後世の安泰を願った。しかしそれを覚え込まされた世代は無残にも大日本帝国を滅亡させる

▲だが世の中にはこの21世紀にもう一度試そうという人もいるらしい。教育勅語を園児に暗唱させる幼稚園を運営する学校法人が今度は小学校を作るという話である。だがその大阪府豊中市の用地が不思議な安値で売られた国有地とあれば世の耳目を集めざるをえない

▲この売却価格は当初、法人の要望で非公開とされていた。国有財産の処分金額は公表されるのが当たり前である。しかも小学校の名誉校長には安倍晋三(あべしんぞう)首相の妻、昭恵(あきえ)氏の名が挙がり、法人が「安倍晋三記念小学校」という文言で寄付集めをしていたとなればどうか

▲「隠すより現る」で、法人の思い通りに事が進むはずもない。結局公表された価格は1億3400万円と評価額より8億円以上安かった。引かれた8億円は地中のゴミの撤去費というが、いつ、誰が、何を根拠に決めたのか。国側は「適正な算定」をくり返すだけだ

▲もし仮に国有財産が不当な廉価で処分されたのなら、国民の財産が食い荒らされたことになる。安倍首相は土地売却や学校認可への関与を否定し、「私や妻が関係していれば首相も国会議員も辞める」と言い切った。ならば売却のいきさつの検証は望むところだろう

▲透明なはずの国有財産処分がなぜ奇怪な廉価を隠したのか。もしや「もう一度」の試みに国民の財産をつぎ込むたくらみがなかったか、徹底解明すべき時だ。

 

「濡れ手で粟」(2017年2月23日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」)

 

 苦労せずに多くの利益を得ることを「濡れ手で粟」という。ぬれた手で粟をつかむと、粟粒がたくさんつかめることからきている

▼この案件も「濡れ手で粟」なのだろうか。大阪府豊中市の国有地を大阪市の学校法人「森友学園」が4月に開校予定の小学校用地として、近隣国有地の約1割の価格で買い取った話である

▼土地は鑑定価格の9億5600万円から、地下に埋まったごみの撤去費用として見積もった8億円余りを差し引き、1億3400万円で売却された。過去に7億円前後で購入を希望した別の学校法人は「価格が低い」と国側から指摘され、断念している

▼8億円余と国が算定したごみの撤去費用を、学園側は「1億円程度」と説明していたが、その後は一転して「はっきりわからない」と口をつぐんでいるという

▼この問題が国会で取り上げられたのは、小学校の名誉校長に安倍晋三首相の妻が就いているためだ。首相は関与を否定し、「関係していれば総理も国会議員も辞める」と答弁しているが、土地代の積算根拠など不可解なことが多すぎる

▼「信なくば立たず」。安倍首相も時に口にする孔子の言葉で、社会は政治への信頼なくして成り立たないという意味だ。真相究明を怠り、疑念を残したまま幕引きすれば、首相が胸を張るこれまでの成果も水「泡」と帰す。

 

安倍昭恵を参考人招致すべき(2017年2月23日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★国会は今2つの大きなテーマを抱えたことになる。ひとつは天皇陛下の退位をめぐり、20日、衆参両院の正副議長による政党・会派への意見聴取が行われた。聴取は衆院議長・大島理森と副議長・川端達夫、参院議長・伊達忠一、副議長・郡司彰が出席して衆院議長公邸で行われ、8党2会派が順次、見解を伝えた。与党は一代限りの特例法制定を、野党は皇室典範改正を表明したが、国会議員も国民もこの問題に対して天皇陛下のビデオメッセージでしか、お考えに接する機会がない。

★「象徴天皇制」が盛り込まれた憲法が施行されて70年。「国民の総意」は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」に封じ込められた感がある。天皇陛下自身のお気持ちを国民の総意としてもっと伺える方法はないのか。衆参正副議長は3月中旬までに意見を取りまとめるが、院や議会が陛下のお考えを伺う機会を作ってはどうか。国会議員が陛下のお考えをただすことが大いに望まれる。国民の総意にこたえていただきたい。

★もう1つは国会で議論になっている大阪の学校法人が豊中市内の国有地を評価額の7分の1以下という格安で取得していた問題。首相・安倍晋三は「私や妻が関係していたということになれば、総理大臣も国会議員も辞めるとはっきりと申し上げておきたい」と言い切ったが、それならば「速やかに情報公開に応じるべき。今のところ、こちらの要請に対して役所はまともに情報を出してこない」(小沢一郎事務所ツイッター)。与野党会派は首相の覚悟を無にしてはならない。速やかに特別委員会を設置し、近畿財務局と大阪航空局の担当者、森友学園理事長・籠池泰典、首相夫人で瑞穂の国記念小学院名誉校長・安倍昭恵の参考人招致をすべき。議論の推移を見守りたい。

 

豊中の小学校 不可解な点が多すぎる(2017年2月22日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 国有地を売る場合、厳格な価格決定と透明性は欠かせない。この基本から逸脱していなかったか、検証が必要だ。

 財務省近畿財務局が、大阪府豊中市の国有地(8770平方メートル)を学校法人「森友学園」(大阪市)に近隣国有地の約1割で売っていた。当初、国は価格を非公表にしていた。なぜこの値段で、なぜ表に出さなかったのか。不可解なことが多い。

 国の説明によると、この土地は同学園が4月に開校する小学校予定地。地下に廃棄物が埋まっているため、鑑定価格の9億5600万円から、ごみ撤去費などとして8億円余りを差し引き、1億3400万円で売ったという。だが学園側は、実際の撤去費は「1億円くらい」と述べた後、「はっきりわからない」などと取材に答えている。

 格安で売ったのではないか。この疑問に財務省は「適正な時価だ」と説明する。しかし学園側がごみをすべて撤去したのか確認もしていない。非公表の理由も学園側の要望という。あまりに厳格さを欠いていないか。

 過去には別の学校法人が7億円前後でこの土地の取得を希望したが、財務局から「価格が低い」といわれ、断念した。当時の経緯とあわせ、今回の売却の流れを詳しく調査すべきだ。

 森友学園をめぐる問題はこれだけにとどまらない。

 学園が運営する幼稚園のホームページには、元保護者をののしる文書が掲載されていた。

 「巧妙に潜り込んだ韓国・中華人民共和国人等の元不良保護者であることがわかりました」

 府が学園から事情を聴き、その後、学園は「誤解を招く表現があった」として削除した。府は22日の私立学校審議会で、同学園の小学校の認可等を審議する。開校に向けた準備状況などをしっかり議論してほしい。

 気になるのは、この小学校の名誉校長に、安倍首相の妻の昭恵氏がついていることだ。

 17日の衆院予算委員会でこの点を問われた首相は「妻から学園の先生の教育への熱意はすばらしいという話は聞いている」などと語った。

 一時期、学園は「安倍晋三記念小学校」の文言で寄付金を集めていた。首相は土地払い下げや学校認可への関与を否定し、「関係していれば総理も国会議員も辞める」と答弁した。

 学校のホームページには昭恵氏の写真の横に「内閣総理大臣夫人」とある。少なくとも差別的な言動が問題視される法人の学校に名誉校長として名を連ねることが適切か、首相自身が慎重に判断するべきではないか。

 

(2017年2月21日配信『しんぶん赤旗』−「潮流」)

 

「朕(ちん)惟(おも)うに我が皇祖皇宗国を肇(はじ)むること宏遠に…」。今どきの園児に戦前の教育勅語を唱和させる幼稚園があるとは、ぞっとします。しかも、毎朝の朝礼で「君が代」の斉唱とともに

▼親孝行や、兄弟姉妹、夫婦は仲良くなどと12の徳目が並ぶ教育勅語。しかしすべては、何か事が起きれば天皇のために一身をささげるという唯一無二の目的に集約されます。それを今の世に教えるのですから、時代錯誤も甚だしい

▼愛国心と日本人としての誇りを育てることを教育方針に掲げる大阪の私立・塚本幼稚園。最近は韓国人や中国人への差別表現を含むヘイト文書を保護者に配っていたことがわかり、批判を広げています

▼いま問題の幼稚園を運営する学校法人・森友学園と安倍首相の関係が国会でも追及されています。同学園がこの4月に開校予定の「瑞穂(みずほ)の國記念小学院」。名誉校長には首相の昭恵夫人が就き、当初「安倍晋三記念小学院」の名で寄付金を募っていたことも明らかになっています

▼用地の取得をめぐっても豊中市内の国有地がタダ同然で売り渡されていた実態があらわに。首相は自身の名前が使われていたことを「初めて知った」と答弁していますが、籠池(かごいけ)泰典・学園理事長は本紙の取材に夫人を通して内諾を得たと証言しています▼籠池理事長は極右思想の団体「日本会議」の幹部です。それにつながる安倍政権は保育所まで「国旗」「国歌」を押し付けようと。歴史を偽り、改憲をめざす勢力と権力が一体となって進む神の道です。

 

普通なら「名誉校長」認めないが(2017年2月20日配信『日刊スポーツ』―「政界地獄耳」)

 

★米トランプ大統領は、そのヘイト発言とメディア攻撃で日に日に敵を増やしているが、問題の大統領と意気投合する日本の首相・安倍晋三は今、共通のテーマを抱え込んだ。トランプは17日、ツイッターで「フェイクニュースのメディアは私の敵ではない。米国人の敵だ」と攻撃の手を緩めない。16日も、就任4週間で初の単独会見に臨み「この短期間にこれだけの成果を上げた大統領はいなかった」と自画自賛し、「テレビや新聞で『カオスだ』との記事を見るが正反対だ。この政権はよく整備された機械のように動いている」と順調をアピールした。

★納得しない記者たちが食い下がると「君は好意的な記者か」と逆質問する場面もあった。11日付の産経によれば2人の間では以下のやりとりがあった。

 昨年11月の米ニューヨークのトランプタワーでの初会談で、軽くゴルフ談議をした後、安倍はこう切り出した。「実はあなたと私には共通点がある」。けげんな顔をするトランプを横目に安倍は続けた。「あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが私は勝った…」。

★その安倍も17日の衆院予算委員会で国有地を格安で買った学校法人「森友学園」が設立する私立小学校の認可や国有地払い下げに関し、「私や妻や事務所が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」とたんかを切った。小学校は今春に開校予定で「名誉校長」は昭恵首相夫人が就任することになっている。認可や払い下げには関与しないが、名誉校長には就任するというのもわかりにくいが、普通なら現職中は認めないだろう。払い下げにかかわった役所も名誉校長が首相夫人ならば忖度(そんたく)したのではないか。それも勝手にやったということなら首相の名前を使えば何でもできる権力者であることの意識が希薄すぎる。尾を引く中身だ。

 

 

 

 

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