キャロライン・ブーヴィアー・ケネディ

 

Caroline Bouvier Kennedy(1957年11月27日〜)

 

 

論 説 沖縄訪問

 

オバマ大統領は13年7月24日に声明を出し、新しい駐日大使として、現在のルース大使に代わり、ケネディ元大統領の長女のキャロライン・ケネディ氏を起用すると発表し、「すばらしい貢献をしてくれるはずだ」として期待を示した。

 

ケネディ氏は、女性初の駐日アメリカ大使となった。

 

多数の政治家を輩出した“華麗なる一族”ケネディ家の一族。アメリカ合衆国の作家、弁護士。第35代大統領ジョン・F・ケネディの長女(第1子)。母はジャクリーン・ケネディ(94年死去)

 

ケネディ元大統領とジャクリーン夫人の間の子供のただ一人の存命者(長男の第2子は、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディ・ジュニア〈John Fitzgerald Kennedy,Jr.,1960年11月25日〜1999年7月16日〉。弁護士〈法務博士〉雑誌編集長。一般にJFKジュニア〈JFK Jr.〉と呼ばれていた。飛行機事故により38歳で死去)

 

1957年にニューヨークにて生まれた。1960年の大統領選挙で父が大統領に選出されたため、翌年3歳でホワイトハウスに移り住み、合衆国大統領の娘として世界的な関心を引いた。現在55歳。 

 

 父親が1963年11月22日(金)午後12時30分、テキサス州ダラス市内をパレード中の頭に銃撃を受け、午後1時に暗殺されたとき、まだ5歳だった。ひつぎの前で、ジャクリーン未亡人の手をにぎりしめて悲しみをこらえていた姿が世界の人々の涙を誘った。 

 

父が暗殺された後、母とニューヨークに移り、ハーバード大学とコロンビア大学法科大学院を卒業後、弁護士資格を取得。メトロポリタン美術館在職中に、会社経営者のエドウィン・シュロスバーグと出会い、1986年に結婚し、新婚旅行で来日し、東京、大阪を訪れた。現在、夫との間に1男2女がある。

 

現在はケネディ記念図書館の館長や図書館支援財団の理事長の他、ハーバード大学ケネディ・スクールのコンサルタントを務める。

 

2008年の大統領選挙では、早い段階から「私の父のような大統領になれる人物を初めて見つけた」と、当時上院議員だったバラク・オバマ氏と叔父のエドワード・ケネディ上院議員への支持を表明し、オバマ陣営の選挙資金集めと票固めに奔走すると同時に、同陣営の副大統領候補者選考委員会の委員として、ヒラリー・クリントン氏との熾烈(しれつ)な民主党候補者選びでオバマ氏勝利の流れをつくったとされる。

 

12年の大統領選でも、民主党大会でオバマ氏への支持を訴える基調演説を行った。

 

ただ、米紙ワシントン・タイムズによると、12年5月に出版されたオバマ大統領に関する著作の中で、ケネディ氏は、オバマ大統領への不信感から、「彼の声はもう聞くのに耐えられない」と語ったと伝えられたこともある。ケネディ氏はこれについて否定も肯定もしていないという。

 米通信社のブルームバーグが13年3月27日に近く離任するルース駐日米大使の後任の有力候補に浮上していると報じた以後、米主要メディアでたびたび報じられたが、これまで行政や外交に関わった経験がなく、駐日大使起用には「オバマ陣営への貢献に対する論功行賞」との見方もでている。

 

ホワイトハウスは巨額の資産や身辺調査を慎重に進めてきたといわれるが、日米関係筋は13年7月12日、キャロライン氏の指名が固まったことを明らかにした。ホワイトハウスが近く発表する。既にラッセル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)もケネディ氏と会い、日米関係に関する説明を済ませているという。上院の承認を経て早ければ9月半ばにも着任する見通し。女性の駐日米大使は初めて。

 

 日米間には、尖閣諸島を含む東シナ海での中国への対応や、米軍普天間飛行場の移転といった複雑な課題もあり、手腕を問われることになるが、米社会で常に関心の的である「ケネディ家」からの起用に注目が集まるのは必至で、日本側には、著名人の大使就任が日米関係強化につながるとの期待も高まっており、菅義偉官房長官も「ケネディ大統領は非常になじみがあり、歓迎したい」との期待感が出ていた。

 

  ケネディ氏は8月28日、首都ワシントンで開かれた「ワシントン大行進」50周年記念集会で演説し、「より良い世界のために一丸となって働こう」と呼び掛けた。差別撤廃運動の黒人指導者キング牧師が「大行進」で夢を語った当時は、ケネディ氏の父が大統領だった。同氏は、人種偏見などに基づく憎悪犯罪や銃による暴力事件の犠牲者は「私たちの兄弟、姉妹でもある」と述べ、「今度は私たちが先達の夢をかなえるために新たな力を出すときだ」と訴えた。

 

 ケネディ氏は9月19日、上院外交委員会の公聴会に出席し、父である故ケネディ元大統領が現職の米大統領として日本を公式訪問することを願っていたと語り、世界平和へのコミットメントなど「父が抱いていた理想を守る責任の重さを十分認識している」と抱負を語ったうえで、「日米同盟は地域の平和と安定、繁栄の礎石であり続ける」と指摘。「日本は地域の民主主義の進展や経済成長のための欠かせないパートナーだ」と、関係強化に尽力する考えを示した。

 また、同氏は、沖縄県・尖閣諸島を巡る日中間の問題で特定の立場をとらないが、尖閣は日本の施政権下にあり、米国の対日防衛義務を定めた日米安全保障条約の対象であるとの米国政府の立場を表明。そのうえで「対話による平和的な解決策」を求める考えを示した。

 安倍政権が進める集団的自衛権の行使容認を巡る議論については「注意深く見守る」とした。また、米国の輸出拡大や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の交渉進展などに努める考えを示した。さらに、叔父の故エドワード・ケネディ上院議員と1978年に訪日し、広島を訪問したことに触れ「深く心を動かされた」と述べた。

 

米上院外交委員会は30日、オバマ大統領が次期駐日大使に指名したキャロライン・ケネディ氏の就任を全会一致で承認した。

 

米上院本会議は10月16日、次期駐日大使の人事を正式に承認した。日米外交筋は、ケネディ氏が11月前半にも日本に着任する見通しだと明らかにした。   

 

本会議は10月上旬にも正式に承認し、ケネディ氏は速やかに着任するとみられていたが、政府機関の一部閉鎖など財政問題の影響で本会議の議事日程が滞っていた。

 

その後、本会議でも採決され、女性初の駐日米大使とし、11月15日に来日した。

 

夫のシュロスバーグ氏(68)と成田空港に到着したケネディ氏は、報道陣に対し「日米は自由、民主主義、法の支配に対する責任を共有し、重要な国際人道支援で協力している。日米同盟は平和で繁栄する世界にとって非常に重要だ」と述べ、同盟強化に努める考えを示した。

ケネディ氏は最初に「初めまして」と日本語であいさつ。ケネディ元大統領が米国大統領として初の訪日を希望していたことに触れ「父の残した使命を引き継ぐことを誇りに思う」と述べた。また「日本という美しい国を見て、多くのことを学び、新しい友人を作ることを楽しみにしている」と期待を示した。

ネディ氏は、米軍普天間飛行場移設や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)など、日米間の懸案に取り組むことになる。

同日、「ケネディ元大統領は日本人に最も親しみを持たれている大統領だ。新大使が新風を巻き起こすのを期待したい」と、菅義偉官房長官は記者会見でこう歓迎した。

 

 

ケネディ氏の信任状奉呈(ほうてい=つつしんで貴人にさしあげること。献上)は、11月19日、皇居・宮殿「松の間」で行われ、ケネディ氏が天皇陛下に着任のあいさつをした。

 信任状奉呈は、天皇陛下が新任の外国大使からあいさつを受け、「信頼してお付き合いいただきたい」との趣旨が記された本国の元首からの書状を受け取られる儀式。外交上のしきたりとして各国で同様に行われており、憲法第7条が定める天皇の国事行為の一つになっている(日本では毎年30〜40件実施されている)

 終了後に正式な大使となり、新年祝賀などの宮中行事に出席できるようになる。

式には岸田外相も立ち会い、ケネディ氏は陛下の前に進み出て、オバマ大統領から託された書状を手渡し、にこやかに握手を交わした。式は約15分で終わり、ケネディ氏は大使として本格的な活動を始めた。

 式に臨む外国大使の送迎は、大使の希望で自動車か馬車(馬車による送迎は世界でも英国やスペインなど数カ国しかない)が選択できるが、大半は馬車を選ぶという。大使が乗る2頭立ての儀装馬車はほとんどが明治から昭和にかけて製造されたもので、美術品としての価値もある。

ケネディ氏は、東京・丸の内の明治生命館前(発着場所は東京駅改修工事着工に伴い、2007年から同駅丸の内中央口から明治生命館に変更されている)から、2頭びきの儀装馬車に乗って宮殿へ向かった。往復計2・7キロの道のりの沿道には大勢の人たちが詰めかけ、ケネディ氏は馬車の窓越しに笑顔で手を振った。

 

 式後、ケネディ大使は報道陣に「母国を代表することができて大変光栄に思います」と話した。

 

 

 

 大使紙は20日昼、安倍首相を表敬訪問し、会談後、昼食を交えて懇談した。

 

 大使は、米大使公邸で読売新聞と単独会見し(メディアとの単独会見は初めて)、日米関係について、「日本ほど重要な同盟国はない」と述べ、米国にとって最も重要な2国間関係との認識を示した。

 また、沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題については、「日米は(キャンプ・シュワブ沿岸部の同県名護市)辺野古が移設先として最善であると合意しており、近い将来、実質的な進展があると期待している」と言明した。

 大使は、オバマ大統領からの大使就任要請は「驚き」だったとしながらも、「日米同盟史の重要な時期の大使就任は大変な名誉。米国にとって日本ほどの真の友人はいない」と語った。

 大使はまた、「オバマ大統領はアジア太平洋地域に重点を置いており、地域の平和と安定が日米同盟の根幹にある」とし、「沖縄は日米にとって重要な戦略的要衝」と指摘した。

 

大使が25日、初めての地方公務として東日本大震災の被災地の宮城県を訪れ、県庁で村井嘉浩知事と会談した。ケネディ大使は「米国民は被災地の方々が示した勇気、苦難をはね返す力にインスピレーションを受けた。ここに来ることは重要だった」などと語った。

 

 大使は29日、東京都内の大使公邸で沖縄県の仲井真弘多知事と着任後、初めて会談した。沖縄県側によると、大使は沖縄の米軍基地問題について「多くの人々が時間をかけて解決に努力してきた。問題解決が前進するよう努力したい」と表明。そのうえで「沖縄に行き、県民の声を聞きたい」と沖縄訪問に意欲を示した。

 会談は約30分間でケネディ氏側の招待で実現した。仲井真氏は「日米両政府は沖縄の基地負担軽減に強力に取り組むべきだ」と指摘し「時期をみてぜひ県民の声を聞いていただきたい」と要請した。農業やIT関連など、米企業の沖縄進出に向けて協力を呼びかけた。

 仲井真氏によると、米軍普天間基地の移設問題については互いに触れなかったという。

 会談後、仲井真氏は都内で記者団に「県内には過剰な(米軍基地の)負担感があることをくみ取って、解決に向かってがんばってもらいたいと話した」と説明。ケネディ氏の印象については「相手の話をよく聞くタイプという感じだった」などと語った。

 

 10日、ケネディ駐日米大使は長崎を訪れた。原爆資料館では被爆者の体験を聞き、「想像以上の悲惨さ」「自分が考えていた以上に多くの苦難や悲惨さがあった」と語った。館内で当時の様子を伝えた被爆者たちは「メモを取りながら、真剣に聞いてくれた」と歓迎した。 

 曇り空の下、資料館を訪問したケネディ大使は青のコート姿で、長崎市の田上富久市長らに案内された。原爆投下に至る説明や被爆した建物に興味を示した。

 視察後、記者団に「話を聞いた被爆者は平和の使者だ。取り組みを支援したい」と述べた。

 館内で被爆体験を語った日赤長崎原爆病院の朝長万左男院長(70)は「被爆2世への影響を聞かれ、今後経過を観察する必要があると話した。実務にたけており、大きな仕事をこれからされるのではないか」と話した。視察後は平和祈念像前で献花し、犠牲者の冥福を祈った。

 

 

 

  ケネディ駐日米大使が12月、就任後初めて北海道を訪れ、5日から9日まで滞在、8日、パウダースノーで知られ、海外からもスキー客が数多く訪れるニセコ地区でスキーを楽しむ様子を自身のツイッターに投稿した。ツイッターには黒っぽいスキーウエアを着て雪煙を上げながら滑る人の写真が掲載され、「北海道でパウダースノーを楽しんでいます。写っているのは私」とのつぶやきが添えられていた。

 

 

 

ケネディ駐日大使は17日午後、ツイッターへの投稿で「イルカが殺される追い込み漁の非人道性について深く懸念しています」との考えを示した上で、「米国政府は、イルカの追い込み漁に反対します」と述べた。

 日本の伝統漁法であるイルカ追い込み漁については、和歌山県太地町での漁の実態を隠し撮りしたアメリカ映画「ザ・コーブ」が、漁を批判的に取り上げている。

 

 

 

 菅義偉官房長官は20日の記者会見で、大使の投稿に「わが国の伝統的な漁業の一つであり、法令に基づき適切に実施されている」などと反論したが、米国務省のハーフ副報道官は21日の電話記者会見で、日本でのイルカ漁に関し「生物資源の持続可能性と道義性の両面で懸念している」と表明した。

 商業捕鯨に反対する米政府の立場を重ねて強調。ケネディ駐日米大使が、短文投稿サイトのツイッターでイルカの追い込み漁に反対したことには「米政府の長年の見解を表現したものだ」と述べ、日本政府に直接、懸念を伝えていることも明らかにした。 

 

ケネディ駐日米国大使は21日、東京・赤坂の公邸で朝日新聞のインタビューに応じ、「すべての国々の国民は、歴史を超えて平和な未来を作ろうとする指導者を励まし、支持すべきだ」などと語り、緊張が高まる日本と韓国や中国との関係を、和解によって改善するよう促した。

大使は、安倍首相の靖国神社参拝について改めて、「米国は地域の緊張が高まることを懸念しており、首相の決断には失望した」と述べ一方で、「米日両国は、引き続き両国関係を前進させることに焦点を合わせていく」とも語り、参拝問題でこれ以上、両国関係を悪化させることは望まない姿勢も示した。

 

ケネディ駐日米大使は2014年2月11日、就任後初めて沖縄を訪れた

 

ケネディ駐日米大使は2月26日夕、鹿児島国際大(鹿児島市)を訪れ、同大が主催した英語の国際俳句コンテストに参加した。詩歌など文学好きで知られる大使は「どれも素晴らしい作品」と称賛。鹿児島在住の男性の作品で、子供の成長を喜ぶ様子を詠んだ俳句を優秀作品に選んだ。

その後、大使は28日に予定される日米共同開発の降水観測衛星打ち上げについてスピーチ。「両国の科学者の緊密な連携なしには不可能だった」と述べ、種子島宇宙センターでの打ち上げに期待を寄せた。

 

 

大使はこれに先立ち、伊藤祐一郎知事を表敬訪問した。

 

鹿児島県の種子島宇宙センターから2月28日打ち上げられたH2Aロケット23号機。未明にもかかわらず、全国から詰めかけたファンら約2600人が大きな歓声を上げた。

視察に訪れたキャロライン・ケネディ駐日米大使は、「日夜、切磋琢磨せっさたくまし、尽力された多くの皆様とこの場を迎えることができて誇りに思います」と打ち上げの成功をたたえた。

大使は父のジョン・F・ケネディ元米大統領についても言及。「父は宇宙の研究や探査について、平和をもたらす非常に大きな力になると信じていた。個人としても、このミッションは意義深いものでした」と述べた。

 

ケネディ駐日米大使は3月6日放映されたNHKの番組「クローズアップ現代」でのインタビューで、安倍首相の靖国神社参拝について「地域情勢を難しくするような行動は建設的ではない」と述べ、参拝に反発する中国や韓国との関係悪化に懸念を表明した。

大使は「日米が一緒に取り組むべき重要な任務があると思う。それを困難にするものについては失望する」と述べた。一方で「友人や同盟国であっても、時として意見の違いはある。日米関係は極めて前向きで強固」として、日米協力の重要性を訴えた。

 

3月31日、自民党本部でケネディ駐日米大使と野田総務会長ら党所属女性議員による懇談会が開かれ、ケネディ氏は会合で、「安倍首相が女性を登用する考えを力強く述べているのは、好感が持てる。米国でも女性議員は少ない。共に頑張っていこう」と激励した。会合には、野田氏のほか、森消費者相や片山さつき、佐藤ゆかり両参院議員らが出席した。

 

ケネディ駐日米大使は4月4日、米軍横田基地(東京都福生市など)を訪れ、女性の活躍をテーマに講演した。

女性が活躍した歴史をたたえる米国の「女性史月間」の一環行事で、航空自衛隊の現役女性隊員として初めて空将補に昇任した柏原敬子さんも登壇した。

軍人や、日米の高校生ら約300人が出席。ケネディ大使は講演で、自身が女性初の駐日大使であることに触れ、「私が失敗すればほかの女性たちの道を閉ざしてしまう。プレッシャーはあるが、みんなで力を合わせればできるはず。ここにいる皆さんがロールモデル(手本となる人材)です」と話し、会場の女性を激励。また、女性の活用を後押しする安倍首相の発言については「米国でも注目されている」とした。

来賓として出席した元宇宙飛行士で医師の向井千秋さんは講演後、「素晴らしい交流ができた。性別にかかわらずやりたいことができる世の中になってほしい」と話した。

 

ケネディ大使が4月16日午前、三重県鳥羽市の観光施設「ミキモト真珠島」を見学した。午後には同県伊勢市の伊勢神宮内宮(ないくう)で、日米友好の木「ハナミズキ」の植樹式に参加する。ケネディ大使が東海地方を訪れるのは昨年11月の着任後初めて。

大使は真珠島で、真珠養殖の技術開発に世界で初めて成功した御木本幸吉の像の前で、海女らと記念撮影した後、海女の実演を視察した。

来県の主目的はハナミズキの植樹。伊勢市ゆかりの政治家、尾崎行雄が東京市長時代の1912年にサクラの苗木3000本を米国に贈ってから100周年を迎えたのを機に、返礼として米国から日本に同数のハナミズキが寄贈され、伊勢市では内宮など11カ所に32本が植えられる。

 

ケネディ駐日米大使は5月14日、就任後初めて福島県を訪れ、東京電力福島第1原発を視察した。発生から3年以上経過した東日本大震災や原発事故の爪痕は今も生々しく「衝撃を受けた」と表明。米国は廃炉作業や汚染水問題、除染技術で「必要とされる限り支援していく」と強調し、日米協力継続を約束した。

ケネディ氏は長男の大学生ジョン・シュロスバーグさん(21)と共に全面マスクと白い防護服を着用して原発構内を視察。4号機で使用済み核燃料の取り出し作業を見たほか、事故対応の最前線となった1、2号機の中央制御室を視察した。

 

ケネディ氏は、5月30日、東京・赤坂の米大使公邸で毎日新聞の伊藤芳明主筆と会見した。大使は、北朝鮮による日本人拉致被害者の再調査開始について「拉致問題の解決に向けた日本の取り組みを支持する。緊密な協力を続けていきたい」と述べ、日本と連携する考えを示した。一方で「日米は引き続き、核、ミサイル開発問題を外交、安全保障政策の最優先課題として扱うと確信する」と語り、北朝鮮による核兵器や弾道ミサイルの開発問題が置き去りにならないようくぎを刺した。 

 

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「建設的ではない」(2014年3月8日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

まもなく東日本大震災から3年になる。新聞もテレビも3・11は、震災一色になろうが、前日の3・10も日本人、ことに東京のお年寄りにとって忘れがたい一日である。昭和20年3月10日午前0時過ぎ、325機のB29爆撃機が東京に来襲、30万発以上の焼夷(しょうい)弾を投下した。

▼下町を中心に東京は火の海となり、10万人以上の人間が焼き殺された。夜中の爆撃の標的は、軍事施設でなく、密集した木造住居と市民だった。指揮したルメイ少将は、後に「もし我々が負けていたら、私は戦争犯罪人として裁かれていただろう」と述懐したという。

▼忍び難きを忍び、耐え難きを耐えた戦後の日本は、原爆投下ですら「大虐殺だ」と米国を責めたり、賠償や謝罪を求めることはしなかった。過去よりも今と未来が大事だったからである。

▼ケネディ駐日米大使は、準備不足ゆえか能力不足ゆえかわからぬが、日米関係を日々、悪化させている。NHKの番組では、安倍晋三首相の靖国参拝を「建設的ではない」と言い放ち、またまた心ある日本人を失望させた。

▼心ならずも戦野に散った兵士を悼む行為に難癖をつけるとは、人として最低だ。聞き手の国谷裕子氏が「日米関係は安倍政権の一員、NHK経営委員、会長の発言で影響を受けているといわざるを得ない」と質問したのにはもっとあきれたが。

▼NHKには優秀な記者が大勢いるはずなのに、どうしてフリーの彼女がインタビューしたのか。しかも彼女は「日本女性の地位向上のためどんな支援を」と宗主国に頼み事をするようにお伺いをたてた。日本女性の地位向上は、自らが努力して勝ち取るもの。籾井勝人会長には、骨がらみになっているNHKの卑屈な根性を即刻、たたき直してもらいたい。

 

ケネディ新大使/被災地と真のトモダチに(13年12月1日配信『河北新報』―「社説」)

 

 キャロライン・ケネディ新駐日米大使が着任した。

 初の地方視察で東日本大震災の被災地、宮城、岩手両県を訪問。住民と気さくに交流し励ますなど、日本人の心の琴線に触れる行動感覚をのぞかせた。

 陸前高田市の「奇跡の一本松」を訪れた際は、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」の詩を引きながら、被災者の忍耐力と勇気をたたえた。

 津波で流され、カリフォルニアに漂着した県立高田高校の実習用ボートに張り付いていた貝殻を手渡すなど、こまやかな気配りも見せた。

 その敬(けい)虔(けん)な慎み深い物腰は、陽気な米国人気質とは趣が異なって、どこか気品を漂わせる。

 半世紀前の1963年11月22日、暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領の長女で、王室のない米国でロイヤルファミリーと称されるケネディ家直系の育ちがそうさせるのか。

 ことしの米大リーグ・ワールドシリーズの覇者ボストンレッドソックスの地元ファンに歌い継がれる「スイート・キャロライン」の当の主人公。父の大統領在任中には愛くるしい幼少期の写真がメディアを飾った。悲劇のヒロインの成長を全米が見守ってきたことだろう。

 ハーバード大を卒業して弁護士資格を取得。教育活動などに携わってきた。オバマ大統領の有力支援者の一人で2008年と12年の大統領選に貢献した。

 今回の大使就任は、その「論功行賞」だと指摘される。外交の実務経験はなく、大使としての力量は未知数だ。

 オバマ氏の掲げるアジア重視路線は、足元の財政や中東混乱の対応に手間取り、中国の台頭に手をこまねいている状況で看板倒れにも映る。実際、米政府機関の閉鎖問題でアジア歴訪は見送られ、オバマ氏自身、悪影響を認めざるを得なかった。

 ケネディ氏は大使職という外交の最前線に立ちながら、アジア重視路線をあるべき軌道に戻して歩み直しの下地をどう整えるのか、早々に力量が試されることになる。

 中国は新大使着任を待ち構えていたかのように、沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定した。

 基本的に日中の対立激化を望まない米国だが、ケネディ氏は中国の行為に「緊張を高め安全を損ねる」と厳しく批判、日米の連携強化をうかがわせた。

 沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題や環太平洋連携協定(TPP)交渉など、対応次第で日中関係を一層ぎくしゃくさせかねない難関も待ち構える。

 対立の先鋭化を避けて、いかに矛を収めさせていくのか、ケネディ氏の手腕に期待が掛かる。幅広い人脈を通して父の理念でもあった「平和」の維持・発展に大いなる貢献を望みたい。

 震災後、仙台空港の早期再開などに結びついた米軍「トモダチ作戦」の恩義を被災地は忘れない。定期的に足を運び「復興の伴走者」にもなってほしい。日米の絆をさらに強めて、地域の安定化に資するはずだ。

 

ケネディ大使 基地問題の痛みに理解を(13年12月1日配信『岩手日報』―「社説」)

 

 華やかなイメージがあり、人気の高い人だ。日米関係強化への仲立ちをしてくれるとの期待が大きい。

 ジョン・F・ケネディ元米大統領の長女で、駐日米大使に着任したばかりのキャロライン・ケネディ氏が、沖縄県の仲井真弘多知事と東京都内の大使公邸で会談した。

 王室のない米国で「ロイヤルファミリー」とも呼ばれる名家の直系だ。オバマ大統領の信任も厚いといわれている。だが、外交実務の経験はなく、手腕は未知数だ。

 仲井真知事との顔合わせは、日米の懸案である米軍普天間飛行場の移設問題で早速、意見交換したいとの考えからだろう。

 米軍専用基地の約74%は沖縄県に集中している。仲井真氏はこうした現状を訴えて、過重な負担の軽減について理解を求めた。

 沖縄県によると、ケネディ氏は「大使として問題の解決に努力したい」と応じたという。

 会談で普天間の問題は互いに言及しなかったとされるが、ケネディ氏はあくまでも県内の辺野古移設を主張していくとみられる。

 自民党沖縄県連も従来の「県外移設」から方針を転換して、県内移設を容認する決定をし、仲井真氏に働き掛ける考えだ。

 移設問題は政府、自民党側が徐々に追い詰めていくような形で検討が進んでいる印象が拭えない。

 ケネディ氏には米軍人による事件や事故の防止に取り組むとともに、仲井真氏が要請した沖縄訪問を早期に実現させることを望みたい。

 着任後、ケネディ氏は東日本大震災の被災地を訪れ、仮設住宅の現状なども見て回った。「米政府は被災者のことを決して忘れていない」という言葉は力強かった。

 大使としてぜひ、沖縄にも足を運んで、基地の重い負担に苦しむ実情をその目で確かめてほしい。

 ケネディ家には栄光もあるが、悲劇も続いた。父親の元大統領が在任中に暗殺されてから、今年で半世紀になる。1999年には弟が飛行機事故で亡くなっている。

 大使は20歳だった78年、初来日し、叔父で当時のエドワード・ケネディ上院議員と広島を訪れて「心を大きく揺さぶられた」という。

 前任のルース大使は、初めて米大使として広島、長崎で開かれる式典に出席し、信頼が厚かった。

 ケネディ氏も式典に出席してもらいたいが、オバマ氏から尊敬されて直接話ができる関係にあるのだから、被爆地へのオバマ氏訪問にも尽力できるに違いない。

 人の痛みが分かり、日本人の心を敬愛している大使のはずだ。政治家や官僚など有力者との交渉だけでなく、市井の人々とも友情を育むことにも努めてくれるだろう。

 平和への思いが強い人だと聞く。基地移設は大使にとって難しい課題だが、まずは多くの沖縄の声に耳を傾けてもらいたい。

 そして住民の心情をオバマ氏に伝えることが、大切な役割ではないのか。女性初の駐日米大使の行動力と発信力を日本国民は注視している。

 

「闇の中の叫び」(13年12月1日配信『岩手日報』―「風土計」)

 

 1988年に上演された裁判劇「闇の中の叫び」について、1週間前のこの欄で紹介した。当時公演の実現に向け奔走した一関市の弁護士千田功平さんが、その朝急逝された

▼前日の午後、同市の岩手日報一関ビルで特定秘密保護法案の緊急学習会が開かれ、千田さんが講師を務めた。約1時間にわたり法案の危険性などについて熱弁を振るい「国会の会期末までまだ時間はある。なすべきことをすべてやろう」と呼びかけた

▼講演終了後しばし、国家秘密法阻止を訴えた裁判劇上演当時の思い出を語り合った。久しぶりの再会だった。まさかその翌日帰らぬ人となるとは。2日後には特定秘密保護法案が衆議院を通過した

▼国家秘密法に反対する岩手県民の会が結成されたころ、地域版の組織として一関・両磐の会が発足、県民の会と連携して活動を展開した。保守系政治家や経済人も含め幅広く結集した。組織化には千田さんの尽力があった

▼働く者の権利を尊重し、自然環境を守ることを千田さんは一貫して弁護士活動の中心に置いていた。その信念と行動力を市民運動にも生かした。特定秘密保護法案の問題についても分かりやすく語った

▼法案の審議は参議院に移り会期末が迫っているが、千田さんが強調した「まだ時間はある」という言葉をかみしめたい。

 

造反(13年12月1日配信『岐阜新聞』―「分水嶺」)

 

先週衆院を通過した特定秘密保護法案。強引な手法で可決した後、安倍首相の傍らで満面の笑みを浮かべる谷垣法相の姿が印象的だった。

▼1980年代の半ば、国家秘密法(スパイ防止法)案が国会で審議されたが、提出した自民内でも反対の声が上がった。リベラル色の強い宏池会に属していた谷垣氏もその一人だった。弁護士資格を持つ同氏は、その危うさを認識していたのだろう。

▼今回の採決で造反した自民議員はただ1人。棄権した村上元行革担当相だけだった。30年近い歳月を経たとはいえ、この変わりようはどうか。さまざまな意見を許容するのが自民の良さであったはず。巨大政権党の均一化した姿に、戦前を思い浮かべる向きもあるだろう。

▼法案は参院で審議に入り、自民など与党は6日の成立を急ぐ。民主など野党は成立阻止を強調するが、めどは全く立っていない。

▼県内では大学教授らが反対声明を出し、県弁護士会は廃案を訴えて岐阜市内をパレードした。市民団体もビラまきや講演会でアピールを続ける。

▼国家秘密法案は世論の強い反対で廃案に追い込まれた。国民の知る権利をどう守るか。秘密指定をチェックする仕組みを明確にできるか。良識の府・参院の存在意義を示してほしい。

 

山頭火と十二月(13年12月1日配信『四国新聞』―「一日一言」)

  

 駐日米大使のキャロライン・ケネディさんは来日前、ワシントンの駐米日本大使公邸での歓迎レセプションで、日本への思いを述べた。あいさつに引いたのが、松尾芭蕉の「奧の細道」の一節「道祖神のまねきにあひて…」である。

 「奧の細道」の導入部は「月日は百代の過客(かかく)にして、行きかふ年も又(また)旅人也(なり)」。芭蕉は月日が永遠にわたる旅人である、とみた。過ぎゆく年、人生もまた、旅人と受け止める。十二月になると、芭蕉の言葉が頭をよぎる。

 漂泊の旅といえば、種田山頭火と尾崎放哉に思い至る。行脚、行乞(ぎょうこつ)を続け、自由律俳句を詠み、旅に果てた。歌人の佐佐木幸綱さんは「山頭火は明るく、放哉は暗い」と色分け。二人とも香川に足跡を残した。放哉にとって小豆島が終焉(しゅうえん)の地。

 酒も二人の共通項である。「米を食っては酔わないが、米の汁を飲めば酔う」とは山頭火の言。酒の味を知る人は水のよさを知る。師の荻原井泉水に宛てた便りの中で「伯耆(ほうき)大山の水」を推した。師も大山の豆腐がうまいから、水も好(よ)い味だろう、と納得。

 放哉、山頭火とも、酒の上の失敗は少なくない。忘年会シーズンは要注意。「飲んだくれが最もよく飲酒の害毒を知ってゐる」とは山頭火。だが、酔眼でも、自己と人の世をよく見ている。雑念が多ければ、読経の声が濁っているのか「もらい」も少ないという。

 「ことし」という時間が、水のように流れる。「へうへうとして水を味(あじわ)ふ」(山頭火)との心境には程遠い。

 

ケネディ駐日米大使はフットワークが軽そうだ(13年11月30日配信『信濃毎日新聞』―「斜面」)

 

着任したキャロライン・ケネディ駐日米大使はフットワークが軽そうだ。日をおかずに3・11で被災した宮城、岩手両県を訪ね、「奇跡の一本松」も見ている。原発事故に遭った福島県もぜひ訪ねたいという

   ◆

人々が忍耐力と勇気を持って生きていることを心に刻み、多くを学んだ―。この訪問でこうも述べている。行動する人と見えただけに、きのうの仲井真弘多沖縄県知事との会談にはがっかりした。東京に招くのではなく、まずは現地へ出向いてほしかった

   ◆

沖縄の米軍基地問題について意見を交わしたというのだから、なおのことである。日程が許すなら知事の案内で、在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄の現状を見てもよかった。宜野湾市にある普天間飛行場を名護市辺野古に移設することが、米政府の既定方針だとしてもである

   ◆

普天間移設をめぐる状況に変化が出てきた。「県外移設」を掲げた自民党沖縄県連が辺野古容認に転じた。県外はあり得ない―とする政府と党本部に説き伏せられた。普天間が「固定化」してもいいのか、という圧力に屈した形だ

   ◆

沖縄の人たちの思いはどうなのだろう。自民党が全国で大勝を収めた今夏の参院選。沖縄選挙区は県外移設を訴えた候補が自民党候補を破っている。普天間もそれに代わる新しい基地もごめんだ―が沖縄の思いと言える。知事には体を張って民意を守ってほしい。

 

ケネディ大使着任 日米関係の強化に期待(13年11月26日配信『デイリー東北』―「時評」)

 

 米国のキャロライン・ケネディ駐日大使が着任し、外交活動を開始した。安倍晋三首相ら政府首脳らとも精力的に会談するなど、まずは順調なスタートである。外交官としては無論、政治家としても経験不足を心配する声もあるが、オバマ大統領との太いパイプを背景に、日米関係の強化に力を発揮してくれることを期待したい。

 新大使は暗殺されたケネディ元大統領の長女。米国では「ロイヤル・ファミリー」の一員として人気が高く、日本でも着任以来、連日のようにその活動が伝えられ知名度が一気に上がった。大使は来日前から「日本で多くの友人をつくりたい」と抱負を述べるなど意欲は十分で、先頭に立って日米関係のかじ取りを担うことになる。

 ケネディ大使は、東日本大震災の被災地を訪れ、米軍基地問題で揺れる沖縄も訪問する考えで、こうした積極的な行動力は大歓迎だ。しかし課題は山積している。大詰めを迎えている環太平洋連携協定(TPP)交渉や米軍普天間飛行場の移設問題、尖閣諸島や歴史問題で対立する日中、日韓関係の調整、北朝鮮の核問題など難問ばかりだ。

 特に大使に望むことは二つある。一つは、いまひとつしっくりしないオバマ大統領と安倍首相との橋渡し的な役割。大統領はアフリカ系というマイノリティー出身で、いわば草の根から上り詰めたリベラルな人物だ。対して安倍首相は祖父、父親とも高名な政治家一家の3世で、肌合いがまるで違う。これまでホワイトハウスに太いパイプがなかったことも踏み込んだ関係が築けない要因だった。

 もう一つは、オバマ政権のアジア重視戦略の推進である。この戦略は外交の重点を中東からアジアに移す「リバランス」と呼ばれ、政権の目玉。オバマ大統領もアジア地域への関与を「最重要事項」と表明している。しかし「アラブの春」以降の中東の混乱に足を取られて戦略に陰りが生じており、大使の手腕に期待するところが大きい。

 ケネディ大使の人事はオバマ大統領の当選に尽力したことへの論功行賞という面もあろう。前の大使の人事も同様の批判を受けたが、こうした大使人事は米国では、ごく一般的ではある。外交のアマチュアとの批判には、実績の積み重ねで応えていけばよい。大使の承認審議が行われた上院でも、厳しい質問は出ず、むしろ送り出すという雰囲気があった。

 くしくも大使の着任は、日本を訪問したかったという父親が暗殺されてから50年の節目を迎えたのと重なった。

 まずは、半年間、大使の活動を見守り、その実績をしっかり検証した上で、あらためて厳しい注文をつけたい。

 

米大使が被災地へ 「現実」を感じてほしい(13年11月25日配信『岩手日報』―「論説」)

 

 キャロライン・ケネディ駐日米大使が今週、東日本大震災の被災地を訪れる。実質的な仕事始めに被災地を選んだことに敬意を表したい。ぜひ本県にも足を運んでほしい。

 米国や日本はもとより世界中の人々にとって、いまだ米大統領の代名詞的存在の一人であるケネディ元大統領の長女。その父が凶弾に散ってから、ちょうど50年となる22日を前にしての来日だった。

 命日を前にして、オバマ大統領夫妻らは首都ワシントン郊外にある元大統領の墓を訪れ献花した。その血筋を代表する立場にありながら、その日を日本で迎えることに、新大使としての心意気を見る。

 新大使の被災地訪問は、その多忙さ故に短時間にとどまるだろう。それでも「仕事始め」に被災地を訪れる気持ちに応えて、現地の人々は心からの笑顔で迎えるはずだ。

 しかし、その裏側には、いまだ実感に乏しい「復興」への焦りや悩みが隠れている。岩手大研究室の調査では、精神状態が震災後から好転していない人が昨年調査より増えている傾向が示された。

 被災地に続き、懸案の米軍普天間飛行場移設問題に絡み早期の沖縄訪問も取りざたされている。徹底したリベラリストといわれる目で被災地や沖縄の「今」をじかに感じ、これから本格化する職務に反映させてもらいたい。

 普天間問題をはじめ、大詰めの環太平洋連携協定(TPP)交渉、沖縄県の尖閣諸島をめぐる日中対立、北朝鮮の核開発など、米国の国益に直結する日米間の課題は山積みだ。そうした折に、本職は弁護士であり、父親の業績を記念する図書館支援団体理事長である彼女を駐日大使に据えることに当初、米国内のメディアは批判的だった。

 来日経験があるとはいえ、本格的に日本を学んだことはない。話題性で注目を集めるものの「外交官」としての手腕は未知数だ。しかし、新大使には他者をしのぐ「資質」がある。それは、米国でロイヤルファミリーとも並び称される出自であり、オバマ大統領との近しさだ。

 オバマ氏が大統領になったのは、最初の選挙の民主党大統領候補指名争いに際し、彼女が米紙に「オバマ氏は父の再来」とする記事を寄せて支持拡大に貢献したのが要因とされる。選挙資金集めでも存在感を発揮。以後、「彼女ほど短時間で大統領に電話がつながる人物はいない」(米国の有力外交官)という。

 結果次第では名門ケネディ家の威信が傷つくことを覚悟で「オバマ大統領」実現に奔走した胆力は、これも政治力だろう。人柄は謙虚とされるが、こうした「強さ」が日米関係の近未来にいい形で生かされることを望む。

 

ケネディ大使着任 日米両国の懸け橋に(13年11月25日配信『茨城新聞』―「論説」)

 

キャロライン・ケネディさん(55)が米国の新駐日大使として着任した。新大使は50年前に暗殺されたケネディ大統領の長女。初めての女性駐日米大使だ。外交官としての手腕を未知数とみる向きもあるが、オバマ大統領に強い影響力を持つ一方で、大変な決断力の持ち主との見方ができる。父や叔父らが大統領、上院議員を歴任したキャロラインさんの着任は米国が対日外交を極めて重視していることの表れで、新大使には両国の懸け橋になるよう期待したい。

新大使はオバマ氏が大統領に当選するに当たって、大きな役割を果たした。5年前の1月、民主党の大統領候補指名争いが本格化する時機に、キャロラインさんは米紙に「私の父のような大統領」と題する記事を寄せた。

記事はオバマ氏について「『世の中に尽くしたいが、政治は嫌いだ』と言う若者に、政治に飛び込む勇気を与える」「私の父のような大統領になる人物を初めて見つけた」と称賛した。「幼いときに死に別れた父への思慕」を素直に表した記事は読者の心を打つと同時に、オバマ氏への強力な援護射撃となった。

オバマ氏は予備選挙で同党の最有力候補とされたヒラリー・クリントン前国務長官(当時は上院議員)を抜き去り、秋には大統領に当選した。キャロラインさんが政治の節目をつかむ勘を持つことを印象づけた。オバマ氏が浮上しなかった場合には、「故大統領が今も持つ威信」に傷がつくリスクもあっただけに、その胆力にも驚かされる。新大使に「政治・外交上の実績はない」との識者の声もある。しかし、北朝鮮の核開発など安全保障や環太平洋連携協定(TPP)交渉など難問に取り組むに際して、新大使の資質に期待することは十分できる。

 これまで駐日大使には、副大統領、下院議長、上院院内総務など要職経験者が充てられてきたが、キャロラインさんの存在感はさらに大きい。米国の元有力外交官は「キャロラインさんほど短時間で大統領に電話がつながる人物はいない」と言い切る。

 大使在任中に、オバマ大統領の広島、長崎訪問が実現するか注目したい。新大使は上院公聴会で35年前に広島を訪問したことに自ら触れ「心を大きく揺さぶられた」と述べた。日米関係で最も難しい問題の一つである原爆投下についての感慨だ。

 ルース前大使が駐日米大使として初めて広島、長崎の平和式典に参列したことが示すように、米政府の態度に変化がみられる。新大使から勧めがあれば、大統領は訪問を真剣に検討するだろう。

 他方、従軍慰安婦、領土問題などで日本と中韓両国の関係が悪化すれば、米世論の変化が予想され、新大使は苦しい立場に立たされる。日本側にも配慮が必要だ。

ケネディ元大統領が凶弾に倒れたのは19631122日だった。7月下旬の大使指名から着任までの段取りをみると、キャロラインさんは「悲劇から半世紀の日」を大使として迎えることを意図していたと思われる。

 ケネディ元大統領は、日米安保条約改定をめぐる混乱で日本訪問を断念したアイゼンハワー大統領(当時)を批判して大統領選挙に勝利したが、訪日を果たせなかった。その娘の大使在任中に、両国関係がこれまで以上に親密化するよう期待したい。

 

ケネディ新大使 日米の絆強める推進力に(13年11月20日配信『山陽新聞』―「社説」)

 

 女性初の駐日米大使となったキャロライン・ケネディ氏が、天皇陛下に信任状を奉呈して正式に活動をスタートさせた。ジョン・F・ケネディ元大統領の長女という抜群の知名度や、オバマ米大統領との親密さを生かし、両国の懸け橋となるよう期待したい。

 ケネディ氏は弁護士資格を有し、著述や教育活動など多彩な才能の持ち主として知られる。人望も厚い。父親のケネディ元大統領は1963年11月に暗殺されたが、米国民の人気はいまだ揺るぎない。日本でも親しみを抱く中高年世代は多かろう。

 元大統領が強く望んでいたのが、米大統領では初の日本訪問だった。事件から50年の節目となる22日の命日を、駐日大使として日本で迎えるケネディ氏の感慨は深かろう。「日本こそ私の奉仕先」とする今回の任命を、オバマ大統領の日米関係重視の表れと受け止めたい。

 歓迎ムードの一方で、新大使の政治・外交経験の乏しさを懸念する声もある。かつては米政界の重鎮や“日本通”が任に当たったが、最近は大統領に近い人物が任命されるケースが多い。ケネディ氏も、オバマ大統領の選挙で貢献した「論功行賞」での起用がいわれる。

 日米間には、環太平洋連携協定(TPP)交渉や、沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題、日本と近隣国の対立など難題が山積している。ケネディ氏の力量を不安視するのも当然だろう。オバマ大統領との近さには、日本の立場がストレートに伝わる一方で、米国との関係がぎくしゃくすれば名門のブランドを傷つける“もろ刃の剣”の危うさを感じる向きもある。

 とはいえ、同様に「論功行賞」で起用され、政治・外交経験が乏しかったルース前大使も東日本大震災で被災地支援に力を入れるなど職責を果たした。むしろプロの外交官でない方が、新鮮で幅広い視野から現状を見据えられる利点もあろう。加えて強い発信力や日本への親近感、そしてオバマ大統領との太いパイプを備えたケネディ氏は、日本にとって歓迎すべき人選といえよう。

 ルース氏は米国の大使として初めて広島と長崎の平和式典に参列した。ケネディ氏も20歳の時に広島を訪れ、心を揺さぶられたという。今度は駐日大使として被爆地を訪れるとともに、オバマ氏の現職大統領としての初の訪問実現に尽力してもらいたい。

 ケネディ氏は「米国の強固なパートナーである美しい日本についてもっと学び、多くの友人をつくりたい」と抱負を語った。東北の被災地や沖縄をはじめ各地を回って交流を深め、地域の実情や国民の声をしっかり受け止め本国へ届けてほしい。これから両国関係を担う若者の交流も大切だ。幅広い国民レベルの基盤に立って絆を固くし、日米関係を高みへと引き上げるよう求めたい。

 

ケネディ大使 日米関係に新しい風を(13年11月19日配信『東京新聞』―「社説」)

 

 キャロライン・ケネディ駐日米大使がきょう天皇陛下に信任状を奉呈し、正式に着任する。外交手腕は未知数だが、旧弊にとらわれない柔軟な発想で、日米関係に新しい風を吹き込んでほしい。

 「縁(えにし)」を感じざるを得ない。父の故ジョン・F・ケネディ大統領暗殺から五十年という節目の年の大使就任である。三十五年前には叔父の故エドワード・ケネディ上院議員とともに広島の原爆資料館を訪れた。新婚旅行でも日本を巡った、という。

 米国初の女性駐日大使だ。政治・外交経験はなく、オバマ大統領誕生や再選に貢献した論功行賞色が濃い。とはいえ、大統領と直接電話で話せる個人的な信頼関係や米国きっての名門からの起用は両国関係にマイナスにはなるまい。

 大使には、政府や外交関係者に限らず日本各地を訪問し、そこに暮らす人々と触れ合ってほしい。相互理解は友好関係の源である。

 特に訪れてほしい場所が、沖縄と、被爆地の広島、長崎だ。

 沖縄の狭い県土には在日米軍基地の74%が集中し、県民は日々、騒音や事故、米兵の犯罪など、重い基地負担に苦しんでいる。

 県民がなぜ、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設を拒み、国外・県外移設を求めているのか。現状を確かめず、惰性で県民が望まぬ政策を進めることがあってはならない。

 米兵らの特権的な法的地位を認め、主権である裁判権を米側に委ねている日米地位協定も同様に、沖縄県民を苦しめている。

 米兵による殺人や強姦(ごうかん)などの凶悪犯罪や、交通死亡事故が起こるたびに運用が一部見直されてきたが、改定は一度もされていない。

 人権軽視の現状を自らの目で確かめ、事態改善の道を開いてほしい。人権派として知られる大使なら、それが可能なはずである。

 硬直的な思考にとらわれず、在日米軍基地の抜本的縮小や地位協定の改定に向け、柔軟に取り組むべきだ。その努力を惜しんでは、歪(ひず)んだ日米関係の真の正常化はあり得ない。

 広島、長崎に大使として訪れれば、オバマ大統領が掲げる核兵器廃絶を後押しする。ルース前大使が道を開いた八月の両平和式典参列も恒例化し、大統領の被爆地訪問につなげてほしい。

 核兵器廃絶というレジェンド(伝説)づくりの道は険しい。しかし、大統領が本気で取り組むのなら、唯一の被爆国である日本国民として協力は惜しまない。

 

ケネディ米大使 同盟強化へ明確な発信を(13年11月19日配信『産経新聞』―「主張」)

 

 米国のキャロライン・ケネディ新駐日大使が来日した。故ジョン・F・ケネディ元大統領の長女としての抜群の知名度を生かし、日米関係の発展に尽くしてほしい。

 22日は、ケネディ元大統領暗殺から50年にあたる。節目の年の着任となるケネディ氏は来日後、「日本と米国は自由、民主主義、法の支配という価値観を共有している」と語った。

 軍事的に台頭する中国や核開発を進める北朝鮮など、わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。共通の価値観を背景とする一層の同盟強化に、新大使が寄与することを期待する。

 ケネディ氏にはまず、日本の安全保障に関する米国の立場を明確に世界に発信してもらいたい。

 人事承認に関する米上院公聴会でケネディ氏は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)について、「日本の施政下にあり、(米国による日本防衛義務を定めた)日米安全保障条約第5条の適用対象だ」と明言した。同様の発言を日本で繰り返せば、力ずくで尖閣奪取を試みようとする中国に対する強いメッセージとなる。

 米国内では慰安婦問題や靖国神社参拝などをめぐり、日本の「右傾化」を指摘するメディアも少なくない。「日本」がきちんと伝わっていないからではないか。

 ケネディ氏には、日本の実情や立場を米国民や海外に正確に伝える役割も望みたい。

 例えば慰安婦問題がある。韓国系米国人らが米国内に慰安婦像や記念碑を造るなど、反日キャンペーンを繰り広げているが、慰安婦の強制連行を認めた河野談話がずさんな「調査」に基づいて発表されたことは、元慰安婦らの聞き取り資料で明らかだ。

 ケネディ氏の知名度は歴代駐日大使の中でも随一だ。外交手腕は未知数だが、大きな発信力に期待は大きい。米大使が日本についての正しい認識を内外に発信することは、日中、日韓関係にも好影響を与えることになるだろう。

 日本の民主党政権時代にぎくしゃくした日米関係は現在も必ずしも最良の状態とはいえない。オバマ大統領はアジア・太平洋重視を打ち出しているが、財政問題に追われて内向き志向ともされる。

 それだけに、ケネディ氏にかかる責務と期待は大きい。この地域における米国の存在感を、正しく大いに発揮してもらいたい。

 

ケネディ新大使 オバマ氏と広島訪問を(13年11月18日配信『中国新聞』―「社説」)

 

 米国の新しい駐日大使として先週、キャロライン・ケネディさんが着任した。あす皇居で天皇陛下に信任状を奉呈し、正式に始動する。

 外交手腕は未知数として起用には懐疑的な見方もあったようだ。とはいえオバマ大統領の信任は厚い。暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領の長女であり、知名度も群を抜く。彼女を指名したのは日本重視の表れだと素直に受け取りたい。

 被爆地にとっては、原爆を投下した国の大統領名代にほかならず、複雑な思いにもとらわれよう。ただ彼女のこれまでの行動や最近の発言を聞く限り、ことさら原爆被害から目を背ける人物ではなさそうだ。

 むしろ1978年に広島を訪れ、「大きく心を揺さぶられた」という。大使着任を前にした日本国民向けビデオメッセージでも「より平和な世界の実現に取り組みたいと切に願う」きっかけになったと明かした。

 できるだけ早く被爆地を再訪してもらいたい。できればオバマ氏と一緒に訪れ、世界平和だけでなく核兵器廃絶への思いを被爆者と共有してほしい。

 35年前の本紙によると、20歳の大学生だったケネディさんは「コールテンパンタロンにズックぐつ」と簡素な服装だった。原爆資料館では叔父の故エドワード・ケネディ上院議員らから1人遅れ、被爆者の遺品に見入ったという。

 父への思いを重ねていたに違いない。「あの時、核戦争にならなくて本当によかった」と。

 62年、ケネディ大統領は旧ソ連のフルシチョフ首相にキューバからのミサイル撤去を迫り、先制攻撃を求める国内の強硬派を抑え込んで、最終的には核戦争や第3次世界大戦を回避した。キューバ危機である。

 その父が暗殺されてから今月22日で50年となる。現職大統領として初の訪日がかなわなかった父に代わり、大使として日本で迎える命日は万感の思いでもあろう。着任に当たり「日本こそ私の奉仕先」とも述べた。デザイナーである夫との新婚旅行でも日本を巡ったという。

 そうした広島や日本への思いこそ、いかなる政治・外交経験よりも重要ではないか。前任のジョン・ルース氏が道を開いた8月6日の平和記念式典参列を恒例化し、ヒロシマの声を米国民に届けるよう願う。

 日米両国は現在、懸案ばかりを共有している。米軍普天間基地に象徴される沖縄の負担軽減、環太平洋連携協定(TPP)交渉の行方、北朝鮮の核開発への対応、さらには軍備増強へ走る中国とどう向き合うか。

 「アジア重視」を掲げるオバマ氏は、一方で連邦議会対応など国内問題に追われ、内向き姿勢を強めているようだ。「極めて短時間で大統領に電話がつながる」ケネディさんへの期待が高まるゆえんでもある。

 もちろんオバマ氏の被爆地訪問に懐疑的な見方はあろう。ノーベル平和賞を受けながらも、核抑止力に頼る姿勢は変えようとせず、新型や臨界前の核実験を繰り返しているからだ。

 だが、核大国の為政者だからこそ直接、原爆の非人道性を肌で感じるべきだ。「核のない世界」へと踏み出すには、避けて通れない一里塚である。新大使に、その先導役をきっちり務めてもらいたい。

 

ケネディ新大使 日本とアジアの力に(13年11月17日配信『毎日新聞』―「社説」)

 

 米国のキャロライン・ケネディ駐日大使(55)が着任した。ケネディ氏は、弁護士出身で政治や外交の実務経験はないが、ジョン・F・ケネディ元大統領の長女として、抜群の知名度と発信力を誇る。米国初の女性駐日大使でもある。こうした強みをいかし、日本国内を飛び回り、日米関係の強化とアジア太平洋地域の安定に力を尽くしてほしい。

 中国の軍備拡張と海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発、沖縄県・尖閣諸島をめぐる日中対立など東アジアが不安定化する中、日米関係はかじ取りが難しい時代を迎えている。

 オバマ政権は、外交・安全保障の重点をアジア・太平洋地域に移すリバランス(再均衡)政策を打ち出した。だが、米政府の財政赤字は深刻化し、中国の台頭もあって米国の力は相対的に低下している。

 その分、米国は日本に役割拡大を期待する。安倍政権は集団的自衛権の行使容認などで応えようとしているが、中国、韓国とのさらなる関係悪化を招くやり方には、米国内にも慎重な見方がある。従軍慰安婦や靖国神社の参拝問題をめぐる安倍政権の歴史認識にも警戒感が残る。

 また沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題は解決のめどが立たず、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉も大詰めを迎えている。ケネディ氏の役割は大きい。

 課題は外交・安全保障や経済にとどまらない。前任大使のルース氏は、日米の若い世代の交流が細っていることに強い危機感を示していた。

 日本から米国への留学生は、最新で年約1万9600人で、ピークだった199798年度の約4万7000人の4割にとどまる。国別では中国、インド、韓国が上位3位で、日本は7位だ。米国から日本への留学生は約5300人に過ぎない。

 ケネディ氏は作家、教育者としても知られる。日米の教育、文化の交流強化にも力を発揮するよう望む。

 日本国民向けのビデオメッセージで、ケネディ氏は20歳で叔父のエドワード・ケネディ上院議員と広島を訪れたことに触れ、「より平和な世界を実現したいと願うようになった」と語った。ルース氏に続いて大使として広島と長崎を訪れるだろう。オバマ大統領の被爆地訪問の実現につながることを期待する。福島など東日本大震災の被災地や、沖縄にも足を運ぶよう求めたい。

父のケネディ元大統領が暗殺されてから、今月22日でちょうど50年になる。このタイミングで新大使が着任したのも何かの縁だろう。アジアについて理解を深め、大使としてはもちろん、数年後に大使を退いた後も、日米の絆と地域の安定を支える力となってほしい。

 

新駐日米大使 大統領直結に期待しよう(13年8月27日配信『茨城新聞』ー「論説」)

 

故ケネディ米大統領の長女キャロライン・ケネディ氏(55)が新しい駐日米大使として、早ければ9月中にも着任する。初の女性駐日米大使だ。しかも知名度抜群のセレブ。米国だけでなく、世界中に知られる人だ。しかし、日本についての専門家でもなければ、外交経験もない。著述家で、夫はデザイナーだ。

この指名は米国でも論議を呼んだ。ケネディ氏は2008年米大統領選の民主党予備選の最中にケネディ家の理想を引き継ぐのはオバマ氏だと支持を表明。初の女性大統領を狙うヒラリー・クリントン氏と大接戦だったオバマ氏を優勢に導くきっかけをつくった。

今回の駐日大使指名は、その「論功行賞」だとされる。国務長官がクリントン氏からケリー氏に交代したことで実現した。ケネディ氏はケリー氏と親しい。

米メディアでは、中国と尖閣問題で対立し、北朝鮮の核・ミサイル開発、沖縄の普天間飛行場移設など重要な安全保障問題を抱え、環太平洋連携協定(TPP)交渉も正念場を迎える日本に「素人」のセレブを論功行賞で送り込むことの是非が論議された。

また、オバマ大統領の大使指名における論功行賞人事の比率が、これまでになく高いことも批判された。確かにそうした大使は、任地への知識や外交手腕などに欠ける面があるのは否めない。

しかし、トップダウンの大統領制の米国では論功行賞人事は昔から、大使に限らず広く行われている。批判は常にあるが、あまり気にしすぎてはならない。英国、フランスなど欧州の主要国駐在の米大使は、論功行賞人事であることが多い。

 むしろ、そうした大使には、大統領と電話一本で話をつけられるという「政治力」が期待できる。米国の制度では、外交官出身の大使に、そうした政治力はあまり望めない。ケネディ氏がオバマ大統領と直接やりとりできる立場にあるのは確かだ。さらに、ケリー長官とも直談判できるはずだ。日本側こそ、そうした新大使の立場を上手に活用して、日米間の諸懸案を解決していく心構えが必要だろう。

 次期大使を歓迎したい理由は他にもある。

 単に経済関係にとどまらず、民主主義や自由などの価値観を共有する日米の絆は、これまでにも増して世界の中で重要になってくるはずだ。その一方で、日本から米国への留学生は減っており、中国の10分の1だ。ケネディ氏を通じて、若者たちが米国への興味を新たにするようになれば、歓迎だ。またケネディ氏の活躍の報道を通じ、米国人の日本理解が深まることも期待できる。

 故ケネディ大統領が暗殺されたのはちょうど50年前。あどけなかった5歳のキャロライン・ケネディ氏の姿を覚えている人も多いだろう。

故大統領は当時、日米安全保障条約反対デモなどで大きく揺れた日本に知日派学者ライシャワー氏を大使として送り込んで新風を吹き込んだ。自身も現職大統領として初の訪日を実現するつもりで、まず1962年に弟のロバート・ケネディ司法長官を訪日させている。

暗殺で訪日は果たせなかったが、半世紀後、長女が駐日大使として日本にやってくる。そう考えると粋な人事だ。この間の日米関係の変遷にもぜひ思いを致したい。

 

新駐日米大使 大統領直結の政治力期待(13年8月27日配信『岐阜新聞』ー「社説」)

 

 故ケネディ米大統領の長女キャロライン・ケネディ氏(55)が新しい駐日米大使として、早ければ9月中にも着任する。初の女性駐日米大使だ。しかも知名度抜群のセレブ。米国だけでなく、世界中に知られる人だ。しかし、日本についての専門家でもなければ、外交経験もない。著述家で、夫はデザイナーだ。

 この指名は米国でも論議を呼んだ。ケネディ氏は2008年米大統領選の民主党予備選の最中にケネディ家の理想を引き継ぐのはオバマ氏だと支持を表明。初の女性大統領を狙うヒラリー・クリントン氏と大接戦だったオバマ氏を優勢に導くきっかけをつくった。

 今回の駐日大使指名は、その「論功行賞」だとされる。国務長官がクリントン氏からケリー氏に交代したことで実現した。ケネディ氏はケリー氏と親しい。

 米メディアでは、中国と尖閣問題で対立し、北朝鮮の核・ミサイル開発、沖縄の普天間飛行場移設など重要な安全保障問題を抱え、環太平洋連携協定(TPP)交渉も正念場を迎える日本に「素人」のセレブを論功行賞で送り込むことの是非が論議された。

 

 また、オバマ大統領の大使指名における論功行賞人事の比率が、これまでになく高いことも批判された。確かにそうした大使は、任地への知識や外交手腕などに欠ける面があるのは否めない。

 しかし、トップダウンの大統領制の米国では論功行賞人事は昔から、大使に限らず広く行われている。批判は常にあるが、あまり気にしすぎてはならない。英国、フランスなど欧州の主要国駐在の米大使は、論功行賞人事であることが多い。

 むしろ、そうした大使には、大統領と電話一本で話をつけられるという「政治力」が期待できる。米国の制度では、外交官出身の大使に、そうした政治力はあまり望めない。ケネディ氏がオバマ大統領と直接やりとりできる立場にあるのは確かだ。さらに、ケリー長官とも直談判できるはずだ。期待したい。

 日本側こそ、そうした新大使の立場を上手に活用して、日米間の諸懸案を解決していく心構えが必要だろう。

 次期大使を歓迎したい理由は他にもある。

 単に経済関係にとどまらず、民主主義や自由などの価値観を共有する日米の絆は、これまでにも増して世界の中で重要になってくるはずだ。

 その一方で、日本から米国への留学生は減っており、中国の10分の1だ。ケネディ氏を通じて、若者たちが米国への興味を新たにするようになれば、歓迎だ。またケネディ氏の活躍の報道を通じ、米国人の日本理解が深まることも期待できる。

 故ケネディ大統領が暗殺されたのはちょうど50年前。あどけなかった5歳のキャロライン・ケネディ氏の姿を覚えている人も多いだろう。

 故大統領は当時、日米安全保障条約反対デモなどで大きく揺れた日本に知日派学者ライシャワー氏を大使として送り込んで新風を吹き込んだ。自身も現職大統領として初の訪日を実現するつもりで、まず1962年に弟のロバート・ケネディ司法長官を訪日させている。

 暗殺で訪日は果たせなかったが、半世紀後、長女が駐日大使として日本にやってくる。そう考えると粋な人事だ。この間の日米関係の変遷にもぜひ思いを致したい。

 

新駐日米大使/大統領直結に期待しよう(13年8月27日配信『山陰中央新報』―「社説」)

 

故ケネディ米大統領の長女キャロライン・ケネディ氏(55)が新しい駐日米大使として、早ければ9月中にも着任する。初の女性駐日米大使だ。しかも知名度抜群のセレブ。米国だけでなく、世界中に知られる人だ。しかし、日本についての専門家でもなければ、外交経験もない。著述家で、夫はデザイナーだ。

 この指名は米国でも論議を呼んだ。ケネディ氏は2008年米大統領選の民主党予備選の最中にケネディ家の理想を引き継ぐのはオバマ氏だと支持を表明。初の女性大統領を狙うヒラリー・クリントン氏と大接戦だったオバマ氏を優勢に導くきっかけをつくった。

 

 今回の駐日大使指名は、その「論功行賞」だとされる。国務長官がクリントン氏からケリー氏になったことで実現した。ケネディ氏はケリー氏と親しい。

 米メディアでは、中国と尖閣問題で対立し、北朝鮮の核・ミサイル開発、沖縄の普天間飛行場移設など重要な安全保障問題を抱え、環太平洋連携協定(TPP)交渉も正念場を迎える日本に「素人」を送り込むことの是非が論議された。

 また、オバマ大統領の大使指名における論功行賞人事の比率が高いことも批判された。確かにそうした大使は、任地への知識や外交手腕などに欠ける面があるのは否めない。

 しかし、トップダウンの大統領制の米国では論功行賞人事は昔から、大使に限らず広く行われている。批判は常にあるが、あまり気にしすぎてはならない。英国、フランスなど欧州の主要国駐在の米大使は、論功行賞人事であることが多い。

 むしろ、そうした大使には、大統領と電話一本で話をつけられるという「政治力」が期待できる。米国の制度では、外交官出身の大使に、そうした政治力はあまり望めない。ケネディ氏がオバマ大統領と直接やりとりできる立場にあるのは確かだ。さらに、ケリー長官とも直談判できるはずだ。期待したい。

 日本側こそ、そうした新大使の立場を上手に活用して、日米間の諸懸案を解決していく心構えが必要だろう。

 次期大使を歓迎したい理由は他にもある。単に経済関係にとどまらず、民主主義や自由などの価値観を共有する日米の絆は、これまでにも増して世界の中で重要になってくるはずだ。

 その一方で、日本から米国への留学生は減っており、中国の10分の1だ。ケネディ氏を通じて、若者たちが米国への興味を新たにするようになれば、歓迎だ。またケネディ氏の活躍の報道を通じ、米国人の日本理解が深まることも期待できる。

 故ケネディ大統領が暗殺されたのはちょうど50年前。あどけなかった5歳のキャロライン・ケネディ氏の姿を覚えている人も多いだろう。故大統領は当時、日米安全保障条約反対デモなどで大きく揺れた日本に知日派学者ライシャワー氏を大使として送り込んで新風を吹き込んだ。自身も現職大統領として初の訪日を実現するつもりで、1962年に弟のロバート・ケネディ司法長官を訪日させている。

 暗殺で訪日は果たせなかったが、半世紀後、長女が駐日大使として日本にやってくる。そう考えると粋な人事だ。この間の日米関係の変遷にもぜひ思いを致したい。

 

「ケネディ駐日大使」日米関係を深める好機(13年8月27日配信『佐賀新聞』ー「論説」)

 

 1963年に暗殺されたケネディ元米大統領の長女キャロライン・ケネディ氏(55)が、9月にも駐日大使として着任する。戦後16人の駐日米大使の中で初の女性であり、知名度は抜群。日米関係に新風を吹き込むことを期待したい。

 大使は大統領の名代として、米国の外交活動を遂行するのが一番の役目。日本と米国は政治や文化、経済など広範にわたる交流の歴史と安全保障上の同盟関係にあり、駐日大使の存在感はおのずから大きくなる。

 歴代の駐日大使の中で、日本国民から人気が高かったのはライシャワー氏(61〜66年駐在)である。日本生まれで日本人女性と結婚し、任期中は日本側の要請をたくみにくみ上げ、日米の蜜月時代を演出した。

 任期は日本の戦後復興が終了し、高度経済成長を遂げる時期と重なった。60年安保闘争で緊張関係を強めた日米関係に、ライシャワー氏が「安定を取り戻した」と評価されている(孫崎亨著『戦後史の正体』創元社)。

 ケネディ氏にも日米外交史に残る仕事を望みたい。

 故ケネディ元大統領は暗殺から50年たった今でも、カリスマ的な人気がある。長女のケネディ氏は実際の政治や外交経験はないが、オバマ大統領やケリー国務長官と近い関係にある。駐日大使への起用は米国のアジア重視の表れだろう。

 57年生まれで両親と共にホワイトハウスに移り住んだのは3歳の時だった。父の暗殺や弟の飛行機事故など数々の身内の悲劇を経験し、幼いころから米国民に成長を見守られてきた特別な存在である。

 ハーバード大学を卒業し、弁護士の資格を持ち、法律に関する著作も複数ある。最近は自選の詩集の出版記念サイン会で全米を奔走した。その席にはケネディ氏に一目会いたいと願う市民が、長い列をつくったという。

 活動領域は政治から法律、社会貢献と幅広い。銃規制や妊娠中絶、同性婚を支持し、典型的な民主党員とみられている。大使は初の公職で経験不足が指摘されているが、オバマ大統領と電話で直談判できる親密な関係が強みだ。

 オバマ氏が初当選した2008年の大統領選では、ニューヨークタイムズ紙に「私の父のような大統領」と題する文章を寄稿し支持を表明。昨年の大統領選でも有力支持者の一人として再選に貢献した。この関係を日本としても活用したい。

 前任のルース氏は佐賀を含む47都道府県を訪問した。東日本大震災後は被災地支援に尽力し、日本側の信頼が厚かった。それでも米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設などの難問が残っている。

 米国が日本に期待するのは経済の再生と東アジア情勢の安定だろう。米国の経済と安全保障は日本との友好関係が基盤にある。ただ、尖閣諸島をめぐる中国との対立や北朝鮮の核問題、環太平洋連携協定(TPP)交渉など、東アジア情勢はかつてなく複雑で流動化している。

 ケネディ氏の大使就任は、米国内では将来の政界進出への布石との観測も広がっているという。駐日大使人事がこれほど米国内で関心を呼んだ例は近年なかった。米国民の目を日本に引きつけて、日米の諸懸案を解決していく好機である。

 

ケネディ新駐日米大使 期待の半面、問題直面も(13年8月23日配信『デイリー東北』―「時評」)

 

米国の次期駐日大使として、故ケネディ大統領の長女キャロライン・ケネディ氏(55)がこの秋着任する予定である。

 東アジア情勢が緊迫する中、オバマ大統領が「アジア太平洋の礎石」と呼ぶ同盟国日本に、公職経験がない初の女性大使を派遣することについては賛否両論がある。

 オバマ政権は大使人事を「論功行賞」に利用する例が特に目立つ。難問などない赴任国ならともかく、日本は尖閣諸島や普天間基地問題、環太平洋連携協定(TPP)など課題が山積している。

 大統領との個人的関係だけで大使を指名するのは「米国の国益を損ねる」との批判もある。

 ケネディ氏は2008年大統領選で「父のような大統領に」と題する小論を米紙に寄稿、オバマ勝利に弾みをつけた貢献は大きかった。しかし自分の意見を表明するのが外交官の仕事ではない。日本の主張などを直接大統領に伝えることが期待されるが、本国の政策と個人的見解の違いを表面化させてはならない。憲法や安保条約とも微妙に絡む集団的自衛権の問題で失言などは許されない。

 「ケネディ次期駐日大使説」が報道された後、3カ月以上経過して正式に指名された裏には、こうした問題で国務省の説明や協議が続けられていた可能性がある。

 それではなぜオバマ大統領は、時に歯に衣(きぬ)着せぬ発言もする「超セレブ」のケネディ氏を指名したのか。日米同盟関係の運営に苦慮する大統領の深謀遠慮があったのかもしれない。

 第一に、日本国内でTPPなどに絡んで強まる対米批判を和らげる狙いだ。11月22日に父の暗殺から50年を迎え、日本国民も故ケネディ大統領への思いを新たにするだろう。来年の原爆式典にケネディ氏が列席すれば、日米間の雰囲気が変わる可能性もある。

 第二に歴史認識や「右傾化」批判の問題だ。この問題ではリベラルな彼女と大統領は見解を共有するとみられる。大統領はこうした問題に正面切って言及することを避けてきたが、彼女がソフトに直言するような場面が見られるかもしれない。

 菅義偉官房長官は「故ケネディ大統領には多くの日本人が大変親しみを感じている」と彼女の活躍に期待を表明した。

 米国はこれまで元副大統領や元下院議長、元上院院内総務ら名士を駐日大使に送り込んできたが、ケネディ氏ほど注目される人事はなかった。

 芸術家の夫とともに、名門のオーラを備えた女性大使ならではの活躍が期待される半面、予期せぬ問題に直面する可能性もある。安倍政権が彼女をうまく取り込めるかどうかも注目される。

 

駐日米大使交代へ 「真の友」であるために(13年8月8日配信『東京新聞』―「社説」)

 

 米国の駐日大使が交代する。日米関係は最も重要な二国間関係とされるが、「真の友」であり続けるには、お互いに理解を深める不断の努力が必要だ。

 68年前、人類史上初めて原子爆弾が投下された8月6日。広島市で開かれた平和記念式典の会場に、近く離任するジョン・ルース駐日米大使の姿があった。長崎の式典にも出席する、という。

 2009年の着任後、両親、息子とともに広島平和記念資料館を訪れたルース氏。翌10年に広島の、12年には長崎の式典に出席した。ともに米政府代表である駐日米大使の出席は初めてだった。

◆勇気ある式典出席

 広島、長崎の式典出席がルース氏まで実現しなかったのは、それが政治的困難さを伴うからだ。

 米国では原爆投下を「正しかった」と考える人が依然、多数を占める(米コネティカット州キニピアック大の09年世論調査では61%)。原爆投下が終戦を早め、多くの米兵の命を救った、と考える人々にとって、原爆犠牲者を慰霊する式典への大使の出席は、原爆投下の正当性否定につながる。

 「謝罪」色がにじめば、大使ばかりでなく、任命した大統領が厳しい批判にさらされかねない。

 「核なき世界」の実現を目指すオバマ米大統領の意向があったにせよ、大使として着任早々に広島を訪問し、式典にも初めて出席したことは、唯一の被爆国として核廃絶を願う日本国民の心をとらえた。

 ルース氏も式典出席によって「日本や日本人への理解を深めることができた」と振り返る。日本国民には遅きに失したとしても、政治的困難を乗り越え、核廃絶を願う心情を理解しようとした大使の勇気はたたえられるべきだ。

 大使在任中、最大の「試練」は11年3月11日に発生した東日本大震災ではなかったか。

◆安保、いびつな構造

 米政府は直後から、米軍による行方不明者や孤立住民の捜索・救助、支援物資の輸送などの支援活動「トモダチ作戦」を展開した。ルース氏は「第2次世界大戦以降最大の危機にひんしている同盟国を助けたいだけだ」と語った。

 英語には「A friend in need is a friend indeed.」(まさかの時の友こそ真の友)ということわざがある。

 国家的危機の日本を励まし、救いの手を差し伸べた姿に、真の友を感じた日本国民は多いだろう。

 ただ、日米関係の「負」の側面からも目を背けるわけにはいかない。例えば、日米安全保障条約体制をめぐる問題である。

 中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発など、東アジアの安保環境が激変する中、一定の抑止機能を果たしているとしても、日本の一地域である沖縄県が、在日米軍基地の74%という過重な負担を強いられる構造はいびつだ。

 本土復帰後だけでも45件目となる米空軍ヘリコプターの墜落事故は、沖縄県民の暮らしがいかに危険と隣り合わせかを物語る。

 県全体としては負担軽減にならない普天間飛行場の「県内移設」や危険性に懸念が残る垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの配備を強行したり、米兵らに法的特権を認める日米地位協定の改定から目を背けたりでは沖縄を含む日本国民の対米感情は良くはなるまい。

 環太平洋連携協定(TPP)交渉も同様だ。特に農業分野では関税撤廃への不安が強い。他の分野でも米国の要求をのまざるを得なくなるのでは、との懸念が残る。

 こうした課題はルース氏から、上院で近く承認予定の初の女性駐日米大使、キャロライン・ケネディ氏に引き継がれる。

 元大統領の長女。作家であり銃規制などを支持するリベラル派、人権派の弁護士でもある。政治、外交経験はない。大使起用は大統領選でオバマ氏を支援した「論功行賞」とされるが、大統領と直接電話で話せる関係や、米国きっての名門からの起用に「対日重視の表れ」との見方もある。

 戦後四人目の駐日米大使となったライシャワー氏は自伝(文芸春秋刊)で大使の機能として、任地での米政府代表、自国民保護、情報収集などを挙げ、「多くの大使が忘れているもう一つの仕事を付け加えたい」としてこう記す。

 「任地国の政府と国民の間に米国に対する友好と善意の感情を築き、両国の相互理解を深める」

◆「人権派」への期待

 ケネディ氏も、先達の言葉を胸に刻み、日米関係に新たな地平を開いてほしい。

 沖縄にも足を運び、米軍基地の存在が県民の暮らしをいかに危険にさらしているか、いかに人権が軽視されているかを見てほしい。

 ケネディ氏が人権派で、米国が人権を重んじる民主主義国家であるのなら、沖縄県民の苦悩にも当然、向き合えるはずである。

 

13年8月3日配信『日経新聞』―「春秋」

 

「私は5人の首相とつきあった」。近く離任するジョン・ルース駐日米大使は安倍晋三首相との会食の席で、こんな感慨を口にしたという。自分とは違ってキャロライン・ケネディ次期大使は1人の首相とつきあうだけでいいだろうから「うらやましい」とも語った。

▼参院選で大勝した安倍さんは長期政権を保つと自分はみている。間接的な表現ではあるが、そうご本人の前で言ってのけたわけだ。ルースさんはもともと外交官ではないらしいが、なかなかよく練れた「外交辞令」を繰り出した印象だ。言葉の使い方がどうにも軽い麻生太郎副総理に爪のあかでも、などと思ってしまう。

▼そういえばルースさんが着任した時の首相が麻生さんだった。そして鳩山さん、菅さん、野田さん、安倍さん。4年以上つとめている駐日大使はみな経験したことではあるが、わが国唯一の同盟国の大使だけに苦労はいかばかりだったろう。「うらやましい」という言葉には、外交辞令に収まらない本音の響きも感じる。

▼難しい環境の中でルースさんはいい仕事をした、という声は多い。駐日米大使として初めて広島平和記念式典に出席し、長崎の原爆落下中心地碑に献花した。そして東日本大震災のときのトモダチ作戦。ないものねだりかもしれないが、いつの日か、つきあった5人の首相それぞれについての本音の感想を聞いてみたい。

 

ケネディ次期大使 名声にふさわしい仕事を(13年7月29日配信『産経新聞』―「主張」)

 

 オバマ米大統領が次期駐日大使に、故ケネディ大統領の長女であるキャロライン・ケネディ氏を指名した。上院による指名承認を経て、今秋にも着任する見通しだ。

 外交手腕は未知数ながら知名度は抜群で、選挙応援などを通じてオバマ氏と近しい。オバマ政権の対日関係重視を表す人事と受け止めたい。

 1960年代に登場した若き指導者、ケネディ氏はそのカリスマ性に、凶弾に倒れた悲劇性も加わって、内外で最も知られた米大統領の一人だ。ケネディ一族は米政界きっての名門でもある。

 娘のキャロライン氏は大使として世界の関心を集め、日米同盟の重要性を内外に印象づけよう。

 気がかりなのは氏に外交、政治の経験がないことだ。重要ポストへの起用は、2008年大統領選の民主党予備選で支持を表明して、「オバマ候補」へと流れを変えた「論功行賞」とされる。

 駐日米大使は、モンデール元副大統領、ベーカー元上院院内総務ら政官界の大物が就くケースが多い。ケネディ氏起用に不安がくすぶるのも当然だろう。話題優先の人事でないことを願いたい。

 もっとも、ルース現大使も08年選挙でオバマ氏の資金集めに貢献し、外交経験はなかった。知名度も存在感も乏しかったが、東日本大震災で米軍の支援活動「トモダチ作戦」に尽力するなど、評価しうる実績を作っている。

 ケネディ氏は初の女性駐日米大使となる。日本を知り、外交のスキルを磨いて、一家の名声にふさわしい仕事をしてほしい。

 日米間には米軍普天間飛行場移設、日本の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加といった重要懸案がある。海洋進出攻勢に出る中国や、日本人拉致問題を含む北朝鮮への対応も難題だ。

 オバマ政権1期目は、クリントン国務長官が安全保障面の「アジア回帰」を主導し、知日派のキャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)がそれを支え、ドニロン米大統領補佐官(国家安全保障担当)も手堅い力を発揮した。

 2期目に入って彼らは去り、後任国務長官のケリー氏の関心はアジアより中東に向いている。

 ケネディ氏には日本の立場に十分な理解を求めたい。そのうえでいつでも電話で話せるというオバマ氏との関係を生かし、日米のパイプ役を果たしてほしい。

 

駐日米大使指名 スイート・キャロライン(13年7月27日配信『毎日新聞』―「社説」)

 

 オバマ米大統領は次期駐日大使にキャロライン・ケネディさん(55)を指名した。連邦議会上院での承認手続きが残っているが、名門ケネディ家からの起用でもあり、強い異論は出そうもない。順調なら承認を経て9月にも着任することになろう。

 キャロラインさんの指名を歓迎する。暗殺されたケネディ大統領の長女であり、父の葬儀に参列した時のあどけなくも悲しげな顔を覚えている人も多かろう。歌手のニール・ダイアモンドが、悲劇を乗り越えて10代になった彼女の、優しく愛らしい姿を「スイート・キャロライン」という歌で表現したことも有名だ。

 米国初の女性駐日大使になる点も含めて、話題性では抜群の人事である。外交に新しい風を吹き込んでほしい。これまで駐日大使は大物政治家が務めることが多かった。特に1990年代以降は、モンデール氏(元副大統領)、フォーリー氏(元下院議長)、ベーカー氏(元上院院内総務)と続き、次のシーファー氏もテキサス州下院議員の経験がある。

 弁護士のルース現大使は、政治家や政府要人としての経歴を持たない点で異例である。やはり弁護士出身で政治、外交の経験が特にないキャロラインさんの起用により、駐日大使の「脱政治家」傾向はさらに強まったといえるかもしれない。

 ある意味では論功行賞の人事でもあろう。2008年にオバマ上院議員(当時)が大統領選に名乗りを上げた時、キャロラインさんは「父のようになれる人」と支持を表明した。これがオバマ氏を勢いづかせた半面、対抗馬のクリントン上院議員(後の国務長官)との摩擦も生じた。

 その後、キャロラインさんはクリントン氏の後継上院議員になる意欲を示したものの断念し、一時はオバマ大統領との確執も伝えられた。結局、米外交の中心である国務長官がクリントン氏からケリー氏に代わった後で、駐日大使に据えることが決まったわけである。

 ちなみに、米国の駐中国大使は商務長官や州知事の経験を持つ中国系の米国人。駐韓国大使は韓国から米国へ移住し、6カ国協議の特使も務めた外交官だ。中韓が実務型であるのに対し、日本は論功行賞の色彩が強い話題先行型といえなくもない。

 だが、政治や外交の実務経験も大切とはいえ、大使に必要なのは駐在国の事情を理解し、本国と連携して必要な措置を迅速に講じることだろう。その点、キャロラインさんには米政府と議会への強い発信力がある。尖閣問題にしろ北朝鮮の核・ミサイルにしろ東アジアの不安定化が進行する中、スイートなキャロラインさんには日本の安全と域内の安定に寄与する頼もしさも期待したい。

 

13年7月20日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」

 

一枚の写真がある。喪服姿の女性と少女が並んでひざまずき、星条旗に包まれた棺(ひつぎ)にキスをしている。1963年11月、米国会議事堂。テキサス州ダラスで暗殺されたジョン・F・ケネディの葬儀の場面だ

 女性は夫人のジャクリーン、少女は愛(まな)娘のキャロラインさん。2人の姿に会場の皆が涙を浮かべた。間近で見守っていた警護官のクリント・ヒル氏も、自らの感情を抑えるのに必死だった。ヒル氏がこの4月に出版した回想録「ミセス・ケネディ」にある

キャロラインさんは43歳で大統領に就任した父親と一緒にホワイトハウスに移り住んだ。当時3歳。「茶色の髪が目の上で自然にカールし大きな青い目は父親譲り。活発で知りたがり」。ヒル氏は初対面の印象を記した。それから半世紀。少女は駐日米大使に着任することになった

ケネディへの憧れと郷愁。その長女である。話題性のある物語だ。だが、政治経験はない。日米間には複雑に絡み合う糸が幾本もある。「スーパースターのような米大使を望む日本国民が興奮するのは確実」。米紙は皮肉をまぶす

ケネディは大統領就任演説で「太平洋は日本とアメリカを隔てるものではない…私たちを強く結び付けている」と訴えた。偉大な父の残像を背負うキャロラインさんも苦労は多いだろう。現実に向き合い、糸を一本一本ほぐしつつ、未来への物語を紡いでほしい。

 

13年7月15日配信『産経新聞』―「産経抄」

 

歴代の米駐日大使のなかでもっとも日本人に親しまれた人物といえば、エドウィン・ライシャワー博士が挙げられる。「たくさんの日本人の血を輸血してもらったので、混血になったような気がしています」。

▼任期中暴漢に襲われた際、日本人を安心させるために出したコメントは、歴史に残る名せりふとなった。博士を駐日大使に任命したのが、当時のケネディ大統領だ。その長女のキャロライン・ケネディさん(55)が、次期駐日大使に内定した。

▼父親が1963年にテキサス州ダラスで暗殺されたとき、まだ5歳だった。ひつぎの前で、ジャクリーン未亡人の手をにぎりしめて悲しみをこらえていた。いたいけな姿の写真を覚えている人も少なくないだろう。

▼オバマ大統領が、日本人の「ケネディ好き」を知らないわけがない。初の女性駐日大使という話題もある。日米関係の重視を印象づけたいという、思惑は明らかだ。「親日度」では、日本で生まれ育った博士とは比ぶべくもないが、新婚旅行で、東京、大阪を訪れているという。

▼『ケネディ−「神話」と実像(中公新書)によると、元大統領は戦争中、魚雷艇の艦長をしていた。名前が知られるようになったのは、日本の駆逐艦と衝突、沈没するなか、部下を救った英雄的行為が報道されたからだ。下院議員時代の1951年のアジア視察旅行では、目的地の日本を目前にして病に倒れた。「父が訪問したかった日本を訪ねたいという気持ちがあったかもしれない」と著者の土田宏さんはいう。

▼きょうは海の日。晩年カリフォルニアで暮らした博士の遺骨は、遺言によって、日米の間にある太平洋にまかれた。「懸け橋となる」遺志を、ケネディ次期大使にもぜひ継いでもらいたい。

 

注;ライシャワー(Edwin Oldfather Reischaur)=1910〜1990。東京の生まれの米国の歴史学者。ハーバード大学教授。第2大戦中から米国の対日政策立案に参与。1961〜66年駐日大使。著「日本―過去と現在」「米国と日本」など。再婚の妻は明治時代の元勲・松方正義の孫の松方ハル。

 

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☆ ケネディ長女「駐日大使」は嫌日メッセージ(13年7月16日配信『日刊ゲンダイ』)

 

オバマはやっぱり日本嫌い

 故ケネディ大統領の長女キャロライン・ケネディ(55)が次期駐日大使に内定した。女性の大使就任は初めてで、上院の承認を経て早ければ9月半ばにも着任する。

 NY生まれで、3歳でホワイトハウス暮らしを経験。多数の政治家を輩出した“ロイヤルファミリー”の象徴的な人物だ。08年の大統領選の時からオバマ支持を鮮明にし、政権誕生の立役者となったことで知られる。

 オバマと「近しい」関係から、日本の大新聞テレビは早速、今回の駐日大使就任について、「日本重視の表れ」「日米同盟の強化につながる」と歓迎ムードだが、果たしてそうなのか。元外交官の天木直人氏はこう言う。

「ロイヤルファミリーで美人ともなれば、日本国内で好感度がいや応なしに高まる。日米がこれを利用しない手はなく、沖縄の米軍基地問題など双方にとって都合の悪い話の“目くらまし”や“洗脳”にキャロライン氏の話題を使おうと考えるでしょう。私は直感的にそう思いました」

 今回の人事は、オバマの日本重視の姿勢――と評価する見方は怪しいという。

「キャロライン氏は行政や外交に関わった経験がなく、駐日大使起用には米紙からも『露骨な論功行賞』との批判が出ています。尖閣諸島の問題や、東シナ海で軍事的影響を拡大する中国、核開発やミサイルで揺さぶりをかける北朝鮮との関係――といった東アジア情勢にどこまで対応できるのか。とてもオバマ大統領が日本を『重視』しているとは思えません。それよりも、米国は『慰安婦問題はなかった』と声高に叫ぶ安倍政権を牽制するつもりだと思う。というのも、キャロラインは、有名なリベラリストの人権派。安倍首相と考え方は百八十度違う。日本重視というより、むしろ、日本側を牽制する『嫌日メッセージ』の表れなのではないか」(外交ジャーナリスト)

前出の天木直人氏がこう言う。

「リベラルな彼女が、沖縄の基地問題やTPPといった日米間の問題を目の当たりにして何を感じるか。日本国民は彼女を味方にして米国のヒドイ姿勢を理解させるべきでしょう」

  今ごろ、安倍首相は内心、困っているのではないか。

 

☆ ケネディ長女 お子ちゃま言葉で「しくじり」の過去(13年4月3日配信『日刊ゲンダイ』)

 

こんな人が駐日大使で大丈夫?

 ケネディ元大統領の長女のキャロライン氏(55)が次期駐日米大使に起用されると、米主要メディアが一斉に報じた。団塊の世代以上なら、ケネディ暗殺後の葬儀で母親のジャクリーン夫人の横にたたずむ幼い少女の姿を覚えているだろう。

 あれから半世紀――。彼女はハーバード大とコロンビア大法科大学院を卒業後に弁護士資格を取得。現在はケネディ記念図書館の館長を務めながら、慈善事業や教育改革に取り組んできた。

 就任が決まれば、初の女性駐日大使となるが、彼女は政治経験ゼロ。それでも「上下院議員よりもグンと格上」(大使館関係者)とされる大使に抜擢されたのは、オバマの「恩返し」である。

「今でもアメリカ人はケネディ大統領が大好き。オバマが大統領になれたのも、彼女がNYタイムズにオバマと父親のイメージを重ねる投書を寄せたのが決定打と言われるほどです。昨年の大統領選でもオバマ陣営に上限ギリギリの2250ドル(約21万円)を送ったほか、彼女のひと声で、友人のセレブから相当な献金が集まったようです」(米国事情に詳しいジャーナリストの堀田佳男氏)

彼女が「論功」を欲しがる背景には名門ケネディ家の事情もある。弟・ジョンは99年に飛行機事故により38歳の若さで死去。3年前には叔父で名門一族の家長を務めたエドワード上院議員も亡くなった。現在、一族の政治家はケネディ元大統領の弟、ロバート元司法長官の孫であるジョゼフ下院議員だけだが、強烈なカリスマの持ち主ではない。

 そこで残された彼女が大使の箔(はく)をつけ、一族の顔となり、今年20歳になる息子の成長を待つという見方もある。

「09年にヒラリーの国務長官就任でニューヨーク州選出の上院議員ポストが空席となると、彼女の出馬が取りざたされた。ところが、テレビのインタビューで約30分間に『ユー・ノウ』を168回も連発。日本語の『あのね〜』『それで〜』のような言い回しで、いい大人が頻繁に使えば相手に子供っぽい印象を与えます。このやりとりがメディアに酷評され、彼女は出馬辞退に追い込まれました」(堀田氏)

 小学生時代の貴乃花じゃあるまいし、「あのね〜」連発の七光オバサンを大使に起用するなんて、日本もナメられたものである。

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