安倍首相靖国参拝(2013年12月26日)

 

<安倍首相>現職の靖国参拝 7年ぶり 小泉首相以来

 

安倍首相靖国参拝ドキュメント

 

論 調

 

 

 

安倍晋三首相は2度目の首相就任から1年たった2013年12月26日午前、A級戦犯を「昭和殉難者」と呼んで祭る東京・九段北の靖国神社を参拝した。

中国、韓国との関係改善の見通しが立たず、政権周辺でも「年内参拝はないだろう」とみられていた中での電撃的な参拝となった。

現職首相による靖国参拝は2006年の終戦の日の小泉純一郎首相(当時)以来、7年ぶり(13年4月21日に始まった春季例大祭(23日まで)に合わせて麻生太郎副総理と古屋圭司国家公安委員長は、21日靖国神社をそれぞれ参拝している

 

近年の首相による靖国参拝としては、小泉首相が01〜06年まで計6回、毎年1度参拝。1996年には橋本龍太郎首相が参拝、宮沢喜一首相も92年に参拝している。

 

 

 

首相は外国人も含めた靖国神社に合祀(ごうし)されていない戦没者を慰霊する敷地内の1965年に建てられた「鎮霊社」にも現職首相として初めて参拝した。安倍首相は、インターネットの交流サイト=フェイスブックのみずからのページに靖国神社に参拝する写真を掲載し、「日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈り致しました。同時に、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀されない国内、諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも参拝いたしました。二度と人々が戦争の惨禍に苦しむことが無い時代をつくる、との決意を込めて、不戦の誓いをいたしました」というコメントを載せた。

 

 

 

 

注;鎮霊社(ちんれいしゃ)=靖国神社境内の隅、靖国神社の本殿の隣、元宮(もとみや=靖国神社の前身)の脇にある祠(ほこら=神を祀る小規模な殿舎。小堂)。1965年7月、筑波藤麿(つくば ふじまろ)5代宮司の発案でひっそりと建てられた。かつては鉄柵で囲まれ、一般参拝者は存在にすら気づかなかった。本殿とは対照的に、ペリー来航(1853年)以来の、本殿に祀られていない日本人戦没者(民間人や、戊辰戦争の旧幕府軍や西南戦争の西郷隆盛方戦没者などの「朝敵」「逆賊」)と世界中の戦没者(「万邦諸国の戦没者」)がまつられているとされている。本殿でのA級戦犯合祀を回避するため、A級戦犯を一時的に祀っていたという指摘もある。2006年10月17日より一般の参拝が可能となっている。例祭は毎年7月13日。

 

首相は午前11時32分、靖国神社に到着。上空には15機前後のヘリコプターが旋回。警備担当の警察官に守られながら後部座席の左側から車を降りた。服装は黒のモーニング姿で、拍手の中、日本遺族会の関係者と握手を交わし、背筋を伸ばしてやや大きな歩幅で本殿に上がり、昇殿を参拝、「内閣総理大臣 安倍晋三」と札をかけた花を参拝前に奉納した。

同56分、参拝を終え再び車に乗り込んだ安倍首相。約300人の報道陣に片手を上げて応じ、日の丸を持つなどした参拝者からは拍手とともに「よくやった、ありがとう」との声が上がった。

その後、首相は「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対し、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊(みたま)やすらかなれとご冥福をお祈りした」との談話を発表した。

在任1年となる26日に参拝した理由について会見で、「残念ながら参拝が政治、外交問題化している。その中で1年間の安倍政権の歩みを報告した。二度と戦争の惨禍で人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓い、決意を伝えるためにこの日を選んだ」と説明した。

 

首相は自民党総裁だった12年秋、例大祭にあわせて靖国に参拝した。第1次安倍内閣で参拝できなかったことを「痛恨の極み」と振り返ったが、靖国神社参拝に強く反発している中韓両国との関係を優先し、12年12月に首相就任後は閣僚の参拝を容認する一方、先の大戦のA級戦犯らがまつられている神社への自らの参拝は外交的な配慮から見送り、4月の春季例大祭、8月の終戦記念日、10月の秋季例大祭とも参拝せず、真榊(まさかき)と呼ばれる供え物や玉串料の奉納にとどめてきた。また、「参拝については国のために戦い、倒れた方々に尊崇の念を表し、ご冥福をお祈りする気持ちは今も同じだ」としながらも、参拝するかどうかについては「それ自体が政治・外交問題に発展していく」として明言を避けてきた。

 

だが、参拝を1年間見合わせたにもかかわらず、中韓との首脳会談のめどが立たないことから、靖国参拝を決断したものとみられるが、年末の突然の参拝は、中国や韓国との関係をさらに冷え込ませるのは必至。首相は、中国、韓国からの反発に対しては「戦犯を崇拝する行為との誤解に基づく批判がある」と指摘したうえで「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えはない。それは靖国神社を参拝した歴代の首相と全く同じ考えだ」と強調した。

 

特定秘密保護法の成立武器輸出三原則の例外拡大に続き、憲法上の疑念や批判があっても確たる「信念」は押し通す。安倍首相の「面目躍如」といったところである。

 

 公明党の山口那津男代表のもとに首相から、「自分の決断として参拝します」と電話があったのは、26日午前。山口氏が「賛同できない」と反対したが、首相は「賛同いただけないとは思います」とにべもなかった。自民党の石破茂幹事長にさえ当日通告。党幹部は「もう誰も止められなくなっている」とぼやいたという。

 

 自民党の額賀福志郎日韓議員連盟会長は26日、国会内で記者団に対し、参拝前の首相に電話し、「北東アジア情勢が不安定になる中で、特に日韓関係が大事だ。思いとどまってほしい」と求めたことを明らかにした。これに対し、首相は「靖国神社には参拝したいと言ってきたことは、国民との約束でもあり、決断をした」と述べ、応じなかった。

 

 26日の閣議後の記者会見で、各閣僚は安倍晋三首相の靖国神社参拝について見解を明らかにした。岸田文雄外相は「政治問題化、外交問題化は避けなければならない」と指摘。これに関連して外務省幹部は米国などには事前に説明していないとして「求められれば首相の談話に基づき各国に説明する」と述べ、小野寺五典防衛相は「国のために戦って犠牲になった方々に尊崇の念を表するのは当然だ」と強調。韓国の反発に関しては「日米韓は安全保障面で大切な関係だ。協力関係を維持する努力はしていきたい」と語った。新藤義孝総務相は「首相の個人としての判断だ。私も初詣には行こうと思っている」と話した。

 菅義偉官房長官は記者会見で、首相の参拝に関し「私人の立場で参拝した」と説明。私人として玉串料を奉納し「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳したことも明かし「政府として立ち入ることはない」と述べた。

 

 自民党の石破幹事長は26日、党本部で記者団に対し、「祖国のためを思い殉じた方々に尊崇の念を表し慰霊するという首相の真意を分かってもらえれば、外交問題への発展を避けることは十分可能だ」と述べ、首相の参拝を擁護した。

民主党の海江田万里代表は26日、安倍晋三首相が靖国神社を参拝したことを受けて記者会見し「過去の歴史と一線を画すという意味で内閣総理大臣の職にある人は参拝を自重すべきだ」と首相を批判した。中国や韓国を念頭に「外国の声がどうこうということではなく、日本の主体的な判断として参拝は自重すべきだ」と述べた。

共産党の志位委員長は「断じて許すわけにはいかない。中国、韓国との関係を考えても外交的な行き詰まりを一層深刻なものにする。アメリカを含めて世界全体を敵に回す行動だ」と厳しく批判した。 

社民党の福島瑞穂副党首は「首相が歴史認識を変えようとしていることを危惧する」と、右傾化への懸念を表明、社民党の又市征治安倍幹事長は、首相の靖国神社参拝に強く抗議する談話を発表した。

生活の小沢一郎代表も談話で「戦争犯罪人が合祀(ごうし)されている現在の靖国神社に首相が参拝すべきではない」と批判した。

 一方、維新の橋下徹共同代表は「最近の中国、韓国は著しい侮辱発言の連続だ。外交上の配慮で参拝を見送るのはもうやめようと判断したことは、非常に合理的だ」と首相の対応を評価。維新国会議員団からも「英霊に尊崇の念を表すのは当然」(中山成彬両院議員総会長)との受け止めが相次いだ。

 みんなの渡辺喜美代表は談話で「個人の信仰の問題であり、とやかく言うことはない」と問題視しない考えを表明。結いの党の江田憲司代表は談話で「(参拝の)結果起こるであろう事態を、責任をもって収拾していただくことを強く期待する」と注文を付けるにとどめた。 

 

 日本の閣僚や政治家の靖国参拝問題を、旧日本軍の従軍慰安婦問題とともに歴史問題の核心と位置付け、安倍首相や閣僚らが靖国に参拝しないよう繰り返し求めてきた韓国政府は、日本側から事前に連絡を受け、「参拝など絶対にあってはならない。日韓関係をどうしたいのか、とにかく理解できない」「外交的にどれほど大きな悪影響をもたらすか、日本もよく分かっているはずだ。とてつもない悪影響が出る」と述べ、参拝前の26日午前に外交ルートで強く抗議した。

 韓国外交省は靖国神社の春と秋の例大祭や8月15日などに日本の閣僚や国会議員が参拝するたびに懸念を表明。4月に麻生太郎副総理が参拝した際には、尹炳世(ユンビョンセ)外相が直後に予定していた訪日を中止し、日韓関係が冷え込む大きな要因となった経緯がある。

 劉震竜(ユジンリョン)文化体育観光相は26日、記者会見し、安倍首相の靖国神社参拝に対する韓国政府の声明として「嘆きと憤怒を禁じ得ない」と述べた。靖国神社は戦争犯罪者を合祀(ごうし)している反歴史的な施設だと表現。参拝は「韓日関係はもちろん、東北アジアの安定と協力を根本から損なう時代錯誤的行為だ」と批判、日本に対して「日本軍国主義の侵略と植民地支配の苦痛を経験した近隣国家とその国民に対する徹底した反省と謝罪を通じ、信頼を築くべきだ」と求めた。韓国はこれまで、日本の首相らの靖国参拝に対しては外交省報道官らが抗議を表明してきたが、今回は抗議のレベルを格上げした。

 また、金奎顕(キムギュヒョン)第1外務次官は外務省に倉井高志・駐韓総括公使(臨時代理大使)を呼び、「韓日関係の安定的な発展を望む両国国民の願いに冷や水を浴びせる行為だ」と抗議した。

 韓国の聯合ニュース(電子版)は、「安倍首相、靖国神社電撃参拝」という見出しの東京特派員電を掲載。「歴史問題や尖閣問題などで対立してきた日韓、日中関係がさらに凍りつくことが予想される」「日韓首脳会談の開催なども今のところ期待しにくくなった」「とてつもない(日韓関係への)悪影響」などと報じた。

 韓国主要紙は27日、ほぼ全紙が安倍晋三首相の靖国神社参拝を1面トップで報じ、大きな関心を示した。中央日報は「安倍の挑発で韓日関係は崖っぷちへ」との見出しで、「平和憲法に正面から逆らう意志が込められている」「戦争被害国である周辺国を度外視した傍若無人な挑発だ」と指摘、「韓日関係が破局に向かって疾走している」と強調。社説では「安倍は元には戻れない橋を渡った」と批判した。

 朝鮮日報は、「日本は国際社会でさらに孤立するだろう」との政府関係者の発言を伝え、政府内に中国との共同歩調を模索すべきだとの声が出ていると報じた。社説では、「日本という船は既に方向を転換した。『過去の日本』はもはやない。政府は完全に別の次元から、日本を相手にする方策を考える時が来た」と主張した。

 東亜日報は、日韓首脳会談を呼び掛けていた首相の提案は「パフォーマンスにすぎなかったことがはっきりした」とする韓国政府内の雰囲気を伝え、「首脳会談は当分駄目になり、調整中の次官級戦略対話も取り消される危機だ」と報じた。

 

 中国国営新華社通信(英語版)は、毛沢東生誕120周年の記念日(中国にとって特別な日)を迎えた26日、安倍首相が同日午前、靖国神社を参拝したと速報した。

 同通信は、「安倍首相が就任1年に合わせ、日本の保守層の支持を得るために参拝を決めた」「中国や韓国との関係に影を落とすだろう」とする日本メディアの分析も伝えた。さらに、中国外務省は「強く抗議し、厳しく非難する」との秦剛(しんごう)報道官談話を発表し、「中国政府は、日本の指導者が粗暴にも中国とその他のアジアの被害国の国民の感情を踏みにじり、公然と歴史の正義と人類の良識に挑戦した行動に強い憤りを示す」などと日本を非難するとともに、日本政府に強く抗議すると表明した。秦局長はこの日が毛沢東主席生誕120周年であることにも触れ、「抗日戦争の時代に、毛氏が『中国は大国であり、最後の勝利は中国にもたらされる』と語ったのを思い出す」と述べ、日本をけん制した。

同省の羅照輝アジア局長も同省のブログで、「中国人は絶対に受け入れられない。(参拝は)新たに重大な政治的障害を生む。日本は引き起こした結果に責任を負わなければならない」と強く非難、中国外務省が木寺昌人駐中国大使と日本外務省に抗議した。

 中国の程永華駐日大使は26日午後、外務省で斎木昭隆事務次官と会談し、安倍晋三首相の靖国神社参拝に抗議した。程大使は会談後、記者団に「極めて大きな憤慨を覚える。靖国神社は対外侵略を精神的に支えた場所でA級戦犯が祭られている。国際社会への挑戦で、中国、韓国の感情を傷つけた」「中国と日本の関係は大きな困難に直面しているが、今日の行動は新たに大きな障害をもたらした。責任は日本側が負わなければならない」と首相の参拝を非難した。

 国営中国中央テレビ(CCTV)は26日朝、安倍政権発足1年に関するニュースを報じ、これまでの外交・防衛政策を踏まえ「(安倍政権の)右傾化の本質が明らかになった」などと指摘した。

 17日から中東を歴訪しており、26日帰国したばかり中国外務省の王毅(おうき)外相は、木寺昌人駐中国大使を呼び、安倍晋三首相の靖国神社参拝について、強く抗議した。一方、同省の秦剛報道局長は記者会見で「靖国問題は日本が軍国主義の侵略の歴史を正確に認識し、深刻に反省できるかという問題だ」と批判し、「心からアジアの隣国との関係改善を願うなら、靖国神社ではなく、南京大虐殺記念館に行くべきだ」と主張した。これまで日本の閣僚による靖国参拝では次官級が大使に抗議の意志を伝えてきたが、外相が対応することで、抗議のレベルを上げた形となった。

中国を訪問している自民党の小渕優子元少子化担当相ら超党派国会議員10人が26日夕に北京・中南海で予定していた劉延東(りゅうえんとう)副首相との会談が中止になった。議員を招待した「中日友好協会」が議員側に中止を通知した。

 一方、北京の日本大使館は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を受け、対日感情の悪化が予想されるとして、中国の在留邦人に注意喚起のメールを出した。大使館は、現時点で抗議活動などの具体的情報はないとした上で「デモ行進などが発生した場合は近づかない」「日本人同士で集団で騒ぐなど目立った行為は避ける」よう求めた。

27日、中国各紙は、1面に「中国は安倍の参拝を強烈に抗議する」(新京報)などと大きく報じた。

27日付の中国共産党機関紙・人民日報は、「歴史を後戻りすると絶対に出口はない」と題した論評を掲載。「誤った歴史観をまた大暴露したものだ」と批判した上で、「日本社会のさらなる右傾化を示す最新の例証だ」と強い警戒感を示した。 

論評は、A級戦犯の祭られた靖国神社への参拝は「中国やその他のアジア諸国の国民感情を粗暴に踏みにじり、歴史の正義と人類の良識に公然と挑戦するものであり、戦後国際秩序に対する公然たる蔑視だ」と非難。さらに「侵略の歴史の清算が不徹底なため、日本の軍国主義思想は頑固な生存力を持っている」とし、「日本の政治に急進的な右翼勢力が急速に台頭している」との認識を示した。

27日付の中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報も、安倍晋三首相の靖国神社参拝を受け、安倍氏らを「中国で歓迎を受けない人物」のブラックリストに入れ、5年にわたり入国禁止にするなどの措置を取るよう提案する社説を掲載した。さらに「中国は大国として少し過度な対抗措置を取っても国際世論の理解を得られる」として強力な対日行動を取るよう政府に求めた。

安倍首相らを入国禁止にすれば、「任期中の中国とのハイレベル相互訪問の可能性を排除し、安倍政権は対中関係改善の能力をほとんど失うことになる」と指摘した上で、「中国は安倍政権や本人に対する態度を公に表明すべきだ」と強調。また靖国問題は、尖閣をめぐる対立よりも「国際社会から見て分かりやすい問題だ」として「中日の衝突において日本は外交に加えて道徳的にも敗れる」と訴えた。

英字紙チャイナ・デーリーは社説で「国際社会と中国は日本との安全保障、外交、経済関係を再考すべき時だ」と訴えた。

 

安倍晋三首相の靖国神社参拝について、1面で批判的に伝える27日付の中国各紙

 

 駐日米大使館はクリスマス休暇の最中の26日、安倍首相の靖国参拝について「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米国政府は失望している」との声明を出した。米政府が日本の首相の靖国神社参拝を公式に批判するのは極めて異例で、日本政府関係者は「過去に同様な声明があった記憶はない」と語った。

声明は「日本は大切な同盟国だ」とし、安倍氏が「過去への反省と日本の平和への決意」を述べたことに留意するとした。

13年11月、バイデン副大統領のアジア訪問を前に、10月の秋季例大祭に、首相が靖国参拝を模索していたため、政府高官は「もし今、首相が靖国を参拝すれば、バイデン氏は日本訪問を取りやめるだろう」と懸念していた。

また、知日派のアーミテージ元米国務副長官は10月30日、東京都内で自民党幹部に対し、「靖国神社参拝は絶対にやめてくれ。積み上げたものを全て壊す」と、首相の靖国参拝を見送るよう力説していた。

10月3日のケリー国務長官とヘーゲル国防長官が第2次世界大戦で戦没した身元不明者の遺骨を納める無宗教国立施設である東京・千鳥ケ淵戦没者墓苑への献花したことは、「靖国神社参拝は避けるようにというメッセージと受け取った」ともいえた。さらに在日米大使館のカート・トン首席公使が10月31日のブログで献花に関し、「日本の歴代指導者が米国訪問時にアーリントン国立墓地の無名戦士の墓を訪問していることと、相通ずるものがあります」と記したことも、宗教性を排した追悼施設の同墓地に一番近いのは、戦争指導者も合祀(ごうし)され宗教・政治性を帯びる靖国神社ではなく、千鳥ケ淵墓苑だとの認識を示したものだ。

こうした米側の意向が無視された格好で米政府声明も「遺憾」などではなく、より批判的なトーンの「失望」を選んだとしている。

また、国外の米大使館を統括する国務省はサキ報道官が26日夕方、「失望」を表明した在日米大使館と同様の内容の声明を出し、足並みをそろえた。

 

 ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は26日、声明を出し、「このような行動には遺憾の意を抱かざるを得ない」と批判した。

 声明は、参拝の背景について「国際世論と異なる偏った第2次大戦の評価を日本社会に押し付ける一部勢力の試みが強まっている」と主張。「歴史への正しい理解が、軍国主義と戦った近隣諸国との関係の重要な土台となると確信する」と表明した。さらに、日本と北方領土問題を抱えるロシアは「第二次大戦の結果の見直しは認められない」との立場を取り、戦時の日本の「軍国主義」を批判した。

 

 欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)の報道官は26日、声明を出し、「地域の緊張緩和や、日本の近隣諸国、とりわけ中国、韓国との関係改善に貢献しない」と述べた。

 声明は「慎重な外交による紛争の処理や、緊張を高める行為の自粛」が必要だと強調。関係国に対して信頼関係の構築や、「地域の長期的な安定確保」を呼び掛けた。

 また同報道官は、日中韓各国に対し「EUは、緊張を高める行動を避け、外交で争いを解決する必要性を常に強調してきた」と訴え、地域の長期的な安定に向け、建設的な関係を築くよう促した。 

 

 ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の記録保存や反ユダヤ主義の監視を行い、国際的影響力を持つユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・米ロサンゼルス)のエーブラハム・クーパー副所長は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を「倫理に反している」と非難する声明を発表した。

 副所長は「戦没者を含め、亡くなった人を悼む権利は万人のものだが、戦争犯罪や人道に対する罪を実行するよう命じたり、行ったりした人々を一緒にしてはならない」と指摘したうえで、北朝鮮をめぐる情勢が緊迫した中で安倍首相が参拝したことに懸念を表明。「安倍首相が目指してきた日米関係の強化や、アジア諸国と連携して地域を安定化させようという構想に打撃を与える」と批判した。

 

欧米のメディアも参拝を相次いで速報。米ABCはNHKのニュースを引用する形で、安倍首相の参拝を報道。AP通信も速報し、「中国と韓国を激怒させるのは間違いない」と伝えた。ロイター通信は「中国や韓国が反発することになりそうだ」と伝えた。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝は中国、韓国との緊張をさらに高める「危険なナショナリズム」だと批判する社説を掲載した。社説は「アジアに必要なのは各国間の相互信頼であり、安倍氏の行動はその信頼をむしばむ」と厳しく批判する一方、沖縄県尖閣諸島の領有権や慰安婦問題をめぐる中韓両国の対応が日本国民に軍事的脅威を感じさせたり、不信感を抱かせたりしているとも指摘。問題解決のため、中韓首脳は安倍氏と会談すべきだとした。また、「安倍氏の究極の目標は日本の平和主義的な憲法を書き換えることだ」とした上で、「日本の軍事的冒険は、米国の支持があって初めて可能となる。米国は安倍氏のアジェンダ(政策課題)は地域の利益にならないことを明確にすべきだ」と米政府に注文を付けた。

米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は26日、「日本の軍国主義復活の恐怖を、自国の権益拡大の口実に使いたい中国への贈り物」だとして、日本外交の重荷となり、日米関係にも打撃を与える恐れがあると批判的に伝えた。同紙は靖国参拝が中国、韓国、米国という「奇妙な連合」による批判を招いたと指摘し、首相がいずれ「新たな非宗教的施設」の建設を考えざるを得なくなるときが来るのではないかとの見方を示した。

米紙ワシントン・ポスト紙(電子版)は識者の見方も引用しながら、安倍首相が「(近隣国と)仲良くするという考えを捨て、緊張した情勢を利用して憲法改正など右派の政治信条を正当化する戦略」に切り替えたのではないかと警戒感を示した。

英紙ガーディアン(電子版)は、「26日の参拝は中国や韓国の激憤を買った。参拝は、日本と近隣国との関係をさらに悪化させるだろう」とした。

英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)は、「皮肉にも、第1次安倍政権時に参拝しなかったことで(近隣国との)関係改善を果たしたのが安倍氏だった」と指摘したうえで、「今回の参拝は、日本が統治する尖閣諸島を巡り、(中国との関係が)行き詰まっている中で、関係をさらに悪化させることになった」と強調した。

仏紙ル・モンド(電子版)は26日、「日本と中韓両国の関係は(尖閣諸島や竹島の)領土をめぐる係争ですでに最低水準にあるが、さらに悪化することになる」と評した。その上で、靖国神社は、過去の日本の帝国主義と関連付けられていると紹介した。

 

首相は26日、自民党のインターネット番組で中国、韓国の反発に関し「誠意をもって説明し対話を求めていく」と説明。米国に対し懸念の払拭に努める考えを強調した。

 

菅義偉官房長官は27日午前の記者会見で、安倍晋三首相の靖国神社参拝を米中韓3カ国が批判していることについて「不戦の誓いのために全力を尽くすという首相の参拝の趣旨を粘り強く説明する」と述べ、理解を得るために努力する考えを強調した。その一環として、各国の日本大使館に対し、参拝に関する首相の談話を各言語に翻訳して発信するよう指示したことを明らかにした。

また菅長官は、靖国神社に祭られているA級戦犯の分祀について「信教の自由に関することだ」としてコメントを控えた。靖国神社に代わる新たな国立追悼施設の建設に関しても「慎重に検討すべきものだ」と語った。 

 

日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)は27日午前、安倍晋三首相の靖国神社参拝をめぐり「首相が戦争の評価について自分の考え方をはっきり述べないので誤解が生まれている」と分析した。そのうえで「先の大戦は『侵略だった』とはっきり言ったらいい」と注文を付けた。

 

日本遺族会前会長の古賀誠・元自民党幹事長(73)は安倍晋三首相の靖国神社参拝について「参拝するしないは、心の問題だからやむを得ない。しかし、首相の行動は諸外国からは国を代表するとみられる。総合的に判断する謙虚さと緊張感が必要で、タイミングとしては極めて残念だ」と批判したうえで、「議論以前に『参拝する』という直前の通告だけ。自民党幹部にも、連立を組む公明党にも、同盟国である米国にも望ましい姿ではない」と苦言を呈した。さらに、「私の父はフィリピンのレイテ沖で戦死した。戦没者遺族も首相の靖国公式参拝を求めるだけでなく、諸外国に認められる環境をつくっていかなければならない」と述べ、A級戦犯分祀(ぶんし)を進めるべきだとの考えを示した。

 

潘基文パンギムン国連事務総長の報道官は27日、安倍首相の靖国神社参拝について、「過去に関する緊張が、今も(北東アジアの)地域を苦悩させていることは非常に遺憾だ」との声明を出した。

声明は「事務総長は共有する歴史に関して、共通の認識と理解を持つよう一貫して促してきた」と指摘。事務総長が被害者の感情に敏感であることや、相互信頼を築くことの重要性を強調しているとして、指導者は「特別な責任」を負っていることを挙げた。

 

ニューヨーク・タイムズ紙も27日付で「日本の危険なナショナリズム」と題した社説を掲載。「安倍首相の靖国参拝は中国や韓国との緊張関係をさらに悪化させる」と批判した。一方で、中国と韓国の首脳に対しても「会談を拒否すれば、安倍氏にやりたいことをやるライセンス(口実)を与えるだけだ」と指摘して、首脳会談に応じるべきだと指摘した。また同紙は、「安倍氏の究極の目標は、戦後の占領期に米国人によって書かれた日本の平和主義的な憲法を書き換えることだ」と指摘。米政府に対して、「日本の軍事的冒険は、米国の支持があって初めて可能となる。安倍氏の目指すものが地域の利益にならないことを明確に示すべきだ」と求めた。

ワシントン・ポスト紙も28日付の社説で「挑発的な行為であり、安倍首相の国際的な立場と日本の安全をさらに弱めることになりそうだ」と批判。日本の防衛予算増加や日米の防衛協力強化などの取り組みを評価しつつも、「(靖国神社参拝によって)安倍氏は自分の掲げる政策と戦前の帝国への懐古を結びつけているように見え、自分自身の目的を傷つけている」と指摘した。

 

日米と安全保障協力を進めるオーストラリアの有力紙オーストラリアンは28日の社説で「日本のオウンゴール」との表現で、自ら招いた外交的失点と指摘した。

同紙は安倍氏が憲法改正など安保戦略の抜本的見直しを進めていることについて「日本の軍国主義に苦しんだ(フィリピンなどの)国々からも支持を取り付けている」とする一方、他国の反発を招くような行動を続ければ「支持を失いかねない」と苦言を呈した。

 

日本の友好国インドネシアの有力紙コンパスも28日の社説で、中国が東シナ海上空に設定した防空識別圏や尖閣諸島問題で緊張が高まっている中、参拝が行われたことに言及し、「タイミングは適当ではなかった」と論評した。

 

中国外務省の華春瑩(かしゅんえい)副報道局長は27日の定例会見で「自己の歴史と向き合わず、(相手国の)人を正視しないで、どうして国際社会や人を信頼させられるのか」と非難。さらに「人類の良知を踏みにじれば、隣国関係の譲れない一線に触れる。我々はとことん対決する」と強調した。

28日、中国の楊潔(ようけつち)国務委員(副首相級、外交担当)は、「中国政府と人民、国際社会から強烈な反対と厳しい非難を受けるものだ」と批判する談話を発表した。王毅(おうき)外相が26日に木寺昌人駐中国大使に厳正な申し入れと強い抗議をしたが、格上の楊国務委員が談話を出したことで中国側がより批判を強めた。

楊国務委員は談話で「安倍首相の参拝は日本の内政、または首相個人の問題ではなく、日本の指導者が平和と発展の道を歩むのかという重要な問題だ。中国人民を侮ってはならず、アジアや世界の人民を欺いてはならない」と指摘したうえで、安倍首相に対し「誤りを正し、実際の行動で悪影響を払拭(ふっしょく)しなければならない。さもなくば歴史上の失敗者となる」と主張した。

 

北朝鮮国営の海外向けラジオ、平壌放送は28日夜の定時ニュースで、「軍国主義の象徴である神社を参拝する無分別な行為を敢行した」と批判した。北朝鮮メディアが今回の参拝を報じたのは初めて。

同放送は、参拝を「妄動」だと非難し、「アジア諸国と国際社会の反対にもかかわらず敢行された参拝は、軍国主義亡霊をよみがえらせようとする安倍政権の右傾化策動がどの程度に至ったのかを示している」と主張した。

 

韓国・聯合ニュースは29日、韓国国防当局が安倍晋三首相の靖国神社参拝を受け、日本の防衛当局との間で検討していた部署間交流に関する覚書の締結に向けた協議計画を取り消したと報じた。韓国政府筋の話として伝えた。

日韓が開催を模索していた次官級の戦略対話も当面、開催を見送った。来年上半期に予定されていた韓国軍幹部の訪日や、相互交流行事なども延期、または取り消す方向という。

 

共同通信社が12月28、29両日に実施した全国緊急電話世論調査によると、首相による靖国神社参拝に関連して、外交関係に「配慮する必要がある」との回答が69・8%と、「配慮する必要はない」の25・3%を大きく上回った。中韓両国や米国など国際社会が厳しく反応していることに有権者が憂慮している状況が浮き彫りになった。

首相参拝について「よかった」との回答は43・2%だったのに対し、「よくなかった」は47・1%と、批判的な意見が多かった。安倍内閣の支持率は55・2%と、横ばい。

 

中国の王毅外相とロシアのラブロフ外相は30日、電話会談し、安倍晋三首相による靖国神社参拝を共に批判した上で、歴史問題で共闘する方針を確認した。

王氏は「安倍(首相)の行為は、世界の全ての平和を愛する国家と人民の警戒心を高めた」と批判。「(中ロ両国は)反ファシスト戦争の勝利国として共に国際正義と戦後の国際秩序を守るべきだ」と、歴史問題で共闘するよう呼び掛けた。

ラブロフ氏は「靖国神社の問題ではロシアの立場は中国と完全に一致する」と応じた。、

また、王外相は同日、ドイツのシュタインマイヤー外相や、ベトナムのファム・ビン・ミン外相とも電話会談し、靖国参拝に反対する中国の立場に理解を求めた。

 

30日、中国外務省の秦剛報道官は、靖国神社を参拝することで安倍首相が中国指導部に対して「扉を閉ざした」「中国国民は安倍首相を歓迎しない」と述べた。また同報道官は、「同首相が今、行う必要があるのは、中国政府と同国国民に対して過ちを認めることだ」としたうえで、「日中関係の政治的な基礎を破壊した」と指摘、首脳会談には応じない考えを明らかにした。

 

韓国・朴槿恵大統領は30日、安倍首相の靖国参拝について初めて言及し、「過去の傷をえぐり、国家間の信頼を損ない、国民感情を悪化させる行動がないように望みます」と述べ、安倍首相の靖国神社参拝を批判した。

同大統領は、さらに「『一流国家』の『一流』とは、最高の品格と質を備えることだ。国際社会の普遍的価値、人類の良心にそぐわない行動を繰り返す国は、経済力が大きくても決して一流国家という評価は受けない」と述べ、「国際社会の価値や人類の良心に合わない行動を繰り返せば、経済力が大きくとも一流の国家ではない」と強調した。

 

また、韓国・尹炳世外相は30日、国会答弁で、安倍首相の靖国参拝によって「ただでさえ困難な日韓関係に相当な打撃になる」と述べたうえで、関係回復に向けては、日本が歴史認識問題で誠意ある措置を取るべきだとする立場を重ねて示した。

 

米国務省のハーフ副報道官は30日の記者会見で、「今回の場合、日本の指導者が隣国との緊張を悪化させる行動をとったことに、われわれは失望していると繰り返す」と述べ、在日米大使館や国務省の声明で述べた立場を改めて表明した。米政府が「遺憾」や「懸念」ではなく、「失望」という強い言葉を使った理由を問われた副報道官は、「(首相の参拝が)緊張を悪化させると考えていることを、非常に明瞭」にするためだと語った。

同副報道官は同時に、日本は今後も重要な同盟国であり続けるとして「意見に違いがあっても、率直に話し合えることが強い協調関係の特質だ」と指摘、この問題について日本と協議を続けたいと語っり、日米関係全体に影響はないという認識を示した。

 

ドイツ政府のザイベルト報道官は30日、各国は第2次大戦の過去に誠実に向き合うべきだとの認識を示したうえで、「日本の内政にはコメントしない」と述べながらも、「各国は20世紀の恐ろしい戦争で果たした役割に応じて誠実に行動しなければならない。それによりかつての敵と未来を築ける」と訴えた。また「これがドイツの心からの信念であり、全ての国に当てはまるだろう」と呼び掛けた。 

 

安倍首相は30日放送の日本テレビの番組で、「日本も自信を取り戻したが、中国も韓国も経済成長が続いて自信を持ってきた」とした上で、「成功している国(同士)の付き合いというのは、いろんな課題があるからこそ、会って話をするのが大切なのではないか」と述べ、中韓両国に首脳会談に応じるよう促した

 

韓国国会は31日の本会議で、安倍晋三首相の靖国神社参拝を糾弾する決議を採択した。

決議は、集団的自衛権行使容認に向けた動きと合わせ、「首相の靖国参拝は、アジア国家を傷つけた侵略戦争に対する真の反省なしに、むしろ侵略行為を美化している」と非難。「日本政府は人類の普遍的価値を否定する時代錯誤的な行為を即刻中断し、歴史に対する責任ある姿勢を取らねばならない」と求めた。

 

ケリー国務長官は12月31日、中国の王毅外相と電話で会談し、「日中関係」などをめぐり協議した。王氏は13年が米中両国の国交樹立35周年に当たることを踏まえ、米国と「新たな形の大国関係」を構築していく意向を表明。ケリー氏も同様の考えを示した上で、米中の協力分野を拡大していきたいと応じた。

 

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新藤義孝総務相は14年1月1日午後、東京・九段北の靖国神社を参拝した。安倍政権発足後、新藤氏は13年4月と終戦記念日の8月15日、10月に参拝しており、今回で少なくとも4回目。

参拝後、記者団に「戦争で命を落とした方々に尊崇の念を込めてお参りした。また、二度と戦争が繰り返されないよう平和の思いを新たにした」と述べたうえで、「私的な自分の心の問題として私的な参拝をした」と説明した。

新藤大臣の祖父は硫黄島で玉砕した旧日本陸軍の栗林大将で、去年10月の秋季例大祭に続き、大臣就任後6度目の参拝となります。

 

中国外務省の華春瑩・副報道局長は1日、談話を発表。「安倍首相の参拝に続き、日本の閣僚が歴史問題で取った新たな挑発行動だ」として、「強烈な抗議」を表明した。

華副局長は、「世界反ファシスト戦争の結果と戦後の国際秩序に挑戦する日本の危険な動向を再び明らかにした」と指摘。「中国国民と他のアジア国家の国民は、日本が歴史を後戻りさせることを決して許さない」と述べ、日本が歴史を反省して、態度を改めるよう求めた。

国営通信の新華社(英語版)も1日、「日本の閣僚や議員らによる相次ぐ参拝が、日本と緊張状態にある中国や韓国との関係修復の主な障害となってきた」とする記事を配信した。

記事は、安倍首相の参拝に対して国際社会が「強く反発」する中、新藤氏が参拝したと強調。中国中央テレビも同氏の参拝を批判的に伝えた。

 

台湾の外交部(外務省)は1日、新藤総務相が同日、靖国神社に参拝したことを受け、「地域に不安を引き起こし、遺憾だ」とする声明を発表した。

安倍首相の参拝時と同様、「日本政府や政治家は史実を正視し、歴史の教訓をくみ取り、近隣の感情を傷つける行動をすべきではない」としている。

 

韓国外務省報道官は2日の定例記者会見で、「誤った歴史認識の発露だ」と非難した。声明や冒頭発言ではなく、記者の質問に答える形で述べた。

報道官は「過去の侵略戦争を美化し、言い尽くせぬ害悪をもたらした戦犯たちが合祀(ごうし)されている靖国神社を、高いレベルの政治指導者が参拝する場合、われわれは当事者の歴史認識に疑念を持つほかない」と強調。「日本の政治指導者は正しい歴史認識を誠意ある行動で示さねばならず、そのうちの一つが靖国神社を参拝しないことだ」と語った。 

韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は2日、外務省の仕事始めのあいさつで、安倍首相の靖国神社参拝を挙げ、「日本の政治指導者らの歴史修正主義的な態度が自らの孤立を招き、韓日関係や北東アジアの平和と協力の大きな障害物になっている」と非難した。

尹氏は対日関係について「確固とした原則と立場にのっとり進める」とする一方、「米中露をはじめ周辺主要国との信頼、協力関係を深めていく」と述べた。

 

韓国大統領府は2日、国連の潘基文事務総長が同日の朴槿恵大統領との電話会談で「靖国神社参拝問題などにより北東アジアで対立が深まっていることに失望した」と述べた、と発表した。

大統領府によると、朴氏は「過去を直視できずに頻繁に周辺国を傷つけるなら、協力できる環境の醸成は阻害され、不信と反目をつくり出すことになる」と安倍氏を批判し、潘氏に和解や協力の道を開くよう助けを求めたという。電話は新年のあいさつとして潘氏がかけたという。

潘氏は13年8月、歴史問題に絡み「日本政府と政治指導者は非常に深く自らを省みて、国際的な未来を見通すビジョンが必要」と安倍政権を批判したこともある。

 

中国の国営中央テレビは2日、安倍首相が12月31日に、太平洋戦争で出撃する零戦のパイロットの若者が主人公の映画「永遠の0」を鑑賞したことについて、ニュース番組で「首相は太平洋戦争の映画を見て、とても感動したと何度も繰り返した」と伝えた。安倍氏は映画鑑賞後、記者団に「感動しました」などと感想を語っていた。

 

アメリカ国務省のハーフ副報道官は2日の記者会見で、新藤総務大臣の靖国参拝について、「すべての事例によってそれぞれ異なる。前回は、安倍総理大臣について述べたが、今回は異なる人物で、異なる地位にある」と述べたうえで、「歴史を巡る懸念について、日本に、近隣諸国と友好的な対話をとおして解決するよう促している。今後も引き続き促していく」「すべての当事者に、これ以上緊張を高めるような行動をとらないよう促している」と述べ、日本だけでなく中国や韓国にも事態を悪化させないよう冷静に対応するよう求めた。

 

公明党の山口那津男代表は2日、都内で街頭演説し、昨年末の安倍晋三首相の靖国神社参拝に対し各国から反発や懸念が示されていることに触れ、「それらの厳しい声に謙虚に、真摯に耳を傾け、世界の平和や安定に貢献する日本であるという姿を示していかなければいけない」と述べ、首相を牽制した。

 

米誌『アトランティック』(電子版)は2日付で、靖国神社にある軍事博物館「遊就館」について、20世紀の出来事をめぐり「日本を被害者」とする「信じられないほど偏向した解釈を提示している」と指摘し、「靖国神社は国家元首の訪問に適切な場所ではない」と報じた。

同誌は靖国神社・遊就館を訪ねた欧米人らの声を紹介。一人は同館の展示内容について「極右陣営の観点から戦争を書きかえたのも同然だ。ほとんどが日本の軍事的勝利を扱っている」「戦争で亡くなった人たちへの厳粛な敬意を示す記念館とはまったく異なる」と述べ、「靖国神社そのものが創設以来、日本の特定の人たちによる特異な歴史観を政治的に象徴するよう意図的に仕向けられ、絶対化されている」としている。

別の一人は同館で上映される映画を「第2次大戦時にまでさかのぼったプロパガンダ(政治的宣伝)にすぎない」と指摘。また別の一人も同館は「中国人や韓国人だけでなく、ほとんどだれもが不快に感じるだろう」と語った。

 

中国共産党機関紙、人民日報は3日付の論評で、安倍首相の靖国神社参拝や、「強い日本を取り戻す戦いは始まったばかり」との年頭所感について、「拙劣な言動」「常軌を逸したパフォーマンス」と強烈に批判した。

論評は「安倍が首相に返り咲いて以来、日本はアジア、さらには世界のトラブルメーカーとなった」などと個人攻撃も展開した。

さらに、「強大な外圧なしに、意識がもうろうとした安倍が現実感を取り戻すことは不可能であり、でたらめを止めることもあり得ない」と、国際社会が日本に“圧力”をかけることを求めた。

 

中国の崔天凱(さいてんがい)駐米大使は3日、ワシントンで中国、台湾メディア向けに行った記者会見で、安倍晋三首相の靖国神社参拝について「明確な政治的意図を持った行為。中日関係の悪化に関して安倍氏が全面的な責任を負うべきだ」と厳しく批判した。その上で「安倍首相には何も期待していない」と述べた。

崔氏は小泉純一郎首相(当時)の靖国参拝で日中関係が冷却化した当時、安倍氏が官房副長官だったことを踏まえ「参拝は安倍氏の歴史認識、政治の源流を示している」と指摘した。

 

小野寺五典防衛相は4日夜、米国のヘーゲル国防長官と電話で協議し、安倍晋三首相が靖国神社に参拝したことについて、「二度と戦争を起こしてはならないと過去への痛切な反省に立ち、今後とも不戦を誓う意味で参拝した、というのが首相の本意だ」と説明した。

ヘーゲル長官は、日本が近隣諸国との関係改善に向けて行動するとともに、地域の平和と安定という共通目標のために協力を進めることが重要だと指摘。また「21世紀の安全保障上の課題に対処するため、同盟強化に向けた継続的な日米間の議論を期待している」と語った。

小野寺氏は「中国や韓国の皆さんの心を傷つけるつもりはない」とも伝えた。防衛省によると、これらの説明に対し、ヘーゲル長官からはコメントはなかったという。

 

産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が1月4、5両日に実施した合同世論調査で、靖国神社に参拝したことについて「評価する」とした回答は38・1%、「評価しない」は53・0%だった。評価するとした人の74・0%が「戦争の犠牲者に哀悼の意を示した」ことを理由に挙げた。評価しない人の理由は「外交的配慮に欠ける」が61・9%に達した。

ただ、首相の靖国神社参拝を中国や韓国が非難していることに対しては「納得できない」が67・7%を占め、「納得できる」(23・3%)を大きく上回った。米政府が「失望した」とする声明を出したことにも約6割が「納得できない」と回答した。また、靖国神社とは別に無宗教の国立追悼施設をつくることに否定的な意見が多かった。

 

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は6日、13年2月の就任以来初めて記者会見を開き、日韓関係について「協力の環境を壊すことが繰り返され、残念だ」と述べ、安倍首相による靖国神社参拝を批判した。

朴氏は会見で、日本との関係は過去の植民地支配と侵略に対し痛切な反省を表明したいわゆる村山談話や、従軍慰安婦問題に対する政府の謝罪と反省を示した河野官房長官談話を日本政府が継承する立場を維持してきたことを基礎に続いてきたという認識を示しうえで、「日本側で談話を否定する言動がたびたび出て、両国が協力を進める環境を壊しており、残念だ」と述べた。

さらに、安倍総理大臣との首脳会談の可能性については、「首脳会談を行わないと言ったことはないが、会談は、両国の関係発展に役立つ結果を出すものでなければならず、十分な準備が必要だ」として、当面は困難だという見通しを示しました。

 

タイの英字紙バンコク・ポストは7日付の社説で、安倍首相が靖国神社を参拝したことについて「無神経」と痛烈に批判、「必要のない攻撃的な行動で、あらゆる近隣諸国の神経を逆なでした」と主張した。

社説は、首相が「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と発言したことに触れ、「誠意のない説明だ」と指摘。参拝すれば近隣諸国を傷つけ怒りを買うことは最初から分かっていたはずで「中国や韓国の反発など何とも思っていなかったようにみえる」と非難した。

さらに首相が中韓両国について発言しながら、旧日本軍から大きな被害を受けた東南アジア諸国に言及しなかったことも問題点に挙げた。社説は、第2次大戦を生き抜いたタイ人の多くが「自国の過去の犯罪に無神経に敬意を払う安倍氏に衝撃を受けている」としている。

 

7日付の中国共産党の機関紙、人民日報(海外版)は、安倍首相が不眠症に陥っていると日本メディアが報道しているとして、「安倍は眠れなくて当然だ」と題するコラムを1面に掲載した。署名は「国際問題専門家、華益文は、人民日報の論説チームの合同ペンネームで「中華(中国)に有益な文章」の意味から付けられたという。

記事は安倍首相が眠れない原因を、「歴史を否定する陰謀を巡らせているため」「強い日本を取り戻したくて焦りすぎたため」「後ろめたい不安にさいなまれたため」との3つの理由を挙げた。いずれも昨年末の首相による靖国神社参拝を念頭に批判したものとみられる。その上で、「ぐっすり眠りたいのであれば、やましい行為を二度と行うべきではない」と“中国独自の処方箋”を提案した。

 

中国の劉結一(りうじえいー)国連大使は8日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を非難し「国際社会は警戒を緩めず、誤った歴史見解を正さなければならないと安倍(首相)に警告すべきだ」と訴えた。ニューヨークの国連本部で記者団に語った。 

大使は「第2次世界大戦後の国際秩序へのあからさまな侮辱だ」と靖国参拝を批判。「中国政府や、より広範な国際社会の政府、人々の憤りは状況の重大さを証明している」と指摘した。

 

一方、吉川元偉国連大使は8日、国連記者会所属の記者向けに、安倍首相の靖国参拝について、「戦犯を崇拝するものではなく、軍国主義を称賛するものでは決してない」と説明する文書を出した。13年12月26日の首相談話「恒久平和への誓い」の英訳も添えた。

 

自民党は8日、2014年運動方針の最終案を発表した。靖国神社参拝に関する項目で、原案に記した「不戦の誓いと平和国家の理念を貫くことを決意し」との表現を削り、新たに「(戦没者に対する)尊崇の念を高め」との文言を加えた。

 安倍首相(党総裁)は13年12月の参拝後に「不戦の誓いをした」と記者団に語っており、首相発言とは食い違う表現となった。「尊崇の念」は首相が参拝理由として繰り返し強調する言葉で、この部分では「安倍カラー」を強めた。

方針最終案は19日の党大会で正式決定する。

 

自民党の石破幹事長は8日夜、BS日テレの「深層NEWS」に出演し、13年末の安倍首相による靖国神社参拝について「二度と戦争しないと誓う思いは伝わるはずだ。政権全体として米国、中国、韓国に粘り強く説明する」と述べ、首相参拝の真意について、各国政府の理解を求める努力が必要だとの認識を示した。

これに対し、民主党の大畠幹事長は、中韓両国が参拝に反発していることを念頭に「どういう展開になるかを十分に考え、判断があるべきだった。(首相は参拝を)控えるべきではなかったか」と疑問を呈した。

米政府が失望を表明したことについて、日本維新の会の松野頼久幹事長代行は「米国に対する根回しが足りなかったのではないか」と指摘し、みんなの党の浅尾幹事長も「米国と相いれない歴史観を受け入れたものではないと示すことだ」と語った

 

安倍首相は8日夜のBSフジ番組で、靖国神社に代わる国立追悼施設を建立する構想について、「立派なものを作って、『今度はこっちですよ』ということが果たして成り立つかどうか、慎重に検討していくべきだ」と述べ、具体化に消極的な考えを示した。

靖国神社の役割については、「(戦没者の)亡くなったおじいちゃん、おばあちゃん、ご主人、奥さんと、魂が触れ合うのではないかと思うからこそ、靖国にお参りする」と指摘した。

また、「一国の指導者もお参りすることによって、(戦没者遺族の)気持ちも癒やされる。自分の夫は『国のために戦ったんだ』との思いを持つことができる。多くの遺族は国のリーダーが参拝することを望んでいる」と強調した。

さらに、「誰かが批判するから(参拝)しないのは間違っている。批判されることがあったとしても(首相として)当然の役割、責任を果たしていくべきだ」と述べ、中国や韓国の批判に反論したうえで、中国を念頭に「私を軍国主義者と批判する国が20年間、毎年10%以上軍事費を増やし続けてきた」と強調。13年度の日本の防衛費の伸び率が前年度比0・8%だったことなどを挙げ、中国の反発を「おかしい」と批判した。

 

安倍首相は9日午前、靖国神社参拝について、「残念ながら、参拝自体が外交問題、政治問題化されている。その観点から、今の時点で、今後、参拝するかしないか申し上げるつもりはない」と述べた。羽田空港で記者団の質問に答えた。

一方、靖国神社に代わる新たな追悼施設の建設については、「何よりご遺族の気持ちが大切だ。検討を慎重に考えていくべきだろう」と語り、慎重な考えを重ねて示した。

 

超党派でつくる日米国会議員連盟(会長・中曽根弘文元外相)は8日、米ワシントン近郊で米国のアーミテージ元国務副長官と会談した。アーミテージ氏は昨年末の安倍晋三首相の靖国神社参拝について「Itisover(もう終わったことだ)」と伝えた。米国としてはこれ以上、積極的に介入せず、日中韓3カ国の自主的な対話に期待しているとの見方を示したうえで、「民主的に選ばれた主権国家の首相が選挙の公約を果たした。もう終わったことだ」と語り、未来志向で日米関係を考えるべきだとの立場を強調した。そのうえで「経済が何より大事だ。それにより日米同盟を強化し、日中・日韓の関係改善を進めるのが望ましい」と訴えた。

 

韓国外務省報道官は9日の定例記者会見で、安倍晋三首相が靖国神社参拝への米国の「失望」声明に「説明していけば誤解は解ける」と述べたことについて、韓国メディアが安倍氏を「馬耳東風」と批判したことを強調し、事実上同じ考えだと表明した。

 

中国の崔天凱ツイティエンカイ駐米大使は10日付米ワシントン・ポスト紙への寄稿で、安倍首相の靖国神社参拝について、「中国と多くのアジアの人々を大いに不安にさせた」と批判し、中国との対話の扉が「閉ざされた」と主張した。

靖国神社は「日本の戦争時の侵略に対する無反省の中心地」とし、首相の参拝は「我々だけでなく、世界への挑戦にほかならない」と指摘した。安倍政権の憲法改正の動きやいわゆる従軍慰安婦問題への対応も批判した。

中国は英国など各国で、駐在大使が現地の有力紙に靖国参拝を「軍国主義復活の兆候」などと批判する寄稿を行っている。

 

竹歳誠・駐オーストリア大使は10日付のウィーン主要紙「ウィーナー・ツァイトゥング」に寄稿し、「不戦の誓いを行うためだった」と理解を訴えた。中国大使が7日付の同紙に「戦争犯罪人の崇拝」とする批判を寄稿したことに反論した。

竹歳氏は「日本は歴史的事実を謙虚に受け止め、痛切な反省とおわびの気持ちを表明し、アジアの平和と繁栄に貢献してきた」と強調。東シナ海上空に防空識別圏を設定するなどした中国による「『力』を背景とした現状変更の試み」を指摘。緊張緩和のため、「中国が日本の対話の呼び掛けに応じることを希望している」と訴えた。

 

10日、中国外務省系の「中国国際問題研究所」の曲星(きょくせい)所長が日中関係にテーマを絞った外国メディア向けの異例の記者会見を開き「日本側が変わらなければ中国国民は両国首脳が会談するのは適切ではないと考えている」などと述べた。

 

朴槿恵(パククネ)大統領は13日に米CNNテレビと行ったインタビューで、日本政府に対し、過去の植民地支配と侵略に「痛切な反省」を表明した村山談話と、いわゆる従軍慰安婦問題に「おわびと反省」を表明した河野談話を継承することを改めて要求した。

朴氏はインタビューで、6日の新年記者会見でも同様、「日本の指導者は、誠意が疑われるような言動を慎んでほしい」とも述べ、安倍首相の靖国神社参拝を暗に批判した。

 

14日付の中国・国際情報紙で、中国共産党機関紙の人民日報系の「環球時報」は、王毅(おうき)外相や楊潔(ようけつち)国務委員が批判の談話を出した後、13日夜までに世界各国の43人の中国の外交官が記者会見や地元メディアのインタビューを通じ、安倍首相を批判する発言をしたと報じた。発言は欧州や米大陸、太平洋の島々の国家やアフリカにも伝わったという。同紙は「(中国は)まれに見る全世界を動員した世論への働きかけで日本の首相の靖国神社参拝を批判している」と伝えている。

共産党関係者によると、中国は安倍首相の参拝直後から、当面は日本との首脳会談や事務レベルの対話に応じない一方、中国側の主張を国際世論に訴える方針を決めた。中国は16、17日に外国メディア関係者を遼寧省瀋陽などに招き、旧日本軍の過去の行為について説明する。

 

「フェイスブック」で安倍首相の靖国参拝について、「東アジア地域の安全に対する不安定要素を生じさせた」と指摘したうえで、「中華民族の一人として、日本政府が周辺国の歴史の傷を顧みず、こうした行動をとったことは理解しがたく失望した」と批判していた台湾の馬英九総統について、中国国務院(政府)台湾事務弁公室の馬暁光報道官は15日の記者会見で「(参拝は)第2次大戦後の国際秩序に対する挑戦で、両岸(中台)同胞など平和を愛する全ての人が断固反対するのは当然だ」と述べた。

報道官は、沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)の問題が東アジアを不安定化させているとの馬総統の主張に対しても「両岸同胞と国際社会は、日本が釣魚島の問題で事を荒立て、地域の平和と安定という大局に害を及ぼしていることをはっきり理解している」と述べ、同調した。

 

 佐々江賢一郎駐米大使は17日付の米紙ワシントン・ポストに寄稿し、中国の崔天凱駐米大使が同紙で安倍晋三首相の靖国神社参拝を批判したことに反論した。「(崔天凱)大使の投稿は誤っており、国際世論を明らかに読み間違えている」と断言。「アジアの大部分及び国際社会が懸念しているのは日本ではなく、中国だ」と訴えた。

靖国神社について佐々江氏は「国のために命をささげた人々の魂が慰霊されている場所だ」と指摘し、靖国参拝は「戦争を美化したり、若干名のA級戦犯を崇拝したりするためではない」と説明。各国の世論調査での日本の好感度は「世界最高水準」と訴え、アジア太平洋地域の平和と安全に対する懸念は「中国の軍備増強や周辺国への軍事経済的な威圧だ」と主張した。

また佐々江氏は、「中国と異なり、日本は戦後、戦闘で一発も弾を撃っていない」と平和国家としての歩みを強調。さらに。中国に対し「教条的な反日プロパガンダをやめ、未来志向の関係を構築するため我々と共に努力することを強く期待する」と求めた。

 

自民党の萩生田光一総裁特別補佐は17日、党本部で講演し、首相の靖国神社参拝に「失望」を表明したオバマ米政権について「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない。民主党政権だから、オバマ大統領だから言っている」と反論した。

講演は党青年局メンバーの会合で行われた。萩生田氏は青年局長経験者として出席した。

また、最近の多くの首相が靖国参拝を見送ってきたことに言及したうえで「内閣支持率が落ちるなどの価値観で政治をやると党の存在意義はない」とも語った。

メディアには非公開だった。萩生田氏は取材に対して発言内容を認めた上で「オバマ政権を非難する意図はない。日本の立場を説明する思いからの発言」と述べた。

萩生田氏は首相の側近の一人で、13年8月の終戦記念日に首相の代理人として靖国神社に玉串料を奉納したことがある。

 

16、17の両日、中国政府は北京などに駐在する外国メディア記者を対象に、日本のかいらい国家だった満州国(1932〜45年)があった遼寧省で、抗日戦争記念館など計5カ所を案内するプレスツアーを実施した。

企画したのは、外務省の外国メディア担当部局と遼寧省外事弁公室で、外国メディア40人近くが参加。31年、満州事変の発端となった柳条湖事件を記念した「九・一八歴史博物館(瀋陽市)関係者は「一挙にこれだけ多数の外国人記者が参観するのは初めて」と歓迎しつつ、突如決まったプレスツアーのタイミングに関し「安倍首相の靖国参拝とは直接関係ない」と釈明した。「(安倍首相にも)参観してもらいたい」とも述べた。

ツアーに参加したのは、中国と同様に靖国参拝に反発する韓国の記者が16人と最も多く、続いて日本メディアに属する15人前後。残りは欧州、インドなどのメディア。欧州メディアなどは「(ツアー開催は)日中関係の悪化と関係している」とみているのに対し、韓国人記者は「日本軍国主義の歴史に関心は高い」と話していた。

記者団は、旧日本軍による米英軍など兵士の捕虜収容所跡地(瀋陽市)を取材。2013年5月に開館した陳列館の建物には「なぜ日本人はこんなに人情がなく残酷なのか考えたのは一度だけではない」という米国人の元捕虜の言葉が中国語と英語で刻まれていた。

また、遼寧省档案館(史料館)の趙煥林館長は、旧日本軍による1937年の南京事件に関する同館所蔵史料を公表し、虐殺を裏付けるものだと強調。一方、32年に旧日本軍が多数の村民を殺害したとされる平頂山事件の記念館(遼寧省撫順市)では周学良館長が「(事件を)日本の人民に宣伝してほしい。被害者人民に賠償、謝罪などがあって中日関係は安定かつ健全に発展できる」と訴えた。

 

中国の程永華駐日大使は20日、上智大で行われた藤崎一郎前駐米日本大使との対談で、安倍晋三首相の靖国神社参拝について、「(日中関係に)致命的な打撃というか、レッドラインを踏み越えた。首相は自らの手で対話のドアをクローズした」と批判した。

 

 程氏は両国の関係改善に向けて「日本の指導者が歴史を正しく認識し、姿勢を示すことが先決。日本側の誠意が必要だ」との考えを示した。また、藤崎氏が中国の軍事費拡大を指摘すると、程氏は「国の防衛には必要な軍事力だ。中国は歴史的にも『和』を大事にする民族であり、平和的な発展を続ける」と主張した。

 

安倍首相の靖国神社参拝を巡って、日本と中国の大使がドイツの有力紙上で論争を繰り広げた。

中根猛駐独大使が21日付のフランクフルター・アルゲマイネ紙に「中国の対日キャンペーン」と題して投稿。中国の史明徳大使が14日付同紙で「平和を危うくする日本」との寄稿で安倍政権を批判したのに対し、「日本が第2次大戦の結果と戦後の国際秩序に疑問を呈したことはない」と反論する一方、中国が「力」を用いて現状に挑戦することをやめるよう求めた。

また、史大使が戦後ドイツの「過去の克服」を称賛し、「もし日本がドイツのように振る舞っていたならば、日本も和解と各国の信頼を得ていただろう」と主張したのに対し、中根大使は、ドイツを引き合いにしたことに対しては、「ドイツには近隣国が和解の手をさしのべたが、日本を取り巻く地域はそのような状況にない」と反論。首相が対話姿勢であることを踏まえ、「このような状況だからこそ、中国が対話に応じることを願う」と中国側に求めた。

 

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は2月7日に行われるロシア・ソチ冬季五輪の開会式に出席するが、21日、中国外務省の程国平次官(外交副部長)は「日本の指導者がA級戦犯をまつる靖国神社に参拝したことは、中国人民と世界各国の断固たる反対と批判を受けている」とし、「(習主席と)日本の指導者とのいかなる形式の接触も考えていない」と強調した。

程次官は、中ロ首脳会談でも歴史問題について「突っ込んだ意見の交換があるだろう」とし、「第2次世界大戦後の国際秩序を守る点で、中ロの指導者の立場は完全に一致している」と述べた。

 

バーンズ米国務副長官が21日、ソウルで韓国外交省の金奎顕(キムギュヒョン)第1次官と会談、金次官は日韓関係の進展のために「日本側の誠意ある措置が必要だ」との見解を伝えたという。

会談で金次官は、日韓関係が難しい状況に陥っている理由について、安倍晋三首相の靖国神社参拝や元日本軍慰安婦問題などに言及韓国側の立場を説明した。米国側は日韓関係改善の重要性を強調した。

 

ケネディ駐日米国大使は21日、東京・赤坂の公邸で朝日新聞のインタビューに応じ、「すべての国々の国民は、歴史を超えて平和な未来を作ろうとする指導者を励まし、支持すべきだ」などと語り、緊張が高まる日本と韓国や中国との関係を、和解によって改善するよう促した。

大使は、安倍首相の靖国神社参拝について改めて、「米国は地域の緊張が高まることを懸念しており、首相の決断には失望した」と述べ一方で、「米日両国は、引き続き両国関係を前進させることに焦点を合わせていく」とも語り、参拝問題でこれ以上、両国関係を悪化させることは望まない姿勢も示した。

 

イギリスのBBCなどのメディアは、安倍首相が22日、ダボス会議に参加している海外のメディア関係者との懇談で尖閣諸島をめぐる日本と中国の軍事的衝突の危険性について聞かれ、「現在の日中関係は第1次世界大戦前のイギリスとドイツの関係に似ている」という趣旨の発言をしたと報道した。

そのうえで安倍首相は、日中の偶発的な衝突を回避するために防衛当局間の連絡体制が必要と強調したという。

菅官房長官は会見で、安倍総理の発言について「イギリスとドイツは大きな経済関係があったにもかかわらず第1次世界大戦が起きた。そういうことは起こしてはならない」ということであり、「日中に問題があるときは相互のコミュニケーションを緊密にすることが重要だ」と述べたと説明し、「第1次大戦のようなことにしちゃならないという意味で今、こう言っているわけですよね。ですから、なぜそんなことにとられたのか全く分からないと釈明した。

 

韓国の聯合ニュースは23日、安倍首相がスイス東部ダボスでの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、靖国神社参拝に関し「追悼の対象は日本軍の軍人だけでなく世界の全ての戦争犠牲者だ」と、「強弁した」と批判的に伝えた。同ニュースによると、安倍氏は各国メディア幹部との質疑で発言した。

また、安倍氏がA級戦犯をたたえる参拝ではないと説明した際、「いわゆるA級戦犯」との表現を使ったと指摘。これは、安倍氏が13年3月の衆院予算委員会での答弁で、太平洋戦争をめぐる日本の指導者の責任が追及された極東国際軍事裁判(東京裁判)は「連合国側が勝者の判断によって断罪した」と述べたのと同じ認識が表れたものだと分析した。

 

同会議で、安倍首相で靖国神社参拝に関し「大変な誤解がある」と述べて参拝に反対する中国や韓国の主張を受け入れない考えを示したのに対し、韓国外務省の趙泰永報道官は23日、「誤解はない。真実を分かっているかどうかの問題だ」と批判した。

安倍氏が中韓首脳との会談を望んだことには対して趙氏は、「靖国参拝をしながら韓日友好を口にすることにどれほど矛盾があるか、何度も言ってきた」とし、安倍氏が態度を変えることが前提だと一蹴。「参拝しながら韓日友好を語るのがいかに矛盾しているか、全世界のメディアと知識人が声を上げている。この声が聞こえないのは理解しがたい」と批判、「参拝は日本が犯した過ちを反省していないのと同じだ」と述べた。

 

中国外務省の秦剛報道局長は23日、安倍首相がスイスでのダボス会議で、中国の軍事費の透明化を求めたのに対し「現在、透明度を高めるべきなのは日本だ。日本はアジア諸国と国際社会に、なぜ平和憲法の改正をたくらみ、軍備を拡充しているのか説明すべきだ」と反論した。

安倍首相との首脳会談について、秦局長は「(実施しても)いかなる効果もない。中国の指導者は忙しい。より多くの時間を有用、有効なことに充ててもらいたい」と可能性を否定。さらに「日本の指導者が南京大虐殺や従軍慰安婦、731部隊の被害者の子孫だったら、靖国神社を参拝するだろうか」と首相を批判した。

秦氏は靖国神社参拝に関する同会議での首相の発言に対しても、「参拝が中韓両国の人々の感情を傷つける気持ちはまったくないといえるのか」と反発。いわゆるA級戦犯を「東方のナチス」とし、参拝は侵略の否定が目的だと述べた。「日本の6大紙の中の5紙も参拝への反対を公然と示した」とも主張。暗に産経新聞を批判した。 

 

米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は23日、複数の米政府当局者の話として、米政府が日本政府に対し、安倍首相が靖国神社を再び参拝しないとの保証を非公式に求めていると報じた。

同紙によると、両政府は今後数週間、オバマ米大統領が検討する4月訪日を円滑に行うための努力を加速させる。米政府は日中、日韓関係の一層の悪化による地域の不安定化を懸念しており、今回の靖国参拝自粛要請もその一環とみられる。米政府は、安倍首相が今後、中国や韓国を刺激するような言動を自制することも確実にしたい意向で、過去の侵略と植民地支配に対する日本政府のこれまでの「おわび」の再確認を検討するよう、安倍首相に求めていくという。

特に日米韓3カ国の連携強化に向け、韓国との関係改善に取り組むよう日本に要請。韓国が問題視する従軍慰安婦問題への日本政府の対応も求めている。

 

在韓日本大使館の道上尚史公使が24日、韓国紙・中央日報に寄稿し、同紙で「日本の右傾化」を主張した中国の陳海・駐韓大使代理の8日の寄稿文に反論した。

陳氏は、過去の植民地支配と侵略に「痛切な反省」を表明した「村山談話」について安倍首相が「修正の動きを見せている」と主張した。

これに対し、道上氏は「安倍首相は歴代政権の立場全部を引き継ぐと繰り返し述べた」と反論。「軍国主義復活」などの反日キャンペーンは、事実に反すると批判した。

また、韓国内の世論調査で、中国の台頭を受け、64%が日韓の安保協力が必要と答えたとして、「賢明な韓国民を誤導できると錯覚しない方がよい」と、歴史問題で韓国と連携して、日本への圧力をかけようとする中国をけん制した。

 

オバマ大統領の4月の訪日をめぐって、13年2月、安倍首相が訪米した際、国賓として来日するよう要請し、13年の年末まではその方向で両国間で調整が続いていたが、今回のオバマ大統領の日本滞在時間が当初の想定よりも短くなる見込みとなり、国賓として待遇する際、慣例となっている日本到着時の歓迎式典、天皇陛下との会見、宮中晩餐会などの行事を行うには十分でないとの判断から、国賓待遇ではなく、宮中晩餐会も行われない方向であることが、明らかになった。アメリカ側が想定する日程では国賓待遇としての十分な時間がとれないためで、靖国をめぐる不協和音など、日米関係の昨今のあつれきが浮き彫りになった格好です。

安倍首相の靖国参拝に関するアメリカの「失望」コメントやTPPの交渉難航など、日米関係がギクシャクしているだけに、政府としてはできるだけ国賓に準ずる形でオバマ大統領の来日を盛り上げたい考えで、検討が続けられている。

 

中国の王毅外相は24日、ダボス会議での討論会で、安倍首相が現在の日中関係に関連し、第1次大戦前の状況に言及したことについて「時代錯誤だ」と批判した。日本によるアジア侵略の歴史を挙げ、「(日本は)トラブルメーカーだった」と述べた。語った。

 王外相は「日本の(政治)指導者が中国と歴史の再検証をしたいと思うなら、なぜ(首相は)そのような発言をするのか」と反発。首相の靖国神社参拝は「日中関係のみならず、人間としての自覚や国際的な正義の一線を越えた」と述べた。 

 

25日、中国国営新華社通信系の新聞で、国外の報道を翻訳し転載する新聞の参考消息は、安倍首相が日中関係を第1次大戦で対決した英国とドイツを例に挙げて説明したことについて「日本が急いで安倍の『戦争狂言』を火消し」と1面トップで伝えた。

 参考消息は。欧米メディアの記事を引用し、安倍首相を「痛烈に批判」していると紹介。一方で、日本政府が誤解だと説明しているとの日本の報道も掲載した。

 

首相の発言については、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のコラムニスト、ラックマン氏が22日、ブログ記事で「安倍氏は現在の中国と日本の間の緊張状態を第1次大戦前の英独の対立関係になぞらえ『(当時と)同じような状況』と述べた」とし、日中紛争が避けられないかのような印象を与えた。

報道を受け、菅義偉官房長官は「(首相は)第1次大戦のようなことにしてはならないという意味で言っている。事実を書いてほしい」と反論していた。FT紙は24日付の論説記事でも、「1914年の欧州との比較は恐ろしく、扇動的だ」と批判した。

 

菅氏によると、首相は外国メディアの質問に対し、100年前に起きた第1次大戦に至る英独関係の歴史的事実を説明したうえで、日中間の連携の重要性を訴え、「問題があるときには相互のコミュニケーションを緊密にすることが必要だ」と強調、「同じような状況」といった表現を一切使わなかったという。

 

韓国の朴槿恵大統領は25日、ソウルで米上院外交委員会東アジア太平洋小委員会のマルコ・ルビオ筆頭委員(共和)と会談した。朴大統領は日韓関係について、「慰安婦問題は深刻な人権問題なので、日本が前向きな姿勢で、責任を認める方向で措置を取らねばならない」と語ったうえで、「そうした前提ができなければ、韓日の首脳が会っても意味のない会合となる」と述べ、従軍慰安婦問題での日本の措置なしでは首脳会談は難しいとの考えを示した。

また、「米国政府や議会が韓日関係改善のために日本政府の誠意ある措置を求めてきたことは意味があり、そうした方向に進めば、解決の道に至るのではないか」と強調。米国も日本に前向きな対応を取るよう促すことを求めた。日韓関係に関するルビオ氏の発言内容は伝えられていない。 

朴大統領はさらに、ナチスの戦争犯罪の謝罪を続けてきたドイツを例に、「欧州のどの国もドイツに拒否感を持っていないことは示唆する点が多い」と言及。「日本は北東アジアの平和や韓日関係のために、そのように(姿勢を)示さねばならない」と述べた。

 

1月26日発表の日本経済新聞社の世論調査で、安倍首相の靖国神社参拝について「適切だ」が45%、「適切でない」が43%と賛否が割れた。参拝を「続けるべきでない」が47%で「続けるべきだ」の39%を上回った。

公明支持層では首相の靖国参拝について53%が「適切でない」と回答。「適切だ」の32%を上回った。今後の参拝にも「続けるべきだ」は21%で、「続けるべきでない」が57%に上るなど不満が浮き彫りになった形だ。

一方、自民支持層では「続けるべきだ」が56%で「続けるべきでない」が34%と参拝継続に根強い支持もある。

 

複数の日米関係筋が28日、明らかにしたところによると、米国のバイデン副大統領が13年12月12日に安倍晋三首相と電話会談した際、靖国神社参拝問題を取り上げて「行くべきではない」と繰り返し自制を求めていた。首相は「自分で判断する」と拒否した。首相は2週間後の26日に参拝。米政府は直後に「失望」を表す声明を出しており、首相自身の言動が米側の厳しい姿勢を招いた経緯が裏付けられた。

4月に見込まれるオバマ米大統領来日の際に靖国神社参拝問題が焦点になるのは避けられない情勢だ。

電話会談に関して外務省は、靖国参拝をめぐる対話内容は公表していない

 

中国の劉結一国連大使は29日午前(日本時間30日未明)、国連安全保障理事会の会合で安倍晋三首相の靖国神社参拝を取り上げ「国際社会と近隣諸国の強い反対を無視して参拝を行った」と批判した。

 劉大使は靖国神社にはA級戦犯らがまつられているとし、安倍首相の参拝は参拝を「反ファシズム戦争の勝利と、(第2次大戦の)戦後の国際秩序に対する挑戦だ」と述べて非難。そのうえで、「日本の指導者は、隣国を含む国際社会の信頼を勝ち取るため、侵略の歴史を認め、誤りを行動によって正すべきだ」と強調した。

 

韓国の呉俊連大使も、靖国参拝や、「侵略の定義は確立していない」という安倍首相の発言、島根県・竹島を「日本固有の領土」と明記した学習指導要領解説書の改訂を批判。慰安婦問題について「日本政府はいまだに責任を取っていない」と指摘した。

 

菅義偉官房長官は30日午後の記者会見で、4月に見込まれる安倍晋三首相とオバマ米大統領の首脳会談で首相が自らの靖国神社参拝に言及するかどうかについて、「(日米の)信頼感は揺るぎない。改めて説明する状況ではない」と述べた。

 

社民党の村山富市元首相は30日夜、東京都内で開かれた党の会合であいさつし、昨年末に安倍晋三首相が靖国神社を参拝したことについて「(安倍氏)本人の気持ちを守るために国を売るような首相があるか。これは間違いだ」と厳しく批判した。

 

ドイツ南部ミュンヘンで1日開かれた安全保障会議で、中国の代表が歴史認識問題を取り上げ、安倍晋三首相らを「知識不足」として厳しく非難した。会議に出席した岸田文雄外相は反論するとともに、改めて中国に対話を呼びかけた。

中国の傅瑩(フーイン)・全国人民代表大会外事委員会主任委員は、「欧州、米国、そしてアジア」と題する討議に出席し、安倍政権の下で日本がアジアで指導的役割を果たすことについての会場からの質問に答えた、「現在の中日関係は非常に悩ましい。最も深刻なのは、(日本が)歴史を否定し、第2次大戦で犯した罪も否定していることだ」と語った。

また、傅瑩氏はこの質問に答える中で、「日本の指導者たちが過去に正直に向き合わない限り、日本がアジアの建設的なメンバーになるのは困難だ」と指摘。さらに「日本の歴史教育の失敗なのだと思う。彼は戦後の生まれで、非常に知識が乏しく、戦争の犠牲者に対して冷たい感情をもっている」と述べた。

 

2月10日付英紙フィナンシャル・タイムズは、「やっかいな方向に向き始めた安倍氏の国家主義」との見出しの社説を掲げ、安倍晋三首相の姿勢に懸念を表明した。

社説は安倍氏が昨年末、「米政府の忠告や外交上の常識を無視して」靖国神社を参拝したと主張、また、NHKを人事などで「支配」しようと試みていると批判。「就任後1年が過ぎ、少なくとも2016年までは政権が持続する見込みの中、彼は国家主義的な課題をさらに推し進めようとしている」と分析、「それは日本の民主主義にとって懸念すべき影響をもたらしかねない」と指摘した。

 

超党派でつくる日米国会議員連盟の中曽根弘文会長(自民)らは2月17日午後、東京都内のホテルで米下院のロイス外交委員長ら超党派議員団と会談した。米政府が「失望」を表明した安倍晋三首相の靖国神社参拝について、日本側が「不戦を誓うため」とする首相の真意を伝えたのに対し、米側からは「靖国の問題は中国を利するのではないか」と懸念する声が上がった。

首相の靖国参拝に懸念の声が出たことについて、菅義偉官房長官は同日午後の記者会見で「個人の発言なので政府としてコメントすべきでない。首相が参拝の際に語っていることに尽きる」と述べた。

 

衛藤晟一首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」に投稿した国政報告で、13年12月26日の安倍晋三首相の靖国神社参拝に「失望」声明を発表した米政府を批判していることが18日、分かった。衛藤氏は、米側には事前に説明していたとして「むしろ我々の方が『失望』だ。米国はちゃんと中国にものが言えないようになっている。中国に対する言い訳として(失望と)言ったに過ぎない」と指摘した。

衛藤氏は投稿で、自身が13年11月20日に訪米し、国務省のラッセル次官補やアーミテージ元国務副長官らと会談した際、「首相はいずれ参拝する。ぜひ理解をお願いしたい」と伝えたことを紹介。12月初旬には在日米大使館にも出向いて「(参拝時には)できれば賛意を表明してほしいが、無理なら反対はしないでほしい」と要請したことを明らかにした。いずれも米側からは慎重な対応を求められたという。

 

菅義偉官房長官は19日午後の記者会見で、「衛藤総理大臣補佐官の発言は、あくまで個人的な見解であって、日本政府の見解ではないことを明言したい」と述べたうえで、衛藤氏に対し、「首相補佐官は内閣の一員である。個人的見解は取り消すように」と電話で指示したことを明らかにした。

衛藤氏は同日、「個人的な見解と最初から言っているが、総理大臣補佐官という立場で誤解を与えるということだから取り下げる」と述べ、「ユーチューブ」での自身の発言を取り消し、動画を削除する意向を明らかにした。

 

米国務省のハーフ副報道官は19日の記者会見で、衛藤氏の発言について「日本政府は個人的見解であり政府見解ではないと説明している」と述べ、取り合わない考えを示した。

 

麻生太郎副総理は19日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相の昨年末の靖国神社参拝に対する海外の反応について「外務省に正式に抗議が来たとかいう話を、私どもは聞いたことがない」と答弁した。 だが、中国は程永華(チョンヨンホワ)駐日大使、韓国も李丙h(イビョンギ)駐日大使がいずれも首相の参拝当日に日本外務省を訪れ、斎木昭隆事務次官に対して抗議した。北京では木寺昌人駐中国大使が王毅(ワンイー)外相から呼ばれ、ソウルでも倉井高志駐韓日本大使館総括公使が外交省の金奎顕(キムギュヒョン)第1次官から呼ばれ、それぞれ抗議を受けた。

麻生氏の答弁後、日本外務省の佐藤地(くに)外務報道官は記者会見で「麻生副総理の発言は直接存じ上げない」としながらも「事実として抗議はあったと記憶している」と述べた。

 

米紙ウォールストリート・ジャーナルは19日付の電子版で、安倍首相の経済ブレーン・本田悦朗内閣官房参与のインタビューを掲載した。同紙によると本田氏は、太平洋戦争末期に米艦に体当たりした神風特攻隊について「日本の平和と繁栄は彼らの犠牲の上にある。だから安倍首相は靖国へ行かなければならなかったのだ」と、「第2次大戦中の神風特攻隊の『自己犠牲』について語りながら、涙ぐんだ」と説明したという。

本田氏は「日本の首相が靖国参拝を避けている限り、国際社会での日本の立場は非常に弱い」として、「われわれは重荷を背負った日本を見たくはない。自立した国としての日本を見たい」と語ったうえで、「本田氏はアベノミクスの背後にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない。日本が力強い経済を必要としているのは、賃金上昇と生活向上のほかに、より強力な軍隊を持って中国に対峙(たいじ)できるようにするためだと語った」とも伝えた。

 

本田氏は20日、ウォールストリート・ジャーナルによるインタビュー記事に関し「靖国神社は日本国民にとって特別な場所という例として説明した。ああいう記事になり予想外だ」と官邸で記者団に反論、同時に「私の見解ではなく、靖国神社とはそういうものだということをオフレコでざっくばらんに説明しようと思った」と述べた。

これに先立ち、本田氏は菅義偉官房長官に「記事を読んで驚いている。発言の趣旨を違えて報じている」と連絡した。

 

自民党の町村信孝元官房長官は20日の町村派総会で、衛藤晟一首相補佐官が安倍晋三首相の靖国神社参拝をめぐり米政府を批判したことについて、「言ってすぐ撤回するような話をあんなに公に言う必要はない。自民党全体がたるんでいる、傲慢(ごうまん)になっているとの例示に使われるから、全く百害あって一利がない発言だ」と批判した。

一方、同党の鴻池祥肇元防災担当相は麻生派総会で、「遠慮なくやったらどうか」と述べ、衛藤氏を擁護した。

 

日本共産党の志位和夫委員長は20日の記者会見で、衛藤首相補佐官の発言について「首相の本音を代弁したものだ」と指摘しました。その上で「首相自身が靖国参拝を反省しない、当然だと居直っているところに一番の問題がある」と首相の姿勢を批判した。

志位氏は、自身が衆院本会議の代表質問(1月29日)で靖国参拝問題を取り上げた際、首相が「国のリーダーが戦争の犠牲者に哀悼をささげるのはあたり前のことで当然だ」と答え、何の問題もないという立場を表明したことをあげ、「何の問題もないということは、アメリカによる『失望した』という批判はあたらないと言っているわけだ」と強調したうえで、首相の靖国参拝は「“先の大戦は自存自衛の戦争だった”“アジア解放の戦争だった”という靖国神社の侵略戦争肯定美化論に自らの身を置き、それを世界に向かって宣言することになるわけで、こういう行動を一切やめることを強く求めていきたい」と語った。

 

安倍首相は24日、国会内で日本維新の会の山田宏衆院議員に「世論調査で河野談話(見直し)賛成が約6割だった。山田さんのおかげだ」と、声をかけ、山田氏は「政府と国会で(見直しに向けて)役割分担していきましょう」と応えた。ました。

山田氏は20日の衆院予算委員会で、「慰安婦」問題で旧日本軍の関与を認めた「河野談話」(1993年)の作成に携わった石原信雄元官房副長官に質問。このなかで石原氏は、「慰安婦」とされた女性たちの証言について「裏づけ」調査を行わなかったなどと証言した。

安倍首相のあげた「世論調査」は、「産経」とFNNが22、23両日に実施した合同世論調査。ところがこれは設問で、「慰安婦募集の強制性を認めたと受け取れる『河野談話』について、軍や官憲による強制連行を裏付ける公的資料が見つかっていないほか、元慰安婦に対する調査のずさんさが指摘されているが」と山田議員の国会質問と同じ内容を前提に、「『河野談話』を見直すべきだ」について賛否を聞いたもの。「思う」が58・6%だったとしている。

一見してわかるように「質問」というより「誘導尋問」。到底まともな「世論調査」とはいえない。

自民党の宮沢内閣で発表された「河野談話」は、もともと強制性を立証する文書を見つけることはできなかったことを前提に、「慰安婦」とされた人たちの証言の真実性にもとづいて、その証言が真実のものだと政府として認定して、政府として強制性を認めたものである。

 

米議会調査局は25日までに、日米関係に関する報告書を公表し「安倍晋三首相の歴史観は、第2次大戦に関する米国人の認識とぶつかる危険性がある」として、靖国神社参拝に踏み切った首相の歴史認識や周辺国との摩擦に懸念を示した。

 報告書は、参拝が日中・日韓関係の悪化につながったとしたうえで、「特に日韓関係の冷え込みは北朝鮮や中国をめぐる政策調整を妨げると米政府関係者は懸念を強めている」と強調。「首相が米政府の働き掛けにもかかわらず靖国を参拝したことは(日米の)2国間関係を複雑化させるリーダーの本質をはっきり示している」と批判した。

 報告書はまた、従軍慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話の検証など、歴史認識に絡む安倍内閣の動きを取り上げ、「首相の歴史観は第2次世界大戦での米国の役割に関する米国民の理解と衝突する危険がある」と指摘した。

 一方、報告書は、米軍普天間飛行場移設問題に関し「ほとんどの沖縄県民は新たな米軍基地の建設に反対している。日米両政府が手荒な行動を取れば(今年11月ごろの)県知事選で反基地の政治家を利するリスクがある」と警鐘を鳴らしている。

 報告書は日米関係に関するもので、米上下両院議員の政策判断の参考資料として議会調査局が必要に応じてまとめている。

 

 安倍首相は27日の衆院予算委員会の集中審議で、自らの靖国神社参拝について、「外交問題、国際的な問題になっているのは大変不幸なことだ」と強調したうえで、「そうしないために努力を重ねていかなければならないし、まだまだ私の努力も足りないと認識している。『こうすべきだ』という様々な意見にも真摯しんしに耳を傾けていきたい」と述べた。

 

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は3月2日、安倍晋三首相の姿勢を「ナショナリズム(国家主義)」と指摘し、日米関係の「ますます深刻な脅威になっている」と批判する社説を掲載した。同紙の社説は、これまで数回にわたり、安倍氏の「国家主義」が危険だと訴えている。

 2日の社説は歴史問題に対する安倍首相の姿勢が日本周辺の「地域に対する危険な挑発」になっているとした。米国は日米安保条約に基づき日本を守ろうとしている一方、日中の紛争に引き込まれることは望んでおらず、安倍氏が米国の利益を忘れているとした。

 安倍首相が第2次大戦の「歴史をごまかそうとしている」と批判。さらに「彼(安倍首相)と他の国家主義者たちは、いまだに南京大虐殺は全く起きなかったと主張している」との見解を示した。

 従軍慰安婦問題をめぐる河野洋平官房長官談話の検証問題にも触れ、慰安婦への「謝罪を撤回する可能性」を指摘した。

 

参院予算委員会で3月3日、安倍晋三首相をはじめ全閣僚が出席した2014年度予算案の基本的質疑が始まり、この中で、安倍首相は、日本の侵略と植民地支配に反省とおわびを表明した「村山富市首相談話」(1995年)の立場を継承しているのかと問われ、植民地支配や侵略を認めた部分を省略して読み上げ、安倍政権の立場だと答弁した。

 

 村山談話は、「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました」としているが、安倍首相はこのうち「遠くない過去の」から「植民地支配と侵略によって」までの50字を削って「かつて」に置き換えて読み上げ、「国策の誤り」だとは認めなかった答弁した。

 削った50字について安倍政権としても継承することを明確に答弁するように求められたのに対し、安倍首相は「今まで何回も答弁して、この(省略した)答弁で確定している」と拒否しました。

 

 菅義偉官房長官は3月4日午後の記者会見で、安倍晋三首相を批判した米紙ニューヨーク・タイムズの3月2日付の社説について「事実誤認が含まれている」として、同紙に抗議したことを明らかにした。

 菅長官は、同紙社説の「安倍首相はいまだに旧日本軍による南京大虐殺はなかったと主張している」との記述について、「政府の見解と全く違う、首相が言っていないことが掲載された」と語った。

 

ケネディ駐日米大使は3月6日放映されたNHKの番組「クローズアップ現代」でのインタビューで、安倍首相の靖国神社参拝について「地域情勢を難しくするような行動は建設的ではない」と述べ、参拝に反発する中国や韓国との関係悪化に懸念を表明した。

大使は「日米が一緒に取り組むべき重要な任務があると思う。それを困難にするものについては失望する」と述べた。一方で「友人や同盟国であっても、時として意見の違いはある。日米関係は極めて前向きで強固」として、日米協力の重要性を訴えた。

 

国連本部で3月17日行われた討論で、中国と北朝鮮の代表が従軍慰安婦問題と安倍晋三首相の靖国神社参拝に関し、日本政府を批判する演説をした。日本は答弁権を使い反論した。

応酬があったのは「女性の地位委員会」の一般討論。中国代表は「慰安婦の強制的連行は人道に対する罪」と指摘。「日本政府は最近、北朝鮮は慰安婦問題で「日本は歴史をゆがめることをやめ、責任を認め被害者に補償すべきだ」と述べた。また中朝両国は、靖国参拝を「戦後の国際秩序への挑戦」(中国)などと批判した。

日本は答弁で、慰安婦問題で「首相は筆舌に尽くしがたいつらい思いをされた方々に非常に心を痛めていると述べている。政府の基本的立場は河野談話の継承だ」とする一方、賠償問題は関連条約などで解決済みとの立場を改めて説明した。

 

韓国紙・韓国日報は3月18日、ソウルで開かれた日本との外務次官会談で韓国側が、首脳会談実現の条件として、首相の靖国神社参拝中止や、従軍慰安婦問題の協議など三つを提案したと報じた。

12日の次官会談で日本側は、日韓首脳が条件なしで早い時期に会い、虚心坦懐(たんかい)に対話すべきだと強調した。これに対し韓国側は、(1)河野洋平官房長官談話と村山富市首相談話の継承表明(2)安倍晋三首相の靖国神社参拝中止宣言(3)慰安婦問題を話し合う協議体の稼働−の3条件を提示したという。 

 

安倍首相の靖国神社参拝で中国、韓国との関係が悪化し、憲法の前文に掲げられた平和的生存権を侵害されたなどとして、市民ら546人が4月11日、安倍首相と靖国神社、国を相手取り、今後の参拝取りやめや、1人あたり慰謝料1万円の損害賠償などを求め、大阪地裁に提訴した。

13年12月の参拝後、大阪市の市民団体が原告を募っていた。弁護団によると、安倍首相の参拝に関する提訴は初めて。4月21日には、別団体が同様の訴えを東京地裁に起こす予定。

原告側は訴状で、「首相の参拝は戦死を美化し、戦前の全体主義を称賛する行為で、北東アジアの対立を深めた」と指摘し、「平和のうちに生きる権利を侵害され、精神的苦痛を受けた」と主張している。

 

新藤義孝総務相は4月12日、東京・九段北の靖国神社を参拝した。13年も春季例大祭(4月21〜23日)の前に参拝している。

新藤氏は参拝後、取材に対し「心の自由の範囲で、私的な行為だ」と説明。予想される中国や韓国からの反発については「懸念するような(外国からの)指摘は当たらない。政府も以前からその旨を説明している」と強調した。

 

韓国外務省は12日、新藤義孝総務相の靖国神社参拝について「日本の帝国主義的な侵略によって苦痛を被った近隣国と国際社会に正面から挑戦する行為だ」と批判する見解を明らかにした。

同省はさらに「日本の政治家たちはこうした時代錯誤的な行為を一日も早くやめ、歴史に対する謙虚な反省を基に、信頼に基盤をおいた韓日関係構築に努力しなければならない」と指摘した。

 

古屋圭司国家公安委員長兼拉致問題担当相は20日午前、東京・九段北の靖国神社を参拝した。春季例大祭(21〜23日)に合わせる形で参拝した閣僚は、新藤義孝総務相に続き2人目。

古屋氏は第2次安倍政権発足後、春と秋の例大祭期間中と終戦記念日の8月15日にそれぞれ参拝した。

 

安倍首相は4月21日、東京・九段北の靖国神社で同日から始まった春季例大祭に合わせ「内閣総理大臣 安倍晋三」の名で「真榊」と呼ばれる供物を奉納した。13年末に参拝したばかりである上、23日に来日するオバマ米大統領が日本と中韓両国との関係悪化を懸念していることに配慮し、参拝は見送った。

首相は13年春と秋の例大祭でも真榊を奉納した。今回も同様の対応を取り、東京裁判のA級戦犯合祀を理由として靖国参拝に反対する中韓両国と、自らの支持基盤である保守層の双方に配慮した。

 

韓国外務省報道官は21日、「嘆かわしい」と安倍氏を非難する「論評」を発表した。供物奉納や閣僚の参拝について「歴代内閣の歴史認識を引き継ぐとした安倍首相自身の約束を破り、周辺国家間の信頼関係だけでなく地域の安定を損なう時代錯誤的な行為だ」と主張したうえで、安倍政権が掲げる積極的平和主義が「偽りのつくりもの」であると「満天下に知らしめたことを肝に銘じなければならない」としている。

 

4月21日、安倍首相の靖国神社参拝は憲法が定めた政教分離原則に違反するとして、戦没者遺族や宗教家、韓国人ら273人が国などを相手取り、将来の公式参拝差し止めや違憲確認、原告1人当たり1万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

11日には大阪市の約540人が同様の訴えを大阪地裁に起こしている。

原告側は訴状で「集団的自衛権の行使を容認して戦争のできる国づくりを目指す安倍首相は、国のために犠牲になることを美化するため靖国神社を利用しようとした」と主張。参拝で近隣諸国との関係を悪化させ、戦争が起こり得る状況を招いて平和に生きる権利を侵害されたと訴えている。

 

新藤義孝総務相は4月22日、春季例大祭が行われている東京・九段北の靖国神社に参拝した。加藤勝信官房副長官、衛藤晟一首相補佐官も参拝し、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(会長=尾辻秀久元厚生労働相)に所属する衆参の計約150議員も参拝した。

新藤氏は参拝後、国会内で記者団に「例大祭には例年、行っている」と述べた上で、オバマ米大統領の訪日前日の参拝が日米関係に与える影響について「私的に行った私の参拝が直接、関係するとは考えない」と強調した。新藤氏は12日にも「全国硫黄島戦没者慰霊祭」に合わせて参拝している。

国会議員の会事務局によると、安倍政権では、西川京子文部科学副大臣、高木毅国土交通副大臣、井上信治環境副大臣、藤川政人総務政務官、高鳥修一厚生労働政務官が参拝。自民党の高市早苗政調会長や、民主党の羽田雄一郎参院幹事長、日本維新の会の平沼赳夫国会議員団代表らが参拝した。

党別の内訳は▽自民116人▽日本維新の会22人▽民主3人▽みんな、結い各2人▽新党大地1人▽無所属1人だった。

 

 

稲田朋美行政改革担当相は4月28日午後、東京・九段北の靖国神社を参拝した。サンフランシスコ講和条約が発効し、日本が主権を回復した1952年4月28日に合わせた。

参拝後、記者団に「自分の国のために殉じられた方々に感謝と敬意と追悼の意を表することは、主権国家の国民であれば自分の判断でなすべきだと考え、参拝した」と述べた。

自らが会長を務める自民党議員グループ「伝統と創造の会」のメンバー約10人と参拝し「伝統と創造の会会長 衆議院議員 稲田朋美」と記帳した。「毎年、主権を回復した日に参拝しており、続けたい」とも述べた。

 

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安倍内閣総理大臣の談話  〜 恒久平和への誓い 〜(2013年12月26日)

 

 本日、靖国神社に参拝し、国のために戦い、尊い命を犠牲にされた御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し、御霊安らかなれとご冥福をお祈りしました。また、戦争で亡くなられ、靖国神社に合祀されない国内、及び諸外国の人々を慰霊する鎮霊社にも、参拝いたしました。

 御英霊に対して手を合わせながら、現在、日本が平和であることのありがたさを噛みしめました。

 今の日本の平和と繁栄は、今を生きる人だけで成り立っているわけではありません。愛する妻や子どもたちの幸せを祈り、育ててくれた父や母を思いながら、戦場に倒れたたくさんの方々。その尊い犠牲の上に、私たちの平和と繁栄があります。

 今日は、そのことに改めて思いを致し、心からの敬意と感謝の念を持って、参拝いたしました。

 日本は、二度と戦争を起こしてはならない。私は、過去への痛切な反省の上に立って、そう考えています。戦争犠牲者の方々の御霊を前に、今後とも不戦の誓いを堅持していく決意を、新たにしてまいりました。

 同時に、二度と戦争の惨禍に苦しむことが無い時代をつくらなければならない。アジアの友人、世界の友人と共に、世界全体の平和の実現を考える国でありたいと、誓ってまいりました。

 日本は、戦後68年間にわたり、自由で民主的な国をつくり、ひたすらに平和の道を邁進してきました。今後もこの姿勢を貫くことに一点の曇りもありません。世界の平和と安定、そして繁栄のために、国際協調の下、今後その責任を果たしてまいります。

 靖国神社への参拝については、残念ながら、政治問題、外交問題化している現実があります。

 靖国参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいますが、私が安倍政権の発足した今日この日に参拝したのは、御英霊に、政権一年の歩みと、二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を、お伝えするためです。

 中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは、全くありません。靖国神社に参拝した歴代の首相がそうであった様に、人格を尊重し、自由と民主主義を守り、中国、韓国に対して敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っています。

 国民の皆さんの御理解を賜りますよう、お願い申し上げます。

 

安倍首相靖国参拝:記者団に語った発言要旨(2013年12月26日)

−−どのような気持ちで参拝したのか。

 首相 日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、御霊(みたま)やすらかなれと手を合わせてまいりました。同時に靖国神社の境内にあります鎮霊社にもお参りをしてまいりました。靖国神社に祭られていない、全ての戦場に倒れた人々、日本人だけではなくて諸外国の人々も含めて全ての戦場で倒れた人々の慰霊のための鎮霊社にお参りを致しまして、全ての戦争において命を落とされた人々のために手を合わせ、ご冥福をお祈りをし、そして二度と再び戦争の惨禍によって人々の苦しむことのない時代をつくる、この決意を込めて不戦の誓いをいたしました。

 

 −−今日は12月26日、安倍政権が発足してちょうど1年になる。なぜこの日を参拝の日として選んだのか。

 首相 残念ながら、靖国神社参拝自体が政治問題、外交問題化しているわけでありますが、その中において、この1年の安倍政権の歩みをご報告をし、二度と再び戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓いを、決意をお伝えするためにこの日を選びました。

 

 −−中国韓国をはじめ、海外からは安倍首相が靖国神社を参拝することに根強い批判の声がある。どのように説明されていくつもりか。

首相 靖国神社の参拝はいわゆる戦犯を崇拝する行為であると誤解に基づく批判がありますが、私は1年間、この歩みをご英霊に対してご報告をする、そして二度と戦争の惨禍の中で人々が苦しむことのない時代を作っていくという決意をお伝えするために参拝をいたしました。もとより、中国あるいは韓国の人々の気持ちを傷つける、そんな考えは毛頭ございません。それは靖国神社に参拝をしてこられた歴代の首相とまったく同じ考えであります。母を残し、愛する妻や子を残し、戦場で散った英霊のご冥福をお祈りをし、そしてリーダーとして手を合わせる。このことは、世界共通のリーダーの姿勢ではないでしょうか。これ以外のものでは全くないということを理解をしていただくための努力を重ねていきたいと考えています。また日本は戦後、自由と民主主義を守ってまいりました。そしてその下に平和国家としての歩みをひたすら歩んできた、この基本姿勢は一貫しています。この点において一点の曇りもございません。これからも謙虚に、礼儀正しく、誠意を持って説明をし、そして対話を求めていきたいと思います。

 

 −−中国、韓国のそれぞれの国のリーダーに対して直接説明したいという考えはあるか。

 首相 ぜひこの気持ちを直接説明したいと思います。戦後多くの首相は靖国神社に参拝をしています。吉田茂首相もそうでありました。近年でも中曽根首相、その前の大平首相、橋本首相も小泉首相もそうでしたが、全ての靖国神社に参拝をした首相は中国、韓国と友好関係をさらに築いていきたいと願っていました。日中関係、日韓関係は大切な関係であり、この関係を確固たるものにしていくことこそ日本の国益だと皆さん信念として持っておられた。そのことも含めて説明をさせていただく機会があれば、本当にありがたいと思っています。

 

 −−2年後3年後、今後も靖国神社に定期的に参拝されたいというお考えはあるか。

 首相 この場でお話をすることは差し控えさせていただきたいと思います。私は第1次安倍政権の任期中に靖国神社に参拝できなかったことは痛恨の極みだと申し上げてまいりました。総裁選においても衆議院選挙のときにおいてもそう述べてまいりました。その上で総裁に選出をされ、首相となったわけでございます。これからも参拝の意味について理解をしていただくための努力を重ねていきたいと思います。

 

−−戦争指導者の責任についてはどのように考えるか

 首相 我々は過去の反省の上に立って、戦後、しっかりと人権を、基本的人権を守り、民主主義、自由な日本を作ってまいりました。そして今や、その中において世界の平和に貢献をしているわけでございます。今後もその歩みにはいささかも変わりがないということは重ねて申し上げておきたいと思います。

 

安倍首相の靖国神社参拝(2013年12月26日)についての米大使館声明(仮翻訳で、正文は英文)

2013年12月26日

 

 日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。

 米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。

 米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する。

 

Statement on Prime Minister AbeVs December 26 Visit to Yasukuni Shrine

December 26, 2013

 

Japan is a valued ally and friend. Nevertheless, the United States is disappointed that JapanVs leadership has taken an action that will exacerbate tensions with JapanVs neighbors.

The United States hopes that both Japan and its neighbors will find constructive ways to deal with sensitive issues from the past, to improve their relations, and to promote cooperation in advancing our shared goals of regional peace and stability.

 We take note of the Prime Minister’s expression of remorse for the past and his reaffirmation of JapanVs commitment to peace.

 

 

 

中国外務省の秦剛報道官が2013年12月26日発表した談話

 

 日本の安倍首相は、中国の断固たる反対を顧みず、横暴にも第2次大戦のA級戦犯が祭られている靖国神社を参拝した。中国政府は中国ならびに他のアジアの戦争被害国の人民の感情を粗暴に踏みにじり、歴史と正義と人類の良知に公然と挑戦する日本の指導者の行為に強い憤りを表明するとともに、日本に強い抗議と厳しい非難を申し入れる。

 日本の軍国主義が発動した侵略戦争は中国などアジアの被害国の人民に深刻な災難をもたらし、日本の人民にも被害を受けさせた。靖国神社は第2次大戦中、日本の軍国主義の対外的な侵略戦争発動における精神的な道具、象徴であり、アジア人民に大きな罪を犯した14人のA級戦犯がなお祭られている。日本の指導者が靖国神社を参拝することの本質は、日本の軍国主義による対外戦略と植民地統治の歴史を美化し、日本の軍国主義への国際社会の正義の審判を覆し、戦後の国際秩序に挑戦することをたくらむものだ。日本の指導者の時代への逆行は、アジアの隣国と国際社会に日本が今後向かう道に高度な警戒と強い憂慮をもたらす。

 

劉震竜(ユジンリョン)・文化体育観光相が政府庁舎で2013年12月26日に緊急会見して読み上げた全文

 

(1)日本の安倍晋三総理が周辺国や国際社会の憂慮と警告にもかかわらず、12月26日、日本の過去の植民地支配と侵略戦争を美化し、戦犯たちを合祀(ごうし)している靖国神社を参拝したことに対し、わが政府として慨嘆と憤怒を禁じ得ない。

(2)靖国神社は、東アジアを戦争の惨禍へと押しやった東条英機をはじめ、朝鮮総督として徴兵、徴用、供出など各種の収奪統治をし、わが民族に、言葉では言い表せない苦痛と被害を与えた小磯国昭など、許すことのできない戦争犯罪者たちを合祀している歴史に反する施設だ。

 

日本共産党の志位和夫委員長記者会見(2013年12月26日)

 

 一、靖国神社は、過去の日本軍国主義による侵略戦争を「自存自衛の正義のたたかい」「アジア解放の戦争」と美化し、宣伝することを存在意義とする特殊な施設です。この施設に首相が参拝することは、侵略戦争を肯定・美化する立場に自らの身をおくということを、世界に向かって宣言することにほかなりません。

 第2次世界大戦後の国際秩序は、日独伊の3国がおこなった侵略戦争は不正不義のものとすることを共通の土台としています。首相の行為は、第2次世界大戦後の国際秩序に対する正面からの挑戦であって、断じて許すわけにはいかないものです。この行動によって首相の歴史逆行の本性があらわになったと思います。

 一、(「外交的影響をどうみるか」との問いに)中国、韓国との関係を考えても、外交的な行き詰まりを一層深刻なものとする結果をもたらすことは明瞭ですが、問題はそれにとどまりません。首相の行動は、第2次世界大戦後の国際秩序に対する挑戦であり、アメリカも含めて支持されえないもので、世界全体を敵に回すことになる。世界各国との関係でも、さまざまな矛盾が広がっていくことになるでしょう。

 一、(「この時期の参拝をどう見るか」との問いに)「戦争する国づくり」への暴走が始まっています。この暴走に歯止めがなくなり、やみくもな暴走になっているのが、現状だと思います。

 国民多数の反対を踏みつけにした秘密保護法の強行に続き、「国家安全保障戦略」の策定など集団的自衛権の行使容認への道をひた走ろうとしている。「武器輸出三原則」のなし崩し的な放棄につながる弾薬の提供も重大です。

 しかし、これは国民多数の声と真っ向から逆らうし、アジアと世界の流れにも逆らうものです。国民の世論と運動で大きく包囲して、暴走に待ったをかけ、破たんに追い込んでいきたいと決意しています。

 

安倍首相靖国参拝ドキュメント(2013年12月26日)

 9・30ごろ

自民党の額賀福志郎・日韓議員連盟会長が安倍首相に電話。靖国神社参拝について「できるだけ思いとどまってほしい」と自制を促したが、首相は「国民との約束なので決断をした」という

10・30

外務省で岸田文雄外相が記者会見。首相の靖国神社参拝について「私は承知してない」と語る

10・35ごろ

安倍晋三首相の靖国神社参拝日程を首相官邸が発表

11・22

首相、モーニング姿で公用車にて首相官邸を出発

11・32

東京・九段北の靖国神社に到着。出迎えた日本遺族会関係者らに一礼し、本殿へ。自民党の石破茂幹事長が党本部で記者団に「政権発足1年の節目に平和を願い、御霊(みたま)に哀悼の意を表する思いで参拝を決意された」「首相は6年前の政権のときに参拝できなかったのは、痛恨の極みであるという強い気持ちがあった」と理解を示す

11・40

首相、鎮霊社に参拝

11・43

首相、拝殿から本殿へ移動し参拝。「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳

11・47

首相が参拝後、報道各社のインタビューで「ご英霊に尊崇の念を表し、手を合わせた。中国、韓国の人々を傷つける考えは毛頭ない」。

11・57

首相、靖国神社出発。車に乗り込む前に一般参拝者に右手を上げる

12・00

在日米大使館報道室がツイッターで「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米政府は失望している」との声明を発信

12・12

公明党の山口那津男代表が参院議員会館で記者団に「出発する直前に首相から電話をいただいた。『賛同できません』と申し上げた」「残念だ。(首相に)賛同できないと言った」と語る

12・34

日本維新の会の松野頼久国会議員団幹事長が国会内で記者団に「評価する。政治問題にすべきではない」と語る

12・44

小野寺五典防衛相が外務省に岸田文雄外相を訪ねる。「靖国参拝の対応か」との問い掛けにうなずく

12・48

民主党の海江田万里代表が国会内で記者団に「首相に私人の立場はなく、自重すべきだ」と批判

13・27

程永華駐日中国大使が外務省を訪問。斎木昭隆事務次官と会い、首相の靖国参拝に抗議

14・10

首相。東京・内幸町の帝国ホテルの民間外交推進協会の会合で講演。参拝を「不戦の誓いをするため」と説明

15・10

在日米大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに失望している」とする声明を発表

15・45

菅義偉官房長官が記者会見で「「首相は私人の立場で参拝されたと承知しており、政府としては立ち入るべきではない」と語る

17・10

岸田外相が外務省で記者団に「政治・外交問題として大きくならないよう努力したい」と語る

17・50

日韓議員連盟の額賀福志郎会長が衆院議員会館で記者団に「けさ、首相に電話して思いとどまってほしいとお願いした。残念な思いがする」と語る

18・09

韓国の李駐日大使が外務省で斎木次官と面会。首相の参拝に抗議

18・30

岸田外相とケネディ駐日米大使が電話会談。大使、「本国伝える」と語る

(2013年12月26日配信『時事通信』&2013年12月27日配信『毎日新聞』)

 

安倍首相の靖国神社参拝までの経緯   

2005年月

自民党幹事長代理として参拝

2006年4月

小泉内閣の官房長官として極秘に参拝。8月になって発覚

2007年4月

首相として真榊(まさかき)を奉納

7月

靖国神社の(日本古来の盆行事)「みたままつり」(13〜16日)に肩書なしでちょうちん奉納

2012年9月14日

自民党総裁選中の記者会見で、首相在任中(2006〜2007年)に靖国神社を参拝できなかったことは「痛恨の極み」と発言

10月17日

自民党総裁として秋季例大祭(17〜20日)初日に参拝

12月26日

第2次安倍内閣発足

2013年4月

春季例大祭(21〜23日)中の参拝を見送り、真榊を奉納

8月15日

終戦記念日の参拝を見送り、自民党総裁として私費で玉串(ぐし)(祭祀費用)を奉納

10月

秋季例大祭(17〜20日)中の参拝を見送り、真榊を奉納

12月9日

首相、記者会見で「参拝するか否かは今申し上げるべきではない」と発言

12月26日

首相、靖国神社に参拝。「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳。2006年の終戦の日の小泉純一郎首相(当時)以来、7年ぶり。首相として、初めて鎮霊社を参拝

 

注;みたままつり=日本古来の盆行事に因み1947年に始まった。今日、東京の夏の風物詩として親しまれ、毎年30万人の参拝者で賑わう。期間中、境内には大小3万を超える提灯や、各界名士の揮毫による懸雪洞が掲げられて九段の夜空を美しく彩り、本殿では毎夜、英霊をお慰めする祭儀が執り行われる。

 

 

玉串(ぐし)料=(仏式の焼香にあたる)(さかき)の枝に木綿(ゆう)または紙を切ってつくる紙垂(しで)をつけた玉串(玉串奉奠〈ほうでん〉をする際などに用いる)に代えて神社や神官に対して贈る謝礼。靖国神社の玉ぐし料は、参列者1人につき500円以上のお志。

 

玉串

 

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注;靖国神社の最も重要な祭事は、春秋に執り行われる例大祭で、春の例大祭は4月21日から23日までの3日間で、期間中、清祓・当日祭・第二日祭・直会の諸儀が斎行される。秋の例大祭は10月17日から20日までの4日間で、期間中、清祓・当日祭・第二日祭・第三日祭・直会の諸儀が斎行される。当日祭では、生前、お召し上がりになっていた御饌(ごせん=神に供える食べ物)神酒(しんしゅ=神に供える酒。おみき)や海の幸、山の幸などの神饌50台をお供えして神霊をお慰めし、平和な世の実現を祈る。また、この日には、天皇陛下のお遣いである勅使が参向になり、天皇陛下よりの供え物(御幣物〈ごへいもつ〉=串に紙や布帛〈ふはく〉をはさんだ神道の採物〈とりもの〉。竹または木を割って折紙や垂〈しで〉をはさんだ幣串、垂を長くし棒の先に束ねたらした幣束、サカキに木綿(ゆう)や紙をつけた玉串など)が献じられ、御祭文(ごさいもん=もとは宣命〈せんみよう〉といった。神社祭式では,斎主〈さいしゆ〉が奏するものを祝詞〈のりと〉)が奏上される。

 

注;真榊(まさかき)=榊(さかき)の美称。神事に用いる木(真賢木)。神事の場で祭壇の左右に立てる祭具。緑・黄・赤・白・青の五色絹の幟の先端に榊を立て、三種の神器を掛けたもの。向かって左側に剣を掛けたもの、右側に鏡と勾玉を掛けたものを立てる。全体を真榊台と呼ぶこともある。

 

 

鎮霊社『靖国』の回答検証(2006年8月29日配信『東京新聞』−「『こちら特報部』」)

 

靖国問題は自民党総裁選の中で数少ない争点の一つになっている。06年8月12日付の『こちら特報部』では、この靖国神社の一角にある鎮霊社にスポットを当てた。その後、読者の方々から「もっと詳細を」という要望をいただいた。前回は多忙を理由に取材に応じなかった神社側も、今回は本紙の質問に書面で答えてくれた。再び鎮霊社を舞台に靖国問題を考える材料を提供したい。 

 

 【『こちら特報部』からの質問(1)】

 1869年に靖国神社の原型、東京招魂社が創建されて90年以上たった1965年に、鎮霊社が建立された理由は何か。

 

 【靖国神社広報課の回答(1)】鎮霊社は、時の筑波藤麿宮司の発案で、戦なき平和を願い創建された御社。嘉永6(1853)年以降の戦争・事変にて非命に斃(たお)れ、職域に殉じ、病に斃れ、自ら生命断つなどして靖国神社に祀(まつ)られない御霊(みたま)と、同年以降の戦争・事変に関係し、死没した諸外国の御霊、二座を鎮祭している。

 1853年という年は何を意味するのか。この年以降の戦争で死亡した人を祀ることは、鎮霊社のみならず靖国神社本殿にも共通している。

 日本文化総合研究所の高森明勅(あきのり)代表はこう説明する。「靖国神社(当時の東京招魂社)が最初に祀ったのは戊辰戦争の官軍兵士。1853年のペリー来航から国難が始まり、明治維新につながったという認識があり、後にそこまでさかのぼって祀ることになった」

 

 【質問(2)】A級戦犯の本殿への合祀(ごうし)を避けるため、鎮霊社を建立し、以後、合祀された1978年まで、実際に祀られていたという指摘がある。これは事実か。

 

 【回答(2)】学者にはいろいろな推論もあろうが、御本殿の御祭神と鎮霊社の御祭神では全く性格を異にしている。鎮霊社の御祭神は奉慰の対象だが御本殿の御祭神は奉慰顕彰の対象と認識している。

 このA級戦犯の事実上の分祀説を採る日大講師で現代史家の秦郁彦氏は、靖国側が「学者の推論」と直接答えていない点について、「肯定はしていないが、否定もしていない点が重要だ」とみる。

 「神社側は一時的にでもA級戦犯が鎮霊社に祀られていたなら、否定はできない。だが、肯定すれば、A級戦犯は鎮霊社から分祀して本殿に移されたと認めることになる。これは靖国を深刻な矛盾に直面させる。つまりA級戦犯の本殿からの分祀を拒んでいる靖国自身が、分祀した過去を認めることになるからだ」

 

■『顕彰ならば 政治的行為』 

 鎮霊社の霊が「奉慰」の対象で、本殿の霊が「奉慰顕彰」の対象と差のある点についても注目される。

 筑波大学の千本秀樹教授(現代日本史)は「慰霊ならば宗教的な行為といえるが、顕彰というのは国のために死んだ人をたたえるという政治的な行為だ。靖国神社は政治的な施設であり、しかもA級戦犯を顕彰の対象にしていることが明確になった」と指摘する。

 

 【質問(3)】鎮霊社はだれを祀っているのか。「朝敵」や「逆賊」の怨霊(おんりょう)を鎮める役割を担っているのか。 

 【回答(3)】御本殿で祀られていない全世界の戦争犠牲者であり、具体的な名前を挙げての鎮祭ではない。(怨霊論は)学者により説はさまざまあろうが、神社としては(1)で述べた通り。 

 千本氏は、鎮霊社が戊辰戦争で官軍と戦った会津藩白虎(びゃっこ)隊や西南戦争で明治政府と戦った西郷隆盛らの「逆賊」の恨みを鎮めるためにつくられたという見解を採る。 

 これに対し、高森氏は「鎮霊社と怨霊はおよそ結びつかない」と強調する。 

 「怨霊を鎮めるというのは、不遇の死を遂げた人が現世にたたりをもたらすという発想に基づく。そうならば、この霊を祀らないとたたりがくるという具体性が示される必要がある。だが、全世界の戦没者を祀る鎮霊社にはこうした関係を考えることはできない」 

 

 【質問(4)】鎮霊社はなぜ鉄柵で囲われ、一般参拝者が近づけないのか。 

 【回答(4)】過激派の活動が盛んであった昭和40年代に、警備上、御本殿をはじめ、元宮、鎮霊社を守るために鉄柵を設けたのであり、鎮霊社だけを囲っているわけではない。また、現在、拝殿脇より誰でも参拝できる参道を設ける計画を進めており、10月には竣工(しゅんこう)予定だ。 

 

■謎めいた存在10月には公開 

 千本氏は「90年代まで天皇制に関心がある人でも、靖国神社を問題視する人はほとんどいなかった。かつての『靖国神社国家護持法案』に反対したのもキリスト者が中心で、日本の左翼は何もしていない。過激派対策のための鉄柵というのは、後から取って付けた理由としか思えない」といぶかる。 

 秦氏は「靖国は分祀論にからんで、鎮霊社に関心が向くことを好まない」という見方を示す。今後、参道を設けるという点についても「一般の人が近づけず、しかも分祀論と結びつけられると、鎮霊社はいよいよ謎めいた存在にみられてしまう。むしろオープンにした方がよいという判断が働いたのでは」と推測する。 

 

 【質問(5)】 鎮霊社の例祭日(7月13日)には、どのような方式で祭事が行われるのか。 

 【回答(5)】 他の祭事同様、神道の儀式で行われている。 

 キリスト教やイスラム教などの一神教は他の神を認めない。このような信者を鎮霊社に祀り、国家神道方式で祭事をするのは、彼らの宗教心を冒涜(ぼうとく)することにはならないか。 

 靖国自身は「名前を挙げての奉慰ではなく、戦争犠牲者全般の鎮祭であり、日本古来の神道形式で他国の戦争犠牲者全般の魂を鎮めることが、必ずしも冒涜にあたるとは認識していない」と補足して説明する。 

 高森氏も「靖国神社がその一神教を国家権力と結びついて弾圧するのでない限り、独自に祭祀(さいし)対象を設定することを第三者が妨げることはできない。仏教系教団でも類似した例はあるが、それが問題になることはない」と靖国側を擁護する。 

 これに対し、千本氏は「靖国が宗教法人である限り、祭祀対象を自由に決めることができる。しかし靖国がもつ強い政治的性格を考えると、純然たる宗教法人とはいえず、祀られることを拒否できないのは問題がある」と主張する。 

 総じて今回の靖国側の回答は抽象的で、極めて慎重だった。そんな姿勢の背景を千本氏はこう分析する。 

 「靖国神社自身がこれから戦没者を顕彰する政治的な施設として存続していくのか、慰霊・追悼に絞った宗教施設になるのか、自身の中で解決されていない。そのことが、外部に対して意見を明確に打ち出せないことにつながっている」 

 

<デスクメモ>

 “逆賊”たる会津武士の末えいで、戦後右翼の大物だった故田中清玄氏は生前「(靖国参拝とは)長州藩の守り神にすぎないものを全国民に拝ませているようなものなんだ。ましてや皇室とは何の関係もない」と言い切った。靖国問題は「右左」で語れるほど単純ではない。まずは事実の把握が何より大切だ。 

 

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これが歴史の真実 成り立たない「靖国」派の言い分(2014年3月6日配信『しんぶん赤旗』)

 

南京大虐殺は「なかった」 百田発言は世界の非常識

 「1938年に蒋介石が日本が南京大虐殺をしたとやたら宣伝したが、世界の国は無視した。そんなことはなかったからです」。NHK経営委員の百田尚樹氏は東京都知事選の応援演説で言いました。一部マスメディアもこの発言を肯定する論説を掲載しました。本当はどうだったのか。

世界のメディアが当時も残虐性批判

 南京大虐殺(南京事件)は、1937年12月、中国への侵略戦争の中で旧日本軍が当時の中国の首都・南京を攻略・占領し、中国軍兵士だけでなく、捕虜や一般市民を虐殺した事件です。女性の強(ごう)姦(かん)、略奪をはじめ数々の残虐行為が行われました。

 虐殺のとき、南京にいたジャーナリストは、それぞれが惨状を記事にしています。

 ニューヨーク・タイムズのF・T・ダーディン記者は「大規模な略奪、婦人への暴行、民間人の殺害、住民を自宅から放逐、捕虜の大量処刑、青年男子の強制連行などは、南京を恐怖の都市と化した」「犠牲者には老人、婦人、子供なども入っていた」「なかには、野蛮このうえないむごい傷をうけた者もいた」(37年12月17日電)、「塹壕(ざんごう)で難を逃れていた小さな集団が引きずり出され、縁で射殺されるか、刺殺された」(同年12月22日電)と報じています。

 シカゴ・デイリー・ニューズのA・T・スティール記者は「(われわれが)目撃したものは、河岸近くの城壁を背にして三〇〇人の中国人の一群を整然と処刑している光景であった。そこにはすでに膝がうずまるほど死体が積まれていた」「この門(下関門)を通ったとき、五フィート(約一・五メートル―訳者)の厚さの死体の上をやむなく車を走らせた」(37年12月15日電)、「私は、日本軍が無力な住民を殴ったり突き刺したりしているのを見た」(同年12月14日電)と報じます。

 イギリスの新聞マンチェスター・ガーディアンの中国特派員H・J・ティンパーリーは報道した内容をもとに『戦争とはなにか―中国における日本軍の暴虐』をまとめ、38年にロンドンとニューヨークで発行しています。

 事件当初から、「世界は無視をした」どころか、日本軍の残虐性を批判していました。

 米国などの南京駐在外交官も本国に事件の詳細を報告しており、それが東京裁判で南京事件を裁いた際の裏づけとされました。

 (『南京事件資料集(1)アメリカ関係資料編』青木書店)

 日本では報道統制がしかれたため、国民には事件は伝わりませんでした。しかし、一部高級官僚や軍部は南京の惨劇を知っていました。

 南京事件当時、外務省の東亜局長だった石射猪太郎は日記に「上海から来信、南京に於ける我軍の暴状を詳報し来る、掠奪(りゃくだつ)、強姦目もあてられぬ惨状とある。嗚呼(ああ)之れが皇軍か」(38年1月6日)(伊藤隆・劉傑編『石射猪太郎日記』中央公論社)と書いています。

旧陸軍将校親睦の機関誌も「詫びる」

 現場にいた日本の兵士も証言や日記を残しています。なかでも旧陸軍将校の親睦団体・偕行社(かいこうしゃ)の機関誌『偕行』に1984年4月〜85年3月に掲載された「証言による『南京戦史』」は注目されます。

 「大虐殺の虚像」を明らかにする狙いで偕行社が募集したものでしたが、寄せられた証言は虐殺の実態を生々しく伝えます。

 松川晴策元上等兵は「(中国の)便衣兵が一列にならばされ、(日本の)兵士が次から次へと銃剣で突き刺したり、あるいは銃で撃っているのを見ました。その数は百や二百ではなかった」「土のうと死体が一緒くたになって、約一メートルぐらいの高さに積み重ねられ、その上を車が通るという場面を見ました」と証言しています。

 佐々木元勝元上海派遣軍司令部郵便長は日記に「道路近くでは石油をかけられたのであろう。(死体が)黒焦げになり燻(くすぶ)っている。波打際には血を流し、屍体(したい)が累々と横たわっている」(37年12月17日)と書き残しています。

 最終回の85年3月号で、編集部の加登川幸太郎氏は「(死者の)膨大な数字を前にしては暗然たらざるを得ない…この大量の不法処理には弁解の言葉はない」と虐殺の事実を認め、「旧日本軍の縁につながる者として、中国人民に深く詫(わ)びるしかない」と謝罪しています。

日中政府の歴史共同研究でも

 「日本の近代史の研究者の中で、南京で相当数の不法な殺人・暴行があったということを認めない人はほとんどいない」(『外交フォーラム』2010年4月号)。2006年に第1次安倍政権が着手した「日中歴史共同研究」で安倍首相の指名で日本側座長となった北岡伸一国際大学学長は、共同研究の成果と課題をまとめた論文で述べています。

 北岡氏は日本の侵略を認めたうえで「不快な事実を直視する知的勇気こそが、日本の誇りなのであって、過去の非行を認めないのは、恥ずかしいこと」とも言っています。

 

日米首脳部が激しい応酬、関係亀裂の真相(2014年2月25日配信『TBS系(JNN)』

 

 TPP協議や安倍総理の靖国神社参拝など、数々の問題をめぐって日米の首脳部が激しい言葉の応酬を繰り広げています。日米の亀裂はいかに生じ、何故ここまで広がってしまったのか、その真相を取材しました。

 シリアの市民が化学兵器に苦しむ衝撃の映像が明らかになって10日後の、去年8月31日。

 「慎重に検討した結果、アメリカはアサド政権を標的にした軍事攻撃を行う決意をしました」(オバマ大統領〔去年8月31日〕)

 オバマ大統領は、シリアへの軍事行動を行うと発表。日本にも外交ルートを通じて「空爆したら即座に支持表明して欲しい」と強い要請が来ていました。しかし、安倍総理の姿勢は慎重でした。

 「この状態では支持できないね」

 安倍総理は官房副長官時代、時の小泉総理がイラク開戦にいち早く支持を表明したものの、その後大量破壊兵器が見つからなかったことから、「歴史的な誤り」と批判された経緯をつぶさに見ていました。化学兵器の一部が反アサド政権側に流れているとの情報もあり、軍事行動を支持するには、「アサド政権が使用した明確な証拠が必要だ」と考えていました。そして大統領の会見翌日、ごく限られた関係者に対し、こう伝えたのです。

 「この状態では、空爆は支持できないね」(安倍首相)

 その1日半後の9月3日、オバマ大統領から安倍総理に電話がかかってきました。

 「アサド側が化学兵器を使った明確な証拠がある」(オバマ大統領)

 「化学兵器を使用した主体については、いろいろな情報があると承知している」(安倍首相)

 しかし、オバマ大統領はあきらめませんでした。2日後、アメリカ側の要請で開かれた安倍総理との直接会談で、改めて支持を求めます。会談は非常に緊迫したものになったといいます。

 「アサド側が化学兵器を使用した明確な証拠を持っている。空爆を支持してほしい」(オバマ大統領)

 「明確な証拠があると大統領自ら言っているのだから、同盟国の日本は支持表明してくれるものと信じている」(ライス大統領補佐官)

 ここで、麻生副総理が割って入りました。

 「イラク戦争の例がある。明確な証拠開示が支持の条件だ」(麻生副総理)

 その後、アメリカ側は日本に対する情報開示に踏み切りました。安倍総理はその情報をIOC総会出席のためアルゼンチンに向かう機内で聞き、「アメリカも頑張ったね」と述べました。そして「アサド政権側が化学兵器を使用した」と断定した共同声明への署名をようやく許可しました。

 「こちらが困っているのに、証拠を出さないと安倍は信じてくれなかった」

 ホワイトハウスと官邸の関係が、「亀裂」へと悪化したのはこの時期だと関係者は見ています。

 去年11月21日、衛藤総理補佐官が訪米しました。安倍総理の靖国神社参拝の方針を知っていた数少ない安倍側近の一人です。アメリカ側は「靖国参拝を思いとどまらせる絶好の機会」と判断、多くの政府関係者や専門家が会談に応じました。

 一連の会談で衛藤氏は、「安倍総理が靖国参拝したらアメリカはどう反応するか」と尋ねました。アメリカ側は、これを聞いて「安倍総理には参拝しない選択肢がある」と判断したといいます。

 「私も(日本政府側に)靖国参拝は控えた方がいいと述べたことは隠すつもりはありません」(キャンベル前国務次官補)

 アメリカ側は異口同音に「靖国参拝は中国を利するだけだ」と衛藤氏を諭しました。参拝方針を伝えに行ったはずの衛藤氏の訪米が、アメリカ側には参拝自粛への手ごたえとなる――。失望コメントにつながる誤解の始まりでした。

 12月3日、日本を訪問したバイデン氏は、安倍総理と1時間半あまりに渡って会談。今度はTPP問題で激しい議論になりました。その様子は「首脳級会談としては前代未聞の激しさだった」と言われています。そしてその9日後。韓国訪問を終えたバイデン氏から安倍総理宛てに電話がかかってきました。

 「朴大統領に『安倍首相は靖国に行かないと思う』と伝えた」(バイデン氏)

 これに驚いた安倍総理は・・・

 「靖国参拝は選挙公約だ。いずれ行くつもりだ」(安倍首相)

 「首相の行動は全て首相が判断するものだ」(バイデン氏)

 バイデン氏は、朴大統領を引き合いに出して、靖国に行かないよう遠回しに安倍総理に忠告したつもりでした。一方、安倍総理は、「行く」という事を初めてアメリカ側に伝えたつもりでした。

 外務省幹部は、安倍総理の「いずれ行く」という発言を、バイデン氏が「すぐには行かない」と受け止めた可能性があると見ています。そして、その2週間後、バイデン氏は安倍総理批判の急先鋒となりました。

 参拝直後、ホワイトハウスが用意したのは、「deeply disappointed(深く失望した)」というコメント。バイデン氏の強い意向が働いたといわれています。アメリカ政府内には「日本を批判すれば中国を利するだけ」との慎重論も根強くありますが、ホワイトハウスの意向は固く、国務省は「deeply」の一文字を抜く事しかできませんでした。

 

 「何でもアメリカの言うなり」では、健全な同盟関係とは言えないと考える安倍総理。「失望コメント」を聞いて、「同盟国を大切にしないとは困ったものです」との感想を周辺に漏らしました。ホワイトハウスと官邸の、誤解と失望の連鎖が、いまや感情的対立にまで発展しています。

 

靖国参拝 安倍政権 世界から孤立(2013年12月30日配信『しんぶん赤旗』)

 

「平和主義から日本を遠ざけ、アジアの新たな問題国に」

 安倍晋三首相が26日に行った靖国神社参拝については、かつて日本が侵略・植民地化した国だけではなく、欧米諸国、国際機関、各国メディアからも批判が噴出しています。「戦後の平和主義から日本を遠ざけた」「日本と国際社会との関係の政治的基礎にかかわる重大問題」といった厳しい主張が出ているのが特徴です。「自らの国際的立場を弱化させる」との指摘もあり、安倍政権の孤立ぶりが鮮明になっています。

米・ロ・欧州・国連

「失望・遺憾」いっせいに

 安倍首相の参拝から数時間後に、在日米国大使館は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米国政府は失望している」との声明を発表しました。

 歴代首相の靖国参拝で目立った対応がなかった米国政府としては、異例ともいえる表明。米本国の国務省報道官もその後、同趣旨の談話を出しました。

 ロシア外務省のルカシェビッチ報道局長は26日、「第2次世界大戦の結果に関する世界一般の理解と異なる流れを日本社会に押し付けようとする一部勢力の試みの強まりを背景とした今回の行動は、遺憾の意を呼び起こさざるをえない」と批判しました。

 国連の潘基文(パンギムン)事務総長の報道官は27日、声明を発表。日本の過去の侵略戦争を前提としながら、「潘氏は、この地域の国々(日中韓)が共有する歴史について共通の認識と理解に至るよう、一貫して主張してきた」とし、「他者の感情、とりわけ犠牲者の記憶に敏感である必要性」を潘氏が強調していることをあげました。

 EU(欧州連合)のアシュトン外交安全保障上級代表(外相)の報道官は26日に発表した声明で、「地域の緊張緩和や、日本の近隣諸国、とりわけ中国、韓国との関係改善に貢献しない」と指摘。「慎重な外交による紛争の処理や、緊張を高める行為の自粛」を要望しました。

中国・韓国

「正義に挑戦・時代錯誤」

 中国の楊潔箎(ようけつち)国務委員(副首相級、外交担当)は28日、安倍首相の靖国神社参拝を批判する談話を発表しました。

 このなかで、「日本の指導者が、国連憲章の趣旨と原則を守り、平和発展の道を進むかどうかという根本的な方向性の問題であり、日本と国際社会との関係の政治的基礎にかかわる重大な原則的問題だ」と指摘しました。

 中国政府は首相の参拝直後、26日に王毅外相が「国際正義への公然たる挑戦であり、人類の良知をみだりに踏みにじるもの」と批判していました。

 韓国政府は26日の政府声明で、首相に靖国参拝に対し、「誤った歴史認識をそのまま表したものであり、韓日関係はもちろん、北東アジアの安定と協力を根本から損なう時代錯誤の行為だ」と非難。「植民地支配と侵略戦争を美化し、戦犯を合祀(ごうし)している靖国神社に参拝したことに対して、わが政府は慨嘆と憤怒を禁じ得ない」と強い調子で表明しました。

 さらに日本が国際平和に寄与しようとするなら、「歴史を直視し、日本軍国主義の侵略と植民地支配の苦痛を経験した近隣国とその国民に対して、徹底した反省と謝罪を通じて信頼を構築していくべきだ」と求めました。

「大戦の犯罪清算されず」改憲に警戒感

海外メディア

 仏紙ルモンド26日付(電子版)は、靖国神社について「近代日本のさまざまなたたかいで亡くなった240万人の日本人をまつっているが、とりわけ第2次世界大戦後、戦犯として認定された日本の指導者たちもまつっている」と記述。安倍首相が「平和憲法の修正を願っている」として、警戒感を示しています。

 ドイツの週刊紙ツァイト26日付は、参拝に対する中国、韓国の激しい抗議の理由は、「この神社の祭殿には、1853年以降の日本のすべての戦争の戦没者だけでなく、(東京裁判によって)断罪された戦争犯罪者がまつられているからだ」と指摘。さらに日本の戦後史を次のように特徴付けています。

 「日本の戦後史は、重大なことをささいなことのようにみせることを特徴としている。ドイツでは第2次世界大戦の犯罪は清算されてきたが、日本では今日に至るまで多くが成されないままになっている」

 インドのヒンドゥスタン・タイムズ紙27日付は、「靖国・戦争神社」と題する解説記事を掲載。同神社が「多くの人にとって受け入れがたい歴史解釈を広めようとしている」「併設されている博物館は日本を第2次大戦の被害者として描いており、アジア各国を侵略した日本軍の残虐行為について十分な言及がない」と紹介しています。

 米紙ニューヨーク・タイムズ27日付は、安倍首相の靖国参拝を論評した記事で、「日本は安定した同盟国になるどころか、中国との論争が原因で、米国高官にとってアジアの新たな問題国になってしまった」と指摘。さらに秘密保護法の強行などをあげ、「安倍首相は、戦後の平和主義から日本を遠ざけるという大きな政治リスクを自ら進んで冒す意思を示してきた」と警戒感を表しています。

 ワシントン・ポスト紙同日付も、「自らの国際的立場と日本の安全保障を弱化させる恐れが強い挑発的行為」と厳しい調子で批判しています。

 

安倍政権崖っぷち 米国「靖国参拝せぬ保証を」の最後通牒(2014年1月25日配信『日刊ゲンダイ』)

 

「安倍首相が再び靖国参拝をしない保証を日本政府に求めている」

 複数の米政府当局者の話として、米紙ウォールストリート・ジャーナルが報じたスクープが、安倍政権に衝撃を与えている。要求は非公式なものとされるが、無視はできない。安倍首相は崖っぷちに追い込まれている。

 ハーフ米国務省副報道官は、報道について「真実かどうか分からない」と話したが、否定はしなかった。米側の要求は本当だろうし、それをメディアにリークしたところに、オバマ政権の本気の姿勢がうかがえる。

 元外交官で評論家の天木直人氏が言う。

「日本と米国は同盟国。価値観を同じくしているはずです。それなのに、安倍首相の靖国参拝に対して、<失望している>という談話を出した。“安倍首相とは価値観が違う”と強調したわけです。これだけでも異例の事態ですが、今回の要求はさらに上を行っている。前代未聞でしょう。こんな形で日本政府に要求することもなかったし、その事実が明らかになることもありませんでした。“二度と参拝するな”という強烈なメッセージをメディアにリークすることで、安倍首相への怒りを世界に示したのです。日本との同盟関係を崩さずにやれるギリギリの手段。もう次はありません。最後の忠告と考えるべきです」

 もちろん米国は、日本との同盟関係を見直すつもりはない。経済は密接につながっているし、在日米軍基地も彼らには有益だ。ただ、安倍が中国や韓国と無用な摩擦を起こし続けるのなら許さないというスタンス。東アジアがガタガタするのは好ましくない。そのために安倍の行動を縛ろうというのだ。

「安倍首相はダボス会議で、現在の日中関係を第1次大戦前の英独に例えた。あのバカな発言がダメ押しになったのかもしれません。歴史認識に触れないとしていた米国が、靖国問題で踏み込んだのです。日米関係は新たな局面を迎えています。はたして安倍首相はどうするのか。これで参拝をやめれば、一部のコアな支持者に突き上げられるでしょう。政権内から危惧する声があっても強行したのに米国から言われたらやめるのか、となります。一方で、再び参拝するようなら、米国は本気で安倍降ろしを始めるでしょう。安倍首相は完全に追い込まれましたね」(天木直人氏)

 米国はさらに、村山談話や河野談話のようなお詫びや、従軍慰安婦問題への対応も求めているという。

 ウルトラ右翼の安倍にとっては、かなりの難問。再び参拝する前に、にっちもさっちもいかなくなって、再び政権を放り出すことになりそうだ。

 

批判噴出 安倍首相に靖国参拝けしかけた“もう一人の側近”(2014年2月20日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 安倍首相の靖国参拝を「失望した」と非難したアメリカに対して「失望したのはこっちだ」と暴論を吐き、すぐに撤回した衛藤晟一・首相補佐官。

 そもそも、その安倍首相に靖国参拝をけしかけたのが、もうひとりの側近である萩生田光一・総裁特別補佐。党内から「あいつが悪い」と批判が噴出している。

「安倍さんは、本当は昨年末に靖国参拝を強行しなくてもよかった。でも、萩生田が昨年秋から『総理は年内に必ず参拝する』と公言したために、安倍さんは行かざるを得なくなってしまった。さすがに、菅官房長官が『首相をけしかけるな』と説教したほどです。しかも萩生田は〈失望〉を表明したアメリカに対して、衛藤晟一と同じように『共和党政権ならこんな揚げ足をとらなかった。オバマ政権だから言っている』とケンカを売っている。ホワイトハウスはカンカンです」(政界関係者)

 自民党内からの批判が決定的になったのは、都知事選の時のエラソーな態度だという。自民党関係者がこう言う。

 「当初、萩生田議員は『総理の意向は女性候補だ』などと、舛添要一を擁立することに異論を唱えていたといいます。ところが、舛添擁立が決まると『都知事選に協力しない自民党議員にはケジメをつけてもらう』と、小泉進次郎も含めて処分するとエラソーな態度を取っている。首相の威を借るのもいい加減にしろ、と不満が渦巻いてます」

 安倍首相の信頼は厚いらしいが、全国的には無名な萩生田議員とは、どんな男なのか。

「27歳で八王子市議に当選し、都議を経て国会議員になった。現在当選3回です。都議選に出馬した時から、安倍さんが応援に入っています。身長180センチ、体重100キロという巨漢で、高校は早実に入学し、野球部に入部したが、3カ月で辞めています。しかも、なぜか早大に内部進学せず、明大に入っている。衛藤晟一と並ぶ党内の極右政治家です」(自民党事情通)

 安倍首相の周囲には、まともな議員はいないのか。

 

首相補佐官が米国批判の波紋 オバマ大統領「来日中止」危機(2014年2月20日配信『日刊ゲンダイ』)

 

 親分が親分なら子分も子分だ。昨年12月の安倍首相の靖国参拝に「失望」を表明した米国に対し、衛藤晟一首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」上で「むしろわれわれの方が失望だ」と批判した問題。19日午後になって衛藤は慌てて発言を撤回したものの、米国はカンカンだろう。オバマ大統領の4月来日の雲行きも怪しくなってきた。

 問題の発言が投稿されたのは16日。この中で衛藤は「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか。米国はちゃんと中国にモノが言えないようになりつつある。声明は中国に対する言い訳に過ぎない」と持論を展開。さらに昨年11月に訪米した際、ラッセル米国務次官補らに靖国参拝への理解を求めた上、12月初めには在日米大使館を訪れて「(参拝に)賛意を表明してほしいが、ムリなら反対しないでほしい」と要請したという。

 これにはア然ボー然だ。A級戦犯が合祀されている靖国参拝に「賛成しろ」と米国に求めること自体、トチ狂っているし、首相補佐官という内閣の要職にある政治家が、外交のやりとりや内幕をバクロするなんて、あってはならないこと。金輪際、衛藤と大事な話をする国はないだろう。

元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。

「首相補佐官は内閣の一員であり、評論家などとは違います。発言が『個人的な見解』で済まされる立場ではないのです。しかも、衛藤氏は日本側の窓口として米国と意思疎通を図ってきた人物。つまり、米国は衛藤氏を安倍首相の“代理”とみていたわけです。その衛藤氏が大っぴらに米国批判したわけで、非常に深刻な問題です」

 衛藤は、安倍が会長を務める超党派議連「創生日本」の幹事長だ。安倍の側近で「お友達」のひとり。この議連は「保守の結集」や「戦後レジームからの脱却」を掲げる右翼集団である。17日付のワシントン・ポストは「日本の挑発的な動き」と題した論説で、靖国参拝した安倍首相が強硬なナショナリズムに転じているとして、アジアの安全保障問題を深刻化させていると批判していた。

 また、米紙ウォールストリート・ジャーナルは19日付の電子版で、安倍の経済ブレーンの本田悦朗内閣官房参与をインタビューした記事を掲載。本田が靖国参拝した安倍を「勇気を高く評価する」と称賛したとして、本田を「戦時中の話を熱く語るナショナリスト」と紹介している。

衛藤、本田の発言は、米国から見れば日本だけが正しいと叫ぶ「右翼内閣」の一員が“本性”をムキ出しにしたと映るのは確実だ。

 衛藤は当初、「(発言が)問題になることがおかしい」と突っ張っていたが、午後になると一転、発言を撤回した。菅官房長官に発言取り消しを指示されたためだが、時すでに遅しだ。岸田外相が拝み倒してようやく実現したオバマ大統領のなんちゃって来日もパーになる恐れは十分ある。

「オバマ大統領の来日取りやめという事態になれば、安倍首相は終わりです。同盟国と話ができない首相は退陣するしかありません。衛藤氏の発言の影響は大きいのです」(孫崎享氏=前出)

 衛藤を更迭したぐらいでは、問題は解決しそうにない。

 

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安倍政権と日米関係 歴史の原点を忘れるな(2014年3月日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 日米関係は、危険水域に入りつつあるのではないか。安倍政権周辺から同盟の原点を揺るがす言動が続く現状を、深く憂慮する。

 米国の反対を振り切った安倍晋三首相の靖国神社参拝。それに対する米国の「失望」表明と、首相補佐官の「こちらこそ失望だ」という反発の応酬。NHK会長や経営委員の歴史をめぐる発言。一連の出来事が、日米同盟の基盤にかつてない深刻な亀裂を生じさせている。

 今起きているのは、過去の通商摩擦や防衛摩擦とは質的に異なる、歴史摩擦である。放置すれば同盟の根幹が崩れる。政治指導者は立て直しに真剣に努力すべきだ。

 ◇永遠の同盟はない

 日本は日米安保条約によって米国主導の戦後国際秩序の主要な担い手となり、平和を享受してきた。半世紀以上も続く成功体験が、この同盟関係を、水や空気のように永続するものと錯覚させている。

 だが、英国の元首相パーマストンの「永遠の同盟というものはない。あるのは永遠の国益だ」との言葉にあるように、同盟は利害の一致によって生まれ、共通の価値観が失われれば、消えてなくなる。

 日米同盟の土台は、1952年発効のサンフランシスコ講和条約だ。日本はA級戦犯の戦争責任を東京裁判受諾で受け入れ、戦前の日本と一線を画す国に生まれ変わることで、世界に迎え入れられた。

 日米同盟は単なる軍事同盟ではなく、人権意識や文化の成熟など先進民主国家同士の共通の価値観に基づく同盟として、今日まで日本外交の資産となってきたのだ。

 太平洋戦争をめぐる歴史認識は、そうした戦後国際秩序の前提であって、日米同盟の基盤である。それが揺らげば同盟も揺らぐ。

 日本側が「(オバマ政権は民主党だから)共和党とならうまくいくはずだ」と考えているなら、それは誤った見方だ。歴史認識や人権といったテーマは、どの政党の政権かによらず米国は厳しい、ということを忘れてはならないだろう。

 見逃せないのは、政権周辺の無責任な言動を首相がはっきり否定しない限り、それは安倍政権と自民党の考えだと、国際社会が受け止めることだ。日本は戦後国際秩序への挑戦者だと宣伝工作する中国につけいるスキを与えないためにも、早めに手を打つべきではないか。

 一方、日米同盟に不協和音が出ているのは、米国側にも責任があることを強調しておきたい。

 日本でナショナリズムが高まる背景には、尖閣諸島周辺で相次ぐ中国の挑発的な行為がある。日本が領土拡張主義なのではない。

 にもかかわらず、オバマ政権は、中国の脅威にさらされる日本への十分な理解があるようには見えない。アジア最大の同盟国に対するとは思えない冷たい対応が、日本人の不満と不安をあおっている。

 米国主導の戦後国際秩序は、日本にとって、二律背反の複雑さを持つものでもある。いつまでも戦争責任を追及され、「悪者扱い」されることに、抵抗を覚える日本人も少なくない。原爆投下や東京大空襲も不正な殺りくだと考える人は、いて当然だろう。その意味では、日米両国の真の戦後和解もまた、完全に達成されているとは言えない。

 ◇相互理解の努力を

 だが、そうしたむき出しの感情が対立する事態になれば、同盟全体を損なう。日米同盟の原点に立ち返った大局的な判断と行動を、双方の政治指導者には求めたい。

 政治学者の故永井陽之助氏は、あの戦争を「太平洋を挟んで相対峙(たいじ)した2大海軍国が、心から手を握るために、支払わねばならなかった巨大な代償」と書き、日米友好は「なんら相互理解の努力なしに達成しうるものではない。日米間に友好関係の自然状態がつねにあるなどと錯覚してはならない」(「平和の代償」)と警告した。この言葉をかみしめるべきではないだろうか。

 そのため、安倍政権は以下のことに取り組むべきである。

 侵略と植民地支配を明確に認め、過去の反省に基づく理念で世界と協調する道を歩む決意を示す。侵略という言葉を使った村山談話、従軍慰安婦の河野談話を見直す考えのないことを明言し、中国、韓国との歴史対立解消の道筋を探る。

 靖国神社には再び参拝せず、A級戦犯の戦争責任を受け入れ、日本人自身による戦争の総括と慰霊の観点から、戦没者追悼の新たなあり方を国民的な議論にかける。

 こうしたことが、歴史認識で国際社会の信任を取り戻し、日米同盟の基盤を強め、近隣外交を立て直す現実的な方策だと考える。

 中国と対立し、米国とも対立することは、両国との戦争で破滅へと進んだ戦前の教訓に学ばないことになる。米中の双方と衝突すれば、日本の外交は立ちゆかない。

 安倍政権は、集団的自衛権を行使できるようにしないと日米同盟は危機に陥る、として憲法解釈変更を急ぐ構えだ。だが、同盟の原点である歴史認識の問題で米国の不信の解消に動こうとしない方が、日米関係をより危うくするだろう。

 

冷や汗(2014年2月28日配信『下野新聞』−「雷鳴抄」)

 

 政治家や報道機関トップらの発言撤回が相次ぐ。まず首相補佐官の衛藤晟一氏だ。安倍晋三首相の靖国神社の参拝に失望を表明した米国に対し、「むしろわれわれが失望だ」と批判、その国政報告を動画サイトに投稿した

▼衛藤氏はその後「発言が政府見解であるとの誤解を与える」と撤回した。居酒屋での仲間との議論ではない。インターネットに堂々と載せたのである。いくら個人と言い張っても、多くの人は首相補佐官の発言と受け取る

▼次はNHK会長の籾井勝人氏。就任の記者会見で、従軍慰安婦について発言をし、その後「私的なコメントだ。私見は通らないと言われたので全部取り消した」などと釈明した

▼公人として臨んだ会見で個人的と断ったとしても、私的な意見とは受け取られまい。会見の途中で発言を取り消すことも不可能だろう。報道機関のトップとは思えない

▼こういった人向けの格言がある。「綸言汗のごとし」だ。君主の言葉は一度発せられたら、汗と同じで取り消しがたい。そう簡単に直せそうにないお歴々だが、人の上に立っているのだから肝に銘じてほしいものだ

▼本人が面目を失うだけならまだいい。失言のたび、この国への風当たりは強くなる。安倍氏の好きな表現を借りれば、確実に国益を損なっている。

 

[揺らぐ日米関係]首相の歴史認識がとげ(2014年2月24日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍政権が外交戦略の中心に据える日米基軸が揺らいでいる。安倍晋三首相の靖国神社参拝をめぐり、首相側近らが国内外に波紋を広げる「問題発言」を繰り返しているからだ。もはや「失言」というレベルではない。安倍政権の持つ歴史認識の「危うさ」が露呈していると言うほかない。

 オバマ政権は、首相が米政府の自制要請にもかかわらず靖国参拝を強行したことについて「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を出した。

 これに対し、首相の盟友とされる衛藤晟一首相補佐官が今月、動画サイトに投稿した国政報告で「むしろわれわれが失望だ」と米政府を批判した。衛藤氏はさらに「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか。声明は中国に対する言い訳にすぎない」などと対応を疑問視した。

 衛藤氏はその後、菅義偉官房長官の指示で発言を撤回した。菅氏は「首相の見解とは違う」と強調したが、内閣の一員である首相補佐官である。発言は「個人的見解」では済まされない。

 衛藤氏は、首相の参拝前に在日米国大使館に行き「できれば賛意を表明してもらいたいが、それが無理なら反対はしないでもらいたい」と伝えたという。

 首相の靖国参拝が、中国や韓国の反発を招くことは容易に想定できた。東アジアの安定を損なう事態を懸念する米国の出方を予想できなかったのなら、衛藤氏の首相補佐官の資質が疑われる。政府は進退は問わない意向だが、首相の明確な説明責任が求められよう。

    ■    ■

 これだけではない。自民党の荻生田光一総裁特別補佐は1月の党会合で、米政府の「失望」声明に対し「共和党政権の時代にこんな揚げ足を取ったことはない。民主党政権だから、オバマ大統領だから言っている」と批判した。

 首相の経済ブレーンを務める本田悦朗内閣官房参与が首相の靖国参拝について「誰かがやらなければならなかった。勇気を称賛する」と語ったとする記事を米紙ウォールストリート・ジャーナルが掲載した。同紙はさらに「本田氏はアベノミクスの背景にナショナリスト的な目標があることを隠そうとしない」とも指摘している。

 NHK経営委員の百田尚樹氏が、A級戦犯を裁いた東京裁判に疑問を呈し、南京大虐殺を否定した発言も米の不快感を招いている。首相につながる人脈から、このような発言が相次いでいるのはなぜか。首相自身の歴史認識が問われているのである。

    ■    ■

 オバマ大統領は、4月の訪日を機にぎくしゃくする日米関係を再構築したい考えだ。しかし、歴史認識をめぐる首相やその周辺の発言が、日米双方の溝を深めている。

 米紙ワシントン・ポストは首相の靖国参拝に伴い、日本がアジアで危機を引き起こす可能性に警鐘を鳴らす記事を掲載した。安倍政権が「1強」におごるような言動を繰り返せば、国際社会からの孤立を招きかねない。

 

日米関係/同盟を揺るがす不協和音(2014年2月23日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 米国は日本にとって、安全保障の後ろ盾となる唯一の同盟国である。経済面でも結び付きは強く、最重要の2国間関係と言っていい。

 安倍晋三首相も日米の「信頼」や「絆」を再三、口にしてきた。

 その米国との関係が最近、ぎくしゃくしている。4月に予定されるオバマ大統領の来日を前に、両国間の不協和音が耳につき始めた。

 安倍首相の靖国神社参拝が原因をつくったことは否定できない。

 自制を求める米側の要請を振り切って行われた靖国参拝に、オバマ政権は「失望している」との声明を出した。強い不快感の表れだ。

 反発した政府、自民党内から、米国への厳しい言葉が聞かれる。同盟国の理解や支持が得られない現状へのいら立ちがあるのだろう。

 衛藤晟一首相補佐官は、米国を批判する発言をネットの動画サイトに投稿した。米国が「失望」を表明したのに対し、「むしろわれわれの方が失望なんだ」などと述べた。

 指摘を受けた菅義偉官房長官は「安倍首相の見解とは違う」と火消しに回り、衛藤氏も菅氏の指示で問題の動画を削除した。

 衛藤氏は参院議員である自身の国政報告として投稿したというが、「個人的な見解」であっても、首相補佐官の発言の影響は大きい。

 ただでさえ、中国や韓国との関係が冷え込み、首脳会談すら開けない状態が続く。頼みとする米国との足並みの乱れは、近隣外交の立て直しをますます困難にする。

 そうした自覚はなかったのか。

 萩生田光一・自民党総裁特別補佐も先月、「共和党の時代にこんな揚げ足を取ったことはない」と民主党のオバマ政権への不満を述べた。

 ほかにも、本田悦朗内閣官房参与が首相の靖国参拝を称賛したとの記事が米紙に掲載された。本人は報道内容を否定するが、首相周辺の言動が日米両国で物議を醸している。

 このような事態が長引けば、中国、韓国の対日批判を勢いづけることになりかねない。米国との溝は深まり、肝心の国益も危うくなる。

 保守色に強くこだわる首相の姿勢が側近らの行き過ぎを招いているとすれば、自民「1強」のおごりや気の緩みとしかいいようがない。

 何が同盟の不協和音を生んでいるのか、日米首脳会談の前に、安倍政権は冷静に考える必要がある。

 

首相側近発言 自省なき批判通らない(2014年2月21日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

安倍晋三首相の周辺からまた問題発言である。

 衛藤晟一(せいいち)首相補佐官が、首相の靖国神社参拝に失望を表明した米国を「むしろわれわれが『失望』だ」と自らの動画サイトで批判した。

 首相の靖国参拝は近隣国との関係を悪化させ、国益を損なうものだった。その反省もないまま、他国の見解を批判するとは見当違いだ。

 衛藤氏は「米国は同盟関係にある日本をなぜ大事にしないのか」とも述べた。「米国は日本が何をやっても擁護するのが当然だ」と言わんばかりのおごりと甘えがある。

 首相を含め、政権幹部らは自らの立場をわきまえ、国内外に与える影響をよく考えて発言すべきだ。

 問題が発覚した後、衛藤氏は「何が問題なのか」と答えていた。菅義偉官房長官が取り消しを求めるとすぐに撤回したが、「個人としてがっかりした。皮肉の一つくらい言うのは当たり前」と開き直った。

 感情が先走り、問題を認識できていない。あまりに軽率な言動だ。

 しかも衛藤氏は、首相の靖国参拝前に米政府の反応を探るために訪米している。結果的に「失望した」と批判され、米側の出方を読み違えた。補佐官としての役目も果たしたことにならない。失格である。

 外交をもっと冷静に進めてもらいたい。日米同盟の有無にかかわらず、米国は自らの国益に沿って行動するものだ。日本の動きが米国の国益に反するなら自重を促すだろう。

 首相の靖国参拝はアジアの国際関係を不安定化させ、米国にとって不利益であるから支持できない。それが「失望」の真意だと理解できなければ、安倍外交はあまりに拙い。

 それにしてもなぜ、首相の周りから不用意な発言が続くのか。

 NHKの籾井(もみい)勝人会長や百田(ひゃくた)尚樹氏ら経営委員の発言はいまだに尾を引いている。本田悦朗内閣官房参与が首相の靖国参拝を擁護した発言が米紙に掲載され、批判を受けた。

 原因は首相の認識の甘さだ。

 首相は靖国参拝を「私人の立場」と説明している。トップが公私を都合良く使い分ける態度をとれば、周囲への影響も避けられない。衛藤氏や百田氏が「個人的考え」だと言い逃れを図る原因は首相にもある。

 重要な立場にあれば、私的言動にも責任が伴うことを自覚すべきだ。

 首相は第1次政権で、自分に親しい「お友達」を周囲に集め、批判を浴びた。その教訓が生かされていない。首相周辺の軽率な発言は政権の緊張感のなさの表れとも言える。

 まずは襟を正すべきだ。そして、首相に盲従するのではなく、むしろ行き過ぎを止めることが側近の本来の役目だと認識してほしい。

 

失望の失望(2014年2月21日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

振り返ってみると、数学に苦しむようになったきっかけは、負の数との遭遇だった。マイナスにマイナスを足すと「マイナス」なのになぜ、マイナスにマイナスを掛けると「プラス」なのか

▼その訳を習ったような気もするが、心にすとんと落ちないまま、「そういうもの」と自らに言い聞かせてやり過ごした。文豪スタンダールは、「負の数とは借金」との説明を聞いて、「そうなると、借金掛ける借金は財産になってしまう」と悩んだそうだ(小島寛之「数学でつまずくのはなぜか」講談社現代新書)

▼この本では、故赤塚不二夫さんのマンガ「天才バカボン」のパパのせりふ「反対の反対は賛成なのだ」が、負数同士の掛け算の理解につながると教えてくれるのだが…

▼さてそれでは「失望の失望」は―。どう考えても「希望」という答えを導き出せそうにない。安倍晋三首相の靖国神社参拝に「失望」を表明した米政府に対し、今度は首相補佐官(自民党参院議員)が、「むしろわれわれが失望だ」と言い返した

▼動画サイトで“堂々と”世界に向けて発信したが、火消しに走る官房長官に注意されて、動画を削除し、発言も撤回したそうだ。NHKの会長といい、一部経営委員といい―。首相は“失点者”で周囲を固めるのが趣味なのか

▼「失点に次ぐ失点は得点になる」という都合のいい算術があるなら教えてほしい。

 

「むしろわれわれが失望だ」(2014年2月21日配信『神奈川皮側新聞』−「照明灯」)

 

 安倍晋三首相の参拝で再燃した靖国神社問題の余波が広がる。米国が表明した「失望」に衛藤晟一首相補佐官が「むしろわれわれが失望だ」とやり返し、東京都美術館の彫刻作家展では、参拝を批判した作品の撤去が館から求められた

▼参拝に踏み切った首相の談話を思う。「御英霊に哀悼の誠を捧(ささ)げ」「不戦の誓いを新たに」。これのどこが悪いのか−。批判返しも、展示拒否も、その言外の叫びに共振した空気の産物だろう

▼参拝は戦犯の崇拝だとの非難に首相は米アーリントン国立墓地を例に、反論する。南北戦争で戦死した南軍将兵もまつられているが、墓参が南軍の守ろうとした奴隷制度の肯定にはならないだろう、と。だが、アーリントンは奴隷制をたたえてはいない

▼靖国はどうか。先の大戦を聖戦とし、国のために死ぬことを顕彰してきた。問題の核心はA級戦犯の合祀(ごうし)ではなく、その歴史観にある。足を運んだ政治指導者の言葉は追悼にとどまらぬ色合いを帯びることになる

▼「悼む」と「たたえる」。重なり合い、しかし、両者に横たわる大河の幅のごとき差。特攻隊の悲運を描き、ヒットが続く映画「永遠の0」にも奈落は口をのぞかせている。原作者の百田尚樹氏は首相の参拝をただちに称賛した一人である。

 

調子に乗る(2014年1月27日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

日本語は、何げない言い回しにも落とし穴があって難しい。例えば<適当>や<いいかげん>は、本来は「ぴったり」や「ほどよい」だが、別の意味で使われることの方がむしろ多い

▼<調子がいい><調子に乗る>となると、肯定的と否定的の両方にとれる。「あの人は調子がいい」と言われたら、相づちを打ってよいか、ちょっと考えた方がよい

▼安倍晋三首相は相変わらず高支持率で<調子がいい>ようだが、<調子に乗っている>と見える場面も目に付きだした。国会の施政方針演説からは、昨年にはあった「(野党との)丁寧な議論」の言葉も消えた

▼海外の目は厳しい。スイスのダボス会議に出席した際は経済政策を訴えたが、各国取材陣の関心は対中関係だった。英紙フィナンシャル・タイムズは「首相が(中国との)武力衝突は論外だと明言しなかった」と伝えた。あからさまな警戒の表明と言える

▼靖国神社参拝で米が示した「失望」と併せ、<適当に>受け流すことのできない事態ではないか。身勝手な信念の表明も<いいかげん>にしないと国民に迷惑が及ぶ

▼経済学者のガルブレイスは、「政治とは…悲惨なことと不快なことのどちらを選ぶかという苦肉の策である」と言った。政治がやりたいことにだけ集中できるほど簡単ではないことは、首相も承知のはず。無理をすれば<調子外れ>と言われよう。

 

首相の歴史観(2014年1月17日配信『神奈川新聞』−「社説」)

 

叔父の直言に向き合え

 泉下の叔父は今、何を思うのだろうか。先月26日に行われた安倍晋三首相の靖国神社参拝。予想されていた中韓両国の猛反発はもとより、同盟国である米国が重ねて「失望している」と表明した。欧州連合(EU)やユダヤ系団体などからも非難の声が上がっており、四面楚歌(そか)の様相さえ呈している。

 2006年夏、「A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への総理の参拝を正当化する理屈は、国内では通用しても国際的にはまったく通用しない」などと指摘した論文を月刊誌「論座」に寄せた人物がいる。県立湘南高卒で、日本興業銀行頭取を務めた故・西村正雄氏。安倍首相の叔父である。

 第1次安倍内閣発足の直前であり、首相の座が目前にあった安倍氏への直言であった。7年後に踏み切った靖国参拝への痛烈な批判を的確に予想していた叔父の言葉に、安倍首相は真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 安倍首相は参拝について、「理解していただけるよう誠実に努力していく」と述べた。しかし、日米と安全保障協力を進めるオーストラリアや日本の友好国インドネシアの有力紙も苦言を呈したり、否定的な論評をしたりするなど、日本の孤立感は深まっている。

 諸外国からの反発だけではない。首相と同じ日に参拝していた人々からも「靖国神社にA級戦犯が合祀されているのが間違い」「A級戦犯の合祀をやめないと(戦死した)兄のような人たちが報われない」といった声が上がっていた。多くの一般国民を死に追いやり、遺族の人生を大きく狂わせた戦争指導者の責任から目をそらすような振る舞いは、国内の真の戦争犠牲者への背信行為である。A級戦犯の合祀後に天皇陛下が参拝していない意味を、安倍首相は考えるべきだ。

 西村氏は寄稿文で、「中国の反日デモなどを機に『強い日本』を煽(あお)るナショナリスティックな政治家がもて囃(はや)される傾向がある。このような偏狭なナショナリズムを抑えるのが政治家の大きな使命である」とも指摘していた。

 第2次政権発足後、安倍首相の言動を起点として、日本と近隣諸国で偏ったナショナリズムが増幅しあうような展開が続いている。西村氏が最も懸念した状況に陥っている。首相は今こそ、叔父からの直言を読み返すべきだ。

 

何様のつもりなのか 「靖国参拝」強行の安倍首相は日本恥(2013年11月27日配信『日刊ゲンダイ)

 

  26日、小泉純一郎以来、7年ぶりに首相としての靖国神社参拝を強行した安倍晋三は、自らの行動を驚くべき傲慢な言い訳で正当化した。

「安倍政権1年の歩みを報告し、二度と戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」

「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける気持ちは全くない。自由と民主主義を守り、敬意を持って友好関係を築いていきたいと願っている」

国民をドン底に突き落としたA級戦犯が祀(まつ)られている靖国を参拝して、「非戦の決意」とはよく言う。中韓が反発することは百も承知で「傷つけるつもりはない」とは、「相手をブン殴って、話し合おうと開き直る“犯罪者”の手口」(政治評論家・森田実氏)である。

中韓にとって安倍の靖国参拝は“挑発”以外の何ものでもない。誰が見たってそうで、だから、米国大使館までもが異例の「失望する」との声明を発表したのだ。

これで日中、日韓だけでなく、日米関係もますますメタメタになるのは間違いないが、真の問題は外交ではない。日本人がこんな破廉恥な男を首相にいただいていることだ。

安倍は中韓に対し「直接説明したい」「誤解に基づく批判だ」と妄言を吐いていたが、靖国を“曲解”しているのはむしろ安倍自身である。

「日本国憲法20条に『国およびその機関は、いかなる宗教的活動もしてはならない』とあります。さらに靖国には、第2次大戦後、戦争指導者だったA級戦犯が合祀(ごうし)されています。そこで頭を下げるということは、あの侵略戦争を賛美していることになってしまう。安倍首相は、あの大戦を『自衛戦争であり、侵略ではない』と捉えているので、『誤解だ。悪く言われる筋合いはない』と思っているのでしょうが、歴史を直視しない妄動です」(立正大教授・金子勝氏=憲法)

安倍は「国のために戦った英霊に、哀悼を捧げ、尊崇の念を表す」と言うが、東条英機らA級戦犯は、国民に赤紙を送って死に追いやった極悪人だ。戦犯が祀られているから、先祖を靖国に入れたくないという人も大勢いる。天皇が靖国参拝しないのも、同じ理由だし、米国のケリー国務長官らが靖国ではなく、千鳥ケ淵の戦没者墓苑に行ったのも同じ理由だ。

しかし、安倍ら一部の保守だけが、A級戦犯を含めて「英霊」などという言い方をする。「英霊」とは戦死者の霊を敬う言葉だが、その背景には「お国のため」「天皇陛下のため」に死んだという戦時下さながらの思想がある。戦犯に戦地に送られ、殺されたような戦死者の遺族は、あの戦争のバカバカしさをイヤというほど知っている。誰が「英霊扱い」を望んでいるのか。時代錯誤も甚だしい。

「『英霊』なんて言葉は、軍隊の上の人しか使っていない言葉です。私も、兄が戦死して帰ってきませんでしたが、遺族はただただ悲しみをこらえてお墓を作った。安倍さんは『英霊』『尊崇』という言葉を、顔をしかめながら使っていますが、戦争を知っている世代からすれば、滑稽でしかありません」(森田実氏=前出)

結局、安倍にとって靖国参拝は、右翼支持者を喜ばせるための自己満足なのだ。

安倍側近のひとりは「ずいぶん前から決めていたようだ。首相の政治信条だから」と言っていたが、冷静な判断力や自制心もなく、保守仲間に胸を張りたい、「どうだ!」と言いたい。それだけの話だ。その幼稚性が恥ずかしい。歴史認識の乏しさ、欠如が見るに堪えない。

靖国問題は外交問題以前だ。こんな首相を選んでしまったことを直視すべきだ。

 

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戦没者追悼と靖国 戦後70年へ解決策探れ(2014年4月22日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は、靖国神社の春季例大祭にあわせて、内閣総理大臣名で供え物の真榊(まさかき)を奉納した。昨年末の参拝が中国、韓国だけでなく米国からも批判を招いたことや、オバマ米大統領の訪日を控えていることに配慮して、参拝を見送り、昨年の例大祭と同様の対応にしたようだ。

 首相の参拝見送りは当然だ。しかし、このままでは8月の終戦記念日、秋の靖国例大祭、年末の政権発足2周年と、節目を迎えるたびに今後も首相の靖国参拝をめぐって、国論を二分する騒ぎが繰り返される。

 首相は先日のテレビ番組で「国のために戦った兵士のために手を合わせて祈るのは、各国リーダーの当然の思いだ」と述べた。指導者が戦没者を追悼するのは当たり前で、批判はおかしい、と言いたいのだろう。しかし、これは論点のすり替えだ。

 私たちも、国内外の指導者がわだかまりなく戦没者を追悼できる場があることが望ましいと思う。しかし、問題は靖国が追悼の場としてふさわしいかどうかであり、指導者の追悼の是非ではない。

 靖国には、第二次世界大戦後の東京裁判で、侵略戦争を指導した「平和に対する罪」で有罪になったA級戦犯が合祀(ごうし)されている。日本は62年前の4月28日に発効したサンフランシスコ講和条約で東京裁判を受け入れ、7年の占領期間を終えて独立を回復し、国際社会に復帰した。

 A級戦犯がまつられている靖国神社に首相が参拝することは、首相が「戦犯崇拝との批判は誤解」「参拝は不戦の誓い」と説明しても、東京裁判を否定し、侵略戦争を正当化し、米国主導の戦後秩序に挑戦する意図があると疑われても仕方がない。

 首相が再び靖国に参拝する可能性がある限り、歴史認識で国際社会の信頼を取り戻すのは容易ではない。国際社会の不信感が募れば、安倍政権の安全保障政策が常に右傾化への懸念と結びついて懐疑的に受け止められかねない。首相の靖国参拝がもたらす悪影響はあまりに大きい。

 靖国問題の解決策としては、過去に国立追悼施設の建設案やA級戦犯の分祀論が議論されたが、首相は消極的と見られ、安倍政権下で議論は影を潜めた。首相は先週、追悼施設案に改めて否定的考えを示した。

 中国と韓国は、初代韓国統監の伊藤博文元首相を暗殺した独立運動家・安重根の記念館を中国東北部に開館するなど、歴史問題で対日共闘の構えを見せる。戦後70年の来年に向けてその動きを強める可能性が指摘されている。東アジア全体の安定と繁栄にとって不幸なことだ。

 首相は新たな戦没者追悼のあり方を国民的な議論にかけ、抜本的解決策を見いだす努力をすべきだ。

 

友人の忠告に耳傾けて 揺らぐ日米関係(2014年2月21日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相の靖国神社参拝後、日米関係が揺らぎ始めた。日本にとって最も重要な2国間関係だ。米政府や議員の忠告にも耳を傾けるべきではないか。

 安倍政権内の一部にある「本音」が、思わず出たということなのだろう。衛藤晟一首相補佐官が動画サイト「ユーチューブ」に投稿した国政報告である。

 昨年12月、安倍首相の靖国参拝に「失望」を表明した米政府に対して、衛藤氏は「むしろわれわれが失望だ」と批判した。

 菅義偉官房長官の要請で投稿を削除したものの、当初は「何が問題なのか」と突っぱねていた。

色あせた「同盟復活」

 日米関係の強化は、安倍政権にとって「金看板」だったはずだ。3年余りの民主党政権時代に傷ついた日米「同盟」関係を修復し、深化させると大見えを切った。

 再登板後初めての訪米となる昨年2月、首相はオバマ大統領との首脳会談後、「日米同盟の信頼が完全に復活した」と宣言した。

 ところが今、米政府や連邦議員から聞こえてくるのは、首相の靖国参拝に対する不満や、歴史認識に対する懸念がほとんどだ。「同盟復活」はすっかり色あせた。

 安倍政権は、その是非は別にして、集団的自衛権の行使容認や日米防衛協力のための指針(ガイドライン)見直しを通じて、日本の軍事的な役割分担を増やそうとしている。米海兵隊の新しい基地を沖縄県名護市辺野古に建設する手続きにも入った。

 「同盟」関係の強化へ安倍政権が「努力」しているのに、なぜ米国は首相の靖国参拝を了としないのか、オバマ米民主党政権はアジア・太平洋地域を重視するリバランス(再均衡)戦略を掲げながら行動が伴わず、日本よりも中国を重視しているのではないのか…。

 そんな不満が、首相官邸と自民党内の一部にあるのだろう。

政権に足りぬ危機感

 日米両国にとって、アジア・太平洋地域の安全保障上の懸念は、中国の軍事的台頭と核・ミサイル開発を進める北朝鮮の動向だ。

 脅威を高めないためには、中国に自制を促しつつ無用な刺激を避け、安全保障体制の要となる日米韓3カ国の結束が必要だと、オバマ政権は考えているのだろう。

 米側が指摘するように首相の靖国参拝は、中韓両国に歴史認識をめぐる日本批判の口実を与え、「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動」(在日米大使館声明)だったことは否定できない。

 オバマ政権は冷え込んだ日韓両国の関係改善にも乗り出した。

 日米貿易摩擦の時のような「ガイアツ(外圧)」は心地よいものではないが、安倍政権に関わる人たちが、日米関係が重要であり、米国はかけがえのない友人だと、心の底から思うのなら、その忠告を突っぱねるのではなく、謙虚に受け止めるべきではないのか。

 歴史認識問題は、安倍政権の命取りになるとして、一昨年暮れの第2次政権発足後しばらくは抑制的な対応だった。しかし、昨年夏の参院選で自民党が勝利し、「一強」支配を確立した後は、タガが緩み始めている。

 首相の靖国参拝に加え、NHKの経営委員に送り込んだ作家の百田尚樹氏は旧日本軍による南京大虐殺はなかった、NHK会長に就いた籾井勝人氏は従軍慰安婦はどこの国にもあった、などと発言した。そして衛藤氏の投稿である。

 菅官房長官はいずれも「個人の問題」として沈静化を図ろうとしたが、問われているのは、安倍首相と政権の歴史認識そのものだ。危機感が政権には足りない。

 これらの言動はサンフランシスコ講和条約が規定する戦後の国際秩序からの脱却を安倍政権が試みているから…。そんな疑いの目が注がれているのなら、米国も心穏やかではいられまい。

 近隣諸国の過度の対日批判や挑発には毅然(きぜん)と対応しなければならないが、先の大戦や植民地支配を反省し、強いた苦痛には心を込めて対応する。

 その真摯(しんし)な態度が、近隣諸国や米国の日本に対する懸念を取り除き、この地域に平和と安定をもたらす。日本自身が不安定要因になる愚を犯してはならない。

絶えず「手入れ」必要

 「同盟」関係はよく、ガーデニング(庭造り)に例えられる。手入れを怠れば、荒れてしまうという意味だ。首相の靖国参拝は、たとえ「親米保守」を自任する政権でも、対応を誤れば日米関係は簡単に揺らぐことを証明した。

 安倍首相や政権の面々は、友人の忠告に耳を傾け、独り善がりの態度を改めるべきだ。それが近隣諸国との関係改善につながり、日米間のわだかまりをも解消する。四月にはオバマ大統領を真の友人として快く迎えたい。

 これは決して米国のためではない。日本自身のためである。

 

「とことん」どこまで=金子秀敏(2014年1月16日配信『毎日新聞』−「木語」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社に参拝したのは昨年12月26日。即日、中国の王毅(おうき)外相は日本の木寺昌人大使を呼び抗議した。その時の言葉が気になる。「日中関係の限界に挑戦する気なら、とことんお相手いたす」−−外交戦発動の宣戦布告だ。

 「とことんお相手いたす」は中国語で「奉陪到底(ほうばいとうてい)」という。中国の剣豪小説などで正義の主人公が剣を抜くときの決めぜりふだ。きまじめな王外相らしくない。

 中国は安倍首相が靖国参拝をすると見て、待ちかまえていた。靖国参拝批判は中国にとって使い勝手のいい外交カードだ。国内引き締めの手段にも使える。小泉純一郎首相の参拝の時は全国的な反日デモで国論が盛り上がった。

 はたして安倍首相は参拝した。思うつぼだから、王外相の発言は思いつきではない。

 「奉陪到底」とは、2、3年前に中国でヒットしたアクション映画「硬漢(こうかん)2」の副題だ。公務負傷で海軍を退役した主人公、老三(ラオサン)が強盗事件に遭遇し、警察隊長と協力して悪人と徹底的に戦う。米国映画「ダイ・ハード」の焼き直しだ。

 ネットに流した予告編の決めぜりふが流行した。「悪人はな、教育してやらなけりゃならねえ」−−中国の大衆は、「とことんお相手いたす」と聞くと、「悪人を教育してやる」というせりふを連想し、胸がすくはずだ。

 ちなみに、老三は刈り上げの兵隊頭で、映画評によると、中国軍が正義の味方であるというシンボルだそうだ。軍人の正義が、いまの中国外交の気分になっている。日本の首相が旧軍人の正義にこだわるのと似ている。

 年があらたまって、中国は駐米大使が米国で、駐英大使が英国でそれぞれ主要メディアに靖国参拝批判の文章を寄稿し、世論戦線で対日攻撃が始まった。

 駐英大使は児童向け小説「ハリー・ポッター」に登場する悪役、ヴォルデモート卿に日本をたとえた。正義と悪の二元論で日本を悪の側とするのは王外相と同じ論法だ。

 王外相も中東のアルジャジーラ・テレビと会見し、「人類の良識と国際社会の常識を尊重せよ」と言った。「とことん」の始まりだ。  

 その「とことん」はどこまでか。今秋、北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる。議長となる習近平(しゅうきんぺい)国家主席は、靖国参拝を口実にして安倍首相とだけ個別会談をせず、日本を孤立させ、米国をけん制するのではないか。中国の「対日教育」だろう。

 

風が吹けば桶屋が儲かる明窓(2014年1月13日配信『山陰中央新報』−「社説」)

 

 「風が吹けば桶屋(おけや)が儲(もう)かる」という諺(ことわざ)は有名だ。一つの原因によってさまざまな現象が起き、思いがけない影響が出ることをいう

▼風が吹くと空気が乾燥し、舞い上がった砂埃(すなぼこり)が目に入って失明する人が増える話が、三味線や猫、鼠(ねずみ)、桶まで登場する筋立てが絡んで桶屋が儲かる結末になる。しかし、それぞれの現象の間に必然性がないから、当てにならないことを期待する意味にも用いられるようだ

▼安倍晋三首相は、現実の「風桶」関係を読み切れなかったらしい。昨年末、突然のように実施した靖国神社参拝のこと。歴史認識が異なる韓国や中国の反発を招くことは誰でも予想できた。アメリカや与党・公明党の山口那津男代表の反対を押し切っての行為というから驚く

▼アメリカは早速、「同盟国との緊張悪化を招く行為で失望した」と声明。年が明けても影響は続き、収束には時間がかかりそうだ。安倍首相は「不戦の誓いを決意した」という説明を強調したいようだが、中韓の批判は靖国神社にA級戦犯が合祀(ごうし)されているためで、参拝には自重が必要だった

▼靖国神社は国家神道を源にする宗教法人であり、軍人が祀(まつ)ってある。空襲やヒロシマ・ナガサキの被爆者、沖縄戦で亡くなった民間人は対象外になる。そこで、戦死者だけでなく戦争の被害者全員を慰霊するための新たな国立追悼施設の必要性が議論され始めている

▼外国の批判を受けての「風桶」議論ではない。戦争の悲惨さと鎮魂を語り、不戦を誓う場として検討してほしい。

 

平和願う年(2014年1月11日配信『中日新聞』−「編集局デスク」)

 

 安倍晋三首相の靖国神社参拝による息苦しさが、昨年から今年へ棒のように貫いています。中国、韓国の反発は収まらず、「失望」を表明した米国だけでなくロシア、欧州からも厳しい声が聞かれます。

 首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)を味方につけて「対中包囲網を」と考えているならば簡単ではないでしょう。ASEAN各国には華人人脈がびっしりと張り巡らされています。名古屋の大学でアジアの政治や文化を教える知人は「東南アジアにとって中国は“おっかさん”みたいなもんだ」と言います。イデオロギーの違いや経済的な損得とは別。中国に対する親近感は、日本に対するそれとは比較にならないと指摘します。

 「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を目指すという安倍政権ならば百も承知のはず。ですが、安倍首相の振る舞いは解せません。

 今年は国際社会にとって平和を考える重要な年です。第1次世界大戦勃発から100年に当たります。多くの国が参戦し、主戦場は欧州でしたが、戦禍は世界各地に広がりました。近代兵器が使われ、4年間で1千万人の命が失われました。負の遺産と向き合い、崩れた足元の近隣外交をじっくり考えたいものです。

 

首相の「靖国」参拝(2014年1月9日配信『しんぶん赤旗』―「社説」)

 

“話せば通る”は開き直りだ

 昨年末、過去の侵略戦争を美化する靖国神社への参拝を強行し、国内だけでなく、中国や韓国、アメリカやロシア、欧州などからもきびしい批判をあびている安倍晋三首相が、年頭の記者会見などで、各国に参拝の真意を説明し、理解を得たいなどの発言を繰り返しています。安倍首相が言い訳に回らなければならなくなっているのは明らかですが、「不戦」を誓うために参拝したなどの言い分で理解が得られるはずはありません。批判に耳を貸さず、勝手な言い分で参拝を正当化しようというのは、まさに開き直りそのものです。

侵略賛美が不戦の誓いか

 安倍首相は昨年12月26日、政権発足から1年の日を選んで靖国神社に参拝した直後、国のためにたたかいなくなった「英霊」など戦没者を追悼するとともに、「不戦の誓い」を新たにするために、参拝したとの談話を発表しました。首相が「靖国」参拝の真意を各国などに説明したいというのも、このことを指すものです。

 しかし、靖国神社に参拝して「不戦」を誓うなどという言い分は、どこから見ても通用するものではありません。戦前から戦中にかけ、天皇制政府と軍によって国民を戦争に動員するために利用された靖国神社は、現在もなお戦争を指導したA級戦犯をまつり、過去の戦争は「自存自衛の正義のたたかい」だったなどと正当化する、侵略戦争美化の施設です。首相や閣僚が「靖国」に参拝するのは侵略戦争を肯定・美化する立場に自ら身をおくことを認めるものであり、「不戦の誓い」というなら、これほど不適切な場所はありません。

 第2次世界大戦の結果つくられた国連は、「われら一生のうちに2度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救」うため、「国際の平和及び安全を維持するためにわれらの力を合わせる」ことを憲章にうたっています。ドイツやイタリアとともに敗戦国となった日本は、侵略戦争の誤りを認め、戦犯への裁判などを経て、国際社会に復帰しました。日本国憲法は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」ことを明記しています。過去の侵略戦争を誤りと認めることは戦後の出発点であり、首相の「靖国」参拝は「不戦の誓い」どころか、戦後の国際秩序と戦後日本の原点への挑戦として許されないものです。

 日本の侵略戦争で被害を受けた中国や韓国はもちろん、日本とたたかった各国が首相の参拝に反発するのは当然です。それはどんなに首相が参拝の「真意」なるものを説明しても解消できるものではありません。“話せば通る”といいはって自らの勝手な言い分を押し付け、受け入れないのはそちらが悪いといわんばかりの態度では、信頼を回復するどころかいよいよ困難にします。参拝への固執は、間違いなく国際的孤立の道です。

「戦争する国」への暴走

 もともと安倍首相は第1次政権時代「靖国」に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と公言し、戦後の戦犯裁判を非難し、「侵略」の定義さえ否定しようとしてきました。首相の態度が「不戦の誓い」などとは無縁なのは明らかです。

 異常な軍拡路線を進める安倍首相の「靖国」参拝は「戦争する国」づくりへの暴走です。国民の力で暴挙をやめさせることが急務です。

 

首相年頭会見 視野広げ着実な政治を(2014年1月7日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が新年の仕事をスタートした。

 きのうの記者会見では今年のえとにちなみ「馬のように広い視野で政権運営にあたりたい」と述べた。

 信じていいのだろうか。なぜなら首相の政治姿勢には、視野の狭さばかりが目立つからだ。

 先月の靖国神社参拝は外交よりも自らの保守的政治基盤を優先した内向きな決断だった。安全保障政策や原発問題では反論に耳を貸さない。経済政策は大企業優先だ。

 そのツケが内政、外交に影を落としつつある。どう立て直すのか。

 語るべきは責任あるビジョンだ。独り善がりの理念より国民が安心を実感できる政策を示してほしい。

 会見で首相は「アジアの友人、世界の友人と世界全体の平和の実現を考える国でありたい」と語った。周辺国が反発するのを知りながら靖国神社に参拝することが「友人」への態度と言えるだろうか。

 元日には新藤義孝総務相も靖国参拝し、中国、韓国は猛反発している。「失望」を表明した米国は、ヘーゲル国防長官が小野寺五典防衛相に周辺国との関係改善を求めた。

 外交の混迷を深めた責任をどう考えているのか。首相は中韓に首脳会談を呼びかけるが、受け入れようとしない相手への責任転嫁にすぎない。より現実的な打開策が必要だ。

 首相は集団的自衛権の行使を可能にする憲法解釈の変更や改憲に向け「国民的議論を深める」と語った。

 一見慎重に見えるが疑わしい。昨年の特定秘密保護法は審議を打ち切り強行採決の末成立した。反論に真剣に耳を傾ける姿勢はなかった。

 秘密保護法に対しては全国の地方議会が撤廃を求める意見書を相次いで可決し、国会に提出した。異常事態だ。24日開幕予定の通常国会には民主党が廃止法案を準備している。

 国民的議論を尊重するなら、こうした声を受けて法撤廃に動くべきだ。原発の再稼働方針も世論を見極めて見直す必要がある。解釈改憲などよりも先に取り組むべき課題だ。

 言葉の軽さは経済政策も同じだ。会見で首相は通常国会を「好循環実現国会」と名付けた。昨秋の臨時国会は「成長戦略実行国会」としたが成果に乏しかった。今年半ばには早くも成長戦略改定を目指すという。

 4月の消費税増税による景気の腰折れを防ごうと弥縫(びほう)策を重ねているようにしか見えない。公共事業偏重から脱却し、より波及効果の大きい経済政策を展開することが肝心だ。

 道民に影響が大きい環太平洋連携協定(TPP)の行方も「大局的に判断する」と言葉を濁した。確固たる政策の道筋を示さなければ、期待できる1年にはならないだろう。

 

首相年頭会見  異論に耳傾ける姿勢を(2014年1月7日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 これまでと同じ言葉を反復するだけでは、行き詰まった局面を打開できまい。安倍晋三首相が年頭記者会見で語った言葉に、新味は乏しかった。

 首脳会談の見通しさえ立たない中韓両国との関係修復について、「常に対話のドアは開いている」と述べたが、これまで何度も使ってきた言い回しだ。

 年末の靖国神社参拝で溝は深まったが、「真意を直接、誠意を持って説明したい」との言葉も、参拝後の発言から一歩も出ていない。A級戦犯合祀(ごうし)についての見解や、なぜ無宗教国立施設である千鳥ケ淵戦没者墓苑での追悼と違うのかなど、論点について具体的に説明すべきではないか。行動と言葉がちぐはぐだ。

 国のリーダーの説得力は今年、さらに重い意味を持つ。気合や勝利、攻めといった威勢のいい言葉を首相は使ったが、政権2年目の運営に当たっては、異論にも耳を傾け、もっと地に足の付いた言葉を語ってほしい。

 例えば、首相はアベノミクス1年目の成果として、有効求人倍率が6年ぶりに1倍台を回復したことを誇った。だがデータを見ると東京との地方の格差が目立ち、求人の半分以上を非正規雇用が占める。長期失業者も100万人を超えている。うわべではなく、格差に心配りのある言葉を聞きたい。

 年頭会見では、24日にも開会する通常国会を「好循環実現国会としたい」と述べ、景気回復への取り組みに言葉を割いた。

 アベノミクスは春に正念場を迎える。4月の消費税率8%引き上げ後、反動による景気落ち込みを抑える対策が必須だ。春闘は賃上げ交渉のヤマ場にある。4月は環太平洋連携協定(TPP)交渉の最終局面で、オバマ米大統領のアジア訪問も重なる。

 TPPに臨む姿勢を問われた安倍首相は従来どおり、コメや砂糖など重要5項目について「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」と返答した。次第に言葉の鮮度が落ちていることが気がかりだ。

 通常国会は、税制改革や5兆円規模の経済対策などが焦点だ。韓国軍への弾薬無償提供や原発再稼働などでも野党は追及する構えだ。首相は新年から、憲法解釈の見直しや改憲といった安倍カラー実現への意欲も、変わらず見せている。

 経済政策が当初のシナリオ通りにいくか、今年は難しいかじ取りになるだろう。

 秋に与党は「数の力」を背景にした特定秘密保護法を巡る強引な国会運営で批判を浴びた。安倍首相は「丁寧に説明すべきだった」との反省の弁を忘れず、幅広い合意形成を心掛けてほしい。

 

民主主義という木 枝葉を豊かに茂らそう(2014年1月1日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 新年に、虚子の句「去年(こぞ)今年 貫く棒の 如(ごと)きもの」を思い浮かべる人も多いだろう。2013年から14年へ、貫く棒は何なのか。

 年末、安倍晋三首相が靖国神社を参拝し、保守支持層から喝采を受けた。愛国心、ナショナリズムが、政治を動かそうとしている。強い国を作ろうという流れに、いっそう拍車がかかるのかもしれない。

 だが、強い国や社会とは、どんな姿を言うのだろうか。指導者が、強さを誇示する社会なのか。

 違う、と私たちは考える。強い国とは、異論を排除せず、多様な価値観を包み込む、ぶあつい民主社会のことである。「寛容で自由な空気」こそ、貫く棒でありたい。

 ◇自由で寛容な空気こそ

 慌ただしい師走だった。特定秘密保護法、初の国家安保戦略、そして靖国参拝。政権与党と安倍首相の、力の政治がそこにあった。

 政権に、権力の源泉の「数」を与えたのは、私たち国民だ。

 その代表者である政治家が、多数で法案を通す。選挙と議会の多数決があって、民主主義は成りたつ。それを否定する人はいない。

 ただし、「反対するのなら次の選挙で落とせばいい」などと政治家が開き直ったり、多数決に異を唱えるのは少数者の横暴だ、といった主張がまかり通ったりするのは、民主主義のはき違えではないか。

 民主主義とは、納得と合意を求める手続きだ。いつでも、誰でも、自由に意見を言える国。少数意見が、権柄ずくの政治に押しつぶされない国。それを大事にするのが、民主主義のまっとうさ、である。

 いまの社会は、どうか。

 あらゆる政策を、賛成する側と反対する側に分け、多様な世論を「味方か」「敵か」に二分する政治。対話より対決、説得より論破が、はびこってはいないだろうか。

 そんな象徴が、靖国だ。

 靖国神社をどう考えるかは、戦没者の追悼のあり方という、国のかたちの根幹にかかわる問題を考えることである。原発とエネルギー、集団的自衛権や憲法改正などと同様、私たち一人一人の未来を大きく左右するテーマだといっていい。

 山積する国民的課題を前にするとき、政治がなすべきことは、多様な民意を集約し、幅広い合意をつくる努力を尽くすことだろう。

 首相の靖国参拝は、民意を集約するどころか、熱狂する一部の支持者たちと、異なる意見を持つ者との間に、深い亀裂をつくった。

 参拝の支持者は、日本人なら当たり前のことをなぜ批判するのか、と言う。首相の参拝は、こうした激しい愛国心、ナショナリズムを喚起する。参拝支持者が愛国者で、反対者は愛国心のない人間であるかのような、不寛容さを生み出す。

 政権与党は、国民に国を愛する心を植えつけたい、という。

 

人間中心の国づくりへ 年のはじめに考える(2014年1月1日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 グローバリゼーションと中国の大国化に「強い国」での対抗を鮮明にした政権。しかし、経済や軍事でなく人間を大切にする国に未来と希望があります。

 株価を上昇させ、企業に巨額の内部留保をもたらしたアベノミクスへの自負と陶酔からでしょう、安倍晋三首相は大胆でした。就任当初の現実主義は消え、軍事力増強の政策にためらいは感じられませんでした。

 多くの国民の懸念をふり払って特定秘密保護法を強行成立させた後は、初の国家安全保障戦略と新防衛大綱、中期防衛力整備計画の閣議決定が続きました。

強い国への疑心暗鬼

 今後10年の外交、防衛の基本方針を示す安保戦略は、日米同盟を基軸にした「積極的平和主義」を打ち出し、戦後の防衛政策の転換をはかりました。先の戦争への反省から専守防衛に徹する平和国家が国是で国際貢献も非軍事でしたが、積極的平和主義は国際的紛争への積極的介入を意図し、軍事力行使が含意されています。

 米国と軍事行動を共にするには集団的自衛権の行使容認の憲法解釈変更は前提で憲法9条改正は最終の目標です。このままでは米国の要請で「地球の裏側」まで自衛隊派遣の義務が生じかねません。

 安倍政権が目指す「強い国」は「急速な台頭とさまざまな領域へ積極的進出」する中国を念頭に自衛隊を拡大、拡充します。それは他国には軍事大国の脅威ともなるでしょう。疑心暗鬼からの軍拡競争、いわゆる安全保障のジレンマに陥ることが憂慮されます。

 強い国志向の日本を世界はどうみているか。昨年暮れの安倍首相の靖国参拝への反応が象徴的。中国、韓国が激しく非難したのはもちろん、ロシア、欧州連合(EU)、同盟国の米国までが「失望した」と異例の声明発表で応じました。戦後積み上げてきた平和国家日本への「尊敬と高い評価」は崩れかかっているようです。

人には未来と希望が

 アベノミクスも綱渡りです。異次元の金融緩和と景気対策は大企業を潤わせているものの、賃上げや消費には回っていません。つかの間の繁栄から奈落への脅(おび)えがつきまといます。すでに雇用全体の4割の2000万人が非正規雇用、若き作家たちの新プロレタリア文学が職場の過酷さを描きます。人間が救われる国、社会へ転換させなければなりません。

 何が人を生きさせるのか−。ナチスの強制収容所で極限生活を体験した心理学者V・E・フランクルが「夜と霧」(みすず書房)で報告するのは、未来への希望でした。愛する子供や仕事が、友や妻が待っているとの思い、時には神に願い、誓うことさえ未来への希望になったといいます。

 人はそれぞれがふたつとない在り方で存在している。未来はだれにもわからないし、次の瞬間なにが起こるかもわからない。だから希望を捨て、投げやりになることもないのだ、というのもフランクルのメッセージでした。

 社会にも未来と希望があってほしいものです。4月から消費税率引き上げとなる2014年度の税制大綱は企業優遇、家計は負担増です。企業には復興特別法人税を前倒しで廃止したうえに、交際費を大きく減税するというのですから国民感情は逆なでされます。

 税もまた教育や医療と介護、働く女性のための育児や高齢者福祉サービス、若者への雇用支援など人間社会構築のために振り向けられなければなりません。そこに未来や希望があります。

 所得再配分は国の重要な役目。政府が信頼でき、公正ならば国民は負担増をいとわないはずです。高度経済成長はもはや幻想でしょう、支え合わなければ生きられない社会になっているからです。

 脱原発も人間社会からの要請です。10万年も毒性が消えない高レベル放射性廃棄物の排出を続けるのは無責任、倫理的にも許されません。コスト的にも見合わないことがはっきりしてきました。

 「原発ゼロ」の小泉純一郎元首相は「政治で一番大事なことは方針を示すこと。原発ゼロの方針を出せば、良い案をつくってくれる」「壮大な夢のある事業に権力を振るえる。結局、首相の判断と洞察力の問題」と語りました。首相の洞察力は無理なのでしょうか。

涙ぐましい言論報道

 特定秘密保護法でメディアの権力監視の責任と公務員から情報を引き出す義務はいちだんと重くなりました。それにもまして大切なのは、一人ひとりの国民の声に耳をすまし伝え、できれば希望になることです。画家の安野光雅さんは、それを「涙ぐましい報道」と表現しました。涙ぐましい努力を続ける報道言論でなければなりません。

 

年のおわりに考える 民主主義は深化したか(2013年12月30日配信『東京新聞』−「社説」)

   

 今年も残すところあと1日。振り返れば、久々に首相交代のない1年でもありました。安倍晋三首相の下、日本の民主主義は「深化」したのでしょうか。

 今年、日本政治最大の変化は、参院で政権与党が過半数に達しない国会の「ねじれ」状態の解消です。民主党政権の一時期、解消されたことはありましたが、2007年から6年ぶりのことです。

 ねじれ国会では与党が法案を成立させようとしても、野党が反対すれば不可能です。内閣提出法案の成立が滞り、政策を実現できない「決められない国会」に、国民のいらだちは高まりました。

◆ねじれ解消したが

 ねじれ国会のこの6年間は頻繁な首相交代の時期と重なります。ねじれが政治不安定化の一因になったことは否めません。

 では、ねじれ国会が解消されて日本の政治は本当によくなったのでしょうか。

 経済再生、デフレ脱却を最優先に掲げてきたはずの第2次安倍内閣が「本性」を現した象徴的な政治的出来事が、年末になって相次いで起きました。

 その一つが、特定秘密保護法の成立を強行したことです。

 この法律は、防衛・外交など特段の秘匿が必要とされる「特定秘密」を漏らした公務員らを厳罰に処す内容ですが、国民の知る権利が制約され、国民の暮らしや人権を脅かしかねないとの批判が噴出しました。

 しかし、安倍首相率いる自民党政権は衆参で多数を占める「数の力」で、採決を強行します。

 首相は「厳しい世論は国民の叱声(しっせい)と、謙虚に真摯(しんし)に受け止めなければならない。私自身もっと丁寧に説明すべきだったと反省している」と述べてはいます。しかし、首相が国民の声に本気で耳を傾けていたら、成立強行などできなかったのではないでしょうか。

「自民一強」の慢心

 そして、第2次内閣発足1年に当たる26日の靖国神社参拝です。第一次内閣で参拝できなかったことを「痛恨の極み」と話していた首相ですから、積年の思いを果たしたということでしょう。

 国の命による戦死者を、指導者が追悼し、慰霊するのは当然の責務とはいえ、首相の靖国参拝にはさまざま問題があります。

 靖国神社が一宗教法人であるという政教分離の問題に加え、極東国際軍事裁判(東京裁判)のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への首相参拝は、軍国主義礼賛と受け取られかねないからです。

 首相の参拝には、国内はもとより、日本軍国主義の犠牲となった中国、韓国をはじめ近隣諸国から激しい反発が出ています。東アジアの火種を避けたい米政府も「落胆した」と批判しています。

 足元の自民党内の一部や友党である公明党の反対を押し切っての参拝強行です。そこには多数党の頂点に立つ首相なら何をやっても乗り切れる、という「慢心」があるように思えてなりません。

 その翌日には、沖縄県の仲井真弘多知事が米軍普天間飛行場の県内移設に向けて、名護市辺野古沿岸部の埋め立てを承認します。

 知事に承認させるため、政府と自民党は手を打ってきました。年間3千億円の沖縄振興予算という「アメ」と、世界一危険とされる普天間飛行場が固定化してもいいのかという「ムチ」です。

 県民の多くが求めた国外・県外移設を、安倍政権は一顧だにしません。県選出の自民党国会議員には県外移設の公約撤回を迫る周到ぶりです。

 これらはたまたま時期が重なっただけかもしれません。

 しかし、いずれも民主主義とは相いれない、自民党「一強」ゆえの振る舞いです。野党の言い分や国民の間にある異論に耳を傾けざるを得ない「ねじれ国会」であれば、躊躇(ちゅうちょ)したはずです。

 今夏までのねじれ国会では歩み寄りの努力を怠り、ねじれ解消後は議会多数の「数の力」で押し切り、異論をねじ伏せる。そんなことで自由、民主主義という価値観をほかの国と共有すると、胸を張って言えるでしょうか。

大事なことは面倒

 引退を表明した世界的なアニメ作家、宮崎駿さんは「世の中の大事なことって、たいてい面倒くさいんだよ」と指摘します。

 多様な意見があり、利害が交錯する現代社会では、意見を集約して方向性を決めることは手間のかかる作業です。選挙結果を金科玉条に、多数で決める方が議員にとって、はるかに楽でしょう。

 最後は多数決で決めるとしても少数意見にも耳を傾ける。議論を尽くして、よりよい結論を出す。説明、説得を怠らない。

 民主主義を実践するのは面倒です。しかし、その地道な作業に耐える忍耐力こそが、民主主義を深化させる原動力になるのです。

 

安倍外交は立て直しから再出発だ(2013年12月30日配信『日経新聞』−「社説」)

 

 中国の台頭をどうやって受け止め、アジアの成長に生かすのか。安倍政権の対外政策は、来年以降もこれがいちばんの課題だ。

 そうしたなか、安倍晋三首相による靖国神社への参拝で、各国とのあつれきが広がっている。中国や韓国だけでなく、米国との間にもすきま風が吹く始末だ。

 中国は安倍首相が戦後の秩序に挑戦しようとしている、と宣伝してきた。この参拝によって、中国の主張に同調する空気がアジアや欧米に広がれば、日本は孤立しかねない。

靖国参拝の影響抑えよ

 安倍外交は、参拝で生じた各国とのあつれきを取りのぞき、態勢を立て直すところから始めなければならない。

 そのうえで、中国にどう向き合っていくか、である。尖閣諸島への揺さぶりや、東シナ海での防空識別圏(ADIZ)の設定など、中国が強気な行動をやめる兆しはない。南シナ海では島々の領有権をめぐり、東南アジア諸国とも対立している。

 国力を増すにつれて、中国はこうした行動をさらに加速するかもしれない。中国の国防予算は2ケタで伸び続けており、すでに日本の2倍を超える。日本だけでは中国の軍拡に対応しきれない。

 そこで欠かせないのが、同盟国である米国や他の友好国との一層の連携だ。各国と安全保障の協力を強め、アジア太平洋に網状のネットワークをつくる。これを足場に中国に関与し、責任ある行動を働きかけていく。求められるのはそんな戦略だ。

 安倍首相はそんな発想から、今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の全加盟国を訪れ、米国、ロシア、モンゴル、中東諸国を訪問した。ASEANとは今月、都内で特別首脳会議も開いた。

 各国と「航行の自由」や海洋秩序の維持で一致し、協力を深めることで足並みをそろえた。アジア太平洋に安全保障網をつくるため、種をまいたといえよう。

 にもかかわらず、靖国参拝でこうした連携の輪が崩れるとすれば、外交上の損失はあまりにも大きい。そうならないよう、首相は優先順位が高い協力から、首脳外交の成果を着実に形にしてほしい。

 そのひとつがASEAN各国との協力だ。これらの国々の多くは、南シナ海に面している。だが、海上の警備力は十分ではない。日本が巡視艇の供与などによって警備力の底上げを支援すれば、南シナ海の安定に役立つ。

 すでに安保協力の実績があるオーストラリアや、インドとの海洋安全保障協力も加速したい。

 むろん、基軸になるのは日米同盟だ。日米は防衛協力のための指針(ガイドライン)を約17年ぶりに改定する。来年末までに協議を重ね、作業を終えるという。

 尖閣諸島を含めた東シナ海で危機が起きたとき、日米がどう対処するのか。これが、いちばんの焦点である。日本は情報収集や後方支援などで、さらに多くの役割を担うべきだ。そのためにも集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈の見直しが必要だ。

 オバマ政権は、国防予算の削減を強いられ、中東情勢にも精力を割かれている。アジアへの関与が息切れしないか、心配だ。そうさせないためにも、自衛隊による対米協力の拡大は大事だ。

「歴史」避け現実外交を

 こうした手立てを尽くしたうえで、中国との対立に歯止めをかける対策も欠かせない。まずは、尖閣諸島の周辺や東シナ海の上空で、不測の事態が起きるのを防ぐための措置だ。いざというとき、すばやく連絡を取りあえる体制を築くべきだ。

 日本の対外政策には、経済の視点も大切だ。アジアに米国を深く関与させるには、市場や投資先としての魅力も高める必要があるからだ。日本ができることは多い。

 たとえば、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では大胆な自由化を求める米国と、抵抗するアジア新興国の対立が続く。このままでは交渉が行き詰まりかねない。そんなとき日本が橋渡し役を果たし、交渉を妥結に導くことは、米国を政治的にもアジア太平洋に組み込むことにつながる。

 ASEANは2015年の経済統合をめざしている。各国が団結し、外交力を高める狙いだが、域内の格差は大きい。この解消に向けて日本が支援すれば、各国との絆はさらに太くなる。

 歴史問題に踏み込まず、現実外交に徹する。この姿勢に戻れるかどうかが、安倍政権の成否も決めることになる。

 

[首相靖国参拝]外交に深刻なダメージ(2013年12月29日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。中韓両国から猛烈な批判を浴びることを覚悟の上で自らの政治信条を貫き、政権の基盤である保守層に強くアピールしたことになる。

 首相の試みは、しかし、国内だけでなく国際社会からも激しい批判を浴びた。中国側からは「安倍氏が首相の間は関係改善は困難」(中国共産党関係者)との声が浮上している。韓国政府関係者も「とてつもない悪影響が出る」と事態の展開を憂慮する。

 中韓両国が反発しているだけではない。同盟国である米国政府からも批判的な発言が相次いだ。「遺憾」や「懸念」の言葉よりもはるかに批判的な「失望」という言葉を使って。

 日本外交が被った打撃は計り知れない。

 安倍首相は日ごろ、口癖のように「対話のドアはつねにオープンにしている」と語っていた。だが、それは口先だけで、本音では全くその気がないことを国際社会に暴露したようなものだ。

 小泉純一郎元首相が靖国参拝を重ねたときと現在とでは、政治状況が決定的に異なる。日中、日韓いずれの関係も戦後最悪の状態。特に中国とは尖閣諸島の領有権をめぐって一触即発の緊張状態が続いている。この時期の靖国参拝がどれほど破壊的な影響を及ぼすか、首相が知らないはずはない。

 中国との関係がさらに悪化し、関係改善が遠のいても構わない。首相はそのように考えているのではないか−もしそうだとすれば、この政権はほんとに危ない。

    ■    ■

 「国のために戦い犠牲になった英霊に対して、哀悼の誠を捧げるのは当然である。外国からとやかく言われる筋合いはない」−首相や閣僚が折に触れて語る靖国参拝の論理は、ほぼ共通している。

 だが、日本を代表する首相が靖国神社を参拝することは、多くの国民が抱く「自然な感情」とは別次元の、戦争責任に絡む深刻な問題をはらんでいる。東京裁判で責任を問われた東条英機元首相らA級戦犯14人が合祀(ごうし)されているからだ。

 日本は1952年に発効したサンフランシスコ平和条約で、極東国際軍事裁判(東京裁判)の結果を受け入れた。

 その事実を認めつつも安倍首相は、第1次安倍内閣のとき、A級戦犯について「国内法的には戦争犯罪人ではない」と語った。

 2013年3月の衆院予算委員会では東京裁判について「勝者の判断によって断罪された」と答弁した。

    ■    ■

 安倍首相の電撃的な靖国参拝は、安倍政権の深刻なジレンマをあらためて浮き彫りにした。

 自らの政治信条に忠実に振る舞えば中韓両国の激しい反発を招き、中韓両国に配慮すれば支持層の離反を招くというジレンマである。

 本音を語ったかと思うと、米国から批判を浴びて引っ込め、当たり障りのない建て前論を語ったかと思うと、靖国参拝という猛毒の本音が飛び出す。その繰り返し。

 政権内部や党内に忠言する人がいないのが心配だ。

 

奴隷の平和より王者の戦争を(2013年12月28日配信『日経新聞』−「春秋」)

 

 奴隷の平和より王者の戦争を! 評論家の亀井勝一郎は昭和16年12月8日の日米開戦に発奮し、雑誌「文学界」の企画「近代の超克」のなかでこう呼びかけた。ナショナリズムをたぎらせていたのは亀井ばかりではない。それまで冷静だった多くの識者も時局に酔った。

▼高村光太郎は「記憶せよ、十二月八日」なる詩を書いている。「この日世界の歴史あらたまる。/アングロサクソンの主権、/この日東亜の陸と海とに否定さる」……。欧米列強がもたらした近代という時代を、いまこそ乗りこえたい――。明治維新このかた、ながく日本人の心によどんでいた情念が噴き出したのだろう。

▼きっかけさえあれば、現在でもそういう思いは人々をとらえるのかもしれない。安倍首相の靖国神社参拝に異例の「失望」声明を出した米国への、まるで72年前の言説のような激しい言葉がネット空間に飛びかっている。外交的に孤立しようと日本はわが道を行け。そんなコメントは数知れず、歴史が巻き戻されたようだ。

▼ナショナリズムはしばしば暴走する。中国や韓国に加えて米国にもそれが向かうとすれば危機はいよいよ深まろう。自らのふるまいが災厄を呼びこみつつあるという自覚は、けれど安倍さんにはないようだ。普天間問題に区切りをつけた。景気は上向きで株価も高い。高揚するこの人を誰も止められず、その先に何が待つ。

 

もうすぐ午(うま)年とはいえ、千里の馬でもあるまいに…(2013年12月28日配信『西日本新聞』−「春秋」)

 

 もうすぐ午(うま)年とはいえ、千里の馬でもあるまいに。就任から1年で国家安全保障会議、特定秘密保護法、他国軍への武器供与、そして靖国神社参拝。安倍晋三首相、走りすぎではないか。馬脚を現したと言うべきか

▼前の安倍政権で参拝しなかったのが「痛恨の極み」と公言した首相だ。周囲の諫止(かんし)にも馬耳東風で信念を貫いた。戦没者に哀悼の意をささげたいとの思いは理解できる。あくまでも私人としてならば

▼公事には針も通らず、私事には馬も通る、という。「私人の立場」と強調しても、首相の行動は国家、国民の総意と受け止められかねない。針も通さないほどのけじめが必要ではないか

▼「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えはない」。そんな言い分が通るとは首相自身も思ってはいまい。「白馬は馬にあらず」と強弁するに等しい

▼〈驥尾(きび)に付く〉は、名馬の尾に付いていれば小さな虫も1日に千里を移動できるという例えだ。戦後、日本の安全保障は米国という強大な驥に頼ってきた。首相の外交も「日米同盟の強化」が基本だ。その米国からも「失望した」と突き放された

▼中国が覇権主義を強め、北朝鮮の動向も不穏な中で、周辺国との溝を深めることが国益にかなうとは思えない。この先は集団的自衛権の行使、憲法改正へと駆け馬に鞭(むち)なのか。誠に危うい。竜馬(りゅうめ)の躓(つまづ)きにご注意を。馬に乗っては三間先を見よ、という戒めもある。

 

読めるけれど書くのが難しい漢字の一つに…(2013年12月28日配信『福井新聞』−「越山若水」)

 

 読めるけれど書くのが難しい漢字の一つに「顰蹙(ひんしゅく)」がある。では「顰蹙」に続く言葉を考えて文章にしてほしい。「―を感じる」「―を受ける」「―だった」…

▼うーん、どれもちょっとしっくりこない。正解は「顰蹙を買う」である。「顰蹙」と「買う」のように言葉同士の慣用的なつながりを言語学で「コロケーション」というらしい

▼日本語で「相性」や「縁」と呼ぶ人もいるそうだが、前出の「買う」と相性のいい言葉を見てみると、不思議なことに気付かされる(増井元著「辞書の仕事」岩波新書)

▼もちろん本や車、安心など自分が欲しいものを買うことは普通だ。だがうれしくないものを「買う」ことも非常に多い。例えば「反感、怒り、恨み、失笑、不評…」などであ

る▼コロケーションの別の用例では、同書は「食う」を取り上げている。ステーキを食うこともあるが、勘弁願いたいものも多い。「お小言、不意打ち、足止め、総スカン…」

▼さて今年も残りわずか。思い返せばこの1年、特定秘密保護法のごり押し成立や一流ホテルのメニュー偽装など「顰蹙を買う」ことがいろいろあった

▼加えて安倍晋三首相は靖国神社参拝を決行した。国民も「不意打ちを食う」格好で、中国や韓国から「反感を買う」、盟友米国からも「お小言を食う」羽目に。外交戦略上は「顰蹙を買う」事態を招いてしまった。

 

安倍首相靖国参拝 国益を損なう愚かな選択(2013年12月27日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 国際社会における日本の信頼を一気に失いかねない行動だ。

 安倍晋三首相がきのう、政権発足1年に合わせて靖国神社を参拝した。第1次内閣時代を通じ、首相在任中の参拝は初めてで、2006年の小泉純一郎首相以来7年ぶりだ。

 中国や韓国は強く反発しており、日本との一層の関係悪化は必至だ。

 首相は中韓との「対話のドアは常に開いている」と述べてきた。それなのに、あえて両国の反発を買う参拝に踏み切り自ら対話を遠ざけた。

 靖国神社は先の戦争を美化する歴史観を持ち、A級戦犯を合祀(ごうし)している。首相の参拝は憲法の政教分離原則にも抵触しかねず、国内でも強い批判がある。与党内や、同盟国である米国からも懸念が示されていた。

 こうした声に一切、耳を貸さず、内向きの理屈で参拝に踏み切ったことは極めて憂慮すべき事態だ。

    ◆独善的な姿勢を象徴

 首相は第1次内閣で参拝しなかったことを「痛恨の極みだ」としていたが、尖閣諸島問題や歴史認識をめぐり悪化した中国や韓国との関係を考慮し、参拝は見送ってきた。

 首相は参拝後、「日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、手を合わせた」と述べた。この時期を選んだ理由については「政権1年の歩みを報告」するためと説明した。

 尊崇の念を表す場として靖国神社にこだわるのは、首相が神社の歴史観に共鳴しているからではないか。

 首相は「靖国参拝を政治、外交問題化すべきでない」と中韓両国をけん制してきた。関係悪化の責任を相手側に押しつけ、自らの意向を押し通すのはあまりに身勝手だ。

 安倍内閣の支持率は特定秘密保護法を乱暴な手法で制定したことで急落した。これ以上、参拝を先送りすれば自身の支えとなっている保守層の失望を招き、政権基盤に影響しかねないとの考えも働いたのだろう。

 仮に参拝を見送っても中韓両国との早期の関係改善は現状では難しいとみて、それなら参拝するのが得策と判断したのなら開き直りだ。

 独善的な考えで強引に政策を推し進めたこの1年の首相の政権運営を象徴するような行動だ。

    ◆関係悪化に追い打ち

 首相の参拝に対し、中国外務省は「人類の良識に対する挑戦に、強烈な憤慨を表明する」と批判し、韓国政府は「嘆かわしく怒りを禁じ得ない」とする声明を発表した。

 在日米大使館も声明で「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」と異例の強い調子で非難した。首相が常々「日本外交の基軸」と強調する日米同盟をも揺るがしかねない。

 中韓両国と関係修復が進まないのは、中国の尖閣諸島周辺での挑発行為や、韓国・朴槿恵(パククネ)政権のかたくなな姿勢も影響しているのは確かだ。

 だが、原因の多くは首相の歴史認識や安全保障政策などにある。

 首相は村山談話や河野談話の見直しに言及し、8月の全国戦没者追悼式では1994年の村山富市首相以降、歴代首相が触れてきたアジア諸国への加害と反省に触れなかった。

 国家安全保障戦略では「積極的平和主義」の名の下、防衛力強化で中国に対抗する姿勢を鮮明にし、「愛国心」を養うことまで盛り込んだ。

 中韓との首脳会談は民主党政権下の昨年5月以降、途絶えている。

 北朝鮮の核・ミサイル開発や拉致問題など3国の連携が必要な課題を抱えながら、首脳会談がこれだけ長期間、開かれないのは異常事態だ。

 にもかかわらず、首相は外交関係の悪化に追い打ちをかけた。中韓との関係をどう立て直すつもりなのか。厳しく責任が問われる。

    ◆追悼のあり方検討を

 靖国神社は、先の戦争を「自存自衛の戦い」と肯定する歴史観を持つ。78年には東条英機元首相ら東京裁判のA級戦犯14人が合祀された。彼らが主導した戦争によって蹂躙(じゅうりん)された国が、首相の靖国参拝を批判するのは当然だ。

 首相は、吉田茂氏ら靖国神社を参拝した歴代首相の名前を挙げて自身の参拝を正当化しようとしたが、A級戦犯合祀前と後では参拝の意味合いは異なる。A級戦犯合祀問題を軽視している表れではないのか。

 政教分離上の問題も大きい。菅義偉官房長官は首相が私人の立場で参拝したと説明したが、公用車で神社に行き「内閣総理大臣」と記帳している。私的参拝とはみなしがたい。

 首相は参拝によって「中国や韓国の人々を傷つけるつもりは毛頭ない」と述べた。ならば新たな追悼のあり方の検討を急ぐ必要がある。

 その際、土台となるのは02年、当時の福田康夫官房長官の私的懇談会がまとめた、「国立」「無宗教」の施設が必要だとする提言だ。

 日本遺族会や自民党が反発し、提言はその後たなざらしになっている。首相も新追悼施設には否定的だが、それなら代案を示すべきだろう。

 戦没者追悼は本来、大切な行為だ。それが政治的、法的に問題になるような状況を放置してはならない。

 

ブーメラン(2013年12月27日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

子どものころの遊びで、習得せずに投げ出したものは数多いが、ブーメランは最たるものだった。何度投げてもむなしく失速する。スルスルと美しい曲線を描いて、手元に戻ってくることはついぞなかった

▼大人になっても「日本を取り戻す!」と拳を上げるのが好きな人だから、少年時代には、さぞかしブーメラン遊びも得意だったのではなかろうか。ただし、周囲の人たちの安全に十分に気を配っていたか、はなはだ疑問だが

▼安倍晋三首相はきのう、靖国神社を参拝した。積年の「痛恨」を晴らし、支持者に対する約束を果たした、との思いなのだろう。が、A級戦犯を合祀(ごうし)している靖国への参拝には、中韓ばかりではなく、国内にも反対する人たちはたくさんいる

▼「ご英霊に政権1年の歩みをご報告した」そうだ。「知る権利」を奪う法律を強引につくり、武器輸出三原則を骨抜きにし、集団的自衛権行使や原発再稼働を狙い…。「孫やひ孫のためによくやってくれている」と感謝の言葉が返ってきたのか。「過ちを繰り返すのはやめてくれ」との叫びは聞こえなかったか

▼オーストラリア先住民の狩猟具として知られるブーメランの原型は、足の速い獲物に投げつける「殺りく棒」と呼ばれるこん棒だったそう

▼気まぐれな経済の上昇気流がぱたりとやみ、暮らしが崩壊に向かったら―。「復古遊戯」は、危うすぎる。

 

首相の靖国参拝/憂慮すべき「信念」の突出だ(2013年12月27日配信『河北新報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は何故この時期に、しかも極めて唐突なタイミングで靖国神社に参拝したのだろうか。

 多くの国民は、あっけに取られる思いで参拝する安倍首相の姿を凝視したことだろう。靖国神社をめぐる、さまざまな問題に対する見解はともかく、驚かされた人が多かったはずだ。

 およそ1年間の短命に終わった第1次安倍政権(2006〜07年)で、首相は参拝の機会を見いだせなかった。そのことを「痛恨の極み」と言い表していただけに、念願をようやく果たしたという思いなのだろう。

 ただ、一国の政治をリードする首相の振る舞いとしては、深い思慮を欠いたと言わざるを得ない。予想された通り、中国、韓国の強い反発を招き、米国からも「失望の声明」が出されたことが、何よりの証しだ。

 冷え込んだままの中国、韓国との関係改善は遠のき、首相のこだわる国益にも影響しよう。

 個人の思いは思いとしても、立場を踏まえずに信念を貫けば、当然のように摩擦を引き起こす。首相は参拝後、「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と話したが、それは一方の側だけで通用する理屈にすぎない。

 平和を希求する「真意」を伝えようとするのであれば、何より他国への気遣いが欠かせない。それがなくては、発言は説得力を持ち得ない。

 安倍首相が2度目の政権を担って以来、いずれ参拝に踏み切るという見方は根強かった。昨年9月の自民党総裁選では、政権を担った際の参拝実現が半ば「公約」だった。

 首相に返り咲いてから1年、靖国神社の例大祭や終戦記念日といった節目はあったが、いずれも見送ってきた。中国や韓国との関係がこれ以上悪化しないよう、自制に努めたことが思量される。

 だが、参拝への強い意欲は変わらず、首相就任から丸1年のきのう、靖国神社を訪れた。

 安倍首相は「英霊に対しての尊崇の念」と、多くの政治家と同様の参拝理由を説明した。さらにこの日を選んだのは「安倍政権1年の歩みの報告」のためだったとも話した。

 参拝に伴って発表した談話には「不戦の誓い」や「過去への痛切な反省」、「中韓両国との敬意を持った友好関係」といった言葉も盛り込まれた。

 偽りのない真情なのだろう。安倍首相にとって参拝して平和と友好を誓うのは、ごく自然なことなのかもしれない。

 ただ、中国や韓国の人々がどう受け止めるかは、「個人の心の問題」とはまた別次元だ。本当に「敬意」を抱くのであれば、相手に依然として残る被害者感情を逆なでするような行為は慎まなければならない。

 この1年、安倍政権は国民の高い支持を受けてきたが、目指す方向には危うさが漂っている。政治的な力を背景に突っ走るのではなく、十分に抑制しつつ政権運営に当たることが切実に求められている。

 

不協和音(2013年12月27日配信『河北新報』−「河北春秋」)

 

 歳末に演奏される第9交響曲は、人類兄弟愛を歌い上げる。ナポレオン戦争で踏みにじられた欧州全土が手をつなぎ、争いのない世界にとベートーベンがメッセージを込めた。五大陸平和を願う五輪式典の定番である

▼何とも聞き心地の悪い不協和音だ。安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。いつもながら周りや聴衆に構わず、ひとりバイオリンをかき鳴らし悦に入っているよう

▼普通の政治家と首相の言動とは天地ほど違う。神社へ行くのは心の問題、歴史観の違いといっても、内政外交あらゆるところに波は広がる。作曲者が恐れるハーモニーの乱れである

▼参拝を期待する保守層をおもんばかったという。いまほど、そういう人にとって居心地のよい政権はあるまいに。愛国心、道徳教育、憲法改正と右寄り色は十分にある

▼この1年を見れば、発言のトーンは高まるばかり。4月、過去の植民地支配におわびを表した村山談話について首相は「そのまま継承しているわけではない」と答弁した

▼7月、麻生太郎副総理が「ワイマール憲法がある日、ナチス憲法に変わっていた、あの手口を学んだら」。ドイツ人の楽聖が生きていたら怒髪天を衝(つ)くか。暴走をいさめられない楽員たち、どこまで黙ってついてゆくのだろう。

 

「私の対話のドアは常にオープンだ」(2013年12月27日配信『秋田魁新報』−「北斗星」)

 

 「私の対話のドアは常にオープンだ」。そう繰り返して中韓首脳との対話再開に意欲を見せていた安倍首相。そのドアが今も開いていると思う人は、日本国内でもかなり減ってしまったのではないか

▼安倍政権の発足からちょうど1年となった昨日、首相は靖国神社を参拝した。特定秘密保護法を成立させ、集団的自衛権の行使容認を目指す中でのさらなる詰めの一手だ。中韓はともに「許し難い暴挙」と激高し、日本でも賛否が渦巻いている

▼なぜこのタイミングなのか。「正面突破の戦う政治」とも評される首相の政治姿勢。第1次安倍政権時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と悔やんでいたため、いずれ実行するのではとの見方はあった。だが、それにしても唐突である

▼参拝後に首相は「不戦の誓いをした」と胸を張り、「中国や韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と釈明した。領土問題などで中韓との関係は戦後最悪と言われるだけに、首相の「思い」が通じる状況にないことは明白なのに

▼日本の経済界が、参拝による影響を強く懸念するのも当然。対中輸出がようやく増加に転じたのに、日本製品の不買運動が再燃しかねない。中韓首脳との会談どころか、対話の糸口すら見いだせなくなってしまう

▼首相を支持する保守層をつなぎ留めるのが参拝の狙いとの見方もある。半面、日本の外交や経済への影響は甚大だ。国のトップとして熟慮の末の決断だったのか、疑問が拭えない。

 

孤立化懸念、外交戦略欠く/安倍首相靖国参拝(2013年12月27日配信『東奥日報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相がきのう、首相として初めて靖国神社を参拝した。現職首相の参拝は2006年に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来7年ぶりだ。

 東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への首相や閣僚の参拝に反対してきた中国や韓国からは当然、政府に対し猛烈な抗議があった。

 参拝後、安倍首相は「中国や韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と述べ、両国首脳との対話に意欲を示したが、既に冷却化している関係の改善が難しくなるのは必至だ。

 米国も在日大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに失望している」との声明を発表した。

 同盟国である米国も批判的な姿勢をとったことで安倍政権による外交孤立化の懸念が強まっている。十分な外交戦略を欠いた首相独走の印象が拭えない。

 第2次安倍政権発足からちょうど1年。参拝時機について首相は「1年の歩みを報告し再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」と説明した。

 中韓両国などを念頭に首相は「戦犯を崇拝する行為と誤解し批判する人がいる」とも指摘。両国に対し「直接説明したい。説明の機会があればありがたい」と呼びかけたが、両国がそのための首脳会談に応じることはないだろう。

 中国が劉延東副首相と小渕優子元少子化担当相ら日中友好議員連盟訪中団との会談をキャンセルするなど早くも外交への具体的な影響が出始めている。

 安倍首相が靖国神社参拝に執着する背景には太平洋戦争など日本の過去に対する個人的な歴史観があるとみられ、国会答弁でも一端がうかがえる。

 太平洋戦争の総括に関する質問に対して安倍首相は「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたんだろう、このように思う」と答えている。従来の政府答弁からかなり踏み込んだ表現だが、おそらく、これが安倍首相の本音と思われる。

 A級戦犯についても「国内法的には戦争犯罪人ではない」と答弁しており、靖国神社参拝が首相のこうした歴史観の延長線上にあることは間違いない。

 A級戦犯の靖国神社への合祀には昭和天皇も不快感を抱き、合祀の事実を知って以来、参拝しなくなったとされる。現在の天皇も即位後、参拝されていない。首相はそれも「誤解」というのだろうか。

 沖縄県・尖閣諸島や旧日本軍による従軍慰安婦などの問題で冷え込んだ日中、日韓関係の緊張はさらに高まった。米政府は中韓両国との関係悪化を懸念し日本に慎重な対応を求めてきただけに、今回の参拝で米側が日本に冷ややかな視線を注ぐのは確実だ。

 中韓との関係改善、北朝鮮をにらんだ日米韓の協調に向けて有効な外交戦略をどう構築するのか。安倍政権は自ら荷を重くした。

 

〈この年のこの日にもまた靖国のみやしろのことにうれひはふかし〉(2013年12月27日配信『東奥日報』−「天地人」)

 

〈この年のこの日にもまた靖国のみやしろのことにうれひはふかし〉。昭和天皇はかつて終戦の日に合わせてこう詠まれた。靖国神社には1978年、東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)された。昭和天皇の憂いが深い理由だ。合祀以降、昭和天皇も現在の天皇陛下も参拝されていない。

 「戦死者の霊を鎮(しず)めるという社(やしろ)の性格が変わる」「戦争に関係した国と将来、深い禍根を残すことになる」。昭和天皇にはこんな懸念があった。懸念は現実になった。首相や閣僚の参拝に先の大戦で被害を受けた中国や韓国が猛反発している。

 それを承知で安倍晋三首相はきのう靖国神社を参拝した。領土問題などで中韓との関係は首脳会談を開けないほど冷え切っている。その上にさらに冷水をかけてまでも保守層に配慮したということらしい。

 アベノミクス効果に酔って「暴走」し始めたか。今回は中韓が激しく非難しただけでなく、米国まで「失望した」と表明した。日本が孤立しないか心配になる。

 「日本のために尊い命を犠牲にした英霊に尊崇の念を表した」。その首相の気持ちに国民も異論はなかろう。だが、中韓との亀裂を深めるとなれば話は別だ。そもそも国民の象徴である天皇陛下が参拝できない状況はおかしい。英霊のためを思うなら、そのことを改善する方が先ではないのか。

 

首相靖国参拝 国益の観点で代償は大きく(2013年12月27日配信『デイリー東北聞』−「時評」)

 

安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。現職首相の参拝は、2006年の終戦記念日の小泉純一郎氏以来7年ぶり。中国と韓国は激しく反発しており、冷却化している両国との関係改善がさらに遠のくのは必至だ。

 安倍首相は、第1次政権の間に靖国神社を参拝できなかったのは「痛恨の極みだった」と繰り返し発言してきた。第2次政権でも、中韓両国に配慮する形で、今年の終戦記念日や春秋の例大祭での参拝を控えていた。

 しかし、中韓とも安倍首相との首脳会談に応じる構えを見せず、関係打開が見通せない状態が続く。一方、自民党の固い支持基盤である保守層からは靖国を参拝しない首相への不満が募っていた。

 そうした中で、第2次安倍政権発足から1年という節目を選んで参拝に踏み切った。一部の保守層は拍手喝采だろう。

 だが、より広い国益という観点から見ると、支払わなければならない代償は大きい。中韓に対日強硬姿勢を継続する口実を与えることになり、東アジアの安全保障環境にも悪影響を及ぼす。

 中韓が日本の「右傾化」批判を強めることは間違いない。このままでは、両国との首脳会談ができなかったことが、第2次安倍政権での首相の「痛恨の極み」にもなりかねない。

 参拝後、首相は「日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表した」として、「中国、韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と、両国に理解を求めていく考えを強調した。

 しかし靖国神社に東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されている以上、中韓両国が参拝を容認することはあり得ない。中国の程永華駐日大使は、首相参拝直後に「強烈に抗議して非難する。決して受け入れられない」と強い表現で日本政府に抗議した。

 「積極的平和主義」を掲げ、集団的自衛権の行使容認、さらには憲法改正も視野に入れる安倍政権に対する中韓の警戒感が一層強まることは避けられない。安倍政権の安全保障政策を支持している米国も、歴史認識では日本に自制を促してきただけに、首相の靖国参拝には困惑していることだろう。

 一国の指導者が、国のために命を犠牲にした国民に対して直接哀悼の意を表すことは当然だ。一方で、今の靖国神社でそれを行うことは、首相の言うように「政治的、外交的な問題」になるというのが現実だ。

 首相を含めた全ての日本国民が何のわだかまりもなく参拝できる、新たな国立施設の建設をあらためて検討すべきだ。保守層に信用がある安倍首相だからこそ実現できるのではないか。

 

私の対話のドアは常にオープンだ(2013年12月27日配信『秋田魁新報』−「北斗星」)

 

 「私の対話のドアは常にオープンだ」。そう繰り返して中韓首脳との対話再開に意欲を見せていた安倍首相。そのドアが今も開いていると思う人は、日本国内でもかなり減ってしまったのではないか

▼安倍政権の発足からちょうど1年となった昨日、首相は靖国神社を参拝した。特定秘密保護法を成立させ、集団的自衛権の行使容認を目指す中でのさらなる詰めの一手だ。中韓はともに「許し難い暴挙」と激高し、日本でも賛否が渦巻いている

▼なぜこのタイミングなのか。「正面突破の戦う政治」とも評される首相の政治姿勢。第1次安倍政権時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と悔やんでいたため、いずれ実行するのではとの見方はあった。だが、それにしても唐突である

▼参拝後に首相は「不戦の誓いをした」と胸を張り、「中国や韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と釈明した。領土問題などで中韓との関係は戦後最悪と言われるだけに、首相の「思い」が通じる状況にないことは明白なのに

▼日本の経済界が、参拝による影響を強く懸念するのも当然。対中輸出がようやく増加に転じたのに、日本製品の不買運動が再燃しかねない。中韓首脳との会談どころか、対話の糸口すら見いだせなくなってしまう

▼首相を支持する保守層をつなぎ留めるのが参拝の狙いとの見方もある。半面、日本の外交や経済への影響は甚大だ。国のトップとして熟慮の末の決断だったのか、疑問が拭えない。

 

首相が靖国参拝 自ら「扉」を閉ざすのか(2013年12月27日配信『岩手日報』−「論説」)

 

 自ら「対話の扉」を閉ざそうというのだろうか。安倍晋三首相が政権発足1年の節目となった26日、靖国神社を参拝した。東アジアの緊張をさらに危うくする行動に危惧を感じざるを得ない。

 参拝に中国、韓国が猛反発することは必至だ。安倍首相は過去にないほど悪化した日中、日韓関係について「対話の扉はいつも開いている」と述べてきたが、それを投げ出す行動に疑問を覚える。

 首相の参拝は第1次安倍内閣時代を含め、首相在任中で初めて。首相は「第1次内閣で参拝できなかったことは痛恨の極み」と語った。

 保守本流の政治家としての思いは理解できないわけではない。しかし、一政治家と首相の参拝の重みはまったく異なる。それは政治・外交問題に直結するからだ。

 参拝がどれほどの影響を及ぼすかを考えなかったわけはないだろう。それにもかかわらず、あえて踏み切った真意が見えない。

 首相は昨年末の就任後、中国や韓国に配慮して自制的な姿勢を見せてきた。靖国神社には4月の春季例大祭、8月の終戦記念日、秋季例大祭とも参拝を見送った。

 こうしたメッセージがなかなか届かないことへのいらだちもあったのかもしれない。しかし、中韓両国がそれを肯定的に受け止められないほど関係が悪化している現実をこそ、直視しなければならなかった。

 首相は歴代首相が参拝していることを挙げたが、当時とは両国との関係の危うさが違う。関係改善がさらに遠のくことは避けられない。

 東アジアの緊張が高まる事態を避けたい米国も、非公式に靖国参拝見送りを要請していたと言われる。同盟国の忠告にも耳を貸さなかったことになる。

 中国、韓国とも、さらに強硬姿勢を見せてくることは間違いない。この地域で緊張が極度に高まることを恐れる。それを口実に防衛力の増強を進めるのなら、これほどあべこべな話はない。

 

首相靖国参拝 明らかな誤りだ(2013年12月27日配信『茨城新聞』−「論説」)

 

安倍晋三首相が、首相として初めて靖国神社を参拝した。東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への首相や閣僚の参拝に反対してきた中国、韓国に対して安倍首相は「気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と述べ、対話に意欲を示す。

しかし、すでに冷却化している関係の改善がさらに難しくなるのは必至。米国も在日大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を発表した。今回の参拝が誤りであることは明らかだ。

 現職首相の靖国神社参拝としては、2006年に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来7年ぶり。第2次内閣発足からちょうど1年のタイミングで、安倍首相は「政権1年の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」と説明した。

 その上で中韓両国に対して「直接説明したい。説明の機会があればありがたい」と呼びかけたが、参拝理由を説明するための首脳会談に応ずることはないだろう。

 参拝に対して中国外務省は「人類の良識に対する挑戦に、強烈な憤慨を表明する」との談話を発表。韓国政府も「韓日関係は無論、北東アジアの安定と協力を根本から損ねる時代錯誤的な行為だ」との声明を出した。

 さらに中国が劉延東副首相と小渕優子元少子化担当相ら日中友好議員連盟訪中団との会談をキャンセルするなど具体的な影響も出始めている。

 安倍首相が靖国神社参拝に執着する背景には太平洋戦争など日本の過去に対する個人的な歴史観があるとみられる。それは今年3月の衆院予算委員会での答弁にうかがえる。太平洋戦争の総括に関する野党議員の質問に対して安倍首相は「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたんだろう、このように思う」と答弁している。

 「わが国は、サンフランシスコ講和条約第11条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係においてこの裁判について異議を述べる立場にはない」と事実関係にとどめるのがそれまでの政府答弁。「勝者の判断による断罪」はかなり踏み込んだ表現だが、おそらく、これが安倍首相の本音と思われる。

 さらにA級戦犯についても国会で「国内法的には戦争犯罪人ではない」と答弁しており、靖国神社参拝が首相のこうした歴史観の延長線上にあることは間違いない。

一挙手一投足でさえ大きな意味を持つ国の指導者の行動は慎重の上にも慎重であるべきだ。安倍首相周辺は「中韓両国と関係を改善したいという思いは本物だ。改善後に参拝する方が悪影響が大きい」と釈明する。しかし、どうやって関係を改善するのか。シナリオなき決断は指導者として許されない。

 安倍首相が最重視する米国との関係にも影響を与えかねない。米政府は、中韓両国との関係悪化を懸念しており、歴史問題に関して日本に慎重な対応を求めてきている。

 そんな意向を踏まえず、靖国神社参拝に踏み切った安倍首相は米政府にどう映るのか。在日米大使館の声明にある「失望」という言葉は重い。首相はよくよく頭を冷やして考え直すべきだ。

 

首相靖国参拝 隣国との関係どう保つか(2013年12月27日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 冷静な対応を求める声が内外に出ていたのに、「見送り」という選択肢は毛頭なかったようだ。

 安倍晋三首相が東京・九段北の靖国神社を参拝した。首相は心に期すものがあったのだろうが、あまりにも唐突な発表だった。

 現職の総理大臣としては、2006年の終戦の日、8月15日に参拝した当時の小泉純一郎首相以来で、7年ぶりのことだ。

 小泉氏の後継に就いた安倍首相は、1次政権では参拝をしていない。このことを「痛恨の極み」という言葉で表現した首相にとって、参拝は念願だったはずだ。

 年末の慌ただしさに紛れての行動のようにも映るが、12月26日は安倍氏が首相に選出され、内閣が発足した日である。2次政権誕生から1年の節目を選んだのだ。

 戦前は国家神道の精神的支柱であり、東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されている神社への首相参拝に、中国や韓国は強く反発している。

 4月の春季例大祭には、首相は参拝を控えた。7月に参院選を控えていることを考慮したはずだ。

 終戦記念日も自重した。9月に五輪開催地選考があり、アジアの代表として東京開催に導くには中国、韓国に不快感を与えないのが得策と考えたとの見方も流れた。

 10月の秋季例大祭も見送っており、12月説がくすぶっていたのは確かだ。就任から丸々1年も参拝しないことは避けたくて、タイミングを見計らっていたのだろうか。

 中韓両国からは「人類の良識に対する挑戦」などと憤慨する声が出ている。軍国主義の復活との主張が展開されることも予想されよう。

 沖縄県・尖閣諸島をめぐる対立が深まる中国とは、防空識別圏の設定で緊張が高まっている。関係悪化に拍車を掛けないか心配だ。

 首相は中韓に対して「対話の窓はオープンだ」と語っているが、これで窓は固く閉ざされ、対話は遠のくのではないか。首脳会談の実現は一層見通せなくなった。

 中国は、26日に予定されていた劉延東副首相と日中友好議員連盟の会談をキャンセルした。

 米国はこれまでも歴史問題で日本に慎重な対応を求めており、中韓との早期の関係改善に努めるよう訴えていた。東アジアの不安定化につながることに、懸念を示している。

 首相は「日本のために尊い命を犠牲にした英霊に尊崇の念を表するために手を合わせた」と語った。

 たとえ「心の問題だ」と説明しても、総理の立場にある人の行動は、政治問題や外交問題になることは当然、念頭にあるはずだ。

 これ以上先送りすれば、自分を支えてくれる保守層が失望するので、参拝に踏み切ったとの観測もある。理解できるものではない。

 首相や閣僚の靖国参拝は憲法の政教分離の原則に反するという批判にこそ、首相は答えるべきである。

 何より隣国と修復する糸口を見いだす努力が求められる。自らの信条を貫くことだけが国益になるのかどうか、よく考えてもらいたい。

 

安全装置を外した銃(2013年12月27日配信『新潟日報』−「日報抄」)

 

 作り物と分かっていても怖くなる。優れた映像作品とは、そういうものなのだろう。長岡市の県立近代美術館で特撮短編映画「巨神兵東京に現わる」を見た。異形の巨人が、街を焼き尽くすのを人類は止めることができない

▼作品はさまざまに解釈できる。ビルが崩れ、住宅街が燃え上がる場面は、つい先日公表された首都直下地震の被害想定の大きさを連想させた。戦時を知る人なら空襲の恐怖がよみがえったかもしれない。大地震にせよ、戦争にせよ、その凶暴な力の前に人の命はあまりに弱い

▼銃の殺傷力も同様である。武器が潜む社会の怖さを知る事件が続いた。京都で王将フードサービス社長が射殺され、北九州では漁協組合長が凶弾に倒れた。眼前に銃口を突き付けられた時の驚きはいかばかりか

▼銃はわが身を守るのに必要という主張がある。旧ソ連の自動小銃AK47の生みの親で、先ごろ亡くなったカラシニコフ氏は、第2次大戦中にドイツ軍の砲撃で負傷したことが銃器設計の道に入るきっかけだった。その後、AK47は世界の紛争地に広まり、今も大勢の命を奪っている

▼内戦の危機にある南スーダンの国連部隊に、政府は銃弾1万発を提供した。武器輸出を禁ずる「三原則」の例外とする判断だった。「日本発」の銃弾が誰の命も奪うことなく弾薬庫に眠り続けるのを願うばかりだ

▼安倍晋三首相はきのう靖国神社を参拝した。多くの異論を押し切った形である。圧倒的な力にブレーキをかける役がいないのは、安全装置を外した銃のようで恐ろしい。

 

首相靖国参拝 国益忘れ信条優先とは(2013年12月27日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が悲願としてきた靖国神社の参拝に踏み切った。

 過去の歴史認識をめぐって中国や韓国との間で冷え切った関係が続き、米国もアジアの不安定化に神経をとがらせる緊迫した状況下である。

 先の大戦のA級戦犯を合祀(ごうし)した靖国神社への政治家の参拝が外交のトゲになって久しい。首相は「対話のドアは常にオープンにしている」と語ってきた。参拝決行は自らドアを閉ざすような行為で到底理解できない。

 首相は第2次政権が発足する前から「首相在任中に参拝できなかったのは痛恨の極み」と語り、意欲を持ち続けてきた。

 政権発足後は中韓両国との関係改善などを念頭に、春秋の例大祭や終戦記念日での自身の参拝を控えてはいる。が、閣僚については「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」「閣僚が私人として参拝するかどうかは心の問題で自由だ」と擁護してきた。

 首相や閣僚の靖国参拝は憲法が定める政教分離の原則に反するとの指摘も絶えない。この面からも問題ある行動だった。

 首相は参拝後、記者団に「全ての戦争で亡くなった人たちのためにお祈りした」「中国、韓国の人の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」「(中韓の首脳には)直接説明したい」などと語り、国内外に理解を求めた。

 中韓両国は激しく反発している。日本製品のボイコットが起きたり、尖閣問題などで不測の事態を招くリスクを高めたりすることになるかもしれない。

 秋に来日した米国のケリー国務長官らは千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、靖国参拝とは違った追悼のあり方を暗に示唆した。米政府も今回の参拝に異例の失望を表明しており、国際社会の中で日本が孤立化する恐れさえある。

 首相はなぜ、第2次政権発足1年の節目の日を選んだのか。対外的な影響を最小限に抑える機会を周到にうかがっていたとの見方もあるが、波紋がどのように広がっていくかは予測できない。

 対立がさらに激化するようなことになれば、首相の責任は免れまい。事態を一刻も早く沈静化させる努力が必要だ。

 自分の信念と現実的な外交の板挟みになるのは国のトップの常である。安倍首相はどうだろうか。このところ自身の政治信条を優先させるあまり、国益を損ないかねない危うさがある。これからの首相の言動をさらに注意深く見ていかなければならない。

 

偏狭なナショナリズム(2013年12月27日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

山口県萩市に幕末の思想家吉田松陰ゆかりの松陰神社がある。安倍晋三首相が8月、参拝した。間違いのない正しい判断をすると誓いを立てた―。記者団に答えていた。きのうの靖国参拝は正しい判断なのか

   ◆

松陰は安倍首相が尊敬する人物だ。祖父岸信介が育ち自らの選挙区でもある山口が生んだ偉人である。だが思想には危ういものがあった。米国への密航に失敗し、獄中から門下生に書いた「幽囚録」には一端がうかがえる。軍備増強を説いたくだりである

   ◆

〈カムチャツカ、オホーツクを奪い、朝鮮に貢納させ、北は満州の地を割き取り、南は台湾・ルソン諸島を収め進取の勢いを示すべし〉。門下の山県有朋、伊藤博文や後世の長州出身者らが実践し、太平洋戦争に行き着いた。松陰は維新のさきがけとして靖国神社にまつられている

   ◆

安倍政権発足から1年。「愛国心」がやたら語られるようになった。国家安全保障戦略は国民一人一人に「愛国心」を養え―という。第1次政権の改正教育基本法にも「国と郷土を愛する態度」が書き込まれた。だがこの時は国民会議の場で慎重論が出た

   ◆

いわく、いろいろな失敗で鬱積(うっせき)した日本の状況は右の人が火をつけたら一気に爆発し右傾化する。だから本当は見直しを論じるのは危険な時期とさえ思う―。今は異論すら聞こえない。靖国参拝が偏狭なナショナリズムの火を広げないか。

 

首相靖国参拝 きしむ外交、戦略を示すべき(2013年12月27日配信『福井新聞』−「論説」)

 

 安倍晋三首相は、政権発足1年の節目の日に初めて靖国神社に参拝した。東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されており、中韓両国は激しく反発している。

 第1次安倍内閣で参拝しなかったことを「痛恨の極み」と述べ、参拝意欲を見せてきた首相だ。国会の衆参ねじれ解消で政権運営に自信を深め、景気も好転。周辺の保守層にも配慮しての決行だろう。だが、その決断によって何が得られるのか。

 国家主義を強める安倍政権への懸念は、米国を含め広がりを見せる。東アジアの緊張状態を柔軟な対話外交で打開する道はますます遠ざかるだろう。独自の歴史観と政治信条を遂行する「唯我独尊」では済まされぬ。

 国民の心情として、戦没者をまつる靖国参拝は許容の範囲かもしれない。しかし、それなら歴代首相や閣僚が常にそろって参拝してきたはずである。

 安倍首相が参院選を控えた4月の春季例大祭や、選挙後の終戦記念日、秋季例大祭でも参拝を見送ったのはなぜか。それは選挙や中韓首脳対話をにらんだものだった。とすれば今回の参拝は多分に恣意(しい)的であり、慎重さに欠ける。どれだけ国民や周辺国の理解が得られるのか。

 首相として初めて1975年の終戦記念日に三木武夫元首相が参拝。当時は政教分離の問題で「私人」の立場だった。78年に東条英機元首相らA級戦犯が合祀された後は、中曽根康弘元首相が中国の反発で断念した経緯もある。以降は橋本龍太郎、小泉純一郎両元首相だけだ。

 特に小泉氏の毎年の参拝は中韓関係を悪化させてきた。憲法の政教分離原則に反するとの見方も依然強い。現職首相や閣僚の参拝には、「私人」などと責任回避せず、明確な立場が求められる。そのリスクを冷静に判断するのが政治家であろう。

 安倍首相はこれまで「尊い英霊に尊崇の念を表する自由を確保していくのは当然のこと」と強調。無宗教の新たな国立施設建設についても「間違いだ」と国会で言い放った。

 安倍首相のぶれない態度に、石破茂自民党幹事長は「首相の真意を分かっていただければ、外交問題への発展を避けることは可能」と述べた。超党派の議員連盟からも「平和を祈るための参拝。外国からとやかく言われる筋合いはない」と強気の発言が相次ぐ。批判は信条の自由を侵す内政干渉、反戦平和を祈願して何が悪い−との発想だ。

 ならば首相の「中韓両国に対して敬意をもって友好関係を築いていきたい」との談話をどう具体化させるのか。批判覚悟の決行である。良好な関係の再構築へ向けて具体的なシナリオがなければ、一国のリーダーとしての姿勢と無策を厳しく問われることになる。政治だけでなく、経済関係や民間交流などへの悪影響は必至だ。

 国民の批判や懸念をはじき返し、国家安全保障会議や特定秘密保護法を実現。首相は憲法改正も視野に「中央突破主義」を貫く構えだ。その延長線上に今回の靖国参拝がある。

 米国内には首相の歴史認識を疑問視し、領土をめぐる強硬姿勢にも懸念を示す声がある。在日大使館は「失望」を表明した。米中の戦略的接近が一段と増し、一方で日米関係がきしめば日本は孤立しかねない。安倍政権の外交戦略がかすむ。

 

戦犯の罪深さ自覚せよ(2013年12月27日配信『神奈川新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。年内に中国や韓国との首脳会談が実現できないことや、就任1年を迎えたことから決断したようだ。

 中国は一方的に防空識別圏を設定し、領海侵犯も繰り返す。韓国の朴槿恵大統領からの日本批判はやまない。それならばことしのうちに「年1回の参拝」という“公約”を果たしてしまおうとの思惑ものぞく。

 意地の張り合いの果てに未来はない。今回の参拝により中韓との対立はますます深まるだろう。安倍首相に打開策があるのかを問いたい。野党には来年の通常国会などでの厳しい追及を望みたい。

 今回の参拝について「(合祀されている)戦犯を崇拝する行為ではない」と安倍首相は説明した。歴史をひもとけば、確かに東条英機元首相らの「A級戦犯」の位置付けは第2次大戦の戦勝国が定めたものだ。日本として束縛される理由はない、というのが安倍首相ら参拝を行った首相たちの主張だろう。

 だが、日本はその大戦に負けたのだ。東条元首相らは日本国民に対して敗戦の責任を負っている。

 彼らは命の危険にさらされ続ける遠く離れた最前線へ向け、はるかに安全な日本本土から戦いの指揮を執った。無能な判断の果てに民間人を含めて多くの犠牲者が出た。

 「連合国との物量の差」も敗戦理由として挙がる。ならば開戦の可否の判断に当たり、なぜそうした見極めができなかったのか。

 しかも敗戦後も命をつなぎ、東京裁判を経て刑死した。東条氏が陸相当時に出した訓令には「生きて虜囚の辱めを受けず」との一節がある。戦地でそれに従い、多くの軍人や民間人が自決したとされる。命令を発した人たちの死にざまに照らせば、自決を選んだ人たちやその遺族の無念さは計り知れない。

 首相による参拝に反発が生じてきたのは時の国のリーダーが、本来なら反面教師とすべき無能な指導者たちに頭を下げるのと同義だからだ。それは「いつか来た道」をまた逆戻りしかねないとの不安も生む。

 歴史を直視するリーダーであれば靖国へ足が向くはずがない。安倍首相は「A級戦犯」の罪深さを自覚し距離を置くべきだろう。

 そもそも政教分離の視点から首相は宗教施設との関係に慎重であるべきだ。憲法上の当然の原則を指摘せねばならない現実が情けない。

 

首相靖国参拝(2013年12月27日配信『岐阜新聞』−「社説」)

 

外交的影響を考えたのか

 安倍晋三首相が、首相として初めて靖国神社を参拝した。東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社への首相や閣僚の参拝に反対してきた中国、韓国に対して安倍首相は「気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と述べ、対話に意欲を示す。

 しかし、すでに冷却化している関係の改善がさらに難しくなるのは必至。米国も在日大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を発表した。今回の参拝の影響が大きいことは明らかだ。

 現職首相の靖国神社参拝としては、2006年に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来7年ぶり。第2次内閣発足からちょうど1年のタイミングで、安倍首相は「政権1年の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」と説明した。

 その上で中韓両国に対して「直接説明したい。説明の機会があればありがたい」と呼びかけたが、参拝理由を説明するための首脳会談に応ずることはないだろう。

 参拝に対して中国外務省は「人類の良識に対する挑戦に、強烈な憤慨を表明する」との談話を発表。韓国政府も「韓日関係は無論、北東アジアの安定と協力を根本から損ねる時代錯誤的な行為だ」との声明を出した。

 さらに中国が劉延東副首相と小渕優子元少子化担当相ら日中友好議員連盟訪中団との会談をキャンセルするなど具体的な影響も出始めている。

 安倍首相が靖国神社参拝に執着する背景には太平洋戦争など日本の過去に対する個人的な歴史観があるとみられる。それは今年3月の衆院 予算委員会での答弁にうかがえる。太平洋戦争の総括に関する野 党議員の質問に対して安倍 首相は「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたんだろう、このように思う」と答弁している。

 「わが国は、サンフランシスコ講和条約第11条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係においてこの裁判について異議を述べる立場にはない」と事実関係にとどめるのがそれまでの政府答弁。「勝者の判断による断罪」はかなり踏み込んだ表現だが、おそらく、これが安倍首相の本音と思われる。

 さらにA級戦犯についても国会で「国内法的には戦争犯罪人ではない」と答弁しており、靖国神社参拝が首相のこうした歴史観の延長線上にあることは間違いない。

 一挙手一投足でさえ大きな意味を持つ国の指導者の行動は慎重の上にも慎重であるべきだ。安倍首相周辺は「中韓両国と関係を改善したいという思いは本物だ。改善後に参拝する方が悪影響が大きい」と釈明する。しかし、どうやって関係を改善するのか。シナリオなき決断は指導者として許されない。

 安倍首相が最重視する米国との関係にも影響を与えかねない。米政府は、中韓両国との関係悪化を懸念しており、歴史問題に関して日本に慎重な対応を求めてきている。

 そんな意向を踏まえず、靖国神社参拝に踏み切った安倍首相は米政府にどう映るのか。在日米大使館の声明にある「失望」という言葉は重い。首相は冷静になって考え直すべきだ。

 

首相の靖国参拝 外交問題にしない努力を(2013年12月27日配信『北国新聞』−「社説」)

 

安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。第2次内閣発足以来、首相として参拝する意向を 示してきたが、外交問題化を避ける狙いから参拝を自重してきた。政権発足から1年の節目に、かねてからの思いを遂げようと思い立ったのだろう。

 信仰の自由が保障された国で、民主的な選挙によって選ばれた政治家が、戦死者の霊を 自分が信じる方法で追悼することに、非難されるいわれはない。参拝はあくまで個人の心の問題であり、死者の霊を平等に扱い、悼むことは、ごく自然な所作である。それを「政教分離に反する」や「憲法違反」などと、もっともらしく非難したところで、多くの日本人の賛同は得られまい。

 首相が参拝してもしなくても、現在の日中、日韓関係が劇的に変化するとも思えない。 首脳会談もできないほど悪化した外交関係を正常化させる責任は、日本側だけにあるのではなく、中国、韓国の側も同様の責任を負っている。中韓両国の思惑はどうあれ、日本側は外交問題化することを徹底して避けていくほかない。

 安倍首相は米外交雑誌のインタビューで、「歴代の米国大統領が足を運ぶアーリントン国立墓地には、南北戦争で敗れた南軍の将兵が埋葬されている。戦 死者に弔意を表すことは、南軍が守ろうとした奴隷制度の承認を意味しない。靖国神社参拝も同じことがいえる」などと語った。こうした持論を国内外で繰り返し説明し、広く理解を求める努力を続けてほしい。

 中国や韓国は、靖国神社にA級戦犯の霊が合祀されていることを理由に、首相の参拝を 非難している。「日本人は先の戦争を心から反省していないのではないか」という疑念を持たれているなら、他の東南アジア諸国からも反発があっても不思議はない。

 だが、靖国参拝を批判する国は中国と韓国だけである。安倍首相が靖国を参拝しなかった終戦記念日も、両国は安倍内閣の閣僚の参拝を強く非難した。靖国参拝を口実に、日本をたたくことで、「反日」をあおり、国内の不満をそらして政権を安定させたい思惑が透けて見える。

 

安倍首相が靖国参拝 外交孤立招く誤った道(2013年12月27日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相は、先の大戦における日本の戦争責任をあいまいにしたいのか。首相が政権発足1年を迎えた26日、東京・九段北の靖国神社を参拝したことは、首相の歴史認識についての疑念を改めて国内外に抱かせるものだ。外交的な悪影響は計り知れない。中国、韓国との関係改善はさらに遠のき、米国の信頼も失う。参拝は誤った判断だ。

 「二度と再び戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくる不戦の誓いをした」。安倍首相は、現職首相として2006年の小泉純一郎首相以来7年ぶりに靖国参拝した理由を説明した。本殿に加え、氏名不詳の国内外の戦没者をまつっているとされる鎮霊社も参拝した。

 ◇侵略を否定するのか

 私たちは、国の指導者が戦没者を追悼するのは本来は自然な行為であり、誰もがわだかまりなく戦没者を追悼できるような解決策を見いだすべきだと主張してきた。しかし靖国は首相が戦没者を追悼する場としてふさわしくない。先の大戦の指導者たちがまつられているからだ。

 靖国神社は、第二次世界大戦の終戦から33年たった1978年、極東国際軍事裁判(東京裁判)で侵略戦争を指導した「平和に対する罪」で有罪になったA級戦犯を、他の戦没者とあわせてまつった。合祀(ごうし)の背景には、東京裁判の正当性やアジアへの侵略戦争という歴史認識に否定的な歴史観がある。

 戦後日本は、52年に発効したサンフランシスコ講和条約で東京裁判を受け入れ、国際社会に復帰した。それなのに、こうした背景を持つ靖国に首相が参拝すれば、日本は歴史を反省せず、歴史の修正を試み、米国中心に築かれた戦後の国際秩序に挑戦していると受け取られかねない。

 昭和天皇が靖国を参拝しなくなったのは、A級戦犯の合祀に不快感を持っていたからとされる。それを示す富田朝彦元宮内庁長官のメモが明らかになっている。

 首相は参拝は戦犯崇拝ではないと釈明している。だが首相の歴史認識には、靖国の歴史観に通じる東京裁判への疑念や侵略を否定したい心情があるとみられる。首相は国会で、大戦について「侵略の定義は定まっていない」と侵略を否定したと受け取られかねない発言をした。東京裁判についても「連合国側の勝者の断罪」と語った。

 首相自身に歴史修正の意図はなかったとしても、問題は国内外からどう見られるかだ。それに無頓着であっていいはずがない。

 米国のオバマ政権はこれまで安倍政権の右傾化に懸念を持ち、靖国参拝しないようけん制してきた。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が10月に来日した際、靖国でなく、無名戦士らの遺骨を納めた東京都千代田区の千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れたのもその一環とみる向きが多い。

 このタイミングで首相が靖国参拝したのは、沖縄県の米軍普天間飛行場の移設など、同盟強化の安全保障政策に見通しが立ち始めたため、参拝しても日米関係への悪影響を最小限にとどめられると判断したのではないかともみられている。

 だが甘い見立ては早くも崩れつつある。東京の米国大使館は「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米政府は失望している」と同盟国としては極めて厳しい声明を発表した。

 ◇米国の信頼を失う

 米国は中国と対立しながらも、中国との新しい関係を模索している。日本外務省が先に発表した世論調査では、米国民にアジアで最も重要なパートナーを聞いたところ、中国が1位で、日本は2位に転落した。

 首相は、いったい米国との信頼関係をどう再構築するつもりなのか。

 中国、韓国との関係改善については、首相は「対話のドアはオープンだ」という。しかし、ドアの前に靖国参拝という障害物を自ら作り、東アジア地域のビジョンは示さない。それでドアを開けない相手が悪いと言わんばかりではないか。

 沖縄県・尖閣諸島周辺の海や空では、不測の事態が起きる危険性が高まっている。中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことで、危険度はさらに増した。危機回避のメカニズムを早急に作るべきなのに、話し合いはできそうにない。

 首相は来春以降、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認を目指すとみられる。しかし、大戦の歴史認識を疑われるような行動をとっているようでは、国民や関係各国の理解は得られないだろう。

 戦没者の追悼のあり方をめぐって割れる国内世論にも悪影響を与えかねない。過去にA級戦犯の分祀や無宗教の国立追悼施設の建設が検討されてきたが、首相は議論を封じたまま、国内でも異論のある靖国参拝に踏み切った。賛成、反対両派の溝は深まりそうだ。

 首相は前回の首相在任中に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語ってきた。参拝は、そうした個人の政治信条を、国益よりも優先した結果にみえる。首相は自ら靖国を外交問題化し、日本を国際社会で孤立させ、国益を損ないかねない誤った道を歩み始めたのではないか。そんな危惧を抱かざるを得ない。

 

「靖国とは国をやすらかにすることであるが」とは…(2013年12月27日配信『毎日新聞』−「余禄」)

 

「靖国とは国をやすらかにすることであるが」とは側近が記す昭和天皇の嘆きである。靖国神社のA級戦犯合祀(ごうし)への不満を示した言葉という。「この年のこの日にもまた靖国のみやしろのことにうれひはふかし」というお歌の解説にある

▲昭和天皇が靖国参拝をやめたのはA級戦犯合祀への不快感からだったのは、近年元宮内庁長官のメモで明らかになった。神社と折衝した先の側近は「国を安らかにしようと奮戦した人を祭る神社に国を危うきに至らしめたとされた人を合祀する」違和感も言い残した

▲「戦犯崇拝というのは誤解」。7年ぶりの首相の靖国参拝に踏み切った安倍晋三首相は予想される中国や韓国の反発、そして米国はじめ諸国の懸念にこう釈明した。第1次安倍政権で参拝できなかったのを「痛恨(つうこん)の極み」と述べていた首相には念願の参拝実現である

▲むろん「尊い命を犠牲にされたご英霊(えいれい)に対して、哀悼(あいとう)の誠をささげる」という首相の気持ちにうそはあるまい。だが先の戦争の指導者をも祭る神社への首相参拝が国民全体を巻き込む激しい政治、外交的摩擦を呼び起こすのは首相自身が一番よく分かっていたはずだ

▲中韓との関係改善は当分絶望的となり、北朝鮮が不安定化する東アジアにあって米国も失望を表明したこの参拝である。中韓国内の日本の理解者を含め国際社会での友人を増やさねばならない今、かつてのような日本の孤立を喜ぶ人々へ塩を送ってどうするつもりか

▲一国の指導者の決断で重要なのはその心情の善悪ではない。決断の結果を自分らの運命として受け入れねばならない国民に対する責任感にほかならない。

 

首相と靖国神社―独りよがりの不毛な参拝(2013年12月27日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 内向きな、あまりに内向きな振る舞いの無責任さに、驚くほかはない。

 安倍首相がきのう、靖国神社に参拝した。首相として参拝したのは初めてだ。

 安倍氏はかねて、2006年からの第1次内閣時代に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語ってきた。一方で、政治、外交問題になるのを避けるため、参拝は控えてきた。

 そうした配慮を押しのけて参拝に踏み切ったのは、「英霊」とは何の関係もない、自身の首相就任1年の日だった。

 首相がどんな理由を挙げようとも、この参拝を正当化することはできない。

 中国や韓国が反発するという理由からだけではない。首相の行為は、日本人の戦争への向き合い方から、安全保障、経済まで広い範囲に深刻な影響を与えるからだ。

■戦後日本への背信

 首相は参拝後、「母を残し、愛する妻や子を残し、戦場で散った英霊のご冥福をお祈りし、手を合わせる。それ以外のものでは全くない」と語った。

 あの戦争に巻き込まれ、理不尽な死を余儀なくされた人たちを悼む気持ちに異論はない。

 だが、靖国神社に現職の首相や閣僚が参拝すれば、純粋な追悼を超える別の意味が加わる。

 政治と宗教を切り離す。それが、憲法が定める原則である。その背景には、軍国主義と国家神道が結びついた、苦い経験がある。

 戦前の靖国神社は、亡くなった軍人らを「神」としてまつる国家神道の中心だった。戦後になっても、戦争を指導し、若者を戦場に追いやったA級戦犯をひそかに合祀(ごうし)した。

 境内にある「遊就館」の展示内容とあわせて考えれば、その存在は一宗教法人というにとどまらない。あの歴史を正当化する政治性を帯びた神社であることは明らかだ。

 そこに首相が参拝すれば、その歴史観を肯定していると受け止められても仕方ない。

 それでも参拝するというのなら、戦死者を悼みつつ、永遠の不戦を誓った戦後の日本人の歩みに背を向ける意思表示にほかならない。

■外交にいらぬ火種

 首相の参拝に、侵略の被害を受けた中国や韓国は激しく反発している。参拝は、東アジアの安全保障や経済を考えても、外交的な下策である。

 安倍首相はこの春、「侵略の定義は定まっていない」との自らの発言が内外から批判され、歴史認識をめぐる言動をそれなりに自制してきた。

 一方、中国は尖閣諸島周辺での挑発的な行動をやめる気配はなく、11月には東シナ海の空域に防空識別圏を一方的に設定した。米国や周辺諸国に、無用な緊張をもたらす行為だとの懸念を生んでいる。

 また、韓国では朴槿恵(パククネ)大統領が、外遊のたびにオバマ米大統領らに日本の非を鳴らす発言を繰り返してきた。安倍首相らの歴史認識への反発が発端だったとはいえ、最近は韓国内からも大統領のかたくなさに批判が上がっていた。

 きのうの首相の靖国参拝が、こうした東アジアを取り巻く外交上の空気を一変させるのは間違いない。

 この地域の不安定要因は、結局は歴史問題を克服できない日本なのだという見方が、一気に広がりかねない。米政府が出した「失望している」との異例の声明が、それを物語る。

 外交官や民間人が関係改善や和解にどんなに力を尽くそうとも、指導者のひとつの言葉や行いが、すべての努力を無にしてしまう。

 問題を解決すべき政治家が、新たな火種をつくる。

 「痛恨の極み」。こんな個人的な思いや、中国や韓国に毅然(きぜん)とした態度を示せという自民党内の圧力から発しているのなら、留飲をさげるだけの行為ではないか。それにしてはあまりに影響は大きく、あまりに不毛である。

 首相はきのう、本殿横にある「鎮霊社」にも参った。

 鎮霊社は、本殿にまつられないあらゆる戦没者の霊をまつったという小さな社(やしろ)だ。首相は、ここですべての戦争で命を落とした方の冥福を祈り、不戦の誓いをしたと語った。

■新たな追悼施設を

 安倍首相に問いたい。

 それならば、軍人だけでなく、空襲や原爆や地上戦に巻き込まれて亡くなった民間人を含むすべての死者をひとしく悼むための施設を、新たにつくってはどうか。

 どんな宗教を持つ人も、外国からの賓客も、わだかまりなく参拝できる追悼施設だ。

 A級戦犯がまつられた靖国神社に対する政治家のこだわりが、すべての問題をこじらせていることは明白だ。

 戦後70年を控えているというのに、いつまで同じことを繰り返すのか。

 

首相靖国参拝 外交立て直しに全力を挙げよ(2013年12月27日配信『読売新聞』−「社説」)

 

◆国立追悼施設を検討すべきだ

 “電撃参拝”である。なぜ、今なのか。どんな覚悟と準備をして参拝に踏み切ったのか。多くの疑問が拭えない。

 安倍首相が政権発足1年を迎えた26日午前、就任後初めて靖国神社に参拝した。現職首相の参拝は、2006年8月15日の小泉首相以来だ。

 安倍首相は、第1次政権の任期中に靖国神社に参拝できなかったことについて「痛恨の極み」と述べていた。その個人的な念願を果たしたことになる。

◆気がかりな米の「失望」

 首相は終戦記念日と靖国神社の春・秋季例大祭の際、真ま榊さかきや玉串料を奉納するにとどめてきた。

 参拝すれば、靖国神社を日本の軍国主義のシンボルと見る中国、韓国との関係が一層悪化し、外交上、得策ではないと大局的に判断したからだろう。

 米国も首相の参拝は中韓との緊張を高めると懸念していた。ケリー国務長官とヘーゲル国防長官が10月の来日の際、氏名不詳で遺族に渡せない戦没者の遺骨を納めた千鳥ヶ淵戦没者墓苑で献花したのは、そのメッセージだ。

 気がかりなのは、米国が「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」と、異例の声明を発表したことである。

 日米関係を最重視する首相にとって誤算だったのではないか。

 中国は東シナ海上空に防空識別圏を一方的に設定し、日中間の緊張を高めている。尖閣諸島をめぐって、さらに攻勢を強めてくる可能性もある。

 日本は同盟国の米国と連携して領土・領海を守り抜かねばならない。この微妙な時機に靖国神社に参拝し、政権の不安定要因を自ら作ってしまったのではないか。

 首相周辺には、「参拝しなくても中韓は日本批判を繰り返している。それなら参拝しても同じだ」と参拝を促す声があったという。首相が、中韓両国との関係改善の糸口を見いだせず、そうした判断に至ったのであれば残念だ。

 公明党の山口代表は首相から参拝直前に電話があった際、「賛同できない」と反対した。「中韓両国の反発を予測しての行動だろうから、首相自身が改善の努力をする必要がある」と述べている。

首相は、外交立て直しに全力を挙げねばなるまい。

◆中韓の悪のりを許すな

 首相は、参拝について「政権発足後、1年間の歩みを報告し、戦争の惨禍で再び人々が苦しむことのない時代を創る決意を込めて不戦の誓いをした」と説明した。中韓両国などに「この気持ちを直接説明したい」とも語った。

 だが、中韓両国は、安倍首相に耳を傾けるどころか、靖国参拝を日本の「右傾化」を宣伝する材料に利用し始めている。

 中国外務省は、「戦争被害国の国民感情を踏みにじり、歴史の正義に挑戦した」との談話を表明した。韓国政府も「北東アジアの安定と協力を根本から損なう時代錯誤的な行為」と非難している。

 誤解、曲解も甚だしい。

 日本は戦後、自由と民主主義を守り、平和国家の道を歩んできた。中韓が、それを無視して靖国参拝を批判するのは的外れだ。

 そもそも対日関係を悪化させたのは歴史認識問題を政治・外交に絡める中韓両国の方だ。

 今回の参拝の是非は別として一国の首相が戦没者をどう追悼するかについて、本来他国からとやかく言われる筋合いもない。

◆A級戦犯合祀が問題

 靖国神社の前身は、明治維新の戦火で亡くなった官軍側の慰霊のために建立された「東京招魂社」だ。幕末の志士や日清、日露戦争、そして昭和戦争の戦没者らが合祀ごうしされている。戦没者だけが祀まつられているわけではない。

 靖国参拝が政治問題化した背景には、極東国際軍事裁判(東京裁判)で処刑された東条英機元首相ら、いわゆる「A級戦犯」が合祀されていることがある。

 靖国神社は、合祀した御霊みたまを他に移す分祀は、教学上できないとしているが、戦争指導者への批判は根強く、「A級戦犯」の分祀を求める声が今もなおある。

 首相は、靖国神社の境内にある「鎮霊社」に参拝したことも強調した。靖国神社には合祀されない国内外の戦死者らの慰霊施設である。そうした配慮をするのなら、むしろ千鳥ヶ淵戦没者墓苑に参るべきではなかったか。

 今の靖国神社には、天皇陛下も外国の要人も参拝しづらい。無宗教の国立追悼施設の建立案を軸に誰もがわだかまりなく参拝できる方策を検討すべきである。

 

真の慰霊になったのか 安倍首相靖国参拝(2013年12月27日配信『東京新聞』−「社説」)

  

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。国の指導者が戦死者を追悼するのは当然の責務としても、近隣諸国の激しい反発を招いては真の慰霊にはなるまい。

 第1次内閣のとき、靖国神社に参拝しなかったことを「痛恨の極み」としていた安倍首相である。

 昨年暮れ、首相に再び就いてからも、春と秋の例大祭、8月15日の終戦記念日という節目での参拝を見送った。第2次内閣発足1年に当たるきのうが、積年の思いを遂げる日と考えたのだろう。

 首相は記者団に「この1年の安倍政権の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓いを伝えるためにこの日を選んだ」と述べた。

独り善がりの説明

 国の戦争に駆り出され、戦場に散ることを余儀なくされた戦死者に、その国の指導者が哀悼の誠をささげるのは当然ではある。それが誤った政策判断で突入した戦争だとしたら、なおさらだろう。

 その一方、首相の靖国参拝が、極東国際軍事裁判(東京裁判)によるA級戦犯の合祀(ごうし)発覚後、高度な政治・外交問題と化している現実もある。そのことは、安倍首相も認識しているはずではないか。

 中国は旧日本軍による侵略の、韓国は植民地支配の「被害者」という歴史上の事実は消せない。

 首相が「いわゆる戦犯を崇拝する行為だと、誤解に基づく批判がある」といくら強弁しても、靖国参拝がほかの戦死者と同様、戦争指導者をもたたえる行為だと受け取られても仕方があるまい。

 首相は、すべての戦死者を慰霊する「鎮霊社」にも参拝することで、今回の靖国参拝に「不戦の誓い」を込めたのだろうが、結果として中韓両国の反発を招いた事実は重く受け止めるべきだ。それを誤解に基づくと言い張るのは、あまりにも独り善がりがすぎる。

米国が異例の批判

 今回の靖国参拝がより深刻なのは、首相が同盟関係の強化を目指してきたはずの米国が「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米国政府は失望している」(在日大使館声明)と、異例の強い調子で首相を批判していることだ。

 アジア・太平洋地域では、中国の軍事的な台頭、北朝鮮の核・ミサイル開発など、安全保障環境が悪化している。日米安全保障体制の信頼性が揺らげば、中国に軍事的冒険の誘因を与えかねない。

 安倍内閣が「対中包囲網」の一環として関係強化に努める東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が頼りにするのも「アジア・太平洋地域安定の礎石」としての日米安保体制だ。米国との関係を損ねた日本と組んでまで中国と向き合おうとする国があるだろうか。

 中韓両国に加え、米国との関係悪化の先にあるのは、日本の外交的な孤立にほかならない。

 日本がそんな「いつか来た道」を再び歩みだすことを、靖国の杜(もり)に眠る人々が望むはずがない。

 首相は昨年12月の衆院選に続き、今年七月の参院選でも圧勝して政権基盤を固めた。悲願だった国家安全保障会議(NSC)を設置し、中長期の外交・防衛政策の指針となる国家安全保障戦略を策定するなど、安全保障政策の見直しを着々と進めている。

 経済面では株価が6年ぶりに終値1万6000円台を回復。今月の月例経済報告では4年2カ月ぶりにデフレの表現がなくなった。

 特定秘密保護法成立で低下はしたが、安倍内閣の支持率は高止まりしている。就任1年の集大成として靖国参拝に踏み切っても乗り切れるとの「慢心」があるのなら、見過ごせない。

 戦死者、戦没者をどう追悼するかは国内問題であり、外国から干渉されるべきものではないが、靖国神社がその場として今も適切かどうかは、議論が残る。

 首相の靖国参拝や合祀をめぐる訴訟が起きたり、首相や閣僚の参拝に対する中国、韓国などの激しい反発がそれを表している。

悪循環を断ち切れ

 首相は高支持率という政治的資産を、靖国参拝という中央突破ではなく、参拝が引き起こす悪循環を断ち切ることにこそ、振り向けるべきではなかったのか。

 首相は、内外の誰もがわだかまりなく戦死者、戦没者を追悼できるような施設、環境づくりにこそ、指導力を発揮すべきである。

 これまでにも、A級戦犯分祀論や千鳥ケ淵戦没者墓苑の拡充、新たな国立追悼施設造営など、さまざまなアイデアが浮上している。

 議論を集約し、実現するには困難を極めるとしても、ドイツの宰相、ビスマルクが言うように「政治は可能性の芸術」であるのなら、不可能はないはずだ。

 首相には勇気を持って、一歩踏み出してほしい。「不戦の誓い」に、魂を込めるためにも。

 

<ここに書かれたひとつの名前から、ひとりの人が立ちあがる…>(2013年12月27日配信『東京新聞』−「筆洗」)

 

<ここに書かれたひとつの名前から、ひとりの人が立ちあがる…>。石垣りんさんの「弔詞」という詩だ。終戦から20年たって職場の新聞に掲載された戦没者名簿に寄せて書いた

▼<ああ あなたでしたね。/あなたも死んだのでしたね。/活字にすれば四つか五つ。その向こうにあるひとつのいのち。悲惨にとじられたひとりの人生。/たとえば海老原寿美子さん。長身で陽気な若い女性。1945年3月10日の大空襲に、母親と抱き合つて、ドブの中で死んでいた、私の仲間。>

▼靖国神社には、合祀(ごうし)された戦没者名を記した「霊璽簿(れいじぼ)」が納められている。だが、この若い女性の名はそこには書かれていないだろう。神霊とされるのは「祖国を守るという公務に起因して亡くなられた方々」だからだ

▼戦争で犠牲になった人を思い、記憶し続けるのは、とても大切なことだ。ただ、どうしても気になるのは、同じ犠牲者でも神とされる人とそうでない人を分ける、弔い方のありようだ

▼しかも例えばキリスト教徒や仏教徒の遺族が故人を「神」にするのはやめてほしいと言っても、聞き入れられない。安倍首相は閣僚の靖国参拝を「心の問題で自由だ」と言うが、合祀を拒む人の心の問題はどうなのか

▼<戦争の記憶が遠ざかるとき、/戦争がまた/私たちに近づく。/そうでなければ良い>と、石垣さんは書いている。

 

首相靖国参拝 国民との約束果たした 平和の維持に必要な行為だ(2013年12月27日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。多くの国民がこの日を待ち望んでいた。首相が国民を代表し国のために戦死した人の霊に哀悼の意をささげることは、国家の指導者としての責務である。安倍氏がその責務を果たしたことは当然とはいえ、率直に評価したい。

 ≪慰霊は指導者の責務≫

 参拝後、首相は「政権が発足して1年の安倍政権の歩みを報告し、二度と戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓い、決意をお伝えするためにこの日を選んだ」と述べた。時宜にかなった判断である。

 安倍氏は昨年の自民党総裁選や衆院選などで、第1次安倍政権で靖国神社に参拝できなかったことを「痛恨の極みだ」と繰り返し語っていた。遺族をはじめ国民との約束を果たしたといえる。

 靖国神社には、幕末以降の戦死者ら246万余柱の霊がまつられている。国や故郷、家族を守るために尊い命を犠牲にした人たちだ。首相がその靖国神社に参拝することは、国を守る観点からも必要不可欠な行為である。

 中国は軍事力を背景に、日本領土である尖閣諸島周辺での領海侵犯に加え、尖閣上空を含む空域に一方的な防空識別圏を設定した。北朝鮮の核、ミサイルの脅威も増している。

 今後、国土・国民の防衛や海外の国連平和維持活動(PKO)などを考えると、指導者の責務を果たす首相の参拝は自衛官にとっても強い心の支えになるはずだ。

 安倍首相が靖国神社の本殿以外に鎮霊社を参拝したことも意義深い行為だ。鎮霊社には、広島、長崎の原爆や東京大空襲などで死んだ軍人・軍属以外の一般国民の戦没者や、外国の戦没者らの霊もまつられている。

 これからの日本が一国だけの平和ではなく、世界の平和にも積極的に貢献していきたいという首相の思いがうかがえた。

 安倍首相の靖国参拝に対し、中国外務省は「強烈な抗議と厳しい非難」を表明した。韓国政府も「嘆かわしく怒りを禁じ得ない」との声明を発表した。

 いわれなき非難だ。中韓は内政干渉を慎み、首相の靖国参拝を外交カードに使うべきではない。

 在日米大使館も「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」と、日本と中韓両国との関係を懸念した。

 繰り返すまでもないが、戦死者の霊が靖国神社や地方の護国神社にまつられ、その霊に祈りをささげるのは、日本の伝統文化であり、心のあり方である。

 安倍首相は過去に靖国参拝した吉田茂、大平正芳、中曽根康弘、小泉純一郎ら各首相の名前を挙げ、「すべての靖国に参拝した首相は中国、韓国との友好関係を築いていきたいと願っていた。そのことも含めて説明する機会があればありがたい」と話した。

 両国は、これを機に首脳同士の対話へ窓を開くべきだ。

 以前は、靖国神社の春秋の例大祭や8月15日の終戦の日に、首相が閣僚を率いて靖国参拝することは普通の光景だった。

 ≪日本文化に干渉するな≫

 中国が干渉するようになったのは、中曽根首相が公式参拝した昭和60年8月15日以降だ。中曽根氏は翌年から参拝をとりやめ、その後の多くの首相が中韓への過度の配慮から靖国参拝を見送る中、小泉首相は平成13年から18年まで、年1回の靖国参拝を続けた。

 安倍首相は来年以降も参拝を続け、「普通の光景」を、一日も早く取り戻してほしい。

 また、安全保障や教育再生、歴史認識などの問題でも、自信をもって着実に安倍カラーを打ち出していくことを求めたい。

 第2次安倍政権は発足後1年間で、国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法や特定秘密保護法など、国の安全保障のための重要な法律を成立させた。

 しかし、集団的自衛権の行使容認などの懸案は先送りされた。憲法改正の発議要件を緩和する96条改正についても、反対論により「慎重にやっていかないといけない」と後退してしまった。

 これらは首相が掲げる「戦後レジーム」見直しの核心であり、日本が「自立した強い国家」となるための基本である。首相自身が正面から、懸案解決の重要性を国民に説明し、決断することが宿題を片付けることにつながる。

 

靖国参拝がもたらす無用なあつれき(2013年12月27日配信『日経新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。本人の強い意向によるものだろうが、内外にもたらすあつれきはあまりに大きく、国のためになるとはとても思えない。

 「尊い命を犠牲にされた英霊に手を合わせてきた」。首相は参拝後、こう強調した。赤紙で戦地に送られた多くの戦没者を悼むのは日本人として当然の感情だ。問題は靖国がそれにふさわしい場所かどうかだ。

 靖国には東京裁判でA級戦犯とされた戦争指導者14人がまつられている。1978年になって当時の宮司の判断で「昭和殉難者」として合祀(ごうし)された。

 日本政府はサンフランシスコ講和条約締結によって「東京裁判を受諾した」との立場だ。戦犯を神格化する行為が好ましくないことはいうまでもない。

 東京裁判の正統性を疑問視する向きがあるのは事実だ。しかし戦犯問題を抜きにしても、日本を無謀な戦争に駆り立てた東条英機元首相ら政府や軍部の判断を是認することはできない。

 いまの日本は経済再生が最重要課題だ。あえて国論を二分するような政治的混乱を引き起こすことで何が得られるのだろうか。

 外交でも失うものが多い。中国と韓国は猛反発した。両国とは首脳会談が途絶えて久しい。「参拝してもこれ以上悪くなりようがない」「参拝を外交カードにすべきだ」という声も聞いた。むしろ相手国への配慮に欠け、関係改善を遠のかせるだけだ。

 21世紀はアジアの世紀といわれる。アベノミクスでも掲げた「アジアの成長力を取り込む」という方針に自ら逆行するのか。経済界には首相への失望の声がある。

 さらに心配なのは日米同盟への影響だ。在京米大使館は「近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに米政府は失望している」との異例の声明を出した。オバマ政権は台頭する中国と対峙し、小競り合いにつながるような行為は回避したいのが本音だ。

 10月に来日したケリー米国務長官らは身元不明の戦没者の遺骨を納めた千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れた。その含意は分かっていたのではないか。

 哲学者ベンサムの「最大多数の最大幸福」を持ち出すまでもなく、政治とは幅広い人々の主張をとりまとめ、代弁する営みである。首相の判断は状況や立場を踏まえたものでなくてはならない。

 

「国の最高の立場にある人の言動と個人の信条とは、あくまで分けて考えなければならない」(2013年12月27日配信『日経新聞』−「春秋」)

 

首相の靖国神社参拝にからんで「国の最高の立場にある人の言動と個人の信条とは、あくまで分けて考えなければならない」と言ったのは後藤田正晴元官房長官(故人)である。首相の発言は日本という国の発言、示された意志は日本の意志とみなされるから、だろう。

▼安倍首相の突然の靖国参拝も日本の意志と受けとめられる。残念というしかない。かつて首相だったときに参拝できなかったことを「痛恨の極み」と言い続けてきて、自民党総裁になり首相になった、だから参拝した。そうした理屈は通るだろうか。「痛恨の極み」という首相と心の働きを共にする人が多数とは思えない。

▼A級戦犯がまつられている。中国や韓国が反発する。それでも首相は参拝するのか。意見はぶつかり、答えがみつからぬまま、受け継がれていくべき国の意志とは無縁の、首相個人の信条、あるいは心情に委ねられてしまう。後藤田さんには「政治というのは、美学ではない。徹頭徹尾、実学である」という言葉もあった。

▼戦争の犠牲者の冥福を祈るのは大切である。同じように、人々がいまを安心して生きることも大切である。首相の靖国参拝が、中国や韓国にいる日本人を不安に陥れないか、おそれる。日本との関係改善を真剣に求める中国人、韓国人のまっとうな声が大音響の反日ナショナリズムにかき消されてしまわないか、おそれる。

 

首相の靖国参拝  大局を見据えた自制心持て(2013年12月27日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 「タカ派」「右傾化」と、周辺国から反発を浴びることを、承知の上での行動であろう。

 安倍晋三首相が靖国神社の参拝に踏み切った。容認できない。

 参拝後に、安倍首相は「リーダーとして手を合わせた」と説明した。憲法が定める政教分離の原則との兼ね合いで、これまでの首相は「私人として参拝した」と釈明する場合が多かったが、一歩踏み込んだ形だ。

 日本のリーダーとして、また、第2次政権発足から1年の締めくくりにあえて参拝したことは、これまでの配慮をかなぐり捨てて、政権が本質的に目指す方向を国の内外にはっきり示したといえる。

 世論映さぬ「信念」

 安倍政権は「積極的平和主義」や価値観外交などを次々と打ち出してきた。靖国参拝で、首相の保守的な歴史観に基づく国づくりを実現しようとする姿勢は、一段とくっきりした。だが、「断固たる決意」とリーダーの独走は、紙一重だ。

 今年8月に実施された共同通信の全国世論調査で、首相が靖国神社に「参拝すべき」と答えた人は2割に満たず、「外交関係とは別に参拝の是非を判断すべき」との回答が、45%を占めた。

 それは戦没者の追悼の在り方や日本の戦争責任について、国内でも多様な意見があることの証左であろう。今日の平和が、戦場や空襲で亡くなった多くの人々の犠牲の上にあることは忘れてはならないが、首相の個人的な「信念」に基づく行動は、国民の声に沿っているだろうか。

 戦没者遺族の間でも、平和を願う気持ちを踏みにじるとの反発と歓迎の声が交錯している。

 靖国神社は戦争遂行の精神的な柱として戦前の軍国主義を支え、太平洋戦争などの戦没者を英霊として祭る。戦後の政教分離で宗教法人になったが、1978年、侵略戦争を引き起こしたとして責任を問われた東条英機元首相らA級戦犯14人を合祀したことで、参拝の是非を問う声が高まった。

 政教分離の鉄則こそ

 靖国参拝をするかどうかは、首相としての価値観や歴史観を国民に、そして海外に示す指標となってきた。日本は軍国主義と国家神道が結びついた苦い経験を踏まえて、政治と宗教の分離を憲法で鉄則としてきた。

 政治家の参拝については、これに違反するとの疑いが以前から指摘されている。84年に公式参拝した中曽根康弘首相の参拝に関しては大阪高裁が「違憲の疑い」と判断しており、以降、首相の公式参拝は行われていない。「私的」とされた小泉純一郎首相の参拝をめぐっても、下級審で違憲とされた判例がある。

 自民党は約1年前の衆院選や7月の参院選で大勝した。だが、歴史観や憲法改正などのタカ派色の濃い施策ではなく、経済再生への期待や民主党政権への失望が、巨大な与党を誕生させた原動力ではなかったか。

 秋の臨時国会で、安倍政権は圧倒的な議席数の力で、特定秘密保護法を強引に成立させた。数におごらず、粘り強く対話を重ねる姿勢が欠けていた。靖国問題や歴史認識問題でも、首相は同じ姿勢に見える。

 これでは戦争責任や戦前の植民地支配、戦後処理を巡って積み重ねてきた多様な議論を置き去りにしかねない。インターネットなどで広がる「反日」か「愛国」かで極端に二分して捉える風潮をも広げないかと心配になる。歴史の重層性から学びあうことこそ、重要だ。

 反感の増幅は損失

 中国や韓国とは歴史認識問題や領土をめぐって、かつてないほど関係が冷え切っている。首脳会談が断絶したままの異常事態は、解消の糸口が見えない。

 経済界からは唐突な首相参拝に対し、沈静化している日本製品の不買運動が再燃しないかと、不安の声が上がっている。対中輸出の減少につながった記憶はまだ生々しい。米政府は、大使館を通じて「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を出した。

 A級戦犯が合祀されている靖国神社への首脳参拝に中韓が激しく反発するであろうことは、米政府からくぎを刺されるまでもなく、首相も重々承知だったはずだ。

 小泉政権の後を受けた第1次政権では参拝を自制し、冷え込んだ外交関係修復に苦慮した経験は、どこへ飛んでしまったのか。

 参拝見送りに「痛恨の極み」と執念を燃やすのではなく、冷静な大局観が一層求められる時代だ。なぜ、わざわざ波を荒立てる必要があるのだろう。関係悪化が取り返しのつかない深みへと陥ることを、深く憂慮する。

 日本の右傾化を強く批判する中韓からは、日本が意図的に緊張を作り出していると受け取られるのは必至だ。狭小なナショナリズムをさらに過熱させかねない。相手国への単純化された見方と反感が増幅するのは、双方にとって損失でしかなかろう。

 戦争の記憶を風化させてはならない。不戦を誓い、平和を祈り、誰もがわだかまりなく戦没者を追悼できる場を望む声は多い。政府が率先して取り組むべきは遺族の思いに寄り添うとともに、諸外国と未来志向の関係を築くため、特定の宗教によらない追悼施設の整備ではないか。

 

首相靖国参拝/国益より持論を優先させるとは(2013年12月27日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が在任中では初の靖国神社参拝に踏み切った。第2次安倍政権発足からちょうど1年の節目に悲願を達成した首相は、満足感に浸っていることだろう。

 だが、中国、韓国との関係が冷え込み、特定秘密保護法の成立など強引な政権運営への懸念が広がる中での決行は問題が大きい。

 日本が「危うい国」と見られて国際社会で孤立化する恐れはあっても、メリットはない。国益を損なうリスクを承知の上で今、首相が持論を貫く意味はあるのか。安倍政権の目指す国の在り方と、首相の資質が問われる。

       ◇

 現職の首相が靖国神社を参拝するのは、小泉純一郎氏以来7年ぶりとなる。終戦記念日でも春秋の例大祭でもなく、政権発足1年に合わせた参拝に「私の内閣」の実績をアピールする狙いがうかがえる。

 首相は昨年12月の衆院選前後から、第1次安倍政権の在任中に参拝できなかったのは「痛恨の極み」と繰り返してきた。ようやく「公約」を果たし、保守層の中に歓迎する声があるのは確かだ。

 全ての戦争犠牲者を追悼し、あらためて不戦を誓う。首相が述べた思いを否定する人はいないだろう。

 首相や閣僚の靖国参拝が政治問題化したのは、1978年に東京裁判のA級戦犯が合祀(ごうし)されたのが契機だ。過去の侵略戦争を美化する、などと国内外の批判を招いてきた。

 以前は参拝していた安倍首相が就任後の参拝を避けてきたのは、その自覚があったからではないか。

 首相の公式参拝は政教分離の原則に反し違憲とした司法判断もある。

 むしろ首相は、内外の抵抗を抑えて「信念」を貫く強い姿勢を誇示したかったのだろう。

 先送りすれば、参拝に期待する保守層の失望を招き政権基盤が揺らぎかねない。一方、参拝によるダメージは数の力で最小限に抑えられる‐。長期政権をにらんで計算が働いたとすれば内向きすぎる。国際社会のリーダー像とは相容れない。

 首相は参拝後、「平和国家として歩む姿勢に一点の曇りもない」と述べた。だが、首相の歴史認識をめぐる発言や憲法9条改正への意欲をセットで考えた場合、近隣諸国が「軍国主義への回帰」と危ぶむのは容易に想定できたはずだ。

 ただでさえ「戦後最悪」といわれる中国、韓国との関係がさらに悪化することは避けられない。

 両国からは「安倍氏が首相である限り関係改善は難しくなった」などと強い批判が噴出している。

 両国との首脳会談が持てない不正常な状況は、経済、文化交流などにも影を落とす。改善の見通しがないまま参拝に踏み切ったとすれば、思慮の欠けた判断というしかない。

 中国側には、日本の戦争指導者と一般国民を切り離し「国民も軍国主義の被害者だった」として国交を回復した経緯がある。中国にすれば見過ごせない問題だ。

 韓国では「植民地の歴史を美化する動き」と捉えられ、従軍慰安婦問題とともに火だねになっている。

 安倍首相は「中国や韓国の人たちを傷付けるつもりは毛頭ない」と話した。両国の首脳に思いを直接説明したいとも語った。そうであれば具体的な外交努力が要る。

 尖閣諸島や竹島をめぐる対立で緊張が高まり、米国も安倍政権の姿勢に懸念を示してきた。今回の参拝についても「近隣諸国との緊張を悪化させる行動を取ったことに失望している」と強く批判した。

 10月に来日したケリー国務長官らが千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れた異例の行動も、靖国参拝に対する懸念の表れだったとされる。

 価値観を共有するはずの欧米諸国との信頼関係も危うくなる。

 懸念材料は靖国問題だけではない。安倍政権は、秘密法を強行成立させた後も「安倍カラー」の濃い政策を矢継ぎ早に打ち出している。

 国連平和維持活動(PKO)で初めて他国に武器提供を行い、年明けには集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の見直しを進める意向だ。靖国参拝では公明党の山口那津男代表の制止も振り切ったという。

 与党内の歯止めさえ利かなくなっている。「自民1強」の独断専行との批判は免れない。

 安倍首相は「戦場で散った英霊の冥福を祈るのは世界共通のリーダーの姿勢だ」とも述べた。個人の思い入れを抑えてでも、事態の打開策を示すのが真のリーダーだろう。

 中国、韓国と対話の窓口を開き、信頼関係を築き直す。新たな追悼の形も含め誰もがわだかまりなく戦没者への祈りをささげられる環境をつくる。政治が安定している時こそ、こうした問題に正面から向き合い、冷静な議論を積み重ねるべきだ。

 

こぶし(2013年12月27日配信『神戸新聞』−「正平調」)

 

じゃんけんで多いのはグーかチョキか、あるいはパーか。大学生が1万2千回も試してみたら、わずかだがグーが多かったと、何かの雑誌で読んだ

◆警戒心を持つと、人はこぶしを握る。そんな分析が添えられていたが、それだけか。緊張した時もこぶしを握る。強さを印象づけたり気合を入れたりする時も、人は知らず知らずこぶしを固めるものだ

◆安倍首相が靖国神社に参拝した。中継のテレビ画面で様子を見ながら、ふと首相の手に目が留まった。こぶしを握っている。心の中は想像するしかないが、そうして歩く姿そのものが国内外へ示す政治のこぶしとも映る

◆中国、韓国は猛反発する。首脳会談すら持てぬ関係がさらに冷え込む。米国も懸念する。それもこれも承知のうえで踏み切ったのはなぜだろう。野党は力不足で、国政選挙もしばらくない。支持率もある。何より株高…というおごりがなかったか

◆名演説とされるドイツ・ワイツゼッカー元大統領の「荒れ野の40年」を思い出す。戦争を振り返りながら元大統領は、最後に若者たちへこう呼びかけた。「他の人々への敵意や憎悪に駆り立てられることのないよう」と

◆最近の世論調査では、中国への親近感が過去最低になった。反発が反発を呼び、互いの敵意や憎悪を膨らませはしまいかと、こぶしを見る。

 

「仕方がない」(2013年12月27日配信『山口新聞』−「社説」)

 

日本人は「仕方がない」とよく口にする民族だそうだ。なるほど、面倒くさくなったら最後は、「しょうがないだろ」でつい逃げを打ってしまう

▼安倍首相の靖国参拝報道に接し、面倒事を抱え込んだなと思う一方で、よくぞ踏み切ったと賛辞を送りたくもある。参拝は、仕方がないからではない。国のために戦い犠牲になった英霊に「尊崇の念を表す」明確な思いからだろう

▼昨日でまる1年の第2次安倍政権は、長く続いた「決められない政治」に決別するかのような動きだった。特に第1次政権時に靖国参拝ができなかったことを「痛恨の極み」と公言する首相がよく辛抱してきたと側近は語る

▼批判し続ける中国韓国への配慮から参拝を見送ってきたが、その両国首脳は保身のため、もう日本が何をしても反日をあおるという構図が露見してきた。今月中旬に東南アジア10カ国の首脳を東京に招いて開いた会議の成功が、首相の決断を後押ししたともいえる

▼さっそく批判大合唱の中国、韓国、そしてマスコミに首相は「参拝の意味を説明し理解を求める」と強調するが、大胆な決断にはリスクを取る能力こそが求められる。そこに自信があればこその決断だったと信じたい。

 

首相靖国参拝/国益にかなう慎重姿勢を(2013年12月27日配信『山陰中央新聞』−「論説」)

 

 安倍晋三首相が、首相として初めて靖国神社を参拝した。靖国神社への首相や閣僚の参拝に反対してきた中国、韓国に対して安倍首相は「気持ちを傷つける考えは毛頭ない」と述べ、対話に意欲を示す。しかし、すでに冷却化している関係の改善がさらに難しくなるのは避けられないだろう。

 現職首相の靖国神社参拝としては、2006年に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来7年ぶり。第2次内閣発足からちょうど1年のタイミングで、安倍首相は「政権1年の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」と説明した。

 その上で中韓両国に対して「直接説明したい。説明の機会があればありがたい」と呼びかけたが、首脳会談の実現は遠ざかったのではないか。参拝理由を説明するというための会談に、中韓首脳が応ずることはないだろう。

 参拝に対して中国外務省は「人類の良識に対する挑戦に、強烈な憤慨を表明する」との談話を発表した。韓国政府も「韓日関係は無論、北東アジアの安定と協力を根本から損ねる時代錯誤的な行為だ」との声明を出した。

 米国も在日大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を発表した。さらに中国が劉延東副首相と小渕優子元少子化担当相ら日中友好議員連盟訪中団との会談をキャンセルするなど具体的な影響も出始めている。

 安倍首相が靖国神社参拝にこだわる背景には、太平洋戦争など日本の過去に対する個人的な歴史観があるとみられる。

 それは今年3月の衆院予算委員会での答弁にうかがえる。太平洋戦争の総括に関する野党議員の質問に対して安倍首相は「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたんだろう、このように思う」と答弁している。

 「わが国は、サンフランシスコ講和条約第11条により極東国際軍事裁判所の裁判を受諾しており、国と国との関係においてこの裁判について異議を述べる立場にはない」と事実関係にとどめるのがそれまでの政府答弁であり、かなり踏み込んだ表現だった。

 さらにA級戦犯についても国会で「国内法的には戦争犯罪人ではない」と答弁しており、靖国神社参拝が首相のこうした歴史観の延長線上にあることは間違いない。

 国の指導者の行動は慎重の上にも慎重であるべきだ。安倍首相周辺は「中韓両国と関係を改善したいという思いは本物だ。改善後に参拝する方が悪影響が大きい」と釈明する。しかし、どうやって関係を改善するのか。そのシナリオは示されていない。

 安倍首相が最重視する米国との関係にも影響を与えかねない。米政府は、中韓両国との関係悪化を懸念しており、歴史問題に関しては日本に慎重な対応を求めていた。そんな米政府の意向に反し靖国神社参拝に踏み切った形となっただけに、安倍首相には、国益にかなう慎重な姿勢を求めたい。

 

安倍政権1年で靖国参拝 強権的な姿勢に危機感が募る(2013年12月27日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 第2次安倍政権発足からきのうで1年がたった。節目に合わせ、安倍晋三首相はかねてこだわりを見せていた靖国神社参拝に踏み切った。

 7月の参院選で自民党が圧勝したのを境に、政権は保守色を強めつつある。参拝はその証しとも言えよう。特定秘密保護法の成立過程なども含め、独善的、強権的とも映る姿勢に危機感が拭えない。

 現職首相の靖国参拝は2006年の小泉純一郎氏以来となる。中国、韓国との関係悪化に拍車をかけるだけではなく、日中、日韓関係の改善を求めていた米国との間に亀裂を生じる恐れもある。

 安倍首相は第1次政権時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と言い続けた。参拝しない選択肢は、はなからなかったか。保守層にアピールする狙いもあろう。一方では「靖国参拝は政治問題、外交問題化している」との認識も示した。それならば、わが国の国益に資するか否かを第一に考えるのが筋だ。

 何より、中韓両国に対して「対話の扉は開いている」と繰り返す姿勢と矛盾しよう。隣国や同盟国との関係より自身の信念を優先した判断は、一国のリーダーとして思慮を欠いたと言わざるを得まい。

 首相や閣僚の参拝には憲法の政教分離原則に照らして疑義があることも、重ねて指摘したい。政府は「私人」の立場を強調するが、「内閣総理大臣」と記帳しながらそんな言い訳は通らない。そもそも首相に「私人」の立場などあり得ようか。批判に応える丁寧な説明が求められよう。

 戦没者の追悼は、国民が共有する思いに違いない。靖国神社からのA級戦犯分祀(ぶんし)や宗教色のない施設の整備など、誰もが追悼の意を表すことができる形の実現を急ぎたい。

 参院選以降の国会対応にも強引さが目立つ。安倍首相が目指す集団的自衛権行使容認のキーマンとなる内閣法制局長官には、自らの意向に沿う人材を充てた。また、先の臨時国会での特定秘密保護法審議で、国民や野党の声に耳をふさいで成立へと突き進んだのは記憶に新しい。

 秘密保護法は公布から2週間がたつ。政府からは、当初は成立の1年後としていた施行の前倒し論さえ聞こえてくる。看過できない。知る権利などが脅かされる懸念は何一つ解消されていないのだ。

 政府は「懸念は誤解に基づく」と繰り返すが、国民は秘密保護法の危うい本質を見抜いている。法を廃止し、一から議論し直すしかない。

 共同通信の世論調査では、集団的自衛権の行使容認に半数以上が反対している。国民は安倍政権の全てを信認したわけではない。数の力が手中にあるときこそ強権的な手法は慎み、丁寧な政権運営に努めるよう強く求めたい。

 

安倍首相靖国参拝  挑発して国益損なうのか(2013年12月27日配信『徳島新聞』−「社説」)

                                         

 嫌がることをされた後に「説明するから仲良く話そう」と言われても誰が応じられようか。怒りが増すだけではないか。

 安倍晋三首相が政権発足から1年を迎えたきのう、靖国神社を参拝した。現職としては、2006年に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来7年ぶりとなる。

 戦没者を追悼するのは当然であり、それを他国から批判される筋合いはない。だが、中国や韓国が反発するのを分かっていながら参拝するのは挑発的な行為であり、日本の国益を損なうのは明らかである。

 反発の理由は言うまでもなく、第2次世界大戦の戦勝国による極東国際軍事裁判(東京裁判)で、重大な戦争犯罪人とされたA級戦犯14人が合祀(ごうし)されているからだ。

 日本による戦争被害や植民地支配を受けた中国や韓国は、首相らの参拝に「日本は過去の侵略の歴史を反省していない」と批判してきた。

 両国には日本批判で自国民の不満をそらしたい事情もあるとはいえ、参拝が国民感情を傷つけるのは確かだろう。首相がいくら「傷つける考えは毛頭ない」と言っても、身勝手な論理といえる。

 首相は、沖縄県・尖閣諸島や島根県・竹島問題などで冷え込んだ両国との関係を、参拝を見送っても早期に改善するのは難しいなら今のうちに、と判断したようだ。

 しかし、挑発すれば挑発を招くのは自明の理だ。日本が尖閣を国有化したのに対し、中国は領海侵犯を繰り返し、尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏を設定した。首相が参拝で圧力に屈しない姿勢を見せたとすれば大人げないと言わざるを得ない。中国は次の行動に出るだろう。

 中韓両国民のナショナリズムに火をつければ、両政府も関係改善に動けまい。当分、修復は難しい。

 首相は前回の在任中に靖国に参拝しなかったことを「痛恨の極み」と語っていた。首相が靖国にどんな思いを持っていようが、異を唱えるつもりはない。

 だが、参拝によって失われるものの大きさを考えるべきだ。1千万人を突破した訪日観光客は下火に向かうだろう。中韓両国に進出している日本企業も製品不買などの痛手を被り、景気を冷やしかねない。国益を第一に考えて動くのがリーダーのあるべき姿ではないか。首相が保守層の支持をつなぎ止めるために強行したのなら、何をか言わんやである。

 東アジア情勢はさらに不安定化する恐れがある。それは米国も望んでおらず、機会あるごとに日本に慎重な対応を求めてきた。バイデン副大統領が日中韓3カ国を歴訪し、防空識別圏設定で高まった緊張を緩和しようと働きかけたばかりである。

 米は日中の対立に巻き込まれたくないし、日米韓の防衛協力にも亀裂を入れたくない。今回の首相参拝に失望したのは当然で、日米関係にきしみを生じさせかねない。

 靖国問題は国内でも意見が分かれている。首相参拝は憲法の政教分離規定に反する恐れがあり、現にいくつかの違憲判決も出ている。

 政治家が参拝するたびに外交問題や政治問題になることは、戦没者も遺族も望むまい。誰もがわだかまりなく慰霊できる施設を考えたい。

 

千鳥ケ淵戦没者墓苑(2013年12月27日配信『徳島新聞』−「社説」)

 

皇居西側の千鳥ケ淵は毎春たくさんの桜が咲き、身動きできないほどの人でにぎわう。今年10月、その一角にある千鳥ケ淵戦没者墓苑に、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官がそろって献花した

 墓苑は、身元不明の「無名戦士」や民間人の遺骨を納めた無宗教の国立施設である。外国要人の訪問は異例。日本と中韓両国との対立に心を痛める米国が、靖国神社参拝に代わる追悼の形を示そうとしたとの憶測が流れた

 米国にはアーリントン国立墓地がある。英国は戦没者慰霊碑、ドイツは国立中央追悼施設と、各国には国民がこぞって追悼し、外国要人が花を手向ける場所がある。なのになぜ靖国参拝は批判されるのか

 きのう参拝した安倍晋三首相にはそんな思いが強いのだろう。国のために戦い、尊い命を犠牲にした英霊に哀悼の誠をささげる気持ちは、誰からも非難されることはない

 ただ、靖国はアーリントンなどとは違う。政教分離原則に反する疑いがあり、A級戦犯の合祀(ごうし)に中韓両国が反発していることなどからここ7年、現職首相は参拝を控えてきた。歴史的に、靖国が国民を戦争に送り出す役割を担ってきたとの指摘もある

 厳粛であるべき追悼行為が、外圧に屈しない証しになったり政治問題化したりするようでは悲しい。国民が静かに哀悼の念をささげられ、海外の人も献花できる場所の議論が必要ではないか。

 

【首相の靖国参拝】火に油を注いでどうする(2013年12月27日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 安倍首相が第2次政権発足からちょうど1年となるきのう、靖国神社を参拝した。現職の首相参拝は小泉首相以来7年ぶりだ。

 保守色の強い安倍首相の靖国参拝を警戒していた中韓両国は、激しく反発している。また連立与党を組む公明党の山口代表は、参拝直前に首相から連絡があり、自制を求めたにもかかわらず決行したことに強い不快感を示した。

 この1年間、日本と中韓両国の関係は冷え切り、首脳会談は一度も開かれていない。信頼関係が失われている中で、あえて隣国の嫌う行為に出た首相の姿勢は、北東アジアの緊張の火に油を注ぎかねず賛同できない。

 外交関係への悪影響というだけでなく、そもそも現職の首相が一宗教法人にすぎない靖国神社を参拝することには疑問がある。まず第一に、憲法20条の政教分離の原則に反する疑いが消えないからだ。

 小泉首相時代の参拝にも多くの訴訟が起こされたが、大半の地・高裁判決が憲法判断を避ける中で、福岡地裁と大阪高裁は「付言」ながら違憲とした。少なくとも「合憲」とする判断は一件もない。

 さらに靖国神社には、先の戦争を指導したA級戦犯を合祀(ごうし)しているという特殊性がある。首相参拝は戦争の侵略性の否定につながると、中韓が特に反発する理由でもある。

 首相は「尊い命を犠牲にした英霊に尊崇の念を表するため」と、参拝理由を述べた。しかしA級戦犯合祀への言及はない。戦争の犠牲となった一般国民と戦争に導いた指導者を、「英霊」という言葉でひとくくりにはできないはずだ。

 中韓の反発だけでなく、安倍首相に冷静な対応を求めてきた米国の反応にも注意する必要がある。在日米大使館は「日本は大切な同盟国」としつつも、首相の靖国参拝には「米政府は失望している」との声明を発表した。

 アジア重視の戦略を取るオバマ政権にとって、日中韓の緊張を高める行為は国益にならない。首相参拝が日中韓それぞれの排外的なナショナリズムをあおれば、日本の国益にもならない。

 首相は一方で、「中韓と友好関係を築きたい」とも言う。困難ではあろうが、首相自身がまいた種だ。言葉ではなく目に見えた外交努力で関係修復を図る責任がある。

 

〈名にかへてこのみいくさの正しさを来世までも語り伝へん〉(2013年12月27日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 安倍首相の祖父、岸信介元首相が敗戦直後に次のような歌を残している。〈名にかへてこのみいくさの正しさを来世までも語り伝へん〉。太平洋戦争の目的が間違っていなかったことを後世に伝えることを願っている、と。

 間もなくA級戦犯容疑者として逮捕され、獄中では〈顧みてやましきことのなかりせば千よろづ人も我は畏れじ〉(「昭和宰相列伝」)。安倍首相によると、自身は「岸信介のDNAを受け継いでいる」のだという。   

 現職としては2006年の小泉首相以来7年ぶりに、安倍首相が靖国神社を参拝した。政権発足からちょうど1年の日。第1次政権時に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と公言していたから、「何としても」の思いだったのだろう。

 首相の靖国参拝をめぐる論点はいくつかあるが、その一つはA級戦犯の合祀(ごうし)問題。昭和天皇が「禍根を残す」と不快感を示し、遺族の中にも批判があるにもかかわらず、安倍首相は問題ないと考えているようだ。

 中韓両国の強い反発もあって外交問題と捉えられがちだが、本来は戦争責任をめぐる国内の問題が先にあるのではないか。国民を戦争に駆り立て、アジアの人々に膨大な犠牲をもたらした指導者たちの責任をどう考えるのか。不問で済ませられるはずがないだろう。

  安倍首相が祖父のような歴史認識を持っているとは考えたくないが、政策や日頃の言動をみていると自信はない。

 

首相の靖国参拝 対立を乗り越える道を(2013年12月27日配信『佐賀新聞』−「論説」)

 

 安倍晋三首相が就任から丸1年の日に靖国神社に参拝した。第1次内閣時、「首相として参拝できなかったことは痛恨の極み」とした思いを晴らした。ただ、歴史認識で対立する中国、韓国との関係修復が難しくなるのは確実だ。

 現職の総理が参拝するのは2006年の小泉純一郎元首相以来となる。安倍首相は「戦争の惨禍によって人々が苦しむことのないよう、不戦の誓いをするために来た。日本は自由と民主主義を守り、平和国家としての歩みは一貫している」と述べた。

 冷静な口調には、靖国参拝の政治問題化に決着をつけたいという思いも込められていたのだろう。吉田茂元首相をはじめ歴代首相の多くが参拝してきたことを挙げ、「戦犯を崇拝するというのは誤解に基づく批判。中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりはない」と強調した。

 首相就任後、初めての参拝となる。春と秋の例大祭には供物を奉納。8月15日の終戦の日は党総裁として私費で玉串料を収めた。米国は東アジアの緊張が高まる事態を避けるため、首相に参拝を見送るよう水面下で要請していたとも伝えられている。

 就任1年目に参拝に踏み切ったことに、中国は「人類の良識に対する挑戦に強烈な憤慨を表明する」との談話を発表した。韓国は「関係が悪化する」と非難している。当然予測された反応で、首相は織り込み済みだろう。

 靖国参拝はA級戦犯の合祀(ごうし)後に中国、韓国が問題視するようになった。それ以前は信教の自由や政教分離をめぐる国内論議が軸だった。先の大戦についてはさまざまな評価があるが、いつまでも外交問題となることに違和感を持つ国民は多いだろう。

 中国、韓国の靖国参拝批判は、日本に譲歩を迫る「外交カード」になっている。第2次世界大戦で日本軍が進攻した東南アジア諸国とは関係修復ができ、戦後70年近くたってもことあるごとに「軍国主義復活」と批判しているのは両国と北朝鮮だけだ。

 小泉元首相以降、首相は誰一人参拝しなかった。しかし、日中、日韓関係は修復されるどころか悪化している。領土問題が引き金になった形だが、中韓それぞれ国内の支持を得るための政治的思惑もうかがえる。

 ただ、このままでは問題の解消にならないのは確か。米国が懸念するように日中韓の対立が、東アジア全体の安定を揺るがす恐れは十分にある。核開発やミサイル問題を抱える北朝鮮政策へも波及する可能性がある。

 安倍首相は就任当初、デフレ脱却と経済再生に集中する安全運転に徹してきた。外交では25カ国を訪問、ロシアとも良好な関係を築いた。しかし、近隣3国との関係を改善することはできなかった。

 中国は尖閣諸島の周辺海域に公船を侵入させ続け、防空識別圏を設定するなど強硬措置が目立つ。首相は冷静に対話を呼び掛けながら、国際世論を味方につける作戦を取っている。その一方、歴史認識に関する発言で中国側に批判材料を与えている。

 靖国参拝の意味を含めて歴史問題を国際的に乗り越える公算はあるのだろうか。国内の中韓に対する反発や、ナショナリズムを抑えて関係を安定させる度量も必要だ。中韓との関係改善は避けては通れない道である。

 

首相参拝(2013年12月27日配信『佐賀新聞』−「有明抄」)

 

 日本記者クラブで先月、小泉純一郎元首相が講演した。持論の原発即時ゼロが話の中心だが、靖国参拝にも触れている

◆「私の後の首相は一人も参拝していない。それで日中関係はうまくいっているのか。そうじゃないことが分かったでしょ」。政治の師匠の言葉に意を強くしたのか、安倍晋三首相が就任丸1年となる26日に参拝した。第1次安倍内閣時にはできず、「痛恨の極み」と思い残していたから、さぞすっきりしたろう

◆小泉氏は在任中の中国との裏話も披露している。首脳会談を申し込むと、「来年、靖国参拝しなければ」と条件が付いた。これに「必ず参拝します。それでも会談を断るなら仕方ない。しかし小泉は日中友好論者ですから」と返事するように命じた

◆中国の回答は意外にも「会談前も後も『参拝する』とは言わないでくれればいい」。小泉氏はその後、記者に参拝するかと問われても「適切に判断する」と繰り返すだけ。こうした水面下のやりとりがあればまだいい。今回は参拝を見送っても中韓両国との関係改善が進まないのなら、「いっそのこと」と見える

◆国のために亡くなった人命に手を合わせることには異論はない。だがその犠牲は為政者の判断が積み重なって生まれた。首相が込めた不戦の誓いに反して、参拝がその一つにならないかと気をもむ。

 

首相靖国参拝 自信深める時こそ慎重に(2013年12月27日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。現職の総理大臣としては、2006年8月15日に当時の小泉純一郎首相が参拝して以来、7年ぶり。首相参拝の報に、お隣の中国や韓国では直ちに猛反発が起きた。それを心配してきた米国はいっそう憂慮を深めている。安倍首相は今後、こうした外交問題に直面することになる。

 安倍首相は昨年10月、自民党総裁の立場で靖国に参拝しているが、首相としては第1次安倍内閣時代を含めて初めてだ。参拝した26日は首相就任から丸1年。かねてから「年1回の靖国参拝」を望んでいるとされてきた安倍首相にすれば、慌ただしい年末という時期も時間的にぎりぎりの選択だったのかもしれない。

 あるいは、安倍首相にとって大いなる躍進の1年だった今年を締めくくるにふさわしいという思いもあったのだろうか。就任直後は「安全運転」に徹し、矢継ぎ早の大胆な金融緩和や財政出動で円安が進み、株価も回復した。景気回復感が漂い始める中で迎えた7月の参院選では、自民党の圧勝で国会のねじれ状態が解消。その後は一瀉千里[いっしゃせんり]だった。

 9月には20年の東京五輪開催が決定。12月に入ると国家安全保障会議(NSC)の設置や臨時国会での特定秘密保護法案の強行採決など、首相自らの信念が投影された施策を次々と具体化した。さらに一度は5割を切った内閣支持率がすぐ53%に回復したかと思えば、沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設に向けた同県名護市辺野古の埋め立て承認に関し仲井真弘多[なかいまひろかず]知事から好感触を得るなど、これだけの成果に高揚するなという方が無理かもしれない。

 ただ、年が明ければこれまでのようにはいかない。庶民の懐を直撃する消費税の引き上げや世論を二分する原発再稼働問題などが控える。首相が目指す集団的自衛権の行使容認や憲法改正ともなれば、世論はさらに大きく割れることになろう。

 今回の靖国参拝で、中韓両国からは「日中関係に新たに大きな障害をもたらす」「北東アジアの協力と安定を根本から損ねる」などの批判が出ている。尖閣問題で日中両国に冷静な対応を求めてきた米国も、第2次大戦は中国と同様「正義の戦争」と受け止めており、首相の歴史認識を疑問視する声もある。関係強化を模索する米中両国が参拝問題でどう対応するか見極める必要もあろう。

 人は往々にして、得意の時ほどつまずく。安倍首相には、自信を深める今こそ慎重にと申し上げたい。

 

今や「政冷経冷」。来年は「政凍経凍」(2013年12月27日配信『熊本日日新聞』−「社説」)

 

何とも忙しい年の瀬である。安倍晋三首相が靖国神社を参拝した。政権発足から1年の節目を飾る考えだったようだが、この寒空の下、尖閣問題で荒れる東シナ海の波浪がさらに高まるのは間違いなさそう

▼思えば日中関係が「政冷経熱」と言われたのは、かつての小泉純一郎政権下だった。それが今や「政冷経冷」。来年は「政凍経凍」などと言われないようにしたいものだが、残念ながら、昨日の小欄でも触れた日中首脳の握手は遠のきそうな、怪しい雲行きである

▼連日の曇天のように心が重くなる話だが、巷で[ちまた]は街の飾り付けがツリーから門松に変わり、年越しへと歩を速める時期。商いにとっては、今からが書き入れ時だ。中でもこの冬、過熱しているのが自動車販売業界という。先の熊日紙面でも、消費税増税前の駆け込み需要でにぎわう店頭のもようが伝えられていた

▼ところがこの広い世界で、売れすぎを嘆いている人がいるという。ぜいたくな悩みを抱えているのはイタリアの高級車フェラーリを率いるモンテゼモロ会長。中国でのバブル需要に対して「困ります」とばかりに減産を指示した。量よりブランドを重んじる国らしい

▼いやいやブランド力といえば、くまモンも負けていないだろう。過去2年の経済効果は1200億円に上るとか。マーケティングが専門の棟方信彦元県立大教授によれば「ブランドの本質は消費者との間に絆が生まれること」

▼今年は海外に進出したくまモン、冷えた隣国の心をほっこり温めてくれまいか。

 

首相 靖国参拝(2013年12月27日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

国際社会に不信生む誤りだ

 安倍晋三首相が、首相として初めて靖国神社を参拝した。冷却化する中国、韓国との関係改善がさらに困難になるのは必至だ。米国も在日大使館が「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」との声明を発表、波紋が広がっている。

 安倍首相は高い支持率などを背景に、第1次安倍内閣の時に実現できなかった念願の参拝を可能だと判断したのだろう。だが中国、韓国との関係修復が進まない中でさらに緊張をあおり、米国からも批判されるようでは、参拝は明らかに誤りだったといえる。

中国、韓国は猛反発

 第2次内閣発足からちょうど1年のタイミングで、安倍首相は「政権1年の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えるため、この日を選んだ」と説明した。

 その上で中韓両国に対して「直接説明したい。説明の機会があればありがたい」と呼びかけたが、参拝理由を説明するための首脳会談に応じることはあり得ない。

 参拝に対して中国外務省は「人類の良識に対する挑戦に、強烈な憤慨を表明する」との談話を発表。韓国政府も「韓日関係は無論、北東アジアの安定と協力を根本から損ねる行為だ」との声明を出した。

 安倍首相が靖国神社参拝に執着する背景には、日本の過去に対する個人的な歴史観があるとみられる。今年3月の衆院予算委員会で、太平洋戦争の総括に関する野党議員の質問に「日本人自身の手によることではなくて、東京裁判という、いわば連合国側が勝者の判断によってその断罪がなされたんだろう、このように思う」と答弁している。「勝者の判断による断罪」はかなり踏み込んだ表現だが、おそらく、これが安倍首相の本音と思われる。

日米関係にも影響か

 さらにA級戦犯についても国会で「国内法的には戦争犯罪人ではない」と答弁しており、靖国神社参拝が首相のこうした歴史観の延長線上にあることは間違いない。

 一挙手一投足でさえ大きな意味を持つ国の指導者の行動は慎重の上にも慎重であるべきだ。安倍首相周辺は「中韓両国と関係を改善したいという思いは本物だ。改善後に参拝する方が悪影響が大きい」と釈明する。しかし、どうやって関係を改善するのか、シナリオなき決断は指導者として許されない。国際社会に不信を与える行動だったのではないか。

 安倍首相が最重視する米国との関係にも影響を与えかねない。米政府は、中韓両国との関係悪化を懸念しており、歴史問題に関して日本に慎重な対応を求めてきている。そんな意向を踏まえず、靖国神社参拝に踏み切った安倍首相は米政府にどう映るのか。

 在日米大使館の声明にある「失望」という言葉は重い。首相はよくよく頭を冷やして考え直すべきだろう。

 

安倍首相が靖国参拝(2013年12月27日配信『宮崎日日新聞』−「くろしお」)

 

 「英霊」は戦没将兵の霊の呼称となっているが、第2次大戦前は必ずしもそうではなかった。明治22年の言海には項目がなく、昭和7年の大言海には「英魂ニ同ジ」と記される。

 さらに、3年後の辞苑も「すぐれた人の霊魂、死者の霊の尊称」と説明するにとどめている。だが、戦後に編まれた広辞苑(第1版)では「(1)すぐれた人の霊魂(2)死者の霊の尊称。特に戦死者の霊にいう」と変容している(田中丸勝彦著「さまよえる英霊たち」)。

 安倍首相が靖国神社を参拝後、記者団に述べた言葉に「英霊」があった。「日本のために尊い命を犠牲にされたご英霊に対し、尊崇の念を表し、手を合わせた」と話し、外国を含め、全ての戦争で亡くなった人たちのため祈ったという。

 写真でしか知らないが小欄子の叔父も靖国神社にまつられる英霊である。かつての満蒙国境、中国の東北部でソ連参戦の混乱の中、戦死したらしい、と伝えられる。らしいというのは何もかもが不確実だからだ。届いた遺骨箱を開くと木片が入っていたと聞いた。

 ニューギニア島や周辺諸島のジャングルには今も日本兵の遺骨が野ざらしになっている。南方戦場の典型例だ。海外の戦場跡には収容可能な遺骨がまだ60万柱はあると推定される。英霊と呼び、野ざらしのままでは言葉に実質が伴わない。

 首相は遺骨収容にも熱心だ。硫黄島にも自ら訪れていて、戦没者遺族も率先垂範する姿に期待している。勝手な想像だが戦没者の霊も願っているのではないか。賛否割れる参拝より仲間の帰国を、と。首相が英霊に報いる方は他にもある。

 

[首相靖国参拝] また一つ封印を解いた(2013年12月27日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 安倍晋三首相がとうとう靖国神社を参拝した。中国や韓国の被害者感情を逆なでする行動で、一層の関係悪化は決定的である。国益を度外視した参拝は誤りと言わざるを得ない。

 安倍政権は夏の参院選で圧勝してから、保守色の濃い政策を矢継ぎ早に打ち出している。靖国参拝で「安倍カラー」の封印を、また一つ解いた印象だ。

 「自民1強」のおごりすら感じさせる。首相は謙虚な政権運営を忘れてはならない。

 戦火に倒れた人々を悼むのは、もとより自然な感情だ。しかし、靖国神社は国民を戦争に駆り立てた国家神道の要だった。また、A級戦犯合祀(ごうし)が判明した後、昭和天皇は参拝を取りやめた。

 首相が参拝するなら、多大な損害を与えた近隣諸国に説明し、一定の理解を得ることが前提であるべきだ。唐突な参拝が反発を買うのは自明の理である。

 首相は4月、麻生太郎副総理らの参拝に反発した中韓に反論し、「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」と述べた。敵対心をあおってどうするのか。

 今回は自ら招いた問題である。経済関係や民間交流に悪影響を及ぼさないよう、不信解消に向けて外交努力を尽くすべきだ。

 現職首相の参拝は小泉純一郎氏以来7年ぶりだった。「安倍政権1年の歩みを報告し、再び戦争の惨禍で人々が苦しむことのないよう決意を伝えた」と、首相は理由を説明する。

 それだけだろうか。首相は「前回の第1次安倍内閣で参拝できなかったのは痛恨の極み」と、しばしば表明してきた。信念に基づいた参拝に違いない。

 中韓両国との首脳交流再開をにらんで参拝を自重してきたのに、そのめどが一向に付かない。これ以上見送れば来春の例大祭まで参拝のタイミングが失われ、保守層の離反を招くとの危機感もあったようだ。

 一国の指導者の行動は重い。領土問題や歴史認識問題をめぐり、関係が冷え込んだ中韓は猛反発している。新政権発足後に一度も開かれていない首脳会談は、もはや完全に実現不可能と思える。

 中国は一方的に防空識別圏を設定するなど、露骨に覇権を求めている。だが、首相参拝は「日本軍国主義の復活」として、日本批判キャンペーンの格好の道具に利用されるだろう。

 同盟国である米政府も、首相の歴史認識問題では自制を促し、対話を求めてきた。もはや「対話の窓は開いている」という言葉だけで、事態は打開できまい。

 

首相靖国参拝 政権の暴走を危ぶむ 偏狭な歴史観、共有できず(2013年12月27日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 安倍晋三首相が首相としては初めて靖国神社を参拝した。参拝にこだわる安倍氏の国家主義的な歴史観は、戦後日本が積み重ねた歴史観と平和国家像を否定するものだ。特定秘密保護法の強行成立のような強引な政治手法も目立つ。中韓に加え、米国からも非難を浴びるような政権の暴走を危ぐする。

 かつて日本は国家と宗教が結びついて近隣諸国を侵略した。その反省から平和憲法は政教分離を規定した。安倍氏の行為は国家の最高責任者としてふさわしくない。

 靖国神社が、沖縄戦で住民が被った無念の死を殉国美談とする歴史読み替え装置の役割を果たしていることを忘れてはならない。

侵略戦争を正当化

 日本の軍人は天皇のために命をささげると祭神として靖国神社にまつられるとされてきた。国家神道という宗教と軍国主義が結び付き、国民を戦争に動員する役割を果たしてきた。靖国神社は「侵略戦争を正当化し、美化する」(高橋哲哉東大大学院教授)施設であるとして国内外で問題になっている。

 だが安倍首相は東京裁判について「連合国側が勝者の判断によって断罪した」と国会で表明、侵略性を認める政府見解とは異なる歴史観を持っている。

 ことし8月15日の「全国戦没者追悼式」の安倍首相の式辞から、アジア諸国の犠牲者に対し深い反省と哀悼の意を伝える言葉が消えた。植民地支配と侵略を謝罪した1995年の「村山談話」以来、歴代内閣が共通の歴史認識として積み重ねてきた言葉を消し去った影響は深刻だ。

 その一方で靖国神社参拝を強行した。東条英機元首相ら戦争を指導したA級戦犯もまつられている。「日本のために尊い命を犠牲にした英霊に尊崇の念を表する」という首相の発言が中韓両国の気持ちを逆なでするのは当然だ。

 中国は「人類の良識に対する挑戦」、韓国は「嘆かわしく怒り」と非難するなど、日中・日韓関係が決定的に悪化するのは必至の情勢だ。米国も「失望している」との異例の批判声明を発表した。首相は、個人的な望みを実行したことで、国益を大いに損ねたことを自覚すべきだ。

 参拝後、首相は参拝した歴代首相と「全く同じ考え」だと述べた。中曽根康弘首相(当時)と小泉純一郎首相(同)の参拝は、高裁と地裁でそれぞれ「宗教的活動に該当」するとして違憲判決が確定した。国政の最高責任者が一宗教法人へ参拝する行為を司法が警告していることを認識しているだろうか。「内閣総理大臣 安倍晋三」名で献花しながら「私人」だったとの釈明は通らない。

ゼロ歳の「英霊」

 沖縄戦の場合、軍人・軍属以外でゼロ歳児から高齢者までの一般住民が「戦闘参加者」という身分で準軍人扱いされ、援護法を適用されている。援護法が適用されると「英霊」として靖国神社に合祀されている。

 軍の強制・誘導などにより発生した集団死であったり、軍に壕を追い出され、食料を奪われたりした沖縄戦体験が、援護法適用の過程で、戦争に協力したかのようにどんどん書き換えられていった。

 石原昌家沖縄国際大学名誉教授が指摘するように「日本政府は沖縄住民の最も残酷な無念の死を、崇高な犠牲的精神によって自らの命を絶った集団自決(殉国死)として美化していった」のである。沖縄にとって靖国神社は、ゼロ歳児が「英霊」としてまつられる「ねつ造された」空間でもある。沖縄戦の記憶をなし崩しにし、アジアに非難されるような偏狭な歴史観は共有できない。

 特定秘密保護法や今回の靖国神社参拝にみられるように安倍政権はタカ派色を鮮明にしている。中韓両国との外交関係が冷え切ったままの米国一辺倒の外交・安全保障政策は早晩行き詰まるだろう。アジア諸国との歴史認識の共有を含む信頼関係の構築にこそ、政権は力を注ぐべきだ。

 

安倍首相靖国参拝(2013年12月27日配信『しんぶん赤旗』―「主張」)

 

国際的孤立へと突進する暴挙

 安倍晋三首相が政権発足から1年を迎えた日に、日本の侵略戦争を肯定・賛美する靖国神社へ参拝したことを、きびしく糾弾します。首相としての靖国神社参拝は小泉純一郎氏以来というだけでなく、安倍首相はこの1年、日本がかつて侵略した中国や韓国と首脳会談を開くことさえできず、そうしたなか、国家安全保障会議(日本版NSC)や秘密保護法をつくり、集団的自衛権の行使をたくらむなど、軍備増強と戦争体制づくりを進めています。安倍首相の靖国神社参拝は、内外の批判を踏みにじり、「戦争する国」へ突進する暴挙というしかありません。

政権に復帰以来の執念

 東京・九段にある靖国神社は、戦前は軍の管理で、日本の侵略戦争を「自存自衛の正義のたたかい」「アジア解放の戦争だった」と正当化する、特殊な施設です。日本の政府を代表する首相や閣僚が靖国神社を参拝するのは、そうした侵略戦争肯定・美化の立場に自ら身をおくことを認めるものであり、戦争で犠牲になった「英霊に尊崇の念を示す」「不戦の誓い」などという言い分は通用しません。

 安倍首相は靖国神社参拝後、これまでの首相も参拝を続けてきたといいはりましたが、侵略戦争を肯定・美化する靖国神社への首相や閣僚の参拝が、侵略戦争は繰り返さないと誓った国内世論の批判を招いてきたのはもちろん、中国や韓国からもきびしい反発を呼んできたのは歴史の事実です。だからこそ2006年の小泉氏以降、首相は参拝しなかったのです。

 ところが安倍氏は、06〜07年の第1次政権時代に靖国神社に参拝できなかったことを「痛恨の極み」と公言し、昨年末の第2次政権発足後、ことあるごとに参拝の機会をうかがってきました。春と秋の靖国神社の例大祭には総理大臣名で供え物の真榊( さかき)を、8月15日の終戦記念日には代理を派遣して自民党総裁名で玉ぐし料を奉納したのはその証明です。政権1年の日を選んだ参拝は、安倍首相の異常な執念を浮き彫りにするものです。

 首相や閣僚の靖国神社参拝には、かつて日本に侵略された中国や韓国だけでなく、連合国として戦前の日本とたたかったアメリカも懸念を示してきました。ことし10月来日したアメリカの国務長官と国防長官がそろって千鳥ケ淵の戦没者墓苑に献花・黙とうしたのは、首相の靖国神社参拝をけん制したものと受け取られています。

 国内からも、海外からも反発が確実視されたのに、安倍首相があえて参拝を強行したのは、政権発足以来進めてきた「戦争する国」づくりへの新たな決意表明以外の何ものでもありません。日本版NSCや秘密保護法を決めた後、「国家安全保障戦略」や「防衛計画の大綱」を策定、来年度予算案では軍事費の2年連続増額を決めるなど、安倍政権の動きは矢継ぎ早です。暴走を食い止め、「戦争する国」をやめさせることが急務です。

中韓米…相次ぐ批判

 安倍首相の靖国神社参拝は直ちに中国や韓国の憤激を呼んでいます。アメリカからも「失望した」と異例の反応が出されています。

 戦前の日本が戦争に突き進んだのは朝鮮半島や中国東北部への侵略を強行し国際的に孤立したのが背景です。国内外の批判に耳を貸そうとしない安倍政権の暴走も国際的孤立と自滅を招く道です。

 

千鳥ケ淵の戦没者墓苑(2013年12月27日配信『しんぶん赤旗』―「潮流」)

 

今年の10月でした。来日中のケリー米国務長官とヘーゲル米国防長官がそろって千鳥ケ淵の戦没者墓苑を訪ねました。神妙な様子の2人は長身を折るように、献花台に花束を手向けました

▼先の大戦後、靖国神社から500メートルほど離れた場所につくられた国の施設。A級戦犯をふくむ軍人らを合祀(ごうし)する靖国と異なり、海外戦没者の身元不明や引き取り手のなかった人たちの遺骨を収めます

米閣僚の千鳥ケ淵献花は、靖国参拝に固執する安倍首相に衝撃をあたえました。日本の侵略戦争を美化する靖国への参拝は、中国や韓国との関係を悪化させ、米国のアジア戦略にも影響を及ぼす。そのために、けん制したのでは、とみられています

▼波紋のひろがりは、靖国参拝がいかに国際平和を乱すかを示したものでした。それを押し切って、仕事納めとばかりに靖国に足を運んだ安倍首相。内外の多大な犠牲者に心を寄せず、みずからの信条を押し通す傲慢(ごうまん)ぶりです

▼中国政府はすぐに「強烈な抗議と厳しい非難」を表明。韓国のメディアは「メガトン級の悪材料」と伝えました。そして、米大使館からは「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動をとったことに、米国政府は失望している」

▼政権発足から1年。内外の批判をよそに、危険な本性をむきだす首相。こがれた靖国参拝も、戦争する国に向かうための一環なのでしょう。これ以上、日本を孤立させ、ふたたび破滅の道に進ませない。たたかいの闘志がわいてくる年の瀬です。

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