大学が軍事研究、「反対」大多数 日本学術会議公開フォーラム(シンポ)

 

「おぞましい策謀」

 

(万年資金不足の大学や機関で)資金援助というエサで研究者を釣るのは、ある意味間接的な動員」(ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英氏の言葉)

 

 米軍から研究費8.8億円 大学やNPOに135件 08年〜16年

 

軍事研究しない原則、4割が支持 全国95大学アンケート

 

北大が防衛省の助成辞退 「軍事研究」めぐる学術会議声明受け初

 

自由な学問と知的活力のある大学へ(明治大学学長・学部長声明)

 

関連記事 関連論説

 

「世界中から不信感持たれる」「平和哲学ない科学技術は凶器だ」=防衛省資金提供に懸念

 

 

 

 

 

 

日本学術会議が主催した安全保障と学術に関するフォーラム

=2月4日午後、東京都港区

 

 

 2017年2月4日、過去の声明を見直すかどうか検討している学者の代表機関・日本学術会議は大学などの研究機関が軍事研究とどう向き合うかを議論するための、有識者や一般から意見を聞く「公開フォーラム」(シンポジウム)を東京都港区の同会議講堂で開いた。大学教授や市民ら約340人が参加し、議論では軍事研究に反対する意見が大多数を占めた。

 

 同会議は1950年と1967年に、科学者が戦争協力した反省から「戦争を目的とする科学研究を行わない」との声明を発している。

 

 日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」(委員長・杉田敦・法政大教授)は2016年5月、軍事研究を否定する声明の再検討に着手。2017年1月16日、日本学術8回目の会合を開き、審議の中間とりまとめ案を議論した。

 

 2月4日開催の公開フォーラムで中間まとめを示すため、委員長の杉田委員長が素案を提示。学術会議が1950年と67年に軍事研究を行わない声明を出した背景に、科学者コミュニティーの戦争協力への反省と、政府からの独立性の確立の誓いがあったことを確認したうえで、防衛省の委託研究制度は「政府による研究への介入の度合いが大きい」と指摘。軍事研究は秘密保持が要求されがちで「研究が萎縮するおそれ」があるとして、学術の健全な発展に及ぼす影響に懸念を示し、慎重な判断が必要だとした。

 

 これに対して、井野瀬久美恵学術会議副会長は「学術・教育に関わる者が(戦争に)手を貸してはいけない」と強調。佐藤岩夫東京大学教授は防衛省の制度の「廃止・縮小を求めるべきだ」と述べ、山極寿一京都大学学長は「公開できない公募研究は認めるべきではないとはっきり宣言してほしい」と主張。一方、大西隆学術会議会長は、大学などでの自衛のための装備開発につながる基礎研究を認めるべきだという修正案を示した。

 

1月23日に出した中間報告は、「国民の意識は変化しており自衛目的の研究は容認される」(大西隆会長)といった意見を踏まえ、軍事研究という言葉を使わず「軍事的安全保障研究」と表現。意見の隔たりが大きく論点整理にとどまり、声明見直しの是非の判断を示さなかった。一方、防衛省が公募で資金を提供する安全保障技術研究推進制度に対しては「政府による研究への介入の度合いが大きい」と慎重な姿勢を示した。

 

 そのうえで中間報告は、「自衛隊を認めることと大学などにおける軍事研究の是非とは独立した問題。民生と軍事技術の区別以上に防衛目的と攻撃目的の技術の区別は困難」などと指摘。「学術の健全な発展のためには国立大学の運営費交付金の増額に加え、民生的研究資金を充実していくことが望まれる」とした。

 

 これに対し、複数の委員から「軍事研究の定義が不明」「学術の健全な発展だけを考えて国の平和や安全は政治家任せでよいのか」などと批判が相次ぎ、一部修正することで一致した。軍事目的の研究を否定する声明の存廃については言及しなかった。杉田委員長は「異論もあったので併記して議論のたたき台としたい」と述べた。

 

 防衛省が助成している軍事と民生の両方に応用可能なデュアルユース(軍民両用)の基礎研究に、大学などが参加することの是非が議論の焦点。企業は既に参加しているが、多くの大学は参加の是非について明確なルールを定めていない。

 

 戦争を目的とする科学研究を行わないとの2つの決議を受け継ぎ、軍事研究禁止を再確認する国立大学が、東北大、東京大、新潟大、京都大、広島大、琉球大など相次いでいる。

 

 私大のなかで、明確に軍事研究の助成金申請に応じないことを公表しているのは、関西大学、明治大学、法政大学等である。

 

関西大は2016年12月7日、教員の応募申請を認めないとの方針を決めた。国内外の公的機関や民間企業からの軍事目的を前提とした研究費も受け入れない。すでにある大学の研究倫理規準で「人間の尊厳、基本的人権や人類の平和・福祉に反する研究活動に従事しない」と定めており、ルールを明確化したという。方針は、@制度への応募申請に加え、他大学の申請に共同研究者として参加することも認めないA軍事防衛を所管する公的機関からの研究費は受け入れないB企業からの軍事防衛目的の研究費を受け入れない、とした。

 

明治大学は2017年1月15日、朝日新聞に全面広告を掲載、その中で、「軍事利用を目的とする研究・連携活動の禁止」を明確にした。

 

法政大学は2017年1月26日、軍事研究を行わないとする指針を制定し、防衛省の研究費への応募は「当分の間認めない」と決めたうえで、「軍事研究や人権抑圧など人類の福祉に反する活動は行わない」と定める指針も、新たに制定した。田中優子総長は「戦争を目的とした武器等の研究・開発は、本学が使命とする持続可能な地球社会の構築の対極にあり、関与するのは、本学の存立基盤をゆるがすことになる」などとするコメントを出した。

 

 2月4日の「公開フォーラム」では、まず検討委委員長で法政大教授の杉田敦氏が中間とりまとめの背景を説明。防衛装備庁が2015年から始めた大学などへの研究助成制度について、同庁の介入の度合いが大きく、学問の自由や開かれた場としての大学への影響が懸念されるとした。

 

その後、6人が意見表明のため登壇(科学史、技術戦略、物理学、医学の各分野の4人とメディア代表の1人が中間とりまとめを支持)

 

須藤靖東京大大学院教授は同制度に応募しないことを最終とりまとめに明記するよう要望。「安全保障に過度に依存する基礎研究など信じ難い。学術研究のためという視点を優先して行動すべきだ」と訴えた。

 

医学者の福島雅典・京都大名誉教授で先端医療振興財団臨床研究情報センター長は、現代社会での科学や科学者のあり方が問われているとし、「政府の軍民両用はおぞましい策謀」「哲学のない科学、技術は凶器」と指摘し、「科学者は人類の未来に重い責任があることを忘れてはならない」と、その科学者の責任の重大さを強調。「声明を変えれば世界から日本は不信感を持たれる」「軍事研究を行わない」との学術会議の声明を科学者の心によみがえらせ、世界に普及する取り組みを求めた。

 

三菱重工でミサイル開発等の軍事技術に携わった未来工学研究所の西山淳一研究参与は、「弾道ミサイルと宇宙ロケットは同じ。軍事利用と民間利用の間に境界はなく、悪用されないために何をすべきかが重要だ」と唯一賛成の立場を表明。軍民両用研究に理解を求めたが、その後の会場からの討論で批判が続出した。

 

 この日の議論では、新潟大の赤井純治名誉教授が、「人類の福祉や平和に貢献できるような科学の在り方を無視した動きだ。国策の名の下に研究者が軍事研究に加担させられた歴史を繰り返そうとしている。あるべき学問とは何かという視点が完全に抜け落ちている。亡国の施策だ」と批判。

 

そのほか、防衛装備庁の研究助成制度について科学史の研究者が「大学も研究室も大学院生も巻き込むことになる。大学は教育する場でもあり、個人がやりたいから、というのは良くない」と意見を述べ、別の大学研究者も「応募しないことが望ましいと明記してほしい」と発言。そのほか、「態度を変えたら世界中から不信感を持たれる」「基礎研究と軍事研究の線引きは不可能」「平和利用の哲学がない科学技術は凶器だ」などの見直しに反対する意見が大勢を占めた。

 

また、「大学での軍事研究は研究者個人だけの問題ではなく、学生ら研究室全体を巻き込む問題だ」との指摘も行われた。さらに、「学術会議だけでなく大学や学会も交えた議論が必要」「防衛と軍事は違う。防衛省の助成制度に応募しないよう(声明に)明記すべきだ」とする意見も出された。

 

さらに、「日本が武器輸出に走るなどの今の状況を議論する必要がある」「過去の歴史をみれば、科学者が戦争を残虐化してきた。その責任を考えるべきだ」などの声が上がり、今回のフォーラムにとどめず、議論を続けることを求める意見が相次ぐなど白熱した議論になった。

 

一方、「企業はいいが、大学は駄目というのはおかしい」という賛成意見も一部にあった。

 

終了後、委員長の杉田敦法政大教授は記者団に「全体として声明を堅持すべきという意見が多かった。最終的な取りまとめの参考にしたい」と話した。

 

 防衛省は軍事研究のための資金を提供する「安全保障技術研究推進制度」を2015年度に創設。この2年間で大学9件、研究機関5件、民間企業5件の合計19件の研究課題が採択される中、同会議は軍事研究への参加に慎重姿勢を示す中間とりまとめを公表していた。

 

安全保障技術研究推進制度(概要)

 

防衛省では、装備品への適用面から着目される大学、独立行政法人の研究機関や企業等における独創的な研究を発掘し、将来有望な研究を育成するために、競争的資金制度(注)である安全保障技術研究推進制度を実施しています。本制度は、防衛省が掲げた研究テーマに対して、広く外部の研究者の方からの技術提案を募り、優れた提案に対して研究を委託するものです。得られた成果については、防衛省が行う研究開発フェーズで活用することに加え、デュアルユース(軍民両用)として、委託先を通じて民生分野で活用されることを期待しています。

 

(注)資金配分主体が、広く研究開発課題等を募り、提案された課題の中から、専門家を含む複数の者による科学的・技術的な観点を中心とした評価に基づいて実施すべき課題を採択し、研究者等に配分する研究開発資金。

 

本制度では、

・受託者による研究成果の公表を制限することはありません。

・特定秘密を始めとする秘密を受託者に提供することはありません。

・研究成果を特定秘密を始めとする秘密に指定することはありません。

これらの点は、平成29年度の安全保障技術研究推進制度に係る公募要領、契約書及び委託契約事務処理要領において明記します。

     

 政府は近年、国家安全保障を重視した新宇宙基本計画など科学技術と防衛分野との連携を進めているなか、科学技術政策の司令塔といわれる「総合科学技術・イノベーション会議(議長・安倍晋三首相。科学技術政策担当大臣のリーダーシップの下、各省より一段高い立場から、総合的・基本的な科学技術・イノベーション政策の企画立案及び総合調整を行うことを目的とした「重要政策に関する会議」の一つ。同会議は国の科学技術政策を担い、関連予算をどう配分するかを決めている)も安全保障の議論を本格化しようとしているが、対する科学者側の対応は揺れている。

 

 その間、政府は2017年度予算案で同制度について2016年度の6億円から一気に18倍となる110億円に拡大。中国など周辺国の技術開発が急速に進む中、幅広い「知」を取り込んで技術的優位を確保する狙いから、防衛省が2016年夏示した「中長期技術見積り」も、無人化など優れた民生技術の導入を打ち出している。

 

 政府(内閣府)は、軍事に転用できる大学や民間研究機関などの技術(軍民両用技術)開発を推進するため、内閣府が2月中にも、有識者会合「安全保障と科学技術の研究会」を発足させる。研究会は防衛省だけでなく、他省庁も巻き込んで軍民両用技術の開発を進める方策を探る予定。

 

政府関係者によると、研究会は、自民党国防族らの要望などを受け設置される。内閣府の政策統括官(科学技術・イノベーション担当)の下で議論し、検討結果は「総合科学技術・イノベーション会議」に反映するという。

 

 内閣府は、軍民両用技術の推進を唱える日本学術会議の大西隆会長や政策研究大学院大学の角南(すなみ)篤教授、大手防衛企業幹部、などに参加を打診している。

 

 研究会では、テロ対策技術や防衛技術の開発に重点が置かれる。軍事転用可能な大学などの研究に助成金を出す防衛省の「安全保障技術研究推進制度」にとどまらず、ほかの省庁が主導して大学や研究機関の研究を防衛技術に転用できる仕組みなどを検討する。

 

 2017年2月9日付朝日新聞は、本の大学などの学術界に、2008年から16年までの9年間で少なくとも135件、総額8億8千万円に上る米軍からの研究助成が提供されていることがわかった。助成金は大学本体以外に、関連のNPO、ベンチャー、学会などに流入していた。日本の学術界は戦後、軍事組織からの助成に一線を引いてきたが、米軍からの研ログイン前の続き究助成が根付きつつある実態が浮かび上がった」と報じた。

 それによると、2008年から9年間の助成総額は大学本体が104件約6億8400万円、大学と関連の深いNPO法人が13件1億1200万円。ほかに国の研究機関(7600万円)、学会(1千万円)、大学発ベンチャー(560万円)が続いたという2017年2月10日配信『朝日新聞』−「社説」2017年2月11日配信『東京新聞』

 

■米軍から研究費の助成を受けている主な大学など

 

組織名

件数

総額

研究内容

大阪大

19

3億200万円

レーザーや船体に関する研究

東京工業大

5880万円

人工知能(機械学習)の研究

物質・材料研究機構

7110万円

材料開発に関する研究

東北大

4570万円

素材の解析や評価

奈良先端科学技術大学院大学

3580万円

センサーの開発など

北陸先端科学技術大学院大学

3190万円

ビッグデータ解析

金沢工業大

2180万円

船舶に関する研究

京都大

2070万円

アンテナ用素材の研究

※2008〜16米会計年度。総額は1ドル=112円で換算、米政府の支出データベースから作成

 

軍事研究しない原則、4割が支持 全国95大学アンケート

   

 日本学術会議が1950年と67年、過去の戦争協力への反省を踏まえ「軍事研究はしない」と誓った軍学分離の声明について、4割の大学が「堅持するべきだ」と考えていることが4日、全国の国公私立大95校を対象とした共同通信のアンケートで分かった。6割は明確な態度を示さなかったが、従来方針を変更してもよいとの声はなかった。防衛省は2015年度から、大学の研究者らを対象に軍事応用も可能な基礎研究の公募制度を始めたが、大学側は防衛・軍事研究に慎重な姿勢が浮き彫りになった。

 アンケートは2月、理、工学部を持つほぼ全ての国立大と主な公立、私立大を対象に実施した。

 

学術会議、軍事研究禁止の方針継承へ 検討委が声明案

 

安全保障と学術に関する検討委員会は、軍事研究を禁じる従来方針を継承する新たな声明案をまとめた。

声明案は、軍事的な安全保障研究について「学術の健全な発展と緊張関係にある」とし、政府による研究者への介入が強まることへの懸念を打ち出す内容になっている。

 声明案は、学術会議が過去2回出した軍事研究を禁じる声明を「戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった」と説明。科学者が追求すべきことを「学術の健全な発展を通して社会の負託に応えること」と記している。

 そのうえで、学術会議での議論の発端となった防衛装備庁による委託研究について「将来の装備開発が目的」とし、「政府による介入が著しく、学術の健全な発展という見地から問題が多い」と指摘。「むしろ必要なのは、民生分野の研究資金の一層の充実」としている。

 このほか、研究成果は研究者の意図を離れて軍事転用されうるとして慎重な対応を求め、大学や学会などにも自由な研究環境や知的財産などを守る責任から、倫理審査や指針作成などの対応を求めている。

声明案は、3月7日に開かれる「検討委員会」の最終会合に示された。4月に開催される学術会議の総会に諮る。

 

軍事的安全保障研究に関する声明(案)

日本学術会議検討委(要旨)

 

 日本学術会議の「安全保障と学術に関する検討委員会」が7日発表した「軍事的安全保障研究に関する声明(案)」(要旨)は次のとおりです。

 日本学術会議が、1950年「戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない」旨の声明、67年「軍事目的のための科学研究を行なわない声明」を発した背景には、戦争協力への反省と再び同様の事態が生じることへの懸念があった。われわれは大学等の研究機関における軍事的安全保障研究が学問の自由、学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認し、上記二つの声明を継承する。

 学術研究が政府に制約、動員された歴史的経験を踏まえ、研究の自主性・自律性・公開性が担保されねばならない。軍事的安全保障研究では、研究の方向性や秘密性の保持をめぐり政府の介入が強まる懸念がある。

 防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」は、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、(防衛省)職員が研究の進捗(しんちょく)管理を行うなど政府の介入が著しく、問題が多い。学術の健全な発展から必要なのは民生分野の研究資金の充実である。

 研究成果は科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的目的にも使用されうるため、研究の入り口で資金の出所等に関する慎重な判断が求められる。大学等の研究機関は、軍事的安全保障研究とみなされる可能性のある研究について、技術的・倫理的審査制度を設けるべきだ。学協会等にもガイドラインの設定が求められる。

 研究の適切性をめぐり科学者コミュニティーで一定の共通認識形成の必要があり、科学界全体が考え続ける必要がある。日本学術会議は率先して検討を進めていく。

 

 

 大学の軍事研究に反対する研究者や市民が2016年9月30日、「軍学共同反対連絡会」を発足させた。防衛省の安全保障技術研究の公募に大学が応じないよう働きかけたり、「日本学術会議」が軍事研究の容認に転じないように署名活動をする。

 

 「軍学共同反対連絡会」には、2014年に結成された「軍学共同反対アピール署名の会」や「大学の軍事研究に反対する会」、「『戦争と医』の倫理の検証を進める会」など17団体と大学教員ら約130人が賛同している。東京都内での記者会見で、共同代表の池内了・名古屋大名誉教授(71)は「自衛のための研究でも、攻撃を想定して軍拡路線にならざるを得ず、研究現場の学問の自由が踏みにじられていく」と述べた。

 

大学での研究の軍事への応用に反対し、日本学術会議(後方)前の路上で抗議の横断幕を掲げる「軍学共同反対連絡会」の関係者ら=2016年9月30日午後、東京都港区

 

大学による軍事研究反対を目的に結成された「軍学共同反対連絡会」の発足後、記者会見で発言する池内了・名古屋大名誉教授(左から2人目)=2016年9月30日午後、東京・永田町の衆院第二議員会館

 

 

関連記事

 

名大も軍事研究禁止 京大や琉球大に続き(2018年9月15日配信『東京新聞』)

 

 名古屋大は、軍事利用を目的とした研究を禁止する基本方針をつくった。近く公表する。国内外の軍事、防衛関連機関から資金提供を受けることを原則として禁止。人命保護につながる人道目的の研究は例外として認めるが、成果の公開を条件とした上で、学内に設置する審査委員会で可否を判断する。 

 京都大や琉球大なども、軍事研究を行わない方針を定めている。

 防衛省は2015年度、技術を軍事にも民生にも利用できる「デュアルユース」と呼ばれる研究に助成する公募制度を始めた。これに対し、国内の科学者で構成する日本学術会議は昨年3月、「戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない」とした過去の声明を継承すると表明。安易な応募に歯止めをかけるため、大学ごとに審査基準をつくるよう求めた。

 名大は2000年に定めた学術憲章で「人々の幸福に貢献することを使命とする」という理念を打ち出しており、松尾清一学長は「明らかな軍事目的の研究は名大では難しい」という姿勢を示していた。ただ、軍事研究を明確に否定する指針はなかったため、明文化の必要があると判断。各学部などから意見を集約し、基本方針づくりを進めていた。

 大学関係者によると、基本方針には「軍事利用を目的とする研究を行わない」と明記。防衛省の助成制度を念頭に「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関から資金の提供を受けて行う研究は行わない」とした。

 大学関係者は、例外とする人道目的の研究として「地雷の撤去技術など、人々の命を救うことになる研究」を例示。研究成果の公開を条件とする理由は「特定の国や機関だけが技術を独占すれば、軍事的に優位に立つための技術になりうる。成果を広く知らしめれば、それを防げる」と説明した。

 

自由な学問と知的活力のある大学へ(学長・学部長声明)

2018年6月8日
明治大学 学長室

 

本年5月16日に、法政大学田中優子総長は、「自由で闊達な言論・表現空間を創造します」との題名で
以下のメッセージ(要旨)を公表しました。

(法政大学田中優子総長メッセージ抜粋)

昨今、専門的知見にもとづき社会的発言をおこなう本学の研究者たちに対する、検証や根拠の提示のない非難や、恫喝や圧力と受け取れる言動が度重ねて起きています。その中には、冷静に事実と向き合って社会を分析し、根拠にもとづいて対応策を吟味すべき立場にある国会議員による言動も含まれます。 
 日本は今、前代未聞の少子高齢化社会に向かっています。誰も経験したことのない変動を迎えるにあたって、専門家としての責任においてデータを集め、分析と検証を経て、積極的にその知見を表明し、世論の深化や社会の問題解決に寄与することは、研究者たるものの責任です。その責任を十全に果たすために、適切な反証なく圧力によって研究者のデータや言論をねじふせるようなことがあれば、断じてそれを許してはなりません。 
 世論に多様性がなくなれば、働く現場は疲労困憊し、格差はいっそう拡がり、日本社会は硬直して出口を失うでしょう。柔軟性をもって意見をかわし、より良い方法を探ることこそ、いま喫緊に必要なことです。

 

私たちは、田中総長のメッセージを支持いたします。近来、一部国会議員や言論人が、学問の自由と言論表現の自由に対して、公然と介入し否定する発言を行っているのは、憲法を無視しているだけではなく、私たちの日常を支えている、民主主義のモラルを公然と否定するものです。「権利自由」「独立自治」を建学の精神とする本学にとって、この事態は看過できるものではありません。
 大学にとって批判的精神は常に必要とされるものであり、この批判的精神によって、権力の暴走を阻み、健全な市民社会を支えていくのです。私たちが今の日本を誇ることができるのは、この批判的精神を忘れないからであり、決してその時々の権力の内に「日本」があるわけではないのです。岡本太郎氏は、縄文の文化のうちに、日本を再発見しました。私たちも、奔放で自由な学問と知的活力の中で、日本を
再発見しなければなりません。
 この知的活力のマグマとなる民主主義のモラルを強く支えるために、田中優子法政大学総長のメッセージ
を支持するのです。

                                      2018年6月8日

                                    明治大学長 土屋恵一郎

                                     法学部長  村上一博
                                     商学部長 出見世信之
                                  政治経済学部長  小西コ應
                                     文学部長  合田正人
                                    理工学部長 久保田寿夫
                                     農学部長  針谷敏夫
                                    経営学部長   大倉学
                           情報コミュニケーション学部長  大黒岳彦
                                  国際日本学部長  鈴木賢志
                                  総合数理学部長   荒川薫

 

北大が防衛省の助成辞退 「軍事研究」めぐる学術会議声明受け初(2018年6月8日配信『産経新聞』)

 

 軍事転用可能な基礎研究を助成する防衛省の公募制度をめぐり、これまでに約2330万円の助成を受けていた北海道大が継続を辞退していたことが8日、防衛装備庁や大学側への取材で分かった。同庁によると、助成を受けていた大学が、途中段階で取り下げたケースは初めて。

 この制度は平成27年度に創設され、これまでに企業や研究機関のほか、北大を含む9大学が助成対象として採択されている。日本学術会議は軍事研究につながりかねないと懸念する声を受け、昨年「研究の進捗管理などで政府の介入が著しく、問題が多い」との声明を出している。

 北大広報課は「声明を尊重し、今後については日本学術会議の検討結果を参考にする」と話した。同庁は、北大の辞退について「大学の意思を尊重する」としている。

 北大が助成を受けていたテーマは「船などが受ける水の抵抗を小さくする研究」。研究期間は28〜30年度とされていたが、今年3月、辞退を申し出たという。

 研究していた北大大学院工学研究院の村井祐一教授は「大学と長期間にわたって協議したので、その判断を受け止めたい」と話した。

 

平和の研究議論 出発点に(2017年4月15日配信『しんぶん赤旗』)

 

軍事研究「新声明」を討論 日本学術会議が総会

 日本学術会議(大西隆会長)は14日、東京都内で開かれている第173回総会(15日まで)で、軍事研究を行わないという過去の声明を「継承する」とした新声明や、議論内容をまとめた報告について討議しました。

 「安全保障と学術に関する検討委員会」の杉田敦委員長が報告。声明は、防衛省の安全保障技術研究推進制度について「政府による介入が著しく問題が多い」と指摘したと説明。「自衛のための基礎研究は許される」という議論は否定していると述べました。

 討議では「科学者として国の安全保障の研究を進めるべきで、新声明に遺憾を覚える」との意見が出ましたが、「学術研究は国家のためでなく世界の人類のためのもの」「核兵器の開発など、科学者こそが戦争を残虐化し、犠牲者をつくりだした。平和とは何かを議論すべきだ」など新声明を支持する発言が圧倒的でした。

 新声明を基に各大学で議論とガイドラインの制定を呼びかける学術会議の姿勢について「丸投げではないか」という意見がありましたが、信州大学の会員は、大学の評議会で防衛省の制度への応募を認めないと決めたと報告し「学術会議の声明が議論に役立つ」と話しました。

 杉田氏は「軍事関連機関からの資金には慎重な対応を求めている」と述べ、丸投げでないとの認識を示しました。

 学術会議は総会初日の13日に幹事会を開き、検討委員会の審議内容を取りまとめた報告を承認しました。

 

軍事研究禁止発信を(2017年4月11日配信『しんぶん赤旗』)

 

学者の会が大学人シンポ

  

写真

(写真)軍学共同の問題について発言する大学教授らシンポのパネリスト=9日、東京都千代田区

 安保関連法に反対する学者の会は9日、東京都内で「軍学共同反対、共謀罪を考える大学人シンポジウム」を開き、大学関係者や市民ら約350人が参加しました。

 シンポに先立ち、小森田秋夫・神奈川大教授が日本学術会議の新声明に至る審議経過を報告。池内了・名古屋大名誉教授が大学に研究資金を提供する防衛省の戦略について報告し「軍民両用の技術を活用することで、文科省や経産省との『軍産学官連携』をめざしている」と批判しました。

 シンポでは、各大学の有志の会代表が発言しました。今年1月、防衛省の制度への応募を「当分の間認めない」という指針を決めた法政大の田中義教氏は「軍事研究に反対する姿勢をはっきり発信すれば、支持する人は増える」と訴えました。

 科学者と市民でつくる「軍学共同反対連絡会」の香山リカ・立教大教授は、軍事研究を禁止する過去の声明を「継承する」とした日本学術会議の新声明と報告を会として積極的に評価すると発言。「今後は各大学がガイドラインを制定する取り組みが重要だ。よい規定ができるよう連絡会も提案していきたい」と述べました。

 「安倍政権を糺(ただ)す」と題した第2部では、高山佳奈子・京都大教授が共謀罪立法の危険性を報告しました。「共謀罪では、銀行でお金を下ろすことなどが準備行為とされて捜査の対象になる。日常行為、研究活動、表現活動の準備など無限定に対象にされる」と乱用の危険性を述べ、広範な人権抑圧を招くと批判しました。

 佐藤学・学習院大教授は森友学園問題について報告しました。同学園と日本会議の関係にふれ「安倍政権の国家、政府、官僚の私物化、道義的腐敗、超右翼的イデオロギーが集中的に表れた」と指摘。徹底的な真相究明を通して安倍政権を倒し、憲法から外れた教育から子どもを守るたたかいにしていこうと呼びかけました。

 

米兵器開発に大学動員(2017年2月17日配信『しんぶん赤旗』)

 

宮本議員指摘 日米会談で危険増す

衆院財金委

 日本共産党の宮本徹議員は15日の衆院財務金融委員会で、トランプ米大統領と安倍晋三首相による日米共同声明(10日)に「防衛イノベーションに関する二国間の技術協力を強化する」と明記された問題を取り上げ、大学研究が日米の武器共同開発に動員される危険を告発しました。

 宮本氏は、防衛省の「防衛白書」にある米国の「国防イノベーション構想」のなかで、同国が軍事作戦上、技術上の優位性を維持拡大するために民生技術の活用と民間部門との緊密な連携を打ち出していることを指摘。「防衛省が始めている、大学の研究者を軍事研究に巻き込む『安全保障技術研究推進制度』の研究成果が、日米の武器共同開発に利用されることになるのでは」と追及しました。

 若宮健嗣防衛副大臣は、「研究成果を活用するかどうかは、今後の研究成果やいかなる日米共同開発を行うべきかを踏まえて検討する」と述べ、利用の可能性を認めました。

 宮本氏は、学術会議の議論の中でも、軍事研究に対し多数の研究者から否定的な意見が上がっているとして、「世界で違法な無人機攻撃などを繰り返す米国の兵器開発に、日本の大学研究を巻き込むことは許されない」と述べました。

 

米軍から研究費8.8億円 過去10年間 大学など計100件超(2017年2月11日配信『東京新聞』)

 

写真

 

米軍が日本の大学や公的機関の研究者に研究費の提供を続け、2007年から10年間の総額が少なくとも8億8000万円に上ることが、米国防総省の資料の分析で分かった。防衛省の研究助成の是非を巡り日本学術会議は議論を進めているが、米軍からの資金受け入れも論点となりそうだ。

 米軍の資金受け入れは、日本の法律上問題はない。提供は00年以降で少なくとも2億円を超えることが15年末に判明していた。国が国立大学に支給する研究費を含む運営費交付金の総額は10年前から1000億円以上減少しており、資金不足に悩む研究者が依然として米軍資金に頼っている構図が浮かび上がった。

 米政府のデータベースで公表された国防総省の資料によると、資金提供は100件超で、提供額は大阪大2億4300万円、東京工業大9000万円などが多額だった。提供を受けた大学は取材に「一部が確認できない」などと回答。7500万円の提供があったとされる物質・材料研究機構は「確認できない」とした。

 資金提供の分野は幅広く人工知能(AI)やロボット、艦船に近づく無人機を攻撃するレーザー、航空機の機体を軽くする炭素繊維素材などがあった。米軍はこれまでの取材に「数十年にわたって資金提供している」と回答。レーザーなど攻撃性能の高い技術に関しては「特定の応用は考えていない」とコメントしていた。

 

 

関連論説

 

軍事研究 「ノー」の意識広く深く(2019年9月19日配信『朝日新聞』―「社説」)

 

 兵器など防衛装備品の開発につながりそうな研究に、政府が資金を出す「安全保障技術研究推進制度」の今年度の実績が、先ごろ発表された。

 応募は2年連続減の57件、採択は16件で、防衛装備庁は制度開始5年目で初めて追加募集に踏み切った。大学の応募は過去最少の8件にとどまった。

 5年間で最大20億円が支給される好条件にもかかわらず、応募が少ない背景には、日本学術会議の働きかけなどを通じて、制度の問題点が広く共有されたことがあるだろう。科学者の倫理や社会的責任を踏まえた対応であり、評価したい。

 学術会議は1950年と67年の2回、軍事研究を否定する見解を表明。これを継承した2年前の声明では、今回の制度を「政府による介入が著しく、問題が多い」と指摘した。装備開発につなげようという目的が明確なうえ、政府職員が研究の進み具合を管理する点などを、学問の自由の下、人権、平和、福祉などの価値の実現を図る学術界とは相いれないと判断した。

 装備庁は「研究内容に口を出すことはない」などと釈明に懸命だが、多くの大学が「軍事研究はしない」との方針を確認している。いったん応募して支給対象になったものの、その後に辞退した例もある。

 意識は確実に浸透してきている。だが懸念がないわけではない。昨年、学術会議が全国の大学や研究機関を調べたところ、この制度への応募について、大学・機関としての方針や内部審査手続きを定めていないとの回答が、ほぼ半数を占めた。

 研究成果が民生と軍事の両面で使われる「デュアルユース」は、科学技術の宿命だ。個々の研究者に判断をゆだね、最終責任を負わせるのは酷であり、大学や機関で考え方に乖離(かいり)があれば、交流や人材の移籍の妨げにもなりかねない。これまでの議論の深まりを受けて、学術会議が音頭をとってスタンダードづくりを進めてはどうか。

 研究現場、とりわけ若手の間には「とにかく資金がほしい」「組織で個人を縛るべきではない」との声もある。前者は、政府が研究環境の整備を怠ってきたことの裏返しだ。軍事研究への誘導ではなく、着実な改善こそが求められる。また科学コミュニティーによる自主規律は、自由の侵害ではなく、将来に向けて研究を守ることに通じるとの認識を持つべきだ。

 遠くない過去、国内外の科学者は国家に組み込まれ、戦争に協力して、甚大な被害をもたらした。その反省と教訓を若い世代に伝えていくという重い課題にも、科学界は引き続き真摯(しんし)に向き合わなくてはならない。

 

軍事研究の公募 制度の見直しが必要だ(2019年9月17日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 国立天文台が軍事応用可能な基礎研究の公募制度に応募するかどうかで揺れている。防衛省が4年前から始めた制度だが、応募が減少し、今年は再募集するほどで、曲がり角を迎えている。

 防衛省は2015年度に安全保障技術研究推進制度を創設した。近年、軍民両用技術が広がり、大学などの研究者と研究成果を取り込むのが狙いだ。

 しかし、戦争の反省から1950年に日本学術会議は「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という宣言を発表。同制度についても、懸念を表明する声明文を公表した。「応募しない」と決めた大学も少なくない。

 天文台も3年前に教授会議が同制度に「応募しない」と決めた。だが、7月の教授会議で執行部が方針の改定案を示したことが、本紙の報道で明らかになった。

 同制度はスタートの2015年度は予算3億円で、109件の応募があったが、翌年は予算6億円で44件に激減。17年度から予算は100億円超になったが、応募は104件、73件、57件と減少傾向が続く。中でも最大で5カ年、20億円の研究費が付く大規模研究課題は本年度、大学や公的研究機関からの応募はゼロ。防衛装備庁はウェブサイトで、2次募集を始めた。

 サイトには研究成果の概要も紹介されている。17年度終了の研究課題11件を見ると、総額で1億円を超えるものが6件あるが、論文の発表実績は1件が3課題、ゼロが5課題もある。

 財務省は論文の生産性という言葉を使って大学の研究費を抑え、研究テーマや配分先の選択と集中を図っている。その論理からすれば、安全保障技術研究こそ、見直すべきだろう。

 天文学は基礎研究の最たるものだ。今年一番の成果は4月に発表されたブラックホールの写真である。南極大陸や南米チリなど世界の8つの電波望遠鏡が連携して成功した。記者会見は世界同時で、日本でも行われた。

 今月初めには米IT企業の創業者らが創設したブレークスルー賞(賞金約3億円)の受賞が決まった。受賞者の中には国立天文台の本間希樹教授ら日本人研究者約20人が含まれている。国際的な研究で主役を務めることも重要なことではないだろうか。

 安全保障研究予算約100億円を文部科学省の研究費増に充てる。そうした政策の切り替えが必要だ。

 

                            大学の軍事研究 統一指針の作成が急務だ(2018年5月6日配信『新潟日報』−「社説」)                                                                                                                         

 

 戦争目的の科学研究はしないとの姿勢を、明確に打ち出す時ではないか。

 日本を代表する科学者の組織である日本学術会議が取りまとめたアンケートで、見過ごせない結果が出た。

 軍事技術への応用が可能な基礎研究に研究費を支給する防衛省の公募制度に絡んで、内部の審査体制ができている大学や研究機関は、3割強にとどまることが分かった。

 整備に向けて検討中との回答を合わせても、全体の5割程度にすぎない。

 新潟大や京都大のように軍事研究を行わないと決めたところがある半面、模様眺めをしている機関も多く、対応の温度差が浮き彫りになった形だ。

 学術会議は昨年3月、防衛省公募制度について「政府による介入が著しく、問題が多い」という声明を出した。

 声明は軍事研究に否定的な姿勢を示した上で、応募する場合は、それぞれの機関で研究内容が適切かどうか審査する仕組みを設けるよう求めていた。

 審査というハードルで安易な応募を食い止めようという狙いがあったが、アンケート結果を見ると、その意図が十分に浸透していなかったと言える。

 声明のあいまいさが理由だろう。戦争に協力した過去を反省し、軍事研究を否定した1950年と67年の声明を「継承する」としながらも、賛否は明確にしなかったからだ。

 学術会議の中には、防衛省の公募制度を肯定的に受け止めている会員が少なくない。アンケートでも、2割程度の機関が応募を認めたと回答している。

 政府が、結果と利益に直結しやすい研究を重視し、地道な基礎研究にしわ寄せが来ていることが背景にある。

 国から国立大に支給され、自由な基礎研究を支えてきた「運営費交付金」の現状を見ると、それは明らかだ。

 2004年度に約1兆2400億円あった交付金は現在、1兆1千億円前後で推移している。それに伴い、大学は研究費を十分に配分できなくなっているのが実情という。

 一方、防衛省の助成制度は、制度を創設した15年度には3億円だったのが、現在は100億円を超えている。短期間で30倍以上に増加した。

 防衛費が過去最大を更新し続けていることと、決して無縁ではないはずだ。

 科学技術には、一般向け(民生用)にも軍事用にも使えるものがある。今や日常生活に欠かせないインターネットは、もともと米国が軍事技術として開発したことで知られる。

 民生用か軍事用か線引きが難しくなっているのは確かだ。

 だが、助成対象になると、防衛省所属の研究者が進展具合を定期的に管理する。一部は民生用に利用したとしても、軍事的に意味のある研究成果を期待しているとみるのが自然だろう。

 平和を願い、軍事研究を拒んだ先輩科学者たちの思いに、もっと向き合ってほしい。

 

琉大軍事的研究禁止 大学としての矜持示した(2017年10月27日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 琉球大学が防衛省の安全保障技術研究推進制度などに対する「対応の基本方針」を発表した。軍事利用を直接目的とする研究や、軍事を所管する国内外の公的機関から資金提供を受けた研究を行わないことを打ち出した。

 日本学術会議が今年3月に発表した声明は防衛省の制度を「政府による介入が著しく、問題が多い」などと指摘し、過去の戦争協力への反省から軍事研究をしないことを掲げた1950年と67年の声明を「継承する」とした。

 だが、禁止にまでは踏み込んでいない。琉大の基本方針は明確に禁止を打ち出しており、先駆的である。大学としての矜持(きょうじ)を示したことを、県民として誇りたい。

 防衛省の制度は軍事応用も可能な基礎研究に助成する。2015年度に創設された。防衛省側で大学や独立行政法人、民間企業の研究者からの提案を審査し、委託研究費を配分する。

 研究成果は国の防衛や災害派遣、国際平和協力活動などで用いる装備品の開発につなげるほか、民生分野でも活用されるとしている。

 装備品には兵器が含まれる。兵器開発に直結しない基礎研究であっても、研究成果は将来的に兵器開発に使われる可能性がある。民生分野で活用されるにしても、防衛省の制度である以上、主目的は兵器の開発である。

 兵器開発につながる恐れのある研究に携わることは、研究者として厳に慎むべきである。

 だが、17年度は助成制度に104件の応募があり、14件が採択された。このうち大学からの応募は22件で、研究代表者に大学は選ばれなかったものの、採択された研究課題に4校が協力する。憂慮すべき事態である。

 琉大の大城肇学長は15年8月、防衛省の助成制度に対し、学内での実施を差し控えるべきだとする考え方を発表し、応募を事実上禁止してきた。基本方針を決定することで、大学として戦争には協力しない姿勢を明確にした。

 沖縄戦を体験した地にある大学にとどまらず、日本の大学としての範を示したことを高く評価したい。

 共同通信が今年2月に実施したアンケートで、約4割の大学が日本学術会議の軍学分離声明を「堅持するべきだ」とする一方で、防衛省の助成制度に対する大学としての対処方針や内規があるとした大学は約2割にとどまった。

 多くの大学が琉大に続いてほしい。

 助成制度が新設された15年度の予算は3億円、16年度は6億円だったが、17年度は110億円と大幅に拡大した。その一方で、政府は大学への補助金を削減し続け、研究費のかさむ理系学部の多くが資金不足に悩んでいる。

 研究者の良心を発揮することで、現状を改めたい。琉大の取り組みがその後押しになることを期待したい。

 

[技術の軍事転用] なし崩しに進む危うさ(2017年8月16日配信『南日本新聞』−「社説」)

 

 防衛省が自衛隊装備に使える中小企業の先端技術について調査に乗り出している。

 中小企業の技術力に目を向け、軍事転用の裾野を広げたい防衛省の思惑がうかがえる。日本の技術の海外流出や売却を防ぐ目的もありそうだ。

 世界では人工知能(AI)やドローンなど民間の開発技術を軍事分野に取り入れる動きが活発だ。各国間の装備開発競争も激しさを増している。

 問題は民間技術への関与を強める防衛省の前のめりの姿勢である。このまま企業が軍事研究に取り込まれ、軍事転用がなし崩しに進めば危うい。

 科学研究が戦争協力した苦い歴史を忘れてはならない。民間技術の軍事転用は、積極的な情報公開と十分な議論が欠かせない。

 防衛省は昨年末、東京都内で中小企業を対象に製品展示会を開いた。参加した10社は防護服に利用できる耐久性の高い繊維や3Dプリンター、超高感度カメラなど自社の技術を提案した。

 中小企業の中で独創的な研究開発力とノウハウを持ち、オンリーワンの技術力を評価される会社は少なくない。

 防衛関連企業OBは「思わぬ技術が装備のレベルを飛躍的に高めるかもしれない」と期待する。

 未知の先端技術をいち早く実用化できるメリットは大きい。他国に奪われることなく軍事的優位性を保てるからだ。

 防衛省は自衛隊装備に使えそうな民間技術の発掘に躍起だ。

 2015年度に大学を含め技術研究を資金援助する制度を創設した。16年策定の「防衛技術戦略」は、民間分野からの効果的な技術や人材を活用することが重要としている。

 今回の調査では最新の軍事技術を求める姿勢があらわだ。関心がある分野に、レーダーに映りにくいステルス技術や無人機に使う自動制御技術を提示した。実績作りを急ぐ意図が見え隠れする。

 研究者の間では、戦争協力の反省を踏まえ軍事転用に否定的な意見が根強い。日本学術会議は今春、軍事研究をしないことを掲げた戦後の声明を堅持すると決めた。

 とはいえ企業側からみれば、防衛省の意向は「商機」にもとらえられる。「協力を求められたら断れるのか疑問だ」(ベテラン研究者)との指摘もある。

 近年のロボット技術のように民間と軍事の境目はつけにくくなっている。軍事転用には産業界や学術界との社会的な合意形成が必要である。防衛省はしっかり説明を尽くすべきだ。

 

【高知工科大】平和追求する姿勢継続を(2017年5月28日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 高知工科大学が軍事研究を行わないとする方針を決めた。磯部雅彦学長が先日の本紙インタビューに詳しく答えている。

 大学や研究者が現在直面している「学術と軍事」について明快な方向を示した。危険が迫って軍事的な手段が必要な場合でも、憲法が掲げる平和主義に立って研究を進める、と学長は述べている。そうした姿勢を今後も維持してほしい。

 平和を追求するとともに真理を探究する。研究者は誰もがそんな倫理観と良心の下、日々業務に励んでいるだろう。一方で、研究費の確保で大学や研究者は悩んでいる。

 文部科学省は大学への運営交付金を削減し、科学研究費にもしわ寄せが及んでいる。ところが、軍事に応用できる基礎研究を公募する防衛省制度の予算は膨らみ続けている。当初の2015年度の3億円が17年度には約110億円となった。米軍も日本の大学などの研究者に多額の研究費を出している。

 倫理、良心と資金面をどう両立させるべきか模索している大学、研究者は少なくないのではないか。

 工科大の方針はそうした中で出された。研究が軍事に向かわないようチェックする学内の組織を6月中に新設することも決めた。技術や研究の在り方を巡って警鐘を鳴らしたと受け止めていいだろう。

 いずれも日本学術会議による3月の声明に沿ったものである。学術会議は議論の末、1950年と67年に「軍事研究はしない」と決めた声明の基本方針を継承する声明を今年3月に発表した。

 その中で大学などに対して、軍事関連の可能性がある研究については、適切性を審査する制度を設けるよう求めている。

 工科大の学内組織が判断に迷うケースが出てくることもあろう。民生用か軍事用かの境目は技術革新によってあいまいになっている。

 軍事関連の場合、「自衛目的は許される」とする考え方がある一方で、自衛、防衛を目的としたものと、攻撃目的との線引きが難しい場合があるという。

 その点について学長は、一様に軍事技術とみなさざるを得ないとしている。ただ、問題があれば、その都度立ち止まり、軍事研究の拒否を決めた原点を確認するとともに、検証を重ねるよう求めたい。

 防衛省が研究費を出す予算が、本来の科学研究費として大学に支出されれば、民生用の基礎研究に役立てられることも学長は指摘した。

 日本では、大学などへの研究費の予算が軍事応用可能な内容に偏り、「軍学共同」の動きが強まる恐れもある。基礎研究費が各国で削られることへの懸念もある。そうした流れに、大学や研究者が連帯して疑義を呈する必要もありはしないか。

 高知県立大、高知大は学長らが防衛省の制度への対応を考えていくと表明している。自主性と自立性を大事にしながら、十分議論して方向を打ち出すよう期待する。

 

学術会議と軍事研究 改めて戦争協力はしない決意を(2017年4月25日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 日本の科学者を代表する組織である日本学術会議が、大学などでの軍事研究に否定的な声明を決議、今月の総会で会員に報告した。科学者が戦争に協力した反省から、学術会議は1950年と67年にも同様の声明を出しており、今回改めて過去の声明を「継承する」と宣言した。

 2度目の声明から半世紀。防衛省と大学との技術協力や、米軍からの研究資金提供など、軍事と学術の接近が懸念されている中、新声明は「大学での軍事的研究は、学術の健全な発展と緊張関係にある」と指摘した。科学者たちの「不戦の誓い」は意義深い。強制力はないが、各大学で研究への参加の可否を審議する際の大きな指針となる。高く評価したい。

 声明では、研究者が軍事研究への参加を希望した場合に対応するため、大学などに適切性を審査する制度を設けるべきだとした。すでに「軍事研究は行わない」と宣言する大学もある。残る大学・研究機関も、軍事研究とは一線を画する姿勢を明確にしてもらいたい。

 学術会議が改めてこの問題に向き合ったのは、2015年度に創設された防衛省の「安全保障技術研究推進制度」がきっかけだ。軍事に応用できる先端的研究を大学や企業などに委託する公募制度。初年度の予算額は3億円だったが、2年目は6億円、3年目の17年度は一気に110億円に増えた。

 大学の研究予算が年々削減されていく中での軍事研究予算の急増は、研究者を金で誘導しようとする意図が明白で、到底容認しがたい。新声明でも、研究の自主性や自律性、研究成果の公開の自由が脅かされるとの懸念から「政府による介入が著しく、問題が多い」と指摘した。

 とはいえ、過去2年間で19件の研究が採択され、うち大学が9件ある。会議の中にも「自衛目的なら許されるのでは」との容認論や、軍事と民生の両面で応用できる「デュアルユース」の観点から、線引きが難しいとの意見があった。

 しかし、過去の戦争の中には「自衛」名目で始まったものが少なくないことを思い出す必要がある。民生用に開発した技術が軍事転用されることと、最初から軍事目的で開発したものが民生転用されることは全く違うことも肝に銘じるべきだ。資金がどこから出ているかを考えれば危険性は判別できよう。

 学術会議の総会では「声明をきっかけに議論を広めていくべきだ。学術が軍事利用されそうになったときはどうするか、準備しておくべきだ」との意見も出た。確かに、研究者個人では判断に迷うこともある。対抗するためには、大学など組織の力が結集しなければなるまい。

 安倍政権は軍事と学術の接近を露骨に進めようとしている。全国の科学者の良心と誇りが試されている。今こそ過去を省み「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」との誓いを新たにしてほしい。

 

大学の軍事研究 「痛恨の教訓」を忘れずに(2017年4月22日配信『西日本新聞』−「社説」)

 

 科学者を代表する組織「日本学術会議」が、軍事研究に関する新たな声明を総会で発表した。

 新声明は、軍事研究との決別を宣言した過去2度の声明を「継承する」と明記している。

 大学と軍事の距離がなし崩し的に縮まる現状に一定の歯止めをかける声明として評価したい。

 防衛省は2015年度、軍事応用が可能な基礎研究を大学などから公募して助成する「安全保障技術研究推進制度」を創設した。

 予算規模は当初の3億円から本年度は110億円に膨らんだ。研究費の枯渇に苦しむ研究者には魅力的な制度に違いない。これにどう向き合うのか。学術会議は約1年をかけて議論した。

 新声明は、健全な学術の発展には「研究の自主性・自律性」と「研究成果の公開性」を担保する必要があると指摘する。

 その上で、防衛省の公募制度については「政府による介入が著しく、問題が多い」と警鐘を鳴らした。軍事的とみなされる可能性のある研究について、大学や研究機関が適切かどうか審査する制度を設けることも求めた。

 大学などに主体的、自律的な判断を促す妥当な提言だろう。

 長崎大は今月、この制度への応募を自粛するよう教職員に通知した。同様の見解を示す大学は少なくない。軍事に関わることへの警戒感は、学術界に広く共有されているとみることができよう。

 一方で、基礎研究を軍事と民生で区分することは難しいという声があるのは事実だ。軍事研究が民生に活用された事例も数多い。また、軍事研究の中でも「自衛のための研究は認められる」という意見は学術会議の中にもある。

 だが、野放図な軍学共同の拡大は許されることではない。多くの科学者が先の戦争に協力した。1950年と67年の2度の声明には痛恨の反省が込められていることを忘れてはならない。

 科学は戦争の道具にもなり得る。その教訓から目を背けず、軍事と学術の適切な関係について関心を持ち続けていきたい。

 

学術会議声明 「研究の自由」をはき違えるな(2017年4月20日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 研究者の自由な発想を縛り、日本の科学を一層低迷させかねない。

 学者の代表機関とされる日本学術会議が、軍事利用される恐れがある研究を規制するよう、大学などに求める声明・報告書を決めた。

 学術会議として、「学術と軍事が接近しつつある」との懸念を表明している。その上で、「自由な研究・教育環境を維持する」ために、研究の是非を判断する制度の新設を大学などに要請した。

 大学は、研究資金が軍事機関からかどうかをチェックする。軍事的と見なされる可能性があれば、技術的・倫理的に審査する。

 研究に新たな制約を課すことになる。それがなぜ「自由な研究」につながるのか。かえって、学問の自由を阻害する。

 学術会議の総会で、「社会の声とかけ離れている」「判断の基準がない」などと疑問の声が上がったのも当然だ。

 声明・報告書の決定過程にも問題がある。異論があるのに、既に幹事会で決定済みとして、修正などは検討されなかった。

 多様な意見を踏まえて、丁寧に議論することは、学問の基本である。学者集団として、禍根を残す意思決定と言わざるを得ない。

 学術会議が念頭に置いてきたのは、防衛省が2015年に開始した「安全保障技術研究推進制度」だ。声明は、「政府による研究者の活動への介入が強まる」との認識を示している。

 他省庁の研究資金を受ける場合と同様、年に1回、防衛装備庁の担当者が訪れて、研究の進捗しんちょく状況を確認するだけだ。「介入」には当たるまい。制度自体も、基礎研究が対象で、成果の公表、製品等への応用は制約されない。

 研究現場で、制度の注目度は高い。今年度の公募説明会には、前年の4倍を超える200人以上が参加した。学術会議と現場の認識には、大きなずれがある。

 そもそも、声明・報告書が求める「技術的・倫理的な審査」には無理がある。科学技術は本来、軍事と民生の両面で応用し得る「デュアルユース」である。

 米軍の軍事技術の中核である全地球測位システム(GPS)は、カーナビに加え、地震火山の観測や自動運転にまで広範に用いられている。軍事に関連するとして、排除するのは、非現実的だ。

 日本の研究界の現状は厳しい。論文数が伸び悩み、世界から取り残されている、と指摘される。新たな制約を設けることで、研究現場を萎い縮しゅくさせてはならない。

 

世界にはびこる(2017年4月20日配信『琉球新報』−「金口木舌」)

 

 ここ数年、ゾンビがブームだ。東京ジョイポリスのゾンビと戦う仮想現実ゲームは、休日は予約でいっぱい。ゾンビがはびこる世界を描いた芥川賞作家の小説や「ゾンビアイドル」まで登場した

▼よみがえった死者が人をかみ、かまれた人もゾンビになる。そんなゾンビ像は1968年の米映画で定着した。映画「バイオハザード」は日本でも人気を集めた。ハロウィーンでのゾンビ仮装も増えた

▼去る大戦の反省から死んだはずの「戦前」がゾンビのように復活し、きな臭さが広がっている。米国のシリア攻撃や北朝鮮情勢は緊張を高めている。化学兵器使用や核開発・配備強化などは壊滅的戦争の兆しを示す

▼日本でも“ゾンビ”が闊歩(かっぽ)している。戦前の軍国教育の柱だった教育勅語もその一つ。戦後すぐの国会で排除を決議したが、安倍内閣は教育現場での使用を正式に認めた

▼防衛力の増強や武器の輸出競争に勝つため、大学の科学者らに軍事応用が可能な基礎研究を助成する防衛省の公募制度は予算額が年々増えている。日本の科学者でつくる日本学術会議は危機感を抱き、総会で「政府による介入が著しく、問題が多い」とした声明を会員に伝えた

▼「敵」の脅威から軍拡が軍拡を呼ぶ負の連鎖は、かまれたらゾンビになるありさまのようだ。軍事研究に関しては50年ぶりの学術会議の声明に一筋の光明を見た気がする。

 

学術会議の新声明(2017年4月1日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

軍事研究への明確な拒否回答

 日本の科学者を代表する機関である日本学術会議が、「軍事研究を行わない」とした1950年と67年の声明を「継承する」とした新しい声明を先週末に決定しました。安倍晋三政権が推進する「軍学共同」を拒否し、学術の健全な発展を求める画期的な声明です。過去の声明を今日的に発展させた「軍事研究拒否宣言」というべき意義をもっています。

真摯な議論を重ねた総意

 今回の声明が、過去の二つの声明の背景に「科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった」ことを明確にし、軍事研究が学術の健全な発展と緊張関係にあることを踏まえて過去の声明を「継承」したことは、極めて重いものがあります。政府の干渉を許さないため、憲法23条に「学問の自由」が刻まれたのであり、学術の健全な発展には「研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない」と強調しています。

 防衛省が2015年度に創設した兵器開発のための基礎研究を研究者に委託する「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)について、「将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って」いるとし、「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と断じたことは重要です。むしろ「民生分野の研究資金の一層の充実」こそ必要だとしています。現在の日本学術会議として出しうる最大限に強いメッセージで“研究推進制度には応募すべきでない”との警告を発したものといえます。

 声明は、「研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用」される危険があるため、「研究資金の出所」について「慎重な判断が求められる」とし、大学などの研究機関に対して、軍事研究とみなされる研究について審査する制度の設置を求めました。

 すでに、広島大、東北大、関西大、法政大など少なくない大学が、研究推進制度には応募すべきではないとの指針を定めています。各大学には、学術会議の声明を生かし、軍事研究拒否の明確な指針をもつことが望まれます。

 学術会議は、研究推進制度の創設を契機に、昨年5月に検討委員会を設けて議論を重ねてきました。検討委員会は11回の会議を開き、学術会議会員の意見を集約し検討を深めました。当初は「自衛のための基礎研究なら許容される」との意見がありましたが、「自衛目的の技術と攻撃目的の技術との区別は困難」との認識で一致しました。

 市民も参加したフォーラムでは、研究推進制度を「民生利用が目的の研究だから軍事研究ではない」と容認する意見に対し、「防衛省の資金をもらいながら軍事研究でないというのはごまかしだ」「科学者こそが戦争や軍事を残虐化してきた歴史があり、人道的責任を考えるべきだ」など、科学者の社会的責任を問う声が相次ぎました。

 声明は、こうした真摯(しんし)な議論を経て合意に達したもので、学術界の総意であることは明らかです。

研究推進制度の廃止を

 安倍政権は研究推進制度の今年度予算を前年度比18倍の110億円に急増させ、科学者をさらに取り込む狙いですが、明確な拒否回答が突き付けられました。政府は、この声明を重く受け止め、研究推進制度を廃止すべきです。

 

学術会議の「軍事」歯止め 声明は議論継続の出発点(2017年3月28日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 科学者の代表機関である「日本学術会議」が、軍事研究について新たな声明を決議した。

 戦後2回にわたって公表した戦争や軍事目的の研究を否定する声明を「継承する」とした上で、大学などに研究の適切性を審査する制度を設けるよう求めている。

 半世紀ぶりの新声明については「従来より後退した」との見方も、「規制強化」との受け止め方もある。声明に強制力があるわけでもない。

 ただ、昨年6月から11回を重ねた議論をたどれば、学術会議の大勢が軍事研究への関与に否定的であることは明らかだ。科学者は声明の精神をくみ、真摯(しんし)に対応してほしい。

 検討のきっかけは防衛省が2015年度に始めた研究公募制度だ。「防衛装備品への応用」を目的とし、防衛省が審査した上で研究費を配分する。来年度の予算は初年度の30倍以上の110億円に増額された。

 これとは別に、多くの科学者が米軍から研究資金の提供を受けていたこともわかった。

 戦後2回の声明の精神を繰り返し確認してこなかったために、なし崩しに学術と軍事の接近を許してしまったことの表れだろう。

 新声明は軍事研究の歯止めとして「学問の自由」を前面に出した。その観点から防衛省の制度について「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」と指摘したのは妥当な判断だ。応募を考える科学者や、これを認める大学などには納得のいく説明が求められる。

 「自衛目的なら軍事研究も許される」という意見も根強い。しかし、軍事研究の中で自衛目的と攻撃目的を区別することはできず、民生利用と軍事利用の線引きも難しい。

 防衛研究そのものの是非とは別に、軍事研究への関与を懸念するなら入り口で一定の歯止めをかけざるを得ない。声明が「研究資金の出所」に慎重な判断を求めたのは当然だ。

 ただし、研究資金の出所でふるいにかければ事足りるわけではない。それぞれの研究機関、科学者一人一人が、学術と軍事が接近する現状を認識した上で、科学研究のあるべき姿を考えてほしい。科学者以外の人も同様だ。

 声明決定は議論の終わりではなく、議論継続の新たな出発点である。

 

軍事研究禁止 学問の自由を守るため(2017年3月28日配信『東京新聞』−「社説」)

 

 日本学術会議が先週末、防衛省が2015年度から始めた軍事応用可能な基礎研究の公募制度は問題が多い、とする声明を決定した。学問の自由が脅かされるという判断を尊重してほしい。

 学術会議は1950年と67年に、戦争協力への反省から「軍事研究は行わない」とする声明を発表した。その後の50年で、大きな変化が3つあった。自衛隊が発足して国内に防衛産業が育ったこと。民生用と軍事用の境界がわかりにくくなったこと。そして、研究資金の不足だ。

 民生と軍事の両方に利用される技術をデュアルユースと呼ぶ。コンピューターやインターネットは、米国の軍事技術開発の中で生まれた。確かに、巨額の資金が必要なので、民間企業が単独で開発するのは難しかっただろう。だからといって、軍事技術開発が有用だということにはならない。

 スーパーコンピューターで考えてみよう。

 国産のスパコン「京」が世界最速として話題になったのは、東日本大震災直後の2011年6月だった。当初は学術研究に使われ、震災の分析にも貢献した。最近では民間企業も利用する。

 

 京を抜いて世界一になった米エネルギー省のスパコンは、核兵器開発などに使われている。その後、中国製の2機種がトップになったが、軍の研究機関にある。

 軍事研究はコスト意識が甘いとされる。民生用なら研究成果は公開され、利用もしやすい。必要な技術開発なら、民生用としてやる方が良い。

 新声明は、防衛省の公募制度は防衛装備庁の職員が大学に来て研究の進捗(しんちょく)状況をチェックするなど、研究への介入が著しく、問題が多いとした。さらに安全保障研究は「学問の自由と緊張関係にある」と警戒する。

 憲法9条の「戦力の不保持」は国際的には珍しいが、憲法23条の「学問の自由」も少数派だ。日本は旧憲法時代、政府が特定の学説を公のものと決めつけ、それに反する学説を排斥するなど、学問の研究活動の自由を妨げたことがあったからだという。

 今回、新声明を出すのは、過去の声明が風化したためだ。科学者コミュニティーに対して、研究機関や学会で審査したり、ガイドラインを作ることを求めている。

 考えなければいけないのは理工系の研究者だけではない。4月には学術会議の総会が開かれる。総会の場で議論を深めてほしい。

 

大学と軍事 若手にも考えてほしい(2017年3月23日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 大学などの研究機関は軍事研究に携わるべきではないとする声明案を、日本学術会議の委員会がまとめた。あすの幹事会を経て4月の総会で採択される見通しで、その意義は大きい。

 文系、理系をあわせた科学者の代表機関である学術会議は、1950年と67年に「軍事目的の科学研究を行わない」との声明を出している。

 今回の声明案は、軍事研究が学問の自由や学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認したうえで、過去の二つの声明を「継承する」としている。

 自衛のための研究を容認する声もあったため、いまの言葉で正面から宣言する方式でなく、「継承」という間接的な表現になった。物足りなさは残るが、予算削減などで総じて厳しい研究環境を迫られるなか、科学者たちが集い、学問の原点を再確認したことを評価したい。

 もちろん、これで問題がすべて解決するという話ではない。筑波大での学生アンケートでは、軍事転用を見すえた技術研究に賛成する意見が、反対を上回った。「転用を恐れたら民生用の研究も自由にできない」との理由が多かったという。

 たしかに同じ技術が軍民両用に使われることは多い。研究開発した技術の使い道に、最後まで責任を負うよう科学者に求めるのは、現実的ではない。

 だが、民生用に開発した技術が軍事転用されることと、最初から軍事目的で研究することとの間には大きな違いがある。

 軍事が科学技術の発展を加速させた歴史は長い。一方で、国家に動員された科学者が積極的に軍事研究に携わった結果、毒ガスや生物兵器、核兵器が開発され、おびただしい人の命を奪ったことを忘れてはならない。

 50年と67年の声明は、科学技術の牙を人類に向けてしまった歴史に対する痛切な反省に基づく。学術会議や大学には、こうした問題の本質を若い世代に広く伝える責務がある。しかしその営みは極めて不十分だった。

 学術会議が議論を進めているさなかに、米軍の資金が大学の研究者に渡っている実態が判明した。これも「伝承」の弱さを裏づける証左の一つだろう。

 今回の声明案は、資金の出所がどこか慎重に判断するのとあわせ、軍事研究と見なされる可能性があるものについて、大学などには技術・倫理的な審査制度を、学会には指針を、それぞれ設けるべきだとしている。

 若手研究者もぜひこうした場に参加して、多角的な議論に触れ、科学者の責任とは何か、考えを深めていってもらいたい。

 

学術会議声明案/軍事との一線を画せるか(2017年3月16日配信『神戸新聞』−「社説」)

 

 日本の科学者を代表する組織「日本学術会議」が、半世紀ぶりに軍事研究に関する声明案を発表した。

 軍事にも応用できる研究に資金を出す防衛省の公募制度について「政府の介入が著しく、問題が多い」と指摘し、過去の戦争協力の歴史を踏まえ「軍事研究をしない」と誓った1950年と67年の声明は「継承する」とした。

 4月の総会に諮られるが、長年貫いてきた姿勢を守る意思表示として評価したい。

 インターネットや衛星利用測位システム(GPS)など、軍事研究が民生用に転じた例は少なくない。線引きは難しく、学術会議でも意見は分かれた。声明には強制力がなく、大学や研究者の判断に委ねられるため、実効性を疑問視する声もある。

 しかし過去の声明に込められているのは、悲惨な戦争への協力に加え、研究の自主性や公開性を奪われたことへの反省だ。大学や研究者は原点を再認識する必要がある。

 議論のきっかけになった防衛省の公募制度は、民間技術を効率的に装備開発に取り込むのを狙いとする。1件あたりの支給額は最大年3千万円で、予算は16年度の6億円から17年度は110億円に増額する予定だ。さらに、米軍が日本の大学などに10年間で9億円近い研究資金を投じていることも明らかになった。

 新声明案は公募制度への応募の可否について明確な表現は避けたが、各大学に慎重な判断を求めた。「自衛目的にかなうなら問題ない」「基礎研究であれば軍事研究にあたらない」との意見もあるが、意図せずに軍事研究に巻き込まれ、学問の自由が脅かされる恐れがあることは、意識しておくべきだろう。

 大学側が軍事につながる研究に応じる背景には、資金不足がある。国立大に支給する研究費を含む国の運営費交付金は10年間で1千億円以上減少した。科学技術の健全な発展には自由な研究環境が不可欠だ。防衛省主導の資金ではなく民生分野の研究費を手厚くしなければならない。

 新声明案は、軍事に関与する可能性がある研究について倫理面の妥当性などを審査する機関を設けるよう求めた。現状では、公募制度への対処方針や内規を設ける大学は一部にとどまる。軍事利用になし崩し的に取り込まれる流れには歯止めをかけねばならない。

 

研究の軍事応用 難しい線引き議論深めて(2017年3月13日配信『山陽新聞』−「社説」)

  

 日本学術会議の検討委員会は軍事研究に対する声明案をまとめた。大学の科学者らの基礎研究に防衛省が助成する公募制度について「政府の介入が著しく、問題が多い」と指摘している。4月の総会で採決される見通しである。

 学術会議は日本の科学者を代表する組織だ。応募に慎重さを求める狙いだが、強制力はなく、制度の廃止や応募の禁止までは求めていないため、効果は限定的との見方もある。だが、研究の軍事応用がなし崩しで進むことに、くぎを刺す意義はあろう。

 過去の戦争協力への反省から「軍事研究をしない」ことを掲げた1950年と67年の声明を「継承する」とした。二つの声明は、49年の設立当初から科学と軍事研究の関わり方を議論してきた学術会議の原点である。それを改めて確認した背景には、公募制度の助成枠の急拡大がある。

 制度は2015年度に始まった。初年度は3億円だったが、16年度は6億円、17年度は110億円に増えた。国立大の運営費交付金が削減されるなど、基礎研究費の不足は深刻なだけに、研究者が魅力を感じる可能性はある。初年度は岡山、香川大など少なくとも16大学が応募した。

 防衛省だけでなく、米軍も日本の大学などの研究者に研究費を提供している。こうした動きに警鐘を鳴らす研究者もいる。科学者と軍事の関係を取り上げた著書があるノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんは「平和な今のうちに、研究の軍事利用について真剣に考えておくべきだ。研究者は警戒心を持たないといけない」と語っている。

 一方、学術会議には「自衛目的にかなう研究なら問題ない」と公募制度に肯定的意見もある。そもそも何を軍事研究とするかが難しい。過去の声明も明確に示していない。

 科学技術には一般向けにも軍事用にも使えるものがある。例えば、インターネットや衛星利用測位システム(GPS)は、もともと米国が軍事技術として開発した。最近は一般向けに開発されたセンサーやロボットが軍事用に転用される例が増え、境界線はより分かりにくくなった。

 学術会議の委員会は、軍事研究の可能性がある研究について倫理面の妥当性を学内で審査する制度を設けるべきだとした。声明案で重要性を強調した学問の自由や大学の自治への配慮もあろう。

 ところが、全国の大学を対象とした共同通信のアンケートによると、防衛省の公募制度に対する内規や方針を持つ大学は2割にとどまる。各大学は非軍事との線引きに悩み、参加の可否を決めかねているのが実態と言える。

 「結論を出したが、これで終わりではなくて始まり」。声明案をまとめた杉田敦委員長(法政大教授)の指摘はうなずけるものだ。各大学は声明案の趣旨をくみ取りながら、十分に議論を深めていってもらいたい。

 

「軍事研究」公募 学問の自由を妨げかねない(2017年3月13日配信『熊本日朝日新聞』−「社説」)

 

 日本の科学者を代表する国の特別機関、日本学術会議の検討委員会が、大学の科学者らが行う軍事応用も可能な基礎研究に資金提供する防衛省の公募制度について「政府の介入が著しく、問題が多い」などと指摘した新声明案をまとめた。新声明案は4月の総会で採決される見通しで、予算額が年々増えている同制度に、科学者らが安易に応募しないよう歯止めをかけるのが狙いだ。

 ただ、可決されても強制力はなく、制度の廃止や応募の禁止までは求めていないため効果は限定的との見方もある。参加の可否は各大学の審査に任されており、軍事研究の定義や非軍事との線引きをどう判断するかは難しい。対応に苦慮することも予想されるが、大学での自主的な論議が深まることを期待したい。

 過去の戦争で政府による科学者の大量動員に協力した反省から、日本学術会議は1950年と67年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」との声明を出した。大学の社会的責任は若者を育て、学術を発展させることにある。それには「学問の自由」が欠かせない。その自由を妨げる性格を軍事研究は本来持っている。

 科学技術には、一般向け(民生用)にも軍事用にも使えるものがあり、境界線は分かりにくくなっている。生活に欠かせないインターネットや衛星利用測位システム(GPS)は、もともと米国が軍事技術として開発したものだ。最近は民生用に開発されたセンサーやロボット、通信技術が軍事用に転用される例が増えている。

 安倍政権は、2013年に決めた国家安全保障戦略で軍事技術強化に「産学官の力」を結集させる方針を打ち出した。防衛省の公募は15年度に予算3億円で始まり応募109件、16年度は6億円に応募44件だった。半分が大学の研究者で小型無人機を制御する技術などを採択。17年度以降は予算の大幅増を予定している。防衛省にとって公募制度は新技術を発掘する手間を省き、効率的に装備開発に反映できるメリットがある。

 一方、大学には研究費の不足に悩んでいる研究者も多い。お金の出所がどこであれ、兵器開発に直結しない基礎研究ならば問題ないと考えるケースが増える可能性がある。しかし、研究者にとっては自分の意図と関係なく、研究成果が兵器開発などに応用されたり、秘密研究に指定されたりして自由に発表できなくなる恐れがある。

 防衛省は成果の公表を制限せず秘密にも指定しないとしているが、守られるかどうかは分からない。新声明案は「学術研究は政府によって制約されたり動員されたりすることがあり、研究の自主性・自律性・公開性が担保されなければならない」と強調。学術の健全な発展の見地から、むしろ民生分野の研究資金を充実させるべきだと指摘している。

 防衛省の公募制度は、科学の本来あるべき姿をゆがめかねない。政府もこうした問題点をきちんと考えるべきだ。

 

学術会議声明案 技術に「軍事」も「民生」もない(2017年3月10日配信『読売新聞』―「社説」)

 

 大学が自ら、科学技術の発展に歯止めをかけることにならないのか。

 日本学術会議の委員会が、軍事研究に関する声明案をまとめた。

 「軍事的」と見なされる可能性がある研究について、大学などに、「適切性を技術的・倫理的に審査する制度」を設けるように求めている。

 研究内容によっては、審査で中止や修正を迫られよう。

 学術会議の意見に拘束力はないものの、審査を促すこと自体、現場を萎縮させる。大学などは、声明案に慎重に対処すべきだ。

 学術会議は、学者を代表する機関だ。先の大戦で科学者が戦争に関与した反省から、1950年と67年に、「軍事目的の研究を認めない」との趣旨の声明を発表している。それを継承する方針だ。

 問題は、科学技術の研究を「軍事」と「民生」で切り分けられるかどうかである。

 米軍の技術である全地球測位システム(GPS)は、カーナビに欠かせない。食品ラップや電子レンジなど、日常生活に溶け込んだ製品も、軍事技術に由来する。

 技術の本質は、軍事と民生の双方で活用できる「デュアルユース」である。両面性を持つものを無理に分離すれば、応用範囲の広い有益な研究まで「軍事」の名の下に排除されることになろう。

 学術会議の委員会が標的にしているのは、防衛省の「安全保障技術研究推進制度」だ。自衛、防災に役立ちそうな基礎研究に資金を提供している。防衛省は、成果の利用権を得る仕組みだ。

 声明案は、自衛隊の装備開発を目的とする制度だと指摘する。

 その上で、防衛省が進捗しんちょく状況を管理するため、「政府による研究への介入が著しい」と批判している。実態にそぐわない見解だ。

 過去に採択されたテーマには「手のひらサイズのロボット開発」「有害ガス吸着シート開発」がある。実用化されれば、災害や火災現場などで活用できるだろう。

 研究成果を自衛隊の装備に生かす場合には、防衛省自身が直接、応用技術の開発を手がける。

 防衛省は、成果の発表や商品化は自由だと、制度の公募文書に明記している。成果には「介入」しない。公金を投じた研究である以上、他省庁と同様に、進捗状況をチェックするのは当然だ。

 声明案は、4月の学術会議総会に諮られる。

 高水準の科学技術は、安全保障上の抑止力になる。国益を踏まえて、なお議論を深めたい。

 

学術会議の声明案 軍事科学研究なぜ認めぬ 「国民を守る」視点で見直しを(2017年3月10日配信『産経新聞』−「主張」)

 

 左右の全体主義と戦った戦前の思想家、河合栄治郎は「学問に国境はなく、学者に祖国あり」という、フランスの細菌学者、ルイ・パスツールの言葉を好んだ。

 学問の自由とは何か。いま改めて問われる課題が浮上した。科学者の代表組織、日本学術会議の委員会がまとめた声明案のことである。軍事目的の研究をしないことを掲げた昭和25年と42年の方針を「継承」しようとしている。

 半世紀ぶりの改定にあたり、あまりにも国や国民を守る視点が欠落している。

 抑止力構築を妨げるな

 すでに政府と大学機関などの間では、軍民両用の先端研究をすすめる態勢が構築されつつある。

 これを反対派が一気に巻き返そうとする思想闘争の気配も感じ取れる。両用研究に賛同する研究者をもしばる声明案が、「自由」といかに相いれないものかを考える必要がある。

 学術会議は軍事科学研究を忌避するこの声明案を4月の総会で決定しようとしている。

 防衛省は平成27年度から、軍事と民生の双方に活用できる先端研究を公募し、資金提供する「安全保障技術研究推進制度」を運用している。声明案はこの制度を批判し、大学などの研究機関に、所属研究者の応募を審査する仕組みをつくるよう促した。専門学会に対しては指針策定を求めた。

 声明に法的な拘束力はないとはいえ、その影響力は小さくない。日本を守るための軍事科学研究を行おうとしても、大学の審査制度が一律にこれを妨げる方向で運用される恐れさえある。応募したい研究者の意向は封じられる。

 学術会議は、過去2度にわたって軍事科学研究を否定する声明を発し、これが日本の科学技術研究の基本原則とみなされてきた。

 「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明」(昭和25年4月)と「軍事目的のための科学研究を行わない声明」(42年10月)である。

 2つの声明と今回の声明案に共通するのは、侵略を未然に防ぎ、戦争を回避する抑止力の意義を認めない点だ。国民が期待する自衛隊の意義を否定するに等しい。

 国と国民を守るうえで、外交努力が必要なことは無論だ。同時に、他国から軍事力を背景とした挑発を受けても、それに屈せず、反撃も辞さない能力を備えておくことは当然である。

 有効な防衛装備を整えるため、科学者、技術者の知見は極めて重要なものである。それが世界の民主主義国の常識であり、平和を保つ道になっている。

 日本をとりまく安全保障環境は厳しさを増す一方だ。北朝鮮は、在日米軍基地への攻撃演習と称して、弾道ミサイル4発を同時発射した。自衛隊の現有装備ではすべては撃ち落とせない厳しい現実が突きつけられたばかりだ。

曲解による制度批判だ

 中国は、空母など海空軍の戦力増強を急いでいる。米国防総省の中国に関する年次報告書(2016年)は、中国が、軍事的応用が可能な航空宇宙、情報技術、ナノテクノロジーなど5分野への科学研究計画を推進中と指摘する。

 防衛、安全保障は、外国との科学技術競争の側面を見落としては成り立たない。

 先進的技術を防衛態勢の充実に役立てなければ、抑止力は相対的に低下し、危機は高まる。万一の際、自衛隊員や国民の被害が増すことを意味する。

 学術会議や大学が軍事科学研究を忌避し、結果的に喜ぶのは誰かを考えてほしい。

 声明案が「政府による介入が著しく問題が多い」と批判した防衛省の技術推進制度は、軍民両用技術の発展を促すものだ。公募制であり、研究者の自律性を尊重し、成果は公表、利用できる。国民の税金を投入するため経過の報告を課しているが、これを「介入」とするのは言いがかりに近い。

 平成25年に閣議決定された国家安全保障戦略では、軍民両用技術などの強化に「産官学の力を結集」するとされた。28年には「国家安全保障上の諸課題への対応」を盛り込んだ第5期科学技術基本計画が定められた。

 学術会議は法律で設置され、国の予算で運営される。その自主性は尊重されるとしても、国の平和、国民の安全を追求する戦略や計画の意義を一顧だにしない姿勢には違和感を禁じ得ない。

 

軍事と科学研究 やはり一線画すべきだ(2017年3月9日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 科学者と軍事研究の関係がどうあるべきかを議論してきた日本学術会議の検討委員会は、軍事研究を禁じるこれまでの基本方針を継承する声明案をまとめた。

 拘束力はないとはいえ、軍事研究と一線を画す姿勢をはっきり示したことは、学問の自由を守る意味でも大きな意義を持つ。

 北大など複数の大学では既に、軍事技術に応用できる基礎研究に防衛省が助成する安全保障技術研究推進制度や、米軍資金を活用した研究が行われている。

 学術会議は戦時中に軍事協力した反省から、過去2度にわたり「軍事目的の研究を行わない」との声明を出してきた。その原点が再確認されたことになる。

 各大学はそれを踏まえ、軍事関連の資金を排除する姿勢を明確に打ち出すべきだ。

 声明案は、従来の声明継承を強調し、「軍事的安全保障研究」が学術の健全な発展と緊張関係にあるとして、軍事研究を改めて拒否した。防衛省の制度も政府介入が著しく、問題が多いと指摘した。

 廃止や応募禁止まで踏み込まなかったのは、軍事研究と民生研究の区別が難しいことや、自衛目的の研究は認められるべきだ―などの声に配慮したのだろう。

 確かに、軍事研究が民生技術や産業振興に役立つ例は少なくない。しかし、民生にも役立つから軍事研究が認められる、ということにはなるまい。自衛の研究も使い方によって攻撃に転用される。

 ならば、軍事研究かどうかは、研究資金の「出どころ」で判断するしかあるまい。

 声明案は大学に、軍事的安全保障研究の適切性を審査する制度を設けるよう求めた。学術会議の理念を踏まえた判断を期待したい。

 気になるのは、この10年間で米軍から、8億8千万円の研究資金が大学などに提供されていることだ。研究対象が比較的自由で研究成果も公開が前提だという。

 だが、成果が米軍に利用されることを忘れてはならない。米軍の研究費を巡っても、声明案が尊重される必要がある。

 科学技術研究費のあり方が問題になるのは、国立大へ渡される運営交付金が法人化された2004年度以降、10%以上減らされるなど、研究費不足が背景にある。

 その一方、17年度予算案では、安全保障技術研究推進制度の予算が110億円に膨れ上がった。

 重要なのは軍事研究費の増額ではない。政府はその分を基礎研究費の増額に充てるべきだ。

 

坂田博士の教え(2017年3月9日配信『北海道新聞』−「卓上四季」)

 

昭和の時代に湯川秀樹や朝永振一郎と並ぶ物理学の巨人がいた。坂田昌一元名古屋大教授。ノーベル賞に輝いた益川敏英さんを育てたことで知られる。戦中、旧日本軍の原爆開発計画に関わった。その痛みが戦後の原点になったという

▼<科学者は学問を愛する前に、人間として人類を愛さなければならない。何より平和を創造する観点に立たねばならない>。政府の言いなりでは過ちを繰り返すと、学者の国会である日本学術会議で発言。「軍事研究をしない」との声明を出す呼び水となった

▼悩ましいのは、時代の変化である。研究の境目が曖昧になってきた。電子レンジやパソコンをはじめ、軍事から民生に転用された技術は少なくない

▼そんな折、学術会議が科学者と軍事研究のあり方に関する声明案をまとめた。従来通り軍事研究を禁じ、政府の研究への介入に懸念を示した

▼ただ声明に強制力はない。そもそも基礎研究費の減少が軍事研究に引き寄せられる一因との指摘もある。焦点になっている防衛省の研究助成制度も、科学者の足元をみて考えたように映る

▼坂田は教え子に言った。<科学者は学問の自由を代償として研究費を獲得せんとする自殺行為を起こす危険をはらむ>。研究をゆがめないために資金の確保が欠かせない。予算を手当てするだけでなく、寄付を集める方策もある。研究者の懐を支えるのも平和への貢献である。

 

「政府の介入」を問題視/軍事研究に関する声明案(2017年3月9日配信『東奥日報』−「社説」)

 

 安全保障と学術の関係について審議してきた日本学術会議の検討委員会は、過去の戦争協力への反省から「軍事研究を行わない」とした1950年と67年の声明を継承する新たな声明案をまとめた。4月の学術会議総会で可決されれば、50年ぶりの軍事研究に関する声明となる。

 大学や研究機関に対し外部から、研究の「軍事化」を促すような動きがこのところ強まっている。防衛省は2015年度に「安全保障技術研究推進制度」を創設し、大学の研究者らを対象に装備開発にもつながる基礎研究の公募を始めた。

 予算は初年度3億円だったが、16年度は6億円、17年度は110億円に拡大する。1件あたり5年で数億〜数十億円という大規模な研究にも対応できる。国立大の運営費交付金が削減されるなど基礎研究費の不足は深刻で、公募制度に魅力を感じる研究者が増える可能性がある。

 しかし、新声明案は「学術研究は政府によって制約されたり動員されたりすることがあり、研究の自主性・自律性・公開性が担保されなければならない」と強調。その上で防衛省の公募制度に「研究の進捗(しんちょく)管理などで政府による介入が著しく、問題が多い」などと懸念を示した。科学者らが安易に応募しないよう一定の歯止めをかけるのが狙いのようだ。

 強制力がない上に、制度の廃止や応募の禁止までは求めていないため、どの程度効果があるのかは今のところ不透明ではあるが、大学や研究機関が軍事研究に関して判断する際の一つの指針となることは間違いない。

 一方、米軍はかなり以前から日本の研究者に資金を提供してきた。全体像は不明だが、07年から10年間の総額は少なくとも8億8千万円に上る。慢性的な研究費不足で、研究者側も抵抗感が弱まっているのかもしれない。

 大学の社会的責任は何よりも、若者を育て、学術を発展させることにある。それには「学問の自由」が欠かせない。その自由を妨げる性格を軍事研究は本来持っている。

 そもそも秘密が絡む軍事研究が大学などに持ち込まれることは弊害を伴う。科学の発展に不可欠な研究の自由や公開を妨げる恐れがあるからだ。学術会議は今後も軍事研究について問題提起をし、さらに議論を深めていく必要があるだろう。

 

軍事研究 歯止め、さらに議論を(2017年3月9日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 科学研究の軍事への関与がなし崩しに進む現状をどう止めるか。国内の科学者を代表する機関である日本学術会議の検討委員会が示した姿勢は、一定の歯止めになり得るだろう。

 新たな声明案として4月の総会に諮る。戦争に科学が動員された反省から、軍事目的の研究は行わないと宣言した戦後2度の声明を「継承する」と記した。

 「堅持する」といった強い表現はせず、軍事研究を禁じる文言も明記していない。過去の声明より後退し、軍事研究を容認する余地を残したと懸念する声もある。

 とはいえ、研究の自主性や公開性の確保を重視し、資金の出所やその目的について、大学や研究機関が慎重に判断するよう求めている。軍事への関与に厳しい制約を課したと見るべきだろう。

 議論の焦点になったのは、防衛省の研究公募制度に応じることの是非だ。武器などの装備に活用できる基礎技術の発掘、育成を目的に2015年度から始まった。

 基礎研究であれば軍事研究にあたらないなどとして許容する意見が研究者の間にある。声明案は、装備開発の目的は明確で、進行管理などに政府の介入が著しいと指摘。応募を禁止しなかったものの「問題が多い」とした。

 その上で、大学や研究機関に、研究が適切か審査する制度を設けるよう提言している。学会が指針を定めることも求めた。

 声明案がどう具体化されるかは、大学や研究機関の主体的な判断にかかってくる。それぞれが姿勢を明確にし、説明する責任を果たさなくてはならない。

 応募を見合わせることを既に決めた大学も、信州大を含め各地にある。学問の自由を守る基本姿勢を再確認し、軍事と一線を画する動きがさらに広がってほしい。

 学術会議は、戦争を目的とする研究を絶対に行わない決意を1950年に続き67年の声明で再び表明した。けれども、その後半世紀近く、軍事研究について議論はほとんどなかった。それが軍学の接近が進む状況にもつながった。

 積極的に加担しないだけでなく、研究成果が軍事目的で利用されるのをどう防ぐか。研究者、科学界は常に目を向け、考えていく責任がある。声明を出せば問題が決着するわけではない。

 歯止めをより確かなものにするには、さらに議論を続けなければならない。学術会議や大学、学会は市民が加わる場を設け、科学研究のあり方を広く社会で話し合っていくべきだ。

 

科学者の団体が、自国の安全保障に寄与する研究を禁止するとは(2017年3月9日配信『産経新聞』−「産経抄」)

 

 科学者の代表機関である日本学術会議では、能天気な議論が続いていると、2日前のコラムで書いた。昨日の各紙を見ると、新しい声明案がまとまったようだ。「軍事研究を行わない」。なんと昭和25年に発表した声明を、「継承」するというから驚きである。

▼当時はまだ占領下、日本の弱体化を進めていたGHQの意向に沿った内容だった。67年たって、独立国家である日本は、近隣諸国の軍事的脅威にさらされている。時代遅れの声明を見直すのは当然ではないか。

▼あくまで軍事研究を忌避する人たちは、「民生研究の充実」を訴える。インターネットやGPSを挙げるまでもない。軍事研究から始まった多くの技術が、われわれの生活になくてはならない存在になっているではないか。

▼それにしても、科学者の団体が、自国の安全保障に寄与する研究を禁止するとは。同じような声明が出されている国が日本以外にあるのか、後学のためにぜひ、教えてもらいたい。どうやら公的機関でありながら、特定のイデオロギーに染め上げられてしまっている。そんな学術会議のあり方に批判的な科学者も少なくないはずだ。

▼曽野綾子さんは、日本ペンクラブを脱退している。理由の一つとして、団体が出してきた、反戦や反核のアピールを挙げた。作家というものは個人的情熱を持って書く。何で衆を頼むのか、と小紙のコラムに書いていた。最近では、「組織犯罪処罰法改正案」をめぐり、一部の弁護士が、日本弁護士連合会に反発している。法案に反対する日弁連に対して、国民をテロから守るための必要な法案だと、主張する。

▼良識ある科学者に訴えたい。日本の安全と学問の自由を守るために、今こそ声を上げる時ではないか。

 

【科学と倫理】戦前の轍を踏まぬ契機に(2017年3月9日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 日本学術会議の検討委員会が、大学の科学者らに研究費を助成する防衛省の公募制度について、学術の健全な発展の見地から「政府の介入が著しく、問題が多い」などと指摘する声明案をまとめた。

 1950年と67年に発表した「軍事研究をしない」と強調した声明の基本方針を「継承」する内容で、4月の総会で採決される見通しだ。

 過去2回の声明は、日本の学術界が太平洋戦争に加担した反省に立っている。不戦の誓いは、戦後の科学研究の出発点といえる。

 学術会議がほぼ50年ぶりに声明の見直し議論を始めたのは、改めて原点を確認する必要に迫られたからにほかならない。

 防衛省は2015年度、軍事に応用できる基礎研究に研究費を出す公募制度を設けた。当初、3億円だった予算額は17年度、110億円にまで膨らむ見通しだ。

 防衛省だけではない。米軍も日本の大学の研究者に対し、多額の研究資金を提供してきたことが分かっている。

 こうした動きは、大学や研究者の研究費不足と無縁ではない。文部科学省が大学への運営費交付金を削減する一方で、防衛省と米軍が軍事的資金をちらつかせる。研究者が「背に腹は代えられぬ」と考えかねない状況だ。

 共同通信が実施した大学アンケートでは、4割が「軍学分離」の声明を「堅持すべきだ」としたものの、残り6割は明確な態度を示さなかった。価値観の揺らぎの大きさを表していよう。

 新たな声明案は、学術研究が政府によって制約されたり動員されたりする恐れを指摘し「研究の自主性・自律性・公開性」の重要さを強調する。防衛省の公募制度の廃止や応募の禁止を求めてはいないものの、批判を込めた格好だ。

 だが、賛否双方の意見に配慮したため、明確さを欠いたことは否めまい。応募の動きに対する歯止めをかける狙いだが、現状の追認と読み取れなくもない。追認を重ねれば「軍学共同」がより進みかねないのではないか。

 資金の出どころのほか、何が「軍事研究」に当たるのかという、過去の声明から積み残してきた課題もそのままといってよい。

 科学技術には民生用、軍事用のいずれにも応用できるものがある。インターネットや衛星利用測位システム(GPS)ももともとは軍事技術として開発された。逆に民生用として開発した場合でも、科学者の意図と関係なく軍事に応用されることもありうる。

 声明案は軍事につながる可能性がある研究に関し、大学による倫理面の審査制度を設けるべきだとした。むろん、自己検証による慎重な対応が求められよう。

 ただ、学術界全体として戦前と同じ轍(てつ)を踏まないためには、軍事との距離を保つ意識が常に問われよう。議論をその契機としたい。

 

東京・夢の島の「第五福竜丸展示館」は、米国の(2017年3月9日配信『高知新聞』−「小社会」)

 

 東京・夢の島の「第五福竜丸展示館」は、米国のビキニ水爆実験に遭遇した同船を覆うように建てられている。その一角で「ラッセル・アインシュタイン宣言」(1955年)も紹介されていた。

 核戦争による人類の危機や、核実験での地球汚染を警告している。哲学者のバートランド・ラッセルが起草し、米国に原爆開発を促したアインシュタインのほか、日本の湯川秀樹ら各国の科学者が署名した。

 優れた科学の力もそれが軍事兵器となった途端、どんな使われ方をされても研究者は手が出せない。日本への原爆投下や冷戦下で繰り返された核実験を目の当たりにした科学者たちが、いかに後悔し苦悩したか。核の悲劇を伝える場所だけに、いっそう痛切に感じた。

 日本学術会議も50年と67年、「軍事研究を行わない」とする声明を出している。今回、半世紀ぶりにそれを継承する新声明案をまとめた。科学が軍事と決別した戦後の原点をゆるがせにはできない、という決意と受け止めたい。

 現実には防衛省や米軍が大学側に資金援助をちらつかせ「軍学共同」研究を打診。軍事と民生と、技術の境界線も曖昧になっている。科学と倫理とのせめぎあいはこれからも続くだろう。

 〈私たちは人間として、ヒトという種の一員として(核の脅威を)語っている〉。ラッセル・アインシュタイン宣言にはそうある。科学は人類の幸福のためにこそ、の思いを強くする。

 

「軍事研究」で新声明案 明確に歯止め掛けるべき(2017年3月8日配信『福井新聞』−「論説」)

 

 大学や研究機関が武器などの開発につながる軍事研究に携わることはどうなのか。日本学術会議の検討会は「政府の介入が著しく、学術の健全な発展の見地から問題が多い」などとした新声明案をまとめた。

 防衛省が2015年度から始めた基礎研究費を給付する公募制度に懸念を示し一定の歯止めを掛けたものだ。「軍事研究をしない」とした過去の基本方針を「継承する」として4月の総会に諮る方針で、実に50年ぶりの「軍学分離声明」となる。ただ、禁止も打ち出せず強制力もないため、効果は限定的との指摘もある。学術会議の主体性と説明責任が問われよう。

 学術会議は1950年と67年の2回にわたり軍事研究を否定する声明を出している。過去の戦争協力への深刻な反省があった。これに沿って国内の大学が軍事研究から距離を置いてきた事実がある。

 しかし、防衛省が15年度に「安全保障技術研究推進制度」を創設し、軍事応用も可能な基礎研究の公募を始めたことで状況が変わった。大学などは研究費削減で慢性的な資金不足に陥り「研究の軍事化」に手を伸ばすケースも増えている。この制度の予算は15年度3億円、16年度は6億円と倍増。17年度は一挙に110億円に跳ね上がった。

 「甘い蜜」に誘われるように15年度の応募は109件に上った。16年度は44件に減少したが、今後は応募が増加する可能性もある。

 仕掛けているのは政府である。安倍政権は13年に決めた国家安全保障戦略で、軍事技術強化へ向けて「産学官の力」を結集させる方針を打ち出した。産業界はこれを後押しし、防衛省が動きだしたのだ。

 国家安全保障上の課題に対し、16年度から5年間の「第5期科学技術基本計画」には、産学官連携で必要な技術の研究開発を推進することが盛り込まれた。

 しかし、立ち止まって考えるべきは大学の社会的責任である。未来を担う若者の育成と学術の健全な発展が使命ならば、「学問の自由」が不可欠となる。大学や研究機関が軍事研究に巻き込まれていけば、その秘密性から「自由」は保障されない。研究の成果が戦争などに使われることに倫理的な問題も付きまとう。

 軍事大国の米国は研究の自由と無条件の情報公開を損なう資金は受け入れず、設備も使わせないという方針を掲げる有力大学が複数ある。防衛省は成果の公表を制限せず秘密にも指定しないとしているが、守られるかどうかは分からない。

 国公私立大95校を対象にした共同通信社のアンケートでは約4割が学術会議の声明を堅持すべきとし、変更容認は皆無。6割は新声明を見極める姿勢だ。

 だが、新声明案は受け入れの可否判断を大学に委ねた。意見の対立を越えて明確な指針を出すべきではないのか。日本の科学者を代表する学術会議に求めたいのは平和憲法を堅持する高邁(こうまい)な精神だ。それゆえ民生分野の研究資金をどう充実させるかを考えてほしい。

 

大学の軍事研究(2017年3月7日配信『宮崎日日新聞』−「社説」)

 

◆平和構築にこそ科学生かせ◆

 武器などの開発につながる基礎研究を公募する防衛省の制度について、研究者を代表する政府機関である日本学術会議の検討委員会は7日にも見解をまとめ、4月の総会に諮る見通しだ。大学や研究機関がこの問題に対応する際の指針となる内容を期待したい。

 戦後2度にわたり学術会議は「軍事研究はしない」とする声明を出した。一方、大学や公的研究機関に対し、防衛省の制度など外部から研究の「軍事化」を促す動きが強まっている。軍事研究の弊害を政府は考えるべきだ。

 学術会議は、平和構築に科学を生かす道も探ってほしい。

学問の自由妨げるな

 大学の社会的責任は何よりも、若者を育て、学術を発展させることにある。それには「学問の自由」が欠かせない。その自由を妨げる性格を軍事研究は持っている。

 何のルールもなく、なし崩しにこの動きが広がれば、科学の発展にブレーキがかかりかねない。

 研究成果が戦争に使われることには、倫理的な問題が付きまとう。政府はこうした問題点をきちんと考えるべきだ。

 安倍政権は2013年に決めた国家安全保障戦略で軍事技術強化に「産学官の力」を結集させる方針を打ち出した。産業界はこれを後押しした。防衛省は15年度に「安全保障技術研究推進制度」を創設し、武器などの装備につながる基礎研究の公募を始めた。予算は初年度3億円、16年度は6億円、17年度は110億円に拡大する。

 16年度から5年間の「第5期科学技術基本計画」には、国家安全保障上の課題に対し、産学官連携で必要な技術の研究開発を推進することが盛り込まれ、政府の総合科学技術・イノベーション会議で方策を検討する動きもある。

政府が介入する恐れ

 だが、大学や研究機関が軍事研究に巻き込まれていいのか、よく考える必要がある。

 そもそも秘密が絡む軍事研究が大学などに持ち込まれることは弊害を伴う。科学の発展に不可欠な研究の自由や公開を妨げる恐れがあるからだ。

 最大の軍事国・米国でもこの点は警戒され、研究の自由と無条件の情報公開を損なう資金は受け入れず、設備も使わせないという方針を掲げる有力大学が複数存在する。

 防衛省は成果の公表を制限せず秘密にも指定しないとしているが、守られるかどうかは分からない。研究の進み具合を職員が管理するといい、介入を受ける余地はある。

 学術会議には平和構築に科学を生かす道も探ってもらいたい。

 他の先進国の科学者は、国際的な緊張緩和に積極的に関わっている。さらに他の先進国の外交には、科学を含めた重層的な面があるのだが、日本はとかく一本調子になりがちだ。

 誰もが望む平和な世界をつくるため科学は何ができるか、考え続けたい。

 

科学研究と軍事 なし崩しへの歯止め策を(2017年2月27日配信『新潟日報』−「社説」)

 

 政府が防衛力強化を進める中、科学者がどういった態度で臨むかが問われているといえよう。

 軍事にも応用できる科学研究の是非について、国内約84万人の科学者を代表する日本学術会議の議論が大詰めを迎えている。

 学術会議は、科学者が戦争に協力した過去を反省し、1950年と67年の2回、軍事目的の研究を行わないとの声明を出した。その声明が戦後70年を過ぎた今、揺らいでいるのである。

 学術会議は4月の総会で結論を出すことにしているが、先行きは見通せないのが実情だ。議論の行方を注視したい。

 契機となったのは、防衛省の研究公募制度だ。2015年度から始まった。軍事応用が可能な基礎研究に資金を提供する。

 初年度は100を超えた応募の中から4大学など9件が採択された。関西大は応募禁止、新潟大も学内の指針で抑止しているものの、その後も応募する大学や研究機関は絶えない。

 国立大を中心に研究者に与えられる資金が年々細っていることが背景にある。

 対照的なのが、防衛省が提供する研究資金の額だ。当初3億円だった資金規模は16年度に6億円に増え、17年度には110億円に跳ね上がる予定だ。

 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法の成立などで、拍車が掛かったとみていい。研究者の足元を見た対応と取ることもできよう。

 懸念されるのは、研究への政府の介入が強まりかねないことだ。研究が採択されると、防衛省所属の研究者が進展の度合いを定期的にチェックするのは、一つの表れといえる。

 安倍晋三首相とトランプ米大統領は今月の日米首脳会談で、より固い同盟に向けて双方の防衛力強化を確認した。

 これに歩調を合わせるかのように、政府は軍事にも民生にも使用できる軍民両用の技術開発を推し進める構えだ。

 宇宙や海洋、サイバーといった分野に重点を置き、予算配分などを通じて、より積極的に後押しするとみられている。

 そればかりでない。米軍が日本の大学や公的機関などの研究者に、07年からの10年間で少なくとも8億8千万円の研究資金を提供していたことが明らかになった。

 人工知能(AI)や、艦船に近づく無人機を攻撃するレーザーなど資金提供の分野は幅広い。

 米軍の資金受け入れは日本の法律上問題はなく、資金不足に悩む研究者は渡りに船と捉える向きも少なくない。

 米軍にとっても高度な研究を取り込める利点がある。今後さらに膨らむのは想像に難くない。

 インターネットや小型無人機「ドローン」をはじめ、軍民の境が難しくなっているのは確かだ。

 だが、あいまいなままでは、なし崩し的に軍事利用が進み、科学技術が変質する恐れがある。

 声明の原点に返り、歯止めとなる具体的なルールをつくる必要があるのではないか。

 

軍事研究と日本 歯止めの議論こそ必要(2017年2月21日配信『中国新聞』−「社説」)

 

 平和国家日本がまた一つ岐路を迎えているのかもしれない。戦後、大学などの科学者は兵器開発をはじめとする軍事研究と一線を画してきた。その流れを変えようとする動きがある。

 焦点は科学者の代表機関である日本学術会議の方針だろう。先の大戦まで軍民の科学技術が一体化して戦争を遂行した反省から「戦争を目的とする研究は行わない」との声明を出している。その見直しを求める声が上がり、昨年6月から検討委員会で議論してきた新たな見解を4月の総会で示す見通しだ。

 安倍政権の「軍学共同」路線と深く関係している。直接のきっかけは防衛省が2015年度から安全保障に関する基礎研究を公募し、資金を配分する制度を設けたことだ。国立大などの研究現場は、どこも交付金削減などで台所が苦しい。そこを巧みに狙った印象もある。

 新年度予算案では本年度の18倍の110億円を計上した。既に防毒マスクに利用できる素材の高機能化など19の研究が採択されたが、積極的に応じるためには過去の見解が妨げになるという空気もあるのだろう。憲法上は日本に「軍」はなく、防衛省への協力は軍事研究に当たらないとする強弁も聞かれる。

 賛否両論ある中で、今のところ大勢は慎重論のようだ。検討委の中間報告では戦争協力への懸念に加え、研究の秘密保持を巡って政府の介入の恐れを指摘した。少なくとも過去の声明をほごにできる状況ではないはずだ。安易に政権の意向に沿う結論を出せば、大きな禍根を残すことを指摘しておきたい。

 むろん戦後日本でも研究者全てが軍事と無縁だったわけではない。防衛産業を担う民間企業に就職すれば当然、兵器開発に携わることも多い。そもそも核兵器と原子力、ミサイルとロケットのように軍事と民生利用は昔から表裏一体の面もある。近年はその境目がますますあいまいになり、「デュアルユース」(軍民両用)という言い方も定着してきた。例えば急速に普及するドローンにしても、中東の戦場で米軍が多用する無人攻撃機と技術的には通じる。

 海外では軍民の技術をさほど区別しないのが普通で、軍事技術の進歩が社会を動かすという見方すらある。ただ憲法9条を頂く日本が違う道を取ってきた意味もまた重い。性急に「普通の国」を目指す必要はない。

 ここにきて米軍が過去10年間に日本の大学などの研究者に9億円近い研究費を提供していたことも明らかになった。守り続けてきた教訓が形骸化しつつあるのなら見過ごせない。今こそデュアルユースの現状を冷静に踏まえ、新たな歯止めを構築すべき段階ではなかろうか。

 武器輸出三原則を見直した安倍政権は、防衛装備品を成長戦略の一つとして海外に売り込む姿勢が鮮明だ。軍民両用の技術開発を推進する検討会の設置も視野に入れる。しかし軍事とは無縁の基礎分野を含めて幅広く研究費を配分することこそ、科学の底上げと平和国家としての信頼につながるはずだ。

 明治大、法政大など軍事研究禁止を明言し、政府の路線に距離を置く大学も出始めた。これからは各研究機関の姿勢が問われよう。全ての科学者が問題意識を共有し、現場からの議論をもっと積み重ねてほしい。

 

あすへのとびら 科学研究と軍事 戦後の決意揺るがすな(2017年2月19日配信『信濃毎日新聞』−「社説」)

 

 戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない―。

 戦後、高く掲げた決意は空文化してしまうのか。日本の科学界が重大な岐路に立たされている。

 基礎研究や民生分野の研究を軍事に取り込む動きが勢いを増していることが、その背景にある。軍事重視の姿勢を強める政府は、国家安全保障戦略や防衛計画大綱で、大学や研究機関と連携して軍民両用(デュアルユース)技術を積極的に活用する方針を打ち出した。

 「安全保障技術研究推進制度」は、それを具体化したものだ。武器などの防衛装備に活用できる基礎技術の発掘と育成を目的に、防衛省が2015年度から始めた研究公募制度である。

 初年度に3億円だった予算は、16年度に6億円に増え、17年度の政府予算案では、その18倍の110億円に一気に膨らんだ。1件あたり5年間で最大数十億円を支給する枠を新たに設け、大幅に制度を拡充するという。

 公募に応じた大学や研究機関が相次いだことから、日本学術会議は昨年、検討委員会を設置。国内の科学者を代表する機関として、科学研究の軍事利用の問題にどう向き合うかを議論してきた。

 その中間報告を基に、今月初めに開いた公開討論会。応募の是非をめぐって、出席した研究者、市民からは、軍事研究に関わることになる、認めるべきではないとする意見が相次いだ。

   <大学の土台崩す懸念>

 一方で研究者の間には、直接的な軍事研究ではないとして、容認する声がある。大西隆会長は個人の見解としつつ、自衛目的に限定した基礎研究であれば許されるとの考えを示してきた。

 防衛装備の開発につなげる目的が明確な制度である。基礎研究であれば軍事研究にあたらないとは言えない。「自衛のため」だからと正当化されるなら、歯止めはなくなってしまう。

 研究成果は公開を原則とするが、あくまで原則だ。中間報告は、防衛装備庁職員が進捗(しんちょく)管理を行うなど政府による介入の度合いが大きいと指摘している。学問の自由、大学の自治という、研究者を支える土台が崩れかねない。

 学術会議は戦後の設立時、「これまでわが国の科学者がとりきたった態度を強く反省し」と声明に記した。翌1950年に「戦争を目的とする科学の研究に絶対に従わない固い決意」を表明している。67年にも再度、軍事目的の研究を行わない声明を出した。

 それから半世紀―。

 「軍学共同」がなし崩しに進む現状を前に、もう一度、原点に立ち返って科学者の責任とは何かを考える必要がある。戦争に科学が動員された反省を踏まえて声明の意味を再確認し、軍事と一線を画す決意を、揺るぎない行動規範として確立し直したい。

 軍事利用につながる懸念から、大学として防衛省の制度に応募しない方針を打ち出す動きも広がっている。琉球大、新潟大、広島大、法政大などに続き、信州大も当面見合わせることを決めた。

 ただ、学術会議の判断を見守っているところはなお多い。応募を許容する余地を残せば、解禁と受けとめられ、軍事への接近がせきを切って進みかねない。

   <強まる誘導の動き>

 新たな声明案は4月の総会に諮られる。学術会議の存在意義にも関わる。あいまいな形で決着させず、軍事研究に関与しない明確な姿勢を示すべきだ。

 科学を軍事に誘導する動きは防衛省にとどまらない。政府の総合科学技術・イノベーション会議では、民生分野の研究を軍事技術の推進につなげる議論が始まっている。成長戦略としての位置づけの下、科学技術政策そのものが大きくかじを切りつつある。

 米軍からの研究資金も流れ込んでいる。国内の大学や研究機関に提供された資金は、ここ10年で少なくとも8億8千万円に上る。

 人工知能(AI)や情報通信技術をはじめ、軍民両用の領域は広がっている。軍事技術の開発に、基礎研究や民生研究の成果を取り込むことは欠かせなくなった。

 だとすればなおさら、軍事に利用される危険性に意識を向け、どう防ぐかを考える責任が科学者にはある。個人にすべてを背負わせず、学術会議や学会、大学などが研究者集団としてその責任を担う仕組みをつくれないか。

 国立大への運営費交付金が削減され、基盤的な研究費の不足は深刻だ。資金の出どころがどこであれ手を伸ばさざるを得ない、という嘆きも聞こえてくる。

 そうやって軍事にからめ捕られていく状況こそ変えなくてはならない。科学研究はどうあるべきか。何がその妨げになっているのか。議論の裾野を社会に広げたい。

 

軍事研究  科学者が自ら歯止めを(2017年2月18日配信『京都新聞』−「社説」)

 

 日本の大学や公的機関の研究者に米軍が研究費の提供を続け、2007年から10年間の総額が少なくとも8億円超にのぼることが分かった。資金提供はそれ以前にもあったことが判明しており、長年にわたり常態化していたとみていい。

 科学者でつくる日本学術会議は、過去の戦争協力への反省から1950年と67年に「軍事研究を行わない」とする声明を出した。しかも2回目は日本物理学会主催の国際会議に米軍資金が流れていたことがきっかけだった。声明は半ば空洞化していると言わざるをえない。

 軍事研究を巡っては、防衛省が軍事にも民生にも使用できる軍民両用の基礎研究の公募制度を2015年度から始め、学術会議が対応を巡って検討を進めている。4月の総会で結論を出す方針だが、こうした外国の軍事組織からの資金提供なども含めて慎重に議論を深める必要がある。なし崩しで「軍学共同」の流れを加速させてはならない。

 米軍からの資金提供は100件超で、研究対象は人工知能(AI)やロボット、艦船に近づく無人機を攻撃するレーザー、航空機の機体を軽くする炭素繊維素材など幅広い。申請手続きが簡単で研究結果の公表も自由といい、大学に支給される研究費が減らされ、資金不足の研究者にとっては魅力的に映るのだろう。

 一方、防衛省の公募制度の予算も増大している。当初3億円だった助成額を17年度には一気に110億円まで増やす予定だ。軍民両用の技術開発の流れは、確実に強まっている。

 この公募制度について学術会議では「軍事研究は方向性や秘密性の保持を巡って、政府による介入が大きくなる」といった問題点が中間報告で指摘された。「自衛目的なら許容される」との意見もあるが、自衛と攻撃を区別することは困難だ。学術会議には声明の原点に立ち返り、毅然(きぜん)とした判断を求めたい。

 同時に各大学も問題を主体的に捉え直すことが大事だ。これまでに関西大が「人類の平和・福祉に反する研究活動に従事しない」との研究倫理基準に従って応募禁止を決めたほか、新潟大、広島大などが応募しない方針を決めている。

 資金の出どころが軍事関係組織であれば、民生用にも使える基礎研究とはいえ、主目的は軍事利用にあり、それに加担する危険性は常にある。そのことに自覚的であってほしい。

 

【米軍の研究助成】軍学共同が加速している(2017年2月14日配信『高知新聞』−「社説」)

 

 米軍が日本の大学などの研究者に対し、過去10年間で少なくとも8・8億円の研究費を提供していたことが分かった。

 2015年末段階で、00年以降で2億円を超える助成が行われたことが判明していたが、より大きな規模で行われてきたとみるべきだろう。国立大にも多額が流れており、大阪大のレーザー技術には2億円以上が提供されていた。

 日本の学術界は太平洋戦争に加担した反省に立ち、戦後は軍事研究に距離を置いてきた。科学者でつくる日本学術会議も1950年と67年の2度、戦争目的の研究はしないとする声明を発表している。

 ところが、研究現場では米軍による助成がじわじわと浸透していた可能性がある。学術界は実態の把握を急ぐべきではないか。

 米軍はなにも奉仕精神で日本の研究に予算を投じているわけではあるまい。成果がいつの間にか軍用技術に応用されたり、軍事資金活用への抵抗感が薄れて軍事研究に協力的になったりしかねない。

 懸念されるのは、資金提供は米軍だけではないことだ。

 日本の防衛省も2015年度、軍事に応用できる基礎研究に委託費を出す公募制度を導入した。当初は3億円の予算だったが、16年度に倍増され、17年度は110億円への大幅増額が予定されている。

 大学や研究者はいま、研究費の不足に悩んでいる。

 国から国立大学への運営費交付金はこの10年で1割近く減った。大学間で競わせて傾斜配分する制度を拡大させており、全体の予算額が減る中で獲得競争が激化しているのが実情だ。

 そこへ日米の防衛・軍事当局が資金をちらつかせる。背に腹は代えられぬと判断する研究者が増えてもおかしくはない。

 こうした状況に、かつて声明で軍事研究を強く拒否した日本学術会議も、昨年から声明の見直しについて協議している。4月の総会で結論を出す方針という。見直しには反対意見も多いが、軍事研究に対する研究者の価値観が揺らいでいることを物語っている。

 大学研究が軍事と一体化する「軍学共同」の加速が疑われる事態だ。将来、米軍や政府が研究に介入したり、研究者の想定外の応用をしたりすることにつながりかねない。

 日本では軍事と距離を置きながら多くのノーベル賞受賞者を輩出するなど高いレベルの研究が行われてきた。世界に誇るべき実績だ。

 その現場を軍事研究の場にしてはなるまい。政府は文教予算として十分な研究費を確保し、学術界も毅然(きぜん)とした態度を貫いてほしい。

 一方で、大学などは所属する研究者の資金源などを十分把握できていない面がある。軍学共同への不安が高まる中、資金や研究成果などの透明性を高める必要があろう。情報公開の充実やチェック体制の仕組みづくりも議論が急がれる。

 

(2017年2月10日配信『河北新報』−「河北春秋」)

 

仙台の街中で20歳ぐらいの女性が茶色のランドセルを背負って歩いていた。何と柔軟なファッションセンス! ルーツは兵隊が装備品を入れた「背のう」だ。軍事用に開発された製品が市民生活に浸透した例は多い。缶詰やマーガリン、腕時計

▼逆に民間の技術が軍事に転用されるケースもある。一例が電波を吸収する塗料。ビル街の外壁にテレビの電波が反射し、画像が乱れることから塗料会社が開発した。これが軍用機に塗られレーダーに引っかからない「ステルス機」を生んだ

▼「軍事研究からの決別」。そう言い続けてきた科学者組織・日本学術会議の足元が揺れている。防衛省の研究公募制度への対応を巡り、その声明を見直すかどうか検討中だ

▼2度の世界大戦で兵器研究に動員され協力した反省が根っこにある。ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんに言わせると、万年資金不足の大学や機関で「資金援助というエサで研究者を釣るのは、ある意味間接的な動員」。複雑な難問だが頭を柔らかにして議論するしかない

▼核分裂発見者の1人、オーストリアの女性物理学者リーゼ・マイトナーは、技術が原爆に転用され広島と長崎を焦土にしたことに反対し、以後は核分裂研究に携わらなかった。これも見識。2度目の反省は許されない。

 

軍事研究 大学も主体的に議論を(2017年2月10日配信『朝日新聞』−「社説」)

 

 日本の大学や学会などに、米軍から少なくとも9年間で8億円を超す研究資金が提供されていたことがわかった。

 軍事研究への対応をめぐっては、防衛省が大学などを対象にした研究費制度を15年度に導入したことを受け、日本学術会議が審議を続けている。

 しかし、外国の軍事組織からの資金提供や、内外の企業・組織が軍事利用目的で研究者に接近するケースについては、全体像が不明なこともあって、十分に検討されてこなかった。

 米軍の広範な関与が明らかになったのを機に、議論の一層の深まりを期待したい。

 学術会議が設けた検討委員会が1月に公表した中間とりまとめでは、同会議が過去2回出している「軍事研究はしない」旨の声明を堅持する意見が大勢を占めた。防衛省の研究費制度についても、政府による研究への介入懸念などを理由に慎重な姿勢を打ち出している。

 研究者の倫理や学問の自由の重要性を踏まえ、おおむね妥当な方向と評価できる。

 審議の過程で、米科学アカデミーから学術会議に対し、災害救助ロボットの共同研究の打診があったが、断ったことが紹介された。資金源が北大西洋条約機構(NATO)であるのを考慮した対応だという。

 この例にならい、内外を問わず、軍事組織からの資金で研究はしないという基本方針を明確に打ち立ててはどうか。

 問われているのは学術会議だけではない。

 大学は政府からの運営資金が絞られ、それ以外の方法で資金を獲得する必要に迫られている。研究者には様々な誘いがあり、個人の判断に委ねるのは危うく、また酷な面がある。

 防衛省の制度が始まってから琉球大や新潟大、関西大、法政大などが「軍事研究はしない」「この制度には応募しない」といった方針を決めた。学術会議の議論も参考にしながら、より多くの大学や研究機関が自らの問題と受けとめ、考え、同様の原則を確認してほしい。

 学術会議任せにして、示される方針に従っていれば済む性質の話ではない。出資者や研究成果の使われ方などを見きわめ、研究に参加することの当否を主体的に判断する。そんな仕組みづくりも考えるべきだ。

 核兵器開発に象徴されるように、学術と人類の幸福との間には一種の緊張関係がある。

 大切なのは、そのことを歴史に学んで、先人の後悔を繰り返さぬ研究者と研究組織を育て続けることである。

 

米軍から研究費 提供先の広がりに驚く(2017年2月10日配信『毎日新聞』−「社説」)

 

 日本の大学研究者ら延べ128人以上が米軍から研究資金の提供を受けていたことがわかった。2010年度から6年間で総額8億円以上に上るという。

 米軍が日本の研究者に資金提供していること自体はこれまでも知られていた。それが常態化し、まとまった資金が多数の研究者に提供されてきたことに改めて驚く。

 日本の学術界は戦時中の戦争協力への反省に立ち、軍事研究と一線を画してきた。科学者を代表する「日本学術会議」は、戦争や軍事を目的とする科学研究を行わないとする声明を戦後2度にわたって出している。1967年に出した2回目の声明は米軍からの資金提供をきっかけとしている。

 米軍からの資金提供の実態は、声明の精神が風化し、形骸化していることの表れだろう。学術界はもう一度、声明の精神に立ち返って考える必要がある。

 米軍の資金はテーマが自由で、公開性も論文発表で担保される。それが、研究者の心理的ハードルを下げているのかもしれない。しかし、それが軍事利用されない保証はない。自分たちの研究が米国の防衛だけでなく攻撃型の軍備増強にも結びつく。研究者も大学も、そうした可能性にもっと自覚的であってほしい。

 心配されるのは米軍からの資金提供だけではない。日本の防衛省は15年度から大学などの研究者に研究助成する新制度を始めた。15年度の予算は3億円、16年度は6億円、17年度は110億円まで増額しようとしている。

 米軍にせよ、日本の防衛省にせよ、民生研究の中から軍備につながる成果をコストをかけずに入手したい思惑があるのだろう。人脈作りも狙いだと思われる。いったん研究費をもらえば、その後の研究協力も断りにくくなる。そんな心理も考えておかねばならない。

 学術会議は防衛省の新制度を契機に検討を始め、先月公表した「中間とりまとめ」では軍事研究に非常に慎重な姿勢を示している。「自衛目的ならかまわない」とする少数意見もあるが、軍事と防衛の線引きは困難だ。とすれば、学術界がめざすべきは、「軍事関係の組織から研究支援を受けない」という合意だと考えられる。

 もちろん、それだけで十分というわけではない。研究費の出所によらず、成果の使い道に一定の歯止めをかけることも必要だろう。

 軍事関係の研究費を研究者が受け取る背景には、基礎研究費が不足しているという現実もある。政府は、軍事研究費の増額ではなく、本来の基礎研究費の増額にこそ目配りしてほしい。

 

大学の軍事研究 過ちを省み協力拒否の姿勢貫け(2017年2月9日配信『愛媛新聞』−「社説」)

 

 大学などの科学者は、軍事にも応用できる研究にどう向き合うべきか―。日本学術会議が4月の総会で見解を出すための検討作業が大詰めを迎えている。

 戦争に加担してしまった深い反省から、学術会議は1950年と67年に「戦争を目的とする科学研究を行わない」とする声明を出した。政府が軍事力強化を進める今こそ、過去2回の誓いを再確認するべきだ。軍事研究への協力を拒否し、科学者としての良心と誇りを明確に示してもらいたい。

 70年近くにわたって掲げられてきた声明が、改めて議論されるきっかけは、防衛省が2015年度に始めた「安全保障技術研究推進制度」だ。軍事応用が可能な基礎研究の公募制度で、大学などに最大で年3千万円の研究資金を提供する。

 一方で、政府は自由な研究に使える大学向けの運営費補助金を減らし続けている。東京大など一握りの例外を除いて、研究費がかさむ理系学部の多くは資金不足に悩んでいる。防衛省の公募制度は、そんな科学者たちの足元を見て、軍事技術開発へ誘導する狙いが明白だ。

 予算規模も初年度は3億円、16年度も6億円だったが、17年度予算案では一挙に110億円に増やした。国の財政が厳しい中、異例の膨張ぶり。まさに科学者を「金で釣る」政策と言えよう。

 政府の科学技術政策を決める総合科学技術・イノベーション会議も近く、軍民両用の技術開発を進めるための検討を始める見通し。安全保障関連法や武器輸出の解禁など「戦争ができる国」へ導こうとする政府の姿勢に強く抗議する。

 学術会議の大西隆会長が、私見とはいえ「自衛目的の範囲でなら許される」と容認姿勢を示していることにも疑問を抱く。自身が学長を務める豊橋技術科学大は、防衛省の第1回公募に防毒マスクの研究で応募、採択されている。

 自衛と攻撃は表裏一体だ。過去の多くの戦争が「自国防衛のため」という名目で始まり、毒ガスや原爆などの武器が「戦争を早く終わらせ、自国民の犠牲者を減らす」目的で開発されたことを忘れてはならない。

 生活で利用できる民生技術研究との区別が難しいとの指摘もある。資金の出どころが防衛省である以上、軍事転用されることを覚悟しておくべきだ。

 学術会議が1月に出した中間報告は、公募制度について「研究の方向性や秘密性の保持を巡って、政府による介入が大きくなる」「学問の自主性・自律性が脅かされる」などと、慎重姿勢が色濃い内容となった。今月4日の公開討論会でも、軍事研究に反対する意見が相次いだ。4月にまとめる見解に反映させなければならない。

 すでに琉球大や広島大、法政大などは、応募しない方針を決めている。一つでも多くの大学が同様の決定を行い、その決意を表明してもらいたい

 

軍事研究助成制度 科学者の決意を示す時だ(2017年2月8日配信『琉球新報』−「社説」)

 

 日本学術会議が「軍事研究を行わない」とする過去の声明の見直しを検討している。

 戦争協力への反省を踏まえた科学者の信念を確固たるものにしてほしい。声明を堅持し、軍事研究と決別する決意を新たにすることを求めたい。

 防衛省は2015年度に「安全保障技術研究推進制度」を創設した。この制度は大学や独立行政法人、民間企業の研究者からの提案を審査し、その評価に基づき年最大3千万円の研究費を助成するものだ。

 国は大学への補助金を削減し続け、東京大など一部の例外を除いて研究費のかさむ理系学部の多くが資金不足に悩んでいる。

 このため、工学系研究者を中心に防衛省の制度に応募する動きが出ている。15年度は109件の応募があり、9件が採択され、16年度は応募44件、採択10件だった。

 日本学術会議は1950年に「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない」との声明を発表した。67年には「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を出している。

 防衛省の制度は、軍事応用が見込まれる研究に資金を提供するものである。学術会議の二度の声明とは相いれない。

 学術会議の検討委員会中間報告は、防衛省制度への応募の是非については明言を避けた。一方で「研究の方向性や秘密性の保持を巡って、政府による介入が大きくなる懸念がある」などと問題点を列挙し、慎重姿勢を色濃く示した。

 防衛省からの研究予算が拡大することで「他の学術研究を財政的に圧迫し、ひいては基礎研究等の健全な発展を妨げるおそれがある」と、中間報告は指摘している。軍事研究優先によって学術の健全な発展が阻害されることに、学術会議が手を貸してはならない。

 国が言う「防衛装備品」とは兵器・武器、「安全保障」とは「軍事」のことである。研究成果は民生分野でも活用されるとするが、それは付け足しにすぎない。

 防衛省の研究費目当てに、70年近く堅持してきた「反軍事」声明の精神を弱めることがあってはならない。多くの科学者が声明に込められた決意を示す時だ。

 防衛省の軍事研究助成制度を廃止させ、米軍が実施している日本の大学などに所属する研究者への資金援助も拒否すべきである。

 

[大学と軍事研究]問われる科学者の良心(2017年2月6日配信『沖縄タイムス』−「社説」)

 

 最高水準の科学者らが集う日本学術会議が大学における軍事研究を認めるか否かを巡って揺れている。

 同会議は1949年の発足総会で、先の大戦で政府に軍事動員され、兵器開発などに加担した痛切な反省を表明。50年と67年には「軍事研究は行わない」との声明を出すなど戦後一貫して軍事研究を否定してきた。

 仮に方針転換すれば、戦前と同じ轍(てつ)を踏むことになりかねない。強く危惧する。

 きっかけは防衛省が2015年度に大学などの研究機関に資金提供する「安全保障技術研究推進制度」を新設したことだ。

 対象を最初から軍事技術への応用が可能な民生用の基礎研究とうたっていたのが特徴だ。15年度予算は約3億円、16年度は2倍の約6億円、17年度政府予算案は約110億円と20倍近くの増額である。1件当たり年間最大約3千万円の支給から、17年度は最大5年間で数億〜数十億円の大規模プロジェクトを新設するとみられている。

 研究者にとっては潤沢な研究資金は魅力的にちがいない。大学の研究予算の削減が続き、特に理系学部の多くが資金繰りに悩まされている現状ではなおさらだ。

 学術会議会長の大西隆・豊橋技術科学大学長は昨年4月の総会で「自衛目的の範囲でなら(防衛省研究への参加は)許容されるべきではないか」と私見を表明。学術会議は「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置、声明見直しの議論を始めたことも懸念に拍車をかけている。

■    ■

 検討委員会は1月に中間報告を発表した。

 軍事研究について「方向性や秘密保持を巡って、政府による介入が大きくなる」「海外との国際共同研究に支障が出る」「防衛省が進(しん)捗(ちょく)管理を行うなど介入の度合いが大きい」などと指摘された。中間報告を受け、4日には東京都内で会員や市民らが参加してシンポジウムが開かれたが、「(研究者は)応募しないと明記すべきだ」などと憂慮する意見が相次いだ。

 学問の自由を担保するためには論文などの公開性と研究の自律性が不可欠だ。

 軍事研究は原則公開としているものの、特定秘密保護法の「特定秘密」に該当するとの見方が消えない。研究の自律性が侵され、防衛省の「下請け機関」になりかねない。

 検討委は4月の総会での結論を目指しているが、最終的には会長権限で過去の声明は残しつつ、軍事研究を容認するとの見方も出ている。慎重な対応を求めたい。

■    ■

 名古屋大学には1987年制定の平和憲章がある。「軍関係機関からの研究資金を受け入れない」などと過去の過ちを二度と繰り返さない決意を宣言したものだ。

 民生と軍事技術の両方に活用できることを「デュアルユース(軍民両用)」と呼ぶが、「もろ刃の剣」である。

 だが資金が防衛省から出ていて、制度の目的を考えれば、軍事研究そのものだ。戦争に加担した大学の研究者として、軍事研究と一線を画することは歴史的責務である。

 

兵器研究助成18倍(2017年1月6日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

 

科学者の軍事動員を許さない

 安倍晋三政権が昨年末に閣議決定した2017年度予算案で、大学や公的研究機関、民間企業に軍事技術の研究を委託する「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)に110億円を計上しました。「学問の府を軍事研究の場にするな」との研究者の批判に背を向け、防衛省の概算要求どおり、16年度(6億円)の18倍という異常な増額を盛り込んだことは重大です。

米国の兵器開発に追随し

 「軍学共同」の本格化の狙いは、最先端の軍事技術開発を進める米国に追随し、自衛隊の技術力を強化することにあります。「戦争する国」を支える体制づくりの一環として、科学者を兵器開発に動員するために、札束で学術界の切り崩しを図ろうというのです。

 米国は、ステルス機や無人機、高エネルギーレーザー、全世界監視攻撃システムなど最新鋭兵器開発を進めています。自民党の「防衛装備・技術政策に関する提言」(昨年5月)は、米国などとの国際共同開発への参加に向け、20年後、50年後を見通す戦略的な研究開発の推進を首相に求めました。大学の研究や民間企業の技術を軍事に取り込むため、先端技術を兵器に実用するまでの研究開発の拡大と、それにつながる基礎研究の推進を一体に追求し、研究推進制度を100億円規模へ大幅増額することを要求しています。

 防衛省の研究推進制度は、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する文部科学省の科学研究費助成事業などとは違い、防衛省策定の「研究開発ビジョン」などにもとづくテーマで募集されます。

 この2年間で大学9件、研究機関5件、民間企業5件の合計19件の研究課題が採択されました。「マッハ5以上の極超音速飛行が可能なエンジン実現」「メタマテリアル技術による電波・光波の反射低減及び制御」など、将来戦闘機や無人機の高速化、ステルス化に向けた基礎研究が目立ちます。

 日本共産党の井上哲士議員は参院での質問(昨年12月)で、大学や研究機関などを軍事の下請けにする制度だと追及、これに対して防衛装備庁の石川正樹審議官は、それらの研究が有人戦闘機と連携して攻撃する無人戦闘機の開発に直結することを認めました。

 同庁の渡辺秀明長官は「ジェットエンジンの耐熱材料開発もそうですが、研究の完成度を高め、技術を獲得するには製造試験装置を作るなどある程度の規模が必要になります」(「毎日」昨年10月27日付)と、予算の大幅増額の狙いが戦闘機の開発にあることをあけすけに語っています。

 この制度に対して、全国で科学者からの批判が広がっています。

 関西大学は昨年12月、防衛省の研究推進制度への申請を認めないなど、研究内容が軍事防衛目的である場合に、研究費などを一切受け入れない方針を決めました。

「学問の自由」阻害認めぬ

 日本学術会議の検討会でも、防衛省職員のプログラムディレクターが委託先の研究の進行状況を管理することが問題視されました。山極寿一京都大学学長は「研究者の中立性と自由な判断を阻害するものであり、到底受け入れることはできません」と批判しています。

 人類の平和・福祉に貢献すべき学術を軍事に利用し、「学問の自由」を阻害する防衛省の研究推進制度の廃止を強く要求します。

 

兵器研究助成18倍(2016年9月11日配信『しんぶん赤旗』−「主張」)

先端科学の軍事動員をやめよ

 防衛省は、2017年度予算案の概算要求で、大学や公的研究機関、民間企業に研究資金を提供し、研究者を兵器の研究開発に動員するための「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)に110億円を計上しました。16年度予算の6億円から、一気に18倍へ増額させる重大な動きです。

軍拡競争に勝てる技術へ

 防衛省の研究推進制度では、16年度までは1件あたり3年間で9000万円を限度に10件程度採択しています。17年度の概算要求では、これとは別に、明確な上限額や採択件数は定めず、1件あたり5年間で数十億円規模の研究を複数件採択するとしています。

 巨額の札束を積み上げて、大学や民間企業が持つ最先端の科学・技術を軍事利用のために買い取ろうとするもので、税金を使った軍事動員と言わざるを得ません。

 桁外れの増額要求の背景には、安倍晋三政権の野望があります。

 その一つは、安倍政権がすすめる「戦争する国づくり」のために、他国との軍拡競争に打ち勝つのにふさわしい軍事技術を自衛隊が活用できるようにすることです。

 防衛省の概算要求と同時に発表された「防衛装備・技術政策に関する有識者会議」報告書(8月31日)は、北朝鮮、中国、ロシアの兵器開発に対して、「将来にわたって『技術的優越』を確保」するために「研究開発を戦略的に実施すべき」だと強調しています。

 さらに、防衛装備の研究開発予算は、欧米諸国と比べて不十分だとして、「研究推進制度」の拡充を求めています。米国防総省の研究計画局(DARPA)の予算は30億ドルにのぼり、米国の科学技術予算のうち半分は国防関連の研究開発に充てられています。防衛省は、米国のように、科学者を“戦争国家の下請け”として丸ごと取り込むことを狙っています。

 加えて重大なことは、日本でも軍拡競争を支える「軍産複合体」が構築されつつあり、そこに大学や公的研究機関を本格的に参加させることを企んでいることです。

 安倍政権は、2014年4月に武器輸出を原則解禁し、15年10月に軍需産業の育成・強化を図るために防衛装備庁を発足させました。これをてこに、産業を急速に軍事化し、「軍産複合体」の構築を加速する動きが強まっています。

 経団連は「防衛産業政策の実行に向けた提言」(15年9)の中で、防衛産業の基盤強化のために、大学に対して「安全保障に貢献する研究開発に積極的に取り組むこと」を求め、政府に「研究推進制度」の拡充を要求しています。「死の商人」への危険な衝動です。

平和のための研究こそ

 「軍学共同」の動きに関係者の批判が広がっています。日本学術会議の軍事研究を拒否した二つの決議(1950年、67年)を受け継ぎ、軍事研究禁止を再確認する大学が、東北大、東京大、新潟大、京都大、広島大、琉球大などと相次いでいます。多くの大学では、安保法制反対の大学有志の会が集いを開くなどの運動もすすんでいます。こうした中、「研究推進制度」の応募数は15年度の109件から16年度は44件に半減しました。

 防衛省の「研究推進制度」は、憲法9条を持つ日本にとっては「百害あって一利なし」です。一刻も早く廃止し、平和のための研究の振興に力を入れるべきです。

 

 

 

 

 

 

 

 

inserted by FC2 system